朝の洗面台。鏡の前で歯を磨くいつもの習慣も、今では全く違う意味合いを持つようになってしまった。
しゃこ、しゃこ、と歯ブラシを動かしながら、昨夜の出来事を反芻する。
(まさか、足だけであんなに…)
思い出して、頬がカッと熱くなる。私の身体は、この女のせいでどうなってしまうのだろう。もう、普通の女の子には戻れないんじゃないか。そんな不安が胸をよぎる。
そんな私の気も知らず、背後の女は実にご機嫌だった。私の肩に顎を乗せ、体重を預けてくる。パジャマのズボンの上から、両手で私のお尻をむにむにと揉みしだいていた。
「……っ!」
あまりの無遠慮さに、私は恨みを込めて横目に女を睨みつけた。
しかし、その試みはすぐに失敗に終わる。
至近距離で捉えた女の顔は、あまりにも完璧すぎた。光を宿す金色の瞳、陶器のように滑らかな肌、完璧な均衡を保つ顔の造形。神が作りたもうた、という表現すら陳腐に思えるほどの美貌に、私の心臓は不覚にもどきりと跳ねた。
睨んでいたはずの視線は、いつの間にか逸らされ、自分の顔が赤くなるのを感じる。全く、腹が立つ。
その日の放課後、事件は起こった。
帰り道、他の怪異が寄ってこないという一点において、この状況は私にとって一種の聖域と化していた。だが、その聖域は突如として破られた。
路地の角から、ぬるり、と黒いナニカが姿を現したのだ。
それは、いくつもの目がついた、不定形の塊のような怪異だった。女の気配を察して逃げ出すどころか、明確な敵意と食欲をぎらつかせ、私に向かってくる。
ひゅ、と喉が鳴った。身体が恐怖で竦む。
だが、その怪異が私に到達するよりも早く、隣の女が動いた。
億劫そうに、まるで邪魔な虫でも払うかのように、すっと腕を一振りする。ただ、それだけ。
次の瞬間、黒い怪異は悲鳴を上げる間もなく、霧のように掻き消えていた。あまりにもあっけない、絶対的な力の行使。私は、ただ呆然とそれを見ていることしかできなかった。
「……」
女は消え去った空間を無感動に見つめた後、ゆっくりとこちらを向いた。その金色の瞳には、どこか熱を帯びた光が宿っていた。そして、私の腕を強く掴むと、ぐいぐいと引っ張り始めた。
「ちょ、どこ行くの!?」
「ご褒美」
「は? ご褒美って、何…っ!」
女は私の抗議など意に介さず、私を連れて古びた鳥居が立つ、小さな神社の境内へと足を踏み入れた。
拝殿の、日に焼けてひんやりとした縁側に、乱暴に私を押し倒す。まだ白く高い日差しが、木々の隙間からきらきらと降り注いでいた。
「やめて、罰が当たる…!」
「私がいるから大丈夫」
何が大丈夫なのか。抗議しようとした私の口は、すぐに女の唇で塞がれた。抵抗する私を組み敷き、舌を強引にこじ開けてくる。神社の静寂を破るように、くちゅ、くちゅ、と卑猥な水音が響いた。
私のブラウスのボタンが、焦れたように引きちぎられる。はだけた胸元に、真昼の光と女の視線が突き刺さり、羞恥で全身が燃えるように熱くなった。
「んんっ…ふ、ぁ…!」
女の冷たい指が、素肌に直接触れる。鎖骨をなぞり、胸の谷間を滑り、そして柔らかい膨らみを鷲掴みにした。頂点を強く、繰り返し捏ねられ、私の腰がびくりと跳ねる。
女は私の反応を楽しむように、今度はそこに顔を埋め、熱い舌で舐め上げた。まだ明るい屋外で、神聖な場所で、こんな…。背徳感がスパイスとなり、快感はいつもより鋭く、深く身体を貫いた。
スカートが乱暴にめくり上げられ、下着越しに指が秘部をなぞる。
「いやっ…!だめ、そこは…!」
「ご褒美、まだ足りない」
女は私の下着の脇から指を滑り込ませ、濡れて熱くなった場所を直接探し当てた。ひんやりとした指先が、最も敏感な核を捉える。
「ああああッ!」
もう、声を取り繕う余裕はなかった。
木々のざわめきも、遠くで鳴く鳥の声も、全てが遠のいていく。私の世界には、この縁側の上で女に与えられる快楽しか存在しない。
女はさらに私を追い詰めるように、私の脚の間に顔を埋めた。薄い布越しに、熱く湿った舌がじわりと圧をかけてくる。
「ひッ…!あ、あ、ぁあああああーーーーっ!」
脳が焼き切れるような、強烈な快感が全身を駆け巡った。
神様への冒涜も、人に見られるかもしれない恐怖も、全てがどうでもよくなっていく。視界が白く点滅し、身体が痙攣し、私はそのまま意識の濁流へと飲み込まれていった。
―――気がつくと、私は自室の椅子に座って、ぼうっとしていた。
窓の外は、すっかり夕焼け色に染まっている。神社の境内から、どうやってここまで帰ってきたのか、記憶がすっぽりと抜け落ちていた。
ただ、身体の奥には、まだ生々しい熱が燻っている。
(……調子に乗らせると、やばいかもしれない)
この女の力は、私の想像を遥かに超えている。そして、その欲望には際限がない。
今日の一件で、私はその事実を骨身に染みて理解した。この奇妙な共生は、私が少しでも舵取りを間違えれば、取り返しのつかないことになる。
背筋を、冷たい汗が伝っていった。