※この作品はR-18です。

【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】   作:ドン・ドナシアン

113 / 263
110 究極の寸止め

 感じたのは、ただの静寂だった。

 なにもない空間。

 

 エリカの前には完全な“無”が拡がっていた。

 闇とも違う。

 暗闇ではない。

 光がないだけの、徹底した欠如。

 

 “無”だ。

 

 目が覚めた直後、目隠しをされているのだと思った。だが、違う。顔に巻かれた感触はない。

 いや、顔どころか──身体の感覚そのものが消えていた。

 立っているのか、寝ているのかさえわからない。

 

 感覚という感覚が剝ぎ取られている。

 

 エリカは戸惑った。

 なにもない空間……。

 ここは、なにもかもが存在しない場所だ。

 自分自身すら、溶かされてしまったように思える。

 

「だ、誰か……」

 

 声を出したつもりだった。

 確かに言葉は発した。犬の鳴き声ではない。首環は外されたらしい──。そう思った。

 

 しかし、一瞬でその確信は揺らぐ。

 さっきの声は人間の声ではなく、やはり犬の鳴き声だったのかもしれない。

 いや、そもそも本当に声など出ていなかったのではないか……?

 

 なにかがおかしい。

 もう一度声を出してみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰か──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 はっとした。

 今度は声そのものが消えていた。

 

 なんだこれ……。

 恐怖が胸を締めつけた。

 身体が動かないのは拘束されているからではない。

 身体そのものが存在しないから、動かしようがないのだ。

 

 なにも見えない。

 なにも聞こえない。

 なにも感じない。

 

 全身の奥にかすかな疼きだけが残って、解き放たれることなく途切れていく。

 まるで熱を吸い取られたみたいに、心臓の鼓動さえ虚ろになった。

 

 これが“死”なのか──。

 強烈な不安が押し寄せた。

 

 それとも、ロウがなにかをしている……?

 わからない。

 

 エリカは必死に記憶を探る。

 目隠しをされ、羽根で延々とくすぐられた。

 息ができずに何度も失神し、そのたびに同じ責めを繰り返された。

 股間には痒み剤を塗られた。

 

 正気は削られ、最後に覚えているのはそこまでだ。

 その後どうなったのか……。

 

 なにも見えない。

 なにも聞こえない。

 なにも感じない。

 

 解き放たれそうで、決して届かない。

 疼きだけが残り、心をかき乱して消えていく。

 

 エリカは息が詰まるような不安に襲われた。

 なにも見えない。

 なにも聞こえない。

 なにも感じない。

 なにも……。

 ない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリカは待った。

 なにかが起きるのを待つしかなかった。

 どれほど時間が過ぎただろう。

 

 少なくとも丸一日は経ったはずだ──そう思う。

 しかし、相変わらず感覚は戻らない。

 

 視界もない。

 音もない。

 触れるものもない。

 自分の存在さえも感じられない。

 

 眠りは訪れる。

 延々と無の中で漂い、やがて眠気がやってくる。眠れば一日が終わる。

 だが、目を覚ませば、また同じ世界が待っている。

 

 食欲もない。

 喉の渇きもない。

 なにも存在しない世界──。

 

 これが、いまのエリカのすべてだった。

 

「ロウ……。ロウ様……?」

 

 呼びかけようとした。

 だが、口から声は出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おかしい……。

 これは異常だ。

 自分は死んだのか。

 どのくらいの時間が経ったのか。

 少なくとも二日……。

 あるいは三日……。

 

 ここでは、時間の感覚を保つのは難しい。

 ただ、なにも感じることのできない時間が、際限なく流れていくだけだった。

 

 存在するのは、エリカ自身の意思のみ。

 ほかにはなにもない。

 

 あるのは、眠りによって区切られる一日という感覚……。

 それすらも怪しい。

 

 起きて──。

 眠って──。

 また起きて──。そして、寝る……。

 

 それだけの繰り返し。

 

 気が狂いそうだった。

 

 なにもない。

 なにも……。

 

 本当にここは死後の世界なのか──。

 そう思い始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう駄目だ。

 

 エリカは気が狂いそうだった。

 何日がすぎたのか、わからない。

 感覚を奪われた場所で、ただ覚醒と眠りを繰り返すだけの生活。

 

 気が狂う……。

 いや、すでに狂っているのかもしれない。

 

