※この作品はR-18です。

【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】   作:ドン・ドナシアン

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116 魔眼保持者の洞察

「ご主人様がスクルズとか、ベルズとかいう巫女を犯して支配してしまえばいいんだよ。魔瘴石の憑依も一種の支配魔道だからね。それよりも、強い支配をしてしまえば、魔瘴石は外れるよ」

 

 クグルスは言った。

 

「つまり、性奴隷にしろということ? 神殿の筆頭巫女様たちを?」

 

 エリカが驚いている。

 この世界で生きる者として、神殿というのがどのくらい権威のあるものかは、本来は異世界の人間である一郎には肌で理解することはできない。

 だが、一郎の淫魔師の力に慣れたはずのエリカが、こんなにびっくりするのに接すると、それは大変なことだというのはなんとなくわかる。

 

「神殿の巫女だからなんなんだ。偉大な淫魔師のご主人様には、女がいっぱいいるんだ。能力のある人間の女ならちょうどいい。お前たちも協力しろ」

 

 クグルスが宙を飛びながら、エリカの顔の前で両手を腰の横につけて睨む。

 

「でも、筆頭巫女様よ」

 

 エリカはまだ困惑している感じだ。

 

「ああっ……はあ、はあ……。で、でも……この魔妖精殿の話によれば、ほかに方法がないのだろう……? まあ……そのスクルズとベルズに魔瘴石が憑依していて……それを助ける手段が……それしかないのであれば……ロウには、そうしてもらうしか……ないんじゃないか……」

 

 媚薬を塗り込まれた股縄に責め立てられたシャングリアが、息も絶え絶えに、無理やり言葉をねじ込んできた。

 一郎はその様子に気がつく。

 

「忘れてた。縄を解いてやる」

 

 すぐに身を寄せ、後手に縛られた縄を解き、股間を締め上げていた股縄に手をかける。

 

「ふわあ、ああ──っ」

 

  抑え込まれていた熱が一気に解き放たれたのか、シャングリアの腰が大きくのけ反った。

 強烈な痙攣が走り、秘裂からは淫液が溢れ落ちる。縄を解いたことで快感が奔り、身体が勝手に震えているように見えた。

 解放されても収まる気配はなく、彼女は胸や腹を抱くように身を折り曲げ、荒い息を吐いている。

 股間には縄の痕が赤く浮かび上がり、その痕すら疼きを呼び起こしているかのように一郎には見えた。

 

「まあ、確かに、ほかに方法がないのだろうね……。あったとしても、俺には手は負えないし、淫魔術で支配することなら、俺にはできるな」

 

 一郎は言った。

 

「ご主人様が、筆頭巫女を犯して、危険な魔瘴石を取り除く……。確かに、それそのものはできるのかもしれません……。ただ、ご主人様が危険を冒してまで。それをする必要があるんですか?」

 

 コゼだ。

 シャングリアほどではないが、まだ中途半端な淫情の発散しかさせてないので、コゼもちょっと辛そうに、内腿をしきりに擦り合わせたりしている。

 

「そうですね。ロウ様の言っていたノルズという女……。危険です。わざわざ関わりになるのも……」

 

 エリカも口を挟んできた。

 第二神殿で、護衛として筆頭巫女ベルズのそばにいた“ノルズ”という女──彼女について一郎が知った情報は、すでに三人は説明している。

 あの謎の女のノルズが、今回のことについて、なんらかの関係を持っているのは間違いないだろう。

 

 ひとつは、そのノルズのステータスに「魔獣遣い」というジョブがあり、魔道遣いジョブとともに、レベルは〈レベル40〉だったことだ。

 後でエリカに確かめたところ、魔獣遣いというのは、魔獣を使役し、その能力を術として振るう存在のようだ。

 一郎も淫魔師として淫魔族であり魔妖精のクグルスを使役しているが、それを魔獣によって行うものらしい。

 それを術として専門に行えるのが「魔獣遣い」であり、少なくとも複数の魔族を召喚できるはずだとエリカは言っていた。

 無論、魔獣召喚は禁忌の魔道だ。

 だが、なんらかの方法でそれを極めたのが魔獣遣いなのだという。

 

