※この作品はR-18です。

エンゼル・フォールン ~少女たちは歪んだ教義の犠牲になる~   作:水上些事

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08-1. 夢を見る(☆エロほぼ無し)

 

 部屋の中央に置かれた天蓋付きのベッドの中で、シアは目を覚ました。

 

 薄目を開けて、明るい方に目を向けると、広大なテラスから朝焼けの光が窓越しに差し込んでいるのが見えた。

 シルク地の掛布をはだけて身を起こすと、ちらばっていた銀糸の髪が少女の背中に追従した。

 口元に手を当てて、ふぁ、と小さく欠伸(あくび)をする……そんなささいな仕草にすら、万人の心を奪う美しさと愛嬌がこもっている。

 

(ああ……そうだった。昨日は王都(エストリア)に泊めていただいたのだったわ)

 

 霞がかった頭の中で思考する。

 正面の壁にかかっている風景画に目の焦点を合わせるために、何度かぱちぱちと瞬きを繰り返した。

 普段の自室より数倍も広い部屋は少し肌寒く、薄い寝間着ごしに両腕をさする。いつもと違い"釘"が尻の中に収まっていない状態は、シアの心の中に一抹の安堵感と、ほんの少しの物足りなさを感じさせていた。

 あるべきものがない感覚。

 下腹部の奥のほうが、少しだけじんじんと疼く感覚。

 

 

「――お目覚めになりましたか」

 

 不意に聞き慣れない男の声がして、シアはびくっと肩を震わせた。

 音の方に目をやると、部屋の扉の両脇に二人の男が立っている。いずれも豪華な刺繍が施された侍従服を纏っており、しかつめらしい硬い表情を浮かべてシアのことを見やっていた。

 

「……あ、あの、どなたですか」

 

 掛け布で自身の体をくるみながら怯えた声を出す少女に、片方の男が応じた。格式ばった敬礼をし、よく通る声を張り上げる。

 

「失礼。我々はこの国の王子殿下にお仕えする者です。御身を案じた殿下の命により、お傍に控えているよう仰せつかっておりました」

「え? お、王子様の?」

「はい。昨晩、殿下が御身に会いにいらしたのですが、既にお休みになっておられたようでしたので。大事な客人に万が一にも粗相のないように、と厳命されたゆえにでございます」

「……昨晩? えっ、す、すみません! おうじさ……殿下にお越しいただいていたなんて、少しも知らずに……」

 

 いくら疲れていたとはいえ、王族の方が来訪していたのをふいにしてしまった。

 慌ててベッドから降りようとするシアを、男が片手で制する。

 

「いえ、御身がお気になさることはございません。殿下は『また明日も会うことになるから』と、この部屋に入られてしばらくしてから退出していらっしゃいました。その後は、入れ替わりで我々が直接ここで見張っているようにと」

「は、はあ……そうなんですか」

「御身からすれば、我々のような者に断りもなく立ち入られて、さぞご不安に思われたことと存じます。非礼な振る舞いを心よりお詫びします」

 

 揃って丁重に頭を下げる男たちの姿を見て、シアはあっけに取られた。

 驚きはしたものの、少なくともこの二人に何か疚(やま)しい意図があるようには見えない。むしろその生真面目で実直そうな態度に、少女は素直に好感を持った。

 

 だからこそシアは、彼らの主であるという王子ラミロ――彼が謁見の間で見せた軽薄な振る舞いとのギャップに、戸惑いを覚えていた。

 滞在中の待遇について話していた大臣の話を遮り、壇上から降りてきた王子が手を取りながら並べ立てた美辞麗句。

 ――君より美しいものはこの世に何一つとしてない。

 ――君という存在そのものがこの世の至宝だ。

 ――早く君の清らかな身の証を、しかとお目にかかりたいものだ。

 

 痩身で威厳を感じる王とは異なり、恰幅がある大柄な体。

 その視線はたびたび顔から下のほうに降り、滅多に目が合うことがない。

 一言話すたびに手を握る力が強くなって、最後には指の骨がきしむ痛みすら覚えてしまったほど。

 そんな方が昨晩、ここに一人で会いに来ていた。

 そしてまたこの後、会うことになる……。

  

(……っ、ダメ。不敬だわ、こんなこと)

 

 自分が憂鬱な気持ちになりかけていることに気づいたシアは、勢いよく頭を振った。殿下は熱心なだけで悪気はないのだと自身を納得させたあと、扉の前にいる男たちに向かって告げる。

 

「その、お気遣いいただき感謝します……すみませんが、今日は早めに支度を済ませたいので」

「分かりました、我々は退室します。今すぐ女官を呼んで参りましょう」

「あ、一緒にパメラさ……わたしの侍従のパメラがいる部屋にも、声をかけていただけませんか」

 

 頷いた男たちは敬礼し、扉を開けて出て行く。

 静かになった部屋の中で、ベッドの縁に腰かけたシアは両手で顔を覆って息を吐いた。

 不測の事態はあったけど、今からはまた余所行きの顔を。自分のせいで皆に迷惑がかかるようなことがあってはいけない。

 

(しっかりしなくちゃ。昨日パメラさんとも約束を……ん?)

