【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「つまり──エルフ族も、人間族もドワフ族も、もともとはナタルの森林域を故郷とする三大種族だったということですね、ご主人様……。けれど、いまでは、人間もドワフも森を出て、ナタルの森はエルフのものとなった……。また、エルフ族の残ったナタル森の各地には“里”と呼ばれる集落が点在し、族長会議という評議会がその上に立っている……。──だいたい、そういうことですね? ご説明、ありがとうございました、ご主人様」
一郎はわざとらしく、“ご主人様”を繰り返しながら応じた。
エリカと並んで歩く道は、昨日までの道とは異なり、明らかに人による手入れがなされているという感じになっている。
道端には道しるべのようなものもある。
一郎には読めないのだが、エリカによれば、通称“褐色エルフの里”と呼んでいる集落には、もうしばらく歩けば到着しそうであるようだ。
また、エリカの説明では、そこに住む者は千人くらいだろうということだ。
すでに遥かな北の地に去ったが、いまでも古い時代からの洞穴生活を続けているという小矩族のドワフとは異なり、エルフ族の里はほぼ人間族の社会と変化はないらしい。
「そ、そうですけど……。さっきからやめてください、ロウ様……。わたしの従者のふりをするのは里の近くになってからでいいんですから……。なんだか、からかわれているようで嫌なんです」
エリカが困惑した口調で言った。
だが、そんな困った表情もまた可愛い。
いや、俺にとっては、エリカの苦しそうな顔こそ、なによりの色気を感じる。
無論、からかっているだけなのだが、エリカのそんな顔を見ていると、なぜかもっと困らせてやりたくなる。
「でも、慣れておかないといけませんしね。ご主人様も俺のことを“ロウ”と呼び捨てにする練習をしておいた方がいいですよ。そうでないと、思わず、俺の性奴隷であるなどという本音の発言が出てしまって、里を叩きだされるかもしれませんからね」
「もうっ」
やっと、からかい半分なのがわかったのか、エリカは怒ったように頬を膨らませた。
一郎は思わず笑ってしまった。
「冗談はさておき……」
一郎は口調を改めた。
「……でも、本当に遠慮なく、俺のことは従者扱いしてもらって大丈夫だぞ……。もともと、俺はこの世界で生きていくためのなんの取柄もないことは自覚している。それにも関わらず、空威張りするほど、ずうずうしい性格でもないんでね。俺のことを主人扱いしてくれるのは嬉しいけど、俺としては、エリカに見捨てられなければいいんだ。従者でもなんでもするさ」
本心だった。
一郎は、別にエリカのご主人様になりたいわけじゃない。
この美しいエルフ女性のエリカを、好きなときに、好きなやり方で抱き、そして、ついでに生きるための面倒を看てもらう。
それが望みだ。
その方法が淫魔力によりエリカを支配することだから、そうしている。
望みさえかなうなら、別に日常において、エリカが主人で一郎が従者でも問題ないのだ。
倍近い年齢の差があるが、それが気にならないほどに、エリカは優秀だ。
エリカが主人で十分に納得だ。
いずれにせよ、淫魔師などという存在になったせいか、とにかく、性欲だけは有り余っている。
毎日発散できなければ、多分おかしくなると思う。
その点、エリカは体力もあるし、とびきりの美女だ。
それなのに、いい歳で外見も能力も凡庸の一郎の相手を喜んでしてくれる。まさに最高の女だと思う。
「でも、納得していただいてありがとうございます。“森エルフ”は、人間社会で暮らして、人間族に仕える“街エルフ”を軽蔑しているところがあるのです。もしも、わたしが本当はロウ様に仕える従者、ましてや、奴隷だとわかれば、その瞬間に恥ずべき者として、里を追い出されてしまうと思います」
「そういうものか?」
「はい、そういうものです。わたしなどそれで済むかもしれませんが、ロウ様が淫魔師であり、エルフ族のわたしを性奴隷にしているなどとばれれば、森エルフの者たちは、ロウ様を殺してしまうかもしれません。絶対に本当のことを言わないでくださいね」
エリカは小声で言った。
「脅かすなよ」
一郎は苦笑した。
