※この作品はR-18です。

魅入られ子ちゃん   作:heatmajin

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焦らしと調教

女の底知れない独占欲に内心で慄きながらも、私の日常は続いていく。

そして、その日常に、また新たな、そしてタチの悪い変化が訪れた。

 

しゃこ、しゃこ。

朝の歯磨きを終え、私は無意識に身構えていた。いつもの長いキスが来る、と。身体が、唇が、もうそれを予期してしまっている。

しかし、背後から抱きしめてきた女は、ふい、と顔を逸らした。

そして、私の唇のすぐ横、ほんの数ミリずれた頬の肌に、ちゅ、と子供にするような軽いキスを落としただけだった。

 

「え?」

 

思わず、声が漏れた。拍子抜けとは、まさにこのことだ。

私が呆気に取られていると、女は私の顔を覗き込み、全てお見通しだと言わんばかりに、金色の瞳を細めてニヤニヤと笑った。

その意地の悪い笑顔を見て、私は悟った。これは、嫌がらせだ。

 

その日、女の奇妙な「焦らし」は一日中続いた。

学校の休み時間、トイレに続く廊下で、突然壁に押し付けられる。背後から抱きしめられたり、制服の上から身体を撫でられたりするのとは違う、正面からの、逃げ場のない拘束。

女の顔がゆっくりと近づいてくる。濡れたように艶めく唇、吐息がかかるほどの距離。私は目を閉じて、来るべき衝撃に備えた。

しかし、何も起こらない。

おそるおそる目を開けると、女は唇と唇が触れ合う寸前のところで動きを止め、私の反応を楽しんでいた。そして、私が何か言う前に、ふっと身体を離す。

これを、何度も、何度も繰り返された。

 

最初は「キスされないだけマシ」「清々する」と思っていた。

でも、次第に、私の心はかき乱され始めた。

触れそうで、触れない。

与えられそうで、与えられない。

そのじりじりとした距離感に、無意識にキスを「待ってしまっている」自分がいることに気づいてしまった。もどかしさと、どうしようもない焦燥感が胸の中に渦巻く。

 

ハナと他愛ない話をしている時でさえ、女の意地悪は続いた。

私の顎にそっと手をかけ、唇を奪う寸前まで顔を近づける。そして、ハナに気づかれない角度で、私の耳元に悪魔のように囁くのだ。

 

「我慢できる?」

 

その声に、背筋がぞくりとした。

これは、ただの嫌がらせじゃない。

 

放課後、一人になった帰り道、私は必死に自分の感情を整理しようとした。

なんで私はキスされないことにもやもやしてるんだ? されない方がいいに決まってるのに!

その答えは、考えたくなくても、分かってしまった。

 

これは、犬の躾と一緒だ。

「お手」や「待て」を覚えさせ、ご褒美をちらつかせて、自分の思い通りに動かすための「調教」。

これまで散々、快楽という名の餌を与え、私の身体をそれに慣れさせた。そして今、その餌を意図的に断つことで、私が自ら「キスして」と求めるように仕向けているのだ。

 

(悪霊だ…)

 

全身に、鳥肌が立った。

底知れない悪意と、狡猾な計算高さ。この女は、ただ欲望のままに私を貪っているわけじゃない。私の心を、意思を、完全に支配し、屈服させようとしている。

 

(絶対に、絶対に、自分から求めてなんかやるもんか…!)

 

私は固く、固く決意した。

この屈辱的なゲームに乗ってたまるか。絶対に、負けない。

 

自室に戻り、重い足取りでベッドに向かう。

部屋の電気を消し、布団に潜り込んだ。すぐに、女が隣に入ってくる気配がする。

今夜は、きっと長い夜になる。

私のちっぽけなプライドと、この人外の化け物との、我慢比べの始まりだ。

 

闇の中で、女はいつものように私の上に覆いかぶさってきた。

しかし、その唇は私を求めない。代わりに、冷たい指先が、私のパジャマのボタンをゆっくりと一つずつ外していく。

はだけさせられた肌に、女の吐息がかかる。

「今夜は、みこの身体の声だけを聴いてあげる」

その囁きは、今夜の責め苦の始まりを告げていた。

 

女の指と舌は、いつも以上に執拗に、私の身体の隅々を愛撫し始めた。

鎖骨を舐められ、胸の膨らみを揉みしだかれ、脇腹をくすぐられる。身体は正直に反応し、甘い疼きが全身を駆け巡った。

「ん…っ、ぁ…」

声が漏れる。でも、女は決して私の唇には触れてこない。

 

何度も、何度も、快感の頂点へと追い詰められる。

身体がびくんと跳ね、絶頂を迎えそうになる、その寸前。

ぴたり、と女の動きが止まるのだ。

荒い息だけがシーツに落ちる。熱を持て余した身体が、次の刺激を待ちわびてしまう。その浅ましさに、涙が出そうになる。

そして、私が少し落ち着きを取り戻すと、また、執拗な愛撫が再開される。

寸止めの、無限地獄。

 

「どうしたの、みこ。息が上がってるよ」

女の声は、どこまでも楽しそうだ。

「何が、欲しいの?」

その問いに、私は唇を固く結んだ。絶対に、言うもんか。絶対に、お前の思い通りになんてなるものか。

私の意地を感じ取ったのか、女は楽しそうに喉を鳴らした。

そして、その指先が、私の最も濡れて熱くなった場所へと滑り込んできた。

 

「いやっ…!あ、ぁああ…っ!」

 

花弁を直接なぞられ、私のちっぽけな抵抗など、いとも容易く吹き飛んでいく。

それでも、私は最後のプライドを懸けて、懇願の言葉だけは飲み込んだ。

しかし、身体はもう限界だった。

女は私の反応をじっくりと観察し、私が一番感じている場所を、的確に、しかし絶頂させない絶妙な力加減で弄び続ける。

焦らしと寸止めの責め苦に、私の理性は少しずつ削り取られ、溶けていく。

もう、無理だった。

 

「…っ、…き、す…」

 

声にならないような、か細い囁き。

 

「ん? なあに、みこ。聞こえないな」

 

分かっているくせに。

この悪魔。悪霊。

悔しさと、屈辱と、そして抗えない欲望に、涙が頬を伝った。

私は、観念した。

 

「……きす、して……ください……っ」

 

ついに、その言葉を口にしてしまった。

負けたのだ。完全に。

その瞬間、私を見下ろしていた女の顔に、これまでで一番美しい、満足に満ちた笑みが浮かんだ。

 

「よくできました」

 

その言葉は、まるで飼い主がペットを褒めるように、残酷なほど優しかった。

そして、待ち望んでしまった唇が、ようやく私の上に降ってくる。

それは、これまでで最も深く、甘く、全てを奪い去るような支配的なキスだった。

そのキスと同時に、女の指が私の中を強く、深く抉る。

 

「んんんんッ!」

 

唇を塞がれたまま、私は絶頂の奔流に飲み込まれた。

身も心も、完全に降伏させられた。

この女には、もう、逆らえない。

 

遠のく意識の中、耳の奥にこびりついていたのは、ただ、女の満足げな囁きだけだった。

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