エンゼル・フォールン ~少女たちは歪んだ教義の犠牲になる~ 作:水上些事
賓客用の部屋にしつらえられた大きな窓の外から、乾いた夜風に乗って人々の喧騒が流れてくる。
大陸の中央部にある、王都エストリア。
広大な草原に悠然とそびえるその町並みは、シア達の住まうエルミナとはまるで奥行きが異なる。
白を基調としたエルミナの整然とした街並みとは変わり、どこか雑然とした雰囲気を持ちつつも人並みと活気の衰えない都市。
表向きは、まごうことなき大国――そんな王都の一角にある大教会の一室に、シアとパメラはいた。
「ふう……今日はとっても疲れたわ。ぼーっとしてたら寝てしまいそう」
「お疲れ様、シア。大変だったわね、着いて早々に謁見だなんて」
「うん。今日は王子様まで一緒にいらっしゃるから、本当に緊張した」
豪奢な椅子に座ったシアが、寝間着姿で溜息をついた。
その背後ではパメラが長い柘植の櫛を使って、垂れ下がる長い銀髪を優しい手つきで
湯浴みの後で水分を含んだ髪は、触れた指に吸い付くほどのしっとりとした潤いを持ち、空気に透かすたびに上質の糸のようにほどける。
「前に来た時もそうだったけど、いつも以上に艶があるわ。使ってる香油がいいのね」
「そうなのかな? 香りもいいんだけど、こっちで体を洗ってもらうとすっごいあわあわになるの。埋もれちゃうかと思ったくらい」
「ふふ。丁寧にもてなしていただいたのね」
「うん。洗ってくださる人たちも五人もいてね、体だけじゃなくてずーっと腕とか脚とか揉まれて、途中でくすぐったくなってきちゃって」
それでね、それでね――と、今日あったことや感じたことを素直に楽しげに話すシア。
パメラはこの語らいの時間が、ほとんど唯一の生きる楽しみと言ってよかった。
あからさまに悪意や性欲をぶつけられて、心を痛めることもない。
誰にはばかることも遠慮することもなく、目の前の存在を可愛がることができる。
「あんまりはしゃだら駄目よ、シア。お客様だからこそ、ちゃんとしなくちゃ」
「もう、分かってるから。ちゃんとみんなにお礼もしたのよ」
むう、と頬を膨らませる少女。そんな様子すらも愛おしい。
こうやって髪を手入れしている女が、どれだけ汚れているかも知らないで。
――本当にいいの? シア。髪の手入れも、私よりあの人たちのほうがきっと上手よ。
――うん、いいの。これだけはパメラさんじゃないと、嫌。
……何も疑わず、身を委ねてくれるシア。
触れている感触すらおぼろげな髪がなびくたびに、その下から褐色の自分の指が浮き出る。
まるで、自分のせいでこの子の髪が汚れているみたいだ。
くだらない。
死にたい。
「あ、パメラさん。そういえば明日は教会での『洗礼』って、わたし一人で来てほしいって仰っておられたけれど」
その言葉に、櫛を動かす従者の手が一瞬止まった。謁見の間での出来事が、不快な記憶としてパメラの脳裏に思い起こされる。
いずれ来る儀式の日を前に、神に捧げるための器としてシアの体が相応しいかを確かめる『処女検査』。
王座に腰かけた痩身の国王。
周りを囲む貴族たち。
わざわざシアに近づいて手を取り、容姿を褒めちぎっていた王子。
そのほとんどがこちらに向けてくる、同じ種類の目つき。
「……そうね。私は明日一日、こちらの貴族の方々と用事があるの。だから朝は別々、一緒には行けないわ」
「そうなんだ。んー……あのとき王子様、『君の清らかさの源泉を早くお目にかかりたいものだ』なんて風に仰ったの。期待に応えられるか、ちょっと心配で」
「大げさに言われただけよ。あなたなら大丈夫」
「うーん……でも……」
いつもなら気丈に覚悟を決める筈のシアが、今日は少し歯切れが悪い。普段と異なる環境がそうさせているのだろう――そう察したパメラは櫛を置き、目の前の華奢な体をそっと抱いた。
