※この作品はR-18です。

【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】   作:ドン・ドナシアン

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111 一番奴隷の証

 ロウの声が耳もとに落ちた。

 

「お帰り、エリカ」

 

 その瞬間、斬鉄の刃を深々と突き立てた感触が蘇る。

 ギルド本部の石床に血が散った光景が脳裏に閃いた。

 ロウに、あの「ユグドラの癒し」がなければ、致命になっていた──そう思うと全身が総毛立つ。

 

 どうして、そんなことができたのか。

 殺してもいいとまで思い、憎しみを吐き続けた。

 その記憶があまりにも鮮明で、胸を抉られる。

 

「ああ──っ、ああああっ……いやあああ──っ」

 

 絶叫が途切れ、次の瞬間には錯乱した声に変わる。

 発する言葉はもはや意味をなさず、悔悟と恐怖が絡み合った叫びだけが残った。

 赦しを乞いたいのではない。赦せるはずがない。

 なによりも、自分自身がその行為を許せない。

 それが恐怖となって押し寄せ、ロウに捨てられる未来を思い描くだけで、身を切られるように苦しい。

 

「あああああ──っ……ああああああっ」

 

 叫びはもはや意味をなさず、壊れた声が喉を裂くように迸った。

 頭の中で、エリカに腹を刺されて血だまりに沈むロウの姿が繰り返している。

 

「エリカ──」

 

 ロウが暴れるエリカを強く抱き締めながら、もう一度、エリカの名を呼ぶ。

 ぐっと股間を貫いていた怒張を一度抜き、再び深く突き入れた。

 

「んふうううっ」

 

 凄まじい快感が弾け、思考が吹き飛ぶ。

 律動に合わせて声は絶叫から嬌声へ変わり、エリカは無意識にロウへしがみついていた。

 いつの間にか、拘束はなかった。

 寝台に仰向けに横たわり、覆いかぶさるロウに貫かれている──ただそれだけが現実だった。

 

「ああ、ロウ様、ロウ様……ご、ごめんなさい……。わ、わたし……ああっ」

 

 快楽に呑まれながらも、散らばっていた記憶と感情がひとつに繋がっていく。

 つまりは──操られていた。

 ガリオンの暗示によって、ロウを憎むように仕向けられていたのだ。

 それをロウが何日もかけて解いてくれた。そのことが、いまはっきりと理解できた。

 震えるほどの感謝が胸を満たす。だが同時に、あんなにも憎しみ続けた自分が信じられず、許せなかった。

 激しい悔悟で嘔吐さえ込みあがる。

 

「ああ、あっ……ロ、ロウ様……」

 

 言葉にならない。

 恐怖と怒りが入り混じる。捨てられる恐怖。操られていたとはいえ、憎んだ自分への怒り。

 そして、なによりも──いまでも、ロウを殺そうとしたあの瞬間の殺意が、鮮やかに甦ってしまうのだ。

 

「エリカ、戻ったな──。いいか、忘れろ。あれはごっこ遊びだ。ただのプレイだ。いいから、いまの俺を感じろ」

 

 ロウが腰を強く打ち込む。

 敏感な場所を同時に抉られ、閃光のような快感が全身を走った。

 

「あああああっ、ロウ様──ああ、ロウ様──」

 

 頭の中が真っ白になり、エリカはただ名を繰り返す。

 両腕でロウの背に縋りつき、逃がすまいと力を込めた。

 やがて、再び絶頂の波が押し寄せる。

 

「あはああああっ」

 

 限界まで背を反らせ、震える身体をロウに預ける。

 次の瞬間、子宮を打つ熱い奔流──二度目の射精だった。

 エリカは、はっきりとロウの愛を感じていた。

 

「んぐううううっ」

 

 衝撃が駆け抜け、再び意識は白く塗り潰される。

 そして完全に脱力した。

 ロウが腰を止め、怒張を抜いた。

 

 エリカを抱き締めたまま、ロウが耳元で口を開いた。

 

「……戻ったな、エリカ。気分は大丈夫か? よく頑張ったな……。ところで、どうやら三日で終わらせるつもりが、四日目に入ったらしい。──魔道契約の通りなら、お前は自由だ。俺から逃げたいか?」