 誰か……。

 誰でもいい……。

 自分をここから出して……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──突然だった。

 

 胸に、なにかが触れた。

 

 その瞬間、エリカは絶叫した。

 実際には声は出なかったが、心の奥では確かに叫んでいた。

 

 数日ぶりに訪れた、感覚──。

 存在しないはずの身体に、確かに戻ってきた乳房の感触。

 

 しかも、これは……ロウだ。

 ロウの手だ。

 

 胸の奥に熱が走る。

 長すぎる空虚を埋めるように、溶かすように、感覚が戻ってきた。

 

 誰の手であっても嬉しかっただろう。

 だが、それがロウのものだとわかったとき、エリカは狂おしいほどの安堵と悦びに震えた。

 

 心の奥底から、甘い疼きが拡がっていく。

 忘れていた快感が蘇り、ひとつの胸に触れられただけで全身が歓喜した。

 

 それは、揉むでもなく、擦るでもなく、ただ手を置かれただけ。

 

 ──なのに。

 

 その手が、やがて遠のいた。

 

 途端に胸の熱が消え、心の奥に冷たい風が吹き込む。

 再びすべてを奪われる絶望。

 

 もう一度……。

 もう一度だけでも……。

 

 エリカは待った。

 けれど、手の感触は戻ってこなかった。

 

 またもや、ひとりきりで放置された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 エリカの乳房に触れていた手をどけた。

 ほんの数瞬のことにすぎない。だが、無の世界に囚われていたエリカにとっては、永遠にも等しい時間、触れられていたように感じられただろう。

 

「エリカ様は、いま悲しそうな顔をしておられます。どうされたのでしょう? 眠っているような……でも違うような。まったく身動きもしませんし」

 

 シルキーが不思議そうに言った。

 一郎は寝台の横に腰かけ、シルキーはその傍らに立っている。

 寝台の上、裸身のエリカは天井を仰いだまま、ぴくりとも動かない。

 こうしてから小一時間──こちらの時間で一ノスほどが経っていた。

 

「俺の淫魔力で、五感を完全に遮断している。エリカはいま、なにも見えず、なにも聞こえず、匂いも感じない。自分の身体の存在すらわからない。あらゆる感覚を絶たれている」

 

「そんなことができるのですか、旦那様……?」

 

 屋敷妖精のシルキーが目を丸くした。

 

「できるのさ……。支配している性奴隷に限ってのことだけどね……。それだけじゃない。いまは時間感覚も狂わせてある。百倍以上の速度で内側の時間が流れるように感じさせている。エリカの体感では、すでに数日が経っているはずだ」

 

「……それは……生易しい責めではありませんね」

 

「そうだな……。俺の知識では、人を発狂させるには半日も感覚を断てば十分だ。それを体感で数日も続けている。だが、発狂はさせない。そこも俺の支配下だ。すべてを制御し、壊させはしない。ただ──俺を不可欠な存在として、心に刻みつける」

 

 一郎は淡々と告げた。

 

「……なにも感じられない日々を繰り返し、その果てに突然、他者の存在を感じたらどうなると思う?」

 

「想像は難しいですが……きっと、強烈な存在として焼きつき、ありがたく受けとめるのでは……」

 

「俺もそう思う。恋しさで発狂するほどに求めるだろう。どれだけ恐怖や憎しみを抱いていても、それを忘れ、相手の支配から抜けられなくなる」

 

 一郎はそう言って、無防備に晒された股間へ手を伸ばした。

 肉芽を指でくるりと押し回し、そして離す。

 エリカの身体は、瞬時に絶頂直前の反応を示して、身体を突っ張らせて激しく震わせた。

 

 だが、そこで止める。

 また、時間感覚を遮断してやる。

 この状態で、延々と時間を過ごすのだ。

 果たして、エリカはどうなるか?

