※この作品はR-18です。

【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】   作:ドン・ドナシアン

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140 淫神ビビデブー

 廃神殿があると示されたのは、すでに使われなくなった古道の先だった。馬車で向かうのは到底無理である。

 一郎たちは、五人で歩いて向かうことにした。

 

 この細道は、百年前まで地方領主の砦へ続く古道の名残だと、里長イナーフが語っていた。

 当時、この地を王家が討伐したときに、砦も集落も焼き払われたという。

 長い年月を経て、砦のあった側は麦畑の里として少しずつ人が戻り、いまのガラヴィの里が生まれたが、集落のあった地域はいまでも見捨てられたままである。

 廃神殿があるのは、旧集落側の一角らしい。

 

 確かに道は荒れ果て、馬車など通れる感じではない。ただ、盗賊や冒険者、代官の調査隊が行き来するうちに、草が踏み固められて道らしい筋を残していた。

 

「ご苦労様です、巫女様」

 

「よろしくお願いします、スクルズ様」

 

 イナーフの指示で里の者が交代で通行止めの警戒をしている場所に着いた。

 事情は通じていたらしい。

 一郎たちが近づくと、見張りの者はすぐに柵を外し、道を開けてくれた。

 

「ふふ……」

 

 通り抜けるときに、含み笑いのような声を出したのはコゼだ。

 かけられる声は、すべてスクルズに向けられているし、一郎たちなど、ほとんど一瞥もされてない。

 昨日からずっと、この里ではそんな扱いなのだが、コゼからすれば、それがなんとなく面白くなってきたようだ。

 

「いえ、お疲れ様です」

 

 スクルズが困惑した顔を隠すことなく通り抜ける。

 一郎たちは、随行の冒険者のような雰囲気を作りつつ、一緒に抜けていく。

 すると、里の男たちがスクルズに声をかけてもらったことに、感動するように打ち震えたことに気がついた。

 改めて、スクルズという存在の格式と、王都から遠く離れた地にまで及ぶ評判を思い知らされる。

 王都の筆頭巫女が、こんな辺境まで足を運ぶ──それだけで、村人たちにとっては事件なのだろう。

 

 考えてみれば、昨日、この里に到着したときも、大勢の村人が馬車を見物に来ていた。

 宿の主人によれば、「王都の第三大神殿の筆頭巫女が来る」という噂が広まり、皆それを確かめに出てきたのだという。

 さらに宿屋には、スクルズ自身も同宿すると知って主人が驚愕し、何度も頭を下げていた。

 

 一郎にとっては、毎晩のように甘えに来る女神官のような存在でしかない。

 だが、この王国の者にとって、王都神殿の高位神官とはそれほどの格式を帯びた存在なのだろう。

 

 いずれにしても、人柄の穏やかな美貌の高位魔道遣い──。スクルズの名は、王都を越えて地方にも届いているらしい。

 だが、そのスクルズを、昨夜だけで五度も抱き、口にも一度、朝にも一度、精を注いだのだ。

 そう思うと、一郎も小さな優越感を覚える。

 

 とはいえ、一郎は自分の身体が常軌を逸していることにも気づいていた。

 昨夜、防音の結界を張り、女たちを順に抱いたとき、スクルズだけで六度、ほかの三人にも三、四度ずつ注いでいる。

 精を放った回数は、合わせて十五発を超えていた。

 女たちの絶頂など、数えきれもしない。

 

 どうやら、自分は異常なほどの絶倫体質らしい。

 我慢しようと思えばできるが、時間が空くと身体の調子がおかしくなる。

 少し、自分が怖いとも思う。

 それが、淫魔師になったということなのだろうか……。

 

 そういえば、昨夜の「生き残り式」では、スクルズとシャングリアが勝ち残った。

 朝、スクルズが一郎との性行為の最中に、魔道で体力を回復していたのを知って、コゼが怒っていたが、そのやりとりもまた愉快だった。

 一郎を慕い、鬼畜の責めに悦ぶ女たちを抱くのは愉しい。

 エリカも、コゼも、シャングリアも、誰をとっても前の世界なら口もきけないほどの女傑たちだ。しかも、かなりの美貌である。

 それを好きなときに好きなように抱き、快楽に泣かせ、感謝までされる──。

 いまだに現実とは思えない。

 