 

 軽く笑みを含ませて言ったその声は、冗談とも挑発とも取れるものだった。

 だが、エリカには冗談に聞こえなかった。

 ロウが膣から怒張を抜き、身体を離した途端、全身に絶望が走った。

 もう、これで終わりなのか──。

 暗闇の中に独り取り残されるような気分が胸を押し潰す。

 

「ロウ様、お願い……。捨てないで──」

 

 慌てて身を起こし、足元にひれ伏そうとした。

 だが、ロウの腕がそれを許さなかった。

 

「冗談だ。契約なんぞ、最初から嘘だ。もともと、逃がすつもりなんてない。針の先程だって、お前を手放す可能性なんて作らない……。悪いな。お前は騙されたんだ。とにかく、おかえり、エリカ」

 

 その一言に、全身から力が抜けた。

 エリカはロウの胸に縋りつき、歓喜と安堵で涙を溢れさせる。

 

 よかった……まだ一緒にいられる。

 ロウは見捨てない。

 それだけで胸がいっぱいになった。

 だが同時に、こんなことで許されてよいのかという思いが心を締めつける。

 

「よかったですね、エリカ様。暗示が解けて」

 

 声がかけられた。

 顔をあげると、屋敷妖精のシルキーが盆を手に立っていた。

 

「シ、シルキー?」

 

 思わず名を呼ぶ。

 とてつもなく遠い場所を旅して、ようやく故郷に戻ったような気分が胸に広がった。

 

「旦那様は、この数日間ずっと付きっきりで、エリカ様の暗示を解くために地下にこもっておられたのですよ。本当によかったです」

 

「ずっと……?」

 

 呟いた瞬間に合点がいった。

 調教のあいだ、孤独に苛まれ放置されることもあった。だが、いま振り返れば、きっとロウは近くで見守っていたのだろう。

 その優しさを思い、エリカの頬に涙がつっと伝った。

 

「……すまなかったな、エリカ」

 

 不意に、ロウの声が真剣な色を帯びる。

 

「えっ?」

 

 なぜ、ロウが謝罪の言葉を口にしたのか。理解できずに、一瞬呆けてしまった。

 

「俺の淫魔術だけでは、ガリオンの暗示を完全に解けなかったんだ。だから、お前を徹底的に追い詰め、心からの屈服を引き出すしかなかった。苦しめた……本当にすまない」

 

「ロウ様……」

 

 嗚咽がこみあげ、エリカは両手で顔を覆った。

 殺そうとした自分に、こんな言葉をかけていいわけがない──。

 悔悟と愛情がないまぜになり、胸を抉るように泣き崩れる。

 

 操られていたとはいえ、ロウを殺そうとまでした自分──。それでもなお、彼は「許せ」と言ってくれる。

 胸の奥が痛みで締めつけられ、嗚咽が止まらなかった。

 エリカは子どものように泣きじゃくり、ロウの胸に顔を埋めた。

 やがて涙が落ち着いてきた頃、ロウはその頬を指先で拭い、わずかに笑みを浮かべた。

 

「さて、上にあがるぞ。コゼとシャングリアをほったらかしにしてきたからな。あいつらも相当に焦れているだろう……」

 

「……はい」

 

「だが、その前に、もうひとつ罰を受けてもらう。お前が強烈な罰を受けた証を残しておかないと、あいつらのわだかまりが消えないかもしれん」

 

「証……ですか……?」

 

 エリカが涙で濡れた顔を上げると、ロウの眼差しは真剣だった。

 

「そうだ。証だ──。これは罰だと思え。それで気持ちを入れ替えろ。操られていたとはいえ、お前は俺の腹を深々と刺したんだ。俺はショックだったし、痛かったぞ」

 

「は、はい……申し訳……」

 

 エリカは、また謝罪の言葉を口にしようとした。

 しかし、それは、ロウに遮られた。

 

「まあ、待て。だから、罰だ──。だが、これが終われば、それでおしまいだ。この件について、これ以上なにも考えることは許さん。謝ることも禁止する──。もっとも、お前には謝ることなど、なにもないけどな」