従者の腕の中に収まった少女はほんの一瞬だけ目を見開いたあと、脱力して体を委ねた。隣り合った二人の顔、そこから漏れるそれぞれの吐息が、お互いの内心の不安を溶かしていく。
「あなたのことを認めない人間なんて、この世にいないわ。私が誓う」
「……ふふ、なにそれ。おおげさだよ、パメラさん」
少女は苦笑しながらも、自分の前に回っている従者の手に、自身の両手をそっと重ね合わせた。
言葉に出来ない内心の不安感と、背後のパメラに対する絶大な信頼感が、指先の力となって込められている。
「シア、明日は一緒には居られないけれど。私はずっと、貴方のことを想ってるわ」
「うん……わたしもだよ」
「貴方のために、私も頑張るから……お互い、負けないようにしましょうね」
「うん。ありがとう、パメラさん」
白く無機質な部屋の中心で、静謐な時間が流れる。
窓の外の喧騒も、今の二人には届かない。
パメラは、この時間が永遠に続けばいいと、心の底からと願った。
ここから動きたくない。
ずっと、ずっと、このまま――
「何か、パメラさんの手、いつもよりあったかいかも」
はっ、と従者は我に返った。
少女の手がにぎにぎと無遠慮に自分の肌に触れている感触に、ふっと息を漏らす。
浮かべていた、泣き笑いの顔を、取り繕う。
「沐浴の後なんだから当然でしょう、何もおかしくないわ」
「そうだっけ? パメラさんの手っていつもひんやりしてるから、ちょっと落ち着かないなあって」
「……もう。こんなところに来てまで、そんな意地悪を言うのね」
「え? そんなつもりじゃ……ふっ、あはははは! やだ、なんで……!」
シアの脇腹をくすぐりながら、子どものようにじゃれ合う。
いくら汚れても。
いくら汚されても。
目の前にいるこの子だけは、変わらないままでいてくれたらいいのに。
◆ ◆
――今日は、"釘"は入れなくていいの?
――ええ。代わりに、明日起きたらすぐにこれを飲んでね、シア。
――うん、分かった。……わあ、すごく真っ赤で、きれい。
「遅かったな、パメラ。あんなガキ一人寝かしつけるのに時間をかけおって」
部屋に入るなり、革張りの椅子に座った男が侮蔑の言葉を投げかけた。
シアとパメラが泊る施設から少し離れた場所にある、大邸宅の豪奢な一室。高価な剥製や調度品などが無節操に並ぶ部屋の中で、司祭の男――マティアスが、苛立たしげにブドウ酒の入ったグラスを揺らしている。
「お前たちの部屋の前に控えておった者から報告があったぞ。相も変わらず、くだらんお喋りに長々と興じておったようだな」
「……」
「返事をしろ、
「っ……、申し訳、ございません。マティアス様」
無表情を取り繕うパメラの声が、わずかに震えている。
一見して普段とあまり変わらない平静さ――しかしよく見れば、その様子は普段とはまったく異なっている。
自身の左腕を、右手でぎゅっと抱き締めて。
黒い修道服の襟元から覗く首筋を、熱っぽく上気させて。
平常時よりも早い呼吸のたびに、苦し気に肩を上下させている。
「はぁ、はぁ、はぁっ……」
「ふん。ちゃんと薬は飲んできたようだな、パメラ」
男は、テーブルにグラスを置いて立ち上がった。酒で火照った顔にサディスティックな笑みを浮かべながら、パメラの眼前に歩み寄っていく。
「あのガキに懐かれているからと、毎日毎日ままごと遊び。そんなにお人形ごっこが楽しいか? 単に庇護欲を満たすためなら、妹でなくても誰でもいいのか」
「そんなつもりは、ありません……それより、この、薬……」
「良い効き目だろう? お前でこれなら、あのガキが飲んだらさぞ楽しいことになりそうだな」
「こんな……こんなものを、あの子に……ひっ!?」
