【完結】「ラッキースケベ?いいや、これは運命だった」〜転移してきたユウカと二人暮らし〜 作:春画屋@二次創作R18
予定ではあと最終回・エピローグを投稿して次回で終わり…だったのですが、もう一話、無難な回をはさもうと思います。
「……来ました。先生からです!」
あれから数日が過ぎ……ちょうど兄さんが居合わせた時に、先生のモモトークを受け取ることが出来た。そして僕たちは、事前に質問をまとめたものも送ることが出来た。
先生は何者なのか? 先生とキヴォトス、あるいはブルーアーカイブはどんな関係なのか? そもそもキヴォトスとはどんな場所なのか——? 参考として、兄さんとユウカの考えも送ったところ、それの解答が得られた。
『お兄さんは頭のいい人だね。私はブルーアーカイブというゲームを直接は知らないけど、それを「神話」ととらえるのは十分解釈の一つとして成り立つと思う』
『その解釈で言えば、私は神話の語り手であり、聖地の番人であり、守護者でもある——そんな風にとらえてもらっていい。あるいは、私は男だけど、巫女さんでもいいかも知れない。私は「キヴォトスの外」で、そのような役目を負った一族に生まれ、しかるべき年齢になってキヴォトスに来た』
先生の話を聞く限り、ユウカのいたキヴォトスはそれこそ神話の舞台であり、それをオリジナルとして、架空の学園都市キヴォトスを舞台にしたストーリーをゲームの形に仕立てたのが、ブルーアーカイブというゲームに思える。神話の語り手が一人ではないように、インスピレーション等の形でキヴォトスを知った人間が開発スタッフの中にいるのかも知れない。個人的に興味があったので出来ればもう少し聞きたかったけど、今はユウカのことだ。
『「キヴォトスの外」にいた頃の私は、キヴォトスに来てからの私と「イコール」であり、「ノットイコール」でもある。そんな存在だ。分かりにくい表現で申し訳ないけど』
『神、あるいはそれに準ずる天使のような存在が人間界に存在するためには、
『神話というとらえ方をするならその理解でいいと思う。あるいは、かなり強引な解釈だけど、一度存在をリセットするという意味では転生に近いかも知れない』
こんな風に、先生の説明に何度か兄さんの質問をはさむ形で、多くの謎が明かされていった。
キヴォトスとは、この日本から限りなく近くにあり、同時に限りなく遠くにある場所。そういう概念的な説明でしか表現できない場所だ。物理的移動手段は意味を持たない。そもそも正確に言えば「移動」という表現は適切ではないという。
「キヴォトス」と「キヴォトスの外」、それぞれの世界の
『ユウカの問題はまさしくそこにある。彼女はヘイローを備えたキヴォトスでの姿のまま、完全に「イコール」のままでそちらに転移してしまったということだ』
先生の説明から一つの結論が導き出される。——ユウカがここに居続けることは出来ない。
キヴォトスが世界の神話に出てくるような
男子生徒も、普通の人型の大人もいない、学園都市。アビドス砂漠や、ゲヘナの火山、レッドウインターの雪原、それらが一緒に存在する、めちゃくちゃな地理。当たり前のように生徒に備わる角や翼。そんな風にブルーアーカイブで語られるキヴォトスが本当に実在するなら、そこはこことは全く違う法則で動く世界でなければならない。
ユウカが持つヘイローは、その世界の住人である証。それを備えたまま、「転生」ではなく「転移」で来てしまったユウカは、どうやっても異物であり、この世界の住人にはなれない。その事が確定してしまった。
半ば予想していたことだ。それでも、顔には出さないようにしているみたいだけど、ユウカはかなりショックを受けているようだった。
『それから、ユウカが転移してしまった原因が分かったよ』
「…………!」
僕たち三人に緊張が走った。ユウカが、『それは一体、何だったんですか?』と打つ。そして先生の返事は——
『あんまり怒らないであげてね』
『彼女たちも悪気はない……ないのが問題だけど……ユウカもそこはよく知ってると思うけど……』
『ほら、ミレニアムって自由な子が多いじゃない? いろんな意味で。そこがいいところっていうか、ユウカが苦労してるのは知ってるんだけど……』
「…………」
先生が長々と言い訳をしているのを見れば、流石に僕でも分かる。ミレニアムの問題児集団。無駄に高い技術力。ほとんどノリで動いちゃう行動力。基本的に悪気はない。そんな部活が存在する。
「エンジニア部かな……」
「エンジニア部でしょうね……」
「エンジニア部だろうな……」
僕たち三人の意見が一致する。そりゃ、するよね。
『エンジニア部なんだけどね』
案の定だった。
ユウカが、「あ〜の〜人たちはっ、本っ当にもう……」と頭を抱える。僕も同じ気持ちだよ。何してるんだよ。