 

「そ、そんな……。罰を……罰を受けます。受けさせてください──。で、でも、そんなことでは、わたしのやったことは……」

 

 とにかく謝ろうとして、エリカは慌てて口を開いた。

 何百回、何千回謝っても許されるものじゃない。謝らずにはいられない。

 しかし、許されようが、許してくれなかろうが、エリカはロウからは離れられない。

 それだけは確かだった。

 

「いいから罰だ。だが、痛いぞ。覚悟を決めろ。いいな──。お前のクリトリスにピアスを施す。一番奴隷の性奴隷の証だ。それがお前の罰だ」

 

「ク、クリトリスに……?」

 

 耳を疑う言葉に、エリカは思わず息を呑んだ。

 ロウはシルキーの持っている盆から小さな箱を取り出した。箱を開き、中身を見せる。

 中に入っていたのは、小さなケースに収められた一個の細い金属リング。中央には極小の石が彫り込まれていた。

 

「……アマダスの石……」

 

 エリカは目を見張った。

 大変に貴重な宝石──しかも、こんなにも美しい輝きのものは見たことがない。

 

「これがピアスだ。“クリピアス”だな。これをお前のクリトリスにつける。それが罰だ。この屋敷の前の主人の蒐集品にあった。未使用らしい。だが、俺はこれをお前に装着する」

 

「こ、これを……」

 

 エリカは呆然とリングを見つめていた。

 綺麗で、高価で、しかし恐ろしくもある。

 

 ロウは淡々と説明した。

 小さな針でクリトリスに穴を開け、そこにリングを差し込み、自由に外せないよう閉じる──引き千切らない限り外せない、と。

 想像するだけで、エリカの顔は真っ蒼になっていった。

 

「わ、わかりました……」

 

 それでもエリカは受け入れることにした。

 どんなに苦しくても、痛くても耐える。これは罰なのだ。

 

「これには、俺の世界の文字を刻ませた。──見ろ」

 

 ロウはリングを指先で示した。そこには黒で記号のようなものが刻まれていた。

 

 

 “PRIMUM AMANS”

 

 

「俺の故郷の世界の文字の一つだ。意味は“最初の恋人”。つまりは、一番女……エリカのことだ」

 

 シルキーがそっと補った。

 

「……ロウ様の世界の文字……。最初の、恋人……。一番奴隷……」

 

 エリカはその言葉を繰り返し、頬を真っ赤に染めて相好を崩した。

 先ほどまでの恐怖など溶け去り、ただリングの存在が愛おしく思えてならなかった。

 

「さあ、覚悟しろ。淫魔術は使わない。本当の罰だ。激痛は一瞬だが、逃げるなよ」

 

「逃げません。ロウ様……。どうか、わたしに罰を。もっと酷い罰でも問題ありません」

 

「いい子だ。さすがは、俺の一番女だ」

 

「……奴隷です」

 

「ああ、大事な大事な、一番奴隷だ……。じゃあ、いくぞ」

 

 ロウは箱の中から小さなリングを取り出すとともに、シルキーから針状の道具を受け取った。

 金属の冷たい光が、寝台の灯に反射してぎらりと走る。

 ただそれだけで、エリカの背筋は総毛立った。

 

「これからが本番だ。……膝を立て、股を大きく開け」

 

 その声は淡々としているのに、拒否を許さない重みを帯びていた。

 エリカは羞恥に身を震わせ、躊躇いながらも脚を開いた。

 視線を逸らしたくても逸らせず、目の前のロウが全てを支配しているのを痛感する。

 ロウは、エリカの膝のあいだに胡坐をかき、針とリングを手元で確かめている。

 その仕草さえ儀式めいて見えて、エリカの呼吸は荒くなる。

 

「目を閉じろ。……歯を喰いしばれ。凄まじい激痛が走るぞ」

 

 命じられるままに強く目を閉じた。

 直後、指先が秘裂を押し開き、小さな蕾が無遠慮に露わにされる。

 指でぐっと押し出され、掴まれた瞬間、羞恥で頭が真っ白になる。

 

