【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「あははははは……ばう、ばう、ばう──ひひひひひ、はははははは──ばう、ばう、ばう……はははははは──ばうばう──」
一郎の眼前で、「犬化の首環」を嵌められたエリカが、笑いと吠えを交互に漏らしていた。意味ある言葉を発しようとしても、魔道具のために、喉から出るのは哀れな鳴き声だけだ。
天井から吊るされた縄に両手を大きく拡げて縛られ、脚もまた杭に結ばれている。
汗に濡れた肌は光を弾き、顎から涎が糸を引き、腿の間からは愛液が垂れて床を濡らす。その量はおびただしいほどのものだ。
羞恥も理性も剥がれ落ち、磔にされた肢体は無様に揺れ続けていた。
一郎は棒付きの羽根を握り、ひたすらに肌を撫で続けている。止めない。逃がさない。四肢を拡げて立たされたままのエリカを、延々とくすぐり続けている。
「……ばう、ばう、ばう──ひひひ、あは……ひぃ……」
整った顔は涙と涎でぐしゃぐしゃに崩れ、苦悶と笑いが交互に走る。
もう、始めてからどれほどの時が過ぎたのか、正確には思い出せない。
ただ、すでに一昼夜以上を超えたような気はする。
エリカは半狂乱──、いや、文字通り、発狂の瀬戸際にあることは間違いなかった。
だが狂うことはできない。
一郎の淫魔術がそれを封じている。
長時間のくすぐり責めをすると決めたとき、手首と足首には柔らかな布を巻き、その上から縄を掛けた。
暴れ方があまりに激しくても肌を裂かせぬよう、術で筋肉をも弛緩させた。
壊すのではない。徹底的に追い詰めるためだ。
責めが効果的になるように、肌が裂ける痛みでさえ、エリカには与えない。
与えるのは、一方的な官能の苦悶のみだ。
「犬の鳴き声と、人間の笑い声と……忙しいことだな、エリカ」
一郎はからかいながら背後に回り、横腹をさわさわと撫でた。何度も責めてきた場所だが、淫魔術で慣れを阻み、皮膚感覚は十倍に引き上げてある。
いまは、さらに眼隠しもしている。
見えない恐怖を加えられた肉体は、羽根の一撫でにさえ発狂しかねない。常軌を逸した反応が、その証拠だった。
「はははははは──あははははは──ひいっ、ばう、ばう、ばう──くふふ……はははは──ばう、ばう──」
泣き笑いに揺れる身体へ、一郎は両手の羽根を脇に差し込む。ほかのところは十倍だが、腋については、感度は二十倍に増幅した。
「ばうばうばうばう──ひぎゃあああ、あははははは──」
エリカは奇声混じりの笑いを撒き散らし、必死に身をよじらせる。
だが羽根で執拗に追い、どんな動きも、一郎の責めから逃げることはできない。
「あはははははは、ばうばう、はははははは──」
笑いの切れ間に、唇が必死に動く。
だが首環の魔力が、意味ある言葉をすべて犬の声へと変換する。
どれだけ許しを乞おうとしても、それは哀れな吠え声にしかならなかった。
ただ、一郎にはわかっていた。
エリカが喉を震わせ、犬の声に変えられた鳴き声の裏に、必死の言葉を潜ませていることを。
──奴隷になる。だから、この責めをやめて欲しい。
その哀願を口にしている。
だが首環の魔力が意味ある言葉を遮断し、人の声をすべて犬の吠え声へと変えている。
嬌声や笑い声だけは残してあるのに、言葉は決して届かない仕掛けだ。
だからエリカは、泣き笑いに混じって、犬の声でひたすら吠え続けるしかなかった。
魔道具の首環を外せば、おそらく、エリカは、すぐに隷属の誓いを口にするだろう。それだけの責めをしている。
だが、それは、責めをやめて欲しいための屈服だ。
しかし、それでは駄目なのだ。
エリカがそういう損得なしに、心から一郎に隷属を誓う状況──これは必要だ。
まだ、そこまでは作れていない。
犯しても精を注いでも無意味だった。ガリオンの〈レベル65〉の洗脳は、それでは覆せなかったのだ。
エリカを正気に戻す唯一の方法は、心の底からの屈服と奴隷の誓い──それしかない。
生半可な降伏では到底足りないのだ。
だからこそ、一郎は必死に調教を続けている。
淫魔師としての一郎の勘は確かだろう。それだけ、〈レベル65〉のガリオンの洗脳術が強固なのだ。
だから、エリカには苛酷だが、一郎もエリカへの調教を続けるしかない。
エリカは、自分への調教は三日で終わると思っているかもしれないが、実際には四日目もある。五日目もある。
それ以上も…….
