【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
エレインが気を失ったのを確かめてから、一郎は部屋の扉を開いた。
廊下には、エリカ、コゼ、シャングリア、スクルズの四人が並んで立っている。
彼女たちが途中からずっと外で待っていたことは、とうに気づいていた。
四人が静かに部屋へ入ってくる。
「……あらら、大きなこと言ってたくせに、完全に気を失ってるじゃない」
コゼが寝息を立てているエレインを見て、くすりと笑った。
そして、まだ服を着ていなかった一郎の足もとに跪き、怒張を口に含む。
「あっ」
「素早い……」
「あれ、また……」
いわゆる掃除フェラというやつだ。
あっという間にコゼが咥えてしまったので、エリカもスクルズもシャングリアも、わずかに出遅れたような顔をする。
だが、こういうときのコゼは、いつも一郎の様子を見ていてくれる。
なにより、誰よりも早く手を伸ばしてくるその気配りが、可愛く思えてしまう。
「コゼ、悪いが──そのまま一度、抜いてもらっていいか。どうにも中途半端でね」
一郎は苦笑しながら言った。
なんとなく、コゼの口に出したくなったのだ。
それに、エレインがあのままでは死にそうな顔をしていたから、途中でやめてやったが、本当はもう二度三度はいけた。
かなり性の強い女のようだったので、手加減を忘れたのがよくなかったのかもしれない。
いつもの女たちではないぶん、責めの加減を読み違えた。
一方で、コゼは一郎の男根を咥えたまま、嬉しそうに頷く。
唇を伝う息が熱い。
いつの間にか上達した舌の扱いで、一郎を愉しませる。
しばらく快楽を堪能してから、一郎は遠慮なく、コゼの口に精を放った。
コゼが愉しそうに喉を鳴らして、精をすする。
「ふふふ……ありがとうございます」
コゼが口を離した。
「ありがとうか……。こっちこそ、ありがとうだな」
一郎は笑う。
「ううん、出遅れましたね」
すると、スクルズがすぐそばで呟いた。
一郎は筆頭巫女のその淫らな言葉に、思わず笑みを漏らすとともに、一郎の性器を競い合って奪おうとしてくれる女たちに嬉しくなってしまった。
「ところで、エレインはどうなりました、ロウ様?」
エリカが囁く。
言いたいことは察していた。
一郎は軽く頷く。
「エレインが俺たちの不利になることを誰かに話すことはない。その程度の支配はした。ただし、淫魔師の恩恵が及ぶほど深くはしていない」
精を注ぎ、性支配は確かに成された。
だが、それは緩やかな支配だ。
一郎について余計なことを口にしないという約束が、命令として刻まれている──その程度だ。
まあ、それで十分だ。
エリカたちのように、「支配」してしまうと、淫魔の恩恵により、彼女の能力が桁あがりする。ほかの女たちでわかっているが、簡単に解除もできない。
タリオの諜報員だとわかっている女に、それは拙いだろう。
「──さて、場所を変えよう」
一郎は寝台にあったリネンの掛け布をエレインの裸体に掛けてやると、服を整えて広間に戻った。
全員で祭壇を椅子代わりにして腰をおろす。
「状況を教えてくれるか?」
スクルズとエリカに視線を向ける。
まずは、スクルズとシャングリアについては、冒険者たちを無事に外へ送り届けたとのことだった。
スクルズたちは、移動術を使って彼らを近くの里まで転送し、里長には詳細はあとで説明するとだけ告げて急ぎ戻ってきたという。
次に、神殿内の捜索にあたったエリカとコゼについては、神殿内部には特に怪しいものはなかったが、魔妖精が残した大量の財貨は確かに地下にあったそうだ。
ブラニーがここに監禁されていた冒険者たちに配ったが、まだかなり余っていて、一郎の指示を待つため、そのまま手つかずにしているという。
一郎は、ブラニーを呼んだ。
「旦那様、お呼びでしょうか」
屋敷妖精が静かに現れ、恭しく頭を下げた。
一郎は手で示して、座るように促した。
ブラニーは少し戸惑ったが、大人しく腰をおろした。
「お前の今後を相談したい。実際のところ、この建物はもう完全な廃神殿だ。屋敷妖精として長く棲んできた未練もあるだろうが、ここにはもう新しい主人が来る見込みはない」