なんでも、「超次元波動収束砲」とかいう兵器を作ったそうなのだが、それの試射で本当に(本当にって何だ……)次元の壁を撃ち抜いてしまい、ユウカはそれに巻き込まれてしまったのだそうだ。
『今度、こんな事件を起こしたら廃部にすると伝えておいてください。大体、何でそんな物騒なもの作ったんですか』
『「次元を貫く」ってフレーズはロマンだよね、ってことで』
『またそういう、カッコいいから作った、みたいな……』
『アリスにそういうのを作ってくれって頼まれたって』
「アリスちゃん?」とユウカがつぶやき、むむむ……と、うなった後、何とも言いがたい表情で、『アリスちゃんも反省してますよね?』と打ってから、続けて、
『まあ……部費を半分にするぐらいで許してあげます』
本当にアリスに甘いな、この子。まあ、エンジニア部のことだって実際に廃部に追い込んだかっていうと怪しいけど。何だかんだユウカは甘いし、被害にあったのが自分だけなら、とか言いそうだし。
『まあまあ。今ヴェリタスと協力してユウカが戻って来られるよう、頑張ってくれているのはエンジニア部のみんなだし』
『それに、ノアや他のみんなにも散々怒られてるから』
ノア? とユウカがつぶやく。
『ユウカがいなくなってから、ノアがずっと泣いてて大変でね。原因が分かった時には激怒してエンジニア部に一人で乗り込んで行ったぐらいなんだ。絶対に何とかしてもらうって』
「ノアが、そんなに……?」
『そちらの座標の特定や現象の再現、そういう技術の提供を率先してヴェリタスやエンジニア部に頼んでいるのはノアだよ。もちろん、みんな進んで協力してくれてるし、ユウカの心配もしているけど』
『ユウカが帰ってくるための準備は、ほとんど整っている。ノアも、リオも、コユキも、ゲーム開発部のみんなも、ヴェリタスのみんなも、もちろんエンジニア部のみんなも、ユウカを待ってるよ。帰っておいで、ユウカ』
「みんな……」
ユウカの目にうっすら涙が浮かんだように見えた。先生の口(というかメッセージだけど)から聞く、故郷のみんなの名前。それがユウカに元いた懐かしい場所を思い出させたのかも知れない。
『私、いつそちらに帰れるんでしょうか?』
『早ければ、明日にでも』
「明日⁉︎」
さすがに早すぎる! ユウカは今でも、ここを離れてキヴォトスに帰ることを割り切れずにいる。帰る日が決まるまでには納得させようと思っていたんだけど……いや、早いのはいいことなんだ。可能なら、今すぐにでも帰った方がいい。
ユウカの顔を見る。
「…………」
彼女は、どうすればいいのか分からないといった表情で、答えを求めてすがるような目で僕を見ていた。まさか帰れないなんて言わないよな? 先生から聞いて、よく分かったはずだ。ユウカがいるべき場所はキヴォトスだ。ここじゃないんだ。
「ユウカ、キヴォトスに帰れるんだよ!」
「そ、そう、なんだけど……」
「迷うことなんかないだろう? ほら、返事打ちなよ」
「でも……。あの、私……」
ユウカがはっきりしないでいる内に、先生からのメッセージが来た。
『みんな、ユウカが早く帰って来られるなら、徹夜でも何でもして準備するって言ってる。あんまり無理はして欲しくないんだけど、今回はユウカのためだし』
「ほら、ユウカ」
「ま、待って、マモルくん。私……」
さらに先生からのメッセージ。
『もしかして、まだこちらに帰ってきたくない理由、何かあるの?』
「先生……」
それをじっと見ていた兄さんがユウカに、「ユウカちゃん、ちょっといい?」と声をかけた。返事をしたユウカに、
「ユウカちゃん、うちが出してた生活費、返したいって言ってたでしょ?」
「はい」
「実は今、俺の仕事に手が足りてなくてね。何日か帰るのを遅らせて、その間手伝ってもらえれば、その報酬を返す方に当てる形で俺が払ってもいい——」
「こんな時に何言ってるんだ⁉︎」
兄さんが言い終わる前に、僕が叫んでいた。
「ユウカは明日帰るの! 早いに越したことはないし、これを逃したら何があるか分からないだろ! お金がどうとかだって、まだこっちにいられるんならともかく、こんな風に帰れるって決まってから言うなんて!」
その時、ユウカが何かつぶやいた。後から思い返せば、こう言ったんだと思う。「
「お兄さん、やらせて下さい!」
「ちょっと、ユウカまで! ダメだったら!」
「絶対に明日じゃなきゃダメかなんて、先生に聞いてみなきゃ分からないでしょう⁉︎ それに、マモルくんには散々お金を返したいって話はしたじゃない! 私の気持ちは無視⁉︎」
「ぐっ、いや、それは……」
確かに、どっちを優先するかはユウカの問題であって、僕が決める問題じゃない。でも、だからって……。
「それとも何? そんなに早く私に帰って欲しいわけ?」
「いや、そういうわけでは……」
「それに、言ってたじゃない。私と一緒に働きたいって。良かったわね、夢がかなうわよ♪」
……一緒に働きたい? そんなこと、言ったか? 何の話……あっ、あれか!
