【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「さあ──いよいよだ、シャングリア。俺の女になってもらう」
寝台に横たわるシャングリアは、痙攣するように荒く息を吐き続けていた。意識があるのかもわからない気配だ。
極限まで追い込まれた身体は熱に浮かされ、全身が細やかに震えていた。
少しばかり、責めすぎたか?
一郎はその姿を見つめながら苦笑する。
だが、あれだけのことをされても、一途に一郎を慕ってくれる気持ちは話さなかった。
試したわけではないが、その健気さと、意思の強さに、改めて、一郎は胸の奥で切ないほどの愛しさを募らせてもいる。
「シャングリア……」
静かに名を呼ぶ。
「はあ、はあ、はあ……な、なんだ?」
びくりと反応し、かすれた声が戻ってくる。
よかった。
まだ意識はあった。
「俺の女にすると言った。聞こえていたか? 二度と離れられない刻印を魂に打つと思ってくれ。覚悟はあるんだな」
返事はわかっている。
それに、拒絶されたとしても引き返すつもりなどないが、これは儀式のようなものだ。
「構わないぞ……」
「わかった……。だが、言っておく。俺は淫魔師だ。俺と愛し合えば、魂で結びつく。これは比喩じゃない。二度と離れられなくなる」
「淫魔師……そういえば、どんなことを、あの魔妖精が喋っていたな……。本当のこと……なのだな?」
「ああ、だが、もう離してはやれん。俺にはシャングリアが必要のようだ」
一郎はシャングリアに、そっと覆いかぶさった。
さすがに、これ以上の前戯は必要ない。
シャングリアの心も身体も、すべてを受け入れる準備が整っているとわかる。
両腿を抱え、熱を帯びた肌を掌で感じる。
小さく震えるその感触が、彼女の緊張と期待を伝えてくるようだった。
怒張した先端を濡れそぼる花芯に押し当てると、シャングリアは大きく瞳を開いた。
「ロ、ロウ」
虚ろな光を残しながらも、その視線は一郎を真っ直ぐに捉える。
信じるように、求めるように。
「お前は俺の女だ」
「う、うん……。き、来て……。ロ、ロウの……お、女に……」
大きく頷く仕草は、たどたどしくも確かな意思を宿していた。
一郎はその姿に応えるように、深く息を吸い込む。
淫魔術を通して、赤いもやが彼女の奥があたかも自分を迎え入れるために開かれていくのを感じた。
その膣は、刻まれる痛みも快楽もすべて共にするための場所だ。
一郎は愛を刻むように、腰をゆっくりと押し出した。
「ううっ」
その声は痛みか、歓びか……。
だが確かに、シャングリアの身体は一郎を受け止めた。
裸身が大きく震え、二人をひとつに繋ぐ熱が溶け合っていった。
一郎は、なるべくシャングリアに痛みを与えないように、できる限り真っ直ぐに怒張を押し入れていった。
さすがにきつい。
だが、十分に濡れているおかげで、ある程度の滑らかさを保ちながら奥へ進むことができた。
思った以上の抵抗はない。
一郎は、シャングリアの苦痛がすくなくて済むように、一気に最奥まで貫いた。
途中で膜を破った感触も、しっかりと感じた。
「ううっ──くはあ──はあああっ──」
シャングリアが全身をのけ反らせる。
彼女の処女を貫いたのだ。痛みはあるはずだ。
「痛ければ、俺にしがみつけ。爪でもなんでも立てろ」
一郎はシャングリアに怒張を貫いたまま、耳元でささやく。
「ち、違う。き、気持ちがいいのだ。い、痛くはない……。そ、それよりも、もっと乱暴に……したっていい……。す、好きなように……んぐううっ──。わ、わたしの身体は……ロ、ロウの好きなように──」
掠れた声に、一郎は目を細めた。
痛みが完全に消えたわけではないはずだろう。しかし、それすら快感と混ざり合っているように思えた。
シャングリアはしがみつくわけでなく、そっと抱き締めるように一郎の背中に両手を回してきた。
一郎は、彼女の感覚を受けとめようと集中した。淫魔術を通して、彼女の感覚は一郎の胸にそのまま流れ込んできた。
すると、だんだんとシャングリアの味わっている衝撃が一郎にも伝わってくる。
強がりではない。本当に快感を抱いているのだとわかった。
