【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
『そのまま真っ直ぐに歩いて、一番人が集まっているところに行け』
突然、頭の奥で声が響いた。
耳ではない。思考の中に直接落とし込まれるような感覚だった。
エリカははっとして足を止めた。
気づけば、石畳の広場に立っていた。
どこだ──と思うより早く、記憶が自動的に補われる。
ここはハロンドール王都ハロルドの中心にある噴水広場だ。
昼の陽射しが白く眩しく、あちこちで露店の幌がはためいている。
香ばしい匂い、果実酒の甘い香り、商人の呼び声。
吟遊詩人の竪琴が遠くで鳴り、笑い声や演説の声が波のように重なっていた。
人間族だけでなく、獣人やエルフ、ドワーフ、北方の民族衣装を着た旅人までもが入り混じり、王都らしい雑多な活気を放っている。
だが、その喧噪の中で、エリカはひとりだった。
どうして、ここに──?
ついさっきまで、どこで何をしていたのか、まるで思い出せない。
誰かと会っていたような気もするが、それも霧のように掻き消えている。
新米とはいえ、エリカは冒険者として王都を拠点に活動している。
冒険者等級は
依頼の途中で気を失うようなことも、記憶を奪われるような魔道にかかることも、普通ならあり得ない。
それなのに、いまの身体には、誰かに触れられたような、内側から力を抜かれたような怠さが残っていた。
胸の奥がひやりと冷たくなる。
──まさか、誰かに記憶と身体を操作されたのではないか。
そう思うと、急に呼吸が浅くなった。
ただ、身体が異様に重い。
四肢の先にまで倦怠が広がり、胸の鼓動がわずかに早い。
まるで、ついさっきまで激しい行為の後であるかのような感覚だった。
肌には薄く汗が残り、そこへ昼の風が流れ込む。
下腹の奥に、微かな湿り気。
意識がそちらへ向いた途端、脚の間を伝うような生温い感触が走った。
尿でも漏らしたような錯覚に、思わず両腿をすり合わせる。
どうして、こんな……。
記憶を探ろうとするたび、頭の奥でざらりと靄がかかり、思考が途切れた。
誰の命令でここに立っているのかもわからない。
だが、逃げようとしても脚が動かない。
逃げられない、逆らえないという確信だけが、なぜかはっきりと刻まれている。
「うわっ」
ふと、視線を落としたとき、エリカは自分の姿に驚いて、思わず声をあげてしまった。
太腿の半ばまでの黒い外被を羽織ってはいるが、その下は完全な素肌のままだ。
外気が脚を撫でるたびに、冷たい感触が直接肌を伝ってくる。
しかも、外被の前を留めていたボタンは、ひとつ残らず引き千切られていた。
思わず両手で布の合わせを強く押さえ、肩をすくめて身体を小さくした。
でも、なぜ、こんな格好で……。
胸の奥でざわめきが広がる。
『早く、行け。あの噴水のところがいいだろう。そこに集合だ』
また、声がした。
今度はより深く、意識の内側を撫でるように響く。
耳ではなく、脳の奥へ直接、命令が落ちてくるような感覚だった。
エリカは反射的にあたりを見回した。
しかし、誰も彼女を見ていない。
『早くした方がいいぞ。さもないと、股に塗り込んだ痒み剤はいつまでもそのままだ』
その瞬間、下腹の奥でなにかが弾けた。
熱とも冷たさともつかぬ刺激が、股の根から全身へ突き上がる。
皮膚の内側を焼くような痒みが、脈を打つたびに鋭さを増していく。
息を呑む間もなく、脚の付け根から腰、背へと一気に駆け上がった。
「う……っ、なに……これ……」
反射的に右手を伸ばした。
だが、唖然となった。突如として、その右手が硬直して動かなくなってしまったのだ。
掻きたい。掻かないと狂いそうだ。
けれど、手は途中で止まっている。
肩から肘、肘から指先へと、見えない鎖を巻かれたように動かない。
指先は宙を掻くだけで、一寸も股間に近づけなかった。
「動かない……どうして……」
必死で動かそうとしても、腕は硬直したまま。
その代わりに脚の方が勝手に動き、太腿同士が擦れ合う。
擦るたびに、痒みが快感のように膨らみ、思考が乱れた。
『そうだ。そのまま擦っていろ。手では触れられないようにしてある。掻こうとすれば、身体が止まる。簡単な暗示だよ』
男の声が笑いを含んで響いた。
脳の奥に直接溶け込むような響きだった。
──暗示? 本当に?
