【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「ああっ、もうやめて──」
エリカは思わず悲鳴をあげた。
粘性生物ウーズに真っ直ぐ固定された身体が、ぎしりと音を立てるように斜めへ回転し始めたのだ。
ここは王都の城壁から遠く離れた、人の気配のない河の中州である。
水生の樹木が生い茂っている場所の中心で、おそらく岸からは樹々に遮られて見えない。
その一本の樹木の下でエリカは素裸のまま、球体に変形したウーズの内部に囚われていた。
また、首には、魔道封じの首環。もともと、ノルズを捕らえるためにエリカたちが準備したものだが、いまはエリカの首にはめられている。
エリカを閉じ込めているのは、球体に変形したウーズだ。
外殻は編み籠のように透け、内部は空洞になっている。
その内側で、肘から先と膝から下を絡め取られ、両手足をがっちりと固定されたまま、球体ごと高速で回される責めに耐えさせられているのだ。
嗜虐を好むノルズが退屈しのぎに与えた苦痛にすぎない。だが予測不能な角度で体を振り回される苦しみは想像を超えて苛烈で、関節や筋肉が軋むたび、喉から悲鳴が洩れた。
一方で、少し離れた枝には、コゼが逆さ吊りにされていた。まるでみのむしのように。
樹木の枝から垂らされた縄に両腕を後ろ手に縛られ、さらに両脚をひとまとめに括られている。その無惨な身体を、別のウーズが上から覆い尽くしていた。透き通った粘膜の向こうで、刻まれた肌から滴る赤い血が滲み、エリカの目に焼きつく。
治療もなく吊されたままのコゼは、意識を失ったままだ。
「も、もういやああっ──。やめて──やめて──」
視界の端に、逆さ吊りのコゼの姿がちらつく。赤い血が透けて見え、胸を締めつけた。助けたい──そう思うのに、次の瞬間には自分の体が再びねじられ、意識はそちらへ引き戻される。
斜めに傾いたかと思えば逆さま、また別の方向へ。容赦ない回転に、友の惨状を見続けることすらできず、エリカの喉から悲鳴が迸り続けた。
十回ほど回転したあと、球体は頭を下にした斜めの姿勢で止まった。肩や二の腕、太腿の筋肉は突き裂けそうに張りつめる。
呼吸するだけで胸が軋み、震えが止まらない。吐き気は視界を潰すほどだった。
「まだ、あたしに悪態をつく元気はあるかい、エルフ女?」
ノルズが球体の表面を指で押す。
軽い仕草だけで、体は再びねじれ、エリカは悲鳴を洩らした。
「ああっ──」
予期せぬ方向へ振り回され、背筋も腹筋も一瞬で総動員される。
楽に支えようと必死になるが、疲弊した体には無理だった。苦痛は果てしなく続く。
「……も、もう許して……。コゼを助けて……お願い……。彼女を……治療して……死んでしまうわ……」
ようやく回転が静止した。
視界はまだ渦を巻き、逆さの世界に反転したノルズの姿が揺れて見える。
「心配ないよ。ウーズには最小限の治療効果がある。死なない程度には止血している。だから包ませているのさ。もっとも、限界まで弱らせてるから、間違って死んだら勘弁な」
嘲りの声に、エリカの胸は冷たく締めつけられた。
「そ、そんな……」
「とにかく、残りの治療はロウを捕らえてからだよ……。お前たちのご主人様なんだろう?」
言葉の棘に、唇が強ばる。
「それにしても驚いたよ。あたしの仕事を邪魔した冒険者が、まさかあのアスカのところから逃げ出した外界人と──そいつにたらしこまれたアスカの元愛人だとはね」
ノルズは愉快げに笑った。
世の中は広いようで狭い。
そんな言葉を、エリカは朦朧とした耳で聞かされる。
──アスカの名。
どうして、この女がそれを知っているのか……。
面識はなかったはずだ。だがノルズは、アスカを呼び捨てにし、まるで同じ組織の一員であるかのように語る。