 そして──鋭い刃が突き立った。

 

「ひぎいいぃっ──」

 

 肉芽を貫いた灼熱の痛みに、全身が硬直する。

 声にならぬ悲鳴が喉を裂き、背骨まで痺れるような衝撃が突き抜けた。

 腰を逃がそうとした瞬間、ロウの声が飛ぶ。

 

「動くな。……暴れれば危険だ」

 

 その一喝に縫いつけられ、脂汗を滴らせながら必死に身を沈める。

 だが針は容赦なく押し進められ、二度目の激痛が貫通する。

 視界が白く弾け、涙が勝手にあふれ出す。

 ほどなくして、リングが差し込まれ、金具が閉じられたのがわかった。

 だが、次の瞬間、急速に痛みが引く。

 淫魔術が流れ込んだのだと悟った。ロウの淫魔術は、支配した女の感覚すらも身体を自由にできる。それを使って治療のようなことを施したのだ。これまでエリカも幾度もそうやって治療を受けてきた。

 

 さっきまでの痛みが嘘のように消え失せ──その代わりに、股の芯に熱い疼きが芽吹いた。

 ずきずきと、甘い苦痛が際限なく膨れ上がっていく。

 動くたびに金属が揺れ、その震えが神経を直撃して身体を跳ねさせる。

 

「あっ……ああ……」

 

 思わず、涙に濡れた声が洩れる。

 恐怖のあとに押し寄せたのは、抗えない快楽の奔流だった。

 

「痛みは引いたと思うけど、しばらく疼きが辛いはずだ。特にエリカは、敏感だからな」

 

 ロウは愉しそうな口調で、諭すように言い聞かせる。

 

「だが、定着すれば普段の生活に支障はない。……その代わり、愛し合うときには桁外れの悦びになる。これが一番奴隷の証の“クリピアス”の効果だ」

 

 言葉を聞きながら、エリカは腰を震わせ続けるしかなかった。

 すると、ロウはゆっくりと手を伸ばし、指先でクリピアスを摘まんだ。

 さらに、細い輪を揺らし、時に軽く弾きだす。

 

「ひあっ……ぴ、ぴあす……そこ……いや……」

 

 エリカは股をすくめようとしたが、疼きは一層鋭く深くなり、身体を反らすしかなかった。

 痛みはすでに消え、淫魔術に変換された疼きが抗いようのない快感となって全身を支配していた。

 

「ほら、感じるだろう? これを刺激されると、快感が迸るように術を刻んでいる。だからこその一番奴隷だな」

 

 ロウが笑いながら、クリピアスを弄ぶ。

 ピアスが揺すられるたびに、痺れるような熱が股間から奔り抜けていく。

 嬌声は喉を裂くように溢れ、涙がにじむほどの衝撃にエリカは震え続けた。

 ついに堪えきれず、子宮の奥から爆ぜる絶頂が全身を貫いた。

 

「ああああっ……ロ、ロウ様……」

 

 震えの余韻に浸るエリカの耳元で、ロウが低く囁く。

 

「よし……じゃあ、一階に向かおう。ただし、後手手錠はしてもらう。謝罪は不要と言ったが、あいつらの前では恭順の視線が必要だろうしな」

 

 


 

 

「馬鹿なことを言うな。そんなのは罰になるものか」

 

 シャングリアが大げさに声をあげた。

 

「わ、悪かったと思っているわ……。も、もちろん、わたしのやったことは、こんなものじゃあ、罰にはならないと思っているけど……」

 

 エリカが項垂れる。

 

「違う──。エリカは罰を受けるようなことはなにもない。そんなことを言っているのではないのだ。ただ、そんなのは罰じゃないといっているんだ……」

 

 シャングリアが慌てたように言い直した。

 

 ここは屋敷の一階のロビーだ。

 一郎は、エリカを全裸のまま連れて上がってきた。謝罪の姿を示させるため、両手には後手に手枷を嵌めてきた。

 そのままの格好で、ふたりの前で全裸土下座をさせた。

 

