こちらがいろいろ考えたけど他のSSには用いなさそうなネタを用いた大人向けお話集 作:oosima
元々は、別のSSで投稿していた話を修正して再投稿したもので、見覚えのある方もいるかもしれません。
001 下半身スキャンダルは何時の何処の誰でも凶事●
○
宇宙空間の何処かに小島のように浮かぶ大陸があり、その大陸の東南部に掛かる巨大橋で繋がって支えられている島国JAPANが存在していた。
JAPANは、ある世界で言う所の洋風文化が栄えている大陸とは違い、和風文化を中心に独特の文明を長く続けている国であった。
「………ぐ…が…ぎ…」
そのJAPANの中心に位置する尾張にある織田城で、一人の少女が地下牢の奥底で鎖によって雁字搦めにされながら呻き声を上げていた。
小柄な体躯にピンク色の長髪と見た目は可愛らしい少女だが、その身からは血の霧を思わせる赤い瘴気が漏れ出ており、禍々しい力の波動を漂わせていた。
「…どうだ、来水美樹殿のご様子は…?」
「駄目だ。陰陽師や天志教の高僧の方々をお呼びして術で宥めようとしているが…全然効果が無い…」
「…しかし、逃亡中と噂の魔王がこのような少女で…しかも今ここ織田城にいるとは…」
その見張り達が不安を隠せない様子を向けている少女こそ、異世界よりこの世界へ拉致されて魔王を継承させられた現在の魔王たる来水美樹であった。
魔王とは、この大陸の地上を恐怖と暴力で支配するように圧倒的な力を破壊衝動と引き換えに神々によって作られた存在であり、神々にメインプレイヤーと呼称される人類を虐げて嬲るように作られし魔物の王である。
だが、当代の魔王である美樹は異世界で平和を愛する少女であったがために、魔王の力を無理矢理継承させられはしたが覚醒を拒み、異世界より追ってきた恋人と共に元の人間に戻れる方法を求めて逃亡へ身を投じた。
そして、今現在は諸事情で覚醒が近づきつつある状況の為にこうして地下牢で拘束されている状態にあった。
「…ランス殿達が間に合ってくださればよいのだが…?」
「…如何せん…あの魔王殿の想い人がな…」
その美樹達の境遇を聞かされた見張り達の言葉には同情も混じってはいるが、それ以上に不安の色が滲み出ていた。
○大陸東南部 JAPAN中央部 蜜柑 迷宮蜜柑農園○
「探せー! 一刻も早くヒラミレモンを探すのだーーー!!」
織田城で不穏な空気が強まっていた頃、尾張とは伊勢を挟んで西に位置する蜜柑にあるその迷宮で、一人の男が大勢を指揮していた。
JAPANとは異なる大陸風の緑衣装と甲冑で身を固めており、口元は大きいが濃い茶髪で鋭く整った面貌を持つ青年。
その青年の名はランスであり、織田城を本拠とする織田家の影番となって今やJAPAN再統一に最も近い男である。
そうした事実が示す通りに英雄になれる素質とそれにふさわしい実力と経歴を持つが、そうした力で美女を手に入れる事が第一という性質によって鬼畜戦士と仇名される身だ。
「…はーー、何で儂が魔王なんぞを助けるためにここまで…おーい心の友よーそんなガミガミ言うなよ」
そのランスの腰に鞘無しの状態で帯剣されている、黄色い大きな両眼が付いた漆黒の大剣がやる気なさそうな声を上げていた。
その剣こそはこの世界で二振りしかない魔王やその直接の眷属たる魔人を殺せる刀剣の片割れたる魔剣カオスであり、嘗て千五百年以上前にエターナルヒーローと呼ばれる伝説のパーティーに所属していた盗賊で、その最後の冒険の果てに神と出会って魔王や魔人を倒せる力を望んだら、その力はあるが自分では身動きできない魔剣の姿になってしまったという男である。
「カオスそのような怠惰に構えている場合ではありません。一刻も早くヒラミレモンを見つけないと美樹ちゃんが覚醒して世界が破滅します」
そのカオスを鈴のような凛とした女性の声で窘めるのは、白い鞘に包まれていて唾が小金の三翼で構成されており、柄の中に裸体の美女の装飾が施された日本刀。
彼女こそが魔剣カオスと双璧を成す魔王魔人殺しの聖刀日光で、カオス達と共にエターナルヒーローを構成していた女侍で、彼と同様の経緯で今の姿になった女性である。
