※この作品はR-18です。

【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】   作:ドン・ドナシアン

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154 『声に囚われて』

『そのまま真っ直ぐに歩いて、一番人が集まっているところに行け』

 

 突然、頭の奥で声が響いた。

 耳ではない。思考の中に直接落とし込まれるような感覚だった。

 

 エリカははっとして足を止めた。

 気づけば、石畳の広場に立っていた。

 どこだ──と思うより早く、記憶が自動的に補われる。

 ここはハロンドール王都ハロルドの中心にある噴水広場だ。

 

 昼の陽射しが白く眩しく、あちこちで露店の幌がはためいている。

 香ばしい匂い、果実酒の甘い香り、商人の呼び声。

 吟遊詩人の竪琴が遠くで鳴り、笑い声や演説の声が波のように重なっていた。

 人間族だけでなく、獣人やエルフ、ドワーフ、北方の民族衣装を着た旅人までもが入り混じり、王都らしい雑多な活気を放っている。

 だが、その喧噪の中で、エリカはひとりだった。

 

 どうして、ここに──?

 ついさっきまで、どこで何をしていたのか、まるで思い出せない。

 誰かと会っていたような気もするが、それも霧のように掻き消えている。

 

 新米とはいえ、エリカは冒険者として王都を拠点に活動している。

 冒険者等級は〈C〉(チャーリー)で、単独活動者としては中堅に入る。

 依頼の途中で気を失うようなことも、記憶を奪われるような魔道にかかることも、普通ならあり得ない。

 それなのに、いまの身体には、誰かに触れられたような、内側から力を抜かれたような怠さが残っていた。

 

 胸の奥がひやりと冷たくなる。

 ──まさか、誰かに記憶と身体を操作されたのではないか。

 そう思うと、急に呼吸が浅くなった。

 

 ただ、身体が異様に重い。

 四肢の先にまで倦怠が広がり、胸の鼓動がわずかに早い。

 まるで、ついさっきまで激しい行為の後であるかのような感覚だった。

 肌には薄く汗が残り、そこへ昼の風が流れ込む。

 下腹の奥に、微かな湿り気。

 意識がそちらへ向いた途端、脚の間を伝うような生温い感触が走った。

 尿でも漏らしたような錯覚に、思わず両腿をすり合わせる。

 

 どうして、こんな……。

 記憶を探ろうとするたび、頭の奥でざらりと靄がかかり、思考が途切れた。

 誰の命令でここに立っているのかもわからない。

 だが、逃げようとしても脚が動かない。

 逃げられない、逆らえないという確信だけが、なぜかはっきりと刻まれている。

 

「うわっ」

 

 ふと、視線を落としたとき、エリカは自分の姿に驚いて、思わず声をあげてしまった。

 太腿の半ばまでの黒い外被を羽織ってはいるが、その下は完全な素肌のままだ。

 外気が脚を撫でるたびに、冷たい感触が直接肌を伝ってくる。

 しかも、外被の前を留めていたボタンは、ひとつ残らず引き千切られていた。

 思わず両手で布の合わせを強く押さえ、肩をすくめて身体を小さくした。

 でも、なぜ、こんな格好で……。

 胸の奥でざわめきが広がる。

 

『早く、行け。あの噴水のところがいいだろう。そこに集合だ』

 

 また、声がした。

 今度はより深く、意識の内側を撫でるように響く。

 耳ではなく、脳の奥へ直接、命令が落ちてくるような感覚だった。

 エリカは反射的にあたりを見回した。

 しかし、誰も彼女を見ていない。

 

『早くした方がいいぞ。さもないと、股に塗り込んだ痒み剤はいつまでもそのままだ』

 

 その瞬間、下腹の奥でなにかが弾けた。

 熱とも冷たさともつかぬ刺激が、股の根から全身へ突き上がる。

 皮膚の内側を焼くような痒みが、脈を打つたびに鋭さを増していく。

 息を呑む間もなく、脚の付け根から腰、背へと一気に駆け上がった。

 

「う……っ、なに……これ……」

 

 反射的に右手を伸ばした。

 だが、唖然となった。突如として、その右手が硬直して動かなくなってしまったのだ。

 掻きたい。掻かないと狂いそうだ。

 けれど、手は途中で止まっている。

 肩から肘、肘から指先へと、見えない鎖を巻かれたように動かない。

 指先は宙を掻くだけで、一寸も股間に近づけなかった。

 