男の節くれだった太い指が、パメラの豊かな乳房をがしりと鷲掴みにした。
手に余るほど大きく柔らかいその肉を、遠慮なくこね上げる。強く握られると服越しに指が軽く沈み、次の瞬間にはその重さを確かめるようにたぷたぷと下から持ち上げられる。
好きな時にいつでも犯せる、都合のいい肉便器。その豊満な体を前にした男の手つきは一切の遠慮なく、押しつぶすような乱暴さでぐにぐにと全体を揉みしだく。
「ふっ…………んぐ、ぅ」
普段なら、嫌悪感に身を竦ませているような愛のない手つき。
しかしパメラはその執拗な愛撫に対して、下腹部に確かな熱量が生まれるのを感じていた。
普段、この男の行為では一切感じない感覚――子宮の奥底が疼くような、快感。
「くく。もう出来上がっているようだなパメラ。胸を揉まれるだけで喘ぐなど、まるで生娘のようじゃないか」
あざけるようなその言葉に、女の頬がみるみるうちに赤く染まり始めた。
荒くなり始めた吐息が、部屋の温度を上げる。
厚い修道服の生地を通して、つんと固く立った乳首が自己主張を始めた。
自身の体の変化に戸惑いながらも未だ鋭いままの目つきが、マティアスの顔を射抜く。
「ふ、ふふ。こんなものをわざわざ、使わないとっ……ひぁっ!?」
挑むようなパメラの言葉は、服越しに浮いた乳首をざりっと撫で上げられて、すぐさま甲高い声に変わった。
マティアスはその変化に気を良くして、親指の腹で何度も何度も乳首の先端をこねまわす。
くりくり、ぐりぐり……と、布地を通した間接的な刺激は返ってパメラの欲情を呼び起こし、その脳内を肉欲の色に焼き始めた。
「はぁっ、はぁっ…………いやっ、ぁ……」
がくがくと膝が震える。
抵抗の意志が早々に失せたメスの嬌声が、部屋の空気を震わせる。
命令を受け、事前に飲んでおいた媚薬――シアが受け取ったものと同じそれは、胸への刺激をきっかけとしてもどかしい疼きを生み出し始めていた。
さながら、割れてはいけない子宮の中の水風船が、ぱちんと弾けてしまったかのような感覚。
「良い顔だ、パメラ。今日もそれなりに新顔がいるからな、いつものような不機嫌そうな面で相手をされたのではかなわん」
「やっ、あ……やめ、てぇっ……♡」
懇願するような甘い声を出す女に、男は舌なめずりをしながら刺激を続けた。
パメラの体の震えはますます大きくなり――やがて、自力で立っていられなくなったその体は、マティアスの方に向かってがくりと倒れ込む。
「おっと」
男は空いた方の腕でそれを抱き留めながらも、乳首への刺激は止めない。
もはや相手への忌避感など消え失せたように快楽に身を震わせるパメラを、マティアスは満足げに見下ろした。
「まるで恋人のようだな、パメラ。今度からは優しく抱いてやろうか」
「やだっ……そんなの、いらないっ……」
「いつもは苦しい思いばかりさせてしまっているからなあ。儂からの慈悲を遠慮なく受けと、れっ!」
「んっ、ぎゅううぅッ!!?♡」
ぎゅりっ!! と乳首を勢いよくねじりあげられ、脳髄が痺れるような快感が女の全身を満たした。予想していなかった不意の刺激に、息を飲みこむような奇妙な嬌声を上がる。
「ひぎゅっ、うっ、ぐ……!! ……はっ、はっ、はっ、はぁっ、はぁっ……!」
胸への刺激だけで、パメラは軽く絶頂した。
殺したいほど憎い男に抱き留められながら、こんな簡単にイかされた――脳裏に一瞬だけ浮かんだ屈辱的な思いはすぐに、全身を満たす震えるほどの快感に塗りつぶされていく。
「くくっ、はははは! なんだ、乳首をいじられただけでイってしまったのか」
マティアスは勝ち誇ったように笑った。普段は敵意しか見せない強情な女が、腕の中で弱々しく震えている。
