【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
099 洗脳師の取引
ランがガリオンに案内されてやってきたのは、王都ハロルドでも、大きな商家が建ち並ぶ界隈の片隅にある建物のひとつであり、そこから地下通路に降りた場所にあった最初の小部屋だった。
調度品もほとんどない殺風景な部屋だ。部屋には簡易寝台がひとつと椅子と、壁際の燭台だけがある。ほかにはなにもない。
ただ、地下全体にはまだまだ部屋がたくさんあるらしい。しかし、一階の階段からおりてすぐの手前の部屋がここであり、その奥になにが潜んでいるのか、考えただけで胸の奥に冷たい不安が走った。
「きょ、今日はここで……ですか……?」
ランは横にいるガリオンに視線を向けた。
鬼畜趣味の男が、こうした殺風景な部屋を選んだことに違和感を覚える。
いつものように大勢の視線に晒されるのではなく、今夜はふたりきりで抱かれるのだろうか──そんな考えがよぎった。
ガリオンは、髭に覆われた面相をいやらしく歪めていた。
四十をとうに越えた中年の体は、厚い胸板とだらしない腹肉が混じり合い、着ている服はくたびれた冒険者風の外套にすぎない。
それでも上質な皮靴や銀の飾り紐を首に垂らし、成り上がりの虚飾を見せびらかしているのがわかった。粗野さと成金趣味が同居した姿だった。
対するランは、かつて王立学校の女学生であった頃の名残のワンピースを身につけていた。
庶民の娘でありながら試験に合格し、無償で学ぶ資格を得て支給されたものだ。
質素ながら清楚な紺色の制服であり、胸に縫い込まれた小さな銀糸の校章は、女学生としての矜持を示すものだった。
だが、それも過去のことにすぎない。ガリオンに命じられるまま、彼女は王立学校を退学してしまった。また、将来のために積み立てていた預金も、養親の生活資金も盗み、すべてガリオンに貢いでしまった。
そのせいで、いまは王都で姿をくらまし、誰にも行方を知られていない。
また、退学した女学生の制服を身につけているのも、ガリオンがそう命じたからである。女学生の制服は、“才女”の象徴であり、その方が「受けがいい」からだそうだ。
どうしてそんなことをし、なぜ、ガリオンに従っているのか、ラン自身にも説明できなかった。
だが、ガリオンの笑い声を耳にしただけで胸が高鳴り、心臓が焼けるように彼を求めてしまう。
好きなのだ。理由はわからない。ただ、その思いは抗えぬまでに強かった。
この髭面の四十男の恋人になってから、なにも知らない少女だったランは、あらゆることを覚えさせられ、あらゆることを強いられてきた。
当たり前の場所だけではなく、口や尻を使って悦ばせることも、彼に命じられれば当然の務めになった。
半裸に近い恥ずかしい服装で賑やかな城郭を歩かされた。
市場の群衆の中で乳房をはだけさせられ、見世物のように晒された。
裏道沿いの酒場では、他の酔客が杯を叩いて囃す中でテーブルに押し伏せられ、むき出しの腰を打ちつけられた。
路地裏で、犬のように四つん這いにされ、首輪をつけられて引き回されたこともある。
また、ガリオンは、自分の女を他人に抱かせて眺めるのをことのほか好んだ。
縄で縛られて三人の男に交代で凌辱されたこともあったし、娼婦の真似事をして裏辻で客をとったこともある。
嫌悪に震え、涙に濡れている自分を、ガリオンは楽しげに見下ろしていた。
大便や小便さえも辱めの道具にされた。
床に這いつくばり、排泄の汚れを舐めさせられた夜の記憶は、いま思い返しても全身が痙攣するほどだ。
ガリオンは、それを「調教」と呼び、女が屈辱に顔を歪めるのをなによりの悦楽とした。
