【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
一郎は、耳の奥でざわめきが軋むのを聞いた。
鼻腔を鉄が刺し、床の冷たさが背に貼りつく。腹の奥で火がうずき、呼吸が浅く跳ねた。
目をかすかに開く。
視界は赤に沈んでいた。
視線を落とす。
床板の木目をなぞるように血が広がり、靴先の列を濡らしている。
自分の頭はシャングリアの柔らかな太腿に支えられていた。床に両膝をついてしゃがみ込んでいるシャングリアが、一郎を横から抱きとめ、胸前に押し当てた布で傷を押さえている。
布はすでに黒ずみ、彼女の指の間から温い赤がじわりと滲んでいた。
シャングリアも服も一郎の血で真っ赤に汚れていた。
「止まってくれ……頼む……」
シャングリアが強い力で一郎の腹の傷口を押さえながら、泣きそうな声を出している。
こんなに心細そうなシャングリアは初めてだと思った。
彼女は、喉の奥で必死に嗚咽を噛み殺すように、腕に力を込めている。
また、反対側ではコゼが蒼い顔で身を屈め、血に鼻先を寄せて震える息を整えていた。
「息はあるわ……。でも浅い」
シャングリアが押さえている一郎の傷に鼻を押しつけるように匂いを嗅いでいるコゼの呟きが耳に届く。
広間は騒然としていた。
冒険者と職員が円を描いて立ち尽くし、鎧の留め金が触れ合う乾いた音だけが散っていく。
剣に手をかけたまま固まる者、口元を押さえてうつむく者、落とした帳面を拾えずに膝をつく若いギルド職員。広間は血の匂いで重く、誰も言葉を選べない。
「あ、ご主人様──しっかり──」
一郎が眼を開けたことに気がついたコゼが吠えるように大声をあげる。
「ロウ──」
「ロウ、しっかりして──。早く、治療薬を──」
シャングリア、ミランダも声をあげた。
「大丈夫……だ。回復している……」
一郎は小さく言った。
冷気が腹の内側を這い、背骨へと広がって、同時に、頬を撫でる風がひと筋、胸の底に糸を結んだ。
窓の隙間から流れ込む外気。湿った大気の匂い──。
「ユグドラの癒し」だ──。
あのルルドの泉で女精から授かった祝福……。──ユグドラの癒しは、大地の力そのものが血肉を繋ぐ。建物の内では流れが細いが、外気に触れていれば糸は届く。
いま、その糸が確かに脈へ触れていた。
その癒しが少しずつ一郎を回復させているのだろう。
一郎は、自分のステータスを魔眼で覗く。
ロウ(田中一郎)
人間(外界人)、男
年齢35歳
ジョブ
淫魔師(レベル65)
戦士(レベル1)
生命力:5↑(ユグドラの癒しにより回復中)
攻撃力:20
魔力:0
経験人数:女9
支配女
エリカ(ガリオンの洗脳)
クグルス(魔妖精/淫魔族)
コゼ
シルキー(屋敷妖精)
ミランダ
シャングリア
特殊能力
淫魔力
魔眼
ユグドラの癒し
状態
蠱毒の侵毒
一郎は、エリカに関する表示に妙なものがあることに気がついた。
“ガリオンの洗脳”──?
なんだ、これ……?
