エンゼル・フォールン ~少女たちは歪んだ教義の犠牲になる~ 作:水上些事
※あくまでザーメンですが、疑似的な嘔吐描写があります。
苦手な方はご注意ください。
――背中に当たる冷たい石の感触が、シアの意識を現実に引き戻した。
重たい瞼をゆっくりと開いた先には、真っ暗な闇が広がっている。
目を閉じているのと全く変わらない光景に、少女は何度かぱちぱちと瞬きをした。そして、本当に視線の先は何も見えないのだと自覚する。
じっとりと湿った空気が肌にまとわりつく。
シアは、石造りの大きな祭壇に体を横たえたまま周囲を見渡した。
右手側も左手側も、暗闇。
頭のがわも、暗闇。
脚があるほうをのぞき込むと、かろうじて光源らしきもの――細く狭い通路の壁に掛かった松明が
どこまで奥行きがあるのか分からないほど、暗くて広大な部屋。
――少なくとも、どう見ても、さっきまでいた王城の離宮の中じゃない。
「……ここ、どこ? ……ぅくっ」
身を起こそうとしたシアは、焼けるような刺激を発した下腹部に顔をしかめた。
熱した火掻き棒でも押し付けられているのかと一瞬勘違いしたが、そこにはなだらかな下腹部が映っているだけ。知らない間に着替えさせられたのか、白い修道服も意匠が少しシンプルなものに変わっている。
しかし、シアは身を起こしかけた体勢のまま動きを止めた。
先ほどまで
その感覚は『かゆみ』に近い――ひりひりして、じくじくして、ぞくぞくする――体の芯を疼かせるような甘い痺れは、目覚めたばかりのシアの頭を瞬く間に淫らな色に染め始めた。
「ん……ぅ……っ」
倦怠感に満ちた体。
重たいものがのしかかっているような圧迫感の中で、子宮の付近から発された熱が全身に伝播する。
入っていないのに、入っている。
見えないけど、熱い、何かが。
おへその、したのところ。
馬車に乗っていたときから、ずっと熱かったところ。
ひっかくと、きもちいいところ。
(……おなか、あつい……)
白く細い両腿を、熱っぽく擦り合わせる。
冷たい石の祭壇の上で、小さく腰をくねらせる。
自覚なく、未通のくぼみから白く濁った蜜を滴らせる。
もはや不可逆な体質に変質しかけている少女の体は、この異常な状況にもかかわらず自慰行為のために腕をのばしかけ――ふと、傍らに置かれている折りたたまれた便箋に目を留めた。
「……? 何、かしら……」
まだ、かろうじて理性が勝った。
シアは苦労しながら身をよじり、その紙きれを手に取った。通路の松明の明かりにそれを透かして、書いてある文字を目で追う。
『聖女シアよ。今、汝がいる場所こそ、神の化身がおわす至聖所。これより汝はその御方と直に
「……え? なに、これ」
走り書きされたメモの内容は、シアの理解の範疇を超えていた。
神の化身と見える。事前には聞いていたが、想像していたものとはまるで違う。
日当たりのいい荘厳な聖堂で、祭服をまとった神官たちが両脇に居並ぶ中、神聖な像の前にひざまずいて神の降臨を出迎える――そんな子供じみた空想とはかけ離れた光景が、少女の目の前に広がっている。
どこかの地下室を思わせる、石造りの床や壁。
墓所のように静まり返った、自分の呼吸の音しかしない空間。
通路の奥で揺らめくだけの頼りない明かり。
誰もいない、暗闇。
(……ひ、っ……)
少女の心臓が、早鐘を打ち始めた。
喉が引きつれたように固まり、声が出せなくなる。背中に滲んだ冷や汗が、白い肌をゆっくりと滑り落ちていく。
今まで信じていた価値観が根底から崩れかかっているような恐怖感が、少女の腹の疼きを忘れさせた。
逃げないと。
衝動に突き動かされ、祭壇から飛び降りる。
ここには居たくない。
詳しいことを聞きたい。
誰かに会いたい。
闇の中でも燐光を放つかのような銀髪を振り乱し、通路に向かって走り出そうとした、その時だった。
――ずるり。
重たいものが引きずられるような音が響いて、シアは足を止めた。
正面からではない。視界の先には、等間隔の松明に照らされた通路が延々と奥に続いている。
聞こえたのは、背後。
何も見えない、暗闇の中。
背筋が凍り付かんとするほどの強烈な悪寒が、少女の全身を駆け抜けた。
油の切れた人形のように、シアはゆっくりと振り返り――相変わらずの底なしの闇の中で、大きな何かが蠢いているのを肌で感じ取る。
丸太を引きずるような複数の音の中に、粘着質なものが混ざり始める。
どすん、どすん……と、足音らしい地響きが唐突に上がる。
それらの音が、少しずつ大きくなってきている。
こっちに、近づいて来ている。
「……あ……あ、ひっ……」
死の恐怖にがたがたと怯えるシアの前に姿を現したのは、黒山羊を思わせる毛並みを持つ、見上げるほど大きな化け物だった。
獣毛に覆われた体は上半身こそ引き締まった男のそれだが、下半身は逆関節に折れ曲がった蹄の両脚、さらには地面に引きずられている大きな尻尾という、明らかな異形を晒している。
頭部で突き出した山羊の口からは、男性器を模した形状の舌部がゆらゆらと垂れさがる。
そして、両脚の付け根に生えた黒毛の中からは、男根の代わりに大小さまざまな無数の触手が意志を持つ蛇のように――化け物からすれば、ほんの小さな妖精のようなサイズ感の少女に向かって、先端をゆらゆらと揺らめかせている。
――ぺたん。
恐怖のあまり腰を抜かしたシアは、その場に尻もちをついた。
魔物。かつて大陸中に存在して、古の人間たちに駆逐されたという筈の存在。
初めて目にする存在が放つ圧倒的な威圧感は、その場からの逃亡と言う本能の動きすらも忘れさせた。
