※この作品はR-18です。

魅入られ子ちゃん   作:heatmajin

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歪んだ添削指導

じりじりと、しかし確実に、その日は近づいていた。

中間試験。

学生にとっての厄災であり、赤点という名の断頭台が待ち受ける、恐怖の期間。

 

「今回ばかりは本気でやらないと、ハナに合わせる顔がない…!」

 

親友との固い(?)約束を胸に、私は決意を固めて机に向かった。分厚い教科書、うんざりするほどの問題集。いざ、尋常に勝負!

―――と、ペンを握った、その瞬間だった。

 

ふわり、と背後から抱きしめられる、いつもの感触。

そして、私の耳元で、甘い吐息が吹きかけられた。

 

「ちょっ…! やめて、くすぐったい!」

 

私が英単語帳を開けば、女は私の髪を指で弄び、その毛先で私の頬を撫でてくる。

私が歴史の教科書にマーカーを引こうとすれば、その手の上から自分の手を重ねてきて、一緒にマーカーを引こうとする。もちろん、線はぐにゃぐにゃになった。

 

「ねぇってば! 集中できないでしょ!」

 

半ばキレ気味に振り向くと、女は「え? なんで?」と、心の底から不思議そうな顔をしている。悪気がないのが、一番タチが悪い。

私は涙ながらに、その美しい肩を掴んで懇願した。

 

「お願いだから! 今回だけは本当に集中させてほしいの! 試験が終わるまででいいから! ね? お願い!」

 

私の必死の訴えが通じたのか、女はこてんと首を傾げた後、こくりと頷いた。

そして、ぴたりと、身体的な接触をやめた。

 

(やった…! 通じた!)

 

私が安堵したのも束の間。それは、静かなる妨害から、斜め上の協力(という名の新たな妨害)へのシフトチェンジでしかなかった。

 

私が英単語の暗記に苦戦していると、女は私の横から手を伸ばし、その単語の隣に、ファンシーなイラストを描き始めたのだ。

例えば、「procrastinate(ぐずぐずする、先延ばしにする)」。その横には、山積みの教科書の上で、すやすやと気持ちよさそうに眠る人の絵。

「mitigate(和らげる、軽減する)」。その横には、大きな怪我をして泣いている人に、ものすごく小さな絆創膏を一枚だけ貼ってあげている絵。

 

(……分かりやすいけど! なんか違う!)

その絶妙に的確で、かつシュールなイラストに、私の集中力は別の意味で削がれていく。

 

極めつけは、数学の問題集だった。

私が行き詰まり、「うーん、この公式、なんだっけ…」とペンを噛んでいると、女はノートの余白に、サラサラと何かを書き始めた。

覗き見ると、そこには応援メッセージでも似顔絵でもなく、その問題を解くための美しい数式と、完璧な解法プロセスが、芸術的なまでに流麗な文字で書かれていた。

 

「協力してくれるのは嬉しいけど、そうじゃない! なんで解けるの!? ていうか怖っ!」

 

もはや、試験勉強をしているのか、この万能人外の奇行に振り回されているのか、分からなくなってきた。

 

そんな珍妙な一夜が明け、学校へ。

帰り道、私はハナと試験範囲について答え合わせをしていた。

「昨日の夜、どこまで進んだ? 私、全然ダメでさー」

「えーっと、私も、色々あって……」

女の奇行の数々を思い出し、私は言葉を濁す。

その時、ハナが単語帳を指さして言った。

「あ、この『procrastinate』って単語、いっつもスペル間違えちゃうんだよね。どういう意味だっけ?」

 

その単語を見た瞬間、私の脳裏に、昨夜女が描いた「教科書の上で眠る人」のイラストが、鮮明にフラッシュバックした。

私は、ほとんど無意識に口走っていた。

 

「あ、それ確か…やらなきゃいけないことから逃げて寝ちゃうことだから…『先延ばしにする』?」

 

「そう! それだ! よく覚えてるね、みこ!」

 

ハナに尊敬の眼差しを向けられ、私は何とも言えない、非常に複雑な気持ちになった。

あいつのせいで集中できないのに、あいつのおかげで色々覚えてるって、一体どういう状況なんだろう…?

私は、この高性能すぎる家庭教師(?)との付き合い方を、真剣に考え直さなければならないのかもしれない。

 

その夜も、私は机に向かい、最後の追い込みをかけていた。

女は、昼間とは打って変わって、ただ静かに私の隣に座っている。奇妙なイラストを描くでもなく、完璧な解法を示すでもなく、ただじっと、私を見守っていた。

しかし、その視線は教科書やノートには向けられていない。

問題を解くために真剣に細められる私の目、ペンを握る指先、時折、集中してきゅっと結ばれる唇。

その全てを、まるで味わうかのように、ねっとりとした眼差しで追いかけていた。

 

(見られてる…)

 

勉強している姿を、こんなにも熱心に見つめられるのは、人生で初めてだ。

その視線が、なぜか今日の昼間に受けたどの妨害よりも、私の集中力を削いでいく。

 

