【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
全身に怖気が襲った。
心臓の鼓動が信じられないくらいに激しくなり、同時に目の前が暗くなった。
「ロ、ロウ様、これは死の呪文です──。ノルズには、なにかをきっかけに、全身に毒が充満するように、身体を改造されていたようです。早くノルズから離れて──。さもないと、ロウ様にも毒が──」
スクルズの声が遠くに聞こえた。
死の呪文──? そんな馬鹿な……。
口に出そうとしたが、なぜか言葉が発せられなかった。
洩れたのは咳のような息だけ。
そして、その息さえも満足にできなくなった。
死──? 死ぬのか──?
自分の身体に、なにかのきっかけで死に瀕するような刻みが与えられていた……?
そんな……。
だが、それは確かのようだ。
自分は死にかけている……。
それをはっきりとノルズは悟った。
──視界が揺らぐ……。
薄暗い視界の奥で、ふと別の光景が脳裏に差し込んだ。
幼い頃、両親に連れられてカロリック公国からハロンドールへ渡ったときの、港の冷たい潮の匂い──。
その二年後、両親が失踪して異国の路地裏に取り残された孤児の自分──。
誰も手を差し伸べず、膝まで泥に沈むような最下層の暮らし──。
食べ物もなく、病に蝕まれ、十歳になるころには四肢は細り、ほとんど生きながら屍のようだった。
そして、あの日……。
飢えと高熱にうなされ、道端でうずくまっていた自分は、とうとう「死んだ」と思われたのだろう。
まだかすかに息があったにもかかわらず、浮浪者の死骸置き場に“死体”として放り込まれた。
腐臭と蠢く虫の中に転がされ、誰ひとりとして生を見抜こうとはしなかった。
その自分を偶然に見つけて助けてくれたのがパリスだった。
あの手がなければ、死体と同じように朽ち果てていたのは間違いない。
救われたのは確かに命であり、魂ではなかったかもしれない。
それでも──ノルズにとっては、十分だった。
自分を抱き起こしてくれたのは、この世界でただ一人の恩人。だからこそ、パリスが求めるなら駒にでもなる。
利用されているのは承知のうえで、それが恩義に報いる唯一の道だと信じた。
やがて、パリスを通じて地方神殿長に紹介され、神殿界に入った。
スクルズ、ベルズ、ウルズ──彼女たちと出会ったのはその神学校時代だった。
「修行の秘法」によって互いの性衝動を研ぎ澄ます日々。
ウルズが羽目を外しかけるたびに、自分は冷静にたしなめた。
責め役に徹しながらも、それを友情のかたちだと信じていた。
だが、やがて闇魔道を探っていることが周囲に薄々知られるようになった。
密かに疑いの目を向けられていたのを、ノルズは感じていた。
──そして、ある出来事が重なった。
スクルズが神官に何かを告げたと耳にした。
彼女はいまも「自分の密告でノルズを退学に追いやった」と思っている気配だ。
だが、真相は違う……。
すでに疑われていた自分にとって、あれはただの切っ掛けにすぎなかった。
いずれ調査が始まり、闇魔道を嗅ぎつけられるのは時間の問題だった。
だから、捕らえられる前に姿を消したのだ。
その後どう処理されたかはわからない。
手配書が出されたわけでもなく、ただ「退学扱い」になったとだけ聞いた。
真実を知る者はおそらくいないだろう。
現実に引き戻された。
「ええっ?」
ロウが驚いたようにノルズから離れるのがわかった。
ロウの怒張が抜かれる。
そして、たったいままでノルズを犯していたロウがノルズの身体を放り出したことで、ノルズはもう一度地面に投げ出されるかたちになった。
薄暗い視界が歪む。
その歪んだ視界の中に、心配そうにノルズを見下ろすロウの顔があった。
だが、それはすぐに消えた。
まるで闇夜に引き込まれたかのように、ますますなにも見えなくなった。
──ぼんやりとした視界の中に、スクルズとベルズの顔が見えた。
彼女たちの表情はもう読み取れない。
今回の企ては、パリスに命じられた瘴気溜まりの形成実験だった。
高位魔道遣いを道具のように使い、その力を瘴気の核に注ぎ込むというもの。
ノルズは少女時代の友情よりも、駒としての役割を優先した。
──けれど、心のどこかで……。
この実験が失敗してくれることを願っていたのかもしれない。
癒着した魔瘴石を害なく外す手段などあるはずもない、と信じていたから、本来なら失敗などあり得ないはずだった。
だが、ロウによって結果は覆され、実験は頓挫した。
それでも──胸の奥では安堵が芽生えていたのも確かだった。
もっとも──謝るつもりはない。
スクルズたちは許す必要もないし、こうなる運命だったのだろう。
それにしても……。
──なぜ死の呪文など……?
