※この作品はR-18です。

【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】   作:ドン・ドナシアン

15 / 263
014 陵辱と救出

 森一帯に血の匂いが漂っていた。

 

 血まみれの連れの男は大量の血を地面に流し続けたまま、もうぴくりとも動かない。

 ユイナは、そのすぐ横で地面に倒されて、身体を押さえつけられていた。

 だが、やられて堪るか──。

 目の前の男の腕に思いきり噛みついた。

 

「痛てててえ──。ち、畜生、噛みやがった──」

 

 口と眼の部分だけをくり抜いた覆面で顔全体を被った三人の男のひとりが悲鳴をあげた。

 ユイナは、そのまま、そいつの腕を食い破ってやろうと思ったが、もうひとりの男に強引に顎を掴まれて口を開かされる。

 さらに、口にユイナから引き千切った服の切れ端を突っ込まれ、上から紐をかけられて猿ぐつわをされた。

 すでに、魔道封じの枷を背中側で両手首に嵌められて魔力を凍結させられている。ユイナの魔道を封じ込められるのだから、相当の高位魔道具出あることは間違いない。

 用意周到に待ち受けていたのだということがわかる。

とにかく、いまは、この身体だけが抵抗手段だ。

 

「んんんん──」

 

 ユイナはまだ拘束されていない脚で、ユイナの口に布を突っ込んだ男の脛を蹴ってやろうとした。

 びりびりに破かれているユイナの服は、いまや身を隠すことのない布きれに化している。暴れれば、隠したい場所が露出するのはわかっているが、一切の躊躇はない。

 力いっぱい蹴りあげる。

 

「ふがっ」

 

 その男が脛を抱えて、その場に倒れた。

 

「こいつ──」

 

 さっき手を噛んだ男がユイナの頬を力いっぱい張り飛ばした。

 後ろ手に拘束されているユイナには、それを防ぐ方法などない。意識も飛ぶような衝撃とともに、横倒しに地面に崩れた。

 すぐに身体を起こそうと思ったが、身体が痺れて動けない。

 

 口惜しい……。

 涙がとまらない……。

 情けなくてしょうがない……。

 こんな連中に……。

 

 すると、いままでふたりの男がユイナを襲うのを見守っていた三人の襲撃者のうちのリーダー格の男が笑い出した。

 

「お前ら、両手を拘束している小娘を相手に、なにを手こずってるんだ。いいから、とりあえず足を揃えて縛ってしまえ……」

 

 そのリーダー格の男だ。

 これ以上縛られて堪るものか──。ユイナは、脚を守るように、身体を縮める。

 

「あっ、へい……」

 

 一方で、手下のひとりが返事をする。

 

「それと、少し道から外れた奥に、誰も使ってねえ猟師小屋があったろう。そこに連れ込むぞ。犯すのはそれからだ」

 

「ああ、さっきの分かれ道の奥ですね」

 

「そうだ。さっさとしろ」

 

 すると、ユイナの身体をさっきのふたりの男がのしかかるように押さえつけてきた。

 ひとりが両脚を揃えて上に乗り、もうひとりが足首と膝に縄を掛けていく。

 

「んぐうう──」

 

 ユイナは暴れたが、さすがにどうしようもない。

 両脚に加えて、改めて腕を胴体に縛りつけられたユイナは、地面の上で腹這いのまま動くことしかできなくなった。

 

 目を動かして、離れた場所で倒れている、一緒にいた里の男をもう一度見る。

 しかし、やはり、少し離れた場所で倒れているその里の男は身動きひとつしていない。

 ここまで届く血の香り……。

 やっぱり死んでしまったのだろうか?

 

 本当に死んだのか……?

 

 涙がぼろぼろとこぼれる……。

 

「おい、お前は、小娘の連れの荷物を調べろ。こいつの荷には告発書はなかった。もうひとりの男が持っているに違いないぜ」

 

 リーダーの言葉で、ひとりが弾かれたように駆けていく。

 だが、この連中の捜し物が「告発書」だとわかる。

 それでユイナは、この三人が誰の指示で動き、なんのためにユイナたちを襲ったのかわかってしまった。

 さらに口惜しさが拡がる。

 

 こいつらの狙いは告発書──ユイナたちがこれからエルフ族の女王に、新しい里長の悪事を告発するための証拠を添えた文書だ。

 それを奪われては、ユイナたちのやろうとしていることは無になる。

 