 

 少女はふと、顔を覆った手のひらが唇に触れた感触に、違和感があるのに気づいた。

 指先で触れてみると、唇だけでなくその周辺がべたべたとしている。昨晩は少し涼しかったというくらいで、汗をかいたとも思えない。

 

(……わたし、寝てるときに涎が出てたの? で、でもそれだと……)

 

 先ほどの男たちのセリフがとっさに思い起こされる。ここに来た王子は一人で入室してそう間もなく出てきたという話。

 シアの脳裏には、その瞬間の光景がありありと浮かびあがった――どんな理由があれ、わざわざ自ら会いに来てくださった王子。それに全く気付かず、涎を垂らしながらのんきに寝ている自分。そんな様子に幻滅して、王子は苦々しい顔をしながら出て行く――

 

「うっ、ううぅ……はずかしい……!」

 

 粗相の上塗りに気づいてしまったシアは、掛布を頭から被ってベッドの上を転げまわった。先ほどの意気込みの念も吹き飛び、ただただ迂闊な自分への恨み言を吐きながら悶絶する。

 

「バカ、バカ、わたしのバカ……!」

 

 しばらくして、女官が部屋の扉をノックするまで、愛らしい少女の繰り言は何度も繰り返されていた。

 

 

    ◆   

 

 

「聖女様、これよりお体を清めさせていただきます」

「はい。お手間をおかけします」

 

 促されたシアが、柔らかな絨毯の上に立った。

 傍に立った女官の一人が寝間着の紐にそっと手をかけ、優しくほどく。袖から腕を抜かれた薄絹の衣が翻り、その裸身が陽の光の中にあらわになった。

 

「……まあ……」

 

 女官たちが一様に、感嘆の溜息を漏らす。

 染み一つ見当たらない透き通るような全身の白い肌。

 年若い華奢な体つきの中に、女性らしい性徴の兆しが見えつつあるなだらかな丸みを帯びた胸と尻。

 腰まで伸びた銀髪は寝起きだというのにほつれ一つなく、長い手足は削り出した直後の彫刻のように滑らかな曲線を描いている。

 聖女という肩書きに違わない、神に愛されているとしか思えない肢体を前に、女たちは嫉妬心すら忘れた。まるでその背に大きく広がる白い翼を幻視しているかのように、目の前の美にただただ見入っている。

 

「……えっと、なにかありましたか」

「い、いえ、何でもありません。それでは聖女様、失礼します」

 

 温かい湯に浸された布を持った女官たちが、恭(うやうや)しい手つきでシアの体を清め始める。

 その行為を微笑んで受け入れながらも、一方でその心は暗く沈んでいた。

 

(……パメラさん、こんな朝からもう居ないなんて)

 

 先ほどの男たちから齎(もたら)されたその報告は、シアを酷く落胆させた。

 夕方まで離ればなれになる分、思うさま抱き着いて元気を貰おうと思っていたのに――いつも会えて当たり前の人と、こんな時に限って会えないという事実が、少女の心に影を忍ばせる。女官たちの手つきは丁寧そのものだが、そこにパメラが与えてくれる温もりはない。

 心寂しくなったシアの思考は、もう一人の友人の方へと向いた。

 エルミナを発つ前、挨拶するために寄ったリズの部屋の前での出来事が、手持ち無沙汰な頭の中で静かに再生されていく。

 

 

 

 

「……あ、シアちゃっ……! ど、どうしたの、こんな朝早く」

 

 早朝、胸から上の部分だけを扉の隙間から覗かせたリズは、ひどく慌てた様子を少女に見せた。

 いつもは綺麗に結い上げて肩の前に垂らしている金髪の三つ編みは、形が酷く歪んでいる。頬は上気していて、その呼吸もどこか浅く速い。

 