「とにかく、あのノルズという若い女護衛は魔獣遣いだ。だから、魔獣の力の源である瘴気をある程度は操ることができるんだよな?」

 

 一郎はエリカを見た。

 エリカは、闇魔道を駆使していたアスカに長く仕えていた。闇魔道や瘴気を利用する 禁忌の術について、ある程度の知識がある。

 

「それは間違いないと思います。魔獣を召喚するには、必ず瘴気が必要ですから。アスカ様も人工的な瘴気を作ってました」

 

「それが小瘴石とかいうもの?」

 

 コゼが訊ねる。

 

「そうね……。まあ、小瘴石というのは人工的に瘴気を作ったものを動力源とするために結晶化させたものを考えればいいわ。技術としての根っこは同じよ」

 

 エリカは小さく頷いた。

 

「つまりは、ベルズが魔道を凍結され、身体に魔瘴石が封じられていたことと、スクルズに小瘴石を使った淫具が使われたことは、あのノルズの関与で間違いないだろう」

 

ノルズの「魔獣遣い」としてのレベルは〈レベル40〉だった。三大神殿の筆頭巫女のひとりであるベルズの「魔道遣い」レベルが〈レベル25〉であったことを考えると、〈レベル40〉というジョブレベルが常識外れであるのはわかる。

 さらに、魔道遣いレベルも〈レベル40〉だ。

 

 その能力があれば、他人の身体に瘴気溜まりを生じさせ、魔瘴石を憑依させることもできるだろう。

 魔獣を召喚する魔獣遣いには、その魔族を呼び出すための瘴気の出口をこの世界に作る能力が必要だ。

 

「いや、やっちゃいなよ、ご主人様。女を捕まえるのは、こいつら性奴隷の役目さ。ご主人様は、ただそれを犯して支配するだけ。捕まえ方は、こいつらが考えるから」

 

 すると、クグルスが口を挟んだ。

 

「そう簡単に言わないでよ。それになによ。そんな闇奴隷狩り屋みたいな役割は──」

 

 エリカが不満そうにクグルスに言った。

 

「はああ? それがお前たちの任務だ。そのために、ご主人様に能力を向上してもらったんだろう──。その分、ちゃんと役割を果たせ──」

 

「まあまあ」

 

 極論に走る魔妖精のクグルスを一郎は苦笑とともになだめる。

 魔妖精には魔妖精の理屈がある。

 クグルスに人間世界の常識を説いても無駄だろう。

 

「話を戻すぞ……。ベルズ様だけでなく、スクルズ様も魔瘴石を憑依され、魔道を封印されて、さらに脅されていると仮定しよう。その実行犯はあのノルズだ……。状況証拠だが、まあ、確かだろう。ここまでいいか?」

 

 一郎の言葉に、エリカたちが黙って首を縦に振った。

 それを確認して、さらに続ける。

 

「……そして、その場合、俺にしか、彼女たちの状況を救えない。それだけは確かだ。ならば、助けてあげたい。もっとも危険はしっかりと見極める。だから、協力してくれ」

 

 一郎は頭をさげた。

 ノルズがベルズたちの身体に魔瘴石を憑依させたと仮定すると、それを上回るレベルの能力で支配するには一郎の〈レベル65〉の淫魔師の力しかない。

 一郎の知る限り、どんなジョブであれ、この王都で〈レベル40〉超える者は彼のほかにいない。

 つまり、スクルズとノルズを助けるのは、一郎にしかできない。

 

「わかりました。ロウ様に従います。いいわね、コゼもシャングリアも」

 

 エリカが代表するように言った。

 一郎は頷いた。

 

「ありがとう。ただ、問題は、俺たちが相手をするのは、どの程度の相手なのかということだ」

 