「だけど、このままじゃ、クエストを終えても全部スクルズ様の功績になっちゃいますね。あたしたちなんて、いてもいないみたいなんだから」

 

 先頭を歩くコゼが、茂みを払いながら振り返った。

 里から廃神殿のある旧集落の地に抜けると道はかなり荒れており、コゼとエリカが草を刈り分けながら細い通り道を作っている。

 そのあとを一郎とスクルズが進み、最後尾でシャングリアが警戒しながら進むという態勢だ。

 

 コゼが口を開いたのは、見張りの姿が完全に見えなくなってからだ。

 不満というより、軽口の類──。つまり、スクルズをからかっているのだ。

 

「申し訳ありません。それについては、後で神殿にも伝えておきます。わたしはあくまでも同行者であると。どうやら第三神殿の方で、地方神殿に誤った伝達をしてしまったようなんです」

 

 スクルズが恐縮したように言う。

 一郎は片手で「気にするな」と隣のスクルズに返した。

 

「いや、むしろ助かるよ……。前にも言ったけど、俺とエリカはアスカというとんでもない魔女を怒らせてる。だから、功績は全部スクルズが被ってくれる方がありがたい……」

 

「そう……なのですか?」

 

「ああ、ミランダにも同じことを頼んだ。これまでのクエストの記録も、できるだけ俺たちの名を出さないようにってね……。目立てば、あの魔女に居場所を嗅ぎつけられる可能性がそれだけ高くなる」

 

「えっ、そうなのか、ロウ? ミランダにそんなことを頼んだのは知らなかったな」

 

 最後尾のシャングリアが驚いたように声をあげた。

 

「そうだ。言ってなかったか。まあ、完全な秘密ってわけじゃないけどな。冒険者の記録は魔道通信で三公国のギルドにも共有されるそうだ……。あの魔女が調べる気になれば、追跡は不可能じゃない。だから、できるだけ目立たずにいたいんだ」

 

「そういうことか。なら、わたしも気をつけることにしよう」

 

 シャングリアが後ろからそう応じた。

 そんな会話のあいだも、一郎たちはなおも古道を踏み分けて進み続けている。

 

「ええっと、つまり、ロウ様的には、このままの形がご都合よろしいと?」

 

 すると、スクルズも一郎に顔を向けてきた。

 

「そういうことだ。名声なんてどうでもいいしね」

 

 一郎は淡々と答えた。

 

「でも、クエスト達成の褒賞はどうなるんですか? もしかして、お偉い筆頭巫女様なんだから、褒賞のほとんどは持っていくのかなあ? あたしたちは、搾取されて小遣い程度?」

 

 だが、すぐにコゼが軽い調子で口を挟む。

 どうやら、からかう気満々らしい。

 そもそも、コゼが依頼料の心配などするはずもない。いつも、一郎やエリカにお任せなのだ。

 これも、スクルズを軽く苛めて、反応を見たいだけの揶揄い言葉なのだ。

 

「依頼料だなんて……。そんなものはいりません。わたしは教会の指示で同行しているだけですので。クエスト報酬は不要ですし、ほかに礼金のようなものが出るなら、それも皆さんにお渡しします」

 

 スクルズが少し憤慨したように口を尖らせた。

 一郎は苦笑して首を振る。

 

「こら、コゼ。からかうのはそのへんにしておけ。──報酬は、経費を引いて五等分だ。スクルズ、そういうことで頼む」

 

「いえ、ロウ様……。先程も申しましたが、わたしは分け前など……」

 

「いえいえ、そうはいかない──」

 

 一郎はその言葉を軽く遮った。

 

「……それよりも、報酬については、ぱっと散財してしまおう──。もしさっさと片づいたら、ミラノの城郭まで足を延ばしてみるのもいいと思っている。ミランダからは簡単に戻ってくるなと言われているからね」

 

「えっ、散財……ですか?」

 

 スクルズはきょとんとしている。

 

「うん、宿屋の主人の話じゃ、あそこは温泉の街らしい。五人で入れる風呂を数日間貸し切って、豪遊でもしたい。いままでの報酬も貯まってるし、多少の贅沢くらい問題ない。それでも余ったら五等分にするけど、多分、いくらも余らない気もする」

 

 一郎が笑うと、スクルズが横で目を瞬かせた。

 