「動かない……どうして……」

 

 必死で動かそうとしても、腕は硬直したまま。

 その代わりに脚の方が勝手に動き、太腿同士が擦れ合う。

 擦るたびに、痒みが快感のように膨らみ、思考が乱れた。

 

『そうだ。そのまま擦っていろ。手では触れられないようにしてある。掻こうとすれば、身体が止まる。簡単な暗示だよ』

 

 男の声が笑いを含んで響いた。

 脳の奥に直接溶け込むような響きだった。

 ──暗示? 本当に?

 仕方なく、股間に伸ばしかけた手を戻す。今度は簡単に自由になった。

 信じられないと思いながら、もう一度、股間に近づけようと手を動かそうとする。

 だが、まったく同じだった。

 筋肉がいうことをきかず、まるで自分の身体ではなくなったかのように、その瞬間、腕が硬直する。

 

 全身に戦慄が走る。

 誰かが、自分の神経の一本一本まで握っている。

 そう理解したとき、エリカの胸に走ったのは恐怖だった。

 

「本当に……操られている……」

 

 唇が震える。

 しかし声は風に溶け、誰の耳にも届かない。

 だが、これで確信できたこともある。これだけの痒みがあるということは、おそらく、掻痒剤は塗られたばかりなのだと思う。

 それにもかかわらず、まったく記憶がないということは、やはり、なんらかの記憶操作をされていることは明白だ。

 しかも、「声」の主は、まだ近くにいる可能性が高いということだ。

 

『わかったと思うが、お前は俺の命令に逆らうことはできないということだ。お前の身体は、いまや俺の指先で動く』

 

 その声に、嗜虐の笑いが混じった。

 エリカは唇を噛み、必死に抗おうとした。

 だが脚は止まらず、擦り合わさる太腿の熱が、さらに痒みを煽っていく。

 羞恥と恐怖がないまぜになり、頭の奥が白くなった。

 

『ところで、いつまで止まったままでいる。早く、指示に従って動かないか。それとも、今度はその外被に触れないようにしてやろうか? こんな賑やかなところで、さぞや目立つだろうな』

 

 声の主がくすくすと笑う。

 

「歩く。歩くから」

 

 エリカはぞっとして、慌てて噴水に向かって、歩きだした。

 だが、さすがに緊張が身体を包む。

 これまでいたのは、噴水広場の端の樹木の陰、目立たない場所だった。だが、向かうのは広場の中央──最も人が集まる賑やかな一角で、多くの視線を浴びる場所だ。

 

 しかも、股の奥に、どうしようもない痒みが続いていた。

 耐えようとしても、波のように寄せては返す。

 呼吸のたびに脈が跳ね、そのたびに痒みが体の芯へと食い込んでくる。

 脚を少し動かすだけで、内腿に挟まれた布が擦れ、刺激が倍加する。

 息を止めても、逃げ場がない。

 

「くっ」

 

 気がつくと、エリカは喰いしばる歯から、小さな呻きを漏らしていた。

 全身はあっという間に汗にまみれている。

 

『そのまま歩け。噴水まで止まるなよ。──とまれば、腕の力が消滅して、裸をここで晒すことになるぞ』

 

 声が頭の奥で低く響いた。

 エリカは思わず、身体の前で布を合わせる手に力を入れる。

 この手を離せば、布は自然に開き、布の下の乳房も恥部も露出するのは明らかだ。

 声の言葉に、エリカの背筋がぞくりと震える。

 

 エリカは外被の合わせを両手で押さえ、できるだけ俯いて歩いた。

 噴水のある中央広場へと、群衆の間を縫うように進んでいく。

 昼の陽光の中で、行き交う人々の視線が痛かった。

 

 果実を売る娘が目を丸くし、行商人が振り返る。

 彼女の黒い外被の裾は風に揺れ、素足がちらりと覗く。

 汗ばんだ肌の白さが光を反射し、見る者の注意を奪っていた。

 

 ──見られてる。

 