こんなことならもっと早く、薬なり何なり試せばよかったわ――相手をねじ伏せる普段のそれとは別種の快感に酔いしれた男は、さらなる屈辱を与えようと胸から離した手をパメラの秘部に伸ばしかけ……ふと、眉根に皺を寄せた。
「ぬっ……? な、なんだ」
「はぁー、はぁー……はー、はー、はー……」
――パメラの体から、むわりとした熱気が立ち上っている。
それは単なる、熱いや冷たいというものではない――熟れすぎた果実を火にくべて溶かしたような、むせ返るほどじっとりと甘ったるい瘴気とでもいうべきもの。
空気に色がついたのかと錯覚させる香気が、じわりと周囲に漂い始める。
汗に濡れた褐色の肌と黒髪が、ぬめりを帯びて艶めかしく光っている。
瞳の端からは、一筋の雫がゆっくりと頬を流れ落ちている。
ただでさえ道行く者の視線を奪うほどの、豊かな体と美貌。そこから立ち上り始めている、どこか爛れた生命感が放つ人間離れした魅力に、マティアスの思考は完全に奪われてしまっていた。
――セックスなんて、痛くて不快なだけで、嫌い。
今まで絶頂したのだって、物好きな貴族が戯れに、無理やりそうさせてきただけ。
気持ちよくなったことなんてない。
自分の体を好きになれたことなんてない。
こんな体、嫌い。
だけど、今は……今は、おかしい。
イっても、体の熱が引かない。
むしろ、もっと大きくなる。抑えられなくなる。
あの時と同じ。
シアの部屋で変な声を聞いて、無理やり気絶させられた時と、同じ。
神とかいうやつに、頭の中を撫でられた時と、同じ。
体が熱い。
熱い。
熱い、熱い、熱い、熱い――
「はぁー…………はぁー…………」
その両眼は完全に、とろん……と情欲に
だらしなく舌を放り出し、熱い吐息を漏らして……愛液で濡れ初めた太腿をくちゅくちゅとすり合わせながら、上目遣いに男を見上げている。
「………………マティアス、様……」
「っ……。今、お前の体を味わえないのが、惜しいわ」
唐突に雰囲気を変貌させたパメラに生唾を飲みながらも、男は欲望を振り払うようにその体を突き飛ばした。
尻もちを付いた女の股、生まれたままの姿をさらけ出したそこから目を背けて、テーブルの片隅に置いてあったものを放り投げる。
「服を脱いで、さっさとそれを履け。もうあまり時間はないぞ」
ごとり、と足元に落ちたそれを認識するのに、のぼせたパメラの頭では数秒を要した。
ほとんど紐と変わらない、腰肉を締め付ける様なタイトな下着。そしてそれと一緒に置かれた、太く長い膣用の張型。
――これを、付けて、履くの?
今?
女は恐ろしいものを見るような顔をしながら、か細い腕で自身の体を抱き、両膝を体に引き寄せた。
頭の中にぐるぐると想像が渦巻く。
火が付いたように体が火照っている今、『それ』をしたらどうなるか――それを幻視するだけで、パメラは淫裂からとろとろと熱い分泌液を垂れ流し始めた。
「おい、聞こえなかったのかパメラ。早くしろと――」
「……むっ……むり……」
苛立ち交じりに急かした言葉を、掠れた甘い声が遮る。
床に尻をついたまま、淫臭を発する秘部を丸見えにしたパメラ。
頭をふるふると横に振りながら、その潤んだ瞳はマティアスを見上げている。
「あ、あっ……いっ、今、こんなの、むりで……かっ、からだが熱くて、いうこと、きかなくて……」
甘い、懇願の声色。
それを耳にした男の理性の糸は、一瞬で千切れそうになった。
普段は無理やり組み敷いて『使う』だけの女が、反抗的な態度を崩さない女が、今は全身で自分のことを求めてきている。
「お、おねがい、します。こっ、これ……マティアス、様が、つけて……」
男は衝動的に一歩踏み出し、そして――床を砕かんばかりの勢いで踏みとどまった。
全身の血流が一斉に、陰茎に向かって集まっていくのを感じる。
まずい、このままでは、まずい。
予定のすべてが吹き飛ぶ。