「日光さんの言う通りですよー! 美樹ちゃんもお世話になった人を傷つけたりはしたくな…いでーーー!?」
その日光の現在の使い手である、美樹の恋人で彼女を救うために異世界よりやってきた整った面貌はあるが惚けた空気が強い青年小川健太郎が彼女に同意して叫ぶが、そこでランスの情け容赦ない蹴りを浴びせられて悲鳴を上げた。
「そもそもお前が城で間違って火事起こしたせいで魔王化進行を抑えるのに必要なヒラミレモンが全部燃えたからここまでくる羽目になってんだろーが! 更にここまで来たってのにお前がへまばかりするせいでまだ見つかっとらんのだぞ!!」
「そ、それはそうですけどここでの失敗の半分は日光さんが―――」
「女のせいにするんじゃねー! それ以上文句を言うとぶった切るぞ!!」
「―――あいた――ーーー!!?」
健太郎はその後もランスのしばきを受け、トボトボと迷宮のより奥へと進んでいった。
「……はぁ…」
その頼りない姿を全開にしている今の主に日光は溜息を吐いてしまう。
「…おい日光、そんな真面目な風に言ってるのなら今の状況は何だ?」
「………………」
だが、その間抜けな空気に感染されようとしていた日光もカオスのその真剣な声音での問いに重い沈黙に入る。
「…儂らがこの姿になってまで今の力を手に入れた理由を忘れたか?」
「…忘れる訳がありません…」
「…それなら!!」
カオスの非難を強める両眼と声音に、日光は口調が躊躇いがちになるが重い声音で縋る様な反論を始める。
「…平和な世界で暮らしていた只の少女であったのに、世界に災禍をもたらす力を無理矢理継がされた美樹ちゃんの姿…哀れに思いませんか? そして…その支えになろうとしている健太郎を健気だとは感じないのですか…?」
「黙れ。儂がこの姿になって何よりも成すべきことは魔王と魔人を根絶やしにすることだ。それだけが人類を奴らの恐怖から守る最大の方法だ」
「…情を切り捨ててですか? 貴方も…哀れで―――」
「じゃあ、聞くがあの娘が完全に覚醒した後のことを真剣に考えていると言えるのかお前は?」
「―――っ……」
「お前さんがそこまで情をかけてきたあの娘が完全な魔王となった後…それが生み出す惨劇を前にしてお前はどう思うのだ? その時の耐え切れなくなったお前さんの姿こそ惨めなものになると思うぞ儂は…」
「私のことなどどうでもいいのです。たとえ…何度繰り返すことになろうとも同じ選択をします。いつの時代の私でもきっと理解してくれます。それだけの縁が…あの子達とは出来ました…。それに…それが避けられない時が見えたらば…自分の使命を果たすだけ―――!?」
だが、二人の口論が一応この場では決着が付こうとしたその時、迷宮の外より遠方だが大きな揺れが達してきて、それに応じて何よりもこの二人ならば否応なく感じ取れる波動が伝わってきた。
「―――え……!? この揺れは…!?」
「まさか…!」
日光とカオスから驚愕と恐れを隠せない声音が漏れたその時、迷宮の奥から健太郎が惚けた空気の無い真剣な眼差しで駆け戻ってきた。
「これってまさか…美樹ちゃん!?」
健太郎は日光を走りながら手に取って地上を目指して掛け続ける。
「こらー! 一番悪いお前がここを逃げようとするんじゃ―――」
「もうヒラミレモンなんざ要らん心の友! 今は早く地上に戻るぞ!!」
「―――あってうおお!?」
それに文句を付けようとしたランスであったが、カオスの怒号混じりの催促を受けて彼らもまた地上に戻り始める。
「……これは…」
「い、一面瓦礫と焼け野原じゃ…」
数十分後、ランス達が地上に戻ると、巨大クレーターを中心として一面が瓦礫が飛び散っている焼け野原しか見当たらなかった。
「こ、こいつは…」
「…こいつが魔王の力じゃ。あーだからさっさと殺して封印しろって言ったんじゃ儂は―――」
「くすくす、あ、戻って来たんだ殿様…」
「―――っ…」
その光景に驚愕するランス達とは対照的に、落ち着いてはいるが深い諦観に陥っていたカオスの視界に、一人の少女がふわりと降り立った。
