【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「筆頭巫女様って、本当にお暇なんですね……。それに、わざわざお菓子を持って来るために高等魔道の移動術をお使いになるなんて、魔道の無駄遣いじゃないですか」
コゼが皮肉っぽく言った。
「やめなさいよ……。仮にも、大神殿の筆頭巫女様なのよ……。仮にもだけど……」
エリカが、ロウ越しにコゼをたしなめた。
もっとも、その物言いには、ちょっと歯にものでも引っ掛かるような感じだ。
シャングリアは横で苦笑してしまった。
「いや、実際、暇じゃないのよ。こいつ、日に何回、ここに来んのよ」
「だから、“こいつ”は、やめなさいって」
エリカが眉を寄せた。
「いえいえ、こいつで結構ですわ……。それと、コゼさん。決して暇ではありません。でも、なんとか空き時間を作りました。だから、それまでご一緒させてください」
「なんとかねえ……」
コゼは呆れ顔だ。
「それと、この屋敷とわたしの神殿の私室には、移動ポッドを繋げてありますの。ほとんど魔道は遣いませんのよ。これは双方向ですから、ロウ様やコゼさんたちがやって来ることもできますわ。いつでも遊びにいらしてください。よかったら、今夜にでも……」
スクルズが楽しげに笑った。
「ああ、あの移動ポッドね。便利でいいんだけど、あんた……いえ、スクルズ様の寝室に直行というのが少しねえ」
エリカが口を挟む。
「移動ポッド」というのは、転移術の魔道紋を常続的に繋ぎ、いつでも誰でも瞬時に移動できるようにする設置型の高位の魔道具だ。
魔石を定期的に補充すれば、術者がいなくても発動できるため、通常の移動術よりも遥かに難度が高いらしい。
スクルズはそれを魔道具として紋章を刻むことに成功させ、屋敷の地下にある姿見と、自室の姿見を繋げてしまったのだ。
鏡を潜れば、屋敷から神殿の私室へ、あるいはその逆へと行き来できるのであり、しかも、彼女はその鏡を自室の寝室の隣に置いているらしい。
つまり──夜でもロウが通って来られるようにしているということだ。どうぞ、夜這いをかけてくれと言わんばかりの仕掛けである。
ここまであからさまだと、シャングリアも思わず苦笑し、筆頭巫女殿の抜けた可愛げに少しだけ好感を覚える。
「まあ、でも下手な場所だと、ばれてしまいますわ。移動術で王都の外から王都内に入るのは禁止ですもの。もちろん、わたしの寝室から、王都のどこにでもお送りいたしますので、なんの問題はありませんわ」
「恩着せがましいこと言うんじゃないわよ。それを使って、毎日、ここに入り浸っているのは、あんたじゃない」
やはり、コゼは少し苛立っている感じだ。
「いいえ。昨夜は、ロウ様に来ていただけましたわ……。ああ、そういえば、一昨日はウルズのことありがとうございました、やっぱり、ロウ様に抱かれると調子がいいようです……。できれば、また……」
コゼはあからさまに不機嫌さを隠してないのだが、スクルズは気にした様子もない。
にこやかに微笑みながらロウに視線を送る。
ウルズのこと──と言ったのは、多分、シャングリアが野営に参加する直前の二日前の出来事を指していると思う。
スクルズが設置した移動ポッドを使って、第三神殿の奥のスクルズの自室に跳躍し、みんなで幼児返りしてしまったウルズに会いに行ったのだ。
そこにはベルズもおり、もちろん、シャングリアも同行した。
そして、ウルズの変化には、全員が驚かされた。
外見こそ成熟した美女のままだが、その精神は完全に幼児のように退行していたのである。
魂に密着していた魔瘴石を強引に剥いだことで、魂の表層まで削がれてしまったということであり、ウルズの外見は大人のままだったが、その内側は、ほとんど赤ん坊に戻っていた。
生まれたばかりの幼子のような心だけが残り、記憶も理性も消えてしまったのだそうだ。
スクルズの治癒術でも、ロウの淫魔術でも修復は不可能で、もう一度育ち直すしかないという。
それでも──。
あのとき、泣いてばかりいたウルズが、ロウの姿を見た瞬間にぴたりと泣き止んだのである。
しかも、ロウがそのウルズと性交をすると、心の底から幸せそうに悦び、安らぐように眠りについたのである。
その様子を見たスクルズとベルズは、目に見えて安堵したようだった。
どうやら、幼児返りして心が不安定になっていたウルズは、ほぼ一日中泣いてぐずってばかりだったらしい。
ロウに抱かれることが、いまのウルズには心の安定になるらしく、スクルズだけでなく、真面目なベルズからも、定期的にウルズを抱いて欲しいと、ロウに頼んでいた。
