※この作品はR-18です。

魅入られ子ちゃん   作:heatmajin

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溶ける境界線

世界が、白く燃えている。

そんな言葉がぴったりな、記録的な猛暑が続く夏休みのある日の午後。

地獄のような炎天下での買い出しを終え、私はまさに命からがら、我が家へと逃げ帰ってきた。

 

「ただいま⋯」

 

ゾンビのような声でそう呟き、私は熱気で歪む廊下をふらふらと進み、一直線に自室のドアを開ける。

そこは、天国だった。

出かける前に私が設定しておいたエアコンが、静かな運転音と共に、キンと冷えた空気を部屋に満たしてくれている。

私は、ドアを閉めた瞬間にその場にへたり込み、フローリングの冷たさに頬を寄せた。

 

「あ゛ーーーーー⋯生き返る⋯⋯っ」

 

しかし、肌の表面は冷えていくのに、身体の芯には、アスファルトの照り返しで焼かれたような熱が、まだずっしりと居座っている。

そのちぐはぐな感覚が気持ち悪い。

ぐったりと床に伸びる私を、部屋の隅から、涼しい顔をした美しい人外がじっと見つめている。

 

「⋯⋯こうなったら、内側から冷やすしかない」

 

私は最後の気力を振り絞って立ち上がると、キッチンへと向かった。

そして、冷凍庫という名の聖域から、私の命の源を取り出す。

お気に入りの箱アイス。シンプルなソーダ味のアイスキャンディーだ。

 

「ふふふ⋯私のオアシス⋯」

 

再び自室の涼しい床に座り込み、私は神聖な儀式のように、アイスの袋を丁寧に開ける。

しゃりっ、と一口かじる。

口の中に広がる、突き抜けるような冷たさと、懐かしいソーダの甘さ。身体の芯に残っていた熱が、すーっと引いていくのが分かる。

 

「んー、最高⋯」

 

あまりの美味しさに、思わず恍惚とした声が漏れる。

その至福の表情を、私の隣にいつの間にか移動してきていた女が、興味津々な瞳でじっと見つめていた。

 

次の瞬間、女が私の口元を指さした。

「みこ、ついてる」

「え、どこ?」

私が舌で唇を探ろうとするより早く、女が身を乗り出し、その口元についたアイスの青い雫を、ぺろり、と悪びれもなく舐めとってしまう。

 

「ちょっ! あんたねぇ!」

私が怒りの声を上げると、女は「おいしい」とでも言うように、満足げに目を細めた。そして、純真無垢な瞳で、私のアイスをじっと見つめてくる。

「一口ちょうだい」

「ダメ。これは、この地獄から私を救うための、貴重な一本なんだから」

 

私がキッパリと断ると、女は不満そうに唇を尖らせた。

しかし、それで諦めるような殊勝な女ではない。

私とこの食いしん坊な人外との、馬鹿馬鹿しくて、そして少しだけ甘い攻防戦の火蓋が、切って落とされた。

 

私がアイスをかじるたびに、そのアイスの棒の先端を、反対側から舐めようとしてきたり。

私が油断した隙に、その手から奪い取ろうとしてきたり。

その子供っぽすぎるちょっかいに、私はすっかり呆れてしまった。

 

「やめなさいってば!」「もう、しつこい!」

 

怒りながらも、そのあまりにも馬鹿馬鹿しい攻防に、私はいつの間にか笑ってしまっている自分に気づく。

すっかり手懐けたつもりだったけど、こういうところは全然変わらないんだから。

 

やがて、私は名残惜しそうに、最後の一口をしゃりりと食べた。

あぁ、終わってしまった。私のささやかな幸せが⋯。

そう感傷に浸っていた、その時だった。

 

女が、すっ、と私の目の前に何かを差し出した。

それは、どこからともなく取り出された、まだ誰も開けていない、新品の同じ箱アイスだった。

 