一郎は、記憶を思い起こした。
痛みの波に合わせて、刹那の光景が脳裏に蘇る。
エリカ……。
焦点の合わない瞳。見たことのない短剣が手に握られていて、鍔に奇妙な彫りがあり、樹脂を焦がしたような匂い……。
「ロウしっかりしなさい──。布を重ねて。早く、治療薬を──」
ミランダが叫んでいる。
すると、人垣を分けて小柄な影が駆け込んだ。いつもは受付嬢もしているミランダの腹心であるマリーだ。
彼女が木箱を開き、几帳面な手つきで小瓶を取り出す。
「万能治療薬です。かけます」
マリーが小瓶を掲げようとした。
だが、瓶口が血に近づいた瞬間、コゼが身体を乗り出した。
「だめ、かけないで──」
マリーの手首を押さえて、改めて、血に顔を寄せて深く鼻を鳴らす。
そして、蒼白のまま、きっぱりと声を落とした。
「どうしたの、コゼ?」
ミランダが不審な声を出す。
「やっぱり……。この匂いは……蠱毒の魔毒だけど……しかも、悪質なやつ……。薬も術も効果がないわ。むしろ、入れたぶんだけ、毒がそれを喰って広がる……。そういう呪毒が混ざっている。暗殺者がよく使うものよ……」
広間の音がひとつずつ消えた。
マリーの指が震え、小瓶の液面がかすかに揺れる。
周囲の冒険者は息を呑み、ミランダが顔をこわばらせる。
「……最悪ね……。下手に治療しようとすれば、死が早まるということ……? 悪辣な……」
ミランダは言った。
一郎は目を細め、改めて、自身の内へと視線を沈めた。脈に合わせて文字列が立ち上がり、淡く明滅する。
蠱毒の侵毒──。
確かに黒い文字がそこにあった。
「俺を外へ……出せ。すぐにだ」
一郎は言った。
ミランダが一郎を振り返り、驚いたように首を振る。
「動かせば出血が増えるわ。なに言ってんのよ」
「俺が死なないためだ……。俺には秘密があってね」
一郎は口角をあげてみせた。だが、ミランダは逡巡したままだ。
まあ、当たり前か。
数千年も生きている女精から祝福をもらったと説明しても、意味がわからないだろう。
「シャングリア──」
名を呼ぶだけで足りた。
「わかった」
シャングリアは頷き、押さえていた布を片手に移すと、もう片方の腕を背に差し入れて抱き上げる。一郎を横抱きに抱えあげた。
そのまま、扉に走る。
「道を空けろ──。コゼ、扉だ──」
コゼが人垣に肩で道をつけ、冒険者たちが左右に退く。
扉が押し開かれた。
昼の光が広間を洗い、外気の塊が胸へと流れ込む。
力が満ちた。
大地の糸が一気に撚られ、縄になって腹の奥を締める。
黒い影が剝がれ、血の濁りが澄み、裂け目が内側から寄り合っていく。
熱のざわめきが静まり、呼吸が深く落ちた。
「……もういい。下ろしてくれ」
ステータスから“蠱毒”の文字が消えた。一気に生命力も回復している。
「大丈夫か……? どうなっているのだ? 出血が……いや、傷もない?」
シャングリアが横抱きの一郎を見下ろし、唖然としている。
しかし、一郎がもう一度指示したので、そっと膝を折り、一郎を地面に降ろしてくれた。
土の感触が足裏に確かで、痛みはもうない。
「ご主人様──」
コゼが抱きついてきた。
ミランダもほっとしたように、すぐそばで脱力している。
周囲の冒険者が互いに目を見交わし、押し殺していた息がほどけた。
「助かったのね?」
ミランダだ。
「以前に、ルルドの泉に棲む女精を愛し合ったことがある……。そのお礼にと、その女精が祝福をくれた。ありがたいことだ」
一郎は短く笑った。
風がまだ頬を撫でる。
一郎は、ここにはいない、遙か遠くのルルドの泉の女精に感謝した。
「ミランダ、集まっている者は解散させてくれ」
一郎は周囲の人だかりへ顎を向けた。
ミランダが振り返り、腕を高く上げて合図した。輪になっていた冒険者たちが帯を解かれたように散り、大部分はギルドのロビーに戻っていく。
「着替えを用意しますね。すぐに持ってきますから……」
マリーが一郎たちの血で重くなった服を見て、ギルドの建物の中に戻ろうとした。特に、一郎とシャングリアは、一郎の流した血で真っ赤に汚れている。
「不要だ。すぐに、追いかけたい。着替える時間が惜しい」
しかし、一郎は拒絶した。
すぐに、エリカを追いかけた方がいい──。
胸の奥で「急げ」という勘が騒いでいた。