 全員を見る。

 今回のクエストの依頼主は、第三神殿の神殿長のグラン老女だ。

 しかし、彼女は、人工的な瘴気の結晶体の小瘴石の存在は認識しているが、天然の結晶体である魔瘴石の存在は、間違いなく認識してない。

 人工の小瘴石でも、死刑に相当する禁忌の魔道であるようだが、おそらく、天然の魔瘴石を王都に持ち込むのは、罪のレベルが違うだろう。

 そのくらいは一郎にもわかる。

 

 天然の魔瘴石は、瘴気溜まりを産み、異界に封印した冥王の復活にさえ通じるのだ。

 つまりは、この世界の価値観では、人族への裏切りともいえる魔瘴石と瘴気溜まりの人為的な発生に、意を返さない組織があるのかもしれないということになる。

 ノルズが主犯なのか、あるいはノルズがもっと大きな組織の一部にすぎないのかは現時点では不明であるが、大きなものが裏にあるのは確実だと思う。

 王都の三大神殿の筆頭巫女に次々と魔瘴石を憑依させる──そんな大仕事を若い女ひとりでするとも思えない。

 そもそも、その組織の目的はなんなのだろう?

 

「……なあ、クグルス……。さっきのノルズという人間が、人間族に魔瘴石を憑依させたとして、その力で憑りつかせた存在を殺すことは可能か?」

 

 一郎はクグルスに訊ねた。

 ベルズが魔瘴石に憑依されている。まだ確認していないが、夜の街で淫らな行為に及んだ第三神殿の筆頭巫女スクルズも、おそらくそうなのだろう。

 それで脅されているのだ。

 

 そして、スクルズ自身も魔瘴石に憑依されているとしても、脅しの本質は、親友であるベルズやウルズの身体に魔瘴石を埋めた事実をノルズがスクルズに伝え、従わなければベルズやウルズを殺すと脅迫されていることではないか。

 それなら、いまだにスクルズがすべてを黙秘していることに辻褄が合う。

 現に、ベルズは魔瘴石を封じられているし、スクルズ自身が王軍魔道師隊に逮捕され処刑される危険がある状況で、黙秘により、いまだになにかを隠そうとしているのである。

 

 だが、筆頭巫女を脅迫して、言いなりにするためだけに、禁忌中の禁忌の魔瘴石を使うか?

 手段と効果が合致してなくないか?

 脅迫するだけであれば、もっと簡単な手段はいくらもある気がする。

 じゃあ、爆発させたあとのことか?

 

「ううん……そうだねえ……」

 

 クグルスは少し考えてから口を開いた。

 

「……もしかしたら、憑依させている人間の魔道保有力を超える瘴気を一気に活性化すれば、それに耐えられなくなった肉体は破裂するかも……。いや、多分そうだね」

 

「人間の魔道保有力? なんだそれ?」

 

 一郎は首を傾げた。よくわからない。

 

「ああ、つまりね、魔瘴石そのものは、瘴気の発生源なんだよ。瘴気が結晶化したもので、それが溶けて瘴気が生まれるからね。それを制御せずに暴発させれば、肉体ごと爆発すると思うよ。魔瘴石はかなりの純度の高い魔道力の固まりだから」

 

「どのくらいの爆発になる?」

 

「ううん……。まあ、魔瘴石の大きさや純度によるけどね。人の身体に入れられるくらいのものなら、大したものじゃないんじゃない。多分、建物ひとつがなくなるくらいだと思うよ」

 

「十分に大したものよ」

 

 コゼが呆れたように口を挟む。

 

「それでどうなる?」

 

 一郎は訊ねた。

 

「それで終わり。憑依している人間が死ねば、魔瘴石は砕ける。それだけ。あとはなにもなくなる」

 

 クグルスは言った。

 

「そうなの? 魔瘴石が爆発して瘴気溜まりが破裂すれば、周囲に瘴気が溢れて、そこが新しい瘴気溜まりになるんじゃないの?」

 

 エリカが口を挟んだ。

 しかし、クグルスは首を横に振った。

 

「……そう考える人間族は多いみたいだけど、それは嘘だよ。瘴気や瘴気溜まりの仕組みは、魔族のぼくたちの方がよく知っている。魔瘴石が憑依してできた瘴気溜まりが破裂したら、それで終わりさ。拠り所がなくなって霧散してしまう。そういうものなの」

