【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「魔道を無効にする方法は、思ったより少なくないわ」
静かな林にエリカの声が澄んで響く。
エリカはコゼとシャングリアの表情を見ながら息を整えた。
ここは、クエストの道中で見つけた林の奥まった一角であり、今夜の露営地である。
山越えの街道から外れたこの場所は、周囲を緩やかな斜面に囲まれ、風が穏やかだ。
陽はまだ完全に落ちておらず、橙の光が枝葉の隙間から差し込んで、焦げた地面の跡を淡く照らしていた。
ロウとスクルズは、少し離れた小川のそばで馬車を見ている。野営の準備は、強引に同行してきたスクルズが張り切って引き受けてくれることになった。
筆頭巫女という高位神官の立場だが、かつて修行時代に家事一般を叩き込まれているという。
久しぶりに腕を振るい、是非にロウに料理を披露したいらしい。
エリカたちは、彼女に任せて“特訓”の時間をとることにした。
明日の目的地、ガラヴィの里に向かう前に、どうしても確認しておきたい課題──魔道遣い対策を確立したかったのだ。
「まず、魔道というのは、魔道遣いが魔力の噴き出し口である魔道紋を構築し、そこへ集めた魔力を注ぎ込むことよ。入り口側の魔道紋は術者の内部にもあって、制御のために身体の正面に入り口の紋を構成する。そして、効果を及ぼしたい場所に吐き出し口の魔道紋を置く……」
言いながら、エリカは腰の小袋から透明な石片を取り出して足もとに置いた。
淡い光が石から滲み、空気がかすかに揺れる。訓練用の魔力拡張石だ。
光が宙を照らし、青白い線が走る。
「魔道の発動というのは、自分の入り口紋から吐き出し側の紋へ魔力を瞬間移動させることで起こるの。優れた魔道遣いは、これを瞬時に行うから、無から現象を生み出しているように見えるけれど、実際にはとても複雑な操作をしているの。──これを基本認識として、魔道遣いとの戦いを考えるのよ」
自分も魔道遣いであるエリカは、理解を早めるため、宙へ魔道紋を可視投影した。
目の前に入り口側、少し離れた空中に吐き出し側の紋を出現させる。
本来、魔力も魔道紋も目には見えない。熟達者だけが空間のわずかな揺らぎで察する程度のものだ。
それを、いまは光として見せている。
エリカは体内の魔力に光を帯びさせ、まず手前の魔道紋へ弾き送った。
一瞬後、離れた吐き出し側から魔力が跳ね、魔道波の衝撃波となってさらに先の樹木の幹へ達して拡散する。
「なるほど、理屈はわかっていたが、こうして可視化されると飲み込みが早いな」
「エリカにしては、わかりやすいわ」
シャングリアとコゼが横で見守りながら、からかうように言った。
エリカはむっとしたが、褒め言葉だと受け取ることにした。
「次は通常の速度でいくわ。魔道波は魔力を凝縮して力を密集させるものよ……。効果範囲を小さくする代わりに、注いだ魔力を一点へ集束させるの。範囲は狭まるけど、直撃点に与える圧は集めた分だけ跳ねあがるわ。密集制御は技術が要るけれど、高位の魔道遣いほど自在にやってのけるわ」
エリカは手前の紋はそのまま、樹木側の吐き出し紋を極小まで絞った。
さきほどと同量の魔力を流す。
吐き出し紋が小さいぶん、射出は細く鋭くなり、同じ幹へ突き刺さる。
しゅんと風を切る音がして、小指の先ほどの穴が幹に穿たれ、焦げた匂いが漂った。
「ほう、いまのは見事だ。頭に当たれば即死だな」
シャングリアが感嘆の声を漏らす。
驚いているのはエリカも同じだった。
いまのような制御は、ロウと出逢う前の自分には到底できなかった。
アスカの愛人だったころ、能力を底上げする魔道の杖を与えられ、大技こそ振るえたが、今日のような繊細な制御は無理だった。
もともと自分の魔道技術が低かったからだ。
けれど、ロウと共に動くようになってから、気づけばできるようになっていた。
おそらく、淫魔師であるロウの影響だろう。
この旅の行程は、まだ初日が終わったところである。