また、快感を示す数字も一気に下降していく。破瓜の瞬間は痛みによって一瞬上昇していたが、いまは〈0〉へ向かってひたすら落ちていっている。
一郎は驚きを覚えると同時に、彼女が破瓜の痛みさえも悦びに変えていることを悟る。
あるいは、相手が自分であるからこそ、ここまで陶酔できるのだろう。
一郎はしばらくのあいだ、深くまで怒張を貫いたまま動かさないでいた。
シャングリアの息は荒くなっているが、膣の圧迫感は次第に溢れていく蜜で打ち消されていく。
甘い雫が溢れ、一郎の怒張を優しく包み込み、導くように絡みついた。
一郎はその状態で律動を行うことなく、両手でシャングリアの乳房を柔らかく揉みしだいた。
「はんっ」
甘い声とともに、シャングリアの全身がのけ反る。
敏感になった乳房を揉みしだかれるたび、破瓜の痛みと股間に塗られた掻痒剤の名残が混じり合い、快感へと変わっていくのが魔眼を通して伝わってきた。
さらに片手を下腹部に這わせ、怒張が貫いている膣の上──硬く芽吹いた肉芽を指先でやさしくいじる。
さらに、上半身を倒し、体重をかけすぎないように注意しながら、彼女の唇を奪った。
舌を差し入れ、熱く濡れた口腔を貪る。
「んんっ、んああああ──」
シャングリアの声が迸った。
さらに股間の潤いが増す。
一郎はゆっくりと律動を開始した。
「はんっ、んああっ、ああっ」
股間に刻まれる律動──、胸を揉みしだく手のひら──、肉芽を責める指──、舌を絡める口づけ──。
全身を染める赤い性感帯のもやを同時に愛撫する。
処女である彼女が抗えるはずもなかった。
シャングリアの快感値が一気に〈0〉に近づく。
「あああ──」
顔を横に振って舌を逃がし、シャングリアは張り裂けるような声をあげる。
全身を痙攣させ、がくがくと震えた。
シャングリアは、完全な絶頂を極めたのだ。
一郎は、淫魔術と魔眼でその絶頂を確認しながら、腰を小さく揺すり、最奥で結ばれたまま、おもむろに精を放った。
「シャングリア……。これでお前は二度と俺から離れられない。魂に刻む。お前は死ぬまで俺の女だ」
「あ、ありがとう……。わ、わたしを──し、支配して……んああああっ──ロウ──ロウ──。ああ、これで、わたしも、お前の女だ──」
シャングリアの声は、感極まっていた。
泣き声まじりの叫びが寝室に響く。
一郎の胸の奥に、彼女の心を強く抱きとめる感覚が流れ込んできた。
“この女を俺のものにする──”
一郎はありったけの淫魔術を注ぎ込み、シャングリアの魂に永遠の呪術を刻み込んだ。
そして、淫魔術を刻み終えた一郎は、荒い息をつくシャングリアを改めて優しく抱き締める。
彼女の身体は小刻みに震えながらも、確かな充足と陶酔に包まれている。
「……ロウ……もう……わたしは……お前に……支配……されたのか? 変わった感じは……しないが……」
涙に濡れた声が、寝台に微かに響いた。
一郎はその頭を撫で、静かに答えた。
「そんなものだ。心が変わるような支配なんてするものか」
一郎は微笑んだ。
おそらく、淫魔術を本気で使えば、洗脳のように女の心を作り変えることもできるのだろう。
だが、心まで変わってしまった人形のような女を犯したいわけではない。
エリカにしろ、コゼにしろ、シャングリアにしろ、一郎は身体は支配しても、心にはほとんど手をつけてない。
「そうか……。とにかく……これからよろしく頼む」
「わかった」
一郎はシャングリアから身体を離して怒張を抜く。
男根にはシャングリアと一郎の白い白濁液とシャングリアの破瓜の血が混ざったものがまとわりついていた。
「エリカ、コゼ──」
一郎は、エリカとコゼが互いに身を寄せ合って、女同士で愛し合っているふたりに視線を向ける。
シャングリアを抱くあいだ、ふたりにはお互いに愛し合えと命令したのだ。
汗まみれで身体を寄せ合っていたふたりが、喘ぎ声をあげながら、顔を一郎に向ける。
「……お前たちも、来てくれ」
ふたりははっと顔を見合わせ、恥じらいを浮かべながらも這うように寄ってきた。
汗と涙に濡れたシャングリアの隣に並ぶように、エリカとコゼも寝台に身を横たえる。
一郎は両腕を広げ、三人をまとめて抱き寄せた。
「ああ、ロウ様……」
「ご主人様……」
