【完結】「ラッキースケベ?いいや、これは運命だった」〜転移してきたユウカと二人暮らし〜 作:春画屋@二次創作R18
エロの方は、マニアックなのが多いと思いますが、毎回何か一つくらいは入れていきたいなあと思っています。
「……うん、そう。キヴォトスって言っても、ブルーアーカイブのとは少し違うみたいなんだけど……。…………。うん、うん。分かった。母さんには——あ、中、入ってて」
僕は、スマホでの会話を中断して、ユウカに先に部屋に入るよう、うながした。
通話を終えて中に入ると、ユウカが玄関をうろうろしながら、部屋の中を見渡していた。
「ここ、住ませてもらっちゃって、いいの? 広いし、立派……」
「ついこないだまで兄さんが住んでたから、電気やガスも止めてないんだ。今すぐ生活できるよ」
うちの親が持っている、近所にある物件の一つだ。六つ上の兄はすでに仕事をしていて、こんな風にいくつかある部屋を渡り歩いている。ちょうどこの部屋が空いたばかりなのを覚えていたので、親に連絡してしばらく貸してもらうことになったのだ。
それにしても、いい部屋だと言われても何とも言えない気持ちになる。たまたま親が持っていて貸してくれるだけなんだから、僕の持ち物ではないし、少なくとも威張るところじゃない。
「でも、自分で言うのもなんだけど、私、怪しいわよ? 身分の証明だって出来ないわけだし」
「大丈夫だよ。平気、平気」
「ご両親にはちゃんと許可もらえたの? いくら使ってないとはいえ……」
「大丈夫だって。何しろ、僕の親だよ?」
「ああ、なるほ——」
言い終わる前に、はっとした顔でユウカが口を押さえて、視線をそらした。え? 何それ? 何で頭をぷるぷる振ってんの? 何を言いかけた?
「ちょっと待って。今、あっさり納得しかけた? 僕がどんなだから、親も同じで平気だと思ったの?」
「あ、あはは……。あなたってほら、えー……心が広いっていうか、大物っていうか、そんな感じじゃない? だから……」
「絶対、その理由じゃないよね」
ザルだとか適当だとか思われていた気がする。どうも先生と同じカテゴリーに分類されてたらしいけど、そういうところも理由だったんじゃないのか? あっちも大概だったし。
「おじいちゃんがよく言ってたんだよ。困った人がいたら見捨てちゃダメだって。篠原の家が比較的裕福なのは、そうやってやってきたからなんだって。こうやって不動産をいろいろ持ってるのも、助けた人が恩返ししてくれたようなものらしいし」
「他人に親切にすれば、めぐりめぐって自分のところに返ってくる、みたいな話?」
「そんな感じかなあ。だから、それをさらにお返しするくらいの気持ちで、次の人にも優しくしろって」
自分のものだって意識が薄いのは親もなんだろう。「相続しただけだから」といつも言っている。
「ふーん。何か、いいお話ね。じゃあ、あなたの家がおじいさんの言葉を守っているおかげで、私もここを使えるってことね」
「守ってるっていうか、身についちゃってるんだよね。うちの家族、そういう人を見ると助けるのが当たり前になってて、深く考えないんだ。もちろん、
「なら、私は「よっぽど」怪しくはないって思われてるってこと?」
「人を見る目に関しては、僕は一応信用されてるからね。それに、兄さんもブルーアーカイブをやっているから、少しだけ事情も話してある。何日かしたら来てくれるから、ユウカが住んでいたキヴォトスのこととか、それとブルーアーカイブの関係なんかも一緒に考えてくれるって」
なんて、ここでも家族頼りなんだけど。
「ありがとう。じゃあ、あなたのおかげね」
「僕のおかげ? 何が?」
「あなたが私を信用してくれて、あなたに信用があるから、あなたの家族も私を信用してくれる。あなたのおかげよ。人を信じるって、結構難しいことだもの。他の人はもちろんだけど、まずあなたに感謝しないと」
「そ、そう?」
他人の手を借りてばかりだな……と思っていたところにそんな事を言われると、お世辞かも知れないと思ってもやっぱり嬉しい。まあ、あんまり調子に乗りすぎないようにして——
「だから、その……さっきのは許してくれる? つい……」
つい? さっきの?
