例えば、童話の中の世界では、悪い魔女が美しい姫を醜いロバに変身させてしまう物語があったけれど、それは王子が呪いを解くところまでがワンセットな救われる話だったはずだ。
……結論から言うと、海底にて悠久の時を眠り続けていた神殿を偶然発見したベテラン冒険者であった俺が探索中に、神殿の創られた本来の目的であるとある機関を目覚めさせてしまったのだ。
しかし、悲しいかな。俺の人生は童話の中の世界ではないのでハッピーエンドは保証されていない。なので、一人のベテラン冒険者の人生はここで終わってしまったのでした。
一人のベテラン冒険者が神殿の機関によってプログラム化された呪いによって成れ果てた姿──40年生きてきた巨大なロブスターが、海底のしじまで脱皮を始めた。ロブスターの死因の多くが脱皮の失敗であるように、それは容易いことではなかったが、そのロブスターは他の個体よりも器用で段取りが良く、何よりも運がよかった。そしてズルズルと真新しい身体が這い出てきて……古い肉体に宿っていた呪いは、脱皮の成功によって完全にリフレッシュされた。
「……ぅぁ……ぁ……?……なんてこった」
人間→ロブスター化で脱皮→人間に戻る。
これによって古くなった内臓も新しくなって、完璧な若返りに成功した肉体は、以前よりも一回り大きくなっていた。
こんなことが広く知られてしまったら、欲深い人間達による不老不死の独占に伴う争いが起きることは必然だろう。
だから俺は、神殿で体験した神秘の術を吹聴することはせず、町に戻ってからも、静かに人々の営みの中へと紛れ込んで、まったくの別人として生きることを選択したのだった。
時を経て。
100年も生きた大きな岩のようなロブスターが脱皮をしたとき、その脱け殻は神秘を帯びて、新たなスキルを複数獲得した。
まず、【
次に、【
そのとき、ふと、男は気づいてしまった。
今まで秘密を抱えて静かに長く深海生物のように暮らしてきたが、新たに獲得したこの有用なスキルを上手に活用すれば、英雄譚の主人公のような眩い人生を送れるのではないのかと。
イカロスの翼のように、例え暗い海底から煌めく水面を目指すことが破滅を意味しても、俺はそれを強く望んだ。100年も生き飽きた平凡な人生に戻ろうという意思は、すでに存在しなかった。