※この作品はR-18です。

【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】   作:ドン・ドナシアン

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113 小瘴石の淫具と強制クエスト

 屋敷妖精のシルキーに導かれ、ミランダはロウの屋敷を進んだ。すると、地下に進む階段に案内された。

 

「ロウたちは……地下、なのね?」

 

 この屋敷の地下といえば、調教室と大浴場だ。ミランダも巻き込まれたことは、片手では足りないので、思わずたじろいでしまう。

 

「はい、皆様は、調教室で遊戯の最中でございます」

 

 シルキーが、石段を先に降りながらミランダを振り返る。

 

「遊戯ねえ……。ぞっとする言葉だわ……」

 

 ミランダは眉をひそめた。いやな予感が胸に広がる。

 ロウが「遊戯室」と呼んでいる大部屋は幾つかあるが、連れてこられたのは、そのひとつだ。

 シルキーの細い指が示した扉を押すと、肌にまとわりつくような熱気と、精液と愛液の濃い匂いが襲いかかった。

 そして、部屋の中の光景が拡がり、予想通りとはいえ、一瞬硬直してしまう。

 

 ロウと三人の素裸の男女──彼と一緒に暮らす三人の女、エリカ、コゼ、そしてシャングリア。

 その姿は、まさしく倒錯の性宴としか言いようがなかった。

 

 まず目に飛び込んできたのは、部屋の中央のコゼだ。

 小柄な身体は全裸のまま両腕を鎖に吊られ、足首は床の杭に縛られて大きく開かれている。

 背後に立つシャングリアが乳房を強く鷲づかみにし、口に嵌められた穴あきの嵌口具から、くぐもった喘ぎ声が漏れていた。

 

 また、コゼの身体は汗に濡れて光を弾き、絶え間なく痙攣している。

 股間には細い皮の帯が食い込み、そこからは革帯の色が変わるほどに愛液がにじみ出て、太腿を濡らし、さらに床に滴っていた。

 さらに首に嵌められた金属の輪がかすかに明滅し、責められるたびに反応が全身へ拡がっているように見える。

 

「……あれは、いったいなに?」

 

 思わずミランダが隣のシルキーに囁いた。

 コゼが装着されているのは、なにかの魔道具であり、淫具なのだろう。

 この屋敷を訪れるたびに、唖然とするような性能の淫具を目の当たりにする。この屋敷も持ち主だったゴーストから屋敷ごと譲られたとロウは言っていたが、なんとなくだが、なんらかの手段で、ロウ自身も淫具を作成している気がする。

 とにかく、淫具ではあるが、魔道具としても性能は緻密にして、見たこともない仕掛けが多い。

 ミランダは冒険者として数えきれないほどの戦場を経験してきたが、それでも、ここに散らばる道具の数々は見覚えのないものばかりだった。

 

「絶頂封じの革帯と刺激増幅の首環でございます」

 

 シルキーはまるで天気でも告げるように、感情のない声音で言った。

 その冷ややかさが、かえって背筋を凍らせる。

 

「はあ?」

 

「革帯は、絶頂の瞬間に内部の動きを止める仕掛け。決して果てられぬまま焦らされ続けます。首環は、与えられた刺激を数倍に増幅し、全身の性感帯に伝える働きを持ちます」

 

「えっ……」

 

 ミランダは戦慄を覚え、思わず視線を逸らした。

 淫具なのはわかっていたが、そこまでの仕掛けとは。自分の知らぬ魔道の世界が広がっているのを感じる。

 そもそも、市井にある魔道具というのは、粗雑で単純な性能が多く、装着者の身体の感覚をここまで複雑に操るものというのは想像もできない。

 ただの遊戯として使っているが、もしかしたら、好事家にでも売れば、とんでもない価格がつくのではないだろうか。

 