「ちょっと待てーっ! それは、僕もミレニアムに行って何か部活に入るならセミナーに、みたいな話をした時のだろ? この話とは全く関係ない——」
「おーい、マモル。言っておくけど、そもそもお前も働くのは決まってるんだぞ?」
「へ? 何で?」
「だって、ユウカちゃんのあの生活費、お前と二人で使ってたんだろ? だったら、半分はお前が返さなきゃいけないに決まってるじゃないか」
「そうよ。それにあなた、何だかお金のことを軽く見てない? この際だから、あなたもお金の大事さを勉強するといいわ。私がしっかり完璧に教えてあげるわよ〜♪」
「そうだなあ、俺もそろそろ社会勉強させた方がいいと思ってたところだし」
「えっ、えっ、何この流れ」
おかしい、何で僕が責められてるみたいになってるんだ。問題がすりかえられてるような……。
「どうなんだ?」
「どうなの⁉︎」
結局、僕は二人の迫力に押し切られてしまった。何なんだよ、これ!
「先生とは話がついたよ。仕事が終わる日の、次の日に帰ることになった」
こちらの事情の説明や、今後の予定、スケジュールなどは、兄さんが先生と直接やり取りをした。兄さんがユウカにスマホを返すと、ありがとうございます、と丁寧にお礼を言って、ユウカは先生にメッセージを打ち始めた。大人二人の話し合いは、特に問題なく、うまくまとまったらしい。まあ、そうだろう。先生は前回にはユウカが帰るのを
「全く、あんなに嬉しそうにして……。大体、こっちに残りたいなら自分の口からはっきり言えばいいんだ」
「そりゃ、正論だけどな。あれだけ喜んでるんだし、少しぐらいいいだろ?」
もう、僕にだって分かる。兄さんは、ユウカにまだ帰りたくない理由があるのに気付いて、助け舟を出しただけだ。確かにユウカは生活費の分を返したがっていたけど、別にそれを回収するために引きとめたんじゃない。兄さんの仕事を手伝うっていうのだって、ユウカがこちらにいるための名目程度にやらせるだけだろう。
「それより、俺たちに出来るのはここまでだ。お前たちの間に何かあるなら、お前たちが解決するしかないんだぞ」
「分かってるよ。その時間をくれて、感謝してる」
「なら、いいんだ」
兄さんが、軽く僕の背中を叩いた。
ユウカももう分かっているはずだ。多少、先延ばししたところで、いつかは帰らなきゃいけないことに変わりはない。納得させて、次こそちゃんと帰すんだ。
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大きなデスクトップパソコンに、ノートパソコンが二台、専用のタブレット端末が一つ。それらを部屋に運び込むだけでも重労働だった。その辺の床をケーブルが這い回り、机の上には積み重なる書類や、よく分からない部品など。そこはもう、完全に職場だった。……名目程度にやらせる仕事の準備じゃなくないか? これ。
「ヤバい、あの人ガチで仕事させる気だぞ」
「当たり前でしょう? ちゃんとお金をもらってやることなんだから」
「……そうだよねー。うん、仕事だもんねー」
当たり前らしい。あれー……? 甘く見てたの、僕だけー? そういえばユウカはセミナーの会計をやっているんだから、キヴォトスではもう社会人みたいなものだった。じゃあ、学生ノリなのって僕だけ? あれって、本気で説教してたってこと? えー……?