「さあ、死ぬまでの短い時間、おじさんたちが遊んでやるからな。元気のいいお嬢ちゃんだが、男遊びの経験はあるか?」

 

 すると、リーダーの男が地面に寝ているユイナ横に屈みこんだ。

 ユイナの顔の前で、意味ありげに右手を拡げる。

 その右手にじわじわと魔力が染みていく……。

 

「んふうっ、んんんっ」

 

 びっくりした。

 リーダーの男の指が魔道であり得ないほどに細かく小刻みに振動をし始めたのだ。

 しかも、五本の指の全部がだ。

 破けた衣服の隙間から、その指が肌に触れ──ユイナの乳房の先端を軽く押し撫でた。

 

「んんん──」

 

 ユイナは口に突っ込まれた布の下から悲鳴をあげた。

 震える指先が乳房の頂点を擦り、得体の知れない戦慄が背筋を這い上がってくる。

 

「んんんっ」

 

 ユイナは、縛られて横倒しになっている身体を暴れさせた。

 だが、男は腕ひとつで、ユイナの抵抗を封じてしまう。

 

「どうだ、なかなかいいだろう? その感じだと生娘か? 死ぬ前になんの経験もなく死ぬのは可哀想だからな。俺たちがきっちりと女にしてから、冥界に送ってやろう」

 

 リーダー男の振動する指が破かれた衣服の隙間から入り込み、背筋から腰のくびれのあたりを這い始める。

 こんな男になぶられて、反応を示すなど血が凍るほどの屈辱だが、おかしな振動をする指に剥き出しになっている皮膚を刺激されると、ぞわぞわとした感覚が込みあがり、ユイナから全身の力を奪っていく。

 

「んんんっ」

 

 動かせるのは首だけ。

 必死に首を左右に振る。

 

「おう、なかなかの好き者か? じゃあ、ここなんかも気持ちいいか?」

 

 男の指が破れたスカートの内側に入り込み、下腹部に指を這わせる。

 

「んんああ──」

 

 ユイナは身体をばたつかせた。

 しかし、それを、さらにもうひとりもユイナの身体を押さえつてきた。

 振動する指が股間のあちこちをそっと触れて動く。ユイナは激しく拘束された身体をもがかせた。

 ユイナの反応を愉しむかのように、ふたりが下衆な声で笑う。

 口惜しさでまた涙が出る。

 そのとき、さっき駆けていった男が戻ってきた。

 

「おう、兄貴たちばかり狡いぞ──」

 

 その男が開口一番声をあげた。

 

「そう言うな。それよりも、見つかったか?」

 

 リーダー男がやっとユイナの身体から指を離した。とりあえずほっとした。

 だが、戻ってきた男が掴んでいたものを見て、ユイナは愕然とした。

 

 紛れもなく、告発書だ。

 ついに、見つけられてしまった……。

 

 これで、ユイナの運命も定まった。

 告発書を奪った以上、この三人が告発の使者であるユイナを殺すことは間違いない。

 すでに、ユイナの連れは殺された。

 いま、ユイナが生きているのは、この三人がユイナを殺す前に、身体を犯そうとしているからにほかならない。

 凌辱するだけ凌辱すれば、やはり、この三人はユイナも殺すと思う。

 

 仮にも里長のダルカンがこんな思い切った策を取るとは夢にも思わなかっただけに、たったふたりだけで重要な告発書を運ぼうとしたことが甘かったかもしれないと思った。

 それにしても、顔を隠しているのでよくわからないが、ユイナにはこの三人に記憶がない。

 同じエルフ族のようだが、肌が白く、おそらく別の里から派遣されたものだろう。

 ダルカンの手の者だと思うが、さすがに人殺しなどという仕事を里の者にさせるのは躊躇ったに違いない。

 

「おう、それか?」

 

 リーダー男も、戻ってきた男が持っていた告発書に気がついた。

 それを受け取ると、すぐに中身を確認し、やがて、満足そうに頷いた。

 

「間違いねえ──。よくやったぞ」

 

 リーダー男が大きくうなずいた。

 

「荷袋の内側が二重になっていて、内側が魔道で巧みに隠してあったんだ。危うく見逃すところだったぜ」

 

「わかってるよ……。褒美に、最初にこの娘っ子を犯させてやるぜ」

 

