※この作品はR-18です。

【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】   作:ドン・ドナシアン

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131 波乱の前兆

 皇帝宮の奥に進むにつれて、空気が一瞬で重くなっていくようだった。

 アスカ城の魔力と瘴気の混ざった濁りとはまた異なる人間の悪臭の濁りだ。

 ここは──ローム皇帝領。タリオ公国の山岳地帯にある、彼らの小さな直轄地である。

 

 もっとも、元帝国の都と呼ぶにはあまりに寂れている。土地も、住民も、この皇帝宮という建物も。──支配者たる皇帝すらも……。

 

 パリスは息を整え、暗い回廊を進んでいる。

 ハロンドールに潜入させていた手の者からの報告を携え、皇帝の呼び出しに応じてきたところだ。

 報告を伝えるだけなら通信魔術で済むはずだ。

 それを“面前で”と命じてきたのが、あの老人である。

 実に面倒なことだ。

 

 いつもの扉の前に立つと、衛兵は無言で頭を下げた。

 この衛兵たちにも奴隷の刻みがある。

 皇帝と三人の侍従──あの人間族の老人どもは、奴隷以外のものを信用しない。

 だから、身の回りに侍る者には全身に隷属の刻みをさせている。

 

 蝶番が軋み、部屋の中からむっとする熱が漏れ出る。

 皇帝宮の談話室──そう呼ばれてはいるが、ここはもはや儀礼の存在する間ではなかった。

 扉を開けた瞬間、血と汗と香の混じった重い匂いがパリスを襲った。

 そしてその奥には──少女の悲鳴、鞭の音、そして、醜悪な光景があった。

 

 部屋の奥には老皇帝ドミティアヌス十二世が沈黙したまま玉座に座っている。灰色の肌、骨ばった頬、白く長い髪。その目だけが濁った青で鈍く光り、動かぬ顔の奥から周囲すべてを見透かしているようだった。

 玉座の左に、痩せた大執政卿レントォル。唇を湿らせ、細い指をねぶっている。

 右には獣じみた体臭を放つ近衛将督セルティウスが座り、頬を引きつらせて笑っていた。その横に黒衣の神祈典座ナウレス。祈祷の珠を指で弄びながら、唇をひくりと震わせている。

 

 その眼前では、年端もいかぬふたりの侍女が、四つん這いのまま尻と尻を突き合わせていた。壁際に並ぶ二十人ほどの若い侍女、その中のふたりだろう。

 

 そして、少女たちの尻のあいだには、いかにも、この連中が奴隷責めをするのに好みそうな巨大な張形があった。

 大人の男の拳と腕ほどの太さと長さだろうか。

 すでにかなり尻穴に呑み込まされている気配であり、全体でどのくらいの長さなのかはわからないが、少女ふたりはいまにも死に瀕するかのような苦悶の表情を浮かべている。

 

「あひいっ、ひいっ」

 

「んぐうっ、ひぎいっ」

 

 さらに、そのふたりは、四つん這いになっている背中を同じ侍女の少女たちふたりに鞭打たれていた、

 

「ほら、もっとさがらんか……。それと、鞭打ちに手を抜くではないぞ。さすれば、お前たちが懲罰を交替じゃ」

 

「そうじゃな……。ほれほれ、尻と尻をぴったりとつけんか。奴隷もどもめ」

 

 愉悦のこもった口調で少女たちをけしかけたのは、三侍従のうちのセルティウスとナウレスだ。

 尻穴に巨根の張形を挿入されて四つん這いで受け入れさせられている少女たちは苦悶の声をあげ続けているが、鞭を振るう少女たちの頬にも、涙の跡が光っていた。

 彼女たちもまた、これを命令でやらされているのは明らかだ。

 相変わらずの連中だな。

 パリスは小さく肩を竦めた。

 もちろん、ここにいる少女たちの全員に奴隷紋がある。ここの老人たちに逆らうことなどできない。

 

「ひゃあ、お許しいいっ」

 

「お許しください──。もう無理でございます──」

 

 少女たちは泣き叫んでいる。

 いずれにせよ、このまま醜悪な見世物を眺め続けるのも退屈だ。

 パリスは咳払いをする。

 

 かすかな魔道が流れ、老人たちに「魅了」が漂っていく。

 支配魔道の一種ではあるが、この人間族の老人どもは、自分たちがすでにパリスの闇魔道に染められていることなど、夢にも思うまい。

 この小さな皇帝宮に限ったことではあるが、何人たりとも逆らうことのできない最高権力者たちなのだ。

 