「……ロウ、わたしも抱っこしてくれ」
シャングリアも起きあがり、一郎の腕の中に入ってきた。
三人をいとどに抱き締める。熱に浮かされた吐息が重なり、柔らかな温もりが胸にあふれていく。
強く縛るのではなく、確かめるように──。
「ああ、ぼくがウマを厩に連れて行っているあいだに、もしかして、終わっちゃった? ひどいよ、ご主人様」
そのときだった。
ウマを連れて行ってくれと頼んでいた魔妖精のクグルスが出現して、すっ飛ぶように一郎たちに寄ってきて、そばでがなりたててきた。
一郎は笑った。
「いや、夜は始まったばかりだ。お愉しみはこれからだよ」
一郎はクグルスを郎の腕の輪の中に呼んだ。
「驚いたが、いつの間にか、ミランダまで女にしていたとはな」
シャングリアがスプーンを置き、少し呆れたように言った。
冒険者ギルドにほど近い大衆向けの食堂である。庶民でも入れるが少し高級寄りの店で、一郎はミランダを含めた女たちとともに、朝と昼を兼ねた食事をとっていた。
テーブルには、焼きたてのパンに塩豚、じゃが芋と人参の入った熱いスープが並んでいた。
スープは一人ひとりに、パンと塩豚、生野菜のサラダは大皿に盛られて中央に置かれ、好きに取り分けて食べるやり方だ。
水のような飲み物もカップに注がれていて、湯気と香りが食欲を誘っていた。
「……無理矢理にそうされたのよ」
ミランダは憮然とした顔をしながらも頬を染め、目を逸らす。
照れ隠しのようなその声に、一郎は彼女の耳が真っ赤になっているのを見逃さなかった。
おそらく、他の女たちも気づいていて、口元に微笑を浮かべている。
「でも、その服、似合っているわ」
コゼがスープにパンを浸しながら笑った。
「……スカート丈が短くて……、本当にご主人様好み……」
「し、仕方ないでしょう。脅されたのよ。そうしないと──……いや、なんでもないわ」
ミランダは慌てて口をつぐんだ。
一郎は内心でにやりとする。
実をいえば、ミランダを女にしてから数日のあいだディルド付きの貞操帯を外さずに苛め抜き、解放と引き換えに「腿の半ばまでしかないスカートを日常にする」と約束させたのだ。
いや、約束は一日目で強要したが、なんだかんだでミランダを解放したのが三日後くらいだったか?
とにかく、エリカやコゼもミランダを三日もディルド責めにしたのは話していないが、ミランダのところに行くたびに、一郎がミランダとふたりきりになりたがっていたので、なにかしているのは薄々気づいていただろう。
コゼは意味ありげに笑い、エリカはなぜか顔を赤らめていた。
「……ミランダは似合っていると思うわ。シャングリアもね」
エリカが、ちらりとシャングリアの脚に目をやりながら言った。
今日のシャングリアは、冒険者としての軽装を選んでいた。これまでの騎士然とした軍装ではなく、短いスカートを履き、美しい脚を露わにしている。
この王都では、足首近くまであるスカート丈が常識だ。
それゆえ、シャングリア、エリカ、ミランダの三人が揃って「ミニスカート」と呼ぶべき格好をしているのは、否応なしに目を引く。
もっとも、それは一郎好みによるものだ。
今後もこの姿を強要させてもらうつもりだった。
一方で、コゼは変わらず半ズボン姿だ。
アサシン時代からの軽装であり、それはそれで可愛らしい。
コゼだけはそのままを認めている。
五人は卓を囲み、笑いながらパンとスープを口に運ぶ。
戦いや緊張から解き放たれた朝昼のひととき、皿の音と湯気が心地よく響いていた。
「それにしても、随分とシャングリアは、戻りが早かったわね」
パンをちぎりながらミランダが言った。
「早くロウのところに戻りたかったからな」
シャングリアが白い歯を見せる。
「でも、モーリア領は西の端よね……。往復で一箇月はかかると思っていたのに、十日もかかっていないじゃない」
「王軍の駅伝を活用させてもらった。これでも王軍騎士所属の将校だ」
「とにかく、実家のモーリア伯との話し合いはうまくいったのでいいのね?」
「もちろんだ、ミランダ。大伯父は昔からわたしには甘い。条件はつけられたが、冒険者になることは認められた。これからは正式にロウのパーティに入る。このあと手続きをしてくれ」