 一郎はほくそ笑んだ。

 

 与えられそうで与えられない。

 その一瞬の刺激だけを残して、再びすべてを奪うのだ。

 

 


 

 

いきなりだった。

 

 股間に電撃のような衝撃が走った。

 存在しないはずの身体に、再び指の感覚が戻ってきた。

 誰の指なのか──わからない。

 けれど、これはきっとロウだ。そう信じた。

 

 なにもない空間。

 何日も何日も、ただ放置され続けたあとに与えられる、狂おしいほどの快感。

 

 こんなことができるのは、ロウしかいない。

 調教だとわかっていても、もう抗えなかった。

 

 熱い……。

 あまりにも気持ちよすぎる。

 

 いまのエリカにあるのは、肉芽に触れる指先の愛撫だけ。

 そこ以外の感覚は存在しない。

 けれど、その一点こそが全身になった。

 

 肉芽が、全身の疼き。

 肉芽が、心の奥のすべて。

 

 甘い喜悦が奔流のように押し寄せ、身体という枠を打ち砕いていく。

 

 これは罠だ──。

 理性の残滓が、そう警告する。

 だが、心も身体も従わない。

 情けないほどに、もっと欲しいと渇望してしまう。

 

 ロウの愛撫は続いた。

 

 長い。

 果てしなく長く続いている気がした。

 単なる快感では済まされないほどの衝撃が、何度も全身を駆け抜ける。

 

 絶叫したかった。

 

 全身をよじって、痙攣したかった。

 

 けれど、できない。

 動けない。

 声も出せない。

 

 あるのは、ただ肉芽を嬲られる感覚だけ。

 その異様な甘美に溺れ、夢とうつつの狭間に沈んでいく。

 

 だが、ついに、待っていたものはやってきた。

 ロウの愛撫だと想うものが、明らかにエリカを追い詰めるものに変化した。

 快感が一気に弾け飛ぶ──。

 

 いや、いかない。

 いけない──。

 

 ぎりぎりで途切れたのだ。

 そのまま、絶頂寸前のもどかしい状態のまま、快感はあがりもせず、それでいて、さがりもせず、そのままとり残された。

 

 ──指も唐突に離れていった。

 

 肉芽の感覚が、跡形もなく消えている。

 

 再び、なにもない。

 

 胸の奥がざわめき、恐怖と渇望がないまぜになって広がる。

 戻った身体の熱をそのままにして、またもひとりぼっちに放り出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「エリカ様、とても嬉しそうなお顔をされていました。……でも、すぐに、とても辛そうなお顔に……」

 

 シルキーが小声で呟いた。

 

「そうだな」

 

 一郎は小さく頷いた。

 

「……思った以上に効いている。俺の指に嫌悪を示すどころか、渇望していた。……もう一度確かめてみるか。今度は声も与えてやろう。やっぱり、女を堕とすには、寸止めだな」

 

 一郎はうそぶく。

 寝台に横たわるエリカは、いまだ身動きひとつしない。

 その顔に残る喜悦の影と寂寥の色を確かめるように、一郎は静かに口を開いた。

 

「エリカ?」

 

 呼びかけと同時に、指先で肉芽をくすぐる。

 解放を許さないまま、再び甘い衝撃だけを送り込む。

 

 


 

 

「エリカ?」

 

 頭の奥に突然、声が響いた。

 ロウの声──。

 間違いない。

 

 股間に衝撃を受けてから、もう半日ほどがすぎていたのだろうか。

 やっと、確かめられた。

 やっぱりロウ……。その安堵が胸を満たした。

 

 次の瞬間、再び肉芽に甘い刺激が走った。

 それに触れた途端、全身が渇望していたのはこれだと理解する。

 

 身体が熱い。

 肉体そのものを知覚できなくても、熱だけは確かに感じる。

 もう、堰が切れそう……。

 

 理性を砕くような愛撫。

 気持ちよくて、頭が真っ白になる。

 ああ、これ以上は……。

 

「エリカ、俺の性奴隷になれ」

 

 再び、声。

 

「……えっ?」

 

 驚愕した。

 口が──舌が──動く。

 突然、喋る感覚が戻ってきたのだ。

 とっさに声を発したが、言葉にはならなかった。

 

 その直後、股間を嬲っていた指の感触が、ぷつりと消えた。

 耳に届いていたはずの声さえ、遮断される。

 

 再び訪れる「無」。

 

 信じられなかった。

 そして、愕然とした。

 

 なぜ答えなかったのか。

 たった一瞬の逡巡で、ロウに見放されたのではないか。

 胸を締めつける悔悟が襲う。

 

 確かに、自分の奥底にはロウを拒む感情も残っていた。

 だが、それは微かな影にすぎない。

 

 ──あれは唯一の機会だったのかもしれない。

 受け入れると伝える最後の機会を、自分は取り逃がしたのだ。

 