 そして、視線をずらすと、奥にはロウが竹網の椅子に腰を下ろし、ズボンと下着を足首までおろして股を開いていた。

 その前でエリカが四つん這いになり、奉仕に没頭している。

 彼女の尻からは尻尾のような房毛が生えていて、ぶるぶると左右に震えていた。

 股間から滴る蜜は太腿を伝って床に滴り、彼女の身体もまた異様な興奮に支配されているのがわかる。

 そして、よく見れば、ロウの手には、小さな桃色の玉が握られていた。

 指先で転がされるたび、奉仕を続けるエリカの裸身が激しく震えている。

 ──あれも淫具なのだろうか。

 ミランダには得体の知れないものとしか思えず、唾を飲み込んだ。

 

「ようこそ、ミランダ。ところで、わざわざ、忙しい副ギルド長がどうかしたか? 遊びに来てくれたのなら大歓迎だぞ」

 

 奥に腰を下ろしていたロウが、余裕を滲ませた声で呼びかけてきた。

 竹網の椅子に凭れ、股を開いた姿のまま、平然と笑っている。

 

「遊びに来たんじゃないわよ──」

 

 ミランダは思わず声を荒げた。

 用事があって来たのだ、と言い返すものの、胸の奥には焦りが込みあげてくる。

 いつもそうだ。ロウに迫られれば、結局は強引に弄ばれる。

 そう頭ではわかっているのに、彼の視線を受けた途端、背筋に冷たいものが走る。

 

 副ギルド長としての威厳を崩してはならない──その思いで気丈に立ってはいる。

 だが、身体の奥底では、すでに逃げ場のない予感が芽吹きはじめていた。 

 

 とりあえず、ロウのいる奥に向かう。

 だが、ミランダが横を通ったとき、シャングリアに責められていたコゼが、四肢を突っ張らせて、激しく身体を前に突き出したので、思わず視線を向けた。

 その身体はすぐにがくりと脱力し、顔は朦朧としていて、全身がかすかにぶるぶると震え続けている。

 しかも、コゼはすすり泣きのように鼻を鳴らし始めている。

 このコゼが泣いているのに接して、ミランダはびっくりしてしまった。

 

「どうしたのよ?」

 

 思わずミランダは、シャングリアに訊ねてしまった。

 すると、シャングリアがようやくミランダに気づいたかのように顔をあげ、憤慨した声音をぶつけてきた。

 

「ああ、ミランダか──。どうしたも、こうしたもない。見ろ、これを──」

 

 横の台から掴み取ったのは、両端が男根のかたちをした「双頭張形」だった。

 鼻をつくむっとした匂いが、つい先ほどまで女の中に埋め込まれていたことを物語っている。

 

「その淫具が……なによ?」

 

 ミランダは眉をひそめ、嫌悪と興味が入り交じった声を返した。

 

「これでエリカと愛し合えと、ロウに命じられたのだ。今日は“百合の性愛”を覚えろという課題でな──。それはいいが、見ろ、この真ん中の目盛りを合わせるダイヤルを。コゼのやつ、これを“50”に合わせたのだ。“50”だぞ」

 

 シャングリアは声を荒らげた。

 しかしミランダには意味がわからない。

 

「“50”だから……どうだというのよ?」

 

「この張形は、ロウが特別に作らせた魔道具でな。挿入されたふたりは、数字に設定された回数だけ絶頂を迎えねば外せない仕組みなのだ」

 

「はあ?」

 

 なんだ、その馬鹿げた設定は?

 

「つまり、コゼが“50”に合わせたせいで、わたしとエリカは起き抜けに“50”も果てさせられる羽目になったんだ」

 

「つまり……魔道の張形ということ……?」

 

 ミランダは絶句した。

 確かに、馬鹿げている……、と同時に、その仕組みの複雑さに戦慄した。

 淫具でありながら、やはり、術式は高位の魔道具に匹敵する緻密さだ。

 専門ではないが、ミランダもドワフ族として、工芸や道具作りに秀でる種族のひとりだ。かなり複雑な魔道紋が必要だというのは、なんとなくわかる。

 

「本当にとんでもない悪戯女だ。ロウは“10”に合わせろと命じたのに、コゼは間違えたふりをして“50”にした。だからこうして仕返しをしているんだ。もちろん、それもロウの許可を受けてる」

 