「脅かしてません。本当のことです」
エリカは真顔のままだった。
どうやら大袈裟に語っているのではないようだ。急に恐怖を感じてきた。
「そんなに悪いことか? 淫魔の力でお前を支配しているというのが……」
「あ、当たり前じゃないですか──。冷静に考えてください。わたしはもう受け入れていますし、ロウ様を召喚という名の誘拐をしてしまったという負い目もあるから、いまの境遇に納得もしていますが、森エルフは“誇り高き種族”という別称もあるくらいで、人間社会に溶け込んだエルフ族さえも軽蔑しているくらいなんですよ」
「同じエルフ族でか? なんか付き合いつらそうだな」
一郎は率直な感想を口にした。
「森エルフは、エルフ族こそ、あらゆる種族の最高であると思っているのです。それを人間族が性奴隷にするなど……。あっ、わたしは、なんとも思っていませんよ。まったく問題ないと思っています。本音です」
「そりゃ、どうも」
一郎は苦笑した。
「でも、大部分の森エルフはそうは考えないのです。森エルフにとっては、人間族というのは短命の下等種族なのです。わたしではないですよ……。一般的な森エルフの価値観がそうだというのであって……」
「わかった、わかった」
一郎はくどくどと続きそうなエリカの言い訳を笑いながら遮った。
このエリカが完全に一郎のことも、淫魔力のことも受け入れてくれているのは事実であり、一郎の性奴隷であることにも、すっかりと順応してくれているのは、内心でもこそばゆい限りである。
とにかく、これから向かおうとしているのは、「褐色エルフの里」という数十ある同じような森エルフ族の集落のひとつであり、そこにはイライジャというエリカの昔馴染みの女エルフが集落の族長の息子に嫁いで暮らしているのだそうだ。
その彼女を頼って、しばらく里の仕事をさせてもらい、それによりハロンドールという人間族が主体の大国に入る路銀を稼ぐというのが目的だ。
ただ、エルフ族の里に入るにあたり、同じ森エルフの出身であるエリカはともかく、人間族である一郎は問題視されるらしい
エリカは、朝からの道中で何度も説明してくれたが、森エルフは、同じエルフ族でありながら、ナタルの森を捨てて人間族の社会に混じった「街エルフ」の一派を軽蔑しており、ましてや、人間族はもっと嫌っているというのだ。
だから、一郎については、エリカの「従者」という設定にしようということになっている。
人間族である一郎が、森エルフ出身のエリカを従者にしているなど、里のエルフの烈火の怒りを買うだろうが、逆に人間族を従者にしているのであれば、里に受け入れてくれるだろうとエリカは考えている。
だからこそ、エリカも森を出て、三公国と称されている人間族の国で暮らすにあたり、エルスラという偽名を名乗ったのだそうだ。
万が一にも、森エルフの知り人に、エリカが森を出たことがばれないためだ。
ただ、もう森には戻らない決心がついたそうだ。だから、エリカは、これからは本名でいくという。エリカの名をアスカは知らないし、その点でも都合がいいそうだ。
ただし、里にいるあいだ、エリカは一郎の「主人」であるふるまいをしなければならないし、一郎は大変居心地が悪い思いをすることは間違いないという。
エリカは、それでも「褐色エルフの里」を訪ねてもいいかと一郎に判断を求めたのだ。
一郎に迷いはなかった。
旅を続けるには、どうしても路銀が要る。
その路銀を得るために、エリカの友人のイライジャを頼るというのは、現実的な案だと思う。
「……それから、くどいようですが、淫魔師であるとか……、他人の能力が見える力があるとか……、外界人であるとか絶対に秘密にしてくださいね──。そういうものは全部、怒りの対象ですから」
「肝に銘じているよ、エリカご主人様」
一郎はおどけて言った。
「ありがとうございます、ロウ様……。その代わり、できるだけ早く里を出立しましょう……。なんとか、イライジャに頼んでみます」
「そのイライジャとは、親しかったのか?」
一郎は言った。
「とっても親しかったです。自由エルフの里で、孤児として同じ施設で暮らしました。イライジャは、わたしよりも二歳上で……まあ、なんというか……お姉さんのような存在です」
「二歳上ということは、二十歳か……」