シャングリアの言葉を受けて、ミランダが一郎を見る。
「……そういうことだ。よろしく頼む、ミランダ」
一郎も口を挟む。
「わかったわ」
ミランダが頷く。
「だけど──昨夜の話では、王軍騎士団の所属もそのままなのよね。これからも、騎士団の訓練に参加するのでしょう?」
エリカがシャングリアを見る。
昨夜の話によれば、大伯父と彼女が呼んでいるモーリア伯がシャングリアが冒険者になることを認める代わりに求めた条件は三つだ。
冒険者となるが王軍騎士団の所属もそのままでいること。騎士団の訓練には参加すること。出動のときには出兵に応じることだったそうだ。
シャングリアはそれを約束し、モーリア伯に認めてもらったのだ。
また、シャングリアにとっての「大伯父」──現モーリア伯爵は、実の親子ではない。
前伯爵はシャングリアの実父であり、彼女の父の死後、幼かった彼女に代わって一族を率いることになった人物だそうだ。
本来ならシャングリアが継ぐはずだった地位を奪った形ではあることを気にしてもいるらしく、彼女には甘いらしい。
親代わりとして、ずっと庇護しているようだ。ジーロップ山の盗賊退治を依頼したのも、騎士団で肩身の狭い思いをしていた彼女に功績をつけさせたいからだった──。
「じゃあ、あんた、あたしたちと一緒には住まずに、これまで通り、騎士団の営舎で生活?」
コゼがスープにパンを浸しながら首を傾げる。
「いや、基本的には冒険者だ。調練も月に一日程度かな……。もちろん、お前たちと一緒に暮らすぞ」
シャングリアがにやりと笑った。
「ああ、そうなのね。じゃあ、毎晩、ご主人様のお相手もできるのね」
「当然だ。わたしもロウの女だからな。それだけじゃなく、昨日の仕返しもしてやるから、覚悟しろよ、コゼ。今夜は、お前が筆責めを受けろ」
「ふふ……。仕返しって……。でも、それはご主人様がお決めになるのよ。あんたこそ、あれが気に入ったんじゃないの? 手足を縛って、あそこが痒くてたまらないのに触ってもらえずに、筆だけでくすぐられるの……。ほら、あそこが疼いてきた?」
コゼが挑戦的に応じた。
「なっ」
だが、シャングリアが気押されたように、一瞬言葉を詰まらせる。
もしかして、昨日のことを思い出したのかもしれない。
昨夜は、洗礼代わりに、かなりハードに責めたが、淫魔術でシャングリアを観察していた一郎は、シャングリアがそれでずっと性的興奮状態にあったことを知っている。
気が強く、負けず嫌いのシャングリアだが、性的嗜好としては“マゾ”なのだ。
一郎は思わずほくそ笑んでしまった。
「やめなさい、あんたたち。下品よ」
エリカがぴしゃりと言った。
「まあ、仲がよさそうで結構ね」
すると、ミランダが口を挟んで笑った。
やがて、食事もだいぶ進み、卓の上の皿も片づきはじめていた。頃合いを見計らって、給女が入ってきて、次々と食べ終えた皿を片づけていく。次いで、紅茶を並べていった。
スープの湯気の代わりに、甘く澄んだ香りが漂い、卓を囲む五人の吐息を和ませる。
シャングリアは、紅茶に手をつける前に「少し用を足してくる」と言って席を立ち、個室を出ていった。
その姿を見送ってから、ミランダが改めて口を開いた。
「正直、あの子はあまり人に打ち解けるタイプじゃないと聞いていたの。だから、こんなに自然にみんなと馴染んでるのを見て驚いたわ。……いいパーティになりそうね。さすが、あんたね」
「まあ……仲良くなれると思う」
一郎は微笑んで応じた。
内心では、もっともな理由もわかっていた。
昨夜、あれだけ乱交をすれば、嫌でも距離は縮まる。
結局のところ、一郎とコゼが責め役となり、エリカとシャングリアが受け役になった。
恥も欲も曝け出しながら嬲られた三人には、奇妙な共犯めいた連帯感が生まれたのだろう。
コゼにしても、人見知りの傾向があるのに、今日はもうシャングリアに向かって身内のように喋っている。
それは完全に打ち解けている証拠だ。
一郎はその姿を、心地よく眺めていた。
そうして紅茶を口にしながら言葉を交わしていると、ふいに個室の外から騒ぎ声が響いた。
女が男に怒鳴っているらしい。
大勢が食事をする広間の方で揉めているようだ。