「まあ、素晴らしいですわ」

 

 その呟きに、後ろからシャングリアの笑い声が続く。

 

「ロウは本当に風呂好きだな。屋敷でも毎日入るものな。おかげで、わたしも毎日入るようになったが、王侯でもそんな贅沢はしないぞ」

 

 この国では、日々の入浴の習慣がない。

 水を集め、湯を沸かすだけでも魔道を要し、家に湯殿を持つのは貴族でも稀だ。

 一郎の屋敷には屋敷妖精のシルキーがいるので、湯も清潔さも自在だが、そんな環境は王宮にもないと聞く。

 

「おう、好きだぞ。ミラノでも存分に愉しむさ。お前たちの身体は、俺が隅々まで洗ってやる。いまのうちに覚悟しておけ。穴という穴を全部指で掃除してやる。……いや、珍棒でかな」

 

 一郎はわざと悪戯っぽく言って笑った。

 四人の女が同時に息を呑むのがわかる。

 

「ロウ様、お下品です……」

 

 前を進むエリカがたしなめるように声を上げた。

 

「お前は嫌か、エリカ?」

 

「嫌では……ありません……」

 

 後ろから見えるエリカのうなじが、みるみる紅く染まるのが見えた。

 一郎はにんまりとしてしまった。

 

「はは、でも、筆頭巫女様はそんなわけにはいかないんじゃない? 祭事もなにもかも、ほっぽり出して来てるんでしょう。用事があれば、遠慮なく先に王都に帰ってね。多分、ミラノの神殿が送迎してくれるわよ」

 

「まあ、なんということを、コゼさん……。意地悪言わないでください。祭事など全く問題はありませんわ。全部、ベルズに代行をお願いしてるんです」

 

「祭事なんか、ねえ……」

 

 すると、エリカが呆れたように呟いた。

 

 やがて草の密生が切れ、わずかに開けた場所に出た。

 もっとも、廃神殿まではまだ少し距離がある。樹と樹のあいだから、蔦に呑まれた建物の影が、かろうじて覗いて見えた。

 

「あれがそうですね」

 

 エリカが指をさす。

 

「この辺りに、一応、移動術のための跳躍紋を刻んでおきますね」

 

 スクルズが近くの樹に寄り、幹へ指先で紋を描くしぐさをする。

 一郎は改めて、少し前にスクルズが説明したことを思い出す。

 それによれば、移動術というのは、移動用の魔道紋と魔道紋を亜空間で繋ぎ、そこへ魔力を注いで瞬時に転送するという術であるらしい。

 

 見えている地点なら、その場で紋を刻んで繋げる。

 一方、見えない場所へは、あらかじめ目的地に紋を刻んでおき、いま刻んだ紋と亜空間越しに接続して、ようやく跳躍ができるのだそうだ。

 つまりは、今日のように未知の場所へは、まず歩いて接近し、退路用の紋を刻んでから臨むしかないということだ。

 

 スクルズが王都を自在に跳ぶのは、あちこちの樹や石、建物の壁に魔道紋を事前に刻んであるかららしい。

 もちろん一郎の屋敷にも刻んであるようだ。

 ただ、屋敷にはシルキーの結界が張られているので、その都度シルキーに緩めてもらわないと移動術は通らない。

 

 これとは別に、屋敷の姿見と第三神殿の私室の姿見を結ぶ「移動ポッド」も作ってあり、魔道の使えない一郎でも屋敷と神殿を往来できる。

 これは、原理は同じだが、移動術のできる術者の介入なしに魔力の集積と紋への注入が済む仕掛けというだけだ。

 

 いまスクルズがしているのは、万一の撤退路の敷設だ。

 里の要所や宿にも同様の紋を刻んできたという。

 王都で移動術の使い手として名が知れているのは、スクルズとベルズ、そして王宮魔道師長だけだ。

 王都三大魔道遣い。そのうち二人が、一郎の女だという事実に、我ながら苦笑する。

 

「終わりましたわ」

 

 スクルズが小さく頭を下げる。

 

「少し休むか。操り系への抵抗を重ねておこう。スクルズ、頼む」

 

 一郎は言った。

 これまでに確認したことによれば、最初に廃神殿に入った盗賊どもが数日後、記憶を失って全裸で放り出されたという事実だ。

 手配犯だったため既に連行されていて、直接は聞けなかったが、外傷はほとんどなかったようだ。

 ただ、記憶を失っていることを含めて正気を失っていた。

 

