【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
132 奇妙な強制クエスト
二日ぶりに屋敷へ戻ったのは、太陽が西に傾きかけてはいるが、夕餉にはまだ間がある刻限だった。
「おかえりなさいませ、シャングリア様。ウマは手入れをしてから
屋敷の前庭に入ったところで、シルキーが目の前に現れた。シャングリアはウマから降り、手綱をシルキーに渡す。
「ああ、ありがとう……ええっ?」
だが、その屋敷妖精の姿に思わず目を見張ってしまった。
なにしろ、出現したシルキーは、上半身はきちんとしたメイド服なのに、スカートは局部の位置が丸くくり抜かれ、無毛の女性器が露わになっていたのだ。もちろん、下着もない。
「どうした、その格好は?」
シャングリアは、思わず訊ねた。
「旦那様の言いつけです。今日の午後は、皆で“破廉恥ファッションショー”をいたしますので、各自が趣向を凝らしたいやらしい格好で披露するように、と」
シルキーがにこにこと言う。
「ファッションショー?」
聞き慣れない言葉だ。
外界人のロウは、ときおり妙な思いつきを形にする。今回もその類なのだろう。
「はい。旦那様がお喜びになる奇抜な装束で愉しんでいただくのです。お気に召せば、ご褒美にお情けがいただけます」
「なんだ、それは?」
シャングリアは、吹き出した。
全くわからない。
しかし、愉しげではある。
「どうなさいますか?」
「無論、参加するぞ」
シャングリアは笑った。
ロウが愉しいのであれば、どんな格好でもしてやってあげたい。
ロウが悦べばシャングリアも嬉しい。恥ずかしい格好も破廉恥な所作も、ロウとなら快感に変わる。
だが、夜通しの演練で身体は重い。
だからこそ抱き潰されて眠りたい。
ぞくぞくする期待が背に走った。
「ところで……。わたしはどんな格好をすればいいのだ? お前と同じような格好をすればいいのか」
問いながら、シャングリアは改めてシルキーの装いを眺めた。
遠目には正装、近づけば淫猥。
まったく、相変わらずの好色なロウだ。
「わたくしの説明不足でした。旦那様のご命令は、旦那様が悦ぶ“恥ずかしい格好”を各自で考えて披露することです。装いは皆様のご判断にお任せです」
「むっ、つまり、自分で趣向を凝らせということか」
「その通りです。装いが決まりましたら、わたくしが魔道で拵えます」
「なるほど」
腑に落ちた。
「はい。次が三度目でございますが、一度目も二度目もたいへんお喜びいただき、わたくしもたっぷりと精を賜りました」
「今度が三回目か」
「同じ格好は不可でございます。旦那様を悦ばせることが肝要。合格とならば精をいただけます。ちなみに、これは二度目の装束です。まだ三回目は始まっておりませんので、これを着けているだけで。一度目は、裸にぎざぎざ切り込みの入った召使い服をまといました。いずれも合格をいただきました」
屋敷の戸口で、シャングリアはまだ立ち止まったままである。
ロウが悦ぶ格好──なにが良いのか。知恵を絞るほかない。
「エリカやコゼは、どんな格好をした?」
参考にしようと思って訊ねる。
それに、間違って重複してしまっても困る。
「コゼ様は最初、裸身に紅白の布紐を巻いて、まるで贈り物のようなお姿でした。次は乳首がくり抜かれた胸当てと、ひどく短いスカートで。どちらも旦那様はご満足で、わたくしとご一緒にお情けをいただきました」
「エリカは?」
「エリカ様は、まだ頂けていないはずです。初回は下着だけで“普通”と不合格。二度目は素裸でしたが、もっと破廉恥にせよと仰せで……」
シャングリアは小さく唸った。
なるほど、ただ裸になればいいわけではないようだ。
馬鹿になりきって、思い切り恥ずかしい格好をすること──そういうことなのかもしれない。
それでいて、単なる裸でも駄目なのだ。
「とにかく、まだお時間がございます。お部屋でお考えくださいませ。それとも、お休みになられませんか? 旦那様は、徹夜で騎士団演練に参加なさったシャングリア様を、ご無理にお誘いするおつもりはないようでしたが」
「なにを言う。参加するに決まっている。ひと晩くらい寝なくとも問題ない。もともと騎士として鍛えてきたし、ロウの女になってからは体力もついた」
シャングリアは笑った。
実をいえば、ロウと出逢ってまだ三箇月ほどだが、騎士団で鍛えていたころよりも確実に体力が増したと思う。
なにしろロウの抱き方はすさまじく、
毎夜、抱き潰されるまで交わりを求めてくる。
本当に気絶するまで抱かれるのだ。