三日間の調教の魔道契約も嘘だ。シルキーに事前に指示して、エリカにそう思わせただけだ。進んで調教を受けるということを飲み込ませるための方便だ。
最初から、エリカが墜ちきるまで終わるつもりはなかった。
どこまでも続けてやる。
エリカを手放すことは、一郎にとってあり得ない。
だが問題は自分のほうだ、と一郎は内心で笑う。
疲労だ。
責められるエリカは、体力も気力も失っているだろうが、それは責める側の一郎も同じだ。
陽の光のない地下で、どれほどの時間が経ったのか。二日か、三日か──一郎にも、もうわからない。
ただ、エリカとともにいる。
責めては休ませ、休ませてはまた責める。
時間の感覚は消え、昼も夜もない。
苦しめ、愛し、また苦しめる。
汗も、涎も、愛液も、すべてを搾り尽くさせ、その雌の匂いを嗅ぎながら、一郎は裸身に触れ続けた。
一郎自身もまた、思考が歪み始めている。
理性が溶け、倒錯の熱に染まっているのを、はっきり自覚していた。
エリカと一緒に……底無しに墜ちる。
「はがががが──ひゃ、ひゃはははは、ひゃひゃひゃひゃ、ひゃああああ──」
そのとき、エリカの笑い声が、不自然に途切れがちになった。
これまでに二十回以上、くすぐりの果てに窒息寸前まで追い込まれ、意識を手放してきた。
その兆候は、もう聞き分けられる。
「気絶するなよ。今度、落ちたら、目を覚ます前に肉芽へ痒み薬を塗り込んでおくぞ」
一郎は羽根を止めない。片手は脇をえぐり続け、もう片方は股の裏を回して、肉芽の周囲を撫で上げる。
そこには、すでに十度近く塗り直された掻痒剤がどろりとこびり付いている。
くすぐりと痒みに挟み撃ちにされ、発狂寸前の苦悶に喘いでいることは疑いようもない。
触れるか触れないかの微細な刺激が、なおさら地獄に変わる。
エリカの全身ががくがくと震え、喉から絶息に似た声が漏れた。
次の瞬間、項垂れるように首が落ち、身体の力が抜ける。
──また気絶か。
そして、エリカが意識を失うと同時に、彼女の股間から小便と大便が一度にじょろじょろと垂れ落ちた。
「シルキー、また仕事だ。床と身体を清めてやってくれ」
一郎は羽根を置き、椅子に深く腰を下ろした。
入れ替わるように、屋敷妖精のシルキーが姿を現す。
普段は姿を消しているが、実際には四六時中、エリカを監視してもらっている。
責めの最中も例外ではない。万が一を防ぐために、一郎はエリカには必ず目を光らせてある。
調教室の壁際のソファに腰をおろす。
背もたれに沈み、瞼を閉じる。
疲労が自分の骨の芯まで染み込んでいるのがわかる。
責めている自分ですらこうだ。責められる側のエリカは──辛いだろうな……。
一郎は、大きく嘆息した。
「かしこまりました、旦那様……。ところで、一階に戻ったとき、コゼ様やシャングリア様が寂しがっておられました」
「そうか。まだ少し時間がかかると伝えてくれ」
一郎は目を閉じたまま言った。
「それと、ミランダ様が来訪されました。旦那様とエリカ様はまだ地下にとお伝えすると、夕方にまた様子を見に来ると申してお帰りになられました」
「ミランダが?」
一郎は半ば眠りかけていた目を開けた。
シルキーは一郎とともに、エリカの監視を続けているが、屋敷妖精として来客への応対も欠かせない。
だから、一階でコゼやシャングリアと話を交わし、訪れたミランダにも顔を合わせたのだろう。
一方で、エリカの排泄物は、すでにシルキーの魔術で消され、痕跡も匂いも残っていなかった。
いまは桶に湯を張り、布を浸してはエリカの尻と股間を丁寧に拭き清めている。
「はい。ミランダ様もご心配でした。エリカ様のことだけではなく、旦那様のことも。食事を取らせよと、わたくしに厳しく言い残されました」
「……食事は……している」
「いえ、隣室に軽く口にできるものを用意しておりますのに、旦那様はエリカ様が眠られるとすぐ休んでしまわれ、ほとんど召し上がられません」
布を操りながらシルキーが言う。
確かに、一郎はろくに食べていない。最後にまともに口にしたのは、初日に木馬責めの合間で、コゼたちと一緒に一階で食べた時だろう。
それ以降は、地下に籠り、苛酷な調教を続けるうちに、食事をまともに取らなくなった。