すべてが、台無しになる。
「――甘ったれるな、売女ァッ!!!」
マティアスは、自身の欲望を振り払うかのように怒声を発した。
びくっ、とパメラの肩が跳ねる。ほんの少し怯えの色が滲んだ表情を見て、わずかながら冷静さを取り戻した男は、その勢いのまま矢継ぎ早にまくしたてた。
「お前が儂に命令だと!? 何様のつもりだ!! さんざん男どもに体を許しておいて、その程度のことできないわけなかろうが!!」
「ち、違う……違います、私は」
「儂は用を足してくる。それまでに必ず準備を必ず済ませろ。出来ていなければ、エルミナに戻ってからお前の妹を嬲るぞ!」
「……っ」
それだけ言うと、マティアスは逃げるように部屋を出て行った。
ばたん、と重い扉が閉まる音が廊下の隅々にまで響き渡る。
(……危なかった)
便所に向かって走りながら、男は自分の股間を見下ろした。司祭服の上からでも分かるほど陰茎が固く勃起しているどころか、その膨らみの先端がじわりと湿り始めている。
(儂が我を失ってどうする。あれは便器で、この後の供物だ。あれに儂が本気になるなど……)
舌打ちをしつつも、未だに体は昂っている。
たった今見せてきた、あの魔性。
あれは知らない。想定していない……。
動揺と、期待と、恐れ。
何か計り知れないことが起こりつつあるのではないのか、と言いようのない不安が、マティアスの心中に忍び寄っていた。
◆ ◆
ざわざわと、部屋の空気が揺れている。
広間を照らす天井吊りの大燭台の下、ベルベットの絨毯が一面に敷き詰められた豪奢な一室。
そこには、舞踏会じみた目元を隠す仮面を身に着けている、数十人もの男たちがいた。誰もが一様に、高級なガウン等の贅を尽くした衣服をまといながら長椅子に腰かけ、思い思いに歓談しながら笑い声を上げている。
部屋の壁にかかっているのは、いずれも淫猥で倒錯的な画が記された絵画。
その渦中にある男たちの話の内容もそれに相応しく、低劣な内容に寄っている。
酒、金、女、奴隷――
精神を昂奮させる特製の香がふんだんに炊かれた空間の中で、人を人とも思っていない貴族たちが生み出す言葉が、部屋の空気を粘ついた欲望の色に染め上げている。
――ぱぁん。
歓談の空気を切り裂くように、乾いた拍手の音が響いた。
会話が止み、すべての視線が部屋の前方に集まる。高段の中央に立った男――マティアスは、新たにまとい直した司祭服の腕を大げさに翻した。
「我が同胞たる皆様! 今宵は聖なる集いにお集まりいただき、感謝の念に堪えません。日頃は我々に多大な寄付や献金を賜り、その活動を支えていただいておりますこと、主の代理として心より感謝申し上げます――」
高らかな宣言に応じて、大きな拍手の音が空間を満たす。それに対して再度丁寧な謝辞を述べた後、これからの予定について男が演説を始めた。
ここに居る者たちはいずれもエルミナの地、シア達のいる大教会において内々に行われていること――少女たちの売買の話を十全に知っている。
主には先人からの紹介を中心とし、この場に寄り集った者たち。その中には今晩が初めての参加となるものも幾人かおり、一様に若干の緊張と高揚感に満ちた表情を浮かべている。
「――以上、それでは早速始めさせていただきましょう。まず初めは定例の『穢れ落としの儀』の時間でございます。此度も新顔の方々が居られますので……かつての皆様と同様、ご自慢の男根で女体を磨く姿を壇上に晒してもらうとしましょうか」
マティアスの冗談めかした物言いに、貴族たちは下劣な笑い声を上げた。
『新顔』に該当する者たちは驚いたようにきょろきょろと当たりを見まわし、隣にいる年配の貴族に背中を叩かれたりしている。
「それではこれから、魂の穢れた女たちを一人ずつご覧に入れます。――入れ!」