ようやくキリの良いところまで終わり、私が「ふぅ…」と息をついてペンを置いた、その瞬間を待っていたかのように、女が動いた。

「お疲れ様、みこ。よく頑張ったね」

労わるように、私の凝り固まった肩を優しく揉みほぐす。そして、そのまま椅子から私をそっと引きはがすと、ベッドへと誘った。

 

「頭をたくさん使ったから、今度は身体を休ませてあげなきゃね」

 

ベッドに腰掛けると、女は私の正面にしゃがみこみ、私の顔を下から覗き込んだ。

その金色の瞳は、どこまでも優しく、そしてどこか、これから始まる実験を前にした科学者のように、知的な光を宿していた。

 

「勉強って、苦手なところを何度も復習するのが大事なんでしょ?」

 

その言葉に、私の心臓がどきりと跳ねた。

 

「みこの身体の、一番苦手なところ…ううん、一番好きなところを、私が重点的に教えてあげる」

「私が、丁寧に『添削』してあげるね。みこの身体が、ちゃんと満点を取れるように」

 

そのおかしな、しかし否定できない説得力を持つ言葉。

昼間の出来事が、悪夢のように蘇る。

この女は、本気で、私の身体で「勉強」をするつもりなのだ。

思考も、感情も、そして快感さえも、この人外に「採点」されてしまう。

その途方もない屈辱と、抗えない好奇心に、私はもはや、首を横に振ることすらできなかった。

 

女は、私の沈黙を肯定と受け取ったのだろう。

満足げに微笑むと、私のパジャマの裾に、そっと手をかけた。

これから始まる、歪んだ補習授業。

私はなすすべなく、シーツの上へと身体を横たえるしかなかった。

 

女は、宣言通り「添削指導」を始めた。

私のパジャマをゆっくりと剥ぎ取り、その指先は、まず「復習」とばかりに、私が感じやすいと知られている場所をなぞり始めた。

 

「まず、ここはもう完璧だよね、みこ」

 

耳の裏、腰のくぼみ、膝の裏。

女の指が触れるたびに、私の身体は「はい、正解です」とでも言うように、正直に震えてしまう。

その反応の一つ一つを、女は「うん、よく覚えてるね」と、満足げに頷きながら確かめていく。

まるで、何度も解いた基礎問題を確認するかのように、じっくりと、確実に。

その丁寧な愛撫は、私の身体から抵抗する力を奪い、甘い熱をじわじわと蓄積させていった。

 

「基礎が固まったら、次は応用問題。みこがまだ気づいていない、本当は『好き』なところ」

 

女の指は、これまで触れられたことのない場所へと進んでいく。

それは、脇腹の少し下、骨盤のすぐ上の、何でもないはずの場所だった。

そこを、指の腹で、ぐり、と圧迫するように撫でられる。

 

「ひゃぅっ…!?」

 

予期せぬ場所からの、予期せぬ刺激。

脳に直接響くような、鋭い快感が走り、私の背中が弓なりにしなった。

「どう? ここ、苦手だと思ってたでしょ? でも、本当はこんなに感じちゃうんだよ」

女は、まるで難問の解法を発見したかのように、嬉々としてその場所を攻め立てる。

違う、そんなところ、好きじゃない。

そう否定したいのに、私の身体は、女の「添削」が正しいと証明するかのように、敏感に反応してしまう。

 

自分の身体なのに、自分よりもこの人外の方が詳しい。

その恐ろしい事実に、思考が混乱する。

私が知らない私の「好き」を、次々と暴かれ、教え込まれていく。

その屈辱と、抗えない快感に、私はただ喘ぐことしかできない。

 

「さあ、みこ。総仕上げのテストだよ」

 

女は、すっかり蕩かされてしまった私の脚をゆっくりと開いた。

「今までのお勉強の成果、ちゃんと見せてね。満点、取れるかな?」

その言葉を合図に、女はこれまで「復習」し、「添削」してきた全ての性感帯を、同時に、あるいは緩急自在に刺激し始めた。

指が腰を撫で、舌が耳を舐め、唇が首筋を吸う。

そして、もう一方の指が、私の熱く濡れた疼きの中心へと、ゆっくりと沈んでいく。

 

「あ…ぁ、ああ、あああッ!」

 

全身の快感が、一つの奔流となって、脳天を突き抜けた。

もう、どこをどう刺激されているのかも分からない。

ただ、私の身体が知っている「好き」の全てを、完璧な手順で与えられていることだけが、確かだった。

 

「だ…だめ…もう、降参、だから…ッ!」

「うん、降参だね。でも、解答用紙は、最後までちゃんと埋めなきゃ」

 

女は悪魔のように囁くと、私の最も敏感な場所にある小さな蕾を、最後の仕上げとばかりに、強く、深く、弾いた。

それは、私が出せる、唯一で、完璧な「答え」だった。

 

「あああああああーーーーーッ!」

 

視界が真っ白に弾け、思考が焼き切れる。

勉強の達成感とは全く違う、快楽による完全な敗北。

意識が途切れる寸前、朦朧とした私の耳に、女の優しい声が響いた。

 

「はい、よくできました。満点だよ、みこ」

 

その採点結果と共に、私の意識は、深い、深い眠りの底へと落ちていった。

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