とくに、“三巫女事件”──王都三大神殿の筆頭巫女たちが魔瘴石を体内に埋められた一件──以来、ロウの好色はさらに激しくなった気がする。朝に、昼に、晩に、夜にと求めてくる。
少し前までは三人で夜伽の順番を決めていたが、この半月は常に三人がかりだ。
しかも、ロウの抱き方は特殊で、女の側も体力を使う。
もっとも──その鬼畜じみたところが、シャングリアは大好きなのだが。
「いずれにせよ、三回目の“破廉恥ファッションショー”までは少し時間がございます。じつは、ミランダ様がお見えなのです。緊急クエストをお持ちになりまして……。皆さまはいま、広間でお話し中です。よろしければご一緒に」
「ミランダが、わざわざここへ? しかもクエストを?」
シャングリアは思わず眉を寄せた。
思い返せば、“三巫女事件”のあと、報酬の受け取りにギルドへ行ったときに、しばらくクエストの受注は禁止、当面は休暇とせよと、半ば強制的にギルド出入りを止められていたのだ。
あれは懲罰というより、なにか別の理由があるように見えた。
一方で、魔瘴石事件を解決した報酬も支払われ、神殿側からも、かなりの礼金を受け取っている。
ギルドから当面のクエスト受注禁止の扱いになる理由などない。
スクルズの名誉も回復され、神殿と王都を覆っていた危機も排除されたのだ。
なのに、ギルド本部にすら出入り禁止──。
あのときのミランダは、なにかを焦っているように見えた。
とにかく、なんとしても、ロウをギルドへ近づけたくない──そんな気配だった。
それにも係わらず、ミランダは理由をついに口にしなかった。
ロウも不審そうではあったが、当面の休暇にしようと、不服は言わなかった。
だからこそ、シャングリアは、そこに定期的な義務である騎士団演練の日程を入れたのだ。
それが十日も経たずに、また緊急クエスト──。
しかもミランダ本人が訪ねてくるとは……。
「それでは」
シルキーがシャングリアが預けたウマとともに消えた。
シャングリアは屋敷の中へ入る。
広間に入ると、奥のソファでロウとミランダが卓を挟んで向かい合っていた。
エリカとコゼもそこにいる。
ふたりはロウの両隣に並び、ミランダとロウが普通の服装なのに対し、エリカとコゼは裸身に大きめの布を巻いただけの姿だった。
幅も長さもぎりぎりで、乳首の上から股の付け根までをかろうじて隠す程度だ。
まるで、全裸のところへ急に客が来て、あわてて身を覆ったかのようだ。──いや、実際そうなのだろう。
「あら、お帰りなさい、シャングリア」
「お帰り。お疲れさま」
エリカが笑みを浮かべ、コゼも続いた。
話をしていたロウとミランダも、シャングリアを見る。
「おお、戻ったな、シャングリア。夜通しの演練も大変だったろう。地下室の湯は、シルキーのおかげで年中無休だ。汗を流して休んだらどうだ?」
ロウがシャングリアを手招きした。
少し離れた長テーブルで具足を外していたシャングリアは、とりあえず鎧類を外して上下布地の軽装になると、ロウに寄っていった。
「うわっ」
すると、いきなり腕を取られ、ロウの顔に向かって前屈みになる体勢になるよう腕を引かれた。
ロウの唇がシャングリアの口に重なり、舌が差し入れられる。
「んふっ」
思わず声が漏れる。
ただ舌で口内をくすぐられるだけなのに、身体が蕩けるような愉悦が一気に走った。素肌が焼けるように熱くなり、腰から力が抜けて、しゃがみ込みそうになる。
それがしばらく続き、力が抜けかけてきたとき、やっとロウが唇を離した。
「口づけひとつで腰が抜けたか。淫乱な騎士様だ……。それとも、やっぱり疲れているか?」
ロウがからかうように笑う。
シャングリアは息を整え、首を横に振った。
「ロウが上手すぎるのだ……。それと休息はいい。シルキーから聞いたが、面白いことをしているそうじゃないか。わたしも参加するぞ。休むのはそれからでいい」
シャングリアは、ロウたちが座っている長椅子に腰を下ろそうとした。
だが、すかさずコゼとエリカがロウにぴったり密着するように身体をずらし、割り込む隙間をなくしてしまう。
仕方なく、小柄なコゼをぐっとロウ側に押し、強引に同じ長椅子に座り込む。三人掛けに四人が並ぶから、ぴったりと身を寄せ合う格好だ。
まだソファの空きはある。
だから、反対側のミランダが少し呆れ顔でこちらを見ていた。
「だんだん仲良くなるわね、あんたたち……。ところで、いないと思ったら、シャングリアは騎士団の訓練だったのね。ご苦労さん」
ミランダが声をかける。
シャングリアは頷いた。
「大伯父との約束だからな。騎士団から完全に席を抜かないのが冒険者になる条件だ。団長とは、月に一日か二日ほど演練に参加すればよいと言われている。その予定を入れていたんだ……」