「だが、どうして、エリカはロウを刺したのだ? しかも、魔毒まで使って……」
濡れた革手袋の上から拳を固め、シャングリアが顔を上げる。喉を震わせ、歯を食いしばっていた。
また、コゼは無言のまま眼を細めて、表情を曇らせている。静かな怒りがコゼの中に荒れ狂っているのがわかる。
「洗脳だ……。外から仕掛けられた……。間違いない」
一郎は言った。
「洗脳?」
シャングリアが唖然とした表情になる。コゼもミランダもびっくりしている。
「ミランダ、ガリオンという名に覚えは?」
一郎はミランダを見た。
いまでも、一郎のステータスの中にあるエリカに関する表示には、ガリオンという者に洗脳されているという言葉がある。
「ガリオン……? どこかで耳にしたわね……」
ミランダが考え込む仕草をしたが、そこにマリーの声が割り込んだ。
マリーに視線を向ける。
「ガリオン──。エリカさんを狂わせた手段が洗脳なら、そういう名の洗脳師が冒険者ギルドと王軍の両方から手配書が出ています。賞金も懸かっていたはずです……。確か、狙うのは若い女ばかりで、どんな魔道防護も防護具も効果がないと記録にあったと思います。資料もありますので、探しますね」
マリーが素早く言った。
一郎は小さく頷く。
「ミランダは、資料を探してくれ。俺たちはこのままエリカを追う」
ミランダがマリーに目配せをしてから一郎に「わかった」と応じる。一方で、マリーはギルドの中に駆け込んでいった。
コゼが目の前の地面に張り付くように顔を地面に伏せた。
一心不乱に、なにかを探り出す。
「シャングリア、これを持っていって」
ミランダが胸元のブローチを外して、シャングリアの手に載せる。宝石面が淡く光っている。
「なんだ、これは?」
シャングリアがブローチを受け取りながらミランダを見る。
「位置を返す魔道具よ。あなたたちの居場所がこっちにもわかる。ギルドでマリーと資料を洗ってから、すぐあたしも合流するから……。それと、気をつけてね。さっきのマリーの話なら、そいつは、女を相手に、かなり強力な洗脳術を使うわ。コゼとシャングリアも危険よ」
ミランダがそれだけを言い、ギルドに走って戻った。
そして、三人だけになり、一郎はコゼを振り返る。
ギルドの前は大きな通りになっていて、人通りも多いが、いまのところ一郎たちに気を向けている者はいない。
「……コゼ、追えそうか?」
一郎はしゃがんでいるコゼに声を掛けた。
「……これは比較的、新しい足跡です……。あっちに向かってます……。これは多分、エリカ……。これが、もしかして、そのガリオンという男の足跡かも……。エリカは半分引きずられてますね……。でも、抵抗は小さい……」
コゼが地面に眼を向けたまま説明した。
一郎には、ただの石畳の地面にしか見えないが、アサシンでもあり、有能なシーフとしての能力もあるコゼには、はっきりとわかるのだろう。まるで、見ていたかのようだ。
そのコゼが顔をあげ、通りの少し先に目をこらした。
そして、素早く移動して、またしゃがみ込む。
石畳から土へ変わる境目に指先を滑らせた。泥の縁を軽く押し、匂いを吸って鼻先を引く。
「……やっぱりです。これがエリカ……。踵が少し内に入る癖。靴底の縁に古い欠けが……。泥がまだ新しい……。ああ、こっちにもうひとりですね。わかりました。多分、追えます」
指が別の刻みに移る。歩幅の大きい踏み込みが並び、土に細い筋が斜めに走っていた。
「そう……なのか?」
シャングリアだ。やはり、シャングリアにもわからないみたいだ。一郎だけではないと悟って、ちょっとほっとする。
「……そうよ。これは男ね。歩幅が広い。踵の減りは右寄り。荷重が強いわ」
筋の終いをなぞって立ち上がる。またもや、視線が先を向く。今度はもっと先の三叉の影を射抜いた。
「同じ足跡はあれですね……。エリカの抵抗は小さくなりました……。走って……る。ふたりは走って、あの路地へ曲がってます」
「行こう」
コゼを先導に、少し先の三叉路に向かう。右側が路地だ。
その路地の口に、三人で滑り込んだ。
裏通りの風は湿っていた。焦げた油と古い薬の匂いが層になって鼻を刺す。
移民の長屋が肩を寄せ、路地には屑籠と割れた瓶、なにかの瓦礫が転がっている。こそ泥や徒党を組む不良少年、薬物中毒者が当たり前の顔で徘徊する界隈だ。