明日にはガラヴィの里に着くはずだ。
ロウの率いる冒険者パーティが王都から出向くという報せは、ミランダを通じて地方冒険者ギルドに伝達されている。
遅くとも明朝には、ガラヴィの里長の耳にも届くだろう。
そこで詳細を確認し、いよいよ調査クエストに着手することになるのだ。
それはともかく、早めに今日の行程を終え、夕食の支度もスクルズが引き受けてくれたので、エリカたちは少し離れた場所にやってきていた。
目的はひとつ──最近になって始めた「特訓」である。
つまりは、魔道遣いへの対策だ。
先日の「三巫女事件」では、魔瘴石によって一時的に魔道力を増したウルズに不意を突かれ、さらにノルズの反撃を許して敗北してしまった。
エリカはノルズに捕らえられ、ロウを誘き出すための人質にされたのだ。
幸いにも、ロウの機転で逆にノルズを罠に嵌め、事件は解決したものの、本来なら護衛としてロウを守るのが自分たちの務めだった。
それなのに、救われる側に回ってしまったのだ。
あの屈辱が胸に残っている。
だからこそ、エリカはコゼとシャングリアをこの訓練に誘うことにしたのだ。
ロウは「心配いらない」と言ってくれたが、ノルズの逃亡を許した以上、アスカが追手を差し向けてくる可能性は高い。
あるいは、アスカ自身が動くかもしれない。
そのときに、守るべき人を守れないようでは意味がない。
「魔道の技術にはいろいろあるけど、突き詰めれば、いまのがすべてよ」
エリカは再び口を開いた。
「魔力を集める……。魔道紋を刻む……。魔道紋に魔力を流す……。高位の魔道遣いほど、複雑な魔道紋を瞬時に刻み、距離の離れた場所にも吐き出し紋を作ることができるわ。さらに魔力の流し方そのものを制御できる。高位と下級の差は、結局この制御範囲だけなの。原理は変わらないわ」
エリカはそう説明して、宙に可視化した魔道紋を新たに描いた。
だが今度は、吐き出し口の紋を十個同時に展開する。
属性は火──火炎玉の魔道だ。
エリカは魔力を連続で五回飛ばし、その間に魔道紋を前後左右へと複雑に移動させた。
瞬く間に、林の空間に十個の火炎玉が弾け出す。
互いの魔力波が干渉し合い、爆炎が重なって周囲を包み込む。
空気が焦げ、熱風が頬を打った。
「すごいわね……。でも、そのアスカとかいう魔女は、エリカ以上の相手なんでしょうね」
コゼが応じる。その口調は軽いが、瞳の奥は真剣だ。
「つまり、エリカの魔道で驚いていたら駄目ってことだな。だが、最初の目標は、まずは、エリカの魔道に耐えられるようになることだな」
シャングリアも腕組みをしたまま頷いた。
「アスカ様は、わたしなんかとじゃあ、比べものにならないわ。大人と子どもにもならない。魔道遣いとしては、わたしなんか虫のようなものね」
エリカは肩を竦めた。
「ところで、あんたって、前は杖を使ってたけど、いまは使わないのね?」
コゼが首を傾げて訊いた。
「ええ。魔道の制御があがってきたから、いまは杖に頼らないの。動きが制限されるし、魔道戦士として戦うなら、両手を自由にしておきたいのよ」
「なるほどな。だが、“魔道の杖”って、そもそもどんな意味があるんだ?」
シャングリアが興味深そうに尋ねる。
エリカは微笑み、内懐から短い黒杖を取り出した。
「杖には二つの役割があるわ。ひとつは、自然に溶けている魔素を集めること。もうひとつは、吐き出す魔力の制御を高めることよ」
「魔素……って?」
コゼが首を傾げた。
「魔素は、空気や水と同じように、世界の中に満ちている微細な力の粒子よ。生き物は無意識のうちにそれを取り込み、身体の奥に溜め込むの。体内に溜めた魔素を圧縮し、吐き出したものが“魔力”──つまり、魔道を動かす燃料なの」
「なるほど、じゃあ杖は、その魔素を取り込みやすくするってこと?」
「そう。杖は空気中の魔素を集めて、自分の中の魔力の流れと共鳴させるの。だから、魔力の出力が上がるだけじゃなく、流すときの制御も安定する。特に初心者や、戦闘の合間に精密な魔道を使う者には欠かせない道具ね」