「朝からすみません。わたしたち、もうすぐ出発するのでご挨拶にと」

「あ、ああ、パメラと一緒に王都(エストリア)に、行くっ……んだっけ」

「はい。と言っても、二日泊まったらすぐに帰るんですけれど」

「あはは。それでもシアちゃんがいないと、寂し……ぃ、ひっ……!?」

 

 突然、リズは扉の端を強くつかんで、声を裏返らせた。

 とっさに頭を下に向け、全身を何度も震わせる。顔のある部分からは、涙か唾液か分からない雫が床にぽたりと垂れ落ちた。

 

「り、リズさん? 大丈夫ですか!?」

「なっ、なんでもないっ、から。ちょっと体調が悪い、だけっ……」

  

 口元を拭って顔を上げたリズはぎこちない笑顔を作りながら、シアの視線を避けるように身を引き、扉の開きを狭くした。まるで、部屋の中にある何かしらを見られたくないかのように。

 

「リズさん。お怪我でもされたのでしたら、わたしが」

「ほ、本当に大丈夫だから! ごめん、今ちょっと手が離せなくて……!」

 

 戻ったらお話聞かせてね、と息も絶え絶えに言い残して、リズはばたんと扉を閉めてしまった。

 取り残された少女の前で、小さく歩き回るような音と、何か独り言を呟くような声がする。

 しかし出発まで時間もなかったシアは、それ以上追及することを諦め、心残りのまま王都に出立してしまっていた。

 

 

 

(……最近のリズさん、ちょっと変。隠してることがあるみたいなのに、何も話してくれないし)

 

 少し前の、"釘"の抜去を代わりの者が務めてくれたぐらいの頃からだろうか――顔を見る機会が少しずつ減ってきていたリズの姿が、脳内でパメラの横に並ぶ。

 二人とも、自分の知らないところで何か困ったことになっているのではないか。そんな漠然とした不安が頭をもたげたところに、ふと女官から声がかかった。

 

「聖女様、御衣はこちらでよろしいでしょうか」

 

 はっと我に返ったシアの眼前には、こちらで用意してもらった純白の修道服が広げられている。いつの間にか体の清めも終わり、女官たちがシアの顔を見ていた。

 

「あ……はい、そうです。お願いします」

 

 柔らかく清潔な衣を頭から通されながら、シアは目を閉じて深呼吸をした。

 今からではどうしようもない二人のことを案じるよりも、まず自分が立派に役目を果たさなければいけない。友人たちのことを案じるなら尚のこと、自分が早く一人前になるしかないのだ。

 腕を修道服の袖に通しながら、シアはきゅっと唇を結んだ。

 

 身支度が終わり、女官たちが一礼して部屋を出て行く。

 持参していた果実を食し、口を洗浄したシアは部屋に戻った。もうしばらくしたら、聖堂から使いの馬車が来ることになっている。

 部屋にしつらえられた机の前の椅子に腰かけたところで、小さなガラス瓶が机上の隅に置かれているのが目に入った。昨日、これを飲むようにとパメラから渡されていた薬の瓶。

 

(いけない。忘れるところだったわ)

 

 朝から気にかかることが多くて、記憶から抜けていた――シアは慌てて瓶を手に取り、蓋を開けた。中に入っている真っ赤な液体がとろりと重そうに揺れ、花の蜜を煮詰めたような濃厚な甘い香りが広がる。

 

 ――お互い、負けないようにしましょうね。

 

 昨晩のパメラの言葉が、耳の奥に響く。

 背中から抱き締められていた腕の感触を、今でも鮮明に思い出せる。

 

「……うん、わたしも頑張るよ、パメラさん」

 

 ガラスの向こう側に浮かぶ笑顔に応えるように呟きながら、少女は一息に、中の液体を飲み干した。

 

 

  ◆  ◆

 

 

 王城のはずれに佇む離宮に併設された、白亜の東屋。

 そこは、王族とそれに連なるごく一部の者――この大陸を蝕む『愉しみ』を知る中でも、上位の者たちだけが憩うことを許されている秘密の聖域である。

 

 外からの視線を阻むため全周囲に植えられた濃緑の木々と、その間を埋めるよう一面に敷き詰められた白砂利が、招かれざる者の存在を許さない。

 鳥の声すらほとんど響くことのないそこでは、どのような密談を交わそうと、その内容が外に漏れる心配をする必要はなかった。

 中央に置かれた大理石のテーブルの傍には既に、この後の余興を見物するために集まった者たちがゆったりと腰を下ろし、グラスに口を付けながら歓談に興じている。

 