 シャングリアは張形を台に戻すと、今度は細い絵筆を取り上げ、コゼの股間にしゃがみ込んだ。

 革の貞操帯の縁をすっと撫でる。

 

「んふううっ……」

 

 コゼが狂ったように腰を突き出した。絵筆を避けるのではなく、むしろ求めるようにいやらしく股間を押しつけてしまう。

 しかしシャングリアは、突き出された瞬間に筆を引き、少し横の場所をくすぐる。

 そのたびにコゼは切なげな声を洩らし、身をよじらせた。

 

「コゼ……は、なにをされているの?」

 

 我に返ったミランダが問うと、シャングリアが顔をあげる。

 

「媚薬を塗った上で“絶頂封じの革帯”を嵌めたのだ。これはこの屋敷にあった蒐集品だがな。内側には大小二つの張形が仕込まれていて、絶えず淫らに動くのだ」

 

「中に張形?」

 

「ああ……。だが、装着者が絶頂に達しようとした瞬間、その動きがぴたりと止まる。脳に伝わる快感も遮断される。外からどれだけ責めても果てられぬ仕組みだ」

 

「ああ、シルキーが言っていた“絶頂封じの革帯”ね……」

 

 ミランダは唖然とした。

 やはり、ここで目にするものは、女を弄ぶためにだけ作られた残酷な精密品ばかりだ。

 シャングリアは再び筆を操り、コゼの股間を撫で始めた。

 その姿に、ミランダはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

「ミランダ、もっと近くに来いよ」

 

 ロウが再び呼んだ。

 進み出たミランダの視線の先では、エリカが相変わらず奉仕を続けている。

 四つん這いの姿勢のまま、ロウの股間に顔を埋め、男根を咥え込んで必死に舌を這わせていた。

 ミランダが来ても一向にやめる気配はなく、むしろ奉仕に没頭している。

 副ギルド長の自分が目の前にいるというのに、平然と奉仕を続ける姿に、ミランダは気後れし、立場を忘れそうな居心地の悪さに胸をざわつかせた。

 

 そのお尻から伸びた房毛の尾がぶるぶると震え、左右に大きく振り乱れている。人工の尾の根元がアナル深くに入っているのは明白だ。

 しかも、ロウの手には桃色の玉が握られており、それをロウが指先で擦るたびに、エリカの身体がびくんと跳ねている。

 あれもまた、なにかの仕掛けなのだろう。

 

「ん……っ、んんんん……」

 

 すると、またもや、エリカが、ロウの股間を咥えたまま、泣くような声を洩らしながら、顎を震わせた。

 

「気になるか?」

 

 ロウが笑いを含んで視線を向けてきた。

 ミランダは顔を赤らめ、思わず凝視してしまっていることに気づき、唇を噛んだ。

 

「いえ、別に……」

 

「まあ、教えるよ……。尻から伸びているのは、この屋敷の元主人が残した蒐集品だ。アナルに嵌め込む仕掛けで、快感を受けるほど尾が左右に大きく振れる。見ろ、この振りはそれだけ感じている証だ」

 

 ロウはさらに手の中の玉を擦った。

 

「そしてこの玉も同じく蒐集品でね。玉を摩れば、遠隔で下腹に快楽を響かせる。こうして激しく擦れば──」

 

 ロウが、力を込めて玉を転がした。

 その瞬間、エリカが「んんんん……」と咥え込んだまま声を洩らし、全身を突っ張らせた。

 背中が弓なりに反り返り、尾は狂ったように暴れ回る。

 それでも、エリカは口を離さず、必死に舌を這わせ続けている。

 その異様な光景に、ミランダは息を呑み、胸の奥がざわつくのを抑えられなかった。

 

「ロ、ロウ、仕事の話よ……」

 

 ミランダは必死に平静を装い、声を絞り出した。

 だが、視線の先で、エリカは泣き声を洩らしながらも奉仕を続けている。

 その姿を前にすると、自分も同じようにこの男に従うひとりであることを思い知らされ、胸の奥がざわついた。

 

「仕事? もしかして、やっと、エリカを嵌めようとしたガリオンの雇い主の正体がわかったのか?」

 