なにが起きているのか……?
まさか、パリスがノルズに……?
だが、そうであるのだと思うしかなかった。
ノルズを「同志」と呼び、覇道の成就に協力させることにしたパリスたちは、危険な任務を遂行させながら、一方で容赦なく切り捨てることも考えていたのだ。
「同志」と呼んでくれたときは嬉しかった。
“人”扱いなどされたことのない人生だったが、やっとノルズも、なにかになれた気がした。
でも……。
任務に失敗した場合は、ノルズの命が失われるように、あらかじめ細工をしていたのだろう。
おそらく、死の呪文の発動のきっかけは、他者への屈服──。
間違いないと思う……。
ロウに抱かれたとき、なぜかノルズはロウに対する強い思慕の感情に襲われた。
あるいは、それはこの得体の知れない力を持つ男の特殊な能力なのかもしれないが、ノルズは、あの一瞬、「同志」のことよりも、ロウのことを想った。
ノルズは紛れもなく、このロウに対して逆らえないという強い屈服の気持ちに襲われ、ロウに訊ねられるままに、口にしてはならなかったはずの質問に答えた。
その瞬間に、異常な身体の変調に襲われた。
ああ、そういうことか……。
所詮は、ノルズなど、ただの“駒”だったのだ──。
ノルズは、「同志」のために身を投げ出すと決めていた。駒であることも受け入れていた。任務に失敗すれば命を落とすことも覚悟していた。
それでも──駒には駒の扱いがあるはずだ。せめて前もって告げるべきことがある。合図ひとつで命を刈り取る刻みを、同意もなく肌の内に潜ませるのは、駒ではなく廃棄物としての扱いだ……。
自分が望んで駒になったはずなのに、いまはその駒としての尊厳すら奪われている
立場と身分は違えど、志が同じである限り、同志は同志──。
彼らはそう言った。
だからこそ、ノルズは裏切ってはならぬ者たちを裏切ってまで、彼らの野望に尽くしてきたのに……。
だが、彼らの目に映る自分は、恩義を返そうとした“人”ではなく、使い捨ての部品……。
合図ひとつで処分される素材にすぎなかった……。
道具……。
死ぬ……。
駒としてではなく……。
使い捨ての廃材として……。
死……。
死ぬんだ……。
そう思った。
ノルズは、生きることを諦めた……。
でも、もしも、次の人生というものがあるなら……今度は“人”として生きてみたい……。
まあ、自分のような悪党には過ぎた望みか……。
ノルズは、いつの間にか閉じていた自分の眼から、つっと涙がこぼれるのがわかった。
「ノルズ、死ぬな──」
そのとき、ふわりと誰かに再び抱き起されたのがわかった。
誰──?
確かめようとしたが、相変わらず目の前が暗くてわからない。
「危険です、ロウ様──。ノルズの身体には死の呪文により、毒が急速に蔓延しています。そんなことをすれば、ロウ様にも毒がうつる危険が……」
スクルズ?
喋っているのはスクルズ……?
そして、抱いているのは……?
「わかっている──。だが、俺にはノルズに刻まれているのがなんであろうと、それを打ち消して、俺の支配に陥らせる力があるんだ」
「でも……」
「いや──俺の支配が強くなれば、多分、ノルズを覆っている別の支配は取り払える。死の呪文だって、ある意味では支配魔道だろう──」
ロウが叫んだのが聞こえた。
ロウ──?
いま、ノルズを抱いているのはロウ……?
ロウはなにをしようと……?