ともあれ、仕事漬けの日々が始まった。
「兄さん、ここの欄、何を書けばいいの?」
「ユウカちゃんに聞け」
「ユウカ〜、ここなんだけど……」
「こんなのも分からないの? まったく、世話が焼けるんだから……。じゃあ、教えてあげるから一緒にやりましょう。あと、表計算ソフト使える? それも後から教えてあげる」
「あ、余裕があったらPDFの編集のやり方も教えといて」
「そんなにいっぺんに覚えられません。あと、いい加減休憩させて下さい」
と、ずっとこんな感じだ。食事はコンビニで適当に買ってきたもの。洗濯や買い出しは、やることがない(というより出来ることが少ない)僕が担当。仕事があったら帰れないし、僕と兄さんは眠くなったらソファで仮眠。
あのユウカとの甘い日々はどこにいった? 仕事だって、一緒に、仲良く、楽しく、なんて感じじゃない。アルバイトするにしたって、僕は自分からは絶対にこんなブラックじみたところでは働かないぞ。
「くっそー。あの人、ユウカのためじゃなく、自分の仕事がキツいからこの仕事に誘っただけじゃないのか?」
「そんなわけないでしょう? それより手が止まってるわよ? もうちょっと頑張って」
「もうやだ。頑張れない。ユウカはもっと僕に優しくして」
「はぁっ……情けないことばっかり言って。じゃあ、エナジードリンクでも……あら、もうないわね」
「そんなの飲み慣れてるの、おかしいよ。エナジードリンクって体に悪いんだぞ」
「分かってるわよ。なのにミレニアムは、飲み過ぎはよくないって何度言ってもやめない困った人たちばっかりなのよね……はぁ。でも、やらなきゃいけないことがある時はしょうがないでしょ。買ってきてあげるから、それ飲んで終わらせちゃいましょう?」
「嫌だ……そんなの飲みたくないよぉ……」
ユウカが行ってしまった後、机に突っ伏した僕は、帰ってくるまで少しだけ休憩を取ろうと目をつぶった。ずっとこんな仕事ばかりしていて、ユウカはこれでいいんだろうか。……あの頃が懐かしい。ユウカが来たばかりの頃のように、二人でたわいもない話をしたり、一緒に買い物に行ったり、お菓子を食べたり……。最後なんだから、またそんな暮らしがしたい。僕だって、会えなくなるなんて嫌だ。本当は帰って欲しくない。だって僕は、ユウカが、好——……。…………。
——いつしか寝てしまったらしい。
「……——ちゃうじゃない、全く……。……——なら、ベッドに——……」
誰かの声が聞こえる。暖かい。何かかけてくれたんだろうか。
「——……けないんだから。優しいのは確かなんだけど、何でも安請け合いして、口ばっかりで。いざとなったら、何もできないんだもの。私が帰った後が心配だわ。はぁ……」
トン、トンと、寝ている僕の背中を優しくいたわってくれる。なのに、何でも安請け合いするとか、いざとなったら何もできないとか、酷いことばかり(全く反論は出来ないんだけど)言われているようなので、せめて文句を言ってやろうと起きようとした——のだけど。
「……でも、そんなあなたがいつも精一杯、頑張ってくれているのは分かってるから。私と一緒で、何もできない子供だって自覚はちゃんとあるのに、それを承知で無理してまで頑張ってくれる。私からは何もあげられなくて、我がままばっかり言ってるのに、いつも逃げずに受け止めてくれる。この仕事だって、本当は投げ出しちゃってもいいのに……」
「…………」
ユウカがそんな風に考えているなんて思っていなくて、起きられなかった。逃げようとしたこと……あっただろうか? 役立たずな自分がユウカの側にいるのは迷惑かも知れない、そんなことは思ったかも知れない。でもユウカと一緒にいたくて、離れようと思ったことなんてなかった。
「異性としてどう思うかより先に、あなたがどんな人なのかを考えなきゃいけなかったのよね。私のために一生懸命で、いつも私のことを考えてくれる、特別で大事な人。……何でこういう言い方が出来なかったのかしら。好きなのかどうか、そういう気持ちをはっきりさせる前に、まずそれを伝えなきゃいけなかったのに。もしかしたら、それが答えだったのかも知れないのにね」
「…………」