マティアスが声を張るのと同時、錠を外された大扉が軋みを上げて開いた。
暗闇の中から、全身を黒衣で覆い隠した男が現れる。その手に握った紐を荒々しく引っ張りながら進み出て――その後ろからは、豊満な褐色肌の裸体を惜しみなく晒した女が、ゆっくりとすり足をしながら現れた。
「……ふぅー、ふぅー……く、あぁっ……♡」
おぉ、と貴族たちから歓声が上がる。
黒衣の男が首輪の紐を引くたびに、パメラはその場に転びそうになるのをなんとか堪え――裸足で床を踏みしめるその感触だけで、全身を快感に震わせた。
「ひぃっ♡ はぁっ、はぁっ、はぁっ……♡♡」
強い媚薬の効果が全身の感度を跳ね上げ、女の理性や恥じらいの念をとうに焼き捨てさせている。
身じろぎをするたびに乳房が揺れ、ほの暗い桃色をした乳首がぴんととがったまま動くさまは、観衆の視線を奪った。
しなやかに引き締まった腰に続く丸い尻。扇情的な下着の紐が通された股間には、反り返るような張型が膣道の奥の奥にまで埋め込まれている。
その状態で女が少しずつ歩みを進めるたびに、張型はぐにぐにと内部で蠢きながら、内側の敏感な部分を容赦なくえぐった。
――ぐちゅ。ぐりゅ、ぐりぃっ……。
「ひっ、あ、やっ♡ だめ、いぐ、い"ぐっ……♡♡」
ぷしゃあっ! と潮をまき散らしながら、太腿を大きく震わせてパメラは絶頂した。その場で崩れ落ちそうになるのを、黒衣の男が首輪の紐を強く引っ張って遮る。
ぐぅっ、と喉を鳴らしながらも、緩み切った瞳に浮かぶ情欲の色が途切れることはない。
熱く粘ついた膣液を足首付近にまで滴らせてなお、まだとめどなく湧き出るそれは張型と膣口の隙間から漏れ出て、両脚の間をぽたぽたと滴り落ちていく。
「さて、まず初めに披露いたしますのはこちらの『パメラ』。親に棄てられてさ迷っていたのを我々が拾いあげ、磨いてやったものです」
言いながら、マティアスはパメラの顎をぐいと掴んで正面を向けさせた。
「御覧の通りの美しい顔、長い手足、そしてこの若さで熟れ切った肉体。さぞや皆様にもご満足いただけることでしょう」
満足げに言い放たれたマティアスの言葉は、女の耳には微塵も届いていない。
はぁー、はぁー……と痴れ者のようにだらんと口を開き、唾液を漏らす。今すぐにでも男根を受け入れる準備が出来ていることをありありと伺わせる蕩けた表情を見て、貴族たちの多くが喉を鳴らした。
「そしてもちろん、『使い勝手』のほうも極上でございます。今、その証拠をお見せしましょう」
黒衣の男がさらに強く紐を引っ張り上げ、パメラを無理やりその場に立たせた。
マティアスは笑顔を絶やさないままに女の股間、薄く整えられた恥毛の下にある空間に手を突っ込んだ。
申し訳程度にまとわれた下着の紐をずらして、張型の基部を掴む。
次の瞬間、男はそれを何の前触れもなく、無慈悲に勢いよく引きずり出した。
――ずる、りゅるるるるるるるるっっ!
「きっ、ひぃっ!!??♡♡」
内壁を引きずりながら、張型が先端近くまで露出する。
その瞬間、火傷するかのような温度の真っ白な愛液が、びちゃあっ、と噴き出した。溶けた蜘蛛の糸を思わせる本気の汁が外気に触れ、ほのかに湯気を立てる。
一方通行の、たった『半分』の刺激だけでパメラはまたイった。しかし男は容赦せず、張型を再度奥まで突き込む。
――どぢゅんっ!!
「きゃあぁっっっ!!?♡♡ あっ、あァっ……♡」
衝撃が子宮口を打ち据え、また達する。大きくのけぞらせた体から金切り声を発して、真上を向いたまま痙攣し、ぴくぴくと舌を放り出している。
それでもマティアスの責めは終わらない。張り付いたような笑みとともに淡々と、しかし激しく張型の抜き差しを開始した。
――ずぼっ、ちゅぼっ、ずぶ、ぐじゅっ!!