織田城の地下で幽閉されていたはずの当代の魔王来水美樹だ。
だが、その血のように赤い眼は狂暴に釣り上がり、その小さな身とは相反する禍々しい波動がもはや彼女が完全な魔王に覚醒していることを示しており、人の頃より纏っている衣服の上に魔力で漆黒の衣装が具現化していた。
そして、その傍らには非常にヘンテコな衣装で着飾っている健太郎の姿があった。
「美樹ちゃん…それにその傍にいる間抜け野郎のその姿…」
「うん、魔王になっちゃった。だから健太郎くんも魔人にしたの。くすくす…」
「ええ、そうです。もう僕も美樹ちゃんには逆らえなくなえりましたー」
「違うよ健太郎くん、私はもう魔王リトルプリンセスだよ。美樹ちゃんなんてもういないの」
無邪気な笑顔だが放っている波動は凶悪なままの美樹改め魔王リトルプリンセスと、それには及ばないがやはり酷似している波動を纏っている健太郎のその姿が二人の言葉が偽りではないことを示していた。
魔人とは、魔王より直接にその血の一部を分け与えられて、不老の肉体に主の魔王ではないが強大な力と、神性持ちでなければ一切の攻撃を無効化する無敵結界を主同様に与えられた存在だ。
健太郎はランス達よりも早く地上に戻れたところで、彼の臭いを嗅ぎ取って瞬間移動でこの場に待ち伏せしていた美樹に捕まり、魔人にされてしまったのだ。
「…ほほう、だったらもう君をお仕置きしても一切おとがめなしと言うことだな美樹ちゃん?」
だが、もはや人類文明滅亡の事態がもはや目前まで迫っているこの状況でも、ランスは己が性欲を優先してカオスをブルンとリトルプリンセスたちに差し向ける。
「あ、駄目ですよーランスさんそんなエッチな眼差しを美樹ちゃんに向けたらー」
だが、今度は魔人健太郎が本来ならその敵である聖刀日光を鞘から抜いて剣先をランス達に突き付ける。
「け、今さっきに甘っちょろいことを体よく言い繕ったばっかだってのに結局魔人に使われるんかい」
「如何なる言い訳も出来ません…美樹ちゃんどうか正気に戻って!!」
仲間の醜態に毒づくカオスの言葉を受けて日光は悲痛な声を上げるが、当のリトルプリンセスからは侮蔑の笑みを向けられる。
「…じゃー日光さんはずっと私だけ苦しめって言うんだ」
「そ、それは……ですが…!」
「あれだけ…もう消えたいくらい…苦しくて…痛くて…終って欲しい時間を過ごしたんだから…もう我慢しないよ…まー、とりあえずここじゃなくて西の方から始めよっか」
「!!?」
リトルプリンセスは何やら暗雲が立ち込めている西方を見やると、健太郎と日光を連れて瞬間移動でこの場から姿を消した。
○大陸東南部 JAPAN西部 アフリカ 島津城○
JAPANの西部にはアフリカと総称される四か国が存在する。
古くから大陸との交易で栄え、JAPANの主流民族たる日本人の中では褐色の肌が多い人々と、それとは人種が異なる大陸系の南国人と呼ばれる部族達が暮らしていた。
近年では名門島津家の当主で、女性が大好きで墜とすのも上手い島津四兄弟が一番モテるのは誰かという競争を繰り広げた結果、アフリカ四か国を統一してしまった。
蜜柑で世界全土を揺るがす大事変が始まったその日の夜、そこでも異変が起きた。
「…ぐ…!」
「く、くそ! 何だよこいつらは…!?」
「…美しいとは言えない…力の差だ…!」
「お、お兄ちゃん達ぃ!」
アフリカを制した島津四兄弟が全身をぼろぼろにした虫の息状態と化しており、その彼らの前には数人の人外の存在がいたのだ。
「…くすくすくす、大口叩いていたのに呆気ないねーおじさん」
「は、もっともです魔王様…」
その中心にいるのは魔王リトルプリンセスであり、傍らにいたのは漆黒の大陸風衣装に身を纏って赤いマントを靡かせ、育ちは良さそうな日本人男性風の身体をしているが両眼が漆黒に染まった男。
その男の名はザビエル。
嘗て二千数百年以上前に当時の魔王ナイチサの命を受け、大陸統一寸前までいったJAPANの英雄藤原石丸を討ち取ってその軍勢を壊滅させ、その後は封印されるが二度に渡って復活してJAPANに災いをもたらしてきた魔人。