 魔道か毒かは不明だが、精神に干渉する何かを受けたのは間違いないだろう。

 備えられるものは備えておく。

 

精神加護(マインド・レジスト)を──」

 

 スクルズが魔道の杖を出して軽く振る。

 きらめく微塵が降り、肌に柔らかく触れた。杖なしでも術はかけられるが、強度を要する場合は杖の方が効率がいいらしい。

 

「一ノスごとに一度、重ね掛けします。ただ、わたしに異常が出る可能性も考えられますので、魔道紋をエリカさんにも開放しておきます。万が一の際はお願いします」

 

 スクルズがエリカへ杖を向ける。エリカも上衣の内側から杖を抜き、先端同士をそっと触れ合わせた。

 術者同士で魔道を補填し合うための所作のようだ。

 

「スクルズの魔道を、エリカの魔道で補完なんかできるの?」

 

 コゼが横からくすぐる。エリカの眉がぴくりと跳ねた。

 

「これでも、ロウ様の淫魔師の恩恵で、いまはそこそこの魔道遣いなのよ。まったく通用しないなんてことはないわ」

 

 むきになって言い返すエリカに、一郎は微笑を返す。

するとスクルズがにこやかにコゼへ視線を向けた。

 

「以前のエリカさんは存じませんが、いまのエリカさんは間違いなく、王都でも十傑に入る魔道力をお持ちです。上級魔道遣いですよ」

 

 スクルズがきっぱりと言う。一郎も同意だ。

 一郎と最初に出遭ったとき、エリカの魔道遣いレベルは〈レベル2〉だった。

 もっとも、そもそもジョブレベルという概念がこの世界にはない。一郎にしか使えない魔眼でしか見えないものなのだ。

 それはともかく、一郎に見えるステータスによれば、エリカの現在の魔道遣いレベルは〈レベル15〉である。

 少し前までは、〈レベル10〉だったものが、一郎がスクルズたちを支配に加えることで、なぜか、またあがったのだ。

 

 じゃあ、ジョブレベルが〈レベル15〉がどの程度のものであるかといえば、どんなジョブであれ、〈レベル10〉を超える者は王都でも稀だ。

 これまでの接した王都における様々な分野の熟達者でも、せいぜい〈レベル10〉程度だった。

 もちろん、上には上はいるものの、〈レベル10〉でさえ、その程度なのだ。

 エリカについては、戦士ジョブの方がレベルは上だが、魔道遣いジョブの〈レベル15〉についても、かなりの実力者だとわかる。

 もっとも、ジョブもレベルも、一郎以外には見えない概念だ。

 だから能力向上といっても、彼女らには漠然としかわからないものではあるが……。

 

 それもあって、一郎は自分の「淫魔師の恩恵」の詳細は黙っていた。

 だが昨夜、全員に問いただされ、他言無用を条件に明かした。

 精を注ぐだけで、人が一生かける鍛錬の境地に一瞬で到達し、さらに凌駕する──。そんな話が広まれば騒ぎになる。 

 できるだけ内密にしておきたい。

 

 ……とはいえ、気づかない方が無理だ。

 エリカもコゼもシャングリアも、一郎の性支配の影響で軒並み能力が伸びているうえ、スクルズらを手中に収めた結果、一郎自身の淫魔師レベルが〈レベル75〉に達し、全体の引き上げもさらに強まっている。

 一郎による支配前、支配後、一郎の淫魔師ジョブが〈レベル75〉になったときのレベルの伸びの順で、こんな感じだ。

 

 

 

 エリカ

  …………

  ジョブ

   戦士  (レベル11→20→25)

   魔道遣い(レベル 2→10→15)

  …………

 

 

 コゼ

  …………

  ジョブ

   アサシン(レベル10→20→25)

   戦士  (レベル10→18→20)

   シーフ (レベル10→18→20)

  …………

 

 

 シャングリア

  …………

  ジョブ

   戦士  (レベル15→25→35)

  …………

 

 

 

 単なるジョブやレベルだけではない。魔道遣いであれば、「魔道力」、戦士系には得物を握ったときの「攻撃力」などの実戦値もまた、支配前と支配後を比較して軒並み跳ね上がっている。