仕方なく、股間に伸ばしかけた手を戻す。今度は簡単に自由になった。
信じられないと思いながら、もう一度、股間に近づけようと手を動かそうとする。
だが、まったく同じだった。
筋肉がいうことをきかず、まるで自分の身体ではなくなったかのように、その瞬間、腕が硬直する。
全身に戦慄が走る。
誰かが、自分の神経の一本一本まで握っている。
そう理解したとき、エリカの胸に走ったのは恐怖だった。
「本当に……操られている……」
唇が震える。
しかし声は風に溶け、誰の耳にも届かない。
だが、これで確信できたこともある。これだけの痒みがあるということは、おそらく、掻痒剤は塗られたばかりなのだと思う。
それにもかかわらず、まったく記憶がないということは、やはり、なんらかの記憶操作をされていることは明白だ。
しかも、「声」の主は、まだ近くにいる可能性が高いということだ。
『わかったと思うが、お前は俺の命令に逆らうことはできないということだ。お前の身体は、いまや俺の指先で動く』
その声に、嗜虐の笑いが混じった。
エリカは唇を噛み、必死に抗おうとした。
だが脚は止まらず、擦り合わさる太腿の熱が、さらに痒みを煽っていく。
羞恥と恐怖がないまぜになり、頭の奥が白くなった。
『ところで、いつまで止まったままでいる。早く、指示に従って動かないか。それとも、今度はその外被に触れないようにしてやろうか? こんな賑やかなところで、さぞや目立つだろうな』
声の主がくすくすと笑う。
「歩く。歩くから」
エリカはぞっとして、慌てて噴水に向かって、歩きだした。
だが、さすがに緊張が身体を包む。
これまでいたのは、噴水広場の端の樹木の陰、目立たない場所だった。だが、向かうのは広場の中央──最も人が集まる賑やかな一角で、多くの視線を浴びる場所だ。
しかも、股の奥に、どうしようもない痒みが続いていた。
耐えようとしても、波のように寄せては返す。
呼吸のたびに脈が跳ね、そのたびに痒みが体の芯へと食い込んでくる。
脚を少し動かすだけで、内腿に挟まれた布が擦れ、刺激が倍加する。
息を止めても、逃げ場がない。
「くっ」
気がつくと、エリカは喰いしばる歯から、小さな呻きを漏らしていた。
全身はあっという間に汗にまみれている。
『そのまま歩け。噴水まで止まるなよ。──とまれば、腕の力が消滅して、裸をここで晒すことになるぞ』
声が頭の奥で低く響いた。
エリカは思わず、身体の前で布を合わせる手に力を入れる。
この手を離せば、布は自然に開き、布の下の乳房も恥部も露出するのは明らかだ。
声の言葉に、エリカの背筋がぞくりと震える。
エリカは外被の合わせを両手で押さえ、できるだけ俯いて歩いた。
噴水のある中央広場へと、群衆の間を縫うように進んでいく。
昼の陽光の中で、行き交う人々の視線が痛かった。
果実を売る娘が目を丸くし、行商人が振り返る。
彼女の黒い外被の裾は風に揺れ、素足がちらりと覗く。
汗ばんだ肌の白さが光を反射し、見る者の注意を奪っていた。
──見られてる。
胸の奥で鼓動が速まる。
羞恥が痒みと絡み合い、呼吸を浅くした。
下腹の奥がじくじくと疼く。
擦れる布の感触が、まるで意図的に仕組まれた罰のように思えた。
『いいぞ。そのまま歩け。目立っているが、邪魔はされないだろう。ただ、恥ずかしい格好の女が歩いていると思うだけだ』
声が笑う。
その笑いが脳の奥を撫で、痒みをさらに煽った。
脚の震えが止まらない。