 ロウは男根を咥え込まれたまま平然と口を開いた。

 その無遠慮な態度に、ミランダは思わず顔を背けたが、赤くなった頬は隠しきれない。

 

「……あなたって、本当に……」

 

 言いかけて、言葉が喉に詰まる。

 

「それで?」

 

「調査はまだよ。だけど、ガリオンの件は助かったわ。おかげで、少しはわかってきたわ。そっちの方は改めてね」

 

 ミランダは言った。

 ロウが口にしたのは、一箇月ほど前の事件のことだ。

 あのときは、手配犯の洗脳師ガリオンに操られ、エリカがロウを襲った。

 ロウが精の力で洗脳を解いたことで事態は収束したが、その後の調べで、ガリオンが多くの女を洗脳しては奴隷商人に売り飛ばしていたことが判明した。

 

 その中のひとりに「ラン」という少女がいた。

 王立学園の学生だった彼女は、ある日突然姿を消し、行方不明になっていた。実際にはガリオンに捕えられ、娼館に奴隷として売られていたのだ。

 ギルドが偶然その所在を突き止め、保護したとき、ランはすでに性的拷問で心を壊しかけており、まともに会話もできない状態だった。

 

 ミランダは迷った末にロウを呼んだ。

 淫魔術の力なら、壊れかけた精神を修復できるかもしれないと思ったのだ。ロウが淫魔師という特殊な能力を持っていて、性支配の代わりに、女の身体を回復したり、能力を上げたりできるというのは知っていたからだ。

 実際、ミランダ自身もその恩恵に預かっていて、現役のシーラ・ランクの冒険者だった時代よりも、遙かに戦闘力があがっているようだし、身体の調子もいい。

 もっとも、目の前の好色男の性欲の解消の対象にされるのが代償だが、それもまた途方もない快楽があるので悪くはない。

 ただ、抱き方が妙に歪んでいて、普通の男では味わえないような調教めいた悦びを与えてくるのが困るだけだ。

 

 それはともかく、ロウがランを抱いたことで、彼女は正気を取り戻した。

 記憶の一部は深く封じられていて、売られた経緯すら思い出せなかったが、恐怖と絶望に縛られていた心は癒え、普通に話せるようになった。

 しかし、王立学園に戻ることはできなかった。

 一度「奴隷堕ちした娘」という烙印を押されれば、いかに無実であっても学生としての籍は許されない。

 そのため、現在はギルドに庇護され、雑務を手伝うかたちで暮らしている。

 彼女自身は過去を正確には覚えていないが、かえってそれが救いだった。

 今は笑顔を取り戻し、健気に働く姿が見られるようになっていた。

 

「それよりも別のクエストのことで相談に来たのよ……」

 

 ミランダは肩から下げていた袋から持ってきたものを取り出した。

 中から出てきたのは、小さな鎖と一対の金色の腕輪だ。

 

 ロウがそれをひと目見るなり、にやりと笑った。

 

「……淫具と拘束具だな。鎖の輪は肉芽を締めつける仕掛けか。家畜の鼻輪より効果がありそうだ。腕輪の方は……なるほど、突起を合わせると手枷になる細工か。──で、これで遊んで欲しいと?」

 

「ち、違うわ。証拠品なんだから、変なことに使わないで。返さないと、あたしが捕まるわ。それに動力源を抜いてるから作動しないし」

 

 ミランダは慌てて声を荒げた。

 顔が熱くなる。思わず、自分が鎖で股間を縛られ、引き立てられる姿を想像してしまったのだ。

 その反応を面白がるように、ロウが低く笑う。

 

「そういう妄想をしたのかと思ったが……。そういえば、クエストって言ったか? なら証拠品か?」

 

「そうよ。魔道紋様が刻んであるわ。これも魔道具ね。これだけ淫具に詳しいんだから、あんたなら少しはわかるでしょう?」

 

 ミランダの言葉に、ロウは肩をすくめて苦笑した。

 

「俺は魔道には素人だぞ」

 

 そう言って、股間に顔を埋めていたエリカの頭に軽く触れた。

 