「はい。ただ、旅に出て人間社会に入ろうとしたわたしに対して、イライジャはこのナタルの森に残ることを選びました。それで、偶然に故郷の里を訪れたいまの旦那様に見初められて結婚することになったのです」
「ほう」
「ところが、その旦那様はなんと、これから向かう森エルフの里の族長の息子さんだったんですよ。ロマンチックですよねえ」
エリカは当時のことを思いだすようにうっとりとしている。
「そうかあ?」
それのどこかロマンチックなのかは一郎にはわからないが、察するに孤児でしかないイライジャというエリカの昔馴染みの少女が、ひとつのエルフ族の集落の族長の息子に見初められたというのがすごいことだと言っているのだろう。
「もしかして、イライジャも褐色エルフ……、肌の色が濃い色なのか?」
「そうです」
もともとは、同じ里の孤児だったのだから、エリカと同じ白エルフなのだと思ったが、黒エルフらしい。
種族の違いには、かなりの忌避感があるみたいだが、肌の色程度では、差別意識もないようだ。
それでいて、森で暮らす森エルフと、人間族の社会で暮らす街エルフには対立意識もあるという。
面白いものだと思った。
「……それはともかく、お前も、その人間嫌いの誇り高き森エルフのひとりなんだろう? なんで、そのお前が人間社会で暮らしてみようと思ったんだ?」
アスカに仕える前のエリカは、ローム三公国と呼ばれるデセオ、タリオ、カロリックという国々を短い期間転々としたことがあるようだ。
それで、カロリック公国の公都を旅しているとき、そこにやってきていたアスカの手の者と出逢い傭兵として雇われて、アスカの宮殿に連れて行かれたらしい。
そして、彼女の愛人兼部下となった……。
「ううん……。まあ、好奇心が人一倍強かったのかもしれません。わたしはもともと人間族に対するおかしな偏見もわだかまりもありませんし、ただ、いろいろな経験を積みたかったのです。それだけです」
エリカは笑った。
「なるほどね……。ところで、エリカ、里に入ったら、俺だけじゃなくて、お前もいろいろと我慢しなきゃだめだぞ。俺たちの本当の関係がばれないようにね」
一郎は軽い口調で言った。
「もちろんです。絶対に口外しません。でも、これも繰り返すみたいですが、わたしが冷たい態度になっても、それは演技ですからね。それだけはわかってくださいね」
エリカはあくまでも真面目だ。
まあ、その真面目なエリカが、性的な刺激に弱いのが大きな魅力なのだが……。
「そういう意味じゃないんだなあ……。俺が淫魔師だということことを忘れないでくれよね」
一郎は淫魔の力をちょっと込めた。
「うっ」
エリカが一瞬たちすくんでから、がくりと膝をくの字に曲げた。
淫魔の操りの力で、エリカのクリトリスに昨夜と同じ「筆」でくすぐる刺激を送ったのだ。
実際に道具を使うわけではないが、その感覚だけを念じるだけで遠隔で送り込めるのである。
「あ、ああ……。も、もう……。ロ、ロウ様──」
エリカが股間を両手で押さえながら、真っ赤な顔で抗議した。
しかし、その顔は困惑しているが怒ってはいない。
「淫魔師の俺の性欲が溜まりすぎれば。そのときは、いまみたいに、お前への悪戯が我慢できなくなるかもしれない。だから、気をつけてくれよ」
「だ、だったら、そんなこと、しなければいいじゃないですか──」
すでに刺激を送るのはやめているが、まだ余韻が残っているのか、エリカがまだ腰をもじつかせながら声をあげた。
ただ、絶対にそんなことをするなとも言わないし、いまも一郎に苛められるのが満更でもない表情だ。
そんな風に一郎の悪戯を受け入れてくれるのがエリカのいいところだ。
そのときだった──。
ふたりで歩いている道の先から、突然に誰かの悲鳴が聞こえた気がした。
「いま、悲鳴が聞こえましたね」
さっきまでとは一転して、エリカが真剣な表情になっている。
一郎は頷いた。
ここはナタルの大森林を縦横に貫く道だが、向かっている里まではしばらくあり、人気などまったくない地域だ。
「エリカ──」
一郎は悪戯を即座にやめて声をかけるとともに、瞬時に頭の中で魔眼を開く。
情報が一気に頭に雪崩れ込んできた。
ユイナ
エルフ族(褐色)、女
年齢16歳
ジョブ
魔道遣い(レベル10)
戦士(レベル1)