 ロビーにいたのはコゼとシャングリアである。

 ふたりは、ガリオンの暗示が解けたことを喜んだが、次にエリカの白い裸身に嵌められたクリピアスを見て、目を丸くしていた。

 

 そのふたりに一郎は、コゼとシャングリアに数日間の顛末をかいつまんで説明した。最後に、エリカの股間に穴を開けピアスを施したことを示し、「これで許せ」と告げたのだ。

 するとシャングリアがいきなり憤慨したように口を開いたのである。

 

「……まあ、確かに罰じゃないわね。ご主人様、正直なところ、罰を受けたのは、あたしたちのような気分です。ずっと一階で放っておかれたんですから……。正直言って、あんたが羨ましいわ、エリカ──」

 

 コゼだ。

 明らかにコゼは不機嫌だ。

 多分、シャングリア以上に……。

 

「羨ましいって、言われても……」

 

「だって、ご主人様を四日間も独占できるなんて。そのあいだ、あたしたちはずっとご主人様に会えなかったのよ。エリカは、ご主人様を殺しそうになったのに」

 

 言い方に棘があるなとは思った。

 まあ、無理もないかもしれないが……。

 

「わかっているわ、コゼ……。わたしのしたことは、絶対に許されることじゃなくって……」

 

「まあまあ、コゼ。その話は終わりだと言っただろう。終わりだ」

 

 一郎はエリカがまた謝罪の言葉を口にしようとしたのを遮った。

 こんなのはもうきりがない。

 まあ、コゼの不満は、ずっと構ってやれなかったことにもあるのだろうが……。

 

「とにかく、懲罰は終わった。クリトリスに痛み止めの魔道なしで穴を開けたんだぞ。痛いなんてもんじゃない。だから、これで帳消しにしてやってくれ」

 

 一郎は笑って言った。

 この世界の性風俗については、興味があるのである程度は調べたが、性器に穴を開けるという性風俗は探すことはできなかった。

 この屋敷の前の主人が、どういう発想で乳首と性器へのピアスを作らせたかは知らないが、シルキーによれば、間違いなく性器へのピアスだという前の主人の説明が残されてあったそうだ。

 いずれにしても、だから、性器に嵌まったピアスを見せれば、ふたりとも恐れおののくと思ったが、あまり効果はなかったようだ。

 

 そのとき、コゼが真剣な声をあげた。

 

「でも、ご主人様、これだけは言わせてください……。ねえ、エリカ、あんたは、ご主人様だけじゃない。あたしも殺しかけたのよ」

 

「えっ、どういう……?」

 

「だって、ご主人様が死んだら、あたし、その場で死ぬって決めてるの。あたしが生きているのはご主人様がいるから。いなくなれば死ぬの」

 

 強い調子で言い切ったコゼに、一郎は驚いた。

 改めて、彼女の一途な愛情の深さを思い知らされる。

 

「コゼ、どうか……」

 

 エリカは謝罪しようとした。

 しかし、コゼはその言葉を遮る。

 

「でも、許すわ……。ご主人様がそうしろって言うから……。だから、この件は二度とあたしは言わない。許す。もうこれで終わりよ」

 

「コゼ……」

 

 エリカが小さな声で名前を呼んだ。

 

「いいや──。納得できないぞ」

 

 すかさずシャングリアが再び憤慨の声をあげた。

 

「あんたも、もういいでしょ」

 

 コゼがシャングリアに顔を向けた。

 

「いいや、よくない──。そもそも、どうして、エリカだけなんだ。わたしも欲しいぞ。ロウのすることなら、どんな苦役だって耐えてみせる。ましてや、その苦痛のあとに、こんな贈り物をしてくれるなんて、ご褒美そのものだ。わたしも欲しい」

 

「えっ、あんた、もしかして、あんたもこんなところに穴を開けて、ご主人様のピアスとやらをしたいと思っているの?」

 

 コゼはちょっと意外そうに言った。

 一郎もちょっと驚いた。

 

「当り前だ。ロウの女である証だ。わたしも欲しいに決まっている──」

 

 シャングリアが怒鳴った。

 すると、エリカが身体を捻って胸と局部を隠すような仕草をする。

 