 その後悔に、全身が沈み込んだ。

 

 


 

 

「エリカ、俺の性奴隷になれ──」

 

 一郎はそう告げ、同時にエリカの口の感覚を戻した。

 反応を試したかったのだ。

 

「……えっ?」

 

 返ってきたのは、当惑だけを含んだ声。

 一郎は苦笑を浮かべる。

 

 無理もない。

 現実の時間では一瞬にすぎなくても、エリカにとっては十日以上も失われていた言葉の感覚だ。

 その舌と唇に、唐突に「答えろ」と迫られても、まともに応じられるはずがない。

 

 ──ならば、もっと追い詰めてやればいい。

 

 外部からの刺激に渇き切った飢餓の状態にまで落としてから、最後の問いを突きつける。

 そのとき、エリカは必ず墜ちる。

 一郎は確信していた。

 

 股間に触れていた指を離すと同時に、再び感覚を閉ざす。

 流れていた時間の錯覚も元に戻す。

 エリカの内側では、再び現実の百倍もの時が進み始めた。

 

「シルキー、半ノスほど寝る。そのあとは必ず起こせ」

 

 一郎はそう命じ、壁際の椅子に深く腰をかける。

 

 半ノス──。

 自分にとってはわずか二十分程度……。

 だが、百倍の速度を強いられているエリカにとっては、一日を超える時間。

 

 淫魔力を張りつめ続ける負担は重い。

 全身に疲労がのしかかり、思考も霞んでいく。

 

 限界に近い。

 

 一郎はそのまま、音もなく眠りに沈んだ。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 睡魔に襲われ、一日が過ぎたとわかった。

 エリカは、もう絶望的だった。

 

 ロウに見放された。

 そう考えるしかない。

 

 どうして、あのときすぐに答えなかったのか。

 そればかりを胸の奥で繰り返す。

 

 股間に触れられたときの幸福──。

 それはもう跡形もなく消えていた。

 

 残されたのは、なにもない世界に取り残される悲しみと、寂しさだけ。

 救いを与えられるのはロウしかいない。

 そのロウに差し伸べられた手を、自分は無視という最悪のかたちで拒んでしまった。

 

 もう一度……。

 もう一度、機会があれば。

 

 けれど、本当に与えられるのだろうか。

 胸が張り裂けそうになる。

 

 エリカは絶望を抱いたまま、再び眠りへ落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 覚醒した。

 だが、そこにあるのは再び「無」の空間。

 

 なにもない。

 なにも……。

 

 恐怖が全身を締めつける。

 

 ロウ……。

 

 ロウは、今日は来てくれるだろうか。

 

 もう一度だけでいい。

 もう一度だけ、思い出してほしい。

 もう一度だけ、あの問いを投げかけてほしい。

 

 もう一度だけ……。

 

 もう一度だけ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう一度だけ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「……旦那様……」

 

 シルキーの声がした。

 一郎は眼を開いた。

 

「半ノスか?」

 

 眠りについたばかりのように思ったが、もうそれだけの時間が経ったのだ。

 しかし、疲労で重かったはずの身体は、妙にすっきりしている。

 短い時間ながら深い眠りに沈んでいたのだろう。

 

 一郎は立ち上がり、寝台に横たわるエリカのもとへ。

 相変わらず、エリカは石のように微動だにしない。

 

 とりあえず、一郎はエリカの時間感覚を操る術を解いた。

 これで、彼女の体感時間は現実と一致する。

 

 すると──エリカの唇がわずかに震えた。

 閉じられた瞳の端から、涙が一筋こぼれる。

 いまだ五感の大半は遮断されたまま。

 それでも、無意識は感情を隠せずに外へ洩れ出していた。

 

「……エリカ様は、なにかを呟いているようです……」

 

 シルキーが小さく言った。

 

「……そうだな」

 

 一郎は言語の感覚を戻した。

 

「……もう一度……もう一度……もう一度……」

 

 エリカの口から、切羽詰まった呟きが洩れる。

 

「もう一度?」

 

 一郎は眉をひそめた。

 なにを、もう一度──。

 

 だが、答えを出す必要もない。

 一郎は彼女の聴覚を解放し、さらに──性器だけの触覚を戻した。

 他はすべて遮断のまま。

 