 すると、部屋の奥の中心の玉座にいる皇帝が小さく指で手摺りを叩いた。

 その合図を受け、神官ナウレスが少女たちに鞭打ちをやめるように命じた。

 鞭打ちをする側だった少女たちが慌てたように鞭を床に置き、ふたりの少女たちに駆け寄る。

 彼女たちは、責め苦を受けていた少女たちを支えながら、その尻穴に埋まっていた張形を抜いていく。

 やはり、張形は太いだけではなく、パリスが鼻白むほどに長いものだった。

 ふと見ると、床には鞭打たれていた少女たちの血と汗だけでなく、どちらかの少女の失禁の痕もある。

 

「彼女の手当を……。床はわたしが掃除いたします……」

 

 気丈にほかの少女たちに指示したのは、尻穴に張形を埋めていた少女のひとりだ。

 もうひとりは、尻から張形を抜いたときに失神したようであり、意識がなかった。

 

 パリスはその声を掛けた「侍女」がメビウスであることに気づいた──。

 ここにいる皇帝家に遣える家人たちの中で、唯一名を知っている存在だ。

 まだ年齢は十四歳──。

 だが、人間族ということになっているが……実は、人間族ではない。

 

 少女たちはためらっていたが、メビウスが椅子に座る侍従たちを一瞥しても、誰も咎めぬのを見て取ると、慌てて倒れた少女をふたりがかりで抱えて部屋を出ていった。

 一方で、メビウスは一心不乱に、彼女たちが脱ぎ捨てさせられたと思われる服で床を拭きだした。

 

「前に……」

 

 皇帝ドミティアヌス十二世の掠れた声が玉座の奥から落ちた。

 いつ聞いても、聞き取りにくい嗄れた声である。

 目の前の床では、まだメビウスが床を拭いているが、無視せよということだろう。

 彼らにとって、奴隷の刻みをしている侍女や護衛は、人のうちには入らない。

 秘匿を必要とする内容でも、この連中の前で平気で会話をする。ならばパリスも、その郷に従うだけである。

 

 パリスは静かに一礼し、メビウスを避けるように歩みを進めた。

 蝋燭の炎が揺れ、その影が石壁を這う。

 まるで部屋そのものが、亡者の呼吸に合わせて脈動しているかのようだった。

 パリスは人間族の儀礼に沿って、皇帝の前で頭をさげる。

 

「陛下の御前である──頭をもっと上げんか……、オデッセイ」

 

 レントォルの声が石に跳ね、名が響いた瞬間、パリスの身体が硬直した。

 喉が音を立て頬の筋が引きつる。表情を保とうとしても、苦痛が滲む。

 この馬鹿は……。

 一瞬にして、憎悪がパリスの全身を席巻する。

 “オデッセイ”は、パリスの真名である──ということになっている。真名は絶対に他人に知られてはならないものであり、それを知られることで、相手の支配下に陥ってしまうこともあるのだ。

 それを、軽々に口にする……。

 この男たちは……。

 しかし、パリスはさらに深く頭を低くすることで、顔に浮かんであろう憤怒の表情を隠した。

 

「……やめてください。その名は……呼ばないでいただきたい。それが契約であったはず……」

 

「おう、そうであったな。その名前が刻まれているのでな、ついつい、間違えただけだ……。パリスよ」

 

 レントォルが低く笑う。

 

「名ひとつで屈する忠犬だ。使い勝手のよいことだ」

 

 セルティウスも鼻を鳴らし、唇を湿らせた。

 

「魂ごと縛られておるのですな。神々もかく忠実な僕は見たことがないでしょう。まさに、大罪を償うために存在する種族ですな」

 

 神官とは名ばかりの大きな腹を揺すってナウレスが薄笑いを浮かべる。

 また、玉座の上で老皇帝がかすかに笑った。

 声は出さない。唇だけがわずかに動き、その動きに空気がぴりりと裂けた。

 

「……その名は……軽々しく呼ばないでいただきたい」

 

 パリスは仕方なく、もう一度同じことを繰り返す。

 

「哀願か? 皇帝陛下の影を束ねる男が、名ひとつで膝を折るとは」

 

 レントォルが嗤う。

 

「犬は鎖を引かれるのが本能でございます。首輪をつけられて喜ぶのが、この世の秩序」

 

 セルティウスが声を低める。

 パリスは頭をさげたまま沈黙した。その沈黙の奥に、冷たい光が宿る。

 

「……よい。語れ」

 

 掠れた声が部屋に響く。

 パリスは静かに頭をあげた。

 顔を彼らにさらしたときには、怒りは内心に完全に隠されて、いつもの無表情に戻っている。

 

「はっ。ハロンドールでは混乱の芽が見えます。王は無能。後継者は定まらず、王家の影響力は低下し、そして……」

 

「瘴気のことは?」

 

 大執政卿レントォルがパリスの言葉を断ち切った。

 