 

 クグルスは言った。

 つまり、瘴気溜まりとして存在を保持するためには、憑依した人間が死んではならないということか。

 建物一個ならば、「人間爆弾」のように武器としての効果はあるのかもしれないが。魔瘴石を探知する手段もあるし、何度も使えるものではない。

 一郎たち冒険者たちは、それぞれの方法で天然の瘴気溜まりの核となる魔瘴石を見つけて破壊してきている。

 人間の中に憑依させるなど、予想もつかないから、いまは一郎以外には気がついてないかもしれないが、数回繰り返せば、人間を対象として魔瘴石の探知もするようになるだろう。

 

「……目的は、魔瘴石を爆発させることじゃなく、瘴気溜まりを意外な方法で作ることにあるのかもな……」

 

 一郎は呟いた。

 

「なにか、おっしゃいましたか?」

 

 エリカだ。

 

「うん……。だから、目的なんだよなあ……。高位魔道遣いのスクルズ様やベルズ様を殺したり、活性化させて王都の神殿を破壊することじゃなくて、瘴気溜まりを作りたいのかなと思ったのさ。その場合、死んだらなんにもならないんだよね」

 

 ノルズ、あるいはその背後にあるものの目的が、ハロルドという王都の真ん中に魔族や魔獣の出入りできる瘴気溜まりを作ることにあるのだとすれば、魔瘴石を憑依させた対象を殺しては、なににもならないのは確かだ。

 せっかく憑依させた対象は死ねば、瘴気は霧散する。

 

「人に憑依させたもので、瘴気溜まりほどの瘴気を集めるんですか? 相当の量が必要ですよ」

 

 エリカが言った。

 一郎は再びクグルスを見る。

 

「なあ、クグルス、憑依している人間が死ねば、瘴気溜まりとしての役割は壊れて、瘴気は封印されると言ったよな。だったら、死ななければどうなる……。瘴気は増えていくか? つまり、人の身体を瘴気の牧場のように使って、蓄積していくことはできるだろうか」

 

「できるね。結晶化した魔瘴石に含まれる瘴気は一定だから、それ以上は増えないけど、体内に取り込ませて、暴発させずに、ゆっくりと吸収させて、なくなったら新しい魔瘴石をまた入れる……ということをすれば増えるよ」

 

「つまりは増えさせることができるんだな。でも、確か、瘴気溜まりは一定量とかなりの高濃度にならないと、魔獣が出現できる異界との亀裂にはならないんだったよな。魔道遣いの身体の中に、それくらいの濃い瘴気溜まりを作ることも可能と思うか?」

 

 異界との綻びができれば、漏れ出る瘴気が結晶体──魔瘴石を作る。

 だから、魔瘴石とは瘴気漏れの目印なのだ。

 そして、天然の瘴気は、すぐに霧散してしまうが、結晶体ができれば、それを核にして瘴気が溜まることになる。これが瘴気溜まりであり、天然の瘴気溜まりは、少しずつ瘴気を吸って成長し、結晶体の魔瘴石も大きくなる。

 魔瘴石と瘴気溜まりが成長すれば、異界との亀裂が発生して拡大し、そこから凶暴な魔獣──さらに巨大化すれば、封印の冥王のしもべである魔人たちまでやってくれるということだった。

 だから、冒険者である一郎たちは、瘴気溜まりが成長する前に、結晶となった魔瘴石を破壊して瘴気溜まりを消滅させるのだ。

 

「よく覚えてるね。さすがはご主人様だよ。瘴気がどんどん増えて、一定量溜まれば、人間の身体であっても亀裂はできるかもしれないね……。いや、人間の魔道遣いの体内なら発散しないから、濃度はすぐにあがるかも……。あとは量だね。かなりの瘴気を蓄積できる容量がそれなりに必要かも……」

 

 クグルスが言った。

 