…………。
「一応聞いておくけど、僕がどんなだから、親も同じって聞いて安心したの?」
「結構、適当な人かなって……あっ、待って、悪かったわよ」
「多分、そんなところだと思ってたよ。まったく、失礼な……」
「何よ、それを言い出したのはあなたの方じゃない」
そんなふうに言い合いながらも、本気で怒っているわけではなく、僕たちは二人とも笑っていた。少しぐらい失礼なことでも、こんな風に冗談ってことで許してもらえる……そのぐらい遠慮なしにしゃべってもらえる方が、こっちも安心する。きっと僕とユウカの距離は、少しずつ縮まっているんだと思う。
「さて。じゃあ、着替えて買い物に行こう。たいていのものは揃ってるはずだけど、ユウカのものは買わないと。それに着替えとか……」
その時、僕は、あんなところに平気で連れて行かれるほど、信頼関係が深まっているなんて思いもしなかったのだった……。
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「いいのかな、僕はこんなところにいて。よくない気がする。ていうか、いづらい」
そんな僕のひとり言を、聞いているんだかいないんだか。僕を男だと思っていないから、気にせず選んでるのか。
「うーーーん……」
女性の下着売り場。多分、男が居づらい場所としてはトップクラスだと思う。そこにいる女性客、こっちにいる女性客、みんなが僕を見ている気がする。ここで僕に何をしろっていうんだ、ユウカは。
「ちょっと! ちゃんと一緒に見て、選んで!」
「そんなこと言われても……」
見てしまっていいんだろうか、と疑問に思いつつ、ユウカの見ている下着を僕も見る。ピンクの花柄のパンツ、フリルのついた水色のパンツ……可愛らしい下着がいくつも吊り下がっている。何となく、直視するのがためらわれる。えーと、ユウカに似合いそうな下着……
「そうだな……ユウカが好きなのって、白とか?」
「は⁉︎ な、な、な、何で⁉︎」
「何でって、最初に会った時に見えちゃったから……」
「忘れて! その記憶、どこかに捨ててきて!」
そんなこと言われても、あんな衝撃的な出会いを忘れられるだろうか。スカートの奥にのぞいた白の下着、そうそう、こんな感じ——って、わぁぁっ!
僕はうっかり似たような白のパンツを手に取ろうとしてしまって慌てた。いや、悪いことをしてるわけじゃないんだけどさ。
「て、ていうか、僕がここにいる必要ってある? 一緒に選べって言われても、何を基準に選べばいいのか」
「値段よ、値段! 私一人じゃ買えないし、お金を出してくれるのはあなたなんだから!」
「だから、お金なら出すから、一人で買ってきてって言ったじゃない」
「だって、予算ってものがあるでしょ⁉︎」
「ああ」
なるほど、予算ね。いきなり色気のない話になったけど、納得。しかし、女の子の下着って予算を気にする程高いものなんだろうか。今日は手持ちのお金が結構あるから(秋葉原に行く時はいつもそうしている)、好きなものを買っていいんだけど……と思って、その辺のやつの値段を見る——
「高っ!」
値札を見ると確かに、好きに買っていいよ、なんてのんびりしたことを言っていたら、とんでもない金額になりそうなものばかりだった。こんなの高校生のお小遣いで、可愛いやつがいい、なんてノリで気軽に買えないぞ。クラスの彼氏持ちの女子とかはどうしてるんだ?
とはいえ、じゃあセールで売ってる安いやつにしてよ、とは言えない。何だかんだ言っても、ユウカは女の子らしいところに気をつかう方っぽいし。というわけで、恥ずかしいとか言わずに真剣に探すことにした。出来るだけ、あんまり高くないやつ……。
「じゃあユウカの好きなのって、どんなの?」
「そっ、そうね……。例えば、黒の……」
「黒⁉︎」
「ちょっと! 声が大きいわよ!」
「だって!」
予想外の答えが返ってきたので、声を上げてしまった。黒? 黒……。流石にそんなのじゃないだろうと思いつつ、黒の大人っぽい、軽く透けている上下の下着をつけたユウカを想像してしまう。白い肌が強調されて……
「エッチすぎない?」
「は⁉︎ どんなのを想像したのよ! 普通のよ、普通の黒! ほら、こういうの!」
ユウカが手に取って見せたのは、なるほど黒ではあったが、色気はほぼなかった。実用的というか。
「私のスカート、黒だから、その方が目立たないでしょ? 最初にあなたに会った時だって……」
「ああ、あの時は白を履いていたから、ハッキリ見え——」
「もうっ! 何度もその話しないでよ! あー、もう、恥ずかしい……」
やっぱり恥ずかしいんじゃないか。僕もそろそろ、場所はもちろん、ユウカとこんな話をするのが恥ずかしくて死にそうなんだけど、解放してもらえないだろうか。——お?
