※この作品はR-18です。

野良猫娘との交尾   作:産みの扉

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始まりの野良猫娘・4

 いつもの昼、一日は彼女と出会うことから始まると言っても過言ではなかった。

 足早に路地裏へと向かう。手にした袋には、彼女の好物である柔らかい小麦のパンに脂の滴る薄味の腸詰め、そして肉屋に無理を言って作ってもらった塩気のない干し肉が入っていた。

 彼女は妊娠してから、日に日に食欲が増していた。

 胸中には彼女の無事と期待、そして抑えきれない下心が渦巻いていた。

 

 路地裏と表通りの境目に、彼女の姿は見えない。

 姿を見せないことは度々あった。仔を身籠っている今は特に心配していたが、路地をしばらく進むと、視線の先に彼女の姿が浮かび、ほっと胸を撫でおろす。

 だが、彼女は耳を外側に倒してピンと張り、青い瞳に警戒と拒絶の色を滲ませてこちらをじっと見据えていた。その瞳を前に足は止まり、薄暗い路地裏の空気が張り詰めた。

 

 

 彼女の低い鳴き声が湿った空気を震わせ、足を地面に縫い付ける。突然の威嚇に困惑していると、より語気を強めた鳴き声が胸を鋭く突き刺す。彼女の鳴き声には敵意と攻撃の意志が込められ、その事実が心臓により深く食い込み、背筋に冷たい汗が滲んだ。

 

「ふしゃーーーーっ!!!」

 なおも動けないでいると、彼女は牙を剝き出し、今まで聞いたことのない引き裂くような鳴き声を叩きつける。

 明確な拒絶。敵対者に向ける容赦のない攻撃性に、抱いていた期待は塗りつぶされ、恐怖に身を震わせ思わず後退る。

 彼女は威嚇を続け、冷たく燃えるような目で睨みつる。一瞬たりとも警戒は解けず、身を屈め、飛び掛かるような姿勢を取った。

 このままここに居れば彼女に負担をかけるだろう。刺激しないようにそっと袋を置いて、来た道を静かに引き返す。背後で袋が引きずられる小さな音が響き、彼女が闇に消えていく気配を感じた。

 

 彼女の鋭い鳴き声が耳に残り、胸を裂き続ける。甘い日々を過ごし、番のように思っていた自分が虚しく感じられた。だが、それ以上に彼女が心配だった。ちゃんと食べてくれるだろうか。仔を無事に産めるだろうか。

 愛情とも欲望ともつかない執着が失意と不安に絡み合い、心は重く沈む。

 薄暗い路地に背を向け、重い足取りで帰路に就くのだった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 建物の隙間から覗く夜空に、まんまるのお月様が顔を覗かせる。

 きっと今夜だ。繰り返されるお腹の痛みが、本能にそう囁く。ソワソワ落ち着かない気持ちが、仔を産む不安と期待で揺れていた。

 

 昼間の出来事が頭をよぎる。あのヒトには悪いことしちゃったな。

 すごく驚いた顔。目を見開いて何が何だか分からないって表情。怖がってるのに悔しそうで、それでもわたしから目を離さなかった。

 いつもならその視線に胸が温まるのに、今日は違った。

 初めての感覚は一匹だと怖くて、不安で、あのヒトに抱きしめてほしいのに、心は一匹でいることを望んでいた。

 

 縄張りに置かれたままの袋が目に入る。パンの香りと肉詰めの脂の匂いが鼻をくすぐり、膨らんで重いお腹が空腹を訴える。

 怖がらせちゃったのに、あのヒトはいつもみたいに食べ物をくれた。今は食べたくない気分だけど、頑張ったらちゃんと食べよう。

 あのヒトの優しさが心を温め、不安がわずかに和らいだ。

 

 

 産まれてくる仔を想い、目を閉じて腹をそっと撫でる。

 柔らかい肌に指を這わせると小さな鼓動が伝わり、瞼の裏にこれまでの思い出を呼び起こす。

 

 

 気づいた時にはヒトと一緒に暮らしていた。食べ物をくれるヒトや、群れの親みたいなヒト。色んなヒトがいたけど、みんなわたしを優しく撫でてくれた。硬くてザラザラな手も、柔らかくてすべすべな手も、髪や耳に触れるたび、胸を温かくする。

 長い時間を棲家で過ごし、親みたいなヒトはいつしか帰ってこなくなった。

 ある日、知らないヒトがやって来て何か言うとみんなが騒ぎ始め、中には涙を流すヒトもいた。知らないヒトの声に棲家は乱れて静かになり、ついにわたしも追い出されてしまった。夜、いつも通り寝床に戻ろうとしたが大きな声で追い返され、諦めて仕方なく棲家を離れる。

 周囲にヒトの気配はなく、ただ夜の冷たい風が吹きつける。初めて外から見た棲家は、こんなに大きかったのかと、驚きと寂しさが胸を刺し、瞳が潤んで涙がこぼれそうになった

 

 原っぱを歩き続け、身体が土と汗で汚れた頃、ようやくこの街に辿り着いた。

 市場の喧騒、響き合う笑い声、止まない足音、こんなに大勢のヒトを見たのは初めてで、途端に怖くなりヒトのいない場所に身を隠した。

 でも、一匹でいるのは寂しくなり、たまにヒトがいっぱいいる場所をこっそり覗き見る。大きくて強そうなヒト、小さなヒトの群れ、ウマと一緒にいるヒト。胸がチクチクと疼くのに、ヒトの喧騒から目が離せなかった。