広い部屋の中に、美しい女の膣奥をほじくる下品極まりない水音が響き渡った。
一往復ごとにパメラの腰が激しく前後に揺れ、しぶいた蜜が男の腕を濡らす。
「やあ"ぁ"っっ!!♡♡ これ、やだっ!!♡ つよ、いっ……!!!」
何度も何度も、頭の中に火花を散らす。淫らに体を揺らし、首輪のせいで倒れ込むことも許されない。
その上マティアスにとっては、数限りなく味わってきたマンコ。それゆえに、彼女がこれまでもっとも反応があったポイントもよく分かっている――その部分を張型の先端で重点的にごりゅごりゅと擦り上げると、パメラは絶叫するように喘いだ。
「だめ"っ、これだめっ!!♡♡ これっ、これむり、これむりぃ"ぃ"ぃ"っ!!!♡♡♡♡」
衆目の前に晒された逃げ場のない快楽地獄を、貴族たちは声を失ったまま見守っていた。
激しい嬌声、びちゃびちゃと絶え間ない水音、そしてパメラの悦楽に歪み切った表情――その場に座っているすべての者が服の下でペニスを勃起させ、両眼を血走らせている。
もはやパメラの思考に、正常な部分はほとんど残っていない。
肉壺をかき回されるたびに、頭が爆発するかのような感覚を味わっている。
生と死。死と性。
究極の快楽の域に近づきつつあるパメラの体は、神の嗜好に、限りなく近づこうとしていた。
「もうだめ"っ!!♡♡ おねがいしま"す、やめでくだざいっ!!! もう、もうイきたくない"っっ!!!♡♡♡」
「だったら誓え! 宣言しろ! 貴族様に奉仕します、貴族様に体を捧げますとな!!」
「はい"っ、きぞくさまのチンポなめま"すっ、きぞくさま"のチンポほしいですっ!!!♡♡♡ だから、だからもう"、も"う"っ!!♡♡」
視界が真っ白に染まる。
激しい耳鳴りが、すべての音を遮断する。
体の制御が完全に意識を離れて――張型が引き抜かれたその瞬間に女から上がった声は、もう誰の耳にも聞こえないほど、高い高い音域にまで打ち上げられた。
――ず、じゅぽんっっっ!!!
「ぎっ♡♡♡♡…………~~~~~~~~~~――――――――――っ……」
――びくん、びくっ、びくびくびくびくびくっっ!
パメラの全身の筋肉が、限界を超えた刺激にはち切れんばかりに痙攣する。
発情した猿のように激しく腰を前後に振り乱し、そのたびに体に残った水分を絞り出すように分泌液を撒きちらす。
首輪を真上に引かれて天を仰いだ彼女の体は、やがて最後にはありえないような角度で弓なりにしなり――最後の堰を切った潮が、最前列の貴族たちの間近にまで激しく放物線を描いた。
――ぶしゃああああっっっ!!! ぶしゅっ、ぶしゅ、ぶしゃっ……!!
女の体の奥にある泉が、枯れていく。
ベルベットの絨毯の一角をぐしょぐしょに濡らし、壇上を水浸しにして、ようやくパメラの舞台劇は幕を閉じていった。
快感の波が少しずつ引き、あらん限りの体力を吐き出して……宙づりになったままぐったりと脱力する。
ほんのわずかな胸の上下がなければ、処刑された死体にすら見えかねないほどの様相。
「…………ひゅー…………ひゅぅー…………」
風の音にも似た喘鳴を漏らすだけの存在となったパメラを見下ろしながら、マティアスは貴族たちに向かって声を張り上げた。
自分たちの商品の出来を誇示するために。
自身の欲情の結晶が、またも司祭服を持ち上げ始めてしまっているのをごまかすために。
「ごらんの通り、ここにいる皆様全員にご満足いただけるものと存じます。それでは、次の穢れた女をご覧いただきましょう――」
マティアスの紹介のもと、新たな女たちが次々と連れて来られる。
しかし、その場にいたほとんどの者はもう、二人目以降の姿をろくに目にしていなかった。
壇上の中央で、さらし者になっているパメラの肢体。
その体を嬲り、肉槍を突き込んで、精液を中に出すことしか考えていなかった。