だが、間違いなく、エリカは、このノルズを知らない。そもそも、“アスカ”と呼び捨てだし、アスカ城の城主として敬意を払っている気配はない。
これは──どういうことなのだろう。
「……じゃあ次は、五十回ほど回してやろう。そのあとで二十発の平手だ。まだ立っていられるなら、コゼの逆さ吊りだけは解いてやるさ」
ノルズが言うと同時に、球体は再び大きく回転を始めた。
天地が逆さまになり、視界が激しく揺れた。肘や膝の関節がきしみ、吐き気がこみ上げる。
「あああ、やめてえええ──」
エリカはひたすらに悲鳴をあげ続けた。
十回、二十回……四十回を越えたころには、頭の芯までぐらぐらと揺れ、思考も途切れがちになっていた。やがて五十回に達すると、球体がぴたりと止まる。
「ほら、出してやるよ」
ノルズの指先が軽く動くと、ウーズがするすると形を変え、エリカの体を覆っていた外殻が一部を残して引いていった。
その隙を逃さず、両手は背中に強引に回され、水平に揃えられたまま革覆いで素早く包まれていく。さらに足首には、肩幅ほどの長さの鎖で繋がれた足枷が嵌められた。
ウーズの籠に囚われ、回転拷問を受け続けていた身体は、もうまともな抵抗を許さない。ふらつき、震えながらも無理やり地面に立たされる。
やがてエリカにまとわりついていたウーズは、ぬらりと身を離し、ノルズの足もとへと集まっていった。
「さあ、平手の番だ。相方の命を守りたければ、死ぬ気で立ったままでいるんだ」
ぱしん、と凄まじい音が頬に走った。衝撃で頭が跳ねる。
「ふぶうっ」
懸命に脚を踏ん張る。
だが、容赦のないノルズの殴打が繰り返される。
二発目、三発目……叩かれるたびに視界が揺れ、耳がじんじんと鳴る。
だがエリカは歯を喰いしばり、崩れ落ちまいと必死に耐えた。
肩が震え、膝が揺れる。それでも悲鳴はあげず、うめき声だけが喉から洩れる。
「……うぐっ……くんっ……んぐうっ……」
耐えるたびに、次第にノルズの顔に陰りが差しだした。
面白みが削がれたかのように、つまらなそうな目が細められる。
「……つまらないね。じゃあ脚を開け」
命令に従い、震える脚を足首のあいだの鎖の限界まで無理に開いた瞬間、重い蹴りが下腹部へ叩き込まれた。
「……ぐ……ぅ……」
低く呻きが洩れ、体が折れる。
間を置かず、二度目の蹴り。
「……あ……ぐ……」
三度目で膝が崩れ、ついに地面に倒れ込んだ。荒い呼吸が喉を焼く。
ノルズが哄笑した。
「罰ゲームだよ、エルフ女──」
ノルズが笑いながら指を弾く。
すると、ノルズの足もとのウーズが再び飛び掛かってきて、エリカの顔を覆った。
「んんっ」
鼻も口も塞がれ、冷たい粘膜がぴたりと密着する呼吸の道が断ち切られた。
「……んぐ……っ……ご……っ……」
喉の奥でむなしく声が泡立つ。
必死に頭を振っても、粘膜は吸いつくように離れない。
胸の奥が早くも悲鳴をあげ、肺が空虚に収縮を繰り返す。
息を吸えぬまま、全身が痙攣しはじめた。
「……く……ぐ……ぅ……」
四肢を必死にねじり、地面を叩く。
それでも、空気は一滴も入らない。
目の前が暗くなり、血が頭に上る音だけが耳を圧した。涙が勝手にあふれ、頬を濡らす。
秒が途方もなく長く感じられる。喉が焼け、意識がちぎれそうになる。
心臓は激しく打ち鳴り、やがて力を失いそうなほど鈍い響きへと変わっていった。
「……ぁ……んん……んっ」
口をぱくぱくと開こうとしても、取り込めるものはなにもない。
頭の中に白い霧が立ちこめ、体が自分のものではないように痙攣する。
死が目前に迫っているのを、誰よりも自分が悟った。
もう駄目だ……。
エリカは死を覚悟した。
だが、それでもウーズはエリカの顔からどかなかった。
気が遠くなる。
股間に生温かい感触が襲った。