 

 

 

 スクルズ

  …………

  ジョブ

   魔道遣い(レベル35→60)

  …………

  魔道力:400→800

  …………

 

 

 

 ……という感じだ。

 特に、スクルズの伸びは群を抜く。

 得意分野が一段と尖って伸びるのかもしれない。彼女は一郎と幾度も幾度も交わることで、上級である移動術が軽くなり、収納魔道のような伝説級の上位術まで扱えるようになっている。

 

「あとはポーションですね。配っておきますか?」

 

 スクルズが一郎を見る。

 異常状態回復のポーションは、スクルズが収納魔道で一括持参している。

 万一、スクルズが異常を受ければ取り出せないため、事前に分ける段取りだ。

 異常状態になった場合は、液を頭から浴びれば正気に戻れる。

 

「頼むよ」

 

 一郎の言葉に、スクルズが二本ずつ手渡していく。

 

「最後に、俺からも呪術対策を重ねる。あらゆる操りに対する盾だ」

 

 一郎が言うと、四人がきょとんとした。事前には説明していなかった。

 スクルズの魔道が〈レベル60〉の域なら、一郎は淫魔師ジョブが〈レベル75〉だ。

 ルルドの森で会った女精霊ユグドラは言っていたが、操り系の魔道はジョブの種類を問わず、最大レベルが下の者は、上の者を操れないものらしい。

 

 それであれば、一郎の淫魔術そのものが最強の防壁になる。

 本来は精を注ぐのが効果が大きいのだが、唾液でも強化は施せる。

 一郎は隣のエリカの手を取り、唇を重ねて唾液を流し込む。

 

「んんっ」

 

 不意の口づけに、エリカの瞳が揺れる。

 舌で口内の性感帯を撫で上げると、力が抜けて身を預けてきた。

 いつもながら、敏感で快感に弱い身体だ。

 どうせなら、とことん可愛がってやろう。

 淫魔術で視える感帯をとことん舐め尽くす。

 

「終わりだ」

 

 しばらく堪能してから、やっと唇を離した。

 

「ひ、ひっ」

 

 エリカが膝を折りかけ、慌てて踏ん張る。

 

「大袈裟だなあ」

 

「お、大袈裟なんかじゃ……ありません──」

 

 エリカは、息を荒げながらも、どうにか足を踏ん張って、しゃがみ込まずに耐えたようだ。

 

「……次はコゼだ」

 

「あん、ご主人様……」

 

 コゼは一郎の首に両腕を回し、ぎゅっと抱きついてきた。

 一郎はエリカのときと同じく、強い淫魔術を込めた唾液を注ぎ込みながら、舌で敏感なところを探って蹂躙する。

 コゼの身体から力が抜けていくのが、腕越しにわかった。

 

 続けてシャングリア──。

 そしてスクルズにも同じように施す。

 四人の「処置」が終わる。

 

「あ、ありがとうございます、ロウ様……、」

 

 四人への口づけが終わるころには、皆ぐったりと項垂れていた。

 一郎は思わず口元が緩む。

 女の身体に浮かぶ性感のもやを見て、色と位置で最短の愛撫を選べるのだから、快感を逃れる術などない。

 いまや口づけだけでも昇天させられる自信がある。

 

「さて、行くぞ。さっきの順番のままでいこう。神殿に入れたとしても、基本は一緒だ。スクルズは俺の後ろにつけ」

 

 一郎は言った。

 全員の雰囲気が緊張に包まれたものになったのをはっきりと感じた。

 

 


 

 

 神殿の敷地内に入った。

 おそらく前庭だ。

 ここに人の営みがあったのは百年前の戦争のときまでだ。

 神殿は蔦に呑まれ、かつて庭だったはずの場所も周囲の林とほとんど同化している。

 

 先日、城郭兵が一度調査に来たという話があったが、その一隊は、さらに建物の敷地に近づこうとしたところで、突如霧のようなものに覆われて、魔道結界のようなものに阻まれて、その先には辿り着けなかったらしい。

 いま一郎たちは、建物には入ってないものの、すでに敷地内まで入ったので、調査隊より一歩先へ出たことになる。

 

「特に、おかしな仕掛けはなかったな。なにか感じたか、スクルズ?」

 