 そんな日々の中で、一人のヒトと目が合った。不意に合った視線に心臓が跳ね、驚いて反射的に逃げ出す。尻尾を立たせ、耳で音を捉えながら、暗がりに息を潜めた。

 そのヒトはゆっくりと暗がりまでやってきて、じっとこっちを見る。怖くなって逃げだそうとするが、そのヒトは何を思ったか、そっと食べ物を投げてきた。

 その後も、そのヒトは何度も訪れた。少しづつ近づき、ついにはわたしを撫でる。久しぶりのヒトとの触れ合いに胸が温まり、尻尾が揺れた。

 

 お日様が温かくなってきた頃、ついにあの日がやってきた。身体が熱く火照り、頭がぼーっと霞み、瞳は艶やかに濡れる。気づくと股がぐっしょりと湿り、腹の奥できゅんっと疼く感覚が止まらない。

 耳がピクピクと震え、尻尾が落ち着きなく揺れる。匂いを広めるため、あちこちでおしっこを撒いてしまう。

 昔はヒトに優しく撫でてもらうと、胸が温かくなって落ち着けたが、今は誰もいない。心を締め付ける寂しさが身体の熱と疼きを強め、苦しくてたまらなかった。

 身体の不調を隠すように縄張りに身を潜めていたが、熱と疼きに耐えかね、あのヒトに助けを求めるように夜の街を探し始める。

 闇の中、不安を吐き出すように鳴き声を上げるとあのヒトが来てくれてた。優しくそっと撫でて抱きしめてくれる。助けを求めて熱く濡れた股を晒すと、あのヒトは股を撫でてくる。初めての感覚に驚いたが、心地良い。もっと欲しいのにあのヒトは手を止めてしまった。

 我慢できず、お尻を突き出して尻尾を高く上げると熱い何かが股に入ってきた。身体を割かれるような衝撃が走り、奥まで突き進む。きっとこれが、ずっと求めていたモノ。誰にも与えられることのなかった初めての感覚。このヒトがわたしの雄だと、心と身体の奥深くに刻み込まれ、甘い喘ぎ声が溢れた。

 

 夜の静寂に浸りながら、雄との初めての交尾や重ねた熱い交わりを思い出すたび、痛むお腹の奥が疼いた。

 無意識に手が胸に伸び、あのヒトがそうしたように、ゆっくりと胸を揉む。熟れた乳首は敏感で、すでに硬く尖っていた。

 指で摘まみ、揉むように弄ると母乳がじわりと染み出し胸に垂れる。仔に飲ませるためのものなのに、と思うが弄る手を止められない。

 もう片方の手を股に伸ばし、あのヒトの肉棒を想い浮かべながら、細い指を奥まで滑らせる。あの肉棒に比べれば少し物足りなかったが、熱く柔らかい肉はすぐに指を締め付け、汁が溢れて滴り落ちた。

 あのヒトを想い、夢中になって熱い肉襞を掻き混ぜるたび、甘い疼きが全身を駆け巡り不安を押し流す。やがて軽い絶頂が訪れ、快楽に揺られて緊張で硬くなった身体を蕩けさせた。

 

 

 

 絶頂が呼び水になり、お腹の奥の痛みが一際強くなる。苦痛の波が押し寄せる間隔が短くなり、身体が震え雌の匂いが充満していく。

 楽な姿勢を求めて身体を動かし、四つん這いになって脚を屈め、膣を地面に近づける。

 痛みを和らげるため呼吸に集中していると、膣が熱く脈打ち、最奥がゆっくりと広がる痛みが全身を貫いた。生ぬるい体液が太ももを伝い、湿った地面に水溜まりを作る。

 玉のような汗が吹き出し、産道を滑り落ちる感触に身体を震わせ、小さな膣口を押し広げながら、ついに最初の仔が産み落とされた。

 

 濡れた身体は暗闇の中でも輝いていた。すぐに臍の緒を噛み切り、震える小さな身体を胸に抱き、温もりを与えるように丁寧に舐める。すると産まれたての仔は小さな鳴き声を上げ母を呼んだ。

 安堵の息が漏れるが、すぐに次の仔が続く。最初の仔が広げた産道は滑らかで、仔が通り過ぎる快感に溺れる余裕を持ちながら産み落とし、最後の仔も続いた。

 腹が空になった感覚に全員産み落とせたことに安堵するも、ぽっかり空いた腹に寂しさがよぎる。だが仔の小さな鳴き声は心を満たし、母親になった実感がふつふつと湧き上がるのだった。

 

 喜びを噛みしめていると、仔ではない何かが膣からずるりと零れ落ちる。その感触に驚くも、濃い血の匂いが空腹を刺激し、本能に従いそれを口に含む。体温を残す柔らかい塊は噛むたびに舌を血の味で満たし、疲労した身体に力が戻るのを感じた。

 

 

 仔を胸に抱き、順番に乳を与える。小さな口が乳首を吸うたび温かい母乳が流れ、甘い快感が広がる。摘まれるのとはまた違う、穏やかで優しい時間だった。

 授乳を終え、仔を地面にそっと寝かせると、弱々しい寝息が静寂に溶けて心を癒す。

 袋から干し肉を取り出しゆっくり齧る。前は塩辛さに吐き出した肉も、今は硬い噛み応えが心地よかった。

 

 狭い空を見上げると既にお月様は見えず、街も眠り落ちたように静かで、暗闇と静寂が母子の時間を優しく守っているようだった。

 雄の誘い方、交尾のやり方、食べ物の貰い方。これから教えることが山ほどある。だがその前に、ただ無事に育ってほしいと静かに願った。かつてヒトに愛された日々を思い出し、同じ温もりを与えたいと思う。

 仔の一匹が身を捩り小さな鳴き声を上げる。その鳴き声に小さく返して優しく抱き直し、尻尾を穏やかに揺らした。

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