「もういい、エリカ……。やめろ。息を整えて座り直せ」

 

「……はい、ロウ様」

 

 エリカは名残惜しげに男根から口を離し、四つん這いの姿勢をほどいて膝をそろえて座り直した。

 ロウも腰を上げて衣服を整え、股間を隠す。

 エリカは彼の側から離れ、証拠品を受け取ると、濡れた唇を拭いながら視線を落とした。

 ただ、まだエリカのアナルに挿入されている尻尾は動き続けている。エリカも顔もまだ赤いし、まだ快楽の途中なのだろう。

 

「……俺には術式はわからん。エリカ、お前ならどうだ?」

 

 ロウが鎖と腕輪をエリカに手渡す。

 エリカは荒い呼吸を整えつつ、指先で紋様をなぞった。しばらく黙り込んでから顔をあげる。

 

「……これは普通の魔道紋様ではありません。禁忌とされる術式に近い……闇魔道の系統かもしれません」

 

「そう……闇魔道よ……。よくわかったわね」

 

「アスカ様のところで少し学んだことがあります。似た構造を見た覚えがあります。ただ、詳しくは……」

 

「アスカって……。ああ、エリカが以前、ロウと一緒に逃げ出したという魔女のことね」

 

 ミランダはぽつりとつぶやいた。

 ロウとアスカの因縁については、ミランダが彼の愛人のひとりになってから教えられていた。

 ローム三公国に近い人外地に、どの勢力にも属さない独自の居城を持つという禁忌の大魔道遣い──それがアスカというエルフ族の女だ。ミランダも噂程度は耳にしたことがある。

 

「つまり、これは闇魔道系統の魔道具ということですね……。でも、これは動かないのでは? 闇魔道系の魔道具は魔石では動きませんよ。魔石は聖側の属性路が強くて、瘴気路を“閉じる”んです。だから瘴気媒体──小瘴石……若しくは、魔瘴石が要るんです」

 

「よく知ってるわねえ、エリカ。闇魔道もご法度なんだけど、この淫具には、小瘴石というものが動力源として、使われてたの」

 

「小瘴石? まさか。どうやって製作を? そもそも、人間族のこの王国内ではご禁制では?」

 

 エリカが驚いている。

 当然だ。ミランダもそれを知らされて驚愕した。

 

「ええ、犯罪よ……。闇魔道も小瘴石も、この王国内では禁忌の領域よ。所持や製作、使用が確認されれば、死刑相当の重罪に問われることもあるわね……」

 

「死刑?」

 

 ロウがびっくりしたように、エリカから返された淫具を見る。

 

「それくらいの重罪ということね。王国法典『禁呪章』は“瘴気媒体の製造・所持・譲渡”を一律の大罪に数え、審問所に直送されると決まっているわ。小瘴石はすでに処理されてるけど、問題はそれが王都に持ち込まれたということよ」

 

 ミランダは腕を組み、重く息を吐いた。

 

「いや、さっきからふたりが言っている“小瘴石”って、なんだ?」

 

 ロウが訊ねる。

 

「あんたたちがよくクエストで封印してくれる瘴気溜まり……。それは魔瘴石を破壊することで終わるけど、小瘴石というのは、それを人工的に作ったものと思っていいわ。魔力を固めたのが魔石と呼ばれるクリスタル石。魔力を瘴気に転じて結晶化した人工の小瘴石。自然生成の魔瘴石とは別物だけど、機能的には瘴気媒体として同等ね」

 

 ミランダは説明した。

 

「あれっ、でも、瘴気は放って置くと、魔獣が異界から裂け入るから、魔瘴石を破壊して、裂け目を封印するんだろう。それをわざわざ作るのか?」

 

「闇魔道は瘴気じゃないと引き起こせないのよ。しかも、魔道の媒体としては、魔石よりも小瘴石が効率がいいと言われてもいるそうね。あたしは専門家じゃないけど」

 

 

「効率的でも、冥王に関わるものは全て禁忌ということか」

 

「闇魔道もね。人々は理屈より記憶で怯える。冥王戦争の昔語りが、いまも台所で囁かれているのよ」

 