そして、現代においてはランスを気に入り織田家の実権を与えた織田家当主信長の身体を乗っ取って三度目の復活を遂げた存在であった。
「すみませーん。僕たちこれから美樹ちゃんと一緒にJAPANから世界滅茶苦茶をするために軍勢が必要なんですー。こっちのおじさんが言うには娘さんがいるらしいここのそれを貰いに来たんですけど」
「健太郎君!」
そのザビエルの凶悪さが文字通り出た雰囲気とは対照的に、間抜けな雰囲気のままの健太郎が悲痛な声を上げている聖刀日光を島津四弟達に突き付けて脅しらしくない脅しをかけた。
「…ふざけるな…! 何処の誰とも知らん貴様らに女達を渡せるもの―――」
「駄目よ…皆、この人達に逆らったら…」
「―――!?」
圧倒的な力を見せつけられた後でも揺るがぬ矜持を島津四兄弟が示そうとするも、そこで落ち着いてはいるが深い恐れを抱いた女性が止めてきた。
その女性の名は黒姫。
嘗て五百年前に二度目の復活を遂げたザビエルが凌辱した日本人女性に生ませた娘であり、とても親子とは思えない慈悲深い性格で、ここ島津家では守り神のように敬愛されている存在だ。
「な、何故だよ黒姫! こんなわけわからねえロクデナシに好き勝手させろっていうのか!?」
「……誰もこの人たちには勝てないから…」
「…え…?」
「…っ…! まさか…!」
「魔王と…魔人だから…」
「…そんな!」
「…魔王リトルプリンセスが覚醒して…魔人…ザビエルが…復活した……」
「……くすくすくす」
「…ククククク…」
「良かったね美樹ちゃん!」
「……………」
その黒姫の言葉に島津四兄弟達は最悪の答えに行きついてその表情に初めて恐れの色が浮かび、リトルプリンセスは嘲笑を見せ、ザビエルは歪んだ笑みを浮かべ、健太郎は場にそぐわない無邪気な喜色を見せ、日光はそれらに上げる言葉が見つからなかった。
○
「…最悪の事態じゃ…」
「美樹殿が魔王に覚醒して…」
「西方の島津家を乗っ取りおった…」
「「「もうJAPANは…人類は終わりじゃ…」」」
アフリカで島津家が魔王率いる魔物の勢力たる魔軍に乗っ取られてから数日後、織田城は通夜の如く空気が落ち込んでおり、JAPAN固有の種族である妖怪で織田家では家老の位置付けで、怒喜哀三面による三つの顔が付いて電話を思わせる意匠をした3Gが絶望の声を上げていた。
「…ランス殿…」
3Gの隣で白基調の鎧で身を固めた、日本人形のように美しいスタイルと美貌を持つ美女が険しい顔を浮かべていた。
彼女の名は上杉謙信。
嘗てはJAPAN北西部に位置する佐渡とMAZOを領地とする上杉家の当主で軍神とまで謳われる強さと義を重んじる高潔な人格を持ち、嘗てはランス率いる織田家と戦ったがその最中に出会った彼に一目惚れし、その後に起きた叔父によるクーデターで囚われるがランスに救出されて傘下に収まった女傑である。
「…せっかく、謙信が佐渡での修行中に帝ソードを見つけて帝レースも始まってポイントも溜まっていたというのに…」
その謙信の片割れにいる彼女の参謀で、彼女ほどではないが整った意志の強さを感じさせる美貌と広い額が特徴的な直江愛が苦渋の声を上げる。
「なーに俺様がいるから大丈夫だ」
「…悪いがもはやこの状況は詰みじゃ…」
その重い空気の中でもいつも通りなランスに3Gが窘めようとしたところで、スッと彼らが集っている大広間の襖が開かれて一人の少女が現れた。
「…あ、あの皆さん…とりあえずお茶と団子をお持ちいたしました。これでも食して気分を和らげてください…」
その言葉と共に現れたのは、織田家前当主信長の妹で現在の織田家当主となっている少女の香姫であった。
幼いながらも健気で且つ責任感の厚い性格で、織田家ではまだ年少ながらいたく敬愛される当主となっている。
「…あー香ちゃん、気を使ってくれて悪いが今はとてもお団子の気分じゃ…何よりもそれって君が作った団子だから食えるものじゃないだ―――!?」
但し、団子づくりが壊滅的で彼女が作るそれは見た目からしてタレが虹色になっていいたり、食すれば大量の死人を出しかねないまでに味と成分が怪しいという摩訶不思議な欠点も併せ持っており、今回もそうした団子を持ち込まれたのを見てランスは何かを閃いた表情になる。