一郎がそう言うと、ブラニーは小さくうなだれた。
「……はい。わたくしども屋敷妖精は、生まれながらにしてひとつの屋敷と結びついております。ですから、屋敷を離れては生きられません。そのまま、この屋敷と運命を共にするほかございません」
その声には、かすかな諦めが滲んでいた。
「新しい屋敷を見つけて、新たな主に仕える気はないか?」
一郎は訊ねる。
「それは屋敷妖精のわたくしめの本能ではできないことなのでございます。哀しいことですが、ここで新しい主を迎えられぬのであれば、この屋敷とともに、わたくしも消滅いたします。それが、わたくしどもの定めなのです」
「そうか……」
一郎は静かに頷きながらも、胸の奥で考える。
──だが、シルキーも同じだった。
本来なら、高位の魔道遣いにしか仕えられないはずの屋敷妖精が、淫魔術によって“定め”を曲げ、いまでは自分に従っている。
ならば、ブラニーにもそれができるのではないか……。
「……ひとつ、試してみたいことがある」
一郎は立ち上がると、ブラニーの肩に手を置いた。
ゆっくりと指先に淫気を込めていく。
淡い光が彼女の肌の下に滲み、輪を描くように広がっていくのを感じる。
「ブラニー、お前はいま、この俺を主人として認めているな?」
「認めております、旦那様。でも、旦那様はここにはお住まいになられません。ブラニーは、この神殿に結びついているのでございます」
「わかっている。だが、いまの主人として、屋敷妖精ブラニーに命ずる。次の屋敷を俺が準備する。そこに移動しろ」
その声が低く響いた瞬間、ブラニーの身体がびくりと震えた。
瞳が大きく見開かれ、金色の光がゆらりと宿る。
「ご主人様……あなたは、一体、何者でございますか……。どうやら、わたくしは……新しい屋敷へ移ることができるようでございます」
ブラニーが小さく息を詰めながら言った。
その声には、驚きと長い縛りから解かれた解放感に満ちあふれていた。
一郎は小さく笑みを浮かべた。
「よかった……。じゃあ、新しい屋敷に移動することにしよう」
屋敷妖精の生命としての定め──その根をも覆すのが淫魔術の力なのだと、一郎は改めて思った。
「ロウ様、屋敷妖精が屋敷を変えるというのは、聞いたことがありません。もちろん、わたしは専門家ではありませんが、伝承とは異なります」
スクルズが驚いたように言った。
「まあ、そうなんだろうけど、そうなったらいいなと考えながら念じたらできた。とにかく、引っ越しのできるようになったみたいだから、深く考えなくていいんじゃないか」
一郎は言った。
「じゃあ、ご主人様。このブラニーという屋敷妖精をどこに連れて行くつもりなの? うちの屋敷? シルキーがいますけど」
コゼが訊ねてきた。
「そうだなあ……。とりあえず、うちに来るか、ブラニー……? もっとも、うちには、すでにシルキーという屋敷妖精がいるけどな」
その言葉を聞いたブラニーが、ほんの少しだけ視線を伏せた。
「……そうでございますか。では、やはり、わたくしめは別の屋敷のほうがよろしいでしょう。その方の領分を乱すのも忍びませんし」
一郎は小さく頷いた。
「ならば、たとえば、王都に新しい屋敷を準備するから、そこに住むのはどうだ?」
「それなら、ありがたいことでございます」
ブラニーの顔に柔らかな笑みが広がった。
「新しい屋敷……ですか?」
エリカが思わず声をあげた。
だが、それは一郎が以前から考えていた案でもあった。
つまり、王都に第二拠点を設けるというものだ。
表向きはそこを一郎たちの家とし、王都に入るときにはスクルズに作ってもらう移動ポッドを経由して行くのだ。
今後の活動においても、郊外の屋敷が割れる心配も減り、アスカの追っ手をやり過ごせるかもしれない。
一郎はその構想を簡潔に話した。
スクルズもエリカも、そしてコゼも、賛成の様子だった。
「幸いにも、家を購入するには十分な臨時収入ができた。実際には誰も住まないが、隠れ蓑として生活の気配を作るには、ブラニーがいてくれるのがいちばんだ」