「なるほど」

 

「とにかく、瘴気の結晶化である魔瘴石と、魔力を瘴気化する小瘴石は、違うという者もいるようだけど、とにかく、瘴気を媒体にする闇魔道は、研究するだけで死刑もありうる重犯罪よ。あんたも手を出さないようにね」

 

「手を出すなって……。ここにある淫具は、この屋敷の元主人の蒐集品でいかがわしいものじゃないぞ」

 

「淫具なんて、十分いかがわしいわよ。まあ、すでに、シルキーに手伝わせて、調査済みよ。そういうものじゃないわ」

 

「そうか。ならよかった」

 

 ロウがほっとした顔になる。

 そもそも闇魔道と呼ばれる系統は、魔界に追放した冥王たちの魔道系統であり、瘴気と呼ばれる魔力に似た力を媒体にして術を行使するものだ。

 だが、瘴気が増えれば、封印した冥王の異界からの裂口となる可能性があるため、瘴気を利用する闇魔道そのものが禁忌となっている。

 そもそも、瘴気というものがなんなのか、冥王戦争をもって、これに属する知識も書物もすべて焚書となった。そのため、当然に体系として整理された研究はなく、国内の魔道学府でも、教団の内部でも、その習得や記録は固く禁じられている。

 だから、人工的に瘴気を結晶とした小瘴石の作り方など、存在しないはずであり、あってはならないものなのだ。

 だが、発見された。

 幸いにも、純度は低い実験級だったらしいが、それが存在したというだけで、大きな問題なのである。

 

「それで、どうして、それが?」

 

 ロウが無造作に訊ねる。

 ミランダはすぐには答えず、鎖と腕輪に視線を落とした。

 淫具であることはどうでもいいのだが、小瘴石を使った闇魔道系統の術が使われていることが問題なのだ。

 ──そして、この品は、王都第三神殿の筆頭巫女の私室から発見されたものだ。

 貞節を誇りとしてきたはずの女が、どうして、小瘴石の闇魔道の淫具を隠し持っていたのか……。

 その疑念が、この依頼の核心にほかならない。

 

「それが、今回のクエストなの」

 

 ミランダは言った。

 

「どんな、クエスト?」

 

 ロウが訊ねた

 

「発端は、夜な夜な見習い巫女を連れて外に出歩く第三神殿の筆頭巫女がいる──。まあ、そんな噂が立ったことよ」

 

「……筆頭巫女って、なんだ?」

 

 ロウが首を傾げる。

 

「筆頭巫女は、クロノス神への祭祀を取り仕切る最高位の女神官で、神殿に仕える何百人もの巫女たちの頂点に立つ存在よ。王宮でいえば大臣にも並ぶ格式を持ち、王国貴族ですら一目置く地位なの」

 

「ほう……。それで、第三神殿って?」

 

 さらに重ねて訊ねるロウに、ミランダは呆れたように肩をすくめた。

 

「ほんとに、あんたって半年も王都に暮らしてるのに、なにも知らないのね」

 

「……地図と金貨の数え方しか覚えてないんでね」

 

「──いい? 第三神殿は、第一、第二と並んで王都三大神殿のひとつ。神殿全体はこの王国にあっても王権とは独立していて、国王に並ぶ信仰の権威を持つの。総本山はタリオ公国の旧帝都にある大神殿。王国の各地に支部神殿を置いて、特に、人間族の社会に深く浸透しているわ」

 

「人間族の社会って、王国のことか?」

 

 ロウが目を細めると、横からエリカが口を開く。

 

「はい、確か、この王国内でも、旧帝国領の三公国でも、地方神殿は、魔道遣いの育成や市井の子どもへの教育、病傷治療などを担っているはずです。だから、信仰施設っていうだけでなく、生活の一部として人々に結びついているんです」

 

「なるほど……。で、その夜遊びをした筆頭巫女って誰なんだ?」

 

「スクルズ……。貞節で知られていた女性よ。高位魔道遣いであり、二十代半ばの若さで、王都神殿の筆頭巫女まで昇りつめた女性ね。あんた、本当に知らないの?」

 