「ふうん……。だったら、魔力の多い高位魔道遣いほど、瘴気溜まりとしての役割を果たしやすいということになるな」

 

 一郎は言った。

 

「えっ?」

 

「そう……なの?」

 

 エリカとコゼだ。シャングリアはまだ媚薬の染みた股縄の後遺症なのか、まだ辛そうだ。

 それはともかく、わざわざ、スクルズやノルズのような高位の人物に、魔瘴石を憑依させた狙いは、彼女たちが高い能力の魔道遣いであるからかもしれない。

 

 彼女たちは美人三巫女と知られているだけでなく、高位魔道遣いでもある。

 確か、彼女たちを上回る能力の魔道遣いは、王軍にもいなかったはずだ。

 その高位魔道遣いの体内に、魔瘴石を埋め込み吸収させる。吸収し終わったら、次の魔瘴石を埋めてまた吸収させる。

 

 どのくらいまで吸収できるかは、魔道遣いとしての能力によるのだろうから、高位魔道遣いである彼女たちの身体であれば、かなりの瘴気を蓄積できるはずだ。

 もしかして、魔道遣いの身体に保有できる魔力や瘴気の量を拡大できるなんらかの手段さえもあるのかもしれない。

 

 そうやって、瘴気を集めさせ、瘴気溜まりとして機能するようになれば、そこに異界との亀裂を作るのだ。

 そうすれば、今度は異界から大量の瘴気が亀裂から発生し、魔獣の発生源となる。

 通常であれば、天然の瘴気溜まりでしかないものが、そうやれば、移動する瘴気溜まりとして機能できる。

 それこそが、ノルズやその背後にいるかもしれない組織の真の狙いかもしれない。

 

「スクルズ様やベルズ様の高位魔道遣いの身体を使って、人為的に瘴気溜まりを作る。それが狙いなのかもしれない。この方法なら、天然の瘴気溜まりのような場所とは異なり、人の密集する王都でも瘴気溜まりが作れる」

 

「そうか? だが、憑依させている人間が死ねば終わりなのだろう。どうやって、瘴気を集めさせ続けるのだ?」

 

 シャングリアは疑念を口にする。

 一郎は肩を竦める。

 

「本格的な隠謀行為というよりは、今回は実験的なものなのかもな。やり方は、これから検討していくとして、可能なのかどうかを試したいとか。それにはできるだけ高位魔道遣いが必要だったけど、たまたま、スクルズ様やベルズ様が利用しやすかったとか」

 

 もし背後に組織があるのなら、彼らは“交換”や“補給”の手順を確立しているはずだろう。

 瘴気が尽きれば新たな魔瘴石を入れる――そのための手段と通路があればいい。

 媒体とする人間は、意識がある必要はなく、生きてさえいればいいのだ。必要なのは魔力容量の大きい高位魔道遣いの肉体であることだけだ。

 

「まあ、実験だとすれば、理屈は通ってますね」

 

 コゼが言った。

 

「いずれにしても、大きな仕事になりそうだな。人族に対する隠謀の阻止だ」

 

 それにしても、人の身体に魔瘴石を憑依させて瘴気溜まりを作るなど、誰が考えついたのか。

 自然地物や魔獣に瘴気溜まりを生じさせるのとは訳が違う。

 もしこの方法が用いられれば、王都のように瘴気や魔族に対する警戒が敷かれた場所にも、人為的に瘴気の出入口を作り出すことが可能になる。

 ──もしかしたら、それこそが、ベルズたちに魔瘴石を封じた者たちの狙いではないか。

 そんなことをふと思った。

 

 なお、第三神殿のグラン神殿長が知っているのは私室から見つかった小瘴石だけで、体内に魔瘴石があるという話は彼女の知る由もない。

 だからこそ外部に漏らせず、極秘での調査を依頼してきたのだろう。知っていれば、話が大袈裟すぎて、内密に捜査を進めるという結論にはならないはずだ。

 

「……しかし、わからんな。ロウの話は筋は通るが、そもそも、なんのために、瘴気を作るのだ。亀裂を作り、魔獣をこの世界に解放すれば、最後には冥王をまた呼び寄せることになるのだぞ。そんなことをして、なんの得になる?」