「……瘴気の流布は、一時的には成功いたしました。高位魔道師を媒体として、瘴気を拡散させることが可能であると確認しております。ただし、今回は定着せず、現地で収束を確認。当面は風脈の変化を待つべきかと存じます」

 

 報告を聞いていた老人たちは、いずれも興味を示さなかった。

 この瘴気実験が王国をどう変えるかなど、彼らには関心がないのかもしれない。老皇帝ドミティアヌス十二世はゆるやかに瞼を閉じ、やがて乾いた唇をわずかに動かした。

 

「……それで、ハロンドールの蛮国の動きは?」

 

 近衛将督セルティウスだ。

 

「大きな混乱はなく静穏。いまの段階では、外患工作は一時置き、内部からの攪乱が得策かと」

 

「攪乱か?」

 

「いまだに国王ルードルフは後継者を定めておりません。血筋として継ぐべきは第三王女イザベラですが、王家内部での支持は薄く、王女派と王妃派で意見が割れております」

 

「それがどうした?」

 

セルティウスがあくびまじりに呟く。

 

「──御しやすい者を立てるのが得策かと」

 

パリスは静かに応じる。

 

「御しやすい者とな?」

 

 レントォルが口を挟む。

 

「はい、我らの使徒が推す者を王位の仲裁者として擁立すれば、王都は分裂を深め、民心も割れましょう。王国は混乱し、瘴気の定着も容易になります」

 

「ふむ……」

 

 皇帝は目を閉じたまま、指で手摺りをひとつ叩いた。

 

「分裂と混乱……。これこそが、新たな秩序の苗床か」

 

「はっ」

 

「その通りでございます」

 

 パリスは軽く頷く。

 もっとも、実際には、皇家側がハロンドール工作を積極的に進めるには、あの王国に入れ込ませている手の者の数が圧倒的に不足だ。

 皇家の闇工作は足もとの三公国に偏っている。

 ハロンドールは移民を受け入れる分だけ浸透はしやすいが人も時間も足りない。

 今回の瘴気は、機会があったゆえの実験にすぎない。

 それに、現時点におけるハロンドール工作の深化は、パリスが考えている謀略とは方向性が違っていた。

 まあ、適当に報告しておけばよい。どうせ、この老人たちには、この小さな場所で、謀略ごっこをする以上のことはできないのだ。

 それに、支配される苦痛は、他者を支配していたぶることで相殺する──。それで十分に気は晴れる。

 

 すると、皇帝が再び瞼を閉じた。

 しばらく、部屋が静寂に包まれる。

 その沈黙を破ったのは、レントォルの鼻を鳴らす音だった。

 

「分裂、か。──三公国どもも似たようなものだ」

 

「皇帝家に直接に忠誠を誓うべき三公国も、それを口にしながら己の利を追う。とくにタリオの若造──アーサー。あれは見苦しい」

 

 セルティウスも声をあげる。

 タリオは、皇帝直轄領を一部に含む三公国のひとつである。

 いまやデセオ、カロリックの両公国を大きく引き離し、もっとも繁栄した強国といえた。

 その支配領域こそ、隣接するハロンドール王国に比べれば狭いが、若き大公アーサーが即位して以来、内乱を鎮め、流通を整え、軍制を改めて、国力の上昇ではハロンドールをも凌ぐと評されている。

 

 アーサーは前大公の直系ではなく、傍系の出身にすぎなかった。

 だが、優秀な側近とともに後継争いに介入し、数年前、内乱を収めて大公位に就いている。

 その後は富国強兵を掲げて新政を進め、民衆の圧倒的な支持を得ていた。

 

 反面、彼は温故陋習を極端に嫌い、タリオに根を張っていた皇家派の貴族たちを徹底して排除した。

 帝国直轄地を強引に山岳地帯に限定し、儀礼的権限のすべてを奪い取ったのも彼がやったことだ。

 このため、彼はいま目の前の老人たちにとって、もはや許しがたい憎悪の対象である。

 

「あの若造は、自分がどれだけ愚かなのかの自覚がないのでしょうな」

 

 セルティウスも声を荒げる。

 一方で、パリスは内心で肩を竦めた。最も愚かな者は、血を誇ることしか能のない老人どもの方だろう。

 パリスは口には出さず、心の奥で冷ややかに思った。

 

「下賎の出が大公を継ぐなど、笑い話ですな。高貴貴族の血も低く、剣の腕だけでのし上がった成り上がりが」

 

 さらに、ナウレスが唸るように言った。

 顔をあげると、皇帝の瞳がゆっくりと動いていた。唇の裏に憎悪だけが滲んでいる。

 

「……あの小僧め……。血を持たぬ者が玉座を汚す。余の息子どもと同じだ」

 