脳だけは最大級の警報を発しているのに、四肢は石の床に根を張ってしまったかのように動かない。
『――オォ、オ、オ……』
目の前まで近づいてきた魔物が、遠雷のような唸り声を上げる。
それに合わせて、魔物の股間から伸びる無数の触手のうちの一本が、鎌首をもたげて哀れな少女に近づいていった。
「……っこ、こなっ……こないで……っ」
かちかちと歯の根を鳴らす姿に構わず、伸びていった触手はぬるりと左腕に巻き付いた。
弾力のある硬い感触をした表面に、ぬらぬらとまとわりつく粘液。その質感にシアが鳥肌を立てる間もなく、巻き付いたそれは一息に小さな体を真上に引き上げていく。
「きゃっ……!? いやっ、やめてぇっ!!?」
脚が地を離れ、宙を舞った少女の体は、まるで生贄のように異形の股間部へと引き寄せられていく。
獣毛の中心にある触手たちの根元に近づいたころ、強烈な臭気がシアの鼻孔を襲った。
「……っ!? うぇっ……げほ、ごほっ……!」
発情期のオスが放つ、むせ返るほどの濃厚な臭いを何十倍にも凝縮したものが、少女の周囲に満ちる。
息を止めても肌から染み込んでくるような湿っぽい瘴気に、少女は身もだえしながら涙を流した。
せめて少しでも空気を濾過しようと、空いた右腕の袖を口元に当てた途端に、さらにもう二本の触手が伸びた。
右腕に絡んだ一本は、左側と同様に腕を釣り上げ、
もう一本は少女の胴体に巻き付くと、その場に固定するかのようにぎりぎりと細い腰を締め上げ始めた。
「――いやああああぁぁぁぁっっ!! やだっ! やだぁぁぁぁぁっっ!!!」
殺される。
その直感が、小さな体の奥から絶叫を
闇の底に響き渡る叫びは、しかし魔物以外に誰も聞くものはいない。
さながらいたずらじみた触手の動きは、少女の肋骨をぎりぎりと軋ませては緩めるのを何度か繰り返した。
やがて、山羊頭がにやりと笑みの形に歪んだかと思うと、股間からさらに四本目の触手がずるずると伸びてくる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……もっ、もう、もうやだぁっ……」
次はどこを縛られるのか――
しかし知っている者が見れば、それはどうみても子どもの腕ほどもある極太の男性器にしか見えない代物だった。
丸みを帯びた先端は鬱血しているかのように赤黒く濡れ光り、外側の幹の部分には血管のような筋がいくつも走っている。
それでいて生き物のようにびくびくと脈打つそれは、生臭い熱気を放ちながら、シアの顔に向かって差し伸べられる。
助けを求めて、開かれている少女の口。
その小さな唇に、巨大な触手の先端がべちゃりと接した。
「んぐっ!? ん、うぅっ!?」
人間の体温を超える熱い塊が、体表を擦る。
口を精いっぱい開けてやっとという太さの肉槍が、ごりごりと皮膚の上から歯を撫でる。
男性器であることは知らずとも、おぞましい物体であるのは本能で察せる――それが口の中に入り込もうとしているのを察し、一転して固く引き結んだシアの唇を、触手が嬲るように擦った。
上下に。
左右に。
円を描くように。
口内への侵入のため、それは次第に圧力を増してくる。そこから滲み出る先走り汁が発する獣臭が、シアの抵抗の意識を薄れさせ始めていた。
(く、くさいっ……いき、できな……)
口を開けられない代わりに鼻呼吸をしようとすると、嫌でも生臭さを感じ取ってしまう。
嗅ぎ慣れていない強烈な性臭を、少女は毒に等しいものと認識した。なんとかやり過ごそうと必死に息を止めても、異形の先端が口元を離れていく様子はまったくない。
呼吸をやめれば、苦しくなる。人体として当然の仕組み。
だから少女は、ほんの少しだけ口を開けて息をしようとした。
腕ほどの大きな物体。だから、少しだけ開けるだけなら、大丈夫……。
――にゅっ、ずるるる……。
「ひゅっ……!? な、にゃにっ!!?」
――巨大な陰茎、その
それらは上下に分かれて、シアの唇を大きく割り開いていく。慌てて口を閉じようとしても、鉄細工のようにびくともしない。
「はっ……か、あっ……」
やがて、声も出せなくなるほど限界まで口が広がったのを、異形の肉竿をは見逃さない。
艶やかな唇の門に押し入った陰茎部が、とうとうシアの口内にその身を滑りこませ始める。
少女はふと、王都出発の前日まで司教グレゴールに施されてきた"釘"の処置を思い浮かべた。
"聖液"の放出のために、何度も何度も口内を行き来する釘……しかし今まさに入ってきているそれは、釘とは比べものにならないほど太く、硬い。
亀頭を模した先端部だけで、すでに内部の半分が埋まる。
柔らかな少女の舌と内壁が、ちぎれんばかりに内壁に押し付けられ引き伸ばされる。
唇を閉じていた間に分泌されていた唾液が助けとなってしまい、暗い粘膜のドームの中に巨大な陰茎がずりゅずりゅと埋まっていった。
何メートルもの長さの触手、その先端が小さな体に埋没していく。
「ごぶっ……!? お"ぇ"っ……!!」
咽頭部を肉竿に突かれたシアは、強烈な嘔吐反射に喘いだ。
背筋が弓のように反り返り、細い両脚がぴんと突っ張る。未だに両腕を拘束されたままの手が、無意識に開かれたり握られたりするのを繰り返す。
細まった両眼の端からは堰を切ったように涙があふれ、体が激しく痙攣した。
精神的な恐怖と合わさり、既に少女の体は限界を迎え始めている。
しかし、魔物はその反応をこそ喜んでいるかのようだった。