 

 シャングリアだ。

 一郎は肩を竦めた。

 

「さあね。ただ、世の中には色々な価値観を持った人がいて、その集団がある。そういいえば、わざと瘴気を拡大して、瘴気溜まりを人為的に作っているやつがいたな」

 

 一郎はうそぶいた。

 

「はあ? そんなものがいるのか?」

 

 シャングリアが眉をひそめた。

 

「アスカだ」

 

「アスカ様? あっ」

 

 一郎の言葉に、エリカが小さな声をあげた。

 アスカの召喚術は、大量の瘴気を発生させる。それを垂れ流していたことで、アスカ城の周辺は、ルルドの森といわれる魑魅魍魎の集まる場所となった。

 あのとき、アスカの影と対決したときも、アスカの影は、瘴気が溢れていることを認識していることを口にしていた。

 シャングリアとコゼノ視線がエリカに向かう。

 

「わ、わたし、知りません。アスカ様がどうして、瘴気を流しているかだなんて。嘘じゃないです」

 

 エリカは慌てたように首を横に振る。

 一郎はぽんとエリカの頭の上に手を置く。

 

「……わかっているさ。エリカが嘘をついていると思わないし、そもそも嘘は下手だ……。それよりも、ちょっと話が込み入ってきたな……。これは大仕事になりそうだから、さっきの続きを先に済ませよう。危険な仕事になるかもしれないし、やり残しがあって命はかけられんしね」

 

 一郎は白い歯を見せると、コゼとシャングリアに向かって誘うように、両手を拡げた。

 ふたりが抱きついてきた。

 

 

 

 

 

 ミランダが地下牢にやって来る気配がしたのは、さらに一郎がコゼとシャングリアを抱き、もう一度エリカを抱き終えた直後だった。

 外階段の先から石の床を打つ足音が遠くに聞こえ、その足音がだんだんと近づいてきた。

 

「クグルス、戻れ」

 

 一郎は反射的にそう命じた。

 

「へえ、もう行くの? ご主人様、後でまた遊ぼうね。じゃあね」

 

 クグルスはにやりと笑い、ふわりと舞って裂け目へ消えた。

 薄い残光が残り、室内の空気が少しだけ軽くなった。

 

「服を着ろ、手早くだ」

 

 一郎は短く声を張り、三人に身繕いを促した。

 エリカたちが慌ただしく身繕いをする。乱れは数呼吸で整い、体裁は一応整った。

 

 足音は地下牢に続く廊下を伝ってさらに近づき、やがて格子戸の前で一度、石を強く打った。

 鉄格子越しに立ったのはミランダだ。

 額に汗がにじみ、顔は怒気で紅潮している。彼女は片手で格子を握り、指先がわずかに震えていた。

 掛け金を外す短い金属音が続いて、扉の鍵が外から開かれた。

 

「なんてことをしでかしてくれたのよ、ロウ──。事もあろうに、第二神殿の筆頭巫女のベルズの唇を強引に奪うなんて。神殿側はかんかんだし、冒険者ギルドとしても厳しい処分を出さざるを得ないわ。どういうつもりなの──」

 

 牢に入るや否や、ミランダは声を張り上げて一郎を睨みつけた。

 ミランダは怒りのために顔を真っ赤にしていた。

 しかも、その顔は汗びっしょりだ。

 おそらく、ミランダは一郎のやったことを収めるために、あちこちを走り回っていたのだろう。

 さぞや一生懸命に動き回ってくれたに違いない。だから、随分と時間がかかったのだと思う。

 

 ミランダの怒りが一郎に対する心配の裏返しなのはわかっている。

 第二神殿で騒動を起こした一行をギルドの地下牢に拘禁したのは単なる監禁ではない。

 ベルズの唇を奪ったという騒動を受けて、神殿側や王軍の手が及ぶのを避けるための措置なのだ。つまり、ミランダは一郎を保護するために、身柄をギルド本部の地下に隠したのであろう。