「そ、そんなこと言われても……。これは一番奴隷の証ということで、ロウ様が……」

 

 エリカが不服そうな声をあげた。

 だが、一郎はエリカの物言いに、意外な気持ちがした。

 ちょっと優越感を覚えているような響きがあるとともに、ピアスをシャングリアにも装着するという提案に、明らかに不満そうな感じだったからだ。

 ピアスを装着するときに、一番奴隷の証ということを強調して、エリカの股間に穴を開けたが、それは意外にエリカを悦ばせたかもしれない。

 

「一番奴隷? これは一番奴隷の証なんですか?」

 

 コゼが眉を顰め、次いで一郎に視線を向ける。

 

「まあ、そうだ。とにかく、この件で、もうエリカを責めるのは禁止する。もう、終わり──。終わりだ」

 

 一郎は長椅子にどっかりと座った。

 向かい合う長椅子には、コゼとシャングリアが並んで座っている。エリカはまだ、床に裸で座ったままだ。

 

「エリカのことは最初から、なにも思ってない──。わたしは、ピアスの話をしているのだ──。そんなのは罰じゃないと言っているのだ──」

 

 シャングリアがまた憤慨する。

 

「うーん、でも一番奴隷かあ……。まあ、だったら、仕方がないじゃない。あたしたちは諦めましょう、シャングリア……。とにかく、お帰り、エリカ。もう大丈夫なのね?」

 

 コゼが横から口を挟んだ。

 そして、シャングリアを宥めながら、エリカに視線を向ける。

 

「うん……、ロウ様のおかげで……。あのう、みんなにも迷惑を……。何度、謝っても足りないけど、ほんとにごめんなさい」

 

 エリカが床に座ったまま、コゼとシャングリアに再び深々と頭をさげた。

 

「いいのよ……、もう謝るなって、ご主人様が言ったわよ……。エリカ。お帰り……」

 

 コゼが優しい口調でエリカに声をかけて、椅子からおりて、床に座るエリカの隣に添うように腰をおろす。

 一郎もほっとした。

 シャングリアはまだ不満そうだが、コゼに宥められて、やっと文句を言うのをやめてくれし、コゼもわだかまりはないようだ。

 

 しかし、次の瞬間だ。

 エリカが突如としてけたたましい悲鳴をあげた。

 

「ひいいいいっ、コゼ──。やめてええ、んぎいいいい」

 

 びっくりして、エリカとコゼに視線を向けると、いつの間に準備したのか、コゼが細い紐を手に持ち、その端末をエリカのクリピアスに結びつけて、いきなり広間を駆け始めたのだ。

 

 エリカの両手は背中で拘束しているので、クリピアスに引っ張られれば、エリカはそっちに向かってついていくしかない。

 だが、コゼはかなりの速い速度で広間を駆け出し、それで、エリカが悲鳴をあげながら、コゼを追いかけだしたということだ。

 つまりは、コゼの悪戯だが、一郎は唖然としてしまった。

 しかも、コゼは、わざと卓の下や椅子の上を通りすぎたりして、エリカが簡単にはついてこれないような場所を走っている。

 

「コゼ──。んぎいいっ、やめてえ、ちょっと、とまって、やめてえええ」

 

 エリカが必死の様子で走りながら泣き叫んだ。

 

「ほほほ、捕まえてご覧なさい」

 

「んぎいっ、コ、コゼ──。ふ、ふざけないでえぇ」

 

「ははは、ちょっと面白いかも……。ご主人様、このまま庭を散歩していいですか。シャングリアもおいで。これ、面白いわよ」

 

 コゼがけらけら笑いながら、広間を駆けまわっている。

 

「な、なにが庭よ──。じょ、冗談じゃ……。んぎいいっ」

 

 怒ったエリカがコゼに追いつこうと足を速めたが、すかさずコゼがさっと方向を変えたため、ついて来れないエリカが、ぐんとクリピアスを引っ張ることになり、激痛に絶叫した。

 

 一郎は、その淫靡な悪戯に大笑いしてしまった。

 

 

 

 

 

 16話『筆頭女の再調教』終わり──

 17話『淫魔師と三巫女』に続く──

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