歩くたびに太腿の付け根を汗が伝い、熱を帯びた空気が裾の下に入り込む。
広場の中央が見えてきた。
石畳の向こうで、水飛沫が光っている。
だが、それが近づくほどに、周囲の視線が濃くなる気がした。
すれ違う男女の目が、一瞬、彼女の身体のどこかに留まっては逸れていく。
逃げ出したい。けれど、脚を止めるわけにはいかない。
声の命令に従うしかない。
噴水の水音が、ひどく遠くに感じられた。
やっとの思いで辿り着いたころには、外被の裾の内側で汗が溜まり、太腿を伝って滴り落ちていた。
心臓が痛いほどに打ち、視界がかすむ。
股間を襲う掻痒感は、抜き差しならないものになっていた。
エリカは噴水の横に立ちながら、脚を無意識に擦り合わせては、足踏みをする動きを繰り返した。
そのとき、エリカは、噴水の反対側に自分と同じような女の姿を見つけた。
黒い外被を前でしっかり押さえ、顔を上気させながらも、人の視線を避けるようにうつむいている。
エリカは息を呑んだ。
あの女を知っている──そう直感した。
王軍騎士、シャングリア。
美しいが男勝りなことで有名な女騎士で、いつも鎧に身を包み、剣を手放さない気丈な女だ。
だが、いま目の前にいるのは、そんな彼女の面影を留めぬほどの姿だった。
なぜ、あんな格好で……。
次の瞬間、エリカは、自分がその名を知っている理由を思い出しかけた。
確かに、この女をよく知っている。
しかし、どうして知っているのか──その記憶が霞のように抜け落ちていた。
「シャングリア……?」
思わず声をあげると、向こうも気づいたように顔を上げた。
一瞬、呆然とした表情を浮かべ、それから目を見開く。
「……エリカか?」
ふたりの視線が交わった。
エリカは噴水を回り込み、駆け寄る。
シャングリアもまた歩み寄ってきた。
「エリカだな? なあ、教えてくれ。どうして、わたしたちはここにいる? さっきから頭に響くこの声は誰だ? それに──お前は誰で、わたしは……誰なんだ?」
まくしたてるような口調。
その声には、混乱と恐怖が混じっていた。
エリカは、彼女も自分と同じ状態なのだと悟る。
自分の名を知りながら、記憶の根がごっそり抜け落ちているのだ。
「……ごめん、わたしもよくわからないの。気づいたらここにいたの」
そう答えると、シャングリアの表情に失望が広がった。
そして、エリカはもうひとつの共通点に気づく。
シャングリアの太腿が小刻みに擦り合わされている。
息が荒く、額には汗が浮かんでいた。
『この女も、同じ痒みに苦しめられている……?』
考えた瞬間、再び頭の奥で声が響いた。
『よし、そろそろ始めようか。遊びの時間だ。最初の試練は──お互いの股をいじり合うことだ』
脳を撫でるような低い声。
エリカとシャングリアは同時に顔を上げた。
『言ったはずだな。ふたりに襲っているその痒み、自分の手では掻けない。だが、相手の手なら可能だ。掻いてもらえば、ひとつの昇天で痒みは消える。……ただし、それはこの場所でだけだ。ここ、王都の噴水広場でな』
声の主が愉快そうに笑った。
『幸運を祈る。人前での快楽は、なかなか味があるぞ』
「え……え?」
「な、なにを言っているの……?」
ふたりの声が重なった。
だが、答えは返らない。代わりに、また冷たいささやきが落ちてくる。
『早く始めろ。もう何人か、お前たちを見ている。騒ぎになる前に済ませたほうがいいぞ。……忘れるな。お前たちの身体は、俺の手の中だ。思考も、筋肉も、全部な』