 次の瞬間、リーダー男が持っていた告発書が大きな炎に包まれた。

 魔道の火か──。

 ユイナの目の前で、完全に書類が灰になる。

 

「本当か、兄貴? 俺が一番でいいのか?」

 

 男が奇声をあげた。

 

「ああ、俺の見たところ、この娘っ子は生娘だ。ちゃんと可愛がってから犯してやんな。よし、連れていけ」

 

 ユイナの身体をふたりの男が持ちあげた。

 もはや、ユイナには、なすすべもない。

 

 暴れるユイナの身体を軽々と運んで三人は道から離れていき、やがて森の中の猟師小屋に着いた。

 小屋の床に放り捨てられる。

 

 逃げようとした。

 なんとしても、逃げなければ……。

 ユイナは拘束された身体を転がして、必死に小屋の外に向かう戸に向かった。

 

「操れ、身体──」

 

 しかし、リーダー格の男が笑いながら叫んで、ユイナに向かって杖から魔道を放つ。

 ユイナの全身に強い魔力の縛りが加わったのがわかった。

 身体が動かなくなった。

 

「さすがに、もう抵抗できねえはずだ。俺が魔道で縛りつけてやるから拘束も解いていい。約束通り、最初はお前からだ」

 

 リーダー男が杖をユイナに向けたまま言った。

 再び、ふたりがかりで押さえつけられる。

 背中側の魔道封じの手枷を残して、縄の拘束を解かれていくが、まったく身体は動かない。

 縄を解かれても。見えない縄で全身が拘束されているかのようだ。

 そして、全身にまとわりついていた衣服の切れ端が次々に剥ぎ取られる。ユイナは完全な素裸になった。

 

「いやああ──、誰か、助けてええ──」

 

 やっと口の中の布を抜き取られ、ユイナは力の限り悲鳴をあげた。

 

「いくらでも叫びな──。こんなところに助けなんかくるかよ──」

 

 だが、三人の男たちは嘲笑うばかりだ。

 やがて、ひとりの男がおもむろにユイナの前に進み出て、ズボンを下げた。

 醜悪な男の下半身が目の前にやってきた。

 

「ひっ」

 

 勃起した男の性器にユイナの全身が強張る。

 すると、ユイナの身体は、まるで操り人形のように勝手に動いて、床に腰をつけて座る体勢になった。しかも、両脚の膝が立ち、大きく左右に開く。

 

「い、いやだああ──本当にいやああ──いやああ──」

 

 絶叫した。

 脚には拘束はないが、股を開かされてる脚は動かない。身体も腕も硬直している。

 しかし、顔は動く。

 ユイナは激しく頭を振り立てて悲鳴をあげた。

 身体が押し倒されて、男にのしかかられる。

 

「や、やめろおお──。やめてええ──」

 

 叫んだ。

 眼の前にユイナを犯そうとしている男の頭がある。

 ユイナは、唯一動く頭を男の頭に叩きつけた。

 

「ぐあっ」

 

 男が頭を抱えて、一度ユイナから離れた。

 

「ち、畜生、さっきから、なんてえ、お転婆だ──」

 

 その男が今度は拳を振りあげた。

 殴られる──。

 

 ユイナは目をつぶって、歯を食い縛った。

 しかし、あのリーダー男の笑い声が響き渡った。

 

「やっぱり、駄目だな……。どけ、交代だ──」

 

 リーダー男がその男を押し避けると、すっと魔道の杖をユイナの股間に伸ばしてきた。

 

 ぎょっとした。

 その杖の先が、さっきのこの男の指のように魔道で小刻みに振動をしていたのだ。

 

「な、なにする気よ──。やめなさい──やめるのよ──」

 

 絶叫した。

 

「いいねえ……。最後まで、そんな風に抵抗してくれると愉しいんだがな……。すっかり諦めて、人形のようになった娘を犯しても愉しくないしな」

 

 杖の先が大きく開かされているユイナの亀裂の上側にとんと当たった。

 

「や、やめええ──」

 

 ユイナは甲高い悲鳴をあげてしまった。

 杖の先が当たったのは、ユイナの一番敏感な肉の蕾の部分だ。そこに的確に振動する杖の先が触れたのだ。

 ユイナはもがいた。

 だが、さらに強い魔道がユイナの身体を縛るのがわかった。ユイナは今度は凍りつくように全身を動かなくされた。

 