「―――あーーー……っておい謙信ちゃん、この前に信長が面会拒否を起こしたのは魔人に乗っ取られたからだとわかった直前に佐渡で遭難した際に現れた女神さんの話ではJAPANの帝って…」
「ランス殿…?」
「おい3G、いい作戦を閃いたからカオスとここにいる軍師連中を全員集めろ」
「「「ランス殿…?」」」
「俺様らしく実にインテリジェンス且つグレートでストロングな作戦を思いついた。ぐふふふ…これなら美樹ちゃんもお仕置きできるぞー…」
普段ならまたろくでもないことを考えたと感じさせるランスのその下心心全開な笑みが、何故か今この場においては皆にとって頼もしく感じられた。
それが気のせいではなく、実際にランスがまたしても英雄であることを世界に知らしめる切っ掛けになろうとは、今この時点では誰も予想できた者はいなかった。
○
「………」
「…相変わらずだんまりか。JAPANの女って真面目そうに見えて身勝手なのが多いわねー」
「…くくく、全くですなぁ…」
織田城にてランスが歴史を変える決断を下していた頃、その攻略目標である島津城にある謁見の間では上座にリトルプリンセスが座って下座の直ぐ傍らにはザビエルが侍り、畳の上で転がっている聖刀日光に侮蔑の嘲笑を向けていた。
「日光さん諦めて今まで通り美樹ちゃんに付こうよー。もう魔王には誰も勝てないんだしさー。その方が日光さんも痛い目に遭わずに済むよー」
「…健太郎くん、もうあなた達と交わし合える言葉はありません…」
美樹の隣にいる健太郎が心配げな声で話しかけるが、日光は冷淡な声でしか返さない。
もう、彼女の脳裏には如何にすればこの地から脱出して聖刀としての使命に戻れるかしか考えていなかった。
カオスに指摘されたあまりにも見通しが甘すぎる自身の偽善が招いたこの惨状を償う方法は、愚劣極まると自覚した彼女にはそれ以外に思いつけなかったのだ。
「……くっくっく…相変わらずそのあばずれな本性を隠す取り繕いだけは上手い女よのぉ…」
「…っ! ザビエル…!?」
そこで、五百年前に当時の勇者を主として戦い、封印こそはしたが当時の主を殺した怨敵であるザビエルから何やら含みのある言葉が放たれ、日光は怒りを覚えると共に嫌な予感を覚えた。
「ん? おじさんその言い方って何かありそうだけど?」
「くっくっくっく、魔王様はどうやらどうしてこの女が人の姿になれるのか知らぬようですな。どうやらこの女は自身の本性を告げていないと見ました。その様子だと本音では貴方様を信じてはおらず命を秘かに狙っていただけでしょう。実を言いますと…?」
美樹もまた同じく何か含みを覚えて興味を示してザビエルが続きを述べようとしたその時、聖刀日光が光りに包まれて日本刀状のシルエットが変わっていく。
「言うな!!」
そして、光が収まると刀は消えて代わりに一人の日本人女性が現れて怒声を上げながら刀を抜いてザビエルに飛び掛かる。
日本人女性にしては高い背丈も美点に変える女性らしい凹凸と四肢の長さに剣士としての筋骨が調和した肉体をし、紫色の瞳を中心に切れ長の双眸で凛という言葉が似合う美貌をし、白い着物と日本刀が似合う女侍の見本というべき美女。
彼女こそ、聖刀日光であり、カオスと違って短時間なら人の姿に戻ることができ、今の姿は神に出会う前の人であった頃の彼女の姿なのだ。
「馬鹿が!」
「ぐば!?」
だが、自身では身動きは出来ぬとも人に振るわれれば魔王も切れる刀の時とは違い、人間の姿になった日光には魔王や魔人を守る無敵結界を破る力は無く、それ以前に魔人と人間の圧倒的な地力の差からザビエルに難なく頭を掴み取られ、そのまま畳が凹まされる勢いで叩き付けられて血が飛び散って骨が折れ、歯が何本も外れてしまう。
「う…が…あぁぁあああぁぁ!?」
「くははは! 何と醜く弱いものだ! 貴様はそうして豚のように泣きわめいている姿がお似合いよ!!」