抵抗する喉の筋肉が不随意に収縮と弛緩を繰り返し、それがまた新たな刺激となって異物をくすぐる。
喉の手前、柔らかな軟口蓋の部分をごりごりと削るように動かし、獲物の体が反応するのを愉しむ。
やがて、少女の体の緊張がほぐれ始めたのを感じ取った魔物は、次の段階に進むために口の中の触手を
さらに奥まで入るために。
『洗礼』を施すために。
ぐりゅぐりゅと、小さな穴に向かって圧力をかけ続けて。
……やがて、粘着質な音を立てて、陰茎は喉の関門を突破した。
――ぐぼ、ぢゅっ、ぼぼぼぼぼ……。
「…………っ、ご、ぼっ……お"、ぉ"っ…………」
食道。
本来、食物や飲料のみが通ることを許されるはずの細い管。
その聖域を、極太の異物が、管を限界まで押し広げながらゆっくりゆっくりと下っていく。
体の芯を、触手が貫通していく。
首が折れんばかりに真上を向いた少女の喉元が、見るも無残なまでに膨れ上がり、触手の移動に合わせて痛々しく波打った。
傍から見れば残酷な処刑に他ならない光景が、薄暗い空中で繰り広げられている。
「ごお"っ、お"っ"…………お"ぇ"ぇ"、ぇ"っ"……」
内臓が、
変形した肺がひとりでに酸素を絞り出し、唇の端から醜い音が漏れる。
そうしたわずかな喉の開きすら糧にして、さらに触手は奥へと侵入した。
強い獣臭を放ちながら進むそれに、もはや胃から遡ろうとしているものが這い出る隙間すらない。
体の防衛反応として出てくるはずのものが無理やり押し戻されていく感覚は、余計に少女の体力をこそぎ落としていく。
先ほど撓んでいた部分が、丸ごと口の中に収まる。
死に際の聖者のごとく、磔の形になった体が一本の杭で縫い留められる。
今や少女の体は、肉竿という剣を収めるための生きた鞘となりつつあった。
入ってはいけない場所。
入ってはいけないもの。
内側から裂けてしまいそうな生々しい痛みと極大の圧迫感が、瞬く間に少女の体に黒い膜をかけ始めていく。
(…………し、ぬ……)
唯一自由な両脚が、ばたばたと動いた。
真下に向けて突っ張ったり。
両膝が水平に持ち上がったり。
犬かきのように、宙を泳いだり。
……その反応も、次第に弱くなっていく。
実に一分近い挿入――シアにとっては永遠にも近いほどの時間をかけて進んだ触手は、ついに止まった。
胃の入り口。
噴門近くの、柔らかな粘膜。
「…………っげ……ぅ"……」
シアの意識が、ぱちぱちと黒く明滅する。
窒息しかけて途絶えつつある思考が、場違いな考えを浮かべた。
――ああ、"釘"って、このためにやっていたのかな。
体の奥に詰まった触手は、それきり動きを止めた。
その場に響いているのは、壊れた笛のような音を立てて漏れ出るシアの呼吸音だけ。
喉を塞がれ、食道を隙間なく押し広げられ――少女は、生きながらにして墓石の下に埋められているような感覚を味わっていた。
眼球の水分をほとんど放出した両眼から、光が消え始める。
失禁した尿が修道服の前垂れを濡らし、その雫が遠い地面に向かって滴っていく。
くた、と全身から力が抜け、だらりと両脚が垂れ下がる。
『オ、オ、オオオオォォォ……!!』
――体を貫く触手が、それまでとは明らかに違う脈動を始めた。
長くしなる棒の根本、人間の尿道にあたる位置が、先端に向かって何かを運ぶように力強く波打ち始める。
「………………ぅ、く……」
今にも失神しかけている少女の視界に、その様子は映らない。
見えていたとしても、その脈動が何を示すのかは想像も付かない。
おぞましい魔物の体液。
その波の初端が、シアの体に近づく。
少女の口の中に、膨らんだ部分が入る。
喉を通って。
食道を通じて。
胃の手前にある亀頭の鈴口から、溢れた。
――どぷっ!! ごぼっ、ごぼごぼっ、ごぼっ!!!
「………………っ!!? く、ぉっ……」
灼熱の奔流が、少女の胃袋に直接叩きつけられた。
たった一回の放出ですら、なみなみと汲んだ手桶をひっくり返すような量のそれは、瞬く間にシアの胃袋を満たした。それでもなお収まらず、胃は風船のように引き伸ばされていく。
なだらかだった腹部はみるみるうちに膨らみ始め、見る間に新しく命でも宿したかのような痛ましい丸みを帯びていく。
それまでとは別種の苦痛に、意識を失いかけていた少女の体が再び激しく痙攣した。
破裂寸前に膨張した胃が、周囲の臓器を押しつぶそうとしている。
少女の脳裏に、これまでの記憶が走馬灯のように駆け抜け始めたその瞬間……肉竿が唐突に、動く兆しを見せた。
――ずる、りゅりゅりゅりゅ……
少女の体に巻き付けた触手の感触で、その
亀頭の傘が食道の粘膜をこそぎ落とし、硬質のゴムのような幹の表面が内壁をえぐるようにして後退していく。
その間にも、精液の放出は続いていた。粘液の膨らみは脈々と陰茎の尿道を前進していくが、少女の細い喉を通ろうとするたびに一瞬つっかえた。それに合わせて、肉竿の引き抜きの動きも止まる。
唾液でべたべたになった触手が、ほんの少しずつ外気に姿を晒してはつっかえて、また少し引き抜かれては止まるというリズムを何度も繰り返す。
その一瞬の停滞すら、シアの体には巨躯の男に突き飛ばされるかのような衝撃がかかっていた。
しかし少女は、それでもよかった――やっとこの地獄が終わるんだ。解放してくれるんだ――命を助けてもらえることを、心から神に感謝する。
食道の入り口近くまで登ってきた亀頭が、ぐねぐねと蠢く。
唾まみれの幹を揺らし、撓ませ、思い切り引いた瞬間――栓を抜くような音を立てて、シアの唇から先端が抜けた。
――ぐ……ぽんっっ!!!