 胸の奥で鼓動が速まる。

 羞恥が痒みと絡み合い、呼吸を浅くした。

 下腹の奥がじくじくと疼く。

 擦れる布の感触が、まるで意図的に仕組まれた罰のように思えた。

 

『いいぞ。そのまま歩け。目立っているが、邪魔はされないだろう。ただ、恥ずかしい格好の女が歩いていると思うだけだ』

 

 声が笑う。

 その笑いが脳の奥を撫で、痒みをさらに煽った。

 脚の震えが止まらない。

 歩くたびに太腿の付け根を汗が伝い、熱を帯びた空気が裾の下に入り込む。

 

 広場の中央が見えてきた。

 石畳の向こうで、水飛沫が光っている。

 だが、それが近づくほどに、周囲の視線が濃くなる気がした。

 すれ違う男女の目が、一瞬、彼女の身体のどこかに留まっては逸れていく。

 

 逃げ出したい。けれど、脚を止めるわけにはいかない。

 声の命令に従うしかない。

 噴水の水音が、ひどく遠くに感じられた。

 

 やっとの思いで辿り着いたころには、外被の裾の内側で汗が溜まり、太腿を伝って滴り落ちていた。

 心臓が痛いほどに打ち、視界がかすむ。

 股間を襲う掻痒感は、抜き差しならないものになっていた。

 エリカは噴水の横に立ちながら、脚を無意識に擦り合わせては、足踏みをする動きを繰り返した。

 

 そのとき、エリカは、噴水の反対側に自分と同じような女の姿を見つけた。

 黒い外被を前でしっかり押さえ、顔を上気させながらも、人の視線を避けるようにうつむいている。

 

 エリカは息を呑んだ。

 あの女を知っている──そう直感した。

 王軍騎士、シャングリア。

 美しいが男勝りなことで有名な女騎士で、いつも鎧に身を包み、剣を手放さない気丈な女だ。

 だが、いま目の前にいるのは、そんな彼女の面影を留めぬほどの姿だった。

 なぜ、あんな格好で……。

 

 次の瞬間、エリカは、自分がその名を知っている理由を思い出しかけた。

 確かに、この女をよく知っている。

 しかし、どうして知っているのか──その記憶が霞のように抜け落ちていた。

 

「シャングリア……?」

 

 思わず声をあげると、向こうも気づいたように顔を上げた。

 一瞬、呆然とした表情を浮かべ、それから目を見開く。

 

「……エリカか?」

 

 ふたりの視線が交わった。

 エリカは噴水を回り込み、駆け寄る。

 シャングリアもまた歩み寄ってきた。

 

「エリカだな? なあ、教えてくれ。どうして、わたしたちはここにいる? さっきから頭に響くこの声は誰だ? それに──お前は誰で、わたしは……誰なんだ?」

 

 まくしたてるような口調。

 その声には、混乱と恐怖が混じっていた。

 エリカは、彼女も自分と同じ状態なのだと悟る。

 自分の名を知りながら、記憶の根がごっそり抜け落ちているのだ。

 

「……ごめん、わたしもよくわからないの。気づいたらここにいたの」

 

 そう答えると、シャングリアの表情に失望が広がった。

 そして、エリカはもうひとつの共通点に気づく。

 シャングリアの太腿が小刻みに擦り合わされている。

 息が荒く、額には汗が浮かんでいた。

 

『この女も、同じ痒みに苦しめられている……?』

 

 考えた瞬間、再び頭の奥で声が響いた。

 

『よし、そろそろ始めようか。遊びの時間だ。最初の試練は──お互いの股をいじり合うことだ』

 

 脳を撫でるような低い声。

 エリカとシャングリアは同時に顔を上げた。

 

『言ったはずだな。ふたりに襲っているその痒み、自分の手では掻けない。だが、相手の手なら可能だ。掻いてもらえば、ひとつの昇天で痒みは消える。……ただし、それはこの場所でだけだ。ここ、王都の噴水広場でな』

 

 声の主が愉快そうに笑った。

 

『幸運を祈る。人前での快楽は、なかなか味があるぞ』

 

「え……え?」

 

「な、なにを言っているの……?」

 

 ふたりの声が重なった。

 だが、答えは返らない。代わりに、また冷たいささやきが落ちてくる。

 