気持ちの整理もせずにあんなことをしようとして、大事なことを伝えなかったのは、僕も同じだ。僕にとってもユウカは、性別すら関係なく大事な人だったのに。
「あんな風に無理に迫ったりしなければ、あなたが罪悪感を持ったり、無理に自分の気持ちにブレーキをかけたりせずに済んだのに。いつか帰らなきゃいけないなんて、私が一番分かってなきゃいけなかった。なのに、あなたにあんなにつらそうな声で言わせちゃって……」
「…………」
あれはユウカだけの問題じゃない。僕も自分の気持ちを持て余していたから、一緒に間違えそうになっただけだ。つらかったのはユウカだって同じだ。僕たちは二人とも弱くて、すぐに間違えてしまって、それでも二人でここまで来たんだ。
ユウカは黙ったまま、僕の背中を優しく、トン、トン、と続けている。盗み聞きも良くないし、もう起きた方が——
「ねえ、マモルくん。……これ、聞いてないわよね?」
寝たふりをしていたのがバレたんだろうか。ほとんど全部聞いてしまったんだけど、しょうがない、起きて謝ろう。僕は身体を動かそうとした。
「……ユウ——」
「……ね、寝てるわよね。恥ずかしくて本人に言えずにいるのに、独り言で言ってて聞かれちゃったら、本当にバカみたいだし。ま、まあ、聞いてるとしても途中からよね、きっと。うん、確率的に言ってそうよ」
「…………」
起きるに起きられなくなった。バカみたいかどうかは知らないけど、全部聞いちゃったよ。確率的って何の確率だよ。何でこの子、基本的には有能なのに、たまにポンコツになるの。
「……大丈夫よね? マモルくーん、寝てる? 寝てるわよね?」
何で確認するんだ。逆に起きちゃうだろ。いっそ起こしてくれ。何も聞いてないから。聞いてないから。
「聞いてないわよねー?」
「だから、聞いてないって——」
「え?」
「あっ」
しまった、声に出してしまった。
「起きてたの⁉︎」
「寝てた! 今までぐっすり寝てた! 何も聞いてない!」
「聞いてたんじゃない! どこから聞いてたのよ!」
「えっ、えーと、安請け合いばっかりしてとか、ものすごい失礼なことを言ってたあたり」
「それ、ほとんど全部よ!」
わっ、とユウカが崩れ落ちた。泣きたいのはこっちだよ。そりゃ、聞いてるのに寝たふりしてたのは悪かったけど、最後のあれはどうすりゃ良かったのさ。
「……でも、本当はもっと早く言っておかなきゃいけなかったことよね。ごめんなさい」
「嬉しかったよ。あんな風に思ってくれてたなんて思わなかった。僕にとってもユウカは大事な人で、特別なんだ。もう、ただの人助けなんかじゃない。ユウカのために何でもしてあげたい。それでもうまくいかなくて……そんな情けないところまで含めて、大事な人だって言ってくれた」
ユウカが、ふふっと笑った。
「そんなの当たり前じゃない。私こそ優しくしてもらう理由なんて何もないのに、酷いことを言ったり、困らせてばっかりで、もういい加減、嫌われててもしょうがないって覚悟してたの。それにいつも、ちゃんと帰らなきゃダメだって怒られてるし」
「いや、それは……怒られてるように聞こえた?」
「ううん、嘘。あなたがいつも私のためを思って言ってるのは分かってるもの。ただ、たまには優しく「帰らないで欲しい」ぐらい言って欲しいなって」
「それが言えればさぁ……。でも、キヴォトスに帰るの、気持ちの整理はついたんだよね?」
「うん。あなた達のおかげよ。最低限の恩返しも出来るし、ちゃんとみんなのところへ帰れるわ。ミレニアムのみんなと、また会える」
ユウカは目をつぶった。ずっと会えずにいる人たちの顔を思い浮かべているのだろう、その顔は本当に嬉しそうだった。良かった。キヴォトスに帰ることの意味を思い出してくれたなら、ユウカはもう大丈夫だ。もう他のことに惑わされたりはしないだろう。
「でも……こんな事を言うと、またユウカや兄さんに怒られそうだけど、お金を返すって話、そんなに重要だった? そこまで気にしなくてもさ」
「流石にそれだけじゃないわよ。さらに長居をした上、もしかしたら帰れなくなっちゃうかも、なんて余計に迷惑をかけちゃうのは分かるもの。お兄さんがどういう意味で言ってるかは分かったから、それに甘えただけ。……本当の理由は、帰るまでにちゃんと言うわね。言わなくても、きっと分かってるだろうけど」