そもそも、エリカにも、一日に一食しか与えていないのだ。水はふんだんに飲ませているが、食事を制限しているのは体力を奪うためだ。
調教はまず体力を削ぐことから始める──それが基本だ。
体力を失えば、気力も崩れ、抵抗心を保てなくなる。
食事、眠り、休息、用便……生きるためのすべてを、罰と褒美に変える。
それらを操り、服従を刻み込む。
エリカにそんな時間を強要しているので、一郎だけ十分に栄養を取るのは申し訳ない気がして、それで一郎も食事を控えめにしていた。
「エリカが堕ちたら、一階で皆と食事をするよ……。それよりミランダが来たとはどういうことだ? いまは夜じゃなくて昼間なのか? そもそも、確か、ミランダは昨日も来ただろう。それなのに、今日も来たのか? 律儀なことだ」
一郎は苦笑を洩らした。
疲労で記憶が曖昧だが、一郎が射殺したガリオンについての処理が終わったと、ミランダが屋敷に伝えに来たのは、エリカへの調教を開始した日の夜だった。
ギルドからも王軍からも賞金がかけられていたことで、まとまった額が渡されるそうだ。
そのときには、すでに一郎は地下に籠もることを決めており、ミランダと顔を合わせることはなかった。
ただ、彼女の訪問と用件は屋敷妖精のシルキーから聞かされていた。
すると、シルキーはにっこりと微笑んだ。
「いまは朝でございます、旦那様……。それにミランダ様が前回来られたのは二日前でございます」
「いまは朝……。二日前……?」
一郎は眉をひそめた。
だが、言われてみれば確かに朝かもしれない。それはいい。
問題は──調教を開始してから、いったい何日が経っているのかということだ。
初日は逆さ吊りに木馬責め、陰核吊りに数時間の放置をした。
一連の調教は、そうやって、反抗には罰を刻み込むところから始めた。
エリカの口から反抗の言葉が出ることはそれでなくなった。
それを確認してから半日休ませ、次は「犬化の首環」を嵌めたのだ。
徹底して雌犬として振る舞わせ、食事も用便も洗浄さえも犬のようにさせた。
自分を愚かな存在としか思えなくなるまで、頭で考える余地を奪うように“犬”を叩き込んだ。
その後も、浣腸責め、丸太に拘束しての回転責め、さらには電撃棒による苦痛──。
“犬”として躾けられる屈辱を浴びせる一方で、素直に従えば快感を与えた。
反抗には罰──。服従には快感──。
尊厳を徹底的に潰し、奴隷としての心を刻む。
時間の感覚はすでに曖昧にした。
わざと一日のサイクルを不規則にした。これもまた責めの一環だ。
だが、その結果、一郎までも時間感覚が消えたようだ。
一昼夜か、二昼夜か……いや、もっとかもしれない。
ただひとつ確かなのは、初日のような一郎への憎悪は、もはやエリカには見られなくなったことだ。
エリカの屈服は進んでいる──一郎はそう判断した。
シルキーがくすくすと笑った。
「旦那様、あの偽の魔道契約の三日は、とうに過ぎております。わたくしは“契約の仲介”をしたふりをいたしましたが、あれから四度の夜が流れました。つまり、今日は四日目でございます」
「……四日目?」
一郎は息を呑んだ。
だが、そういうことかと思った。
初日の夜、ミランダは三日間の調教という話を耳にしていたはずだ。
だから、「三日間」が終わる今朝、様子を見に来たのだろう。
「ええ、旦那様。ですから、コゼ様もシャングリア様も大変にご心配でした。わたくしは質問攻めになりました」
シルキーが桶と布を片付ける。エリカの身体の手入れは済んだが、彼女はまだ目を覚まさない。
「そうか……。地下には降りてくるなって、厳命したからな」
一郎は言った。
「旦那様、少し休まれては? コゼ様とシャングリア様も、ご心配なさっています」
「いや、四日目か……。だったら、そろそろけりを付けよう──。これから最後の責めに入る」
「最後……でございますか?」
シルキーが目を見開く。
潮時だ──一郎は思った。
これまでの責めは布石に過ぎない。エリカを心から墜とし、ガリオンの〈レベル65〉の洗脳を打ち破るには、仕上げが必要だった。
「うん。最後は俺の淫魔力を総動員する。そして仕上げは──例のものだ。頼んだものの準備は整っているか?」
一郎は静かに笑んだ。