『早く始めろ。もう何人か、お前たちを見ている。騒ぎになる前に済ませたほうがいいぞ。……忘れるな。お前たちの身体は、俺の手の中だ。思考も、筋肉も、全部な』

 

 ぞくりとした。

 その「声」は、どこからともなく響きながら、確かにふたりの身体を支配していた。

 

 逃げようと足に力を込める。

 だが、脚が動かない。

 凍りついたように硬直し、噴水の周りを一歩も離れられなかった。

 ただ、小さく移動することだけはできる。

 

 隣のシャングリアも、顔を真っ赤にしてうつむき、腿をきつく閉じている。

 痒みに震えながらも、逃げ出せないでいる様子だった。

 

 本当に……操られている。

 

 エリカの背を冷たい汗が伝った。

 

「と、とにかく、シャングリア。どこかに──この声の主がいるはず。探さないと」

 

「さ、探すって……こんな状況で、どうやって……」

 

 シャングリアは声を震わせた。

 だが、ふたりともわかっていた。

 見られている。

 どこかで、確かに見られているのだ。

 

 とにかく、エリカはシャングリアに目配せしながら、懸命に周囲を見回した。

 声が頭に直接響くということは、何らかの魔道が使われているはずだ。

 ならば、その魔道を操る者が、どこかから自分たちを見ている。

 相手を見つけられれば、この屈辱的な状況から抜け出す手がかりが得られるかもしれない。

 

 しかし、痒みはすでに限界に近かった。

 気づかれぬように、脚を擦り合わせたり、小刻みに足踏みをしてみる。

 だが、そんなもので紛れるはずもない。

 擦るたびに、刺激はかえって鋭くなり、痒みは熱のように全身を蝕んでいく。

 

 息を詰めても、どうにもならなかった。

 シャングリアも同じように腿を震わせ、顔を真っ赤にしている。

 ふたりとも追い詰められていくのが分かった。

 それでも周囲を探り続けたが、広場のどこを見ても、あの声の主らしき者はいない。

 

『きょろきょろするなよ、エリカ……』

 

 唐突に、声が頭の中でささやいた。

 その響きが、いつになく愉快そうだった。

 

『そうだ。忘れていたが、お前には、我慢比べで負けた“罰”があったな。そもそも、それが目的だった。……贈り物を追加してやろう』

 

「え……罰……? 我慢比べ?」

 

 思わず呟いた瞬間、腹の奥がぎゅっと縮むような感覚に襲われた。

 次の瞬間、猛烈な便意がこみ上げてくる。

 痒みに覆われていた下腹が、今度は別の苦痛で支配された。

 

「……う、ううっ……そんな……」

 

 前を押さえていた手が自然に下腹へと滑り、腰が勝手に折れた。

 腹の底が熱く脈打ち、肛門の奥が痙攣している。

 いまにも、出そうだった。

 

 エリカは必死でお尻に力を込めた。

 汗が背中を流れ、喉の奥が乾く。

 なぜこんなことに……。

 身体の奥で、羞恥と恐怖がせめぎ合い、涙がこみ上げてきた。

 

「いや……やめて……こんなの……」

 

 掠れた声が洩れる。

 だが、その訴えに答える者はいない。

 

『ほら、エリカ。お前から誘え。ここでふたりで“気”をやれば、この広場から解放してやる。それとも、ここで糞をぶちまけるか? ──ここで快感を極めて絶頂するのと、糞をするのと、どっちが恥ずかしい?』

 

 嗜虐的な声が、脳の奥底で笑った。

 その笑いに、全身が震える。

 羞恥の熱と便意の波が同時に押し寄せ、エリカは膝を折りそうになった。

 

 


 

 

『ほら、エリカ。お前から誘え。ここでふたりで“気”をやれば、この広場から解放してやる。それとも、ここで糞をぶちまけるか? ──ここで快感を極めて絶頂するのと、糞をするのと、どっちが恥ずかしい?』

 

 シャングリアの頭の奥に、冷たく湿ったような男の声が響いた。

 そのあと、ぞっとするほど愉悦に満ちた笑い声が続く。

 

 ──くそ?