 老皇帝の低い吐息が石壁で冷えて戻った。

蝋燭の炎が小さく揺れ、壁に長い影が伸びた。

 

「……陛下、皇家の宝具はいまも息をしております。まずは、あの憎きタリオを……」

 

 すると、神祈典座ナウレスが声をひそめて口にする。

 

「そうだな」

 

 皇帝はわずかに顎を動かした。

 

「……冥王は眠っている。だが、血が呼べば目覚める……。タリオも……三公国も……ハロンドールも、エルニアも──すべて沈める」

 

 その声は夢とも呪いともつかなかった。

 パリスは無言で頭をさげて静かに息を吐く。──狂っている。だが、これがローム皇帝家の現実だ。

 老皇帝の言葉が途切れると、談話室は再び静まり返った。蝋燭の炎が小さく揺れ、香の煙がねばつくように空気に絡む。床の血は乾ききらず、靴底に貼りつくようだった。

 

「以上が報告です」

 

 パリスは玉座の前でわずかに頭を下げたまま言った。

 しばらくのあいだ、またしても沈黙が続く。

 すると、玉座の上の老人がまた、手摺りを指で叩く。

 パリスは顔をあげる。

 

「……忠誠を尽くせ……。オデッセイ、命令だ」

 

 老皇帝の声は低く乾いていた。

 レントォルが笑い、セルティウスが嘲るように肩を揺らした。ナウレスは黙したまま、神に祈るように見えたが、その目は嗤っている。

 パリスという男が、彼らに真名を知られているために絶対に逆らえない──。

 そう思い込んでいる姿だった。

 

 パリスは沈黙のまま胸の前で右手を重ねた。

 儀礼的な服従の印──その仕草に、皇帝の口元がわずかに歪む。

 死人の顔のような笑みだった。

 

「……よい。下がれ」

 

 その一言を合図に、パリスは深く一礼した。その姿に、侍従たちは冷笑を隠そうともしない。

 

「次は名を呼ばれずとも、伏してみせてください。それが真の忠誠……いや、隷属というものです」

 

 レントォルが肩越しに囁く。

 

「お言葉、胸に留めておきましょう」

 

 パリスは頭をさげたまま、後ずさりで扉までさがる。

 扉番の衛兵が扉を開いたのが、背中越しにわかった。パリスは身体を反転させて退出する。

 気がついたが、いつの間にか、床を拭いていたはずのメビウスは部屋からいなくなっていた。

 

 重い扉が閉まり、パリスは廊下を進んだ。

 腐った香の匂いが遠ざかるにつれ、パリスは小さく息を吐いた。背に感じるのは、まだ燃え残る悪意の気配。それでも歩みを止めない。

 

 廊下の奥、影のように佇む姿があった。

 小さな少女の身体のメビウスだった。

 すでに服は整えているが露出している部分の白い肌の上には、鞭の跡が赤く残っている。

 

「……部屋の中での報告は、どこまで聞いていた?」

 

 パリスの声は静かだった。メビウスは首をかすかに傾げ、柔らかく笑う。

 

「全てを……。壁越しでも彼らの話を聞き逃すことはありません。冥王を呼び戻す……。しかも、彼らが操る。それを信じているなんて、かわいそうな人たちです」

 

「狂っているな。だが、まだまだ、利用できる」

 

 パリスの視線が遠くへ向かう。壁の向こうに残る皇帝たちのいた部屋の方向だ。

 

「命じてくださっても構いませんよ。いつでも消せます。彼らに与えている痴呆の毒を“致死”に変えるのは、造作もありません」

 

 メビウスは静かにパリスにささやいてきた。

 

「いまはまだ生かしておけ。利用価値が尽きるまではな」

 

 パリスの声が低く響く。

 

「わかりました」

 

 メビウスは表情を動かさず、頭を下げた。

 彼女の足元に、まだ乾かずに流れている血が一筋だけ床に残っていた。

 パリスは、それを避けて、アスカ城に戻るために、転送具のある場所に向かって歩き出した。

 

 


 

 

 やっとアスカ城に戻ったパリスは、アスカを監禁している一角の中にある部屋の扉を開けた。

 扉を押し開けた瞬間、パリスの視界に飛び込んできたのは、ラタン椅子に腰かけた素裸のアスカだった。

 アスカは股を開き、その腰に跨がる美しい少女と口づけを交わしていた。

 

 いや、少女と思ったが、よく見れば、その股間には立派な男性器があった。

 ふたなりか……。

 

 胸は少女らしく小ぶりで、アスカの指はその肉体を巧みに弄んでいる。

 太陽が中天に差しかかるほどの昼間だというのに、この淫女ぶりは相変わらずだ。

 よくもまあ飽きないものだ、とパリスは心の中で呆れた。

 

