グリムガルドの街の冒険者ギルドは酒場が併設されているため、飲み場としての側面もある。
依頼を終わらせた私たち冒険者たちはここで日々の疲れを吹き飛ばすようにドンチャン騒ぎ。
私たちも他の冒険者に混ざり、喧騒の中でとある話題に花を咲かせていた。
というより泣き叫んでいた、主に私が。
「ぢぐじょおおおおお!!」
「落ち着けよ……いやまあ気持ちは分かるけどよ……」
私の名前はエリア。
女ばかりのむさ苦しいパーティー百花繚乱の盗賊にして、男に捨てられ酒場で泣き叫ぶ哀れなピエロ。
ちなみに盗賊というのは斥候だったりダンジョンの宝箱、その他の罠を調べたりする職業のことだ。
犯罪者の盗賊とは区別される。
「私財のほとんどを貢いだんでしたっけ?」
「そこまでじゃない……7割くらい……」
「大差ないと思うんですが」
経緯はこうだ。
ここグリムガルドにはいくつか娼館がまとまっている場所が存在する。
歓楽街というやつだ。で、とある娼館にいる一人の男娼に私は嵌まった。
そりゃ貴重な男の人だし、私も期待せずほどほどに楽しもうという認識だった。怖がらせても嫌だし、というよりどれだけ面の皮が厚くても、向こうが嫌々相手してくれてるのは分かってたことだしね。そのおかげもあって最初は適切な距離を保っていたと思う。
だけど、初めてちょっとしたプレゼントを贈った時の喜びようを見た瞬間、心の中の渇きが満たされた気がしたのだ。
元々冒険者なんて男っ気のない職業なんてしている私だ。灰色の青春を送り、日々魔物との戦闘に明け暮れているせいで性欲も、異性への憧れも人一倍強い。
嬉しかったのだ。あんな風に笑ってくれるんだ、とか……もしもっといいものをあげたら今度はどんな表情を見せてくれるんだろうか、とか。なんならその先だって想像した。指輪のプレゼントで喜んでくれたら、ってさ、そしたら……ほら、ね?
妄想に舞い上がった私がそこから転げ落ちるのは一瞬だった。
最初は「私の恋人はダンジョンだけ」なんて気取った処女ムーヴからの「あれこの人もしかして私のこと好きなんじゃ?」という誰もが通る道を当たり前のように通って「プライベートで会えませんか?」と勇気を出して告白じみた言葉を口にした私を待っていたのは――
「『お店で待ってます♡』か、そりゃないよおおおおおおっ!!」
テーブルにジョッキを叩きつけた。
ビールの泡が隣にいた仲間に飛んでいく。
「男ぉぉ……う"ぉぉ……おどごぉぉ……」
私は咽び泣く。そして、ビールの追加をおかわりして、流し込む。
「お前この前まで「恋人なんてむしろ邪魔」って言ってなかったか?」
「そんなわけないでしょ!? ほしいよ恋人! おせっせもしたいしっ……なんだったらちょっとアブノーマルなプレイだって……っ!」
私だって数多の女の例に漏れず、脱処女を夢見る生娘だ。
お酒でリミッターが外れているのか、この日の私は、いつもより欲望に忠実な気がする。
「別にエリアがどんな異常性癖持っててもいいけど、他に迷惑かけるのだけはやめとけよ」
まあ今どき男娼でも性行為が出来るところは珍しいしね。
大抵は少額を払って話をする程度だ。勿論お金を持っている人はその先だって可能だけど、そこの線引きは私なりに分かっているつもりだ。無理強いはしない。
「大丈夫。ちょっと父親になって甘やかしてもらうだけだから」
「何も大丈夫じゃないんだが……」
え、そう?
お父さんになって甘やかしてもらうのってわりと普通寄りじゃない?
女が父性を求めるのって一般常識じゃないの?
「エリアはファザコンなんですか?」
「まあ、ファザコンって言うか真なるお父様を探してるだけというか」
「真なるお父様……?」
小首を傾げるパーティーメンバーたち。
どうやら理解は得られなかったらしい。
「別に変じゃないでしょ? パパのおっぱいやおちんぽをしゃぶりたいとか」
それから逞しい腕の中であやしてほしい。
たっぷり甘やかしてほしい年ごろなのである。
「いや……ちょっと特殊ですかね? ぶっちゃけ引きます」
「は、はああ!? そっちなんてドマゾでしょ!? そんな人に性癖どうこう言われたくないんですけど!?」
このちっこいケモミミのロリっ子……百花繚乱の魔法使いシンディが虐められることを妄想して毎晩自分を慰めているのを私は知っている。
なんなら落ちてた日記に王子様に攫われてちょっと意地悪されたいって書いてあったから。
具体的なプレイ内容は彼女のためにも伏せておくけど……。
「ちょ、やめてくださいこんなところで!」
「魔導の深淵が見たい……なーんて気取っちゃってさ! シンディが見たいのは別の深淵でしょうが!」
結構激しめなプレイが好きなくせに!
私知ってるんだからね!
「っ! ふ、振られたくせに!」
「あー!? 言っちゃ駄目なこと言った! 私傷ついてるんですけど!? 決闘! 決闘よ!」
「変態ばっかなのかこのパーティー……」
この後、決闘にも負け、やさぐれた私は、吐くまで飲み続けた。
魔法はズルいと思うの。