「そりゃ、大体分かるよ」
僕だってユウカとの生活は楽しかった。ユウカがその生活を続けたいという気持ちは分かる。正直、ここまでする程ここの生活が気に入ってたの? とは思ったけど。やっぱり兄さんに
「あ、あの、大事な相手だって、本当よね? 私のこと、特別って」
「もちろん。もしかしたら、女の子っていうより姉とか妹とかそんな目で見てるのかも知れない。でも、もし今彼女とかいても、それより大切なぐらいユウカは特別だよ」
「そんな、そこまで優先してくれなくてもいいわよ。私だって、ノアや、他のみんなだって大事だし……。でも、そうね。私にとっても、あなたって本当に特別で、大切で、つい他のことが見えなくなっちゃうぐらいで、もう理屈じゃないのよね。ね、これって、私たち両
「あー、両想いって言われれば、確かにそうか……」
言われてみれば、二人してかなり大胆なことを言っているような。「あなたのことが特別大事なの」「僕も君が誰より大事だよ」みたいな、そこだけ聞いたら愛の告白かっていう……。だんだん恥ずかしくなってきた。
ユウカが身体を寄せてくる。ち、近い……。深夜だから薄着だし、こんな風に身体が触れちゃうと……。ユウカは僕に寄りかかって、こてん、と頭を肩に乗せてきた。
「こうして近くにいると、安心するの。一人じゃないんだなって。私のことをものすごく大事にしてくれる人が側にいるんだなって。来てすぐに、添い寝して欲しいって無理に頼んだでしょう?」
「あー、あれね……」
そうだ、思い出した。あれは本当に逃げようかと思った。なのに、うちの親まで一緒になって逃げ道をふさぐんだもんなあ……。
「私、それこそほとんど知らない男の子にあんなこと頼んで、何かされても文句言えないって思ってたの。それとも、出てけって言われるかもって。でも、あなたは一緒にいてくれて、すごく安心して、ぐっすり眠れて。私、何だか感激しちゃって、この人と一緒にいれば、何も心配ないって」
そこまで言われちゃうとこそばゆいけど、それは分かる。次の日にお礼を言ってきたユウカがめちゃくちゃ可愛かったから。
「でも、大変だったんだよ? 寝てたら、案の定……あれって、覚えてるのかな。寝ぼけたユウカが抱きついてきて」
「あはは……や、やっぱり? 朝になって思い出してみたら、枕にしてはやけに大きいものに抱きついた気がしてたのよね……。ど、どこか触っちゃった? ごめんなさい」
「いや、そうなる前に脱出したからいいんだけど、顔が近すぎてキスしそうなぐらいになっちゃって、大変で。万が一にも僕が初めての相手じゃまずいでしょ? 多分、キスした事ないだろうと思って」
「ないわよ、そんなの。……マモルくんは? もししてたら、それが初めて? それとも……」
「したことあると思われてるの? 彼女だっていないのに」
「だって、学校には女の子もいるんでしょ?」
「身近に存在するだけで彼女が出来たら苦労ないんですけど」
まあ、クラブ活動をやってないせいで本当にクラスの女子ぐらいしか接点がない僕に関して言えば、だろうけど。
「キスね……キスしちゃってたら、流石にまずかったわよね……。そういうのは恋人とじゃないと……」
「でしょ? そう思って」
「そうよね……。まあ、もし恋人がいれば、その人と……それはそうよね……」
何を悩んでいるのか、ユウカはうんうんうなっている。
「でも、仮に今彼女がいたとしても、私の方が大事なのよね?」
「うん、そう言った」
「キスは彼女としかしないのよね?」
「まあ……多分……」
「何か、大事にされてても負けた気になりそうなのよね……」
何と戦い始めたの、この子。実際は彼女なんていないし、出来る予定もないんですけど。
「でっ、でもっ! お互い本当に相手を大事に想っていて、その人だけ特別、っていうぐらいの強い関係だったら、キスはダメでも、ほっぺにチューぐらいならいいんじゃない?」
「ほっぺた? ああ」
「そこまでじゃなくたって、仲が良かったら女の子同士でもするものね、そのぐらい。私たち、もうハグするのだって普通だもの。ま、まあ、ちょっとは恥ずかしい時もあるけど、それは、たまにだし」