「…………お"、え"っ"……お"え"え"ぇ"ぇ"ぇ"ぇぇぇっっっ……!!!」
逆流してきた魔物の白いザーメンが、少女の口から勢いよく噴出した。
胃の中でぱんぱんに圧縮されていたそれは、腹部が痙攣するたびに第二、第三の波となってシアの体内の粘膜を焼きながら遡っていく。
加えて、胃の奥に直接吐精された時には意識しなくてよかった『臭い』――凝縮された雄と獣の香りが、逆流に合わせて鼻孔に侵入し、激しく脳を揺さぶる。
本能的な嫌悪感に突き動かされた少女の体は、異物を拒絶しようとさらに激しく収縮を繰り返した。
――びちゃっ、びちゃびちゃびちゃびちゃっ……!
自らが凌辱された証である白濁は、周囲を蠢く触手に浴びせられたあと、そのまま床に向かって落ちていく。
嘔吐とほぼ同様の仕草で、全身の筋肉の収縮と激しい痙攣を繰り返すその様は、矮躯に残された体力を根こそぎ奪い去った。
「…………お"っ、ぇ"……ぅ"っ……」
時間をかけて胃の中のザーメンを吐き出しきった体は、最後にどろりと小さな塊を滴らせる。
短時間に二度――神の血と、魔物の精液――極度の消耗を強いられたシアの体は、意識を保つことを放棄した。目を閉じて、体に巻き付いた触手に体重を預けたまま失神し、深い眠りに落ちて行く。
『ウ、グ……オォォ……』
感嘆のため息をつくかのように喉を鳴らした魔物は、おもむろにシアの服の襟首を爪の先でつまんで、目の前に高々と持ち上げた。
ぷらぷらと揺れる両脚の間、白い修道服の前掛けをもう一方の手指で掴んで持ち上げ、あらわになった下腹部――ぽたぽたと尿を滴らせる秘部の周辺を、異形はじっと見つめる。
奇妙な静寂が訪れた。
苦し気な寝息を立てるシアの股間周辺を、魔物がじっと見つめる。
触手の群れがにちゃにちゃと淫猥な音を奏でる中で、魔物の中には漠然とした疑問が生まれ始めていた。
――『これ』を飲ませたあと、いつもならすぐ腹に『紋』が浮き出る。
――しかしこのオンナは、いつまで経ってもそれが出てこない……。
『……グルルル……』
異形は、吊り上げていたシアの体を再び自らの股間近くに下ろした。そして先ほどと同じく、両腕と胴をそれぞれ縛って宙づりにする。
直後に、獣毛の中から新しく触手が一本――先端が注射針のように鋭く尖った異質な触手が顔を出した。
ぐったりと前のめりになったシアの無防備な首筋にそれを近づけ、ゆっくりと突き刺す。
ほとんど抵抗もなく侵入した柔肌。その中に、真っ赤な液体がとくとくと注入されていく。
「っ!? いっ、た……!?」
――ほんの数滴の雫で、女体を発情させる雫。
指先程度の量の摂取で、シアの体をどうしようもなく発情させた液体。
それと同じものが、高濃度の劇薬が、血管の中に直接注入されていく。
ほんの二十も数えないうちに。
シアの心臓と血液が、沸騰した。
「――っっ!!?? いっ、ぎ……いぎぎぎぎぎぎぃ"ぃ"ぃ"い"ぃ"ぃ"っっっっ!!!!????」
雷に打たれたように、少女の体が滅茶苦茶に痙攣する。
血管に熱湯を流し込まれたかのような極大の刺激は、小さな人体にとって耐えられるものではなかった。
奥歯を割れんばかりに噛み締める。肺胞に残っていた酸素成分が、生命維持の本能すら無くして喉の奥から排出されていく。
縛られたままのちっぽけな体は、脳内でサイケデリックな花びらをまき散らした。白色化する視界の中で、その思考が融けた鉄のように流れ落ちていく。
――皮膚が弾ける。
両耳が腐り落ちる。
爪が空を飛ぶ。
目から蓮が生える。
蜘蛛の味がする。
体の中を流れる血がふつふつと泡立って、からだの中をくすぐって、へんなこえが、とまらなくなる――
「うぎ、ぃぃ…………ぃひ、ひっ、ひひっ、ひひひひひひっ……!!!」
シアは狂った。
血走った眼球の瞳孔を限界まで見開いて、唇の端から泡を吹きながら笑う。
経口摂取でも心身を強烈に汚染する媚毒の、直接注入――その顔に浮かんでいる狂気的な笑みには、もはや元の人格の様相は欠片も見られない。
甲高い音の羅列が、乾いた至聖所に響き渡る。
そして、その体が影響を受けたのは、それだけではなかった。
「ああぁ、ぁはぁ……あつ、あづい……おまた、おしり、あぢゅいぃぃ…………!!」
ひくひくと震える少女の陰部から、異常な量の愛液が漏れ出る。
既に『準備』は万端だと言わんばかりに、洪水のごとく分泌されたそれは内腿を伝って足首を濡らし、床までの空間に発情の軌跡を残していく。
少女の体臭と、粘液。むせ返るような甘い二重の発情の香りは、自身の体にすらも影響を与えた。浮き上がった乳首を擦ってほしいとばかりに胸を突き出し、ほんのわずかな空気の刺激に対しても快感で顔を蕩けさせる。