「あ、ああっ、アスカ様、そんなにされては……。だ、だめ、出ちゃう。出ちゃいます」

 

 アスカの腰に跨がる少女が喘ぎ声をあげる。

 

「どっちが気持ちいいんだい、エマ? 女の穴かい? それとも、男の性器かい」

 

 アスカが手を速めながら囁く。

 

「あっ、ああっ……。ど、どっちも……」

 

 やがて、エマと呼ばれた少女の身体が大きく震えた。

 次の瞬間、アスカの白い腹に白濁が飛び散る。

 白濁液がアスカの白い肌を滑り落ちていくのを、パリスは黙って見ていた。

 

「駄目じゃないかい、エマ。今度は男の方は我慢して、女の方で気をやれと言ったろう。ちゃんと言いつけを守れないと、わたしの愛人は務まらないよ」

 

「も、申しわけありません。あ、あの、汚れたものを……」

 

 エマが慌てて身体を離そうとするが、アスカが手を伸ばしてそれを制した。

 

「そんなものは後でいいよ……。それよりも、もう一度だ……。今度こそ、男の方は我慢して、女の穴だけで気をやるんだ。うまくいくまでやめさせないからね」

 

「そ、そんな……。もう勃ちません。出したばかりなんです」

 

 エマが泣きそうな声を漏らす。

 

「心配いらないよ。お尻をお出し。男の性器は尻の穴と快感が繋がっていてね、そこを刺激すれば、また勃つさ。ほら、腰をあげな」

 

 アスカが促すと、エマは恥ずかしそうに腰を上げた。

 その様子を見て、パリスは内心で舌打ちをする。

 エマはともかく、アスカは自分の存在に気づいているはずだ。

 それでも知らぬ顔で続けるつもりなのだ。

 パリスはわざと大きく咳払いをした。

 

「きゃあ、パ、パリス──」

 

 エマが驚きの声をあげる。

 パリスは、ほんの数名の腹心以外の場では、少年の姿をとっている。アスカの従者ということになっているため、エマも特に敬語は使わない。

 このところ、ハロンドール工作の報告受けや、直轄領の老人たちの相手のために、タリオ領まで戻っていた。

 どうやら、その間にアスカはまた新しい愛人を作ったらしい。

 

「なんだい。取り込み中だよ、パリス」

 

 アスカがこちらに意地の悪い笑みを向けた。

 やはり、気づいていたようだ。

 

「重大な要件です。お人払いを……」

 

 パリスが静かに言うと、やっとアスカがエマを離した。

 

「調教室で待っておいで、エマ……。また魔道の稽古をつけてやろう。それから召喚術の修行だ。もちろん、ふたりきりでやるよ。なにひとつ身に着けず、素っ裸で待っているんだ。いいね」

 

「はい、アスカ様……」

 

 エマは床の薄物をまとい、上気した顔のまま部屋を出ていく。

扉が閉じ、ふたりきりになると、パリスは口を開いた。

 

「お前の新しい愛人か、アスカ?」

 

 パリスはつかつかと歩み寄る。

 この部屋には、アスカが腰かけていたラタン椅子がひとつだけであり、ほかは絨毯を敷き詰めただけの床だ。

 アスカがしぶしぶ立ち上がる。

 当然のように、パリスは少年の身体をその椅子に沈めた。

 

「ここは随分と女臭いな……。いったい、どれだけここで乳繰り合っていたんだ、アスカ?」

 

「ほんの朝からだよ……いや、昨夜からかねえ。ずっと愉しんで、そのまま床で抱き合って寝て、起きてから、また愛し合ってたのさ」

 

 アスカがにやりと笑む。

 

「呆れたな……。将来のあったエルフ女王候補様が、いまじゃ辺鄙な深淵の城で放蕩三昧か……。よくもここまで落ちぶれたものだ」

 

「ふん、お前に言われたくないね。お飾りの城主の魔女としては、愛人の娘と乳繰り合うくらいしかやることはないものでね」

 

「まったく、どうしようもない女だな」

 

「へえ、いい加減、わたしをこの城に監禁するのをやめることにしたのかい、パリス?」

 

「あと百年くらいしたら考えてやってもいい……。それに、魔道で作ったお前の影が外に出る分は許可してるだろう………」

 

「だが、本体のわたしはこの城どころか、お前が許した一角から出ることも許されない。飽きるんだよ」

 

「それより、俺の幹部をタリオから連れてきている。いつものように相手しろ。命令で強要してほしいか? それとも、命令なしで股を開くか?」

 

「夕食の後にしな……。それまではエマと愛し合い たいんだ」

 