 寝台に跨り、怒張を露わにしつつ、指で秘所を探る。

 

「……はあ……はっ……はあ……」

 

 半ば意識のない吐息が、エリカの唇から零れた。

 愛撫を続けるうちに、腰がもじもじと動き始める。

 甘い響きが、洩れる息の端に混じりだす。

 

 どこを、どの角度で、どれほどの強さで触れれば、彼女が狂わされるか──。

 一郎はすべてを知っている。

 

 肉芽が跳ね、蜜が溢れる。

 その熱に導かれるように、一郎は肉棒を突き入れた。

 すんなりと、膣が怒張を呑み込む。

 意識の深淵に閉ざされたはずの女が、そこだけ別の意志を持つかのように、強く締めつけてくる。

 

 嗅覚と聴覚を戻す。

 残す遮断は、視覚と肉体の他部位の触覚だけ。

 

「エリカ──俺の性奴隷になるな?」

 

 一郎の低い声が、耳を打つ。

 

「は、はい──。な、なります──。なりますから、捨てないで──」

 

 エリカは必死の声で縋りついた。

 

 


 

 

 エリカは混乱していた。

 突然に始まった愛撫──。

 そして、いきなり襲った股間を貫く男性器の感触──。

 

 ロウ──。

 

 ロウの性器だ──。

 エリカの知っている、唯一の「本物」の男の証。

 

 もう、なにも考えられなかった。

 遮断されていた身体の全てが、一点から噴き出すように熱を帯び、快楽に飲み込まれていく。

 ほかの感覚が欠けていても、ロウだけははっきりと感じ取れる。

 

 幸福だった。

 

 ロウの気配が重く覆いかぶさる。

 それだけで、全身が震え上がり、昇り詰めそうになる。

 いや、もう達していたのかもしれない。

 絶頂なのか、それともまだなのか。

 境界が見えないほどの悦楽が、ロウに貫かれているという事実から迸った。

 

 そして──匂いが押し寄せた。

 汗の香り。

 雄の匂い。

 逞しい存在そのものの香気が、頭の奥まで侵入してくる。

 

 エリカは歓喜と同時に、恐怖で胸を締めつけられた。

 ロウを繋ぎ留めなければ……。

 また捨てられる……。

 あの孤独の空間へ戻されてしまう……。

 

「エリカ、俺の性奴隷になるな?」

 

 ロウの声がした。

 

「は、はい──。な、なります──。なりますから、捨てないで──」

 

 間髪も置かず、エリカは叫んでいた。

 その刹那、ロウの腰の律動が激しさを増す。

 エリカは我を失った。

 

 光が走った。

 

 戻った視界に飛び込んできたのは、エリカを犯してくれているロウの顔だった。

 

「ロ、ロウ様──ああ、いく、いぐうううっ──」

 

 絶頂の波がエリカを押し流す。

 身体が痙攣し、寝台の上で大きく跳ねる。

 気づけば、全身の感覚が蘇っていた。

 ここは屋敷の地下室。

 背には寝台の感触──。

 仰向けのまま、一郎に貫かれている。

 

「ああっ……」

 

 最高の快楽に、エリカは飲み込まれた。

 

「エリカ、戻って来い──」

 

 ロウの叫びが響いた。

 次の瞬間、エリカの奥で性器が脈打ち、子宮へと熱い奔流が注ぎ込まれる。

 

 そして──。

 

 

 

 

 

 

 

 眼の前の世界が劇的に変貌する感触が、エリカを圧倒した。

 

 


 

 

 一郎は腰を深く沈め、熱を注ぎ込んだ。

 

「エリカ、戻って来い──」

 

 精を放つと同時に強く呼び掛けた。

 その瞬間、エリカの身体が大きく痙攣し、涙を流しながら嗚咽を洩らす。

 長い孤独の果てに辿り着いた歓喜が、彼女を満たしているのがわかった。

 

 一郎は魔眼を開いた。

 

 

 

 エリカ

  エルフ族、女

   冒険者A(アルファ)

  年齢:18歳

  ……

  ……

  状態

   一郎の性奴隷

   淫魔師の恩恵

 

 

 

 洗脳の痕跡はどこにもなかった。

 安堵の息を吐き、エリカの身体を強く抱き寄せる。

 

「お帰り、エリカ」

 

 耳元で囁き、二度と離さぬように強く抱き締めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。