ぞくりとした。
その「声」は、どこからともなく響きながら、確かにふたりの身体を支配していた。
逃げようと足に力を込める。
だが、脚が動かない。
凍りついたように硬直し、噴水の周りを一歩も離れられなかった。
ただ、小さく移動することだけはできる。
隣のシャングリアも、顔を真っ赤にしてうつむき、腿をきつく閉じている。
痒みに震えながらも、逃げ出せないでいる様子だった。
本当に……操られている。
エリカの背を冷たい汗が伝った。
「と、とにかく、シャングリア。どこかに──この声の主がいるはず。探さないと」
「さ、探すって……こんな状況で、どうやって……」
シャングリアは声を震わせた。
だが、ふたりともわかっていた。
見られている。
どこかで、確かに見られているのだ。
とにかく、エリカはシャングリアに目配せしながら、懸命に周囲を見回した。
声が頭に直接響くということは、何らかの魔道が使われているはずだ。
ならば、その魔道を操る者が、どこかから自分たちを見ている。
相手を見つけられれば、この屈辱的な状況から抜け出す手がかりが得られるかもしれない。
しかし、痒みはすでに限界に近かった。
気づかれぬように、脚を擦り合わせたり、小刻みに足踏みをしてみる。
だが、そんなもので紛れるはずもない。
擦るたびに、刺激はかえって鋭くなり、痒みは熱のように全身を蝕んでいく。
息を詰めても、どうにもならなかった。
シャングリアも同じように腿を震わせ、顔を真っ赤にしている。
ふたりとも追い詰められていくのが分かった。
それでも周囲を探り続けたが、広場のどこを見ても、あの声の主らしき者はいない。
『きょろきょろするなよ、エリカ……』
唐突に、声が頭の中でささやいた。
その響きが、いつになく愉快そうだった。
『そうだ。忘れていたが、お前には、我慢比べで負けた“罰”があったな。そもそも、それが目的だった。……贈り物を追加してやろう』
「え……罰……? 我慢比べ?」
思わず呟いた瞬間、腹の奥がぎゅっと縮むような感覚に襲われた。
次の瞬間、猛烈な便意がこみ上げてくる。
痒みに覆われていた下腹が、今度は別の苦痛で支配された。
「……う、ううっ……そんな……」
前を押さえていた手が自然に下腹へと滑り、腰が勝手に折れた。
腹の底が熱く脈打ち、肛門の奥が痙攣している。
いまにも、出そうだった。
エリカは必死でお尻に力を込めた。
汗が背中を流れ、喉の奥が乾く。
なぜこんなことに……。
身体の奥で、羞恥と恐怖がせめぎ合い、涙がこみ上げてきた。
「いや……やめて……こんなの……」
掠れた声が洩れる。
だが、その訴えに答える者はいない。
『ほら、エリカ。お前から誘え。ここでふたりで“気”をやれば、この広場から解放してやる。それとも、ここで糞をぶちまけるか? ──ここで快感を極めて絶頂するのと、糞をするのと、どっちが恥ずかしい?』
嗜虐的な声が、脳の奥底で笑った。
その笑いに、全身が震える。
羞恥の熱と便意の波が同時に押し寄せ、エリカは膝を折りそうになった。
『ほら、エリカ。お前から誘え。ここでふたりで“気”をやれば、この広場から解放してやる。それとも、ここで糞をぶちまけるか? ──ここで快感を極めて絶頂するのと、糞をするのと、どっちが恥ずかしい?』
シャングリアの頭の奥に、冷たく湿ったような男の声が響いた。
そのあと、ぞっとするほど愉悦に満ちた笑い声が続く。
──くそ?