 ミランダは呆れて言った。

 

「美人か?」

 

「ええ、王都でも有名な美女ね」

 

「だったら、覚えるよ」

 

 ロウは笑った。

 ミランダは嘆息した。

 

「……まあいいわ。第三神殿の筆頭巫女スクルズ、第二神殿の筆頭巫女ベルズ、それから、筆頭巫女ではないけど第一神殿のウルズと、三人は同じ神学校の出身で、王都では“美人三巫女”として有名よ。信仰と清廉の象徴みたいに言われてきたのに、そのスクルズが──」

 

 そこでいったん言葉を切り、ミランダは鎖と腕輪に視線を落とした。

 

「……貞節で評判の筆頭巫女様が夜遊びをしたから、なんだっていうんだ? まあ、そういうときもあるだろう。巫女様の人間なんだし……。その真偽を調べて欲しいわけじゃないんだろう? ああ、問題はこの闇魔道の淫具の存在か……」

 

「夜遊びについては、真実のようね……。もっとも、神殿は表向きには否定しているし、神殿内にも箝口令を敷いてるけど」

 

「でも、真実」

 

「そうね。グラン上人がスクルズに確認したところ、スクルズは事実だと認めたそうよ。ただし、それ以外は一切を黙秘……。グラン上人は、スクルズの様子がおかしいことから、ただの事件ではないと感じているみたいなの。なによりも、その闇魔道の淫具のことがあるし」

 

「ふうん……。それで、そのグラン上人って?」

 

 ロウの問いに、ミランダは小さく息を吐く。

 

「グランは第三神殿の神殿長よ。スクルズの前任の筆頭巫女で、今は第三神殿を束ねる女性神殿長の老女よ……。グランとしては、貞節の権威と教団の威信を守りたいということもあって、神殿内での調査じゃなく、極秘にギルドへ依頼を回してきたのよ」

 

「……それで、さっきの禁忌の性具との関係は?」

 

「これが謹慎中のスクルズの私室から発見されたものだそうよ。しかも、グラン独自の調査によれば、その夜遊びとやらで、使用したものみたいよ。スクルズは否定しているけど、目撃者によれば間違いないみたい……。とりあえず、押収は王軍立会いまで凍結。第三神殿の聖域規程が盾になっているわ」

 

「それで、そのスクルズという巫女様は、なんと言っているんだ?」

 

「なにも……。スクルズは淫具は自分のものだと認めてないわ。でも肝心なところは黙秘もしている。とにかく、夜遊び行為を認めながらも、ほかのことは喋らないのよ」

 

「ああ、つまりは、それを調べるのがクエストということか?」

 

「極秘にね……。第三神殿としては、教団の権威にも係わるし、名高い筆頭巫女の評判を崩したくもない。極秘調査を希望よ。そもそも、このままじゃあ、スクルズを王軍騎士隊に引き渡さなければならなくなる。禁忌の魔道具そのものの存在は、王軍に報告しているらしいわ。神殿内で調査中ということで、内偵を認められて、引き延ばしてるけど……」

 

「その神殿長は、スクルズを引き渡したくはないということか」

 

「スクルズが黙秘を続ければ、スクルズが所持していたこととしか説明できなくなるし、そうなれば、スクルズは王軍魔道師隊に身柄が移され……。そして、“尋問”という名の実質的な拷問の可能性が濃いわね。第三神殿の筆頭巫女ほどの女がね」

 

「まあ、わかったけど、そんなに難しい事件か? 確か、見習い巫女と一緒に夜遊びをしていたって話だったよな。スクルズとやらが黙秘しても、そっちを問いただせばいいだろう」

 

 ロウが言った。

 

「いないのよ」

 

「いない?」

 

 ミランダの言葉にロウが眉をひそめた。

 

「そもそも、噂にある見習い巫女が誰のことなのか、まったくわからないのよ。勤仕台帳に削除痕があるのに、監査印は綺麗に残っている。肝心のスクルズもだんまりだし……。神殿長のグランとしては、大がかりな神殿内の調査は情報漏洩にもなるし、避けたいのね」