エリカはそう説明しながら、手にした杖を軽く掲げた。
杖の先端が淡く光を帯び、空気がかすかに震えた。
「ただし──杖を使えば魔道の勢いは拡大されるけど、同時に“発動点”が杖の先に固定されるの。つまり、敵にとっては、魔道の出どころがわかりやすくなるということ」
「ふむ……威力は上がるが、読まれやすくなるわけか」
シャングリアが頷く。
「そのとおり。魔道紋が杖の先から展開されるから、対魔道の戦士には狙われやすい。だから、上級の魔道遣いほど杖を手放して、自分の周囲の空間に直接魔道紋を刻むのよ」
「実際、どれくらい威力が違うの?」
コゼの問いに、エリカは小さく息を整え、杖を構えた。
「見せた方が早いわね」
杖の先端が強く光を放つ。
そこから青白い魔道紋が花弁のように展開し、空気が震えた。
次の瞬間、光が奔り、さきほどまで立っていた樹木が音を立てて弾け飛んだ。
粉々になった幹が空中で散り、煙と焦げた匂いが漂う。
「すっご……さっきの何倍も威力あるじゃない」
コゼが思わず息を呑む。
「確かに見事だが、いまのは杖の先から魔道紋が出ていた。あれなら剣でも狙えるかもしれない」
シャングリアが冷静に言った。
「そう。だから杖を使えば力は増すけど、戦いの型も限られる。剣を武器として使うなら、どうしても杖なしになるわね」
「杖がなくなっても、魔道が遣えないわけではないのだな?」
シャングリアが質問する。
「ええ、杖がなくても魔道は使える。杖は“助け”であって、“必需品”じゃないの」
「なるほど、理解した」
短く答えたシャングリアに、エリカは頷いた。
「じゃあ、本題ね」
エリカは魔道の杖を懐にしまってから、ふたりを見回した。
「……魔道発動の流れは──魔力を集める、魔道紋を刻む、そして魔力を流す。この三段階よ。どこかひとつでも遮断できれば、魔道は成立しない」
「ふむ、理屈はわかった」
シャングリアが腕を組み、真剣な目で聞き入った。
「魔道封じの枷や首輪ってあるでしょう? あれは最初の“魔力を集める”段階を止めるか、流れを遮断するものね。けれど、戦闘の中でその妨害は無理。だから、現実的なのは──術者の意識を妨げるか、魔道紋を破断することね」
「つまり、魔道紋を壊せば、魔道は発動しないってこと?」
コゼが確認するように言う。
「ええ。攻撃魔道では、術者の身体の周囲に“入口紋”ができて、“吐き出し紋”が必ず対象の近くに刻まれるわ。魔力は入口紋から吐き出し紋へと一瞬で流れ、そこで現象を起こすの」
「ふむ。なら、その紋を狙えばいいというわけだな。可能性のあるのは、吐き出し紋側か」
シャングリアが剣を抜き、先ほどの位置へ歩み出た。
「魔道同士であれば、入口紋側を消すこともできるけどね」
エリカは言った。
「騎士団の訓練でも似たようなことをやる。発動前の魔道紋を断ち切る練習だ。……わたしからいくぞ」
シャングリアが剣を抜く。
エリカは頷き、再び宙に小さな魔道紋を浮かび上がらせる。
───これから行うのは、エリカが魔道を発動し、シャングリアやコゼが発動前の魔道紋を剣で断ち切る訓練だ。
魔道紋は、完全に紋として繋がる直前、宙に線を投影している状態になる。
その繋がりきる一瞬の隙に、空間を揺らせばいい。
魔道紋は結びつかず、分散してしまう。
つまりは、ある程度の武術の鍛錬をした者が武器で魔道紋のある宙を切りつければ、魔道紋が四散して無効化するのだ。
ただし、その機会はほんの刹那──一瞬しかない──。
戦場で魔道遣いに対抗する現実的な手段は、結局この方法に尽きる。
「大丈夫なの、シャングリア? まだ何回か可視化してもらって、魔道紋を見た方がいいんじゃないの」
「問題ない。やってくれ。魔道紋の揺らぎを感じる訓練は、騎士団に入って最初に叩き込まれるものだ。新人いびりの一環としてな」
シャングリアが剣を構えたまま口の端を上げた。
エリカは少し笑みを返して、電撃魔道を選んだ。
この属性なら、万が一直撃しても命に関わることはない。
痛みと痺れでしばらく動けなくなるだけだ。