「ねえ、スクルズ、あんたって、ほんとに毎日、ここに来ているの?」
ロウに強制クエストを宣言したことで用事の終わったミランダだったが、まだ部屋を出る前だった。
部屋を出る扉のところから、声をかけてきた。
スクルズが目を見開き、振り向く。
「まあ、ミランダじゃない……。どうして、ミランダもここに……? あっ、そういうことね」
すると、スクルズが、はっとしたように口に手を当てた。
もちろん、ミランダもまた、ロウの女のひとりであることについては、すでにスクルズたちには説明していた。
シャングリアも、この敬虔で清楚な見た目のスクルズが、実はかなりの好色体質であることがわかってきている。
おそらく、スクルズは、淫らなことを想像したに違いない。
それよりも、ミランダに気がつき、急にスクルズがそわそわしはじめた。
また、やっとエリカとコゼが布一枚を裸身に巻いただけの姿なのに気づいたらしく、そちらを眺めてから、立っているミランダに視線を戻した。
「もしかして途中でしたか……? わたしがお邪魔を……? あっ、でも……だったら……わたしはご一緒でも気になりませんが、やはりミランダは一緒は嫌なものですか……? だけど、わたしも、あまり時間がありませんし……。ここは、ご一緒というのは……」
ミランダが顔を真っ赤にする。
「なんか変なこと想像してるんじゃないでしょうね──。あたしはロウにクエストを依頼に来たのよ。強制クエストよ──」
ミランダが赤い顔のまま言った。
シャングリアはくすりと笑ってしまった。
「どうしてあんたは抱かれる気満々なのよ──。ご主人様は、なにもおっしゃっていないのに──」
コゼが怒鳴った。
「コゼ、だから、さっきから、なんて口をきくのよ──。スクルズ様なのよ……。大神殿の筆頭巫女……」
エリカが口を挟む。
だが、コゼは思い切り、頬を膨らませる。
「ただの淫乱巫女よ──。神殿の午前と午後の務めの合間に、ご主人様に抱いてもらいに来るような女よ」
コゼが爆発した。
「落ち着けよ、コゼ」
ロウが短く言い、すっとコゼの尻に手を伸ばすのが見えた。
「あんっ」
コゼがびくりと身体を伸ばして甘い声を洩らした。
ロウの手が、コゼの尻のあたりで、もぞもぞと動いている。
悪戯をしているのだろう。
ほんの少しの間だったが、ロウが手を引っ込めたときには、コゼががくりと脱力していた。
しかも、無意識なのか、ロウの手がなくなっても、ぎりぎり布で覆われただけの内腿を擦り合わせるような仕草を続けている。
顔も真っ赤なままだし、息も乱れている。
さすがはロウの愛撫だ。
シャングリアも唾を飲んだ。
「心配しなくても、コゼのことはしっかり可愛がるよ。だけど、コゼは毎日、ずっと俺と一緒だが、スクルズはそうじゃないんだ……」
ロウがコゼの頭を軽く撫でる。
コゼの機嫌が瞬時によくなったのがわかった。
そして、ロウはスクルズに視線を向け直す。
「もちろん、スクルズ、俺でよければ、お相手をさせてもらうよ。ちょうど破廉恥ファッションショーの真っ最中でね。よければ、時間の許す限りご一緒にどうだ?」
ロウが笑った。
「ええっと……破廉恥ふぁっしょんしょー……とは、なんでしょう?」
スクルズが小首を傾げた。
ロウが簡単に説明すると、スクルズはぱっと目を輝かせた。
「だったら、ちょうどいい魔道具がありますわ……。取りに行かせてください、ロウ様。きっとご期待に添えると思います。すぐに戻ります……。ああ、でも調整が……。ううん……午後の務めの準備もあるし……」
スクルズが高揚した声で言った。
なにか企んでいるようで、妙に熱を帯びている。
シャングリアは思わず微笑んだ。
「どうしたんだ?」
ロウだ。
「ねえ、ロウ様なら、きっと喜んでくださる魔道具があるんです。でも、ちょっと魔道の調整に時間が……。わたしの回については、明日というわけには……。あれをロウ様好みに調整するには、やっぱり時間が……。夜の務めが終わって、夜中を使って、朝までには、なんとか調整を終わらせますので、明日ご披露させていただけませんか?」
スクルズが懸命の口調で言った。
「どれだけ一生懸命なのよ……。どっちにしても、残念だけど、巫女様。あたしたちは明日の朝からクエストよ。少なくとも十日は留守にするから、この屋敷にしばらくいないわ」
コゼが嫌味っぽく横から応じる。
最初こそ、王都でも高位貴族に匹敵する筆頭巫女のスクルズということで、それなりに敬意をもって接していたが、それは数日のことでしかなかった。