「えっ、ちょっと待って、したいの? ほっぺに」
「く、唇にじゃなければ、ファーストキスとしてカウントしなくていいと思うし!」
「いや、それはそうだけど、していいならユウカとした——いやいや」
うっかり本音が出そうになった。まあ、いろんな事情がなければ、そもそもめちゃくちゃ可愛いんだし、ユウカが初めての相手がいい……
——と、
「もっ、もうっ!」
「え? あ、えっ? ……えっ?」
ちゅっ、と小さな音がしたと思ったら、
「ふふっ、しちゃった♡ マモルくんが悪いのよ? ちゃんと断らないんだから、これぐらい、いいってことよ、ね……? ………」
「…………」
いたずらっぽく笑っていたユウカの顔が、どんどん青くなる。
「ご、ごめんなさい! もしかして嫌だった? 私、両想いなんて言ってものすごく嬉しかったから、つい調子に乗っちゃって……ど、どうしよう」
「大丈夫。嬉しかったよ」
「そう? なら良かった……。う、嬉しかった? 本当に?」
ユウカは、えへへ……と
嫌なわけあるか? 嬉しいに決まってる。ユウカの唇が触れた部分をそっと手でおさえる。キス、されてしまった……ここに……。ユウカが自分から「好きだ」という愛情表現として僕に触れた。特別な相手にしかしないようなことを、恥ずかしいのにしてくれた。それに、女の子の唇ってこんなにも……。端正な顔立ちに似つかわしい、小さな愛らしいユウカの唇を見ると、今さらながらにドキドキする。
「?」
無邪気に喜ぶユウカを見ていたら、僕も欲が出てしまった。実際にされてみたら、確かに恋人じゃなくても——というか、僕とユウカの関係ならこれぐらいありな気がする。つい、「僕も……」と言ってしまった。ユウカが、え……? と驚いた顔をする。
「ご、ごめん! やっぱり、女の子がするのと男がするのじゃ違うよね!」
「そっ、そうじゃなくて! ……いいの? してくれる? 恥ずかしくない?」
「恥ずかしいけど……したい。してもいい?」
「う、ぅん……してくれたら、嬉し……ぃ」
消え入りそうな声で、それでもユウカははっきり言った。照れまくって、僕のことを見られなくなりながらも、頬を差し出してくれる。僕は緊張に少し震えながら、身体を近づける。目の前には整ったユウカの顔。もう見慣れてしまったけど、いつ見たって抜群に可愛い顔。その小さな顔の許された場所に——唇が触れる。
「ひぅっ!」
ユウカがビクッと震える。
「ど、どうしたの? やっぱり嫌だった?」
「な、何かくすぐったくって。それに、あなたにキスされちゃって……どうしよう、嬉しい——……は、恥ずかしぃ……恥ずかしい!」
ユウカは顔を両手で隠して、下を向いてしまった。本当に恥ずかしがり屋だな。その様子を見ていたら、こっちは少し落ち着いた。
「ユウカ」
「ちょ、ちょっと、見ないで。今、絶対変な顔してるもの。は、恥ずかしくて、見られたら死んじゃう……」
「ユウカ」
「だっ、ダメだって——ひゃうっ! 〜〜〜〜〜っ」
「ユウカ」
「やっ、やっ、ダメっ、な、名前を呼びながらとか、反則よ、ぁんっ」
くすぐったいのか、恥ずかしいのか、その両方か、ユウカが身体をくねらせるのも構わず、ちゅっ、ちゅっ、と頬に口づけする。ユウカは、あぁん、ぁあん、と声を上げながら僕の腕から逃れようとするけど、嫌がってはいない。僕とじゃれあうのを楽しんでいるのが、表情に現れてきた。ニコニコしながら、やん、もぅ、バカ、なんて言って形ばかりの抵抗をする。
僕はユウカの身体をしっかりつかむと、ぐいっと引き寄せた。そのまま、覆いかぶさるようにして抱きしめる。
「逃げちゃダメだよ〜、ユウカ」
「もっ、もうっ、ずるい。私だって……え、えいっ」
ユウカが僕の身体に回した腕で強く抱きしめて反撃するけど、ちゅっ、ちゅっ、と何度もついばむように頬に触れると、くにゃっとユウカの身体から力が抜けてしまう。
僕の身体はユウカの身体と当たり前のように接触していて、唇が肌に触れるのも、もう自然なことで、二人ともそれを相手が嫌がっていないのを分かっている。そんなユウカが
「ぁ、ダメよ、ほっぺたじゃないじゃない、んっ♡ そんな、ところ、キスされたら、んっ♡」
