※この作品はR-18です。

魅入られ子ちゃん   作:heatmajin

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甘い絶望

昨夜の、あのネクタイが肌に擦れる感触が、まだ手首に残っている気がする。

心も身体も、鉛のように重い。

これまで散々、好き放題にされてきたけれど、昨夜の出来事は、私のちっぽけなプライドを根こそぎへし折るには十分すぎた。

もう、この人外の化け物に、私は逆らえないのかもしれない。

そんな無力感に苛まれながら、私はとぼとぼと帰り道を歩いていた。

 

(……このままじゃ、ダメだ)

 

このまま流されて、飼いならされて、心が死んでしまう。

せめて、何か一つでも。

この女の支配の外にある、私だけのものを。

そんな、ほとんど祈りに近い思いで、私はふらりとコンビニの明かりに吸い寄せられた。

 

目的は、デザートコーナー。

その一角に、それはあった。

少しお高めの、とろりとしたカラメルソースが特徴の「とろ蜜プリン」。

子供の頃から、何か良いことがあった日にだけ食べられた、私にとっての特別なご褒美。

私はそれを一つ、震える手で掴んだ。

これだけは、私のもの。

この女のためじゃない、私のための、私だけのささやかな幸せ。

そう、心の中で何度も繰り返しながら、私はレジへと向かった。

 

家に帰り着くと、お母さんや恭介に見つからないように、私は泥棒のように素早く階段を駆け上がり、自室へとプリンを持ち込んだ。

ドアに鍵はかけられない。でも、今は女も静かに私の後ろにいるだけだ。

私は机の椅子に座り、ゆっくりとプリンの金の蓋を開けた。

ふわりと広がる、甘いバニラと、ほろ苦いカラメルの香り。

スプーンですくい、一口、口に運ぶ。

とろり、と舌の上で溶けていく濃厚なカスタード。追いかけてくる、香ばしいカラメルの苦み。

おいしい。

その味は、強張っていた私の心を、ほんの少しだけ解きほぐしてくれた。

ほんの一瞬、この部屋にいる化け物の存在を忘れられる、至福の時間。

あっという間に食べ終えた私は、名残惜しさを感じながらも、空の容器をそっとゴミ箱へと捨てた。

 

その様子を、背後の女がどんな瞳で見ていたのか。

この時の私には、知る由もなかった。

 

風呂から上がり、パジャマ姿で部屋に戻る。

そして、私は目の前の光景に、息を呑んだ。

 

机の上。

私が先ほど捨てたはずの、プリンの空き容器が一つ。

そして、その隣に。

まるで供物のように、まだ誰も開けていない、新品の「とろ蜜プリン」が、いくつも、いくつも、綺麗に並べられていた。

一つや二つではない。十個は軽く超えているだろう。

異様で、狂気じみた光景に、全身から血の気が引いていく。

 

ベッドの上には、女が座っていた。

そのうちの一つを手に取り、私ににっこりと、無邪気に微笑みかける。

「みこ、これ、好きなんでしょ?」

金の蓋が、ゆっくりと開けられる。私が先ほど味わったばかりの、甘い香りが、今度は部屋中に絶望の匂いとして充満していく。

女はプラスチックのスプーンでプリンをすくった。

しかし、そのプリンを自分の口に運ぶことはない。

 

「たくさん用意したよ。一緒に、もっと美味しく味わおうね」

 

その言葉と共に、女はプリンを乗せたスプーンを、私の胸元へと、ゆっくりと、ゆっくりと近づけていく。

私だけのささやかな抵抗。

私だけの小さな幸せ。

それが今、最もおぞましく、背徳的な儀式の道具へと姿を変えた。

ああ、この女の前では、私が「好き」だと感じたもの全てが、私を嬲るための凶器になるのだ。

逃れられない甘い絶望に、私はただ立ち尽くすことしかできなかった。

 

女はプリンを乗せたスプーンを、ゆっくりと私の胸元へと近づけてくる。

私は後ずさろうとしたが、足が床に縫い付けられたように動かない。

「や…やめて…」

か細い懇願は、女の耳には届かなかった。

 

スプーンが、くい、と傾けられる。

ひやりとした感触。

とろりとしたカスタードが、私の鎖骨の窪みに溜まり、そのままゆっくりと胸の谷間へと流れ落ちていく。

 

「ひっ…!?」

 

甘いカラメルの香りが、私の体温で温められて立ち上る。

それは、冒涜の匂いだった。

「やめて! 食べ物をそんなことに使わないで…!」

私の悲鳴は、女の嗜虐心を煽るだけのスパイスにしかならない。

女は楽しそうに目を細めると、今度はスプーンを使わず、容器から直接、プリンを私の身体に垂らし始めた。

お腹に、太腿に、そして足先にまで。

冷たくて甘い液体が、肌を伝い、パジャマの生地に染みを作っていく。

その光景は、あまりにも倒錯的で、狂っていた。

 

「もったいないよ、みこ。だって、あなたの好きなもので、あなたの身体が満たされていくんだから」

 

女はうっとりとした声で言うと、四つん這いになり、私の足元から、その「デザート」を味わい始めた。

足の甲に垂れたプリンを、舌でぺろりと舐めとる。

「ん…おいしい。みこの肌と混ざって、もっと美味しくなったよ」

その言葉に、全身の血の気が引いた。

嫌悪感で吐き気がする。罪悪感で胸が張り裂けそうだ。

しかし、そんな私の心情を嘲笑うかのように、女の舌が私の肌を這い始めた。

冷たいプリンの感触と、生々しい舌の熱。その温度差が、私の肌の感覚を狂わせる。

立ち上る甘い香りと、女の舌が肌を舐め上げる卑猥な音。

それらが混じり合った、未知の刺激が私の身体を貫いた。

 

「いや…っ、あ…」

 

身体が、勝手に震える。

女はゆっくりと、まるで巡礼の道を辿るかのように、私の身体に塗られたプリンを舐め上げていく。

太腿の内側を舐められた時、私の腰は大きく跳ねた。

お腹の窪みに溜まったカラメルソースを舌で掬われた時、甘い喘ぎが漏れ出た。

 

そして、ついに。

女は最後のプリンを手に取ると、その中身の全てを、私の脚の間に、無慈悲にぶちまけた。

「あ…ああ…っ!」

最も柔らかな場所に、冷たくて甘い塊が塗りたくられる。

その不快で、あまりにも卑猥な感触に、涙が溢れた。

 

「ここが、一番甘そうだね、みこ」

 

悪魔の囁き。

女はそこに顔を埋め、執拗に、丹念に、私の一番好きなものを、私の一番感じやすい場所で、味わい尽くし始めた。

自分の「好き」という感情の象徴が、今、私を最も辱める快楽の源泉になっている。

その耐えがたい矛盾に、私の思考はぐちゃぐちゃに掻き乱され、崩壊していく。

 

「あああああーーーーーッ!」

 

強烈な背徳感と、それに比例するように増していく快感の波。

もう、何も考えられない。

私は、自分のお気に入りのプリンの味に塗れながら、その甘さに溺れるように、絶頂した。

 

意識が途切れる最後の瞬間、私の鼻腔をくすぐったのは、甘ったるいカラメルの香りと、汚されてしまったという、深い、深い絶望の匂いだった。

 

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