そのとき、ふいに圧迫が消えた。粘膜がするりと退き、冷たい空気が一気に肺に流れ込む。
エリカは必死になって空気を貪り、獣のように咳き込み続けた。
肺に入る冷気が鋭い刃のように胸を切り裂き、息ができることすら痛みに変わっていた。
「……ごほっ……はぁ……あ……あ……」
全身が震え、視界はまだ暗い斑点で埋まっている。
生き延びたという実感よりも、ただ終わらない苦痛に心が砕かれそうだった。
「ふん、みっともないねえ。エルフ族のくせに、人前で小便まで漏らして。恥ずかしくないのかい」
ノルズの冷笑が耳を打つ。
はっとした。
視線を落とすと、粘性体に絡め取られた腿を伝い、ぬめった温かい滴が幾筋も流れ落ちていた。地面には小さな水たまりが広がり、鼻を突く生臭さが漂う。
無我夢中のあいだに、自分が失禁してしまっていたのだと悟った瞬間、頬が熱に焼かれる。
羞恥と屈辱に胸が締めつけられ、エリカは目を閉じた。呻き声が、口惜しさと共に喉の奥からこぼれ落ちた。
「ふふ……口惜しいかい? とにかく、そんなざまじゃあ、コゼを助けてやるわけにはいかないね」
ノルズが楽しげに告げた。遊戯の余韻を味わうように……。
その眼差しは、泣き叫ぶエリカよりも、むしろ死を覚悟して黙り込む寸前の姿を観察することに愉悦を見いだしていた。
「……そ、そんな……。お願いよ……コゼを」
エリカは哀願した。
いまは、腹が煮え返ろうとも、目の前のノルズの慈悲に縋るしかない。
もうコゼの呼吸はかなり薄くなっている。
だが、ノルズの目はふと遠方へと向かっている。どこか遠くを見ているような雰囲気だ。
しかし、その視界の先には、ただの樹木があるだけだ。
やがて、ノルズの顔から愉悦が消え、苛立つように舌打ちが落ちる。
「……ちっ、ウルズ、失敗したかい。まあ、それほど期待はしてなかったけどね」
その呟きが、まだ呼吸を荒げ続けるエリカの耳に、かすかな雷鳴のように響いた。
ノルズの嘲笑が途切れた。
先ほどまで残酷な遊戯を楽しんでいたノルズが急に表情を引き締め、何かに備えるように真面目な面差しに変わる。
中州に漂う空気までもが、ぴんと張り詰めたようだった。
「……来たようだね……。残念だけど、退屈しのぎは終わりだよ、エリカ……」
ノルズが真っ直ぐに遠くに視線を向けたまま言った。
そのノルズの視線の方向──。エリカたちが拷問を受けていた中州の林から少し離れたあたりの空間がぐらりと揺れたのがわかった。
木々の間にひび割れのような歪みが走り、そこからロウと、後ろ手に縛られたウルズが姿を現した。
ふたりだけだ。
「ああ、ロウ様──」
エリカは声をあげた。
ここからは、林の樹々が間に立ち塞がっていたが、ふたりの姿ははっきりと見て取れる。
ロウは縄の尻を背中側で握り、前に立たせたウルズをしっかりと捕らえていた。
一方で、ウルズはマントのような外套をまとい、その上から縄を掛けられて身動きできない。
「ウルズの眼を通して、俺たちを見ていたようだからわかっていると思うが──見たとおり、ウルズは捕らえた。お互いに人質交換と行こうか」
「ごめんなさい、ノルズ……。失敗したの……。助けて」
ウルズが顔を歪めて哀願の声を漏らす。
「ああ? そんなものが人質になると思ってんのかい」
ノルズが爆笑した。
「そんなものは、ただの玩具だよ──。殺したきゃ遠慮なく殺しな」
その瞬間、ノルズの足もとにまとわりついていたウーズがうねり、コゼを包んでいたウーズも加わって、樹木のあいだをすり抜けるように一気にロウへと殺到した。
「うわっ、いきなりかよ──」
ロウがウルズを突き飛ばし、ウルズは横に倒れた。
そして、次の瞬間にはロウの身体が顔だけ残してぬらりと粘膜に呑み込まれていた。
「あああ、いやああ、ロウ様ああ──」