 

「なるほどね」

 

「それと、証言に食い違いがあるわ」

 

 ミランダは証拠品に視線を落としたまま続けた。

 

「証言に喰い違い?」

 

 ロウが首を傾げた。

 

「グランの箝口令を強要しながらの調査だけど、スクルズ本人は“合意だった”とだけ言い張っている。でも、聞き取りでは、当夜の現場で、“スクルズに似た女”が、見知らぬ女に脅されて拘束状態にされていた、という目撃証言が採れているの……。裸身の露出も。……どちらかが欠けているか、何かが隠されている」

 

「脅されていた、か……」

 

「さらに、もうひとつ……、極秘の伝言があるわ」

 

 ミランダは声を落とした。

 

「まだあるのか?」

 

 ロウは苦笑した。

 

「これは、あたしが、スクルズ本人からの直接に依頼されたことよ。グランを通じてではなく、神殿の自室に事実上の拘禁になっているスクルズに、あたしが直接に話に行ったときに言われたの……。“ウルズとベルズを救って欲しい。できるだけ密かに”……と」

 

「さっきの三巫女の関係が、この件の中核に触れている可能性が高いのかもな」

 

「あたしもそう思う」

 

 ミランダは大きく頷いた。

 

「ほかには?」

 

「以上よ。とにかく、そのスクルズは、神殿長のグランにも、あたしにも、それ以上を語ってくれない。だけど、あんたたちなら、なにかわかるかもしれない。お願いよ。スクルズは、あたしの友達でもあるの」

 

「わかったよ、ミランダ」

 

 ロウが頷いた。

 それを確認し、ミランダが姿勢をただす。

 

「──じゃあ、改めて、ロウおよびパーティの全員に、強制クエストを発動します」

 

 ミランダは宣言した。

 

「強制クエスト?」

 

 ロウ、そして、隣のエリカがきょとんとしている。

 

「ええ、強制クエストよ。あんたら、もう一箇月以上もクエスト受けてないでしょう」

 

 ミランダは言った。

 強制クエストというのは、通常であれば自分で選ぶクエストを、ギルド側から強制的に受けさせるものだ。一定以上のランクのパーティに義務付けられているものであり、原則として拒否できない。

 

「あれっ、そうだったか。そういえば、ガリオン事件はクエストじゃなかったな」

 

 ロウが頭を掻く。

 

「クエスト扱いじゃないわね。とにかく、今回の強制クエストは、第三神殿の筆頭巫女スクルズの破廉恥事件の背景の調査。小瘴石と闇魔道を使った淫具の出所の解明。これをできるだけ秘密裏に行うこと──。期限は半月。報酬は王国金貨二十枚。内容によっては加算もあるわ」

 

「承知したよ、ミランダ……。ところで、少し遊んでいくか?」

 

「あ、遊ばないわよ──」

 

 ミランダは、声を荒げた。

 

「まあ、そう言うなよ。クエストはしっかりと受けてやるから……」

 

 ロウが不意にミランダの腕を掴んだ。

 その瞬間、全身の力が抜け落ち、膝から崩れるように床へと沈む。

 

「な、なに……これ……?」

 

 驚愕に目を見開くミランダに、ロウが低く囁いた。

 

「……この前、俺が淫魔師だって教えたろう。淫魔師が選んだ女の身体は操れるんだ。こんなふうにね……」

 

 言葉とともに、熱が全身に奔る。

 抵抗しようと腕に力を込めても、思うように動かない。

 逆に下腹がかっと熱を帯び、呼吸さえ浅くなる。

 

「や、やめっ──」

 

 スカートをまくられていく。

 横でエリカが「ロウ様……」と呆れているが、助けてくれそうな気配はない。

 声を上げる間もなく、さらにロウの手がスカートの裾を押し上げた。阻止しようにも、身体が動かない。

 

 腿に冷たい空気が触れ、羞恥が一気に押し寄せる。

 そして、ロウの視線と熱に迫られ、抵抗の心はたちまち小さく萎んでいった。

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