物騒でもあり、また、貧民しか暮らしていないような場所だ。
王軍の衛兵もここへは滅多に入ってこない。
ガリオンは、その中をエリカの手首を掴んだまま進んでいる。
所在なげに道端にうずくまっている男たちの視線があちこちから集まってくるのはわかる。
いまのところ、関わろうとする者はいないが、思わぬ誤算だった。
とにかく、このエリカが目立っているのだ。
ガリオン自身はどこにでも溶ける平凡な面だと知っている。それで手配から逃れ、生き延びてきた。
しかし、エリカは違う。
短いスカートから伸びる脚が、白く健康な艶で光っていて、歩調に合わせて太腿の肌がかすかに呼吸し、布の陰影が揺れる。
横目で追うだけのつもりの視線が絡みつき。所在なげにうずくまる男たちの目が、その脚と顔とに吸い寄せられて離れてない。
なによりも、美形で知られているエルフ族の中でも、このエリカは図抜けて整った顔立ちだ。
そして、醸し出す色香が圧倒的だった。
近づけば、汗の塩と草の匂いに似た淡い熱の気配もある。
通り抜けるだけで、空気が一段だけ静まる感じだ。
舌の裏で小さく鳴らす。
厄介だな……。
とにかく、隠れるしかないか……。
「入れ」
廃家の戸を押して、エリカを押し込む。
ガリオンがこのところねぐらにしている場所だ。
蝶番が低く軋んだ。板で塞いだ窓の隙間から、細い光が埃を切る。
床は掃いてある。
錠を落とし、内側から戸木を差す。
「ここは……?」
エリカが室内を見回しながら訊ねた。
言葉にぎこちなさはないが、表情は虚ろだ。ガリオンの洗脳術は強力なので、いつもであれば、こんなにぎこちない雰囲気にはならない。かなりしっかりとした態度になるので、術がかかっていることが周りにはほとんどわからないのだ。
しかし、やはり、このエリカには掛かりが悪い。
やはり、エリカの中のなにかが、ガリオンの洗脳術を邪魔しているのだ。
そのために、わざわざ、エリカ自身に、ロウを殺させたのだが、それでも、ここに来る前のあいだに、数回、ロウのことを思い出すような戸惑いを示し出すことがあった。
刻みが浅い。
重ねても継ぎ目がほどける。
歩くあいだに三度、エリカはガリオンに名を確かめた。反応は揺れていた。
このままでは、洗脳が解けるかもしれない。しかも、長くは保たないかも……。
「いまは、黙れ」
ガリオンは短く告げると、懐から魔道のこもった札を取り出して術を込めた。
灰色の呪糸がふっと解け、壁の刻印が淡く光る。
遮音の輪が閉じた合図だ。
次に、窓枠の下に据えた警戒の石へ指を当てる。
薄い鈴の音が内側だけで揺れた。
侵入があれば強力な攻撃魔道が発動する仕掛けだ。
とりあえず、これでいい。
「あなたは……誰……? ロウ様……じゃないのね……?」
部屋の中心付近で呆然と立っているエリカに視線を向けると、そのエリカがガリオンに向かって、わずかに首を傾げた。
もっとも、眼は焦点を探していて彷徨うように動いている。また、頬の血の色が引いて、髪が額に張りついていた。
ガリオンは大きく嘆息した。
このやり取りを何度繰り返したか……。
「ガリオンだ……。お前の恋人だ……」
「……ガリオン……様?」
名前を確かめる舌が迷う。すぐに沈黙が落ちた。
エリカの心は明らかに葛藤をしている。
名前を名乗ったのも、ガリオンがエリカの恋人だと暗示とともに洗脳術を重ね掛けしたのは、これが最初ではないのだ。
それでも、エリカは時間が経つと、忘れたように、ガリオンのことを訊ね、恋人だという説明に完全に納得のいかない反応を示す。
なぜだ……?
ガリオンがエリカの恋人だという暗示は、洗脳術で確実にエリカにかかっているはずなのに……。
「そうだ。ガリオンだ……。お前の恋人のな……」
「ガリオン……様……。いえ、わたしの……は……ロウ様……じゃ……」
エリカの呟きに、ガリオンは舌打ちした。
「ロウは死んだ。お前が殺しただろう」
ガリオンはエリカに近づき、その両肩を掴む。
エリカの身体がびくんと揺れた。
「ロウ様を……殺した……。殺したわ……。わたしが……。ロウ様を……」
エリカの身体が小刻みに震えだす。
だんだんと、その顔に恐怖の色が浮かび出す。
どうしてだ……。なぜ、刻みが定着しない……?