「もしかして、シャングリアの声じゃないですか?」
エリカが首を傾げた。
一郎も耳を澄ます。
確かにそうだ──。
「行ってみよう」
一郎は立ちあがった。ほかの女たちも続く。
個室を出て大広間側に入ると、人の怒鳴り声と椅子が倒れるような音が響き、すぐに女の叱りつける声が混じる。
シャングリアだ。
彼女は、ふたりの男を相手にして、叩きのめしているところだった。
「どうしたんだ、シャングリア──やめろ」
一郎は声をあげ、さらに蹴り飛ばそうとした彼女を後ろから抱きとめた。
「ひ、ひいっ……す、すみません。ま、まさか、シャングリア様だとは……」
「も、申し訳ありません……。か、勘弁してください……」
床にうずくまるのは、品のなさそうだが、おそらく冒険者だ。まあ、与太者にも見える男ふたりだ。
殴られ蹴られたらしく、情けない声をあげながら身を縮めている。
「なんの騒ぎなんだ?」
一郎は怒りに燃えるシャングリアを羽交い締めにしながら訊いた。
エリカとコゼも広間に出てきて、彼女の剣幕に呆気にとられている。
ミランダは周りを鎮めている。
多くの客たちが手を止め、完全に見物するように集まっていた。
「どうしたもこうしたもあるか。こいつら、わたしに向かって下品な言葉を吐いたのだ。とても卑猥な言葉をな」
シャングリアが声を張る。
一郎は深く嘆息した。
「……そんなことか」
「そんなことって、なんだ──。とても下品な言葉だったのだぞ」
シャングリアは、いまだに憤怒の中にあるようだ。
「その程度でいちいち怒るな。そんな可愛い恰好をしていれば、軽口を叩かれることもある。気にしていたら、王都中の男を殴らなきゃならなくなるぞ」
一郎は言った。
すると、シャングリアの身体から、急に力が抜けた。
「そ、それ、本当か?」
振り返った彼女の頬は赤く染まっていた。
「なにがだ?」
「いまの言葉だ……。わたしが可愛い恰好って言ったことだ」
「えっ……あ、ああ、そうだな……。可愛いさ。短いスカートも似合ってる。俺好みだしね」
一郎が慌てて言うと、シャングリアは破顔した。
「そ、そうか……。可愛いか……。へへ……。嬉しいな。だったら、これからもずっと短いスカートをはくぞ。ロウの前では、いつだってな……」
無邪気に笑う彼女の姿に、一郎の方がたじろいでしまう。
「……あんたたち、さっさと出て行きなさい」
エリカがふたりを追い払っていた。
──やっぱり、シャングリアはシャングリアか……。
一郎は、目の前でにこにこと笑う彼女を見て、改めてそう思った。
14話『襲撃の余興』終わり──
15話『洗脳された筆頭女』に続く
【シャングリア=モーリア・サタルス】
シャングリア=モーリア・サタルス(前28–121)は、第一帝国草創の時代においてロウ=サタルスの妃となり、第二代帝ウラノスを産んだことから「帝母」と尊称された人間族の女性である。
その出自はハロンドール西部のモーリア伯爵家であり、当時「傭兵王」と称された家系の嫡女であった。だが一族は女性の相続を認めず、爵位を継ぐことはかなわなかった。
若き日の彼女は家を出奔して王都に移り、女騎士爵を得て王軍騎士団に列することになる。長身と白銀の長髪は当時からよく知られ、豪胆な性格と相まって「お転婆騎士」と渾名されたという。
冒険者時代のロウと交わったのはこの頃である。
ロウ帝に関する一級資料として名高い『コゼ日記』には、彼女が「押しかけパーティ員」として加わったと記されており、早期からロウの寵愛を受けたことは疑いない。
ロウ自身の私記においても、エリカやコゼと並び「うちの三人娘」と呼ばれている。
(中略)
……同時代の史料は彼女を「剣を執る母」と記すが、後世の伝承ではロウを補佐した「三剣姫」のひとりとして理想化されており、事実と伝説の境界は必ずしも明瞭ではない。
いずれにせよ彼女の存在が、帝国初期の軍事的威信を象徴するものであったことは疑いない。
帝国暦121年、帝都ハロルド宮にて薨去。享年149歳。墓地は、初代帝ロウと妃たちの墓園であるルルドの別宮。
出典:ボルティモア著『万世大辞典』より。以下の再録文献はすべてスクルズ記念国際図書館の許可を得て、初版本より抜粋採録したものである。