 一郎は、後ろを進むスクルズに訊ねた。

 

「なにも……。結界らしきものも感じませんでした……。エリカさんは、いかがでしょう?」

 

「なにもないわ」

 

 エリカが応じる。

 

「いずれにせよ、なにかにぶつかるまで進もう……。コゼ、先頭を頼む。みんなも、ちょっとでも違和感に気づいたら、どんな些細なものでも教え合おう」

 

 一郎は言った。

 古神殿の玄関はもうすぐそこだ。

 石造りで、外観からは屋根裏を含め三階建てに見える。

 地下があるのが常だと聞いたから、探索範囲は最大で四層相当か……。

 一方で、一郎の魔眼にも、いまのところ異常は映らない。

 そのまま用心深く、建物に近づいていった。

 

「ロウ様、皆さん……止まってください」

 

 歩き出してまもなく、スクルズが低く声を上げた。

 全員で足を止める。

 すでに建物は、かなり近い。

 スクルズに視線を向ける。

 

「あっ」

 

 そのとき、エリカも突然に声をあげた。

 スクルズが緊張した表情で周囲に視線を走らせた。

 

「……エリカさんも気がつかれましたか……? さきほど刻んだ移動術の魔道紋との繋がりが遮断されました……。それだけじゃなく、この神殿の敷地全体を大きな結界が覆いました」

 

 スクルズが緊張した口調で説明した。

 エリカも頷いている。

 

「どういうことだ?」

 

 シャングリアがスクルズを見る。

 

「……多分、敷地外に出るのを阻まれたかもしれません。解除できるかどうかまではわかりませんが……」

 

 スクルズが言った。

 

「つまりは、ミラノから派遣された代官の調査隊とは逆ということか」

 

 一郎は呟いた。

 調査隊は、この建物の敷地内に入ろうとして、なんらかの結界に阻まれた。

 一郎たちは、逆に入ったところで、結界を張られてしまったということだ。

 

「……えっ、つまり、あたしたち、捕らえられたの?」

 

 コゼは呆気にとられた感じだ。

 

「強い力を感じます。とんでもなく強力な魔道を……」

 

 スクルズが深刻そうな口調で言った。

 

「どうしますか、ロウ様?」

 

 エリカが一郎を見る。

 一郎は短く息を吐いた。

 

「……そうだな……」

 

 一郎は、一瞬思案してから、まずはスクルズを見た。

 

「……ところで、スクルズ……そういう結界の魔道というのは、術者がいなくなっても、魔道具で自動で残ることはあるか?」

 

「あります……。でも、これまでの話からすれば、かなり条件付けが複雑になってますね。阻まれる場合と、捕らえられる場合に分かれているようですね。そうであれば、魔道具ではかなり複雑なものになります」

 

「魔道具で自動的に結界が張られた可能性もあるが、もっと単純なのは、内部にいる魔道遣いが、意思を持って結界を張ったり、解いたりしている場合だな。神殿に魔道遣いがいるんだ」

 

 一郎は言った。

 

「魔道遣い……ですか?」

 

 エリカが振り返って、廃神殿の建物に視線を向ける。

 

「一連の騒動が起きたのは、一箇月程前だ。可能性としては、そのときに魔道遣いが入ったのかもしれない。……おそらく、いまもいる」

 

 一郎は自分の考えを説明しつつ、魔眼を拡げてみた。

 だが、さすがに、建物の内側まではわからなかった。

 

「魔道遣いか? しかも、この敷地全体を包めるほどの魔道結界を張れるほどの実力を持った者……ということだな?」

 

 シャングリアが剣を抜きながら言った。

 それに合わせるように、エリカもコゼも武器を抜いて構える。

 

「……おそらく、俺たちのこともすでに把握している。俺たちを外に出さないように、結界を張ったんだろうな」

 

 一郎の言葉に、女たちも一斉に緊張を走らせた。

 しかし、しばらく待ったが、周囲に異常はない。

 

「このまま進もう……」

 

 一郎は再び建物に向かうことを指示した。全員が武器を構えている以外は、さっきの態勢と同じだ。

 だが、なにも発生することなく、古神殿の玄関へ辿り着いた。

 

「扉……? いや、違うわ。でも、これ……壁に同化してるわ……。エリカ、わかる?」

 