どれほど時が経っても、その調教に慣れることはなかった。
見世物のように辱めを受けるたびに、ランの心は嫌悪と羞恥で覆われた。
それでも、彼と離れられない。
ガリオンの前では、愛と嫌悪がねじれ合い、どうしようもなく彼を求めてしまう。
なぜ離れられないのか、自分でもわからなかった。
ガリオンと出逢ったのは、三箇月ほど前のことだった。
そのころランは、王立学校に通いながら、小さな食堂で給仕の手伝いをして暮らしていた。
庶民の娘にすぎないが、試験に合格して無償で学ぶ資格を得ていたのだ。将来を夢見て蓄えもしており、養親の支えもあり、堅実な未来が約束されているはずだった。
だが、そこにガリオンが現れた。
食堂にふらりと入ってきた彼は、冴えない中年の冒険者で、お世辞にも立派とは言えなかった。
ぱっとしない風采、決して美男子ではない。
年齢も、十八歳のランにとっては父親に近いほど離れている。
話がうまいわけでもない。
ただ、あからさまに好色な視線を送り、露骨な口説き文句を吐いた。
ランは当初、その下品さに腹を立てたのを覚えている。
──けれど……。
なぜか、店を出ていくその背中を見送ったときには、胸の奥にどうしようもない衝動が生まれていた。
「離れたくない」──そう思ってしまったのだ。
理由など説明できない。ただ、その感情に逆らえなかった。
気づけばランは店を飛び出し、ガリオンに声をかけていた。
連れ込まれた安宿の一室で、処女を捧げた。
そして、その日から彼の女になった。
ガリオンに命じられるまま、王立学校を退学し、働いていた食堂も辞め、王都で姿をくらまして、誰からも行方を知られない存在となったのだ。
どうしてそんなことをしたのか、ラン自身にも理解できなかった。
ただひとつ確かなのは、ガリオンの命令に逆らう気力など、とうに失われていたということだった。
そして、いま、ランはいつものように淫らな姿にさせられている。
背中に回した細腕に、革帯がしっかりと巻かれて固定され、腰の括れの後ろで水平に重ねられた両腕は縄で縛り上げられていった。
「いつも、可愛いぞ、ラン」
ガリオンが耳元にささやく。
その声だけで、ランの胸にはぞくぞくとした期待感がこみあげた。
「舌を出せ」
命令とともに、ガリオンの手が顎を押し上げる。
ランは大きく口を開き、舌を差し出した。
命じられれば、どんなことでも逆らってはならない──それが、この三箇月で徹底的に刻み込まれた躾だった。
ガリオンは満足げにその舌を眺め、やがて口を寄せて絡め取る。
舌全体を口で包み込み、長い時間をかけて口腔の奥深くまで舐め回す。
ランの背筋は震え、膝から力が抜けていった。
やがて、ガリオンは口を離した。
まだ舌を戻していいと言われていないので、ランは涎を垂らしたまま、突き出した舌を震わせていた。
「これで終わりかと思うと、もう少し長く愉しんでもよかったかと思うな。まあ、未練が残るくらいが潮時だ。次のご主人様にも可愛がってもらえ」
ガリオンが笑った。
ランは、その言葉に目を丸くした。
「さよならだ、達者でな。普段なら“隷属の首輪”を嵌めて闇奴隷にしてから売り払うのだが……。魔道具で服従を強制した女では調教の妙味が薄れる、というのが先方の注文でな」
それだけ言うと、ガリオンはランを突き放すように部屋を出ていった。
驚きに呑まれたランの前に、入れ替わるように現れたのは、腹の出た初老の男だった。後ろには屈強な従者を従えている。
男はその右手に、細長い杖のようなものを握っていた。
これはどういうこと──?
いまのは本当に別れの言葉──?