「臨時収入とは、魔妖精が残したあの財のことですか?」
コゼが訊ね、一郎は頷いた。
「じゃあ、その新しい屋敷も、ロウ様のものとして、ブラニーに管理してもらうんですね」
エリカが訊ねた。
だが、一郎も考えていることがあり、スクルズに視線を向ける。
「そのことだが、スクルズ……。お前がブラニーの主になるのはどうだろう? スクルズなら屋敷妖精が仕える資格はあるのだろう?」
「わたしが……ですか? でも、わたしは第三神殿に住んでおりますし、屋敷の当主にはなれませんが」
「だから、さっきの家だ。お前には移動ポッドがある。あの家と神殿の私室を繋げてしまえば、実際的には神殿にもうひとつ部屋ができるのと同じだ」
「やるのは簡単です。でも、神殿には戒律がありますし……」
珍しくスクルズが戸惑うような表情になる。
「まあ聞け。スクルズが家を買って、そこにブラニーを置き、ウルズの世話をさせればいい。ベルズの第二神殿の私室とも繋げて、交代で看ればいいし、もちろん、俺の屋敷とも繋げてもらう」
「このお方はかなりの魔道遣い様でございますね……。わたくしめも、お仕えできると思います」
ブラニーの顔にぱっと光が差すような笑みが浮かんだ。
だが、スクルズは逡巡の色を残したままだ。
「でも、男神官と違って、巫女は神殿に住まねばならないという戒律があるのです……。名目だけでも家を持つのは、教会法に触れることに……」
「はあ、掟を破ってばっかりのあんたが言うの?」
コゼが呆れ顔で横から口を挟んだ。
「そんなもの、どうにでもなるだろう、スクルズ……。それに、神殿では夜這いもしにくいが、移動ポッドで繋いだ中間の家なら、俺は毎晩のようにお前を夜這いできるぞ」
「……家を買いましょう」
スクルズは即答した。
エリカたちが、呆れたように目を合わせたのが見えた。
「おお、では、わたくしめは、皆さまの新しい家にお仕えいたします」
ブラニーが嬉しそうに言った。
その声音は明るく、どこか晴れやかだった。
「では、準備ができたら改めて迎えに来るとしよう。それまで待ってもらうことになると思う」
「はい。わたくしめは、ここでお迎えをお待ちしております」
「ならば、ブラニーに命じる。ここにいるスクルズを新たな主人として、こちらの準備できしだいに、新たな屋敷に移れ」
「承知いたしました、旦那様……。そして、どうぞよろしくお願いいたします。新たなご主人様」
ブラニーが小さく微笑み、一郎、次いで、スクルズに静かに頭を下げた。
一郎は頷いた。
そのときだった。
二階から、誰かが階段を下りてくる気配がした。
階段を下りてきたのは──エレインだった。
とりあえず服は身につけているが、顔色はまだ相当に気怠そうだ。
「あら、もういいの? きっと明日まで起きないと思ってたわ」
コゼがからかうように声をかけた。
「持っていたポーションを無理矢理に飲んだんだよ。参ったね……。世の中には、このあたしをへこますような男もいるんだね。お見それしたよ」
エレインは苦笑しながらやって来ると、みんなが座っている祭壇にどんと腰をおろした。
ブラニーがその様子を見て、静かにスクルズへと視線を向けた。
「スクルズ様。よろしければ、皆さまのお食事の準備をしたいと思いますが?」
もはや、まだ屋敷はないが、スクルズを新たな主人と認めているのだろう。
「お願いするわ」
スクルズが柔らかく微笑んで応じる。
「かしこまりました。では、しばらくお待ちください」
ブラニーが嬉しそうに微笑むと、その姿はふっと消えた。
同時に、なにもなかった床の上に長テーブルと椅子が出現し、白布が掛けられ、中央には花まで飾られている。
「なになに? 屋敷妖精は、結局、あんたが引き取ることになったの?」
エレインが興味深そうに尋ねた。ここでのやり取りが少し聞こえていたのかもしれない。
コゼが口を開いた。
「そうよ。でも、ご主人様との勝負に負けたんだから、ぐずぐず言わないでね」
「言わないわよ。こっちも好都合。屋敷妖精が残るなら、なんとかしろって坊やにうるさく言われるけど、いなくなるんなら、最初からいなかったって報告できるからね」