宙に入口紋と吐き出し紋を構築し、魔力を流す。
「はっ」
シャングリアの剣が閃いた。
鋭い一閃がエリカの魔道紋を断ち切り、注がれた魔力は発動前に霧のように散った。
さすがは騎士隊長格だ──。反応が速い。
「やるわね」
エリカは再び紋を構築した。
今度は吐き出し紋を二重に重ねる。
「ふんっ」
剣が風を裂く。
シャングリアは身体を軸に回転し、ほとんど同時に二つの紋を切断してみせた。
だが、その瞬間、地面にもうひとつの吐き出し紋が刻まれていた。
「ぐっ──」
反応がわずかに遅れた。
次の瞬間、地面から稲妻が走り、シャングリアの身体を下から貫いた。
「あぎゃああああ」
悲鳴とともに、彼女の身体が弾かれるように倒れた。
エリカはすぐに魔道砲を放ち、シャングリアの剣を弾き飛ばす。
「同じ手で来るとは限らないわ。油断しないで。それに、武器を遣った攻撃じゃないから、真下からの発動だってあるのよ」
エリカは手を振り、全ての魔道紋を四散させる。
「くっ、いたたた……。油断したわけじゃないが……地面とはな……」
出力を抑えていたため、シャングリアはすぐに立ち上がった。
悔しげに歯を食いしばりながらも、どこか嬉しそうだ。
それもそのはず──発動前の魔道紋を一度でも断ち切れた者は、熟練の戦士でもごくわずかだ。
空中に描かれる魔道紋は集中していれば、熟達者なら空間の微細な揺らぎで感知できる。
だが、魔力が流れ込む前にそれを斬るには、超人的な反射と正確さが必要だ。
感知できても、断ち切るのは難しい。
その点、シャングリアの剣技は見事だった。
二重の紋を切り払った太刀さばきは、エリカの目にも動きが映らなかった。
「慣れるしかないわね。これからも数をこなして、いろんなパターンでやりましょう。ロウ様を守るために」
エリカは真顔で言った。
「次はあたしがやるわね」
コゼが一歩前に出た。
しかし、腰の短剣には手をかけず、両手を下ろしたままだ。
「なに、武器を持たないの?」
エリカが首を傾げると、コゼは肩を竦めた。
「ちょっと試したいことがあるの。いつでもいいわよ」
どういう意図かはわからないが、エリカは頷き、魔道紋を構築した。
──だが、魔力を流す前に、紋が一瞬で崩れた。
「えっ?」
エリカは、眼を見開いた。
コゼは動いた様子もなく、ただ微笑んでいる。
どうやって……?
コゼは突っ立ったままだった。
驚きながらも、エリカは今度は三つの吐き出し紋を同時に刻もうとした。
だが、今度は入り口紋が爆ぜて消えた。
「なにっ──いっ……」
股間に小さな衝撃。
布越しに、股間になにかが当たる。しかも、エリカがクリトリスに嵌めさせられているクリピアスにだ。
布越しといえども、直接に当たればかなりの衝撃だった。
「くっ」
瞬間、痺れるような感覚が全身を駆け抜け、意識がわずかに白む。
集中が乱れ、術式が途切れた。
息を整えようとしたとき、目の前に影が迫る。
「きゃ──っ」
体当たりだ。
そのまま引き倒され、地面に背を打つ。
倒れる途中、コゼの腕がエリカの肘を抱え込み、肘をきめていた。
完全に動きを封じられる。
「ふふ、油断しないことね。敵は同じように動くとは限らないわ。反撃して向かってくるかも──」
コゼが笑いながら、エリカの肘を固めたまま拳を開いた。
掌から、十個ほどの小さな金属粒がぱらぱらと地面に散った。
エリカはびっくりした。
なるほど──。
コゼは、この粒を投げつけて魔道紋にぶつけ、剣で断ち切るのと同じ効果を出していたのだ。
「本来、アサシンってのは、仲間にすら手の内を見せないのよ。でも、あんたたちは特別。投げ刃、投げ
コゼは悪戯っぽく笑うと、固めていた腕を離さず、軽く身体を回転させた。
「うわっ」
エリカの身体がうつ伏せに転がされる。
そのままコゼが上から覆いかぶさり、腰を固定するように押さえつけた。
「ちょ、ちょっと──コゼっ」
エリカは悲鳴をあげるが、身動きが取れない。
コゼは楽しげに耳元で囁く。