「いやはや、今代の聖女様にお目にかかるのは今日が初めてですが。国外ですら噂に上がるほどの美貌だそうですな」

「ええまったく。あれの母親もなかなかでしたが、あの子はさらに……まあ美貌というには今少し、年齢や体つきが足りていないようですが」

「ふっ、むしろ貴方にとってはその方が都合がいいのではないですか」

「いやいや、そういう貴方こそ……」

 

 はははは……、と壮年の男たちの笑い声が響く。

 ここには彼らの社会的地位や体裁を繕う仮面もなく、下劣な欲望に満ちた会話を咎める者も存在しない。

 そんな言葉を交わす者たちの喧騒から少し離れた、東屋の最も奥まった一角。一段高くなったそこに設(しつら)えられた豪奢な長椅子に、三人の男たちが座している。

 この国の第一王子ラミロ、その叔父である侯爵、この王都の教会の大司教――現在のこの集まりの中心人物である彼らは、目前の有象無象たちを見下ろしながら密やかに言葉を交わしている。

 

「大司教殿。あの聖女殿の従者……パメラとかいう女についての報告が上がってきたのだが、あれは本当なのかね」

 

 いぶかしむような侯爵の言に、白髪をたくわえた大司教は苦々しい表情を返した。

 

「事実のようです。今まで『あれ』の血を飲ませてきた女には強い発情作用と、まれに精神錯乱が起きるに留まっていたのですが」

「パメラとやら、昨晩から今朝まで……まさに今でも奴らに嬲られ続けて、それでもなお意識を保っていると聞いたぞ。そんなことは普通ありえないだろう」

「仰るとおりです。今代の聖女は実際に、他人の怪我を治療してみせる力がありますので、もしかしたらそれが何か関係しているのか……」

「それもだが、俺が気にしているのは聖女本人の方だ。もし万一、血の効果がないということにでもなったら……」

「急いであれにお伺いを立てないといけなくなるでしょうな。まったく、頭の痛い」

 

 眉間を押さえている大司教との会話の最中、侯爵はちらりと甥である王子ラミロの様子を盗み見た。

 お世辞にも美形とは言えない顔と緩んだ体をしている甥は、自分たちの会話などまるで聞こえていないかのように視線を宙にさまよわせている。

 

(ふん……ほとんど子どもと変わらないような娘相手に、ずいぶんご執心のようだな)

 

 昨夜、人通りすら途絶え始めるような頃になって突然、聖女に面会に行って帰ってきた甥。戻ってくるなり興奮した様子で「寝ているあの子の唇を奪った」だのと戯言を吐いたのを聞いた時は、心底肝を冷やした。

 もし聖女が騒ぎ立てでもしたらどうするつもりだったのだ――苛立たし気に侯爵が目じりを細めるその眼前で、王子はのうのうと股間の布地を膨らませている。

 これ以上、この阿呆が暴走しないように気を配っておかねばなるまい。そんな決意を固めたところに、庭園の入り口にいた男が声を上げた。

 

「おおい。馬車が到着しましたぞ」

 

 それを皮切りに、男たちが三々五々立ち上がる。ぞろぞろと歩き出す人群れの中を、誰よりも王子が早く駆けて抜けて行った。その背に嘲笑の音がかかっているのを気づきもしない。

 

 東屋を出て、濃緑色のアーチを抜けた少し先。そこには黒塗りの大きな馬車が音もなく停車している。

 銀貨を数枚握らされた御者が走り去っていくのを尻目に、男たちは馬車の扉の前に集まった。そこには一人の聖職者――エルミナの地を治める司教グレゴールがおり、恭しく頭を下げている。

 

「王子殿下、並びに皆様、お待たせしました。聖女シアをお連れいたしました」

「ご苦労様です、グレゴール司教。して、彼女の様子は」

 

 最前に進み出た王都の大司教に対して、グレゴールは応じた。

 

「はい、事前にいただいた薬がよく効いております」

「本当ですか? 今までに比べて効き目が薄いようなことは」

「む? いえ、既にシアは一人で立つこともままならないような状態です。ご覧いただければすぐに分かるかと」

 

 それを聞いた侯爵と大司教は顔を見合わせたあと、胸を撫でおろした。何を考えているかも分からないあれを相手に、会わなくて済むならそれに越したことは無い。

 

「おい! いつまで待たせるつもりだ。早く中を見せろ!」

 

 痺れを切らして叫ぶ王子に、グレゴールは微笑みを返しながら身を引いた。さあどうぞ、とでも言うかのように、馬車の扉を開け放つ。

 その瞬間、馬車の中からむせ返るような熱気と、封を切られた直後の香水瓶のように濃厚なフェロモンが立ち上った。

 王子が身を震わせながら、真っ先に馬車を覗き込む。他の男たちも興味深そうに、その背後から内部に向かって目線を向けた。

 そして、彼らは見た。

 

