※この作品はR-18です。

境界の蝶   作:heatmajin

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掌の上の女王様

みこの囁きは、静寂な綺蝶の寝室に、まるで小さな挑戦状のように投げ込まれた。絶対的な支配者である綺蝶の瞳が、一瞬、興味深そうに細められる。やがて、その唇の端がゆっくりと吊り上がった。それは、面白い玩具を見つけた子供のような、純粋で残酷な笑みだった。

 

「…ふふ、面白いことを言うようになったわね、わたくしのみこ」

 

綺蝶は楽しそうに喉を鳴らすと、ベッドに座るみこの前にすっと立った。その立ち姿には、一片の揺らぎもない。

 

「いいでしょう。貴女がそこまで望むなら、今夜は少しだけ、特別な遊戯に付き合ってあげる」

 

それは許可であり、同時に、これから始まる全てが彼女の掌の上での出来事であるという宣言だった。綺蝶はベッドのみこの足元に優雅に跪いてみせた。しかしその所作は隷属者のそれではなく、王が戯れに臣下の真似事をするような、圧倒的な余裕に満ちていた。

 

「さあ、女王様。わたくしに何を望むのかしら?もっとはっきりと、上手に命令してごらんなさい。でなければ、この遊戯は始まらないわよ?」

 

挑発的な視線に、みこは息を呑む。試されている。それでも、魂に刻まれた快感の記憶が、羞恥心よりも強い欲望を掻き立てた。

 

「…わたしの脚を…綺蝶さんの唇で、味わって…」

 

「承知いたしました」

 

綺蝶は恭しく、しかしどこか芝居がかった仕草で応じると、みこの足首をそっと手に取った。そして、その白い肌に、まるで極上のワインをテイスティングするかのように、ゆっくりと舌を這わせる。冷たい唇と熱い舌の感触が、足先から脳へと駆け上り、みこの身体を甘く痺れさせた。

 

「は…ぁっ…きちょう、さ…」

 

「どうかしら?お望みは、このような感じでよろしいので?」

 

綺蝶は顔を上げ、悪戯っぽく問いかける。その瞳は、みこの反応を観察し、愉しんでいるのが明らかだった。みこはこくこくと頷くことしかできない。自分が支配しているはずなのに、まるで綺蝶に快感の感じ方を教え込まれているような、倒錯した感覚に陥る。

 

綺蝶の唇は、みこの命令通り、脚をゆっくりと遡っていく。その度に、的確に急所を刺激され、みこは抗いがたい快楽の波に翻弄された。自分が女王様で、綺蝶が従者だという設定のはずが、いつの間にか、どうすれば自分が最も悦ぶかを熟知している綺蝶に、身体のすべてを委ねてしまっている。

 

やがて、その唇が最も無防備な場所にたどり着いた時、綺蝶はふと動きを止めた。

 

「女王様の命令はここまで、かしら?」

 

生殺しの状態に、みこは涙目で喘いだ。

 

「つ、づけて…!おねがい…します…!」

 

「おや?それは命令ではなく、お願い、ね。…まあ、良いでしょう。貴女の可愛い顔に免じて、サービスしてあげる」

 

綺蝶はそう囁くと、躊躇なくその場所を深く味わい始めた。瞬間、みこの全身を雷のような衝撃が貫く。それは綺蝶が、みこの中から溢れ出す霊力を、極上の蜜のように味わっているからこその反応だった。彼女は与えると同時に奪い、悦ばせながら味わっている。

 

「ん…っ…」

 

綺蝶の喉から、確かに微かな声が漏れた。しかしそれは支配された者の喘ぎではない。美味なものを口にした時の、満足のため息に近かった。その事実に、みこは気づかない。ただ、自分の命令で綺蝶が声を漏らしたという背徳的な事実に、思考が焼き切られそうになっていた。

 

快楽の頂点で、みこは意識を失う寸前、自分を見下ろす綺蝶の瞳が、どこまでも冷静で、愉悦に満ちていたのを見た気がした。

 

夜が更け、気怠い身体で目覚めたみこの髪を、綺蝶が優しく撫でていた。その表情はいつもと変わらない、余裕に満ちたものだ。

 

「今夜の遊戯は、楽しめたかしら?ずいぶんと可愛らしい女王様だったわ」

 

それは、まるで演劇の感想を述べるかのようだった。みこは自分が完全に彼女の掌の上で踊らされていたのだと、ようやく理解する。悔しさよりも、その底知れない魅力に、改めてゾッとした。そして、それ以上に惹きつけられている自分に気づいてしまう。

 

「貴女が捧げる供物は、なかなかどうして、わたくしを飽きさせない。また面白い遊びを思いついたら、いつでも提案してきなさい」

 

綺蝶はそう言うと、満足げに微笑んだ。

 

「その時は、また付き合ってあげるわ。わたくしが、飽きるまではね」

 

その言葉は、甘くも冷たい鎖だった。みこは、自分がこの妖艶な霊能者の、一時的なお気に入りの玩具に過ぎないのかもしれないという恐怖と、それでも彼女の気を惹き続けたいという渇望の間で、心を揺さぶられるのだった。

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