「あっ、ああっ」
声が出た。
いきなり、固いものに股間を貫かれたのだ。
そして、うねる情感と喜悦に飲み込まれた。
ロウ──。
この快感はロウ……。
確信した。
男に抱かれるのは初めてだったが、この途方もない快感を瞬時にノルズに与えることができる者など、ロウ以外にあり得ない。
しかし、なんでロウが……?
そんなことをすれば、ロウが危険に違いない。
さっき、スクルズが言った。
死の呪文による毒が身体に回っているノルズを抱けば、ロウに死が及ぶかもしれないと……。
ロウが死ぬ──?
この男が何をしようとしているか判然としないが、ロウが死ぬなど許せない。
ノルズ自身の死よりも、ロウが死ぬということに対して、大きな憤怒の感情がノルズを包み込んだ。
駄目だ……。
そんなことはさせられない。
そんなことは……。
「ロ、ロウ……駄目……あ、あなたが……ああっ」
ノルズは最後の力を振り絞るようにして言葉を口にした。
「そうだ。戻って来い──。俺の支配をもっと受け入れろ。進んで受け入れるんだ。それで支配が強まる。多分、死から免れる──」
ロウが言った。
そのあいだも、ロウの怒張はノルズを犯し続けている。
この世の最期にロウに抱かれて死ぬのか……。
それも悪くない……。
そう思った。
だが、ロウが……。
「戻れ。戻って来い──」
ロウがまた叫んだ。
熱い精の迸りを子宮に感じた。
「ああっ、あああっ」
強い声が口から迸った。
なぜか、少しだけ、力が身体に戻った気がする。
「また、出すぞ──。受け入れろ。俺の性奴隷になるんだ。いまだけでいい。それを受け入れるんだ」
精を放ったばかりのはずのロウがなおも激しく、ノルズを抱き続ける。
性奴隷──。
ロウの──。
屈辱的な言葉のはずなのに、なぜか少しもそれを嫌悪するようなものとは感じなかった。
それよりも、説明のしようのない妖しい魂の揺らめき──。
それを自分自身の中に感じる。
ロウの性奴隷……。
悪くない……。
いや、まったく悪くない……。
「せ、性……奴隷……。悪く……ない……まったく……悪く……ない……」
「そうだ──。俺をもっと受け入れろ。支配を強くすれば、刻まれた呪術ごと押し流せる。魔瘴石の呪いと同じだ。俺の支配が勝てば、死の呪文なんて消える。何度でも精を放ってやる──。俺を受け入れろ──」
ロウが律動を続けながら叫んだ。
そのあいだにも、ロウは次々にノルズに精を放っている。
信じられないようなことだが、ロウは数擦りで射精をし、休むことなく律動し、また射精をするということを繰り返している。
何回連続で出すんだ?
男のことは、よくは知らないけど、こんなに続けて出せるものなのか?
とにかく、次々に子宮に精が与えられる。あまりの量に、ぷっくらと下腹部が膨らむほど……。
ロウの心が少しずつノルズの心に入ってくるのを感じる。
その都度、ノルズの全身に力がだんだんと漲る。
受け入れる……。
ノルズはそう口にしようとした。
そのとき、突然に目の前が明るくなった。
ロウ……。
ロウが見えた。
ノルズを抱いていた。
必死の形相だ。
痺れるような喜悦が股間から全身に拡がる。
ロウがあんなにも一生懸命にノルズのことを……。
ノルズを助けようとする理由など、なにひとつないのに……。
ああ、世の中には、こんな男もいたのか……。
大して未練のない人生だったが、こんな男もいることを知れてよかったかもしれない……。
この男の性奴隷か……。
悪くないな……。
少なくとも、人としての扱いだろう。駒や道具じゃないな……。
たかが道具に命をかける男はいない……。
ロウの奴隷になると決心したとき、なにもかも新しくなった感じになった。
性奴隷になる。
ロウに支配されよう……。
そうすると、この快美感は、どんな風に、さらなる濃密な深淵を見せるだろうか……?