「ああっ、だ、だめええ……」

 

 喉が引きつる。

 なにかが身体の内側から込みあがる……。

 おかしな感覚に身体が揺さぶられる……。

 必死になって、杖から逃げようともがいた。

 でも、やはり動かない。

 大きく開いている脚もぴくりともできない。

 

「感じてきたか? じゃあ、振動をあげるぞ……」

 

「や、やめ……ろおお──」

 

 ユイナは歯を食い縛った。

 股間に加えられる杖の先の振動が強くなったのだ。

 痺れるような衝撃が刺激を受けているところから全身に広がる……。

 

「腰が動き出したな……。腰だけ金縛りを解いてやるぞ」

 

 男が言った。

 腰を凍りつかせている魔道の力がなくなったが、それだけだ。手足は動かせない。

 それでも杖の先から逃げようと、ユイナは腰を捻ったり、左右に振ったりするのだが、杖は張りついたかのようにクリトリスの上の一点に乗ったままだ。

 狂おしい刺激だ。

 ユイナはだんだんと自分の身体を支配しようとしているものに恐怖した。

 

「兄貴、感じてきたようだぜ。濡らしてきたぜ」

 

「おう、いくらなんでも、あのままぶっさしたら、こっちも痛いだけだからな。少しくらい潤わせておかねえとな。どうだ、小娘? 感じてきたか?」

 

 杖の振動でユイナの股間をなぶっている男が笑った。

 

「か、感じる……もんか──。じょ、冗談……じゃない……あ、ああっ……」

 

 悪態をつこうと思って口を開いたら、自分でも思いがけずに甘い声が迸った。

 ユイナは慌てて口をつぐんだ。

 

「感じているくせに、あてつけがましく、しらけた顔をしてんじゃねえよ……。おい、そろそろ、いいだろう。いけ──」

 

 やっと杖がどかされた。

 ほっとすることはできなかった。

 それは、最初にユイナを犯そうとした男に位置を譲っただけだ。

 

 身体が倒されて仰向けにされた。

 両脚は大きく開かれ、まるでそこに杭でも打たれたかのように動かなかった。

 股間に覆いかぶさってきた男の勃起した性器の先端が当たるのがわかった。

 

「いやああああっ」

 

 ユイナは絶叫した。

 股が引き裂かれる──。

 それを思わせる激痛がユイナに襲いかかった。

 股間になにかがめり込む──。

 ユイナはあまりの激痛にわけもわからずに悲鳴だけをあげ続けた。

 

 そんなユイナを見おろしながら、男ふたりが笑っている。

 ユイナの上に乗っている男が獣のような声をあげた。

 

 

 

 

 

 陵辱は続いている──。

 

 二人目の男がユイナの股間に精を放ったのがわかった。

 ユイナはもう泣いてない、その代わりに、自分を犯した男を睨みつける。

 

「なかなか気の強い娘だな、兄貴──。まだ、こんな顔ができるんだからな───。殺すのは惜しいぜ。せめて、奴隷商に売っぱらっちまおうぜ」

 

 その男がユイナから離れながら言った。

 

「駄目だ──。必ず殺すというのが契約だ。可愛そうだが、こいつには死んでもらう」

 

 三人目はリーダー男だ。

 

「あ、あんたらの……雇い主……ダルカンよね……」

 

 ユイナは口惜しさで歯噛みしながら言った。

 ダルカンというのは、里長だった祖父に替わって、一年前にユイナたちのエルフ村の里長(さとおさ)になった男だ。

 もともとは余所者だったのだが、五年ほど前にユイナたちの里にやってきて里で商売をするようになり、そして、ある事件をきっかけに、祖父を引退させて、新たな里長になった男だ。

 つまり、いまの里の里長なのだ。

 

「さあな……。それを知っても、どうしようもないだろう?」

 

 リーダー男はそう言うと、猟師小屋の床に仰向けになっているユイナの脚のあいだに立った。

 おもむろにズボンをおろし始める。

 

 そうかもしれない……。

 

 確かに、いまここでユイナがそれを知ったところで、なにも変わらない……。

 おそらく、この男に犯されたあとで、ユイナは連れの男同様に殺される。

 せめて、この口惜しさだけでも、祖父やイライジャに伝えたかった──。

 

 そのときだった。

 

 突然に、勢いよく猟師小屋が開いた──。

 ユイナは驚いて視線をやった。三人の男たちも、ほぼ同時に開いた扉に向かって顔を振り向かせた。

 

「な、なんだ、お前は──?」

 

 ひとりが叫んで、三人の持つ杖が一斉に突然の闖入者に向く。

 

 えっ、人間族──?