そして、女は真剣な顔で、とんでもない提案をする。

「ねぇ、みこ。もっと涼しくなる、美味しい食べ方、知りたくない?」

「は? 何言ってるの?」

私が訝しむと、女はにっこりと、悪魔のように微笑んだ。

 

「ただ食べるだけじゃ、身体の奥の熱は取れないよ」

女は、私の肌にそっと触れる。エアコンの風で冷たい肌と、その奥に残る火照りを確かめるように。

「私が、みこの火照った身体も、この冷たいアイスも、全部使って、本当に気持ちよく涼しくしてあげる」

 

その言葉に含まれた、甘くて、不穏な響き。

私はこれから始まる、とんでもない「デザートタイム」を予感し、ごくりと喉を鳴らした。

 

女は、有無を言わさず、私をベッドの上にそっと押し倒した。

エアコンの冷たい風が、まだ火照りの残る肌を撫でていく。

女は、慣れた手つきで新しいアイスの袋を開けると、その冷たいアイスキャンディーを、私の鎖骨から胸の谷間にかけて、すーっと、一本の線を描くように滑らせた。

 

「ひゃっ!つめたっ⋯!」

 

肌に走る、鋭い冷たさの軌跡。

その刺激に、私の身体が大きく跳ねる。

「ほら、冷たくて気持ちいいでしょ?」

女は楽しそうに言うと、今度は、その冷たい軌跡を、自分の熱い舌で、ゆっくりと追いかけるように舐めとっていった。

冷たい感覚があったはずの場所を、今度は熱い舌が這う。

その、極端な温度差による時間差攻撃に、私の脳は混乱し、ただただ快感だけが浮き彫りになっていく。

 

「んぅ⋯っ、ぁ⋯」

 

女は、この遊びがすっかり気に入ったらしい。

今度は、太腿の内側に、すーっと冷たい線を描く。そして、私がびくりと震えるのを確認すると、また、その跡を熱い舌で丁寧にたどっていく。

その度に、私の身体は甘い痺れに包まれた。

 

「ふふ、可愛い反応。でも、これだけじゃ、本当に涼しくはなれないよね」

 

この甘美な戯れを数回繰り返した後、女は、おもむろにアイスを一口、しゃり、と音を立ててかじった。

そして、小さな氷のかけらを、自分の口の中に含む。

その、冷たさを宿したままの唇が、私の顔にゆっくりと近づいてきた。

そして、こう囁く。

 

「本当の涼しさは、こっちだよ」

 

女は、その氷のかけらを、私に口移しで与えてきた。

「んむっ⋯!」

唇と舌が触れ合う瞬間の、私の熱さと、女の唇の熱さ、そして、氷の鋭い冷たさ。

三つの温度が混じり合い、脳がショートするような、強烈な感覚が私を襲った。

口の中に広がる、ソーダの甘さと、女の舌の感触。

その背徳的な味に、私の思考は完全に麻痺していく。

 

女は、口の中の氷が溶けてしまう前に、それを自分の舌で転がしながら、今度は私の唇や首筋を、その「氷の舌」で舐め始めた。

いつもとは違う、ぞくっとするほど冷たい舌の感触。

その冷たさが、私の火照った肌の上で、熱い痕跡を残していく。

 

「あ⋯ひゃ、ぁ⋯つめた⋯っ」

 

女は、満足げに私の反応を眺めると、また一つ、氷のかけらを口に含んだ。

そして、その冷たい舌を、今度は私の胸元へと這わせていく。

胸の頂点に、冷たい舌が触れた瞬間、私は甲高い声を上げてしまった。

 

「あああんっ!」

 

熱くて敏感な場所に、氷の冷たさが直接触れる。

その経験したことのない刺激に、私の身体はもう、なすすべもなかった。

夏の暑さも、気怠さも、全てがどうでもよくなっていく。

ただこの女が与える、冷たくて熱い不思議な快感だけが、私の全てだった。

 

エアコンの静かな運転音だけが響く部屋で、私とこの人外との、甘くて冷たい遊びは、アイスが全て溶けてなくなるまで、まだまだ続いていくのだろう。

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