ロウの性奴隷になるのだ……。
ロウの支配を受けるのだ。
ロウを受け入れるのだ。
凄まじい力がノルズを包み込む。
圧倒的なものがノルズを席巻する──。
「ああ、あああっ──」
ノルズは、ただただ悲鳴をあげていた。
なぜだかわからない──。
だが、急激に途方もない快感が襲った。
昇り詰めるという言葉ではとても表現できない。
快感の刃が──
ノルズを、真芯から貫いた。
気持ちよさが頂点に達し……、木っ端微塵に弾け……、粉々に砕け散る──。
苛烈な喜悦の炎に包まれ……、意識が白い光に呑まれていく……。
全身の奥で、何かが音を立てて剥がれ落ちていく。
刻みつけられていた死の呪文が……ロウの支配に押し流され、消えていく感覚……。
どうやら、気を失おうとしているらしい。
だが、それは死などではない。
もっと──。
もっと……ロウを……。
「ふうっ……」
一郎はすっかりと脱力したノルズの身体から手を離し、まだ貫いていた肉棒をゆっくりと抜いた。
抜けた途端、ノルズの股間から夥しい白濁液が垂れ流れてきた。
無理もない──。
短時間でノルズを強い支配に陥らせるため、まるで機関銃のように精を放ち続けたのだ。
さすがに疲労は濃い。だが、これで大丈夫だと確信できた。
ノルズの心に、自分の支配が確かに刻み込まれたのを感じる。
結果として、それ以前にあった他者の支配はすべて消え去った。
死の呪文という「呪い」も同じだ。
支配を上書きすることで、刻みを打ち払う──。
とっさに思いついた策だったが、うまくいった。
一郎はノルズを見やる。
彼女は度を越した快感に気を失っただけで、呼吸は正常だった。
安堵の息がもれる。
「な、なんてことを──」
突然、身体を激しく揺さぶられた。
「スクルズ様が危険だとおっしゃったのに……。どうしてあんな真似を? お身体に変調は? どこか苦しくはないですか、ロウ様──?」
縋るように抱きつき、まさぐるように触ってくるのは、素っ裸のエリカだった。
「そ、そうだ、ロウ。なんで助けたんだ? あいつはコゼを弄んだ女だぞ」
「その通りです、ご主人様。王軍に突き出せば死罪は免れません。そんな女を救うために命を懸けるなんて──」
シャングリアとコゼも迫ってきた。三人とも怒りを隠そうとしない。
「待てって……。まず服を直させろ……」
一郎は慌ててズボンを引き上げながら口ごもった。
どうして助けたのか、明確な答えはない。
ただ、スクルズの言葉を聞いた瞬間──「支配を強めれば呪術も取り除ける」という確信が、なぜか頭に浮かんだのだ。
気づけば夢中で動いていた。
それだけだ……。
「……ロウ様には異常はありません。それに、ノルズも……」
スクルズが寄ってきて断言した。
その瞳には、畏敬と陶酔が入り混じった色が宿っている。
「やはり……。ロウ殿は凄いのだな。どんな力を使ったのかはわからぬが、ノルズを救ってくれて感謝する。あれでも、かつては親友だったんだ……」
ベルズも頷き、頭を下げる。
「本当に、ありがとうございました」
高位巫女である二人が自分に頭を下げる──その光景に、一郎は妙な実感を覚えた。
「まあ、助かってよかったです。ノルズには訊くべきこともあるでしょう。死ぬのは、それが終わってからでも遅くない」
そう口にしたところで、エリカが再び噛みついてきた。
「よくありません──。もしロウ様に万が一があったら、わたしたちは……。死んで当然の女のために、そんな危ない真似をするなんて絶対に許せません」
その剣幕に、さすがに一郎もたじろぐ。
「わかったって……。とにかく戻ろう。ノルズはスクルズに預ける……。あとはそっちの話だ。クエストの仕事はした……。屋敷に戻るぞ、エリカ」
「誤魔化されませんからね──。わたしは怒っているんです」
素裸のまま詰め寄ってくるエリカに、一郎は半ば呆れ、股間の裂け目と背筋を同時になぞった。
「ひゃん」
甲高い悲鳴をあげたエリカが、力を失って崩れ落ちそうになったところを、一郎が抱きとめた。
その身体はびくびくと痙攣しながらも、必死に声を絞り出す。
「まあ、そんなに怒るな。結果的になんでもなかったじゃないか」
「……ひ、卑怯です──。まだ……許してませんから……」
口では反発を続ける。
だが、エリカの震える吐息と潤んだ瞳が、その言葉を裏切っている感じだった。