 

「ミランダ、文句はロウの話を聞いてからにしたらいい。わたしも最初は面喰ったが、話を聞けば、ロウのやったことは成程と納得できるものもある。とにかく、時を争う事態だと思うぞ」

 

 シャングリアが横から口を挟んだ。

 

「ねえ、ミランダ、シャングリアの喋っていることは本当よ。ロウ様の洞察が正しければ……わたしは正しいと思うけど、スクルズ様だけじゃなく、ベルズ様も、途方もない相手に……」

 

 エリカも続ける。

 

「いや、エリカ、もういいのよ……。あんたたちに対するクエストは取り消すわ……。それと、ランクについては、(アルファ)ランクから(ブラボー)に降格……。さらに懲罰金を支払ってもらうわ」

 

 ミランダが早口で言った。

 

「そんな……。それは酷いわよ」

 

 コゼが抗議した。

 ほかの二人も面喰った表情になる。

 一郎は肩を竦めてみせた。

 まあ、表面上はきつい処分に見えるが、ミランダの処置には一郎を守るためなのだろう。

 ギルドとして厳しい処罰を出すことで、神殿側に事態が収まったと印象付け、これ以上の追及を逸らすためだ。

 

「クエストも取消しよ。話を聞いた第三神殿のグランも、クエストを取り下げたわ。筆頭巫女の手を出すような者をスクルズに近づけるわけにはいかないそうよ。それをしたギルドにも怒っている。当面立ち入り禁止だそうよ」

 

「それは困ったな。ここを出たら、次はスクルズ様に会いにいくつもりだったんだけど」

 

 一郎は頭を掻いた。

 

「やめておくことね。あんたの姿を見た瞬間に、神殿を守る神殿兵が武器を向けてくるわ。あたしとしては、しばらく、王都から離れることも検討した方がいいと忠告するわね」

 

「まあ、そう言われても、スクルズ様とベルズ様たちを助けようと決めたからね」

 

 一郎の気持ちは変わらない。

 今回の事件をここで終わらせるつもりは毛頭ない。

 スクルズたちを救うのは、いまのところ一郎にしかできないのだ──。

 

「とにかく、ミランダ、それどころじゃないんだ……。おそらく、これはこの王都の大きな危機だと思うよ。まあ、話を聞いてくれ」

 

 一郎は言った。

 

「話ですって? なにか、言い訳があるというの? あなたが女たらしだというのはわかっているけど、第二神殿の筆頭巫女のベルズの唇を突然に奪ったということに対して、納得できるような理由があるなら教えて欲しいわね──。もちろん、あなたが、王都で一番の女好きだというのは抜きにしてよ」

 

 ミランダが怒った口調で言った。

 一郎は苦笑した。

 

「……まあ、女好きだというのは認めるけどね……。とにかく、ベルズ様は身体に魔瘴石を憑依させられている。多分、スクルズ様も……。もしかしたら、もうひとりの筆頭巫女のウルズ様も危ないかもね──」

 

「魔瘴石が憑依? あなた、なにを言っているの?」

 

「間違いないよ……。そして、ノルズという女がなにかを関与している……。発端となった夜遊びのときにスクルズ様と一緒にいたというのは、おそらく、そのノルズだ。そして、ノルズを第二神殿で見た。護衛としてベルズ様のそばにいたよ。しかし、あれは、護衛じゃなく、監視だ」

 

「はあ? 話がまったく追いつけないんだけど?」

 

 ミランダは面食らっている。

 

「とりあえず、ミランダにも動いて欲しい。ノルズの背景を探って身柄を押さえるんだ。ほかにもミランダには協力して欲しいことがある……。ギルドには貴重な魔道具がたくさん保管してあるはずだ。それを貸してもらいたい」

 

「冒険者ギルドの魔道具を貸せ? なんのこと?」

 

「いいから、話を聞け。これから話すことは他言無用だし、信用してもらうしかない。俺には魔眼という力がある」

 

「魔眼?」

 

 ミランダが目を丸くした。

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