シアの崩壊を見計らったかのように、再び極太の肉竿が姿を現した。
口内を蹂躙したのと同種の、熱く脈打つ肉の塊。それが今度は体の下の方、少女のアナルに向かって伸びていく。
愛液の洪水の中に先端を浸した巨大な肉竿が、股の中で身を躍らせる。
クリトリスの上を通過するだけで、少女が足を広げざるを得なくなるようなサイズ感のそれが、小さな肛門の皺を引き伸ばすように激しく前後に行き来した。
「あはっ、はっ! くっ、"くぎ"、はやく! はっ、はやくっ、はやぐっっ!!!」
泡を吹きながらの必死の懇願。
もし両手が自由だったら、自分から尻の穴を広げて挿入をせがんでいただろう――代わりに、前のめりになった少女の唇が催促の言葉を立て続けに紡ぎ出す。
それに応じるかのように、シアの潤滑液をたっぷりとまぶした巨体は、ゆっくりと肉竿の先端を垂直に立てた。
狂った笑い声を上げるシアの、小さな肛門の入り口に、オーバーサイズのそれがぴたりと押し当てられる。
――ぐ、ぢゅず、るる……。
「ぎっ!? あ、お"、おっきぃ……きょうの、くぎ、お"っぎぃ"ぃ"……!」
入り口の薄皮が押し広げられ、少女が苦悶と欲情の入り混じった音を出した。
みちみち、みちみち……と、緩んだ括約筋はまたたく間に限界まで引き伸ばされ、しかしそれでもまだ肉棒は入っていかない。
胴を締め付ける触手に力が入る。
肛門という蕾の中に埋没しようとする長大な肉竿が、折りたたまれるように撓んだ。
ばねの要領で、力を蓄えて。
竿の直径を分厚く膨張させながら。
力を込め、力を込め、力を込めた巨大な陰茎が、
魔物にとってのミニチュアサイズのような体の菊門に、埋没していく。
――めりっ、めり、めりめりめりめり……っ!!
「いっだ……っ! あっ、きた、きたぁっっ!!♡♡♡♡」
分厚いゴムを引き裂くような鈍い音を立て、肛門の皺がなくなるほどに入り口を押し広げながら、肉の先端が埋没していく。
痛みと快楽が結合したシアの頭は、そんな裂けそうなほどの苦痛すら脳内麻薬に変換した。脳を直接焼きつぶすような媚毒は、その尻を娼婦のようにくねくねと躍らせた。
埋没し始めた肉竿は、少女の内側の形状を確かめるようにうねうねと腸壁を舐めまわしながら進んでいく。
つっかえるたびに幹を折りたたみ、ずぶずぶと深く体を突き刺す。亀頭の一番太い部分がシアの体に隠れても、なお侵入は止まることは無い。
傍から見ればその挿入は白い修道服の裾に隠されているが、ひとたびそれをめくれば、丸太のような赤黒い杭がまっすぐ尻穴を貫通しているのが見えるだろう。
しかし、今までの調教によって得た柔軟さに加えて異形の血液で変質させられた肉体は、人体の限界を超えて太すぎる胴体を受け入れていく。
五センチ。
十センチ。
十五センチ――
「い"っぎぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"あ"っ"っ"っ"!!!?♡♡♡♡ すごい"っ、かみさまの、くぎ、しゅごいぃぃ"ぃ"っっ♡♡♡♡♡」
子供と変わらない体の内部、狭い産道のような腸壁をかき分ける。
いつの間にかさらに伸びて来ていた二本の触手が、両脚を水平に持ち上げて大きく横に広げていた。遮るもののない尻穴の中に、三本目の赤黒い脚がずぶずぶと差し込まれていく。
"釘"で届いていた最奥部をとっくに超えてもなお、蹂躙は終わらない。
未知の場所を掘削される苦痛も、少女はもう感じない。
巨大な塊が腹の中を満たす。その重たい感触すら気持ちいい。
膀胱も子宮も内部から押しつぶされて、その快感にまたぶしゅっと潮を吹く。
「は、ひぃ…………ひぃー、ひぃー、ひぃー…………♡♡♡♡」
二十センチ以上も暗い肛内を押し広げた肉幹は、やがて最奥にある
両腕と脚を拘束され、異形の肉棒を尻穴という肉鞘に最奥まで押し込まれ。
常人なら痛苦のあまり発狂死しかねない状況で、しかし少女は至福の快感に包まれ、のけぞりながら悶絶していた。
それはさながら、魔物の陰茎の先に取り付けられた白いオブジェ。
男根から精液を搾り取るためだけの肉のケース。
異形にとっては手のひらサイズ程度の体に収まった肉竿は、都合よく使える性処理具を誇るかのように雄々しく脈打ち、シアの体を揺さぶる。
……そこからの動きは、あまりに唐突で、暴力的だった。
シアの体の最奥、S字結腸の入り口まで到達していた男根が何の前触れもなく、いきなりすさまじい勢いで引き抜かれていく。
――ぬぐ、りゅ……ぶぢゅぼぼぼぼぼぼぼっっっ!!!