あまりにも積極的にロウに抱かれに来ることに面食らいながらも、さすがに遠慮も消えていった。
ロウもそうだが、コゼも、すっかりとスクルズをぞんざいに扱うようになっている。
エリカこそ、まだたしなめるようなことを口にはするが、実際には、そのエリカもまた、スクルズへの扱いは低い。
ロウのスクルズへの扱いも、シャングリアたちと同じで容赦がなく、鬼畜度も上がっている。
そして、スクルズもまた、ロウからの鬼畜な責めも嬉しいようであり、ますます積極的に通ってくる。
コゼが面白くないのは、ロウの時間を奪われるというのもあるが、それ以上に、これほど高位の筆頭巫女がロウに執着を見せることに、危うい競争心のようなものを感じているのだと思う。
「十日もご不在──。困ります。死んでしまいます」
スクルズが飛び上がらんばかりに驚いた声をあげた。
「……死なないわよ……」
さすがに呆れたという感じで、エリカも小さく呟いている。
「そんな……ああ、そういえば、いま、ミランダが強制クエストとか……。ねえ、ミランダ、どんなクエストなのです?」
ミランダは、ちょっと足止めを食ったようになっていたが、スクルズの剣幕に逆に面食らった表情になる。
「ガラヴィという里の廃神殿に調査クエストです」
すると、エリカが口を挟んだ。
スクルズがエリカに顔をがばりと向ける。
「ガラヴィ……? あっ、もしかして、廃神殿に巣食った盗賊がいて、奇妙なことが起きたとかいう事件のことですか?」
スクルズが言った。
どうやら、事件のことを知っているようだ。
ミランダが「そうよ」と答えると、スクルズが少しだけ怪訝な表情になる。
「でも、あれは王都の冒険者ギルドで扱うクエストになったのですか? 確か、里に近い地方ギルド扱いになったと耳にしましたけれど……。それに、優先順位も高くなかったはずです。どうして、その案件をロウ様たちが?」
「い、色々とあるのよ──。とにかく、これは緊急の強制クエストなの──。だから、スクルズ、あたしを王都まで送ってちょうだい。たくさん案件を抱えていて、少しでも早く戻りたいのよ。あたしを送りなさい」
「それはいいですが、ちょっと待ってください──」
スクルズが顔をミランダからロウに向け直した。
「ロウ様。その事件は、わたしも報告書を読んだばかりですが、多少は事情を承知しております」
「報告書? 冒険者ギルドの案件なのに?」
シャングリアが口を挟んだ。
スクルズが大きく頷く。
「一応、廃神殿ではありますが、もとは教会の所有物でした。だから、王都の神殿にも報告書が来てました」
「ほう」
ロウが頷く。
「もっとも、その手の報告など、通常は受け取って終わりですけれど、ロウ様が赴くということであれば事情は変わります。王都神殿からの現地確認ということで、わたしも同行させてください。神殿長にも、これから許可をいただきます」
スクルズが言った。
これにはシャングリアも驚いた。
「あんた、今回のクエストにまでついてくる気なの?」
コゼが声をあげた。
「もちろんですわ、コゼさん。仮にも地方のこととはいえ、その廃神殿は教会にも関わりがあります。わたしが代表として同行するのは義務のようなものでしょう」
「はあ? あんた、たったいま、普通は、書類報告を受けて終わりって、言ったじゃないのよ」
「まあまあ、コゼさん……。ところで、ロウ様、ついていかせてください。もしかすると浄化魔道のようなものが必要になるかもしれません。わたしは光魔道が一番得意なのです」
「それは構わないし、むしろありがたいが……。今日の明日で大丈夫なのか?」
ロウが苦笑しながら言った。
すると、スクルズが破顔した。
「なんとかなると思います……。というか、なんとかします。今日はもう戻ります。これから急ぎ、あちこちに調整を入れねばなりません。残念ですが、これで失礼します。その代わり、明日からよろしくお願いします。旅の支度を整えて、ここに参ります。──さあ、王都に戻るなら行きましょう、ミランダ。こうなったら忙しくなりますわ」
スクルズが言った。
ミランダも目を丸くしている。
「スクルズ、あんた本気なの? 定期的な祭祀だってあるんでしょう? 筆頭巫女でなければならない務めとか……」
ミランダが言った。
スクルズは首を横に振る。
「なんとかならない務めはありません。どうしてものときには、ベルズに代行をお願いもします。さあ、行きましょう」
「ウルズの面倒は? あの娘、第三神殿に介護してんじゃないの?」
「それも、ベルズに頼みます」
「やっぱり、筆頭巫女って暇なの?」
唖然とした口調でコゼが言った。