まさか……。
シャングリアは慌ててエリカを振り返った。
さっきまで汗に濡れて息を荒くしていた顔が、いまは真っ青に変わっている。
首筋の肌が粟立ち、全身の血の気が引いていた。
「……お、お願い、シャングリア……。股間をいじって……。わ、わたし、このままじゃあ……」
掠れた声が洩れた。
目の焦点が合わず、唇が小刻みに震えている。
シャングリアは息を呑んだ。
言葉がなくても理解できた。
この“声”は、エリカに痒みだけでなく、便意まで与えている。
それも、女の尊厳を容赦なく踏みにじるほどの強烈なものだ。
気まぐれに与え、弄ぶ──。
そんな悪意が、声の奥に透けていた。
背中を氷で撫でられたような恐怖が走る。
自分も次の瞬間に同じような目に遭うかもしれない。
「……わ、わかった。や、やる。で、でも、どうしたら……」
震える唇で返すと、エリカが小声で言った。
「ふ、噴水にす、座りましょう……。水に向かえば、前からは見えにくいわ……」
なるほど──それしかない。
ふたりは足元を確かめながら噴水へと進んだ。
石畳の縁に腰を下ろす。背筋を縮め、水音に自分たちの息を紛らせるようにして。
噴水の水しぶきが頬にかかる。
陽光が反射して眩しく、ただでさえ高ぶった心拍がさらに速まった。
エリカは堪えるように膝を閉じ、指先を外被の中へと滑らせた。
腰が微かに震えている。
「……こ、声を出さないでね……シャングリア……」
「……わ、わかった……頑張る……」
シャングリアは頷き、唇を噛みしめながらエリカの外被の奥に手を入れた。
『痒い場所を、直接いじるんだぞ。さもないと効果はないぞ』
声がまた響いた。
愉快そうに、まるで観察者が笑っているようだった。
エリカの太腿の内側に触れると、そこは火のように熱く湿っていた。
軽くなぞっただけで、エリカがびくりと跳ねる。
「んんっ……」
「ううっ……」
お互いの指先が、同じ衝動に導かれるように動く。
熱く濡れた秘部を撫でるたび、空気が震え、互いの呼吸が絡み合った。
恥ずかしい、けれど──身体が勝手に求めている。
擦れた音、肌の触れ合う微かな水音。
羞恥の中で、快感が徐々に痒みを上書きしていく。
そのとき、シャングリアの指先に異質なものが触れた。
──金属?
冷たく硬い感触が、肉の中で僅かに光った。
何かの輪。
まるで呪具のように、そこに嵌められている。
確かめようとした瞬間、エリカが突如、腰を反らせた。
「あああっ──」
甲高い声が響き渡る。
シャングリアは慌てて手を抜き、彼女の口を押さえた。
「ば、馬鹿、エリカ──」
遅かった。
周囲の視線が、一斉にふたりに注がれる。
人々が振り返り、指を差す者もいた。
『くくくっ……いいぞ。もっと見せてやれ。恥ずかしがる顔が実にいい』
頭の奥に、あの男の嗜虐的な笑い声が響く。
怒りと羞恥が同時に込み上げ、全身が震えた。
「と、とにかく場所を変えよう……」
シャングリアはエリカを支え、外被の裾を押さえながら立ち上がった。
群衆の視線を避けるように、屋台の裏手へと急ぐ。
焼いた肉の匂い、果実酒の甘い香り──人々の喧噪が近い。
音も視線もここなら紛れるはずだ。
「……ここなら……」
互いに頷き、立ったまま、再び相手の股間に手を伸ばした。
もう羞恥を考える余裕はない。
「あっ……」
「んっ……」
同時に声が洩れた。
シャングリアの指はエリカの股間を揉み動かし、エリカの指はシャングリアの肉芽をくりくりと擦り揺らす。
猛烈な痒みが消え、代わりに峻烈な快感が全身を駆け抜けた。
シャングリアは歯を噛みしめる。
股間を擦り合うことで得られる快感は、想像をはるかに超えていた。