ガリオンが自分を捨てるはずはない──そう思いたかったが、胸の奥で恐ろしい予感が膨らんでいく。
「お前が、わしの新しい奴隷か?」
初老の男が、ランの姿態をねっとりと眼で踏みつけるように、上から下まで舐め回すように眺めた。
「あ、あの……あなたは……?」
思わず問いかけると、男の持つ杖がぐいと伸び、ランの腹を突いた。
「んぐううっ」
凄まじい痛みに、ランは悲鳴をあげ、その場にうずくまった。
着衣の上からだったが、杖の先が触れた場所に、電撃のような激痛が走ったのだ。
「な、なにを……?」
下から睨み返そうとした瞬間、杖の先端が首筋に突きつけられる。
「あがああっ」
ランはスカートがめくれるのも構わず、床にひっくり返った。
「立て──立たんか──。さもなくば、何度でも“電撃棒”を食らわせてやるぞ」
電撃棒──。
いまの衝撃で、すでにそれがどういうものか、ランの身体は理解していた。
相手に耐えがたい苦痛を与える魔道具に違いない。
とにかく、ランは必死にその場に立ち上がった。
電撃棒による苦痛と恐怖はなお残り、立ち上がった彼女の膝はがくがくと震えていた。
「お前は、今日からわしの奴隷だ」
「ち、違います……わ、わたしはガリオン様の……」
「ガリオンは、わしにお前を売ったのだ」
「そ、そんな……嘘です──」
ランは信じられなかった。
しかし、初老の男は容赦なく再び電撃棒を突きつけてきた。
鞭のようにしなる先端が当たったのは、彼女が身に着けていた短いスカートの内側だった。
ガリオンの命令で、いつも膝上丈のきわどいスカートを穿かされていたが、その裾を無造作にめくり上げながら、棒の先が滑り込んできたのだ。
しかも、棒の先は、ランがはいている下着の中心に触れていた。
「はぎゃあああっ」
避ける暇もなかった。
思考が飛ぶような激痛が股間に走り、全身を痙攣させる。
気がつけば、ランは失禁しながら、その場にしゃがみ込んでいた。
「小便をもらしたか。ちょうどいい──その尿の上に土下座をしろ。それが奴隷の挨拶だ」
電撃棒がまた伸びる。
ランは慌てて退こうとした。
だが、いつの間にか従者が背後に回り込み、逃げ場を塞いでいた。
逃げられない……。
やむなく、ランは両膝をつき、自分の尿だまりの上に正座をして頭を下げた。
「遅い──それに、額を床につけんか、奴隷が──」
肩にずしんと衝撃が走る。
「ひぎいいっ」
再び電撃棒だ。
ランは自分の尿の上にひっくり返った。
「勝手に寝るな。次に痛がる素振りをしたら、百発叩き込んでやるぞ、奴隷──。言っておくが、この電撃棒はいまのが最大ではない。まだまだ強くできるのだ」
ランは今度こそ、心の底から恐怖に支配された。
もう、この男に逆らおうという気持ちは吹き飛んでいた。
震える手足で起き上がると、正座を整え、額を自分の尿が広がる床に擦りつけた。
「お前は、わしのなんだ?」
初老の男が、上から怒鳴りつける。
「ど、奴隷でございます……」
ランは声を振り絞った。
その頭上から、老獪な哄笑がいつまでも響き続けた。
「愉しんでいるようだな、モルド」
ガリオンは口にしていた杯をテーブルに置き、薄く笑った。
モルド=モルガン男爵がランを責めあげる様子は、この別室からずっと見守っていた。
この地下は、モルドが自らの嗜虐的な趣味を満足させるために造らせた場所であり、ランが拷問まがいの凌辱を受けている部屋は、彼が「調教室」と呼んでいる部屋だ。
調教室の状況は壁に設置された魔道具によって、この部屋の壁一面に映し出されていた。
ランという新しい「玩具」をモルドに差し出したご褒美──それがこの場面だった。
最初は着衣のまま電撃棒で打ちのめされ続けていたが、やがて鎖で宙吊りにされ、学生服をびりびりに破かれた。