この千五百年に渡る戦いの日々をほとんど聖刀の姿で過ごして人型に戻ることが少なかった日光は、彼女が考えていた以上に苦痛に対する耐性が弱体化してしまっており、聖刀になってから憶えている限りで初めて負った重傷に嗚咽を漏らしていると髪からザビエルに引き上げられて醜態を晒させられてしまう。
「くすくすくす、日光さんもそんな表情が出来たんだねー。もっと早く見てみたかったなーーー…それでおじさん、日光さんの知られたくない秘密って何なの!?」
「!!? み、みぎじゃ…そ、それば―――」
「口を噤め」
「―――ばぼべぇ!?」
それに増々嘲弄を強めるリトルプリンセスに日光は血の気が退いた顔を向けるが、ザビエルに再び顔から畳に叩き付けられて傷が深まると、気力が尽きたのか再び聖刀の姿に戻ってしまう。
「それで日光さんの秘密って何なの?」
「日光はカオスとは違って刀剣の姿から人へ戻る事が出来ますが、それは契約でのある条件をこなすためです」
「ある条件って?」
「聖刀日光は波長が合う人間にしか扱えませぬが、その上で…相手と人の姿で性行を交してその遺伝子を取り込まなくては扱えぬのです…」
「!!」
「………はあ?」
「「「「「!!!!!!??」」」」」
そして、最も守り救いたいと願った少女に最も知られたくない秘密を知られた日光は言葉を失い、数秒の間を置いてリトルプリンセスから笑みの代わりに怒気が現れ、その強大すぎる力に部屋に集っている魔物達の大半が震撼する。
「…健太郎くん、それって本当なの…?」
「!? し、知らない! 本当にそんなエッチなことした記憶なんてないよー!!」
「そ、そうです! 美樹ちゃんこの男が出鱈目を言っているだけ―――」
「あんたには聞いてないから」
「―――えぐぅ!?」
身に覚えないない健太郎は主に対して無実を主張し、日光もそれに便乗して否定しようとするが、リトルプリンセスによって高重圧をかけられて粉々に砕かれてしまう。
「くくくく、それならこの女自身を嘘を付けぬようにして吐かせればよいでしょう」
「そんなのできるの? だったらやってみてよおじさん」
「は、お望みとあらば…入れ煉獄」
ザビエルの言葉に応じて襖が開き、そこより瞳孔の無い白い両眼と異様に白い素肌に包まれて大きな福耳が特徴的な巨漢たる煉獄が現れた。
「魔王様ご機嫌麗しゅうございます。此度は極めて芳しいものをお持ちしました」
その煉獄は魔人が直に血を与えて作り出す僕である上級使徒に所属する身でザビエルを主とする身の一人であり、彼はある液体で満たされた巨釜を背負って現れた。
煉獄は砕かれた日光を適当に箒で塵取りへ集めると、その大釜の中へササっと投じて水飛沫や波紋が生じる。
少ししてそれらが収まると水面が猛烈な光を放ち始め、やがて小さくなり消えていくが代わりに彗め年が大きく盛り上がる。
「……ぶはぁ!? こ、これは…ぁぐ!?」
その盛り上がった水面を内側より突き破って、人間状態で日光が現れるがすぐさまに煉獄に身を縛り上げられて口には猿轡を噛まされてしまう。
「この大釜の中に入っているのは自由都市地帯にある解呪の泉から大量に汲んで運んできた水です。こいつに浸けられれば大抵の呪いは溶けます。どうやら調べた限りこいつが持っている無敵結界破壊可能な聖刀に変身する能力というのも厳密には呪いの一種であったようで…こうして浸けてみれば聖刀状態は解呪されて消滅しご覧のありさまと言うことです。天志教を弾圧していた時に聖刀が発見されたという報告が来たので対策を探していたらこれが見つかりまして…」
「!!!!???」
煉獄の説明に日光の驚愕と絶望は増々深まっていくが、本当の地獄の入り口はこれからであった。
「それでは魔王様どうなさいますか? こうして人の姿になれば魔法なり薬物なりで契約の真偽を吐かせるのは容易いことですが…?」
「うーーん…そうだねー、どうしようかなーーーーーーーーー…あ、閃いちゃったからそいつをこっちまで連れてきて」
もはや過去の英雄と呼ばれた時期には見られなかった、断頭台を目の前にした凡愚な死刑囚の如き震えに包まれた日光がリトルプリンセスの足元まで引きずり出される。
(美樹ちゃん…何を―――!?)