 アスカが不機嫌に言う。

 なにがあっても、このエルフ女はパリスに逆らえない。

 そういう支配の刻みを施してあるのだ。

 かつては、娼婦の真似事を強いられると自尊心が灼けるのか烈火のごとく怒ったが、最近は観念して大人しい。

 ──どうせなら、もっと嫌がることを強いてやるか。こいつが、もっと俺を憎むように。

 

「ふん、ところで、あれは男か女か……? どうせ、お前が魔道で身体を弄くったんだろうがな」

 

「エマは女だよ。見てのとおり人間族さ。ただ、わたしが魔道で“ふたなり”にしてやった。わたしの腹心にする代償だよ」

 

 アスカは床のローブをまとい、椅子の前に胡坐で座る。

 

「腹心? 新しい召喚士の候補ってことか? それにしては魔力が足りない感じだったな」

 

 パリスは先ほどを思い返す。

 以前、召喚士候補だったエルフ女のエルスラが逃亡してから、アスカは手伝いの召喚士を作っていなかったが、どうやらようやく見つけたらしい。

 もっとも、この馬鹿女は召喚士としての素質より、愛人として気に入るかどうかで人選したのだろう。どう見ても、あのエマは大した魔道遣いではない。

 エルスラですら杖で底上げしていたのに、エマはそれ以下だ。

 

「だから、お前たちの力でエマの身体に魔瘴石を入れてやっておくれ。そうすれば高い魔力を帯びられるんだろう? それで素養は整う。あとはわたしがなんとかするさ」

 

「魔瘴石を?」

 

 確かに魔瘴石を体内に宿せば、瘴気の影響で魔力は跳ね上がる。

あのエマでも、召喚士として使える程度にはなるかもしれない。

 

「まあ、いいだろう……。ただ、それだけじゃ不足だ。召喚士としてエマが仕事をするたび、洩れ出る瘴気をお前の身体側に蓄積させていくからな。もともと素質が乏しいと、召喚の瘴気を支えきれん」

 

 もちろん出鱈目だ。

 召喚術に、瘴気の発生を他者の身体で支える工程などない。

 魔瘴石がある限り、発生した瘴気は石が勝手に呑むのだ。

 アスカは知らないだろうが、アスカの役割こそが、それだ。

 稀代の魔道素質を“瘴気の溜まり”に転用する──それが、パリスが選んだ「道具」としてのアスカの役割である。

 そして、エルフ族への復讐だった。

 

 表向きは「冥王復活のため、召喚で発生する瘴気を城周囲に撒くため」と説明している。

 しかし真実は、限界を超える瘴気をアスカの身体そのものに集めさせる。城外に滲むのは魔瘴石で吸い切れなかったわずかな漏れにすぎない。

 実際には、アスカの体内と魔瘴石はすでに信じがたい量の瘴気を抱え込んでいるのである。

 高位魔道遣いの人体に魔瘴石を癒着させ、少しずつ瘴気を吸収させて、瘴気溜まりを展開させる「実験」は、ハロンドール王国の王都でもやったが、このアスカには、数年前から施しており、いまや完成段階である。

 このまま瘴気の吸収が進めば、早晩アスカは“生きた特異点”になるだろう。

 無論、そのときは、アスカ自我を失い、実質、死ぬのは間違いない。隷属して死を禁止させているアスカには、やっと訪れる死ということだ。

 

 召喚術は瘴気発生効率こそ高いものの、星位の制約と大魔力を要するため、実施できる機会が限定され、瘴気の蓄積の進みは遅い。

 ゆえに、エマにもやらせる召喚術で生じる瘴気もアスカへ集めさせれば、蓄積速度は倍にもなるだろう。

 

「もちろん、いいさ。まあ、よろしく頼むよ」

 

 なにも知らないアスカがにこにこと微笑んだ。

 知らずに、自分の命を削る取引に喜々として応じる。

 やはり愚かな女だ。

 

「それより、わざわざエマとの愉しみを邪魔したのは、わたしにお前の部下の接待を指示するのが目的かい?」

 

 その言葉で、パリスは本来の用件を思い出した。

 

「そうだった。いい知らせだ。あのイチの行方がわかった。ハロンドールの王都に身を隠していたらしい。ちょっとした事件があってな、それで尻尾を出した」

 

 ハロンドールからの報せは数日前だ──。

 まずは、一応はパリスの雇い主である老人たちに報告する必要があったので、皇帝領のあるタリオにいたが、やっと終わったので移動術でアスカ城に跳び戻ってきたのである。

 

 とにかく、ハロンドールにおける瘴気工作は、実験としては成功だが、工作としては失敗だ。

 隠謀が露見し、あの国の王都の潜入させた工作員は行方不明──。配下もほとんど捕縛されたようだ。

 だが、別働からの報告で判明したのは、計画を破ったのが外界人で、アスカから逃亡したあの男だということだ。エルスラも一緒で、冒険者ギルドに所属する冒険者として今回に関与している。