ふと、手ごろそうな値段のが目に入った。これなら……
「これなんか、どう? 可愛いと思う」
「こ、これ? ……お、男の子って、こういうのが好きなの?」
本当にそうなのか確かめるように、僕を何度も見る。別に、男の子代表ではないから、僕に聞かれても困るんだけど。——ふわっとした感じの、ほとんど白に近いピンクのパンティ。大人っぽいかというと少し可愛すぎるかも知れないけど、子供っぽくはないし、十分おしゃれ。まあ個人的には、将来彼女が出来たらこういうのが似合う子がいいかも……と思う。
ユウカにも似合うんじゃないかな、と思って本人を見て、履いているところをちょっと想像——ダメだ。ちょっと想像しただけで、どんどんいやらしい妄想がふくらんでしまう。悶々として、ちょっと耐えられそうにない。
「他の色……あ、こっちにもあるのね。えっと……」
お気に召したんだろうか、僕が持っているのと何度も見比べながら、色とかサイズを調べているらしい。確実におしゃれ下着(というのか知らないけど)なので、実用性がどうとか怒られるかと思ったんだけど。
「これ、セットなのね。ふーん……」
「…………」
ユウカがブラを手に取ったのを見て、それが目に入らないよう、必死に横を向く。高校生がつけるようなブラなんて初めて見たし、そんなのを見ていたら、上半身まで——というか、ブラに包まれた胸のふくらみまで生々しく想像できてしまう。誰か助けて。
「ブラでしたら、採寸いたしましょうか〜?」
「え? ここでしてもらえるんですか?」
「はい。ちゃんと測った方が、フィット感も違いますし〜」
のんびりした口調の店員さんが声をかけてきたので、僕がいいよと言うと、ユウカは採寸に行ってしまった。ああいうのって店で測るものなのか。
「ふふっ」
——あの女の店員さん、僕の方を見て笑った気がするけど、何だろう……。
何にしても、解放された。あとは、出来るだけ「付き添いできただけですよ」という雰囲気を周りにアピールして……って、そんなの、どうやればいいんだ。
またもや、不審者だと思われていないか気になって、周りを見てしまう。あそこの女の人、こっちの——。……意外と、僕のことなんか見てないもんだな。向こうの方には、カップルもいる。意外といるものなのか……。
「かっ、彼氏⁉︎」
突然、ユウカの声が聞こえた。確かに、ユウカの声だ。
「ち、ち、ち、違います! 別に付き合ってるわけじゃ——! 違いますってば!」
な、何の話をしてるんだ……。どう考えても、僕とユウカが付き合ってると勘違いされてるみたいだけど。——あっ、さっき店員さんが笑ってたの、それか⁉︎ そうだよ。こんなところに男が一緒にいたら、兄弟か、そうじゃなければカップルで来たと思われるよ!
のっしのっし……という擬音は流石に失礼か? とにかく、あまり色気のない様子でユウカが帰ってきた。心なしか、不機嫌そうだ。
「……何かあの店員さんに聞かれたの?」
「いっ、いや、別に何も……何か聞こえた?」
「彼氏がどうとか」
「聞こえてるじゃない! ち、違うのよ? あくまでも、こういうところに一緒に来るんなら、ただの男友達じゃないんじゃないかって思われただけで、別にあなたと私がそう見えたってわけでは……」
ほら、やっぱり。普通はただの男友達なんか連れてこないんじゃないか……。
「とにかく、買ってきなよ。いくら?」
「えっと、これが¥3000、こっちが……」
黒、白、水色……いろんなブラがカゴから出てくる。って、だから見せないでくれ! つい、胸のサイズとか想像しちゃうから!
「じ、じろじろ見ちゃダメよ!」
見て欲しいのか、見て欲しくないのか、どっちだ!