「い"っ、きゃぁぁぁ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っっっ♡♡♡♡♡♡」
腸壁に密着していた淫杭が、腸液を泡立たせながら外に出て行く。
極限まで内壁を引き伸ばし、なおも止まらない肉竿の表面が生んだ腸内の摩擦熱が、少女の狂った頭に全力の絶叫を強いた。
亀頭のカリ首だけを残して引き抜かれたそれは、べたべたと粘つく光沢を放ち、松明の明かりを受けて光っている。
尻穴に収まっていたことを示す、肉棒に刻印された腸液のラインを宙に振り乱した触手は、少女に休む暇を与えなかった。
――ぶっ、ぼぢゅんっっっっっ!!!
「ひっぎい"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃぃぃっっっ♡♡♡♡♡♡」
引き抜かれたばかりの肉竿が、けたたましい音を立てて尻を突き刺す。
一度に二十センチの巨杭をぶち込まれた体は、食いしばった口から酸素を放出する。
弓なりに反る体。体に沿ってまっすぐになった腸内。
体の奥を捉えた陰茎は、一切の容赦を無くした。
――ぶじゅっ、ぐちゅるる……どぢゅん!
――ぼぢゅっ、ぼぢゅっ、ぼじゅっ、ぼじゅっっっ!!
「っ――――――」
巨根が尻穴を打ち据えるたびに、シアの小さな体が玩具のように揺れる。
あまりの抽送の激しさに、抜き差しのたびに肛門周辺が激しく泡立ち、肉竿が引き抜かれるのに合わせて空中に飛び散った。
突かれるたびにぼこんと腹が膨れ、自身に喜びを与えてくれるものの存在をあらわにする。少女の喘ぎは自身の淫音にかき消されて、もはや全く聞こえない。
人の手では届きようがない場所。
神の手によって、ようやく届いた場所。
じゅぼじゅぼと行き来する杭が、体内をめちゃくちゃに突きまわす。
一切の情けや容赦もない抜き差しが、シアの体の全身に脂汗を滲ませた。
本来なら、苦痛に泣き叫んでいる刺激。
だが、今のシアは違う。
――何をされても、ただただ、気持ちいいだけ。
「ああ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁぁっっっ♡♡♡♡ いぃっ、すごい、すごい"いぃぃぃっ♡♡♡!!」
周囲から大量の触手が伸びてきて、少女の全身にまとわりつく。
膨らみ始めたばかりの乳房を絞り。
ぴんと立った乳首を擦るように刺激して。
臍の中に潜るような動作を繰り返し。
耳の穴の中に、小さなひも状の触手を侵入させ。
吹き出る潮を、飲み込むようにすすり上げる。
イキ狂う。
少女の体はまさしく、その状態にあった。
腸壁が生み出す熱は子宮と脳に伝播し、そのたびに全身が快楽に跳ねる。
往復すれば、二回絶頂する。
シアを屈服させるための肉棒の抜き差しは、何十回と繰り返される。
少女は口から泡を吹いて、挿入のたびに絶頂と失神を繰り返した。
体の痙攣が終わらないうちにまた突かれて、痙攣の激しさが倍々になる。
そうすると肛壁の締まりと収縮が強くなって、男根を喜ばせる。
気持ちよくなるために、さらに早く、小さな体を弄ぶ。
――ごぢゅっ! ごりゅっ! ごぢゅっ! どぢゅんっっっ!!!
少女は、体全体が尻穴になったかのような妄想に浸っていた。
淫欲に溶け切った顔は奇妙な嬌声を漏らし、ますます快楽の渦の中に深くトリップしていく。
音がする。
音がする。
自分を気持ちよくしてくれる、音がする。
ラストスパートをかけるかのように、勢いがさらに激しさを増した。
暗い空間の中に飛び散る腸液や愛液や潮、失禁した尿。
上からも下からもあらゆる体液をまき散らしているシアは、ここではないどこかで、顔の見えない誰かに優しく体を抱かれていた。
大いなるその存在が、シアの耳元で囁く。
もう何も、気にしなくていい。
立派に振る舞うなど、考えなくていい。
ただただ純粋に快楽だけを。
お前が気持ちいいと思うことだけを、受け入れていればいい――
『オォッ、オッ、オオオオォォォォッッ!!!』
どれほどの時間が経過したのか。
永遠にも等しい狂乱じみた抽送が、不意にぴたりと止まった。
シアの最も深い場所に収まった淫棒が、ぎゅっと内側に先端を押し付け……次の瞬間、尿道から送り込んでいた白濁の塊を、勢いよく放出した。
――ぼぷんっ!! びゅっ、ぶぷっ、どぷん!!
――びゅーーーーーーーっっっ、びゅるっ、びゅるるるるっっ!!
どくんっ、どくん、びゅるるる、びゅっ……!
たった一回目の、放出された粘液の塊は少女の腹をぼこんと押し広げた。
人のそれとは違う、液体と固形の中間のような魔物の精液は、二回目で腸壁を隙間なく埋め尽くし――三回目の放出で、ぶぢゅるっ! と尻穴からあふれ出る。
それでもなお止まらない射精のたびに、弾けた水風船のようにぶぢゅっ! ぶしゅっ! と音を立てて勢いよく液が噴き出す。
直腸で飲み切れない粘液はS字結腸の隙間から勢いよく逆流し、内部を白く染めていく。
「………………ぃ"、っぎ……♡♡♡」
どぷんどぷんと精液を放出しながら、魔物の思考は快楽と達成感の二種の感情に満ちていた。
予定外の事態だったが、いい。
『紋』の浮かばない不良品など、最悪壊しても問題ない。
だが、ここまですればさすがに――
そう思った異形の期待は、裏切られた。
放出の勢いが弱まり、少女の体が動かなくなる。
その腹に垂れた白い何かを、めくる。
晒された下腹部。未だに自身の陰茎が入ったままの腹。
そこに、『紋』は、ない。
数秒ほど、その様子を魔物はじっと見つめた後。
にぃぃ…と、口元を大きく笑みの形に釣り上げた。
ぶじゅっ! ぼぢゅっ! ぼじゅっ! どぢゅっ!!