「恥ずかしい声が出ちゃう?」
「わ、分かってるんじゃない。意地悪……あっ♡ あっ♡ あっ♡ だ、ダメだったらぁ」
本能的に、ユウカが気持ち良くなって喜びそうなところを見つける。全身が性感帯になってそうな勢いだから、どこにキスしても同じかも知れないけど。
「うぅ……。ま、マモルくん、仲がいいだけの相手に、絶対こんなことしないでしょ」
「しないよ。ユウカだけ」
「それって、どういう事? 私をもっと別な存在だと思ってるってこと? 私以外の子に、こういう事をしたいと思わないってこと?」
「ん……と、両方かな」
「そうなのね? じゃあ、私だけよ? 私以外の子には、絶対こんなことしちゃダメなんだからね……」
そう言って僕を見上げるユウカの目は
ユウカは視線を少しさまよわせ、それから、すがるような目で僕を見た。何か、思い切って言おうとしても言えないことがありそうな、切なそうな顔。それが何なのか分かった気がして——多分、同じことを考えていた——、ユウカ、と名前を呼んで、そっと頬に手を置いた。
そして、ユウカの想いがあふれた。
「私、やっぱりあなたが好き……。大事にされるだけじゃ足りない。女の子の中で特別になりたい」
「僕もそう思ってた。……僕は、きっとずっと前からユウカが好きだった。その気持ちを抑えて、
「……うん。あなたへの気持ちと、帰ることはもう別。だから……帰るまでの間だけ、期間限定でいいから、あなたの彼女になりたい」
「そうしよう。何だか僕たち、言い訳してばっかりだけど」
「ふふっ、何度もつらい思いはしたもの。これぐらいいいじゃない」
二人で軽く笑って、それから見つめ合った。ユウカが軽く唇を突き出して……それから目を閉じた。無防備な、僕を信頼して、何をされても構わないといった姿。可愛らしいユウカ。僕のユウカ。僕だけのユウカ——
「——んっ」
「ちゅ、んっ……」
ユウカの唇を少し味わう程度で、すぐ離す。ユウカがゆっくりと目を開けて、満足げに、「キス……しちゃったわね……」と言った。「結局、ユウカのファーストキス、もらっちゃったね」「マモルくんだって。忘れないでよ? あなたのファーストキスの相手は、私なんだからね」。そう言ってから、どちらともなく顔を近付けて、もう一度キスした。今度は、お互いの唇の感触を確かめるように、じっくりと。
唇を重ねたまま、どこが正しいのか探るようにして動かす。舌を入れるとか聞いたことがあるけど、その勇気はなかった。代わりに、はむはむと軽く噛む。軽く離して目を開けて、相手を見つめ、また吸い付く。それを何度も繰り返す。
「ぷ、は……。や、やり方、これでいいのかな」
「わ、分かんないわよ。調べたことないし。マモルくんなら知ってると思ったのに」
「どうせ僕にキスの経験があったら、怒ったくせに」
「当たり前でしょ! だ、だって、好きなんだもの……」
すねるユウカがあまりにも可愛くて、またキスをする。やり方なんて分からなくていい。気持ちはちゃんと伝わっている。お互い、この人は自分のことが好きなんだと言わなくても分かっている。触れた場所から感じ取れる。
「好き……大好き……んっ♡ ちゅっ……」
「好きだよ、僕も好きだ……んっ……」
本当に、いつ好きになってしまったんだろう。添い寝した時の寝顔? 次の日にお礼を言われた時? それとも……もう出会った時には一目惚れしていたのかも知れない。多分その時からずっと、こうなるのを望んでいた。
「んっ♡ ちゅ、んっ、マモ、ルくん、私が帰るまで、大事にしてね。私だけ、特別……ん、ちゅっ♡」
「うん、まだ時間はあるんだから。んっ、ちゅっ……」
僕たちはその後も、飽きることなくキスを繰り返した。
ユウカが帰るのを遅らせた意味は、これだけでも十分すぎるほどあった。そう確信している。あとは、残された時間を充実したものにするだけだ。二人が離れ離れになった後も、楽しかった思い出として残るように。
これでほとんどの問題が解決し、最終回へ続く…予定だったのですが。
多分一番望まれてた(そんな気がする…)のに足りてなさそうな、イチャイチャ日常回を一回追加しようと思います。