「集中を妨げれば魔道は封じられるんでしょう? 魔道封じの枷なんていらないわ。エリカなら、こっちの方が早いもの」
片手がするりとスカートの中へ潜った。
「や、やめ──」
エリカが必死に身体を捩じるが、肘も膝も完全に制されている。
そして、下着越しに触れた指先が、クリピアス──ロウから授かったピアスを軽く弾いた。
「んっ──あっ、だ、だめえ……っ」
身体がびくりと跳ね、息が漏れる。
コゼが声を立てて笑い、ようやく手を離してくれた。
「ふふ、やっぱり効くのね」
エリカは、まだ痺れのような疼きが残る股間を押さえながら、真っ赤な顔で起き上がった。
「……本当に、もう」
服を整え、コゼを睨む。
だが、コゼは悪びれもせず金属粒を拾い集めていた。
「それもすごいな。お前たちは本当に器用だな。特に、いまのコゼの技は体術だな?」
シャングリアが感心したように言う。
確かに、まともにやって手玉に取られたのは事実だ。
だがエリカは、羞恥と同時に、身体の奥に残る熱を抑えきれずにいた。
ロウに調えられた身体は、一度火照ると、容易には鎮まらない。
そのことを知っていながら、わざとやるコゼが憎らしい。
「魔道遣いとしては、まだまだね、エリカ。でも、三人で連携すれば、かなりの敵にも立ち向かえると思うわ」
コゼは地面に散った粒をひとつひとつ拾い上げながら言った。
その言葉に、エリカも静かに頷いた。
「それにしても、最近のわたしは驚くほど身体が動く。剣の切れも違う。騎士団の演習でも驚かれたのだ」
シャングリアが感慨深げに言った。
エリカも頷く。
「わかるわ。わたしも同じよ。以前は、こんなに魔道を連発できる力なんてなかった。……エルフの中でも三流の魔道遣いだったのに……」
「やっぱり、ご主人様の力なのかもね」
コゼがぽつりと言った。
エリカとコゼは、そのことを何度も話し合った。
──ロウは、女を支配すると同時に、その女の潜在能力を高める。
彼に従う者ほど強くなる。
それが淫魔師としての、真の力なのかもしれないと……。
実際、ロウにも訊ねた。
そのとき、ロウは──肯定するでもなく、否定するでもなく、ただ静かに笑っただけだった。
だから、もう確信している。
ロウには、女の能力を高める力があるのだと。
彼に支配されることで、その女の持つ得意分野が、飛躍的に伸びるのは間違いない。
エリカは魔道と弓──。
コゼはアサシンとしての機敏さと投擲技──。
そしてシャングリアは、純粋に剣技が研ぎ澄まされた。
しかも、それは最初に支配されたときのままではない。
少しずつ、だが確実に──日を追うごとに能力が上がっている。
そして、奇妙なことに、ロウが新たな女を支配するたび、エリカたちの力までもが高まっていくように感じられた。
この数日での変化を思えば、それはもう偶然ではない。
ロウがスクルズたち三巫女を手に入れてから、確かに自分たちは強くなった。
まるで、ロウの支配が連鎖して、力が共有されているかのようだった。
淫魔師──その力の本質はいまだ謎ではあるが……。
「不思議な話だな。ロウに愛されると強くなれるなど……、まるでクロノスみたいだな。神話ではクロノスは五人の女神を愛することで、力を与えたのだったはずだ」
シャングリアが首を傾げながら言った。
「あら、あんた、神話にも詳しいのね。そんなタイプでもないと思ったのに」
エリカは微笑んだ。
「これでも、元は伯爵令嬢だ。上級貴族令嬢の嗜みだな」
シャングリアも笑い返す。
「よく考えたら、こんな鍛錬なんかより、さっさと抱かれに戻った方が効率よくない? あの淫乱巫女なんて、いまごろ“修行”の真っ最中よ。絶対に、ご主人様に抱かれて、自分の魔道が向上してることに気がついてるだろうし」
コゼが苦笑した。
「もう、そういうこと言わないの──。ロウ様の力に頼るだけじゃ駄目よ。ちゃんと自分の力で守れるようにならなきゃ」
「ほんと、真面目なんだから」
コゼが笑い、シャングリアも小さく頷いた。
三人の視線が交わり、夕闇の光が林を照らした。
笑いが林の奥にやわらかく溶けていった。