「そうなのね」
ミランダが軽く頷く。
「ところで緊急クエストだと耳にしたが? 当面は休暇じゃなかったのか?」
シャングリアが訊ねると、ロウが横で笑った。
「俺たちも、ちょうど同じことを言ったところだ。まあ、ほかならぬミランダの頼みだし、受けるのはやぶさかじゃないが、条件が変則でな。理由を聞こうとしてるんだが、このミランダは話そうとしないんだ」
「話したわ──。急いでいるのよ──。とにかく、すぐに王都から離れてちょうだい。それが今回のクエスト条件。詳しいことは現地で確認して……」
「詳しいことは向こうでって……。なによ、それ?」
エリカが不満そうに言った。
「これは、もともと地方案件なのよ。だから、こっちではあまり詳細を把握してないの。向こうのギルドには、依頼主と直接交渉していいって通してあるわ。とにかく、遅くとも明日の朝には出発してね」
ミランダが早口で言った。
確かに様子が不自然だ。ミランダらしくなく、どこか焦っている。
なんだろう……。
「クエストの場所は、王都ではないのだな?」
シャングリアは訊ねた。
「ガラヴィっていう、馬車で二日くらいの小さな里だそうよ。細かい話は現地で訊くことになるみたいだけど、里の近くに廃神殿があって、そこで不審な事件があったんだって……」
エリカが説明を始めた。
どうやら、ちょっとした調査クエストらしい。
エリカの説明によれば、そのガラヴィの里から離れた場所に、長らく誰も近づかない廃神殿があるそうだ。
その廃神殿に少し前に盗賊まがいの集団が住みついたが、やがて姿を見なくなり、しばらくして記憶を失って素裸で呆けている盗賊たちが森で発見されたという。
気味が悪く、里は冒険者ギルドに調査を依頼──。
だが、向かった冒険者が戻らないのだという。
「なんだ、そのクエストは? それが緊急クエストなのか? いまのところ犠牲は盗賊と冒険者だということか……。住民に被害はないのだな?」
「これから被害が出るかもしれないのよ、シャングリア。戻って来ない冒険者たちはさておき、盗賊の“見つかり方”がね、ちょっと問題なの」
ミランダが続ける。
「問題とは?」
シャングリアはミランダを見る。
「彼らは完全に正気を失っていたらしく、結局なにも聞き出せなかったみたい。でも、裸で呆けているところを見つけたとき、全員が大量の金貨や宝石の袋を一つずつ持っていたらしいの」
「はあ、なんだ、それ?」
正気を失っていたが、ちょっとした財を持っていたということか?
確かに、奇妙な事件だ。
「神殿に入る前の足取りから、それが元々の荷でないのは確か。だから“廃神殿には宝がある”って噂が広まってる。里長は立入禁止にしたけど、噂が噂だけに、命知らずが出ないとも限らない状況ね」
「それで、なにか起きる前に調査しておきたいわけか……。クエストランクはどのくらいだ?」
クエストランクは、難度に応じギルドが付与する等級だ。
冒険者ランクと対になっており、最大級が
上位ほど報酬は大きい。受注できるのは保有ランク以下で、シャングリアたちは、パーティとしての冒険者ランクが
──もっとも、今回はミランダの強制持ち込みだ。
等級を理由に断られることはない。
「クエストランクは、
エリカが口を挟んだ。
「チャーリーだと?」
シャングリアは首を傾げた。
アルファのシャングリアたちに、チャリークエストを?
しかも、強制クエスト扱い?
「それも訊いたのよ。どうして“緊急性は低い”
コゼが横から口を挟む。
ミランダがわずかに顔を赤らめた。
「だ、だから、人助けでしょう──。これから犠牲が出るかもしれない。あっ、それに、うまく解決してくれたら、廃神殿の宝はあんたたちの取り分にするよう通すわ。由来が不明だから確約はできないけど、まあ、あたしの権限で……。依頼料の不足はそれで補填して」
焦り気味の口調だ。やはり不自然だ。
「だが、それも捕らぬ狸の皮算用だろう。調査しなければ、宝があるかどうかさえわからない」
ロウが笑う。
その顔は、受ける気でいる顔だ。
ミランダの不自然さも感じているが、問い詰めるよりは、“いつもと違うミランダ”を愉しんでいる様子である。
「それを調査するのが依頼よ。いずれにしても、遅くとも明日の朝に出立──。それから、ここが大事だけど。早々に片付いても十日以内は王都に戻らないで──。戻っても冒険者ギルドには来ないこと──。どうしても必要なら、あなたたち以外の誰かに伝言を寄越して。あたしが出向くわ」
思わず、シャングリアも目を瞬いた。
なんだそれは……?