 ギルドの記録は誤魔化せられていたが、神殿に入りこんでいた手の者からたまたま情報が入ったのだ。

 

「イチ? 誰だい、それ。わたしの知っている男かい?」

 

 アスカは首を傾げる。さすがのパリスも呆れた。

 

「もう忘れたのか、アスカ。お前から逃げた外界人の奴隷だ。エルスラをたらし込んで逃亡した……。あのとき、お前は怒り狂って、すぐに追っ手を差し向けると息巻いていただろう──」

 

 パリスの指摘で、アスカはやっと大きく頷いた。

 

「ああ、あの奴隷男かい。イチなんて名だったかねえ……。へえ、エルスラも一緒かい。あいつら、まだ生きてたのかい?」

 

 アスカが声をあげて笑う。

 パリスは呆然とした。

 

「お前、本当にもう興味はないのか? ……いまは“ロウ”と名乗っているらしいが、とにかく、お前をひどい目に遭わせた憎たらしいふたりだろう。居場所が割れた。追わなくていいのかよ?」

 

「追う? どうやって? わたしはここに監禁されて、離れられない.本当にわたしを解放してくれるのかい?」

 

 アスカが言った。

 パリスは眉をひそめた。

 

「解放するわけがないだろう。お前は一生、ここで飼い殺しだ」

 

「だったら、知ったことかい──。あのときは腹も立ったし、殺してやろうとも思ったけど、まあ昔の話さ……。──それよりエマだ。可愛い娘だろう……? 魔瘴石の件は頼んだよ。エマはこのアスカ城の重臣にするからね。そのためには、まず大きな力を与えないと……」

 

 なにが昔の話だ。半年前のことだろうに……。

 パリスは嘆息した。

 

「……まあいい……、その外界人とエルフ女への報復は俺が引き受ける……。お前の奴隷の外界人を二、三人借りるぞ。俺の仕事を邪魔されたから、懲らしめてやりたい」

 

「誰のことだい……? ああ、エルスラと、その男のことだったね……。好きにしな……、その代わりに、エマのことはちゃんとやっておくれ……。本当に可愛い娘なんだ。とても淫乱で、しかも、このわたしにすっかり懐いてねえ……」

 

 アスカがエマ語りを始める気配に、パリスは馬鹿馬鹿しくなり、荒々しく席を立ちあがった、

 そして、アスカを置き去りにして部屋を後にした。

 

 


 

 

「奇妙なことだな、ミランダ。一体、これはどうなっておる?」

 

「どういうことだと……言われましても……」

 

 ミランダはとりあえず、素っ恍けた。

 

「数日前に話題になった“三巫女”の件は、わたしも耳にしておる。それで報告書を読んでみたが──おかしなことに、記録ではクエストを解決した冒険者の名が“存在しない人物”になっておる。しかも、調べてみれば、記載の名と実際に事を成した者はまったく異なるな……」

「そう……なのですか? 少し調べます」

 

「黙れ──。もう調べはついておる。嘘をついても無駄だ、ミランダ」

 

 皮肉を含んだ口調でそう言ったのは、ギルド本部奥の部屋にミランダを呼び出した人物だ。

 ミランダは、背筋を伝う冷たい汗を感じた。

 

 頭を垂れた目の前の相手──。

 ハロンドール国王の第三王女、イザベラ・ハロンドール──。

 

 まだ十六歳ながら、正式にギルド長の座を継ぐ少女である。

 冒険者ギルドは王権の外にある強力な組織であり、そのため、政権から危険視されやすい。

 だからこそ、王都のギルド長は代々、王家から推戴される。王家はその名でギルドを統制し、ギルドはその名で自治を保つ。そうして保たれてきた微妙な均衡の上に、ミランダたちは生きているのだ。

 

「それについては……理由がございます。申し開きを──お願い申し上げます、姫様……」

 

 そう言った瞬間、相手が不快そうに、踵で床を踏み鳴らした。

 

「わたしを姫様と呼ぶなと、いつも申しておるであろう」

 

「……失礼しました。ギルド長」

 

 ミランダは慌てて言い直す。

 胸の奥で、これはまずいことになったと思った。

 もちろん、ギルドの記録を改ざんして“別名”で載せていたのは──ロウのことだ。

 ロウは、世界中のギルドで閲覧される魔道記録に、自らの名を残すことを嫌がっていた。

 それで、ミランダが特例として、存在しない架空の冒険者名で登録していたのだ。

 だが、その改ざんがついに、第三王女にして、実務のない胃飾りのギルド長──イザベラ姫の目に留まってしまったようだ。

 