 

 そこにいたのは、黒い髪をした人間族の男のように思えた。

 その男がいきなり、なにかを投げつけた。

 

「うわっ」

 

 ユイナの前にいたリーダー男が声をあげた。

 人間族の男が投げたのは、真っ赤に熟れた木の実だった。それが破れて、リーダー男の全身が鮮血のように赤く染まった。

 

「悪い──。取り込み中か──。じゃあな……」

 

 そして、あっという間にその人間族の男は逃げていった。

 

「あいつを捕まえろ──。お前はここにいろ──」

 

 リーダー男はひとりを指名して、小屋に残るように指示し、杖を構え直すと、もうひとりの男とともに、小屋の外へと飛び出した。

 

 


 

 

 ふたりの男たちが小屋から飛び出してくるのがわかった。

 一郎はなにも考えずに地面にひれ伏した。

 

「いたぞ──」

 

 叫んだのは、三人の強姦魔のうち一番の手練れだ。

 運がよかった──。飛び出してきた男たちに、目を付けていた手練れが混じっている。

 その男が一番強い。

 

 

 

 名前:****

  エルフ族、男

  年齢:45歳

  ジョブ

   魔道遣い(レベル19)

   戦士(レベル5)

  生命力:100

  攻撃力:600(必撃の剣)

  魔道力:500

 

 

 

 とにかく、こいつを最初に討つべきだ──。

 魔眼でステータスを読む限り、あとは雑魚だ。

 

 確実に倒すには、奇襲に限る──。

 どの男が手練れで、最初に狙うべきかは、一郎が赤い果実で印をつけてきた。

 エリカには、それで十分だろう。

 

「あの人間族を殺せ──」

 

 その男が地面に伏せている一郎を認めて、もうひとりの男に短く言った。

 一郎には、手練れが杖を腰に差し直して、剣を抜くのがわかった。

 もうひとりは、魔道の杖を構えている。

 

 そのとき、風の鳴る音がした──。

 

「がっ」

 

 手練れの首に矢が貫いた。

 一郎には一瞬にして、手練れの生命力が一桁台に減少するのがわかった。

 

 さらにもう一矢──。

 

 今度はリーダーの頭に刺さった。

 一郎の頭から手練れの情報が消失した。

 ただの死骸に変わったということだ。

 手練れの身体が音を立てて倒れる。

 

「な、なんだあ──?」

 

 一郎に杖を向けていた男が異変に気がついて、声をあげた。

 そして、矢が刺さって死んでいる手練れの姿に悲鳴をあげた。

 

 また、風の音──。

 同じように首に矢が刺さり、男が倒れた。

 

「ロウ様──」

 

 少し離れた草の中からエリカが顔を出した。

 駆けてくる。

 一郎は立ちあがった。

 恐怖で膝が揺れていたが、必死に平静を装う。

 

「無事ですか?」

 

 駆けてきたエリカが心配そうに一郎に声をかけてくる。

 声には焦りと安堵の響きが混じっていた。

 

「問題ないよ……。だが、もうひとりいる──。小屋の中だ」

 

 一郎は小屋を指さした。

 中にいるのは、残った男ひとりと、ユイナという襲われていたエルフの少女だ。

 ただ、一郎たちが襲撃する直前に、魔眼で見えるそのユイナの「経験人数」というのが、「男1」から「男2」に変化した。

 小屋がどういう状況にあるのかを考えると暗い気持ちになる。

 だが、一郎は首を横に振った。

 

 せめて、助けるのだ……。

 命だけでも……。

 

 一郎は、エリカに小声で指示して、一郎自身は真っ直ぐに小屋に向かって歩いていった。

 近づく前に死んだエルフ男が持っていた剣を拾う。

 こんなものを一郎が持っても、大して役には立たないだろうが、相手はそうは思わないかもしれない。

 

 三人目の男はまだ小屋の中だ。

 小屋の外における異変には気がついていないようだ。

 その男がユイナというエルフ少女をからかう声が聞こえてくる。

 