あまりに一瞬の出来事であり、エリカは思わず悲鳴をあげた。
しかし、エリカの真横に立っているノルズは、面白くなさそうな顔をしている。
「……なんかおかしいねえ。無抵抗かい……。なにたくらんでだい……。それと、スクルズとウルズはどうしたのさ? あんたが女にしたんだろう?」
「それも、ウルズの眼を通して屋敷内を探ったんだから知ってんだろう? 抱き潰して屋敷で寝ているよ。とても使いものにならなくてね」
ウーズに包まれて、首だけ出して立っているロウが笑う。
ノルズが舌打ちした。
「まあ、いいさ。身体に訊ねる方法はいくらでもある……」
ノルズはロウに向き直って笑った。
「約束通りにやって来ただろう。エリカとコゼを解放しろ、いますぐにだ──。そうすれば、少しは優しく扱ってやるぞ」
「ウーズに包まれて絶体絶命の状態で、よくも、そんな言葉が告げられるものさ。とにかく、女のことよりも、自分のことを心配しな」
「ところで、ひとつだけ知りたいんだが──」
ロウの声が、樹々を抜けてこちらまで届いてきた。
「そこのウルズは体内に魔瘴石を入れることで、おそろしく魔道力が上がっていたけど、魔瘴石というのは……魔道遣いにとって、そんな効率のいいものか?」
「当たり前さ。冥王の力の芯だよ。瘴気は魔力より濃い。扱えれば格が違う──ただし、人には毒だ」
「へえ……。俺は魔道には素人だけど、毒か……。だから、自分には入れないのか」
ロウの問いに、ノルズがにやりと笑ったのが、遠目にも見えた。
「一度入れれば魂に癒着する。外れない毒を、誰が自分に入れるさ」
「少女時代に愛し合った友達たちには容赦なく、憑依させたくせにか?」
「まあ。あたしに任務があってね」
「任務か……。だが失敗だろう? スクルズからも、ベルズからも、ウルズからも魔瘴石は取り除いた。知っているだろう」
「まあね。でも、あたしこそ驚いたよ。外す方法があるなんて知らなかったさ」
「だが、もう外れた。魔瘴石も破壊した。ウルズを通して見ていたから、破壊された魔瘴石だって見ただろう? もう悪巧みは終わりだ。だから、さっさと帰れ。俺たちに構うな」
「もちろん帰るよ。まあ、まるっきり失敗というわけでもないさ。高位魔道遣いに魔瘴石を憑依させることができることはわかったんだ。あとは、初期溜まりを作り出すまで増幅できるかどうかだね。それは、そのウルズだけでいいか」
「無理だな。もうウルズに仕込むのは無理だ。そういう状態にした。諦めな」
「だったら、お前は連れて行くさ──。その代わり、お前の女ふたりと、スクルズとベルズ──。それは許してやるよ」
次の瞬間、ノルズが消滅した。
一瞬後に、ロウとウルズのいる場所に出現する。
移動術だ──。
「ロウ様ああ──」
エリカは叫んだ。
おそらく、ノルズは、次にはロウとウルズとともに、移動術でどこかに跳躍するだろう。
ロウが連れて行かれる──。
エリカは焦った。
しかし、次の瞬間、目の前にウルズが現れた、
これも移動術だ。
ノルズと入れ替わったかたちだ。
「えっ?」
ノルズは意表を突かれたようだ。
向こうで呆気にとられたように、こっちに視線を向けた。
その刹那──大轟音が轟いて、目の前に大きな光が拡がった。
なにが起きたのかを理解したのは、一瞬後だ。
ウーズに包まれていたロウが突然に爆発炎上したのだ。
「うわあ──」
爆風に巻き込まれたノルズが飛ばされて転がる。
また、火炎そのものを飲み込んでいるかたちとなったウーズが狂ったように暴れだす。
どうやら、ロウだと思っていたものは、内部に油かなにかを充満させた人形かなにかだったようだ。
それを遠隔で操って、ロウの声で会話をさせ、さらに魔道で引火させたに違いない。
しかし、そうであれば、ロウはどこに……?