「――――――い、――――――さい……」
ごじゅっ! ごりゅっ! ごぢゅっ! ごりゅんっっ!!!
「――――――ください、――話を、お聞きください……」
どぢゅんっ!! ごりゅっ!! ごぢゅっ、ごりゅごりゅごりゅごりゅっ!!!
「――よ、偉大なる神の使いよ! どうか、話をお聞きください……!」
ふと、足元から聞こえてきた雑音に、魔物は動きを止めた。
「神の遣いよ!! その娘は特別な存在です! それ以上やると本当に……本当に死んでしまいます!」
侯爵が胸に手を当て、全力で声を張る。
魔物はじっと、瞳孔が横に倒れた異形の瞳でその様子を見下ろしている。
「その娘はきっと、間違いなく、彼の御方の期待に叶う存在です!! どうか殺すのはやめて、その娘の体を我々にお返しください! なにとぞ、なにとぞお願い申し上げます!!」
必死の訴えを聞き取った魔物は、その視線をシアに向けた。
胴に巻き付けた触手の感触――確かにこの娘は、まだ生きている。
今までそんなことはなかった。
驚異的だ。
取るに足りない屑の発言だが、聞いてやる価値がある――
魔物は、シアの体内に埋没させていた極太の肉幹を勢いよく引き抜いた。
ぶりゅんっ! と排出された棒がぶらぶらと揺れ、精塊がぼたぼたと垂れる。
その状態のまま、胴に巻き付けた触手を地面に伸ばし、二人の前に置いた。拘束をほどかれた少女の体が、ごろりと石床に転がる。
その姿は二人から見て、悲惨としか言いようのない状態になっていた。
愛らしい少女の顔は陶器のように青白く、血の気も精気も一切感じられない。半開きの唇には渇いた涎の跡をこびりつかせたまま、何の光も宿っていない両の瞳を晒している。
汚濁がこびりついて、ところどころが束になった銀髪。
汚れていない部分が見当たらない修道服。
そしてなによりおぞましいのは、その下半身だった。
だらしなく開かれた両脚の間、ひとまずの純潔を保っていたはずの肛門は、もはや括約筋の機能を完全に失ってぽっかりと黒い口を開けている。
その壊れた穴からは未だに、体内で満たされ続けていた濃厚な精液がとろとろと垂れ流され、どれほどすさまじい凌辱を受けていたのかを何より雄弁に物語っている。
「「うっ……」」
合わせたわけでもなく、二人の男から同時にうめき声が漏れた。
どう見ても、生きているようには見えない。凌辱の果てに息絶え、打ち棄てられた肉塊そのものの光景。
「……俺が聖女殿を運ぶ! 大司教殿は先に――」
叫びかけた侯爵の言葉を遮るように、頭上から一本の触手が伸びた。
それまでのどれとも異なる平べったい先端をしたそれは、ゆるゆると降りてきたかと思うと、シアの額にぴたりと吸い付くように触れる。
――じゅううぅぅぅっっ……!
「なっ……!?」
肉の焼けるような、嫌な音が響き渡る。
シアの体が一瞬だけ激しく震えた。その反動で、壊れた肛門から残っていた精液がぶちゅりと
触手が離れた後、そこには黒い羽根を広げたような禍々しい刻印が、数秒のあいだ露わになった。
しかしそれは赤く光った後、すぐに肌の色に溶け込むようにして見えなくなっていく。
「……なっ……こ、これは」
「大司教殿!! 今はそんな場合ではない!」
切羽詰まった声に、大司教は我に返った。
侯爵がシアの体を抱え上げたのを合図に、二人は一目散に通路を駆け出していく。
あとに残された魔物は、ただ静かに人間たちが去った後を見つめていた。
その瞳が、満足げに細められたのを、もはや誰も見る者はいなかった。
◆ ◆
「……………………はっ!!?」
がばっ、とシアは勢いよくベッドから身を起こした。
天蓋付きの薄幕ごしに広がる、自身に不相応なほどの豪華な部屋――右手に広がる真っ暗なテラスの姿には、見覚えがある。
「……え? わたし、なんでここに……っ!?」
何となしに呟いた独り言。その声色が老婆のように掠れていたことに、シア自身が驚いた。
遅れて、体の不調を自覚する――何日も飲まず食わずで走り続けたような、異常なまでの倦怠感に体を包まれた少女は再びベッドに身を沈めた。
目の前に、手のひらを掲げて見る。本当にお婆ちゃんになったわけじゃない。
じゃあ、この体の疲れは何?