 まさか……。

 

 シャングリアは慌ててエリカを振り返った。

 さっきまで汗に濡れて息を荒くしていた顔が、いまは真っ青に変わっている。

 首筋の肌が粟立ち、全身の血の気が引いていた。

 

「……お、お願い、シャングリア……。股間をいじって……。わ、わたし、このままじゃあ……」

 

 掠れた声が洩れた。

 目の焦点が合わず、唇が小刻みに震えている。

 シャングリアは息を呑んだ。

 言葉がなくても理解できた。

 

 この“声”は、エリカに痒みだけでなく、便意まで与えている。

 それも、女の尊厳を容赦なく踏みにじるほどの強烈なものだ。

 気まぐれに与え、弄ぶ──。

 そんな悪意が、声の奥に透けていた。

 

 背中を氷で撫でられたような恐怖が走る。

 自分も次の瞬間に同じような目に遭うかもしれない。

 

「……わ、わかった。や、やる。で、でも、どうしたら……」

 

 震える唇で返すと、エリカが小声で言った。

 

「ふ、噴水にす、座りましょう……。水に向かえば、前からは見えにくいわ……」

 

 なるほど──それしかない。

 ふたりは足元を確かめながら噴水へと進んだ。

 石畳の縁に腰を下ろす。背筋を縮め、水音に自分たちの息を紛らせるようにして。

 

 噴水の水しぶきが頬にかかる。

 陽光が反射して眩しく、ただでさえ高ぶった心拍がさらに速まった。

 

 エリカは堪えるように膝を閉じ、指先を外被の中へと滑らせた。

 腰が微かに震えている。

 

「……こ、声を出さないでね……シャングリア……」

 

「……わ、わかった……頑張る……」

 

 シャングリアは頷き、唇を噛みしめながらエリカの外被の奥に手を入れた。

 

『痒い場所を、直接いじるんだぞ。さもないと効果はないぞ』

 

 声がまた響いた。

 愉快そうに、まるで観察者が笑っているようだった。

 

 エリカの太腿の内側に触れると、そこは火のように熱く湿っていた。

 軽くなぞっただけで、エリカがびくりと跳ねる。

 

「んんっ……」

 

「ううっ……」

 

 お互いの指先が、同じ衝動に導かれるように動く。

 熱く濡れた秘部を撫でるたび、空気が震え、互いの呼吸が絡み合った。

 恥ずかしい、けれど──身体が勝手に求めている。

 

 擦れた音、肌の触れ合う微かな水音。

 羞恥の中で、快感が徐々に痒みを上書きしていく。

 

 そのとき、シャングリアの指先に異質なものが触れた。

 

 ──金属?

 

 冷たく硬い感触が、肉の中で僅かに光った。

 何かの輪。

 まるで呪具のように、そこに嵌められている。

 確かめようとした瞬間、エリカが突如、腰を反らせた。

 

「あああっ──」

 

 甲高い声が響き渡る。

 シャングリアは慌てて手を抜き、彼女の口を押さえた。

 

「ば、馬鹿、エリカ──」

 

 遅かった。

 周囲の視線が、一斉にふたりに注がれる。

 人々が振り返り、指を差す者もいた。

 

『くくくっ……いいぞ。もっと見せてやれ。恥ずかしがる顔が実にいい』

 

 頭の奥に、あの男の嗜虐的な笑い声が響く。

 怒りと羞恥が同時に込み上げ、全身が震えた。

 

「と、とにかく場所を変えよう……」

 

 シャングリアはエリカを支え、外被の裾を押さえながら立ち上がった。

 群衆の視線を避けるように、屋台の裏手へと急ぐ。

 焼いた肉の匂い、果実酒の甘い香り──人々の喧噪が近い。

 音も視線もここなら紛れるはずだ。

 

「……ここなら……」

 

 互いに頷き、立ったまま、再び相手の股間に手を伸ばした。

 もう羞恥を考える余裕はない。

 

「あっ……」

 

「んっ……」

 

 同時に声が洩れた。

 シャングリアの指はエリカの股間を揉み動かし、エリカの指はシャングリアの肉芽をくりくりと擦り揺らす。

 

 猛烈な痒みが消え、代わりに峻烈な快感が全身を駆け抜けた。

 シャングリアは歯を噛みしめる。

 股間を擦り合うことで得られる快感は、想像をはるかに超えていた。

 