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いろいろ生活用品を買い込み、夕飯の材料を買って、部屋に向かう。
「それにしても、分からなくなるもんだね。ヘイローも見えないし、帽子をかぶったら普通の日本人みたい。あとは、髪の色も……ヘアカラーでこれぐらいにしてる人もいるから大丈夫かな」
ユウカは、部屋に置きっぱなしだった僕のTシャツやズボンを履いている。髪は後ろにまとめて、帽子をかぶって外に出たのだが、ヘイローは透過してしまうので隠せない。のだが……
「ヘイローを消すのって、やっぱり疲れるの?」
「そうね。ずっとっていうわけにはいかないみたいだから、しばらくはあの部屋に住ませてもらって、あなた以外とは会わない方がいいみたい」
「こうやって外に出られるなら十分さ。ま、必要があればうちの親ぐらいには見せてもいいだろうし。うちの両親はその辺、柔軟だから」
「ヘイローを見えないようにするなんて、やったことも聞いたこともなかったし、慣れればずっと消せるのかも知れないけど……目の色の方はどう?」
「
先生が教えてくれたのが、ヘイローの消し方。ブルーアーカイブの設定にそんなのはないらしい(生徒がキヴォトスの外に行くことなんかありえないんだから、当たり前かも知れない)から、こことキヴォトスと両方の知識がある先生しか知らないことなんだろう。
とにかく、ユウカがここで暮らしていく上で一番の障害になるのは見た目なので、ヘイローが隠せて目の色も変えられるなら、あとは髪型と服装は何とでもなる。ブルーアーカイブのプレイヤーでも、ちょっと見ただけでは『ユウカ』だと分からないだろう。それより、現実にブルアカのキャラがいると思っている自分を疑うはずだ。
こっちの常識や社会制度なんかは、「何となく」分かるらしい。キヴォトスの雰囲気は結構日本と似ているから、プレイヤーがブルーアーカイブをやっていて「何となく」想像がつくのと同じなのかも知れない。とにかく、生活の上では問題なさそうだ。
「買い物なんかも普通に出来るみたいだし、これなら最悪、ずっとここで暮らせそうだよね」
「そういうわけにはいかないわよ。あなたにも悪いし、早く帰らないとセミナーの仕事だってたまってるだろうし……。ノア、大事なやつは代わりにやってくれてるかしら」
「心配してるの、そこなの? 真面目だなあ」
「そりゃあ、私は……——」
ブルーアーカイブでは、各学園自治区ごとにそこの地域の学校の生徒会が政治をしている……と聞いた。ミレニアムサイエンススクールの生徒会の名前が「セミナー」であり、ユウカはそこの会計だ。つまり、もう社会人みたいなものなのかも知れない。だとしたら、僕には分からない、仕事に対する意識の高さなんだろうか。ユウカは、なおもしゃべり続けている。
「——……なのよ。そんなわけで、会計の仕事だけでもいつも手一杯なの。だけど、ゲーム開発部は世話がやけるし放っておけないものね。他にもミレニアムは問題児だらけだし、私がいなくてみんな困ってるはずよ。だから、早く帰らないと」
「……そうなんだ」
そうなんだろうか? ユウカは、どこまでが
ブルーアーカイブには、連邦生徒会のようにトップが一人いなくなっただけで機能しなくなるような組織も出てくる。そういう組織はキヴォトスでは普通なんだろうか? こういう言い方はしたくないけど、ユウカの代わりだって、他の誰かでも務まるんじゃないのか——
「——……で、その時なんか、おかしくって。ノアと一緒にエンジニア部のところに……あ、ノアって知ってる? セミナーの書記の子で……ねえ、聞いてる?」
「あ、うん。
「そうなのね。ふふっ、彼女……——」
——言わないままが正解かな。変な理屈で水を差してもしょうがない。
きっとユウカが有能で必要とされているのは確かなんだろう。それに、そんなこととは関係なく、こんないい子の帰りを周りの人が待っていないはずがない。何より、ユウカ本人にとってセミナーの仕事や周りの人たちが大切なのがよく分かる。きっと、それが一番大事なことだ。
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「えっと、レシピ……うん、これね。材料はこれで全部そろってるはず……。料理道具はあるのよね?」
「兄さん、自炊派だからね。一通りそろってるはずだよ」
僕とユウカは、台所をうろうろしながら、料理道具を探す。フライパン、鍋、包丁……。
「おかしいわね……ねえ、計量カップとかはどこ?」
「計量……? ああ、兄さん、いつも目分量だから」
「目分量……?」
ユウカが分かりやすく動揺した。
「あ、ユウカって、ちゃんと計らないと料理が出来ないタイプ?」
「そ、そんなことないわよ?」
「食事、コンビニとかで買ってきた方が良かったかな」
「ダメよ! たたでさえ金銭的に負担をかけてるんですもの。食費も何もかも、節約出来るところは節約しないと!」
立派は立派なんだけど、ユウカと結婚する人は大変そうだ。まあ、僕には縁がない話だけど。
「キッチンタイマーはあるのよね……うん、大丈夫。とにかく! 今日、いろいろお世話になった分、しっかりお礼するから、出来上がるまでゆっくり待ってて」
「はーい」
ありがたく、休ませてもらうことにした。
料理をしているユウカの後ろ姿を見ていると、不思議な気分だ。同い年の女の子と買い物に行って、一緒に帰ってきて、ご飯を作ってもらっている。しかもこんな可愛い子に。世話をするのは僕の方なんだけど、やっぱり役得なんだろう。
…………。
……なんかキョロキョロしてるし、たまに首をひねってるし、大丈夫なのかな。作ってもらえるのはありがたいんだけど、手伝った方がいいのでは……? と思って申し出たのだが、断られてしまった。少なくとも、料理が得意なようには見えないんだけど。
時間はかかったものの夕飯が完成し、二人分を並べる。ご飯に、みそ汁に、ほうれん草のおひたしに、肉じゃが、卵焼き……。いたって立派なものだ。失礼ながら、予想よりしっかりしたものが出てきた。
「さ、どうぞ」
「うん」
「ど、どう? 美味しい?」
「うん、美味しい」
「本当?」
これは……。
「ど、どうしたの?」
「味がない」
「えっ」
味がしないのだ。まずいとかそういうのではなく、ないのだ。全然。そういう卵焼きなのか?
