エンゼル・フォールン ~少女たちは歪んだ教義の犠牲になる~ 作:水上些事
シアの部屋に入ってすぐに、正面の壁から生えるように上半身を突き出した白磁の神像が目に付く。
腹部を起点に体が二つに枝分かれしているその像は、それぞれ男性形と女性形を為している。その左右を彩る三対六枚の黒翼と相まって、威圧的な存在感を部屋中に振りまいていた。
名を、合一神・アルカン。この教会において崇めているものの名。
この単一島国家、ウル=クローグにかつて降臨したとされる偉大なるものの偶像。
パメラが改めて見回したシアの寝室は、とても質素だった。
一人用のそれにしてはかなり広い、聖女として特別扱いされた部屋の間取り。
入って正面の壁から突き出した神像と、その手前にある簡素な祭壇。壁際の本棚二つと日誌が置かれた机、逆側の壁付近には古びた木製のベッド。
……それだけ。
本当にそれだけ。
一見して軟禁のための部屋かとすら見紛う、がらんとした空間。
年齢相応の嗜好や彩りは、ひとかけらとして見出せない。
この教会に、禁欲や節制をことさら貴ぶような風潮はない。
シアやパメラ他『一部の』修道女たちは、ほとんど毎日人前に姿を見せる。必要に応じて貴族たちの家に招かれることもある。それゆえ、その華やかな暮らしぶりに染められる者たちが出るのは珍しくなく、そうなることを禁じてもいない。
にもかかわらず、この部屋の寒々しさ。単に世俗の文化に興味が薄い性格というなら、まだいい。神に仕える者として自発的に節制を心掛けているというなら、それもいい。
もし、そもそも、自身の未来について希望を見出していないことから来るものなら……。
(……余計なことを考えては、駄目)
パメラは邪念を振り払った。それは今思案するべきことではない。
既に夜空の月もだいぶ下り始めていた。一刻も早く清掃を終えて自分も体を休めなければ、朝からの勤めに支障が出る。
小脇に抱えてきたシーツを一旦机上に置いて、シアのベッドに歩み寄る。
そこには、先ほどあった出来事の痕跡が、そのまま残されていた。
(……っ)
胸中に疼く鼓動を、深呼吸して抑え込む。
しわくちゃに乱れたシーツには、少女の汗や失禁で濡れた大小の跡が点々と残されていた。
目を凝らせば湯気さえ見えそうな生々しい痕跡。
一旦部屋を移ってからそれなりに時間も経ったというのに、密閉されていた部屋の中ではいまだに生々しい性臭が漂っている。
本能は、抑えられない。
なぜあの時の自分はあれほど熱に浮かされてシアの体を責め立てたのか、今なおパメラは分かっていない。
しかし、いくら内省しても過去の行いは消えない。
優しい彼女の白く細い体を、桃色の突起を、細いくびれを、下腹部の熱い窄まりを。
自身の指で、凌辱したこと。
(この、指で……)
目の前に掲げた右手はとっくに洗浄済みで、何らの異常も見られない。ただ自身の体表があるがままに晒されているだけ。
なのに。
また、中指と人差し指が熱を持ち始めている。
先ほどシアと深く接した箇所。
シアの体内の熱を、心ゆくまで味わった箇所。
――その瞬間のパメラの行動は、正しく『魔が差した』としか言いようがない。
自身の意思によらず。
なんとなく。
本当になんとなく。
熱く滾る自身の二指を、修道衣ごしの下腹部に、ぐっと押し付けた。
ずぐん……。
指先から伝わる温度がたちまち、皮膚を通じて子宮を満たしていく。
膨張して膨れ上がった子宮口からは、無限に湧き出る源泉のように新たな熱がなみなみと湧き出し、膣道を大きく押し広げていく。
さながら不可視の肉棒が『内側から』、柔らかな雌襞を隅々まで擦り上げていくかのように。
神の像が、パメラを見ている。
哀れな人間の余命を数えるかのように、神が指を弾く音がする。
ぱちん。
(あ)
ゼリー状の熱が膣壁を舐める快楽が、脊髄の尾底に伝播する。
まるで、真っ赤に焼け付いた巨大な指が、脊髄の内側を勢いよくなぞり上げるかのように、体の芯を駆け昇る。
その『通り道』は、溶けたように感覚を無くした。
人の身では、受容できない。
そんなものが、今まさに、脳に迫ってくる――
(だめ)
熱い。
熱いものが、
背骨を通って。
首の後ろを伝って。
後頭部を流れて。
脳に、達する。
「ぎっ――――――」
ぱちん。
――ぶしゃあああああぁぁぁぁっっっっっ!!!
人間の受容限度の、何十倍もの快楽信号を一度に叩き込まれたパメラの脳は、即座に絶頂して意識を手放した。
尿道から溢れた潮が音を立てて激しくしぶき、床を汚す。
脚を支える力を無くし、後ろに倒れ、背中が地面に接し――その衝撃で、パメラはまたイった。
「…………っ!!! はあっ…………はぁっ、はぁっ、はあっ、はあっ!!」
呼吸が止まり、意識が目覚める。
心臓が、鼓動のたびに大きく膨れ上がる。
子宮から逆流する『熱の肉棒』は、留まる気配を見せない。
ほんの一瞬で意識が飛ぶほどの膨大な悦楽。
それが、自身のメス穴を舐めるように押し広げ、こすり上げるたび、意識の喪失と発狂による目覚めを繰り返す。
何度も、何度も、イっている。
何度も、何度も。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も――。
パメラは死を予感した。
このままでは死ぬ。
もはやその脳は、快楽と苦痛の区別ができていない。
体全体が今にも破裂するかのような激痛。
……死にたくない。
死にたくない。死にたくない。
そう思っても、どうしようもない。
ただの人間には、どうしようもない。
だから神は、慈悲を与えた。
パメラの脳内に向かって、指を鳴らす。
ぱちん。
――死にたくないか? 人の子。
嫌。
死にたくないに決まってるでしょ。
こんなクソみたいな生活の中で。
お願い、助けて。
――簡単だ。今、お前の体に収まっているものを追い出してやればいい。
私の中に、あるもの?