エレインが肩をすくめる。
そして、ふと一郎に目を向けて笑った。
「それにしても、あんたたち、すごいわ……。このロウ殿の相手ができるなんてね。あんたたち、全員、この人の女なんでしょう?」
その自嘲気味な言葉に、場の空気が一瞬ゆるんだ。
「まあ、ひとりじゃないからな。このところ、ロウの絶倫も際限がなく、いつも三人がかりだ……」
シャングリアがさらりと言い放つ。
「いえ、このところはスクルズも毎晩やってくるから、四人がかりね」
コゼが混ぜ返す。
「だが、エレインとやら、ロウの性愛はあんなものじゃないぞ。あれは優しいくらいだ。いつもはもっと鬼畜だ。だが、その鬼畜の先に、やり遂げたという充実感があるのだ。まだまだだ」
シャングリアがさらに言った。
「まだ、あれ以上があるの?」
エレインが目を丸くした。
すると、ほかの女たちが一斉にくすくすと笑い出す。
一郎はなんと言うべきか迷ったが、もう弁明する気も失せていた。
それよりも、話題を変えた。
「ところで、エレイン。俺たちはこのクエストの報告を済ませたあと、十日ほどミラノの城郭で休暇を取るつもりだ。それから王都に戻る。よければ、一緒に行くか」
「いいの?」
エレインは一郎を見てから、女たちを順に見回した。
「ロウ様がいいと言われるなら、問題ありません」
エリカが代表するように応じた。
ほかの女たちも微笑んで頷く。するとエレインが嬉しそうに破顔した。
「やった──。本当は、これで別れるのは名残り惜しいなあと思ってたの。久しぶりに、あたしも心からの休暇をとるわ。なんか、この人にはいろいろと衝撃を受けたし、整理する時間が必要なのよ」
「大袈裟ねえ」
エリカが苦笑する。
「大袈裟じゃないわ。これでも、性技には自信があったのよ。でも、あたしなんて子供扱いだったもの。──こんな人、初めてよ。まあ、よろしくね」
エレインは照れ隠しのように笑い、それから少し真顔になった。
「……それと、もうひとつ。さっき言いそびれたけど、“エレイン”は偽名なの。本当の名前は──ビビアンよ」
「ビビアン?」
コゼが目を瞬かせた。
「エレインは、タリオの間者として使っていた一時的な偽名よ。でも、いまさら隠すことでもないしね。ロウ殿には見透かされてた気もするし」
ビビアンは軽く肩をすくめ、明るく笑った。
「タリオの間者って、ついに自分で言っちゃうのね」
コゼが笑う。
「いまさらでしょう……。だから、これからはビビアンでいいわ。偽名はもう終わりよ」
その笑みには、どこか吹っ切れたような柔らかさがあった。
女たちが順番に自己紹介をし直す。
それが一巡したころ、待っていたかのようにブラニーが再び姿を現した。
「皆様、お席にお着きくださいませ」
次の瞬間、長テーブルの上には、湯気を立てるスープと焼きたてのパン、果物、そして数種類の飲み物が並んだ。
「わおっ、すごい」
ビビアンが思わず声を上げた。
それを合図に、全員が席へと移動する。
温かな食卓の光景の中で、さっきまでの緊張が静かに溶けていく。
夜の廃神殿に、笑い声が静かに響いていた。
19話『淫神の巣喰う神殿』終わり──
20話『漆黒の艶本と妖魔将軍』に続く──
【スクルズ】
人間族。ハロンドール人。クロノス神殿会に仕えた女性神官であり、諸王国時代の末期に活動した。
ハロンドール王国におけるルードルフ王の狂乱期の主要な殉死者の一人とされる。
当時、第三神殿の神殿長として、信仰と理性をもって狂王ルードルフの暴政を諫めたが容れられず、神殿の権威を恐れた王により粛清された。享年二十六。
彼女の殉死とともに奇跡が発生したと伝えられており、後に神格化された。
伝えられる奇跡は……(中略)
なお、スクルズ国際記念図書館をはじめ、その名を冠した記念碑・礼拝堂・巡礼院などがハロンドールおよび周辺諸国に数多く建立され、彼女への信仰は時代とともに拡がっていった。その敬慕の念から、後世には「貞節の巫女」あるいは「理性の聖女」とも称されるようになる。
(出典:『年代記(第六巻の三)・人物列伝』コリネリア・ポリス著)