(そう。朝起きて、王城のほうに行って……)
お腹の中に、神様の血を入れてもらって。
王子様に、王城の中を案内してもらって。
英雄の間、書庫、楽器庫……いろんな場所で、いろんなことがあって。
最後に王様に会ったあと、離宮の礼拝堂に戻ってきて……。
そこまでは、思い出せる。
そこから先が、思い出せない。
(…………っ)
思い出そうとすると、頭の中に靄がかかる。頭がズキズキとし始める。
何かがあった。あった筈。
なのに。
――シアの体を、身震いするような寒気が襲った。
何も分からないのに。
何かとても、恐ろしいことがあったような気がする。
掛け布をめくって自分の体を見下ろす。
なぜか寝巻ではない、清潔な修道服。恐る恐る体のあちこちに触れてみても、特に異常はない。
あれほど苦しかったお腹の張りも消えている。
体はどこも、おかしくない。
なのに、なぜか、物凄い喪失感がある。
大事なことがあって、それを忘れている。
頭が痛む。
怖い。
怖い。
多分何かがあった筈なのに、それを思い出せないことが、何よりも怖い。
「……パメラ、さん……」
シアは、どうしようもないほどの人恋しさを覚えた。
普段はいつも傍にいてくれる人。
いつも一緒にいる、大事な人。
顔が見たい。
会いたい。
抱きしめてほしい。
衝動に突き動かされ、転げ落ちるようにベッドから飛び出た。
部屋の扉を開け、部屋の前に立っていた人たちの言葉を振り切って階下に降りる。
階段脇すぐの部屋……パメラの部屋にたどり着いたシアは、ノックすらせず勢いよく扉を開け放った。
「パメラさん! わたし、怖く、って……」
――目の前に広がっていた光景に、シアは呼吸することを忘れた。
自身の部屋と比べて、半分くらいしかない空間。
そこのベッドに、全裸でぐったりと体を横たえているパメラ――体中が傷だらけになっているその様子に、少女は声にならない悲鳴を上げた。
「パメラさんっ!!?」
声を裏返らせながら駆け寄り、体を揺する。
果たして、従者は唸るような小さい声を発した。声を出すことすら億劫だというように、わずかに開いた目線だけを銀髪の少女のほうに遣る。
「…………シア」
「なんで……どうしたの、この怪我!」
「ああ……大丈夫、何でもないわ。迎えに行けなくて、ごめんなさい……」
「何でもない訳ないでしょう! こんなっ」
「いいから……お願いだから、放っておいて……」
今にも消え入りそうなその声に、シアは動揺した。
何もないわけない。こんなに傷だらけなのに――弱々しく呼吸を繰り返すその体を見て、少女は決意を固めた。自分の体を包む疲労感すら忘れて、目の前の愛しい存在の体に手を
「パメラさん。今、治してあげるわ」
「やめて。あなただって、疲れてるでしょう……」
「そんなこと関係ない!!」
ふわり、とシアの手から、柔らかな金色の光が溢れだした。
朝の陽光のように優しい光が、パメラの満身創痍の体をそっと包んでいく。
「あ……」
従者の口から、溜息が漏れる。
――暖かい。
ちょうどいい温度のお湯の中に、体を浮かべているような感覚。
体を苛んでいた痛みと疲労が、溶けて流れていくような気がする。
目の前にある腕の傷が、蒸気のようにかき消えていく。元の形の肌に、戻っていく。
男たちからの汚らわしい感触も、言葉の傷も、行為も、すべて忘れ去ってしまえるような気がする。
体だけでなく、心も、浄化されていく。
シアは、いつもこう。
自分より他人のことを優先する。
自分一人だけ奇跡みたいな力があることを、誇示すらしない。
いつも、誰にでも優しい。
さりげなく、気を使ってくれる。
この子のおかげで。
この子の力のおかげで。
私は、何があっても、どんなことにも、
ありがとう、シア。
だいすき。
「パメラさん、あと少しで……んむっ!?」
――唐突に、パメラは上半身を起こした。
そのまま、自身の胸を押し付けるようにしてシアの体を強く抱きしめながら、自らの唇をシアの口に押し付ける。
「んっ、なっ、何っ……!? んむぅっ!」
べろり、とパメラの舌が唇を舐める。
突然の行動に声を上げかけた隙を狙って、少女の唇の隙間から、自らの舌を割り込ませた。
「んぅっ……!? ん……っ!!?」
生暖かい感覚が、シアの口内を蹂躙する。
パメラの舌は、初めて侵入した聖域の味を確かめるかのように、シアの美しい歯列を丁寧になぞり、上あごの粘膜を先端でこそぎ取った。
あまりに情熱的な行動に、少女は体を硬直させたまま言いなりになった。従者はその体をさらに強く抱きしめ、自分の舌で相手の舌を引きずり出しながら、口を合わせて吸い上げる。
相手――シアのほうからも、同じことをしてほしいというかのように。
「……ん、ふ…………っ、ちゅ……」
少女の顔が、真っ赤に染まっていく。
驚きのあまりに呼吸を忘れた体は、反射的に目の前の空間――熱く染まったパメラの口内を吸いながら、舌の動きにおずおずと応じた。
その行為に、理性のタガが外れた従者がさらに強く相手の口内を求める。
二つの舌が、互いの唇の接地点で激しく絡み合う。唾液が交じり合い、舌が絡み合って擦れあった音が、部屋の中に淫靡な音を立てる。
――ちゅっ、じゅる。じゅっ、ちゅっ……。
完全に友人としての枠を超えた行為を、シアは黙って受け入れている。
その場に膝を着き、両腕をだらんと垂らして、愛しい従者の愛情表現に応じ続ける。
やがて少女の呼吸が限界に近づいたころ、パメラがそっと唇を話した。
二人の唇のあいだには一本の唾液の糸が伸び、か細くつながった後にぷつりと切れる。
「…………はぁ、はぁ、はぁ……」
パメラが、熱い吐息を発している。その瞳は先ほどまでの弱々しさが嘘のように輝き、目の前の少女を真っすぐに射抜いている。
シアはそんな視線を受け止めながら、自らの口にそっと指先で触れた。
たった今起こった口接の感触が、熱が、生々しく残っている。
はち切れそうなほどにどくどくと高鳴る心臓の音が、相手に聞こえてしまうのではないかと少女は錯覚した。
言葉を紡げず、ぼうっと顔を赤らめるシアの体に、パメラの腕がまた伸びてくる。
シアはもう、抵抗しなかった。
相手のことが、嫌いではないから。
人恋しかったから。
好きだから。
とても大事な、人だから。
――じゅるっ、じゅっ。 ちゅっ、じゅっ、ちゅうぅぅぅっっっ……。