 怖い……。

 

 足の震えが止まらない。

 しかし、さっきもそうだったが、襲われているのだと思うユイナという少女のことを考えると、なぜか勇気が出た。

 がくがくと恐怖に襲われながらでも、魔道の遣える三人の殺人エルフ男たちの前に飛び込むことができた。

 怖さで身体が凍りそうなのに、エリカに告げたとおり、しっかりとエリカが最初に殺すべき手練れに、果実の汁で印をつけることもできた。

 

 そんなことができた自分が不思議だ。

 なにも考えず、襲われている少女を助けようと思うことができた自分が信じられない。

 初めてエリカを抱いたときもそうだったが、どうも女が絡むと度胸も根性もどこからか生まれ出てくる気もする。

 淫魔力により強化された、助平心のなせる技か……?

 

 一郎は扉を蹴飛ばした。

 そして、さっと小屋の中を見た。

 

「お、お前、さっきの──。兄貴たちはどうした──?」

 

 全裸のエルフ少女の上に覆いかぶさるようにしていたその男が、ぎょっとした顔をこっちに向けた。

 だが、一郎の眼は、そのエルフ少女の姿を見ている。

 股間に明らかに犯された痕がある。しかも、白濁液に混じった血の滲んだ痕も……。

 そのとき、その男の杖がこっちを真っ直ぐに向けた。

 

「やべえ──」

 

 考えるより先に、身体をしゃがませていた。

 その次の瞬間──。

 なにかの光線のようなものが一郎の身体すれすれに通り過ぎていった。

 一郎は度肝を抜かれた。

 男が放った魔道の矢だ──。

 一郎は咄嗟に、身体を小屋の外に出す。

 

「近づくんじゃねえ、こいつを殺すぜ──」

 

「いやあああ──」

 

 小屋から男の声がするとともに、少女の悲鳴がした。

 

「お前の仲間は死んだ──。観念して出てこい──」

 

 一郎は叫んだ。

 だが、内心では、「出てくるな」と叫んでいる。

 本当にこっち側に出てきたら、どうしようもない

 そのときは──もう逃げるしかないが、一郎だけで逃げられる気もしない。

 エリカには、一郎側に来るなと念を押している。

 

「来るな──。来たら、こいつを殺す──」

 

 男が叫び、次に反対側の小屋の壁にどんと身体を当てる音がした。

 しめた──。

 一郎も身を隠しているので小屋の中の様子は見えないが、一郎の読み通り、そいつは反対側の壁に背をつけたようだ。

 

「ぐああああ──」

 

 叫び声がした。

 一郎は部屋にもう一度飛び込んだ。

 男が背をつけた壁の向こうから剣が貫かれて、男の胸から剣先が飛び出している。

 

 エリカだ──。

 男が呻いていたが、すぐに一郎の頭からその男の情報も消えた。

 

 死んだ。

 

「だ、大丈夫か……?」

 

 呆然としているユイナに一郎は声をかけた。

 そして、見ては失礼だとは思うが……、その少女の裸からなかなか眼を離せない……。

 

 褐色エルフという言葉の通り、そのエルフ少女の肌は美しい褐色の肌をしていた。

 顔には幼さが残っている可愛らしい顔立ちだが、身体は完全な大人だ。

 控えめな胸は、かえって柔らかな曲線を際立たせていた。髪も陰毛も一郎と同じ黒色。身体全体はほっそりとしているのに、すらりとした体躯に似合わず、腰まわりには艶めいた肉付きがあった。

 

 その少女が震える身体で立ちあがった。

 ついさっきまで、ユイナが魔道で身体を拘束されていたのはわかっていた。術者の死によって、魔力の金縛りがようやく解けたのだ。

 だが、まだ後手の手枷はそのままだ。多分、死んでいるエル族の男たちの誰かが鍵を持っているだろう。

 そのユイナの身体がぐらりと前屈みになる。

 

「おい、大丈夫か──」

 

 慌てて一郎は、ユイナに駆け寄って、彼女の身体を支えようとした。

 

「さっきから、なにじろじろと見てんのよ──。触るんじゃない、人間──」

 

 だが、いきなりその少女から顔面に向かって蹴りが飛んできた。

 眼の前で火花が弾け、それでなにもわからなくなった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。