「塩とか入れた?」
「入れたわよ? ……そうね、もしかしたら、ちょっと少なかったかも……ひと口、いい?」
ユウカが僕の卵焼きを口に入れて……がっくりとテーブルに突っ伏した。落とした
「味がしない……。パサパサで、ものすごく食べにくいし……」
「これ、量とかじゃなくて、調味料をそもそも入れ忘れたんじゃ……。いや、そんな落ち込むほどじゃないって。他はちゃんと美味しかったし」
「そ、そうよね?」
良かった、フォロー出来たらしい。いくらか立ち直った様子のユウカが、ほかの料理をつぎつぎと味見していき……どんどん微妙な表情になっていく。思ったほどの出来ではなかったらしい。下手に美味しいとか言わなければ良かった。
「そんなに無理しなくても良かったのに。慣れてなさそうだな、とは思ったし」
「だって、お世話されっぱなしって苦手なんだもの。お世話してあげる方が得意だし、そっちの方が好きなの」
「……ああ、それは何となく分かる」
誰かに何かしてあげるのも、頼られるのも嬉しい。だけど——
味のしない卵焼きをほおばる。
「ちょっと、それ、失敗作よ⁉︎」
「ん、別にまずいとかじゃないんだ。ちょっと食べにくいけど。いや、美味しいな。ユウカが頑張って作ってくれたと思ったら、美味しいような気がしてきた」
「そんなわけないでしょ! もう。そんなに無理してまで食べてくれなくてもいいのに」
「無理して、はお互い様でしょ。僕もユウカに頼られると嬉しいけど、家族や先生がいなきゃ何にも出来ない。受け入れて、感謝するしかないんだけど、ちょっと悔しいよね」
「……うん、そうなのよね」
ユウカが照れくさそうに笑って僕を見た。僕がそう思ったのと同じように、背伸びをしてもなかなか思うようにはならなくて、もどかしい思いをしている——そんな仲間を見つけた気分なんだろう。
「じゃあ、私も!」
「えっ……ユウカは食べなくていいんだよ⁉︎」
「だって、食べられるんでしょう? あなたが食べてるのに、私が食べないわけにいかないじゃない。それに、もったいないでしょう?」
「そりゃ……まあ」
「ほらほら、二人で一緒に食べましょう。あ、つらかったら遠慮なく言ってね? 私が食べてあげる」
「それこそ、そこまでする意味ある?」
結局、そのままユウカに押し切られてしまった。言ってることはメチャクチャなのに、妙に迫力があるんだよな、この子。逆らえないというか。
「ふふっ、何だか不思議」
「何が?」
「本当なら、キヴォトスに帰れるかどうかも分からなくて、不安でいっぱいのはずなのに、あなたと一緒にいると楽しくって。仲のいい友達と、ちょっとした旅行に来てる気分」
「ああ、そうだね。僕もそんな感じ」
何かしてあげるとか、してもらうとか、そういうのはもう頭の中にない。ただ、彼女と一緒にここにいることが楽しい。嬉しい。
「ね、私たち、これから上手くやっていけそうじゃない?」
「ちょうど僕もそう思ってた」
いつまで続くか分からないけど、こういう時間を大切にしていこう。僕はそう思った。
料理の腕前については諸説(体操服ユウカの絆とかASMRとかゲーム開発部とか…)ありますが、まあ正確に計れなかったら何かやらかすと思います。
単に「けっ、計算通りのはずなのに…」と悶えながら料理をするユウカが好きというのもあります。個人的な趣味で。
ヘイローの消し方とか、「この作品中の先生」とか「こっちの世界」に関係する話は全くの独自設定が多いです。あくまでこの作品限定の設定なので、ご注意を。