 

「――――はぁー……♡♡♡、 はぁー……♡♡♡」

 

 革張りの座席の奥で、一人の少女――シアがぐったりと身を沈めていた。

 肩と尻だけで身を支えている様な崩れ切った格好で、両脚をだらしなく広げて無毛の秘部を惜しげもなくさらけ出している。

 赤い粒のようなくぼみからは白濁した愛液が途切れなく垂れ落ちて、足元に小さな水たまりを作っていた。

 

 汗まみれになった白い修道服はぴったりと体に張り付き、小さな乳房の膨らみや、硬く尖った乳首の形を生々しく強調する。

 熱病のように浮かされた真っ赤な顔の中にある瞳は、ぼうっと対面の椅子を見つめている。

 半開きの唇からは、質量すら感じ取れそうなほど湿った熱い息がとめどなく吐き出され、馬車の中の温度を引き上げていた。

 

 そして何よりも異常なのは、その動き。

 椅子にだらしなく座ったままの状態で、その小さな腰をかくかくと規則的に上下させ、そのたびに股間から新たな粘液を分泌させる。

 自慰を知らないその両手は、子宮があるあたりの下腹部を、服の上から爪を立てて掻きむしるように擦り続けていた。

 

「は、ひっ……♡ ん、っく、ぁ…………♡♡♡」

 

 すでに何度も軽い絶頂を迎えた両脚は震え、もはや自力で立つこともできない。

 出発前に体内に取り込んだ媚毒は、馬車に揺られていた少ない時間だけで、すでに少女の体と理性の大部分を侵し尽くしてしまっている。

 

 体が揺れるたびに、湧き上がる熱を意識し。

 経験のない高揚感に、瞬く間に思考を焼かれて。

 ここに来て、昨晩に"釘"の処置が行われなかったことが、シアの思考をどうしようもなく蝕んでいた。

 

 ――あたまが、あつい。とけてしまいそう。

 おなかのおくに、からだのなかに、だいじなものが、ないきがする。

 ほしい。

 なにかわからないけど、ほしい。

 ほしい、ほしい、ほしい――

 

 

 

 

「ほう。これはまた……」

 

 奇妙な形式の自慰に狂うシアを見た侯爵が、感嘆とも呆れともつかない声を漏らした。

 一方で、傍らにいる王子が目を血走らせて荒い息を吐いているのが目に入り、肩を掴んで引かせる。今の甥なら、勢いに任せて少女を押し倒してしまいかねない。

 

「グレゴール君、聖女様をこちらへ」

 

 大司教に促され、馬車に乗り込んだグレゴールは少女の腕を取った。

 

「シア、立ちなさい」

「……ぅ……だれ? ぱめら、さん……? ……ぁ」

 

 朦朧とした意識の中で、半ば無理やり手を引かれたシアは勢いのまま車外におどり出た。グレゴールに抱き留められ、膝を震わせながら辛うじて地面に立つ。

 市井の人々の噂にすら上るほどの美しい少女。それが弱々しく震える様を見た男たちが、目の色を変えて押し黙った。その視線は服が張り付いた小さな肢体と、グレゴールの服の陰から覗いている乳首を凝視している。

 空気が粘つき始めたのを肌で感じ取った侯爵は、それを払拭するため、爵位が一番低い男に向かって鋭く命令した。

 

「おい、聖女殿に着せるローブと適当な杖を用意するように言え。すぐに離宮のほうに持ってこい」

 

 呼ばれた男が裏返った声で返事をし、慌てて走り去っていく。

 その横で、にやにやと笑みを浮かべた王子は侯爵に耳を近づけ、他の者に聞こえないように呟いた。

 

「叔父殿。例のゼリーの用意は」

「器具と一緒に用意させてある」

「おっほぉ! 楽しみだ。早く皆の晒しものにして、思う存分辱めてやりたいなあ」

 

 突き出た腹を揺らして喜ぶ甥を、侯爵は見向きもしない。その冷徹な目はシアの姿を視界におさめたまま、立派な髭を撫でつつ鼻で息を吐いた。

 哀れな娘だ。なまじ余計な力など持ったばかりに、これから傍らの間抜けに辱められ、その後は『あれ』にも尊厳を虐げられる。

 心に浮かんだその言葉を、男はこともなげに飲み込んだ。

 

 

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