解放って何?
どうすればいいの。
――教えてやる。『それ』だ。
ずぐん……。
子宮が波打つ。
先ほど、シアの熱が伝わって、私の体内に与えられたもの。
不可視の熱。中から際限なく湧き出る、無限の長さの、肉棒。
――死にたくなくば、「掻き出せ」。
――お前ができるのは、それだけだ。
「……はっ、はっ、はっ、はあっ、はあっ」
膣内は物理的に広がっていて、その腹は太い棒状に膨らんでいる。
さながら火傷せんばかりに熱されたゼリーが下腹部をぱんぱんに埋め尽くし、今なお膨らみ続けているかのような感覚。
耐えきれない。
死への恐怖の前には、なけなしの理性や倫理観など簡単に吹き飛んだ。
シアの部屋を自分の手で穢す、冒涜的な行い。
今だけは許して。
ごめんなさい。
死にたくない。
――ちゅぷ……。
「ひっ、ぎ……!!!」
膣口に指が沈む。
褐色の肌色の中にあって、対比的なピンク色の生々しい肉穴の膜が、指に吸い付きながらずぶずぶと内部に埋まりこんでいく。
それを契機として、焼けつくような熱が勢いよく逆流し、パメラの思考と感覚を瞬く間に焼き切った。
「あ"、ぁ、ぁ……っ」
体がのけぞる。
嗚咽の入り混じった悲鳴が絞り出される。
媚毒で増幅された感覚器が、全身の神経を刃物で擦り続けるのに等しい極大の地獄を女の体に提供する。
埋まった指の体積の分だけ、どろりと熱がこぼれ出る――もちろんそれは微々たるものだ。その上、空いた分はすぐに奥から補充されるから、一度きりの挿入では大した甲斐もない。
それを掻き出す。
全部、掻き出す。
――今まで、腐った豚どもに体を貪られて来たことを、感謝する日が来るとは思わなかった。
指一本の挿入すら難儀しそうなシアの秘穴とは違って、自身のそれは辛うじて指三本を咥え込む。
ためらいなく押し込んだ。
全身を刺し貫くような刺激が駆け巡る。
唇を噛み締めて意識を保ち、激しく自身の穴を抉る。
――ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ!!
「ひあ”っ、ああぁぁぁっ、あ"あぁぁぁっっ!!!」
快楽を得るためではない、生きるための自慰。
義務感と焦燥感と疑問符で埋め尽くされた頭は、瞳のまばたきよりも激しい勢いで明滅を繰り返す。
「はひっ、はぁ、はぁ、はっ、はっ!!」
体外に追いだした分だけ、膣内の熱に『流れ』が生まれる。
無限の挿入。もしくは無限の抜去。
にゅるにゅるにゅるにゅる……と休まる暇がまったくない灼熱の刺激に、何度も何度も何度も何度も意識を飛ばしては戻ってくる。
「終わってっ! はやく、はやぐ、おわっで……っ!!」
もう恥も外聞もなく、びちゃびちゃと音を立てて秘穴を充血するほどに擦り続ける。
傍から見れば、気の触れた美女が体液をまき散らしながらひたすら激しいオナニーに興じている構図。
室内の性臭に、女から発された新たな臭いが加わり、空気を汚染する。
嗅いだら誰もが――物心つかない子どもですら気をやるほどの淫らな分泌液の匂いが、パメラ本人の脳を麻痺させていく。
ぴんと指先まで伸びた脚。
見開かれた両目。
犬のように激しい過呼吸。
指の一突きのたびに、真上に向かって弧を描く飛沫。
部屋の隅々まで響き渡る水音と、嬌声。
「あ"ぁっ、あ"っ、あ"っ、あ"ぁ"ぁぁぁっっっ!!!」
――脳が沸騰する。
意識がぼやける。
もはや自分が何をしているかも分からない。
痛い。
気持ちいい。
こわい。
――溶ける。
「お”ぉっ、あ"っ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
――――。
じょろろろろろろろ……。
『その瞬間』を迎えたパメラの体は、実に数分にもわたって絶頂し続けた。
意識を消し飛ばす究極の快楽を叩きこまれた脳は、全身に異常な命令を発し続け、筋肉はそれに従い骨を締め上げ細胞を収縮させる。
打ち上げられた魚ですらこうはいかない――背筋の力だけで拳二つ分も飛び上がることを何十回と繰り返した体は、もはや息絶える寸前まで気力を絞りつくしていた。
「……ひゅーー…………ひゅぅーーーー…………」
枯れ木の洞を思わせる喘鳴が漏れ出る。
顔面からはあらゆる体液が滝のごとく流れ出ている。
残った水分が残らず股から流れ出て、温かな水たまりが床中に広がっていく。
今のパメラに、シアのことなど一切頭になかった。
ただ、体の奥でようやく枯れ果てた泉から零れた残滓が内奥を刺激し、パメラはのけぞりながらまたイった。
空っぽになった腹の中。
膣内に感じる空洞感。
虚無感。
月明かりが白くぼやける。
視界の端にある神像の姿が、淡く光を放っている気がする。
この日、パメラは生まれて初めて、確かに神の存在を感じた。
目の前の神像。
アルカン。
腹部の熱。
シア。