だが、はっとした。
周囲の男たちの何人かが、シャングリアとエリカの痴態に気づいたのだ。
はっきりとした驚きの視線が突き刺さる。
やめようとした。
だが、すでに快楽の波は引き返せないところまで来ていた。
もう少し──。
ここでやめれば、頭がおかしくなる。
そう思った。
それほどまでに、気持ちがいい。
どうなってもいい、とさえ思えた。
シャングリアはエリカの股を擦る手を止めなかった。
むしろ、腹を括り、閉じていた脚から力を抜いて、わずかに開いた。
その瞬間、快感が一気に増幅した。
「ふんん……」
大きな鼻息が洩れる。
猛烈な快感が波のように押し寄せてきた。
「エ、エリカ……」
シャングリアは思わず名をささやいた。
痒みが癒され、代わりに甘美な快感が身体の芯に広がっていく。
この感覚を、どう表現していいのかわからなかった。
──見られている。
エリカは必死に目を閉じているが、シャングリアには複数の視線をはっきりと感じ取れた。
羞恥が背筋を走り抜ける。
けれど、もう指を止められないし、止めたくもなかった。
身体が小刻みに震え始める。
もうすぐ……。
シャングリアは確信した。
一方で、エリカの身体は先ほどから痙攣のような震えを続けている。
「んんふ……うううっ……」
またもや、エリカが大きな声をあげた。
少しくらい我慢してくれと内心で思ったが、その反応が女の絶頂に達した証拠であることは明白だった。
自分も、いかなければ──。
その思いが強くなる。
がくりと膝を曲げたエリカの指を追うように、シャングリアも腰を屈めた。
「んんっ……んんっ……」
シャングリアは必死に唇を噛み、声を飲み込んだ。
そして、ついに絶頂を迎えた。
気がつくと、あれほど襲っていた股間の痒みが、跡形もなく消えていた。
──絶頂すれば痒みが消える。
あの「声」の言葉は、確かに本当だったのだ。
『よし──今度は運動の時間だ。止まらずに走れ。捕まれば犯されるぞ』
その声を合図にするように、周囲のざわめきが変わった。
怒号、叫び、笑い声。
「おいっ、見ろよ──」
誰かの声。
群衆がどっと動く。
見上げると、男たちの視線が一斉にこちらに向かっていた。
エリカの外被が、風に溶けるように消えていく。
次の瞬間、シャングリアは息を呑んだ。
自分も裸だ。
ふたりは、噴水の裏手で抱き合うようにして、全裸のまま立っていた。
「よし、俺がもらう──」
「いや、俺だ」
「早い者勝ちにしようぜ」
男たちの声が重なり、空気が狂気に染まる。
目の焦点が濁っている。
常軌を逸していた。
──こいつらも操られている。
その確信と同時に、恐怖が脊髄を走った。
「逃げるよ、エリカ──」
シャングリアは手を掴み、駆け出した。
だが、男たちの腕が道を塞ぐ。
「どけええっ」
叫びとともに、前の男を蹴り飛ばす。
倒れた男が数人を巻き込み、道が一瞬だけ開いた。
「エリカ──」
振り返る。
エリカはうずくまり、苦しそうに腹を押さえていた。
「だ、だめえっ……」
絶望と羞恥が混ざり合ったエリカの悲鳴──。
シャングリアは焦って駆け寄ろうとした。
その瞬間、世界が止まった。
水音が途切れ、人々のざわめきも消える。
音が、風が、すべて凍りついたかのように動きを失った。
目の前の景色が、ゆっくりと薄れていく。
石畳が溶け、噴水が霞み、空までもが白の中に吸い込まれていく。
境界が消え、遠近も天地も意味を失った。
ただ、白だけが残る。
輪郭も影も奪い去られ、すべてが柔らかな光の中に溶けていった。
すべてが……音もなく崩れ去っていく……。
シャングリア自身も……。