 先頭を進んでいたコゼがエリカを呼び寄せた。

 一郎以下の三人は、やや距離をとって待つ。ここから見える限り、確かに扉に見えるが、実際には、壁に扉の絵が描かれたみたいになっている。

 取っ手部分も含めて、扉に見える部分は精密に描かれた扉に見える絵だ。

 だが、扉は絵であるものの、隣に本物の呼び鈴が据えられている。

 

「なにかの仕掛けね……。罠なのは間違いないけど、明らかに、魔道のたぐいだわ」

 

 エリカは、コゼとともに、その扉の絵の前で首を傾げている。

 

「スクルズ……なにか、試してみて……。エリカは、ご主人様のそばに……」

 

 コゼが手招きした。

 スクルズとエリカが入れ替わる。

 

「とりあえず、開錠の魔道を試してみますね」

 

 スクルズが一歩前に出て杖を振る。

 淡い揺らぎが扉の前に広がったが、なにも起きない。

 

「……術が跳ね返されます。この扉……いえ、壁全体に術を反射する結界がかかっています」

 

 スクルズが困惑した声を漏らした。

 一郎は内心で眉をひそめる。スクルズの魔道で開けられないなら、相当なものだ。

 

「とりあえず、呼び鈴を鳴らしてみるか? さっきのロウの話であれば、中でこっちを見ている者がいるんだろう?」

 

 止める間もなく、最後尾にいたシャングリアがさっと大股で進みでて、スクルズとコゼを押しのけるようにして、呼び鈴に手を伸ばして鳴らした。

 

 からんころんと──とてつもなく大きな音が響き渡る。

 

「うわっ」

 

 だが、次の瞬間、扉が突然に真っ白に光り、シャングリアの身体が吸い込まれるように消えた。

 

「シャングリアさん──」

 

「待って──」

 

 扉の前にいたスクルズとコゼがびっくりして手を伸ばす。しかし、壁に阻まれただけだ。

 

「シャングリア──」

 

 一郎も慌てて駆け寄り、反射的に扉へ手を伸ばした。

 だが、なにも起こらない。

 

「くそう」

 

 躊躇したが、一郎はシャングリアが触れた呼び鈴をもう一度鳴らそうと手を伸ばした。

 

「えっ?」

 

「あれ?」

 

 誰の声なのかわからないが、何人かの女の声があがる。

 一郎も唖然とした。

 いつの間にか、呼び鈴もまた、ただの絵に変わっていたのだ。

 壁も呼び鈴もただの絵だ。

 その時、周囲に笑い声が響き渡った。笑いは石壁と蔦に砕けて、四方から響く。

 

「ふわはははははは──。ようこそ、我こそは淫神ビビデブー ──。貴様らを我が淫乱の館に招待しよう。まずは第一の関門だ。そこにある扉から中へ入って来い。さもなくば、帰るがいい。ただし、来ぬならば──いまの人間族の女には一生会えぬと思え」

 

 不気味な笑いが石壁に反響した。

 エリカとコゼは即座に武器を構えた。スクルズもなにかの魔道を展開する仕草をして構える。

 一郎は、もう一度魔眼を発動させた。

 だが、なにも映らない。

 

 おそらく、声の主は近くにはいないのだ。建物のどこかの奥側から、なんらかの手段で こっちを確認しながら、声だけを飛ばしているのだろう。

 

「わかった。入る。……だが、どうやったら入れる?」

 

 一郎は怒鳴った。

 

「簡単だ。その扉から入るには、一糸まとわぬ裸でなければならぬ。一切の武器と衣類を脱ぎ捨てよ。そうすれば通れる。だから、これは返す」

 

 扉の前の床に、ぼんやりと光が浮かぶ。

 そこには、さきほどまでシャングリアが身につけていた衣類と武器が積まれていた。

 一郎が拾い上げると、まだ温もりが残っている。かすかにシャングリアの匂いもした。

 ご丁寧に下着まで揃っている。

 

 さらに床にもう一つ、きらりと金貨が現れた。

 

「この神殿の最奥には、この金貨に万倍する財貨が眠っている。取りに来い、欲深き者ども──。ここには、あらゆる快感があるぞ──。そして、愉しめ、余を愉しませるのだ──。人族ども──」

 

 淫神ビビデブーと名乗った声が、甲高く笑いながら遠ざかっていった。

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