しゃこ、しゃこ。
朝の洗面所、鏡の前で歯を磨く。以前と何ら変わらない日課のはずなのに、鏡に映る光景は全くの別物だ。私の背後には当たり前のように女がいて、その腕が腰に回されている。この異常な日常にも、私はすっかり慣れてしまった。
ふと、自分の顔をまじまじと見つめて、ある変化に気づく。
(なんだか、肌の艶が良くなってる…?)
気のせいかもしれない。でも、心なしか肌理が細かくなり、血色も良いように見える。それに、肌の感覚が以前よりずっと敏感になっている気がした。常に女に触れられているせいだろうか。
「……」
そんなことを考えている間も、背後の女は相も変わらず私の身体を好き勝手に弄っている。パジャマの上から胸を揉み、お腹を撫で、腰を抱く。一体、何がそんなに楽しいのか。
私はふと、歯ブラシを持っていない方の手で、自分の腰に回された女の手を取った。そして、その白く美しい手の甲を、そっと撫でてみた。
女の身体が、びくりと小さく震える。そして、私の肩に預けられた顎が、甘えるようにぐりぐりと押し付けられた。金色の瞳が嬉しそうに細められているのが、鏡越しに見て取れた。
(……もしかしたら、暴走させないためには、こういう歩み寄りも必要なのかも)
この人外の化け物を、少しでも手懐けることができるのなら。そう考えてしまう自分がいた。
その日、学校で新たな発見があった。
移動教室の準備をしている時、クラスの男子生徒に「次の教室、どこだっけ?」と話しかけられた。私が「えーっと、確か美術室だよ」と答えた、ただそれだけの瞬間。
背後から抱きしめる女の力が、ぐっ、と強くなった。それだけじゃない。スカートの中に忍び込んでいる指が、それまでとは明らかに違う、意地悪な動きを始めたのだ。
「―――っ!?」
太腿の内側を強く抓られ、そのまま敏感な場所へと這い上がってくる。男子生徒の顔を見ながら、私は必死に平静を装った。
「そっか、ありがと!」
「う、うん…」
何でもないように笑って去っていく彼の背中を見送りながら、私は唇を噛み締めていた。危うく、変な声が出るところだった。
どうやらこの女は、私が男性と目が合ったり、会話したりするだけで、セクハラをエスカレートさせるらしい。
(嫉妬、してるの…?)
だとしたら、あまりにも厄介すぎる。
そして、また夜が来た。
ベッドに横たわると、女は私の上に乗り、闇の中で妖しく輝く金色の瞳で私を見下ろした。
「今夜は、みこのぜんぶを味わうね」
その言葉通り、今夜の女はいつもと趣向が違った。指で弄るでもなく、唇を塞ぐでもなく、ただひたすらに、私の身体を舌で舐め始めたのだ。
まず、耳からだった。耳たぶを甘噛みし、軟骨の形をなぞり、そして熱い舌が耳の穴の中へとねじ込まれる。
「ひぁっ…!」
ぞわぞわとした快感が脳を直接揺さぶる。くすぐったいのに、気持ちいい。未知の感覚に身をよじると、女は楽しそうに喉を鳴らし、今度は首筋から肩、そして腕へと舌を這わせた。
脇の下に舌が触れた瞬間、びくりと全身が跳ね上がる。
「や、そこ…っ、だめ…!」
「どうして? こんなに感じてるのに」
女は私の弱いところを的確に見つけ出し、執拗に攻め立てる。
そして、おへそ。小さな窪みを舌先で何度もなぞられ、身体の奥が疼き始める。
足の指の間まで、一本一本丁寧に舐め上げられる頃には、私の思考はほとんど麻痺していた。
不思議なことに、女に舐められた場所は少しもベタつかない。唾液の感触はなく、ただ純粋な快楽の痕跡だけが、熱い痺れとなって肌に残る。
そして、ついに。
女の顔が、私の脚の間に埋められた。
「ぜんぶ、ぜんぶ、みこの味…」
恍惚とした声と共に、最後の聖域が舌によって暴かれる。
「あああああーーーーーッ!」
全身の神経が一本に繋がり、脳天を貫くような強烈な快感がほとばしった。指の先から髪の毛一本まで、私の全てが女の舌によって支配され、快楽に屈していく。
何度も、何度も絶頂の波が押し寄せ、その度に意識が遠のく。
ああ、今夜もまた、この人外の化け物に、私の全てを味わい尽くされてしまうのだ。
そんな諦めと共鳴するような快感の果てに、私の意識は静かに闇へと溶けていった。