***(**)
生命力:100
攻撃力:1(拘束状態)
魔道力:100(凍結)
経験人数:なし
淫乱レベル:D
快感値:500/500(通常)
状態
魔力凍結
まず、頭に飛び込んできたのがそれだった。
次いで、四人ほどの褐色エルフの男の情報も入ってきた。
しかし、その四人のうちのひとりについては、すぐに情報が消滅してしまった。
妙な消え方だった。
ステータスのうち、突然に生命力が〈0〉になり、次いで、ステータスそのものが消失したのだ。
いま確認できるのは、ユイナという褐色エルフ族の少女と、三人のエルフ族の男たち……。
残りの三人のエルフ男たちは、いずれも剣を持っていて、戦士レベルは、〈レベル5〉、〈レベル3〉、〈レベル2〉だ。
戦闘力はひとりだけが〈600〉と突出していて、残りふたりは〈50〉と〈60〉──。
もっとも、戦闘力は武器を構えているか、そうでないかだけで、数値が変化するから、今の段階ではあてにはならない。
ただ、〈600〉といえば、武器をもったエリカの実力に喫緊する。相当の手練れだ。
「エリカ、魔眼で情報が見えた──」
「はい」
エリカが振り返る。
「この先で、少なくとも三人のエルフ族の男がユイナという褐色エルフの少女を襲っていると思う──。三人のうちひとりは間違いなく手練れだ──。それと、もうひとり、誰かいたんだけが、その存在の情報は、すぐに消えた」
一郎は素早く情報を伝えた。
エリカは荷から弓と矢を素早く取り出すと、残りの荷を躊躇せずに横の茂みに投げ投げた。
「わかりました──。行きます──」
エリカが駆け始める──。
速い──。
一郎も慌てて後を追う。
だが、駆けているうちに、エルフ族の少女についても、襲撃者らしき三人の男についても、その魔眼による情報が途絶えてしまった。
感知できる距離から、ずっと離れてしまったのかもしれない。
やがて、道に倒れているひとりの男を見つけた。
息を呑んだ──。
胸から大量の血が流れ出ている。
意識はない……。
「しっかり──」
エリカは、一瞬だけ硬直したあと、すぐに男に声をかけながら、男の身体にしゃがみ込んだ。
しかし、すぐに一郎に向かって首を横に振る。
「亡くなってます……」
その男が死んでいるのは一郎の目にも明らかだ。
男の胸にはたくさんの刺し傷がある。よってたかって殺されたのだろう。
最初に一郎の魔眼から情報が消滅した男が彼だったに違いない。やっぱり、あのとき、殺されていたのか……。
死んでいる男は旅姿であり、そばには旅支度の荷袋があるが、それは荒らされている。
中身が引きずり出されたように散らばっていて、袋の内側まで泥がついていた。
一郎は生まれて初めて見る本物の死骸に身体が竦む思いだ。
手のひらから汗が滲んだ。
身体の奥が冷えていくような感覚──。
死は、こんなにも近くにあるのか……。
ここは異世界だ……。
死は常にそばにある……。
一郎は懸命に自分に言い聞かせた。
だが、次の瞬間、突然に一郎の頭にもう一度、さっきの男たちと少女の情報が入ってきた。
距離が縮まった……?
「エリカ、この近くにまだいる……。その場所もわかる……。それから……」
一郎はささやいた。
そして、そこでなにが起こっているかもわかってしまっていた。
ついさっきまで、「経験人数:なし」と表現されていた見知らぬユイナというエルフ娘のステータスが、いまは「経験人数:男1」に変化していた。
思わず舌打ちする。
だが、さっきの男が殺されていたことを考えると、犯されたあとで殺される可能性が高い……。
こんな勘は当たって欲しくないが、魔眼保持者というのは、怖ろしく勘が働く……らしい。
だったら、その勘を信じて動いた方がいい……。
「エリカ……この先に連中がいる。いままさに、少女が犯されている……。そのあとで、殺されるかもしれない」
「えっ?」
エリカの眉間に皺が寄る。
「……俺が誘導するから、なんとかしてやってくれないか……。俺にはなにもできないけど……、頼む……」
「もちろんです。場所がわかりますか──?」
「魔眼で追える……。そのときだが、できれば、その弓で最初に手練れを射った方がいい……。残りは、多分お前の敵じゃない……と思う……」
とにかく一郎は、まずはそれを言った。