「エリカ、大丈夫か?」
そのとき、なにもない目の前から突然、ロウとシャングリアが出現した。
「ああ、ロウ様──」
すぐに、「透明布」だとわかった。
ミランダから、変身リングとともに借りていたギルドの宝物のひとつだ。
全身を包むと、完全に内のものを透明にしてくれ、あらゆる気配を遮断してくれる魔道具である。
変身リングとともに、ロウが強引に借りるのを横で見ていたが、それでずっとここに隠れていたのか──。
そして、これで身を隠して、人形にロウが声を送っていたのだと悟った。
おそらく、それも魔道具だろう。
「スクルズ──」
ロウが怒鳴る。
「お任せを──」
目の前の“ウルズ”が手をあげる。
エリカの拘束が一斉に弾けてなくなる。よろけた身体をロウに抱き締められた。
コゼについてはシャングリアに受けとめられていた。
“ウルズ”だった姿がスクルズに変わる。
「ああ、よかった。てっきり捕まったのかと」
エリカは嬉しくてロウを抱き締めた。
「コゼ、しっかりしろ──」
シャングリアが地面にしゃがみ込んでコゼを横抱きにしたまま声をあげる。
「ああ、コゼ──」
エリカも見た。
かすかにコゼの胸が上下している。
大丈夫──。
息がある──。
よかった……。
「……ち、畜生……。舐めた仕掛けを……」
爆炎の余熱が流れてきて肌に刺した。視線を向けると、ノルズは爆点の近くで土に転がっており、ノルズの服は裂け、煤に汚れている。川風に血の匂いが混じる。
「……ノルズ、もう諦めよ」
空気がさざめき、ノルズの前に今度はベルズが出現した。移動術だ。ためらいの色を残したまま、手にしていた首環をノルズの喉へ掛ける。金属がかちりと閉じる音がここまで聞こえた。
「くっ」
ノルズが驚いたように顔を上げ、ベルズに掴みかかろうと腕を伸ばした。だが、その手が届く前に、ベルズの輪郭が淡く滲み、次の瞬間にはこちら側へ跳んでいた。
「ベルズ様、コゼとエリカを頼む」
「承知した」
ベルズが短く応じ、エリカの肘を支えた。つづいてシャングリアが抱えるコゼへ手を伸ばし、掌に柔い光を灯す。ベルズによる治療術だろう。裂けた皮膚が寄り、滲む血が細く止まっていくのが見え、胸の強ばりがわずかに解ける。
「シャングリアは来い。スクルズもだ」
ロウが告げ、ノルズの方へ歩を進める。コゼをベルズに託したシャングリアが追い、スクルズも続いた。
「待ってください。危険です」
ふらつく脚でエリカも追う。跪いたノルズが、煤にまみれた唇で低く呟きだしたのがわかり、はっとする。術の型だ。魔道封じの首環は嵌っている。だが第二神殿で、魔道封じを出し抜かれて反撃された記憶が疼き、胸が強ばった。
「ロウ様、ノルズは瘴気の力で魔道封じを破れます──」
慌てて声が出る。
「わかっている。魔瘴石を隠している。それを魔石代わりに使っているようだ」
ロウが内懐から短銃を抜いた。魔道具になっている短銃ホルダーであり、火縄をつけたまま収納できるのだ。
短銃は二連発である。
油と金属の匂いが一瞬立つ。乾いた音が林に弾け、火花めいた光がきらりと走った。
「……あがああっ」
ノルズの太腿から血が噴き出し、右脚を押さえてひっくり返る。裂けた衣の隙から赤が飛び散り、土が濡れた。術の指が崩れ、肘が泥に沈む。エリカには、相変わらずロウの射撃がかなりの腕前だと見えた。
「シャングリア、スクルズ──ノルズを全裸にしてしまえ。まだ魔瘴石を隠している。それを取りあげるんだ」
ロウと並び、呻くノルズの前へ進む。シャングリアとスクルズが容赦なく服を剥いでいく。
「く、くそったれが……」