 だが、はっとした。

 周囲の男たちの何人かが、シャングリアとエリカの痴態に気づいたのだ。

 はっきりとした驚きの視線が突き刺さる。

 

 やめようとした。

 だが、すでに快楽の波は引き返せないところまで来ていた。

 

 もう少し──。

 ここでやめれば、頭がおかしくなる。

 そう思った。

 それほどまでに、気持ちがいい。

 どうなってもいい、とさえ思えた。

 

 シャングリアはエリカの股を擦る手を止めなかった。

 むしろ、腹を括り、閉じていた脚から力を抜いて、わずかに開いた。

 その瞬間、快感が一気に増幅した。

 

「ふんん……」

 

 大きな鼻息が洩れる。

 猛烈な快感が波のように押し寄せてきた。

 

「エ、エリカ……」

 

 シャングリアは思わず名をささやいた。

 痒みが癒され、代わりに甘美な快感が身体の芯に広がっていく。

 この感覚を、どう表現していいのかわからなかった。

 

 ──見られている。

 

 エリカは必死に目を閉じているが、シャングリアには複数の視線をはっきりと感じ取れた。

 羞恥が背筋を走り抜ける。

 けれど、もう指を止められないし、止めたくもなかった。

 身体が小刻みに震え始める。

 

 もうすぐ……。

 シャングリアは確信した。

 

 一方で、エリカの身体は先ほどから痙攣のような震えを続けている。

 

「んんふ……うううっ……」

 

 またもや、エリカが大きな声をあげた。

 少しくらい我慢してくれと内心で思ったが、その反応が女の絶頂に達した証拠であることは明白だった。

 

 自分も、いかなければ──。

 その思いが強くなる。

 

 がくりと膝を曲げたエリカの指を追うように、シャングリアも腰を屈めた。

 

「んんっ……んんっ……」

 

 シャングリアは必死に唇を噛み、声を飲み込んだ。

 そして、ついに絶頂を迎えた。

 

 気がつくと、あれほど襲っていた股間の痒みが、跡形もなく消えていた。

 ──絶頂すれば痒みが消える。

 あの「声」の言葉は、確かに本当だったのだ。

 

『よし──今度は運動の時間だ。止まらずに走れ。捕まれば犯されるぞ』

 

 その声を合図にするように、周囲のざわめきが変わった。

 怒号、叫び、笑い声。

 

「おいっ、見ろよ──」

 

 誰かの声。

 群衆がどっと動く。

 見上げると、男たちの視線が一斉にこちらに向かっていた。

 

 エリカの外被が、風に溶けるように消えていく。

 次の瞬間、シャングリアは息を呑んだ。

 自分も裸だ。

 ふたりは、噴水の裏手で抱き合うようにして、全裸のまま立っていた。

 

「よし、俺がもらう──」

 

「いや、俺だ」

 

「早い者勝ちにしようぜ」

 

 男たちの声が重なり、空気が狂気に染まる。

 目の焦点が濁っている。

 常軌を逸していた。

 

 ──こいつらも操られている。

 

 その確信と同時に、恐怖が脊髄を走った。

 

「逃げるよ、エリカ──」

 

 シャングリアは手を掴み、駆け出した。

 だが、男たちの腕が道を塞ぐ。

 

「どけええっ」

 

 叫びとともに、前の男を蹴り飛ばす。

 倒れた男が数人を巻き込み、道が一瞬だけ開いた。

 

「エリカ──」

 

 振り返る。

 エリカはうずくまり、苦しそうに腹を押さえていた。

 

「だ、だめえっ……」

 

 絶望と羞恥が混ざり合ったエリカの悲鳴──。

 シャングリアは焦って駆け寄ろうとした。

 

 その瞬間、世界が止まった。

 

 水音が途切れ、人々のざわめきも消える。

 音が、風が、すべて凍りついたかのように動きを失った。

 目の前の景色が、ゆっくりと薄れていく。

 

 石畳が溶け、噴水が霞み、空までもが白の中に吸い込まれていく。

 境界が消え、遠近も天地も意味を失った。

 

 ただ、白だけが残る。

 輪郭も影も奪い去られ、すべてが柔らかな光の中に溶けていった。

 

 すべてが……音もなく崩れ去っていく……。

 

 シャングリア自身も……。

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