「俺の眼を見ろ。なにが映っている?」
「なにがって……。わたし……?」
「そうだ。そのまま、俺の眼を追え。視線が動く方向に合わせて、お前の眼も動かすんだ。動かすのは眼だけだ。顔は真っ直ぐに向いたまま……」
ガリオンは視線を右に動かす。
向かい合っているエリカの瞳も同じ方向に動いた。
今度は反対側──。
エリカもそっちを見る。
上──。すると上に……。
そして、下。エリカは下を見た。
洗脳術を注ぐ──。
エリカの顔がすっと無表情になり、次いで微笑んだ。
今度こそ、と喉で言いかけてやめた。
熱が引けばまた綻ぶ。完全はまだない。
もっと深く、もっと奥へ刻む隙が要る。
「さっきは、よくやったぞ。ロウを殺せた。お前が自由になるには必要だった」
耳のすぐそばに落とす。低く、同じ速さで。言葉の形を揃え、同じ場所へ重ねる。
「……必要……だったの……? ……いえ、必要だったわ……。ロウ様を……殺すことが……」
「そうだ。あの男の支配から逃げるためには、殺さなければならなかったし、それは成し遂げた。すでに檻は壊れた。選んだのはお前だ。選べるのは自由な者だけだ。もう戻ることは不可能だ。忘れろ」
「忘れる……。……ロウ様を忘れる……。そうね……。殺したんだもの……。死んだんだから……。わたしは、ガリオン様が好きだし……」
「そうだ。お前は俺が好きだ。俺のためならなんでもする。そうだな?」
「わたしは、ガリオン様のためなら、なんでもします。勿論よ」
細いが芯のある声になっている。
ガリオンは大きく頷く。
そして、エリカを粗布を敷いた床へ導き、壁に背を預けさせた。
「装備を外せ」
留め革が鳴る。剣帯が布の上に落ち、金具が乾いた音を立てた。息が一拍、荒く上下する。
装備を外したエリカは冒険者風の平服だけで粗布の上に立っていた。
額に貼りつく髪が頬で止まり、喉が浅く上下するたび、鎖骨の影がわずかに形を変える。
短い裾の陰で太腿の肌が呼吸の幅でかすかに動き、足裏が床を確かめるたび布が鳴った。
いま、この場で奪いたいという衝動がガリオンの中で形になっていく。
犯す──、という語が舌の裏で重く転がる。押し戻しても、また浮く。
息が重くなり、視界の中心にいるエリカだけが明るく残った。
抱くのだ──。ここで。
その決定が胸に落ち、熱は静かにひとつへ集まった。
それに、よく考えれば、それは都合がいいことだった。
女が絶頂するとき、心は必ず無防備になる。
そこで、洗脳術を刻み直すのだ。
いまの薄い亀裂へ、もう一度、術の楔を打ち込む。
「脚を開いて、スカートをまくれ」
ガリオンは命令した。
エリカが肩をびくりと震わせ、息を呑んだ。
「えっ──は、はい?」
「早くしろ──。命令だ。それとも、俺に逆らうのか」
「ま、まさか……。そ、そんなに怒らないで……ください……」
エリカが足の間隔をそろそろと広げ、つま先の向きを整える。
脚を肩幅ほどに開き、両手で短い裾の縁をつまみ、おずおずと持ち上げていく。
布の陰影がふるえ、浅い吐息がこぼれる。
喉がひとつ上下し、頬から耳の縁へ、薄紅がじわりと広がっていく。
裾の下に白い下着が覗いた。
白い下着は薄く呼吸し、布目の上に小さな丸い染みを作っていた。
濡れてる……?
どこで……?
まあいい……。
熱が上がれば扉は緩む。頂に達した刹那、心の戸締りは解ける。そこへ術を落としてやる。
ガリオンは羞恥に震える目の前のエルフ美女を凝視する。
エリカは視線を横へ流し、睫毛を伏せる。息が熱を帯び、肌の色はさらに濃くなった。
指先が裾を保ったまま微かに震え、握り直すたびに布がかすかに鳴る。
裾は高く保たれた。板の隙から差す細い光が白布の端を淡く縁取り、太腿の輪郭を薄く描いた。
「下着を脱げ」
また一瞬びくんと震えるエリカ……。
だが、逆らわない……。
たくし上げていた裾から片手を離しかけ、ためらってまた掴み直す。
もう一方の手がそっと内側へ滑り、膝の角度を崩さぬよう足裏で床を確かめた。
吐息が耳のそばで細く震えている。
「違う──。スカートはまくりあげていろ。そのまま、片手で下着を脱ぐんだ」
「は、はい……」
声に肩がびくりと揺れる。エリカは片手で裾をまとめるように押さえたまま、腰をゆっくり屈めた。
白い布の染みが濃くなり、うなじまで赤みが上がっていく。
視線は上げない。胸の前で呼吸を数え、指の位置を整えた。
睫毛がひと度だけ震え、衣擦れが起きて止む。
手の中の白布は静かに息づき、室内の空気が一段重くなる。
下着は腰の横で紐で結ぶタイプのものだ。エリカの細い指が腰の横で動き、布切れとなった下着が床に落ちる。
エリカの恥部が露わになった。
驚いたが、エリカの股間には一本の恥毛も生えていなかった。
成熟した女の股間に、童女のような無毛の股間──。
その不似合さがガリオンを異様な興奮へ引きずった。
「まずは、自慰をしろ。自慰をしながら、服を脱いでいけ──」
エリカの瞳が驚いたように大きく見開かれ、吸い込んだ息が喉でほどけた。
頬の紅は深く、白い下着の上の丸い影は小さく脈を打つように見えた。
エリカの指がゆっくりと股間におりていった。