「なっ、変な条件だろう? そもそもミランダ、いつから御用聞きみたいに冒険者の家まで来るようになった? しかも“十日戻るな”、完了報告もギルドへは来るな、伝言だけ寄越せ。さっきから脈絡のない理由を並べるばかりで説明もしない。つまり──クエストは口実で、俺たちを王都から離したい、ってことはよくわかるんだがね」
ロウが堪えきれず噴き出す。
ミランダの頬がさらに赤くなる。
「うるさい──。色々こっちは苦労して……。とにかく、ギルド権限で強制クエスト発動よ。出立は明朝、十日間は戻らず、当面はギルドに近寄らない──。理由を問わないのも条件──。拒否は認めない」
ミランダが開き直る。
「そんなに怒鳴らなくても。まあ、応じるよ。ミランダには借りもあるしね。なにかあるんだろうが、わかった。理由は聞かない。明日の朝、そのガラヴィとやらへ出発するさ」
ロウが笑って言うと、ミランダは目に見えてほっとした。
シャングリアも呆気にとられる。
「……その代わりに……」
ロウがなにか言いかけるや、ミランダががばりと立ち上がり、睨みつけた。
「ご免よ──。これでも死ぬほど忙しいの──。あんたのくだらない思いつきの、破廉恥なんとかには参加できない。わ言っとくけど、怪しげな術で無理に引き留めたら許さないから──。ここでこうしてる時間だって惜しいのよ──」
「破廉恥なんとかじゃなくて、破廉恥ファッションショーだ」
ロウが応じる。
ミランダはきっと睨み返す。ロウはにやにや笑ったままだ。
そこへ、コゼが横から口を開いた。
「死ぬほど忙しいなら、あたしたちを呼びつければいいじゃないの、ミランダ。あたしたちは全員、死ぬほど暇よ……。破廉恥ファッションショーをするほど」
「とにかく、緊急クエストよ、ロウ」
ミランダはコゼを無視して、屋敷を出る仕草をする。
そのとき、シルキーがふっと姿を現した。
「旦那様、スクルズ様が魔道で跳躍してこられます。いつものとおり、こちらにお通ししますね」
屋敷妖精のシルキーが告げる。
「あいつ、また来たの──?」
コゼが大きな声をあげる。
「コゼ、失礼よ。スクルズ……様なのよ──」
エリカがたしなめた。
コゼはわざと鼻息を鳴らす。
「なにが失礼なのよ。毎日、毎日、ご主人様にべったりと……」
コゼが不満そうに言った。
「毎日って……。スクルズって、毎日ここに来ているの?」
ミランダだ。
ちょっと驚いているみたいだ。
「毎日どころじゃないわ。移動術で一瞬に跳躍できるのを使って、一日に二度も三度も来るわ」
コゼが面白くなさそうに言った。
シャングリアも苦笑する。
実のところ、“三巫女事件”以来、スクルズはほとんど入り浸りで、毎日理由を作って──いや、理由がなくても──ロウに会いに来る。いや、抱かれに来る。
コゼとしては、スクルズが来るたびにロウにくっつく時間が減るので、近ごろ少し苛立ち気味なのだ。
そのとき、シルキーが立っている場所の横で空間がふっと揺らいだ。
すぐに、筆頭巫女の装束に身を包んだスクルズが出現した。
「ロウ様、ご機嫌いかがですか? 今日の午前中、神殿の巫女たちが修行の一環で、貧しい子どもに配る菓子を焼きました。お口に合えばと思いまして……」
スクルズがにこにこしながら、なにもない空間から油紙に包んだ温かそうな砂糖餅を取り出し、ロウの前の卓に置く。
収納魔道というやつだ。
高等魔道の一種で、亜空間に物を収容し、好きなときに取り出せるという。
スクルズは数日前から急に使いこなせるようになったと言っていた。
シャングリアは、そんな高等魔道に接するのは初めてで、見世物小屋の手妻かと目を疑ったくらいだ。
「筆頭巫女様って、本当にお暇なんですね……。それに、わざわざ菓子を持ってくるために高等魔道の移動術をお使いになるなんて、魔道の無駄遣いじゃないですか」
コゼが皮肉っぽく言った。