あっ今回はえっちなのないです
少し花粉の辛い三月。
トリニティ総合学園からの卒業、リエさんとの結婚からは三年が、そして父親というものになってからはや二年が経とうとしていました。
私も間もなく大学四年生、社会人が見える年頃です。
いえ、私からすればそういう年齢になったというだけで社会に出ることなどこれっぽっちも考えず、桐藤財閥と朝日奈グループを支配する大株主として適度に威厳を見せつつ株式配当を受け取っていればいいのですが、そういう話ではなく。
時間の流れはあっという間ということです。
今思うと、ティーパーティーを引退してから不真面目になったように思います。
あの頃はあんなにトリニティやらアリウスやらの未来を考えていたというのに、今となってはリエさんにあと何人産ませようかとか、まだおっぱい大きくなるのかなとか、娘達は将来どっちに似るかなとか、私と私の周りについてしか考えていません。
ええ。
責任を失って普通になってしまったと言うべきか、肩の荷が降りて普通になれたと言うべきか、興味もない楽単を履修し、気分で1限を休み、空きコマは同級生に近場のパチスロに連れてかれるような、そんなありふれた大学生が今の桐藤ナギサなのです。
「ナギサごめんね、大学休ませちゃって」
「いえ、どうせ必要な単位は取り終わってますし、そもそも春休みですし……責任を取るって言いましたし」
「ふふっ、そっか。頼れる旦那様ってことだね」
リエさんは現在9ヶ月の三つ子を抱えているということもあってお腹を大きく膨らませています。
いえ、膨らませたのは私なのですが、そういうことではなく。
来週辺りから入院になりそうとのことでしたので、定期検診という形では今日が最後になるのでしょうか。
(もう少し大きい車に買い替えましょうか)なんて考えながら娘達をベビーシートに乗せ、リエさんを後部座席に乗せてから私は車のエンジンを入れました。
「ナギサ、離乳食はいつものところにまとめて買ってあるからそれあげて。会いに来てくれたら私がおっぱいあげるけど」
「あっ、はい。でも……私で大丈夫でしょうか」
「そこはパパの腕の見せどころ。大丈夫だよ、みんな私達に似ずにいい子だもん」
「でもナギサに似ておっぱい大好きだね」とクスクス笑うリエさん。
もう三児の……いえ、六児の母と考えるとなんだかとんでもないことをしてしまったような気がします。
トリニティの同窓会とか出たらどうなっちゃうんでしょうか。
「ほらナギサ、よそ見しない。大事なお嫁さん怪我させるつもり?」
「してません! ちょっと考え事してただけです!」
病院までは車で15分。
私は信号が変わるのを待ってアクセルを踏みました。
「ぶーぶー!」
「はい、ぶーぶーですよ」
◇◇◇
「……という感じで、三つ子の経過は極めて順調です。エミちゃん、サリナちゃん、ナツカちゃんも何の心配もありません。むしろびっくりするくらい健康的に育ってます」
「まあ、それだけのもので育てられたのですから、納得はしますが」とリエさんの胸元に目をやるミネさん。
彼女は一連の検査結果をテーブルに並べると、コホンと軽く咳払いしました。
「ミネは……あと3年? 卒業まで」
「はい。せっかく拾ってもらいましたし、実務面はここで研修させてもらうつもりです」
「そっか。もうすっかり大学生だね、みんな」
「……言っておきますが、リエさんが少数派なんです。まだ一般生徒には周知されていませんが……オブザーバーが卒業してそのまま嫁入りなど前代未聞の事態でしたから。大体まだ式も上げていないではありませんか」
「それは……ナギサが大学出てからって。ね?」
「は、はい。あと一年もしたら……」
「全く……私もお二人の幸せを心より祈ってはいますが、それはそれとして少々ドラマチックすぎます。もっと周囲のことも考えて……」
「そういうミネこそ、そっちの方はどうなの? サクラコ、就職しないって聞いたけど?」
「そ、それは! ……その……取り敢えず、来週、百鬼夜行の方に、2人で……」
羽根をすくめ、恥ずかしそうに俯く彼女に容赦なく追撃するリエさん。
事情を知らない一般生徒からは犬猿の仲とまで噂されていたミネさんとサクラコさんもゴールイン寸前なんて、人生どう転ぶか分かりません。
そんなことを考えていると、チリリリリ、とアラームの音が鳴りました。
「……それでは、私はこれで。また何かあったら連絡して下さい。……って言っても、もう三回目ですもんね」
「まあね。バイバイ、ミネ」
「ばいばい!」
「ふふっ、よく言えましたね、エミ」
そうして私は双子をベビーカーに、エミを抱っこ紐に乗せ、病院の応接室を後にしました。
「……あ、ミカ達が今日飲みに来たいって。ナギサ大丈夫?」
「リエさんが大丈夫なら構いませんが……ちゃんとジュースも買ってくるように伝えて下さいね」
「はいはい」
「みか! みか、くる?」
「ええ。ミカさんもセイアさんも来ますよ」
そう答えると、リエさん似の赤ん坊はぱあっと笑いました。
「……っていうか、ミカさん執拗に自分のこと「ミカお姉ちゃん」って呼ばせようとしてますよね」
「悔しいんじゃない? ナギサに私盗られちゃったの」
「と、盗ってません! リエさんは早いもの勝ちだっただけで……」