そして、モルドに前からも後ろからも一度ずつ貫かれ、肉を裂かれる痛みと電撃の痙攣に同時に喘ぎ続けた。
いまでは、虫の息で吊られている。
「小娘にしては悪くなかった。だが、あまりに素直に屈したのは興醒めだったな。もう少し粘って欲しかったところだ……。まあよい、一箇月は愉しませてもらう」
モルドは椅子に腰を下ろし、杯を傾けながら言った。
ガリオンは肩を竦めて苦笑する。
ランをここまで仕込むのに三箇月を要した。
洗脳術で女の心を捻じ曲げることはできても、一度に縛れるのはひとりだけ。
他に術をかければ前の支配は解け、記憶まで戻ってしまう。
若い女以外には効き目も薄く、男相手には感情を読んだり少し増幅させる程度しかできない。
万能とは程遠い力だ。
かつては大物を狙って失敗し、手配される身となり、裏社会でも、幾つかの組織には賞金をかけられている。
記憶を書き換えることもできず、最終的には隷属の首輪を嵌めて証言を封じるしかない。
それを思い知ってからは、素人娘を虜にして首輪で縛り、好色な豪商や貴族に売りさばく女衒稼業に落ち着いた。
派手に動けば狙われる。小さく稼ぎ、裏の世界で生き延びる方が性に合っていた。
「代金は金貨でよいな。それと、満足した。上乗せして払おう」
モルドが顎をしゃくると、従者が十枚の金貨をテーブルに置いた。
余分に支払いたくなるように、ガリオンが心に揺さぶりをかけたのだ。
「ありがたく受け取ろう」
ガリオンは布袋を取り出し、金貨を滑り込ませた。
「ところで、最後はランに必ず、隷属の首輪をつけて闇奴隷に変えてくれ。俺のことを一切証言できないように命令もしてもらわないと困る」
いつもは、洗脳下のあいだに、隷属の首輪を確実に嵌めておくつもりだった。
術の支配は、ガリオンがほかの女に洗脳術をかければ解けてしまうし、そのときには記憶も残る。
だからこそ、首輪で縛り、証言を封じる必要があるのだ。
「まあ、わかった。処理しておく」
「頼むぞ」
ガリオンは頷き、手元の杯を干した。
すると、モルドが口を開いた。
「ところで、ガリオン。いい仕事をしたお前に頼みがある。以前から目をつけている女がいてな。あれを手に入れてくれれば、さっきの十倍──金貨百枚を払おう」
ガリオンは眉を上げた。
百枚の金貨。女衒稼業としては破格、大仕事である。
「エルフの女だ。名はエリカ。冒険者をしている。偶然見かけたが、あの美しさには驚いた。調べさせたら確かに冒険者だった。あの女を愉しみたい。連れてきてくれれば、約束通り支払おう」
ガリオンは思い出した。
黄金の髪を揺らし、短いスカート姿で颯爽と歩く若いエルフ──エリカ。
四箇月前に現れたばかりだが、女騎士シャングリアを加えた冒険者パーティの一員として評判になっている。
リーダーは平凡な三十男だが、集まっている女が美女揃いであり、しかも、全員が手練れだ
瘴気溜まりの封鎖の功績も重ね、勢いに乗る一団だ。
その女を狙うのは危険だが……。
ガリオンは杯を握りしめた。
若い女なら心を捻じ曲げるのは容易い。
ちょっと術をかければ連れ出すことなど難しくない。
そのままモルドに渡せば、百枚の金貨。
仲間が邪魔なら、女ごと奪ってもいい。
リーダーの男など取るに足らないことはわかっている。問題は、ほかの女だろう。
なにしろ、ガリオンがかけられるのは、一度に一人の女だけ……。
だが、女衒としては、生涯に一度あるかないかの大仕事だ。
これを果たせば、ハロンドールを出る頃合いかもしれない。
タリオ公国、カロリック公国、デセオ公国──どこででも裏稼業は続けられる。
「いいだろう」
ガリオンは低く言った。
「おう、やってくれるか」
「ああ、やってみせよう、モルド」
ガリオンはしっかりと頷いた。