 普段は書類仕事に関心のない“お飾り”のギルド長にすぎないが、三巫女事件はあまりにも王都中の注目を集めてしまった。

 その流れで報告記録の不整合が露見し、こうして、ギルドに押しかけられたというわけだ。

 どう言い繕っても、もはや言い逃れはできなさそうだ。

 

「……今回のことだけではないな……。最近、ギルドに上がってきた“瘴気溜まり解決”の報告は、どれも別名で登録されておる。──架空の冒険者ばかりだ。記録の改竄は、ギルドの掟では最も重い禁忌。どうして、こんな真似をした?」

 

「そ、それは……」

 

 ミランダは言葉を失った。

 必死に言い訳を探そうとしたが、どうしても口が動かない。

 そのとき、目の前の相手が、ふっと笑い声をあげた。

 

「……まあよい。これまで誠実に仕えてきたミランダのことだ。事情もあろう。それが“ロウ”という男とねんごろになり、つい言いなりになった──という理由であってもな」

 

 からかうような声音──。

 ミランダは愕然とし、顔をあげた。

 ロウとミランダの関係まで知っている?

 驚いたが、どうやら、すべて調べがついているのだと悟る。──もう隠すことは不可能だ。

 ミランダは覚悟を決めた。

 

「そのロウは、ギルド法に触れるようなことはしていません。罪は、このミランダにございます。どうか、ロウへの咎は……」

 

 必死に言葉を絞り出した。

 ロウの功績を隠し通す約束はもう果たせそうにない。

 だがせめて、罪が彼に及ばぬようにしなければ──。

 ミランダは自分の身を諦める覚悟でそう言った。

 だが、目の前の相手は少し困惑したように首を傾げる。

 

「ほう……。伝説的な冒険者“怪力無双のミランダ”が、人間族の男ロウにたらしこまれたとはな……。驚いたぞ……」

 

「いえ、そんなわけでは……」

 

 思わず、俯く。

 すると、イザベラの愉快そうな笑い声が耳に入ってきた。

 

「いや、そんな顔をするでない。わたしはそのロウと、おぬしを責めるつもりはないのだ」

 

「そう……なのですか?」

 

 ミランダは顔をあげた。

 

「ロウはこの国の危機を救った恩人であり、ミランダの功績もまた、このわたしが一番よく知っておる。だから、この件は不問にしよう」

 

「あ……ありがとうございます、姫さ……、いえ、ギルド長……」

 

 ミランダは“姫様”と言いかけて、慌てて言い直した。

 

 

「……ただし、許すには条件がある」

 

 イザベラの声が、不意に低くなった。

 その顔に、年齢に似つかわしくない笑みが浮かんでいる。

 ミランダは眉をひそめた。

 

「条件……とは?」

 

「そのロウという男に興味がある。一度、忍んで会ってみたい。手配をせよ。──問題はない。名は隠し、変身リングで姿も変える。一介の冒険者として、そのロウとパーティを組みたい。適当なクエストを用意しろ、ミランダ」

 

 あまりに突飛な命令に、ミランダは息を呑んだ。

 

 ──まるで、シャングリアのときと同じだ。

 思い出すのも嫌な予感が走る。

 この姫君は気まぐれで、好奇心が強く、しかも誰の忠告も聞かない。

 そんな女が、よりによってロウと一緒に行動など……。

 

「それはなりません。実はロウは……希代の女たらしなのです。姫様としてお会いになるならともかく、ただの冒険者として接するなど危険すぎます」

 

「はあ?」

 

 イザベラの顔が怪訝そうになる。

 

「正直に申し上げます。姫様ほどの美貌であれば、あの男は確実に手を出します」

 

 すると、イザベラは声を立てて笑った。

 

「ますます愉しみだ。わたしも年頃だ。いずれは、政略的な相手を婿に迎えるのだろう。ならば、いまのうちに、処女を捨てておくのも一興だ」

 

「ちょっと待ってください。そんなこと冗談でも口にしては……」

 

 ミランダは驚愕した。

 

「冗談などではあるものか。お前も、わたしの王宮での状況を知っておるだろう。頼りになる男であれば、近くに侍らせる。愛人にしてもよい。とにかく会わせろ」

 

「なりません。あの男は危険なんです。女の敵です」

 

「いいから手配せよ──。絶対に、わたしの正体を明かすなよ。もし余計なことをすれば──ミランダもロウもただでは済まぬ。ギルドの掟に従い、厳しく処断する。いいな、ミランダ」

 

「姫様、お願いでございます、どうかお思い直しを──」

 

「そう呼ぶなと申したであろう」

 

 イザベラが、再び踵で床を踏み鳴らした。

 その音が、広い室内に乾いた響きを残した。

 

 

 

 

 

 18話『女神の娘たち』終わり──

 19話『淫神の巣喰う神殿』に続く──。

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