ノルズが悪態をつく。
「大丈夫です……魔瘴石からの力の流れも遮断できますわ……。ノルズ、もう諦めなさい」
スクルズがシャングリアと呼吸を合わせ、術を落とす気配が走った。ノルズの眼が大きく見開かれる。瘴気術が封じられたのだと悟ったように、喉が鳴る。
「……な、なんで……スクルズの力で……あたしの瘴気術まで封印が……」
掠れた声が震えた。
「残念ながら、いまのスクルズは、お前よりも遙かに上級の魔道遣いだぞ。俺が犯してそうなったからな」
ロウは笑っている。だが銃口は注意深くノルズに向いたままだ。
そのあいだに、ノルズは完全に全裸にされた。シャングリアが剥ぎ取った衣をひとまとめにして遠くへ投げる。砂の上でぱさりと沈む音がした。
「もう、終わりよ、ノルズ……」
倒れたままのノルズに、スクルズが声をかける。表情には、深く残念そうな影が差している気がした。
「ノルズの脚を魔道で治療してやってくれ、スクルズ……。それと、身体の拘束も頼む」
ロウが言った。
スクルズが指先を返す。淡い光膜がノルズの太腿に走り、噴き出していた血が収まり、裂け目が寄っていく。
「エリカの治療は俺がしてやろう……。すぐ済む……。念のために後でコゼもね……。とにかく、無事でよかった」
ロウが抱き寄せ、唇が触れた。
すぐに深く重なり、舌先がそっと触れては引き、また絡め取ってくる。
歯列の縁をなぞられ、吐息が混じるたびに喉奥が甘く鳴った。熱が口の中から胸へ落ちて、背骨の内側をゆっくり昇っていく。痛みの芯が温い光に押し流されていくのがわかった。
ロウの治癒は、淫魔術の印で結ばれた女にだけ通る術である。従属の鎖で結ばれた身体には、触れ合いひとつで淫魔術の路が開くのだ。
よくわからないが、ロウによれば、支配した女の身体を好きなように操れるのと同様に、治療もできるらしい。
だが、その治療はまるで神がかりであり、当たり前の傷や病気だけでなく、古傷やちょっとした肌の染みなども跡形もなく消してしまう。
本当にすごいのだ。
「んんっ、ん……」
ロウに口づけを続けられて、どうしても快楽の声が漏れてしまった。
波が一枚、体の内側を撫でて過ぎ、ふくらはぎが小さく震えた。
ロウの背中に回している指先まで甘く痺れた。
快楽の波が全身にざわめき、それが大きくなり、気がつくとエリカは、ロウにづけをされて軽く達してしまっていた。
ロウの口が離れたとき、全身が楽になっていて、傷ついた肌のどこにもその痕がないことに気がついた。
「もう大丈夫だ」
ロウが身体を離す。
「あ、ありがとうございます」
余韻の熱が残っていたが、エリカは慌てて脚に力を入れ直した。
「さてと、じゃあ、ノルズには引導を渡してやるか」
ロウが身を離れ、砂に縫いとめられたノルズへ向かう。
さっきロウに撃たれた脚の治療は終わっているようだが、魔道封じの首環スクルズによると拘束術が絡み、ノルズは横倒しのまま動けないみたいだ。
「な、なにをするんだい……?」
掠れた声が震えた。
「だから、引導を渡すんだ」
そのノルズをロウが仰向けにする。
さらにその場に跪き、ノルズの両脚を抱えるような体勢でノルズの股に、自分の股間を近づけた。
さすがに、ノルズの顔色が変わる。
「うわっ、ま、まさか……」
「じゃあ、選ばせてやる。このまま乾いた膣に無理矢理に俺の男根を押し込まれるか、それとも、愛撫をしてから犯すかだ……。どっちがいい?」
ロウの言葉に、ノルズの額を一筋の汗が滑ったのがわかった。そして、ノルズの瞳がロウに縫いとめられ、歯の合う音がかちりと小さく鳴った。