「あんたはまずそうだからその汚くなった口元の傷の残りからやるわ」
「―――!?」
どうやら聖刀とは違って残っていた、神に出会って聖刀にされた時に与えられた不老不死による再生能力でまだ再生途中であった日光の口周りに、美樹は再び歯が砕けて顎が拉げる勢いで足の裏を叩き込む。
そして、再び砕けた日光の顎で彼女自身の血と、そうさせたリトルプリンセスの足の裏よりジワリと滲み出たそれが混ざり合った。
○
「ギャハハ! 殺せ殺せぇ!!」
「く、くそぉ! ど、どうしてこんな事にいぃぃぃ!?」
島津城での聖刀消滅事件より一週間後、大陸より呼び寄せられた歓喜の声を上げる魔物と、リトルプリンセスたちによって乗っ取られて苦悶の声を上げる島津兵達を中心とする魔軍は、アフリカから中国地方へ侵略を開始した。
「ひいいい! だ、駄目じゃあ! 数も力も違い過ぎる…!?」
その災厄の津波に地元の小大名たちによる武士団が瞬く間に蹂躙されつつも敗走していくが、そこで彼らはやや離れた丘の向こう側より新たな殺戮劇の証しを目にさせられてしまう。
「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアァアアアァアア!!!!」」」」」
丘の向こう側から竜巻が生じ、その中を無数の屍や瀕死の者達にそれらから出た骨肉に血飛沫が飛び交って周囲にまき散らされていくが、その中心に一人の女性がいた。
「…ぅ…ぐ…あ…あぁぁぁあああ…」
その女性は本来なら最上位に食い込む美貌とスタイルを持っているが、それを全く感じさせないまでに身は傷だらけで上から包帯を巻いて無数の鎖に繋がれていて凝血や泥で汚れており、纏っている衣服もボロ同然で大陸なら普通に見かける奴隷階級であることがわかる衣装をしている。
だが、その手に持たされた身を遥かに越す刀を細腕からは想像できない膂力によって豪速で振り回し続け、その剣風で紅き竜巻を巻き起こしているその美女は、絶望と後悔で表情を歪めていた。
その美女の姿を見たJAPANの兵士達から次々と恐怖と怨嗟、侮蔑と憎悪に満たされた声が上り始める。
「き、来たぁ! “裏切りの侍”だぁ!!」
「あ、あの英雄のくせにそれを捨てて魔王に寝返りやがった侍の恥だぁ!」
「ま、魔人が来るぞぉぉぉ!!」
「お、“落ちた英雄”が攻めてくるぞぉぉぉぉ!!」
「“凶刀の魔人”だぁーーー!!」
「…っ! ぅ…っっっっ!!」
その非難の声を嘗てとは比べ物にならない聴力で知覚していくたびに、彼女の表情は歪みを増して遂に涙が頬を伝い始める。
彼女こそ、嘗てはこの千数百年の間に魔と闘う刀として伝えられて活躍してきた聖刀日光。
だが、今やその名をもって呼ぶものは少なくとも彼女の故郷たるJAPANにはいない。
嘗て戦いを挑み倒そうとしていたはずの魔王に寝返り、その従僕たる魔人の一席を与えられし背信者。
それがこの凶刀の魔人日光に今現在もっとも向けられる評価であった。
こちらの時間軸では超不幸ルートに落っこちてしまった日光さんですが、次回から救済ルートに入る予定です。