【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「本当にやるんですか、ロウ様?」
王都の石畳の大通りを、一郎は、いつもの三人と並んで歩いていた。昼下がりの陽射しが石畳を照らしている。
すると、エリカが何度目かの同じ言葉を口にした。
「当たり前だ」
一郎はきっぱりと言った。
王都の中央にある大きな噴水広場を抜け、ギルド本部へと続く通りに入ったところだった。
この辺りまで来ると、行き交う人の姿も変わる。
鎧や武具を身につけた者が目立ち、冒険者らしき男や女の姿が急に増えた。
通り沿いには宿屋や食堂が並び、どこからか油の焦げた匂いや焼き肉の匂いが漂ってくる。
掛け声と笑い声が入り混じり、昼下がりの街は活気と熱気で満ちていた。
「でも……」
エリカはまだ不満そうだ。
一郎は、エリカのしつこさに、だんだんと呆れてきた。
そんなに、ミランダをレイプまがいに襲うというのは嫌なのだろうか。
別に自分がやられるわけじゃないのに……。
「しつこいなあ……。協力しないと言うなら、ミランダの代わりにおしめさせるぞ。しかも、浣腸しておしめの中に粗相させて、歩かせる……。いや、そういうのも愉しいかな? だったら、今日、ギルドを訪問するのはやめて……」
わざとらしく言うと、エリカが焦りだした。
「やらないとは言っていません。でも、ミランダが怒るかと思ってるだけです」
「怒るに決まってるさ。ギルドの個室で俺たち四人がかりで襲われ、おむつプレイを強引にさせるんだからな」
「だったら、考え直しましょうよ。もっと、穏やかに話し合いを……」
エリカが一郎をなだめる口調で口を挟む。
「だが、俺も怒ってる。最近、ミランダがちっとも屋敷に来ないし、そういえば、昨夜の新屋敷お披露目パーティーも理由もなしに欠席だったな」
「理由は告げてましたよ。……忙しいって」
「それを理由とは言わん。もっと具体的な説明をするのが筋だろう──」
「でも、いきなりレイプだなんて……」
「大丈夫だ。俺の粘性体の術も検証十分だ。あのミランダといえども、あっという間に身動きできなくさせられる。あとは簡単だ」
「いえ、ロウ様の能力のことは疑ってません。でも、ミランダがどう思うか……」
「だから、ミランダが怒るのは当然だと言っているだろう」
一郎は呆れて言った。
どうでもいいが、本当に真面目な女だ。
街の喧噪の中で、彼女の困惑している声だけが少し上ずって聞こえる。
一郎は苦笑した。
「もう、やめなさいよ、エリカ。今更でしょう」
コゼが口を挟んだ。
一郎も大きく頷く。
「そういうことだ──。とにかく、やるぞ。それじゃあ、おさらいだ。手抜かりがないようにね……。まずは、俺が適当なことを言って、ミランダを上級冒険者に使用権利がある個室に誘う……。エリカ、お前の役割は?」
「すぐに防音の結界を張ります……。それと、ミランダが部下を伴った場合は、うまく誘導して排除します……」
エリカが渋々という感じで言った。
「そうだ──。ミランダが俺たちとの話し合いに余人を交えたことなど一度もないが、あらゆる可能性を想定しないとね……。コゼ、お前の任務は?」
「弛緩剤を針で打ち込みます。ご主人様の淫魔術の補助手段ですが……。次いで、ご主人様が粘性体で動けなくしたところで、ご主人様がミランダをレイプするのに協力します」
「そうだ。俺の淫魔術で瞬時にミランダを無力化させる自信はあるけど、ギルド内の魔道防止の結界に弾かれる可能性も皆無じゃない」
「任せてください、ご主人様。コゼは必ずお役に立ちます」
一郎の横をぴったりとくっついて歩くコゼが、媚びを売るように元気に言った。
人混みの中でも、彼女だけは嬉しそうに肩を寄せてくる。
「シャングリア。お前の任務は?」
「ミランダに魔道封じの腕輪を嵌めて、指から魔道の指輪を抜く。それからは、ロウの指示でエリカか、コゼの補助に回る。これでいいのだろう?」
シャングリアは、半分呆れたように笑っている。
白銀の髪が陽光を反射し、まるで鎧のように輝いていた。
「完璧だな……。とにかく、レイプが終わったら、おしめをつけて、そこにおしっこをさせるまでが流れだ。いいな──」
「もう、わかってる。大丈夫だ」
シャングリアがすかさず言った。
またもや、エリカが口を挟みかけたのを見たのだろう。
勢いに押された感じで、エリカは開きかけていた口を閉じた。
一郎は大きく頷く。
「とにかく、どうして、俺を避けているのか問いただすぞ」
一郎は歩きながら三人に視線を向けた。
女たちが小さく頷く。
なんだかんだで、一箇月半ぶりくらいの冒険者ギルドになる。
本来、ギルドは成功報酬を獲得するためのクエストを探すための場所なのだ。
だが、一郎の場合は、ほとんどのクエストが「強制クエスト」なので、あまり自ら探すことがなく、呼び出しを受けてから、訪れるということがもともと習慣化しつつあった。
さらに、あの「三巫女事件」以来、ミランダからはしばらく、ギルドには来ないでくれと言われ、さらに出張クエストなども受けたりして、かなり足が遠のいてしまっていた。
もちろん、ミランダが理由があって、一郎をギルドからしばらく離そうとしていることには気がついている。
そのうち、説明してくれるだろうと、大人しくしていたが、もう限界だ。
もう一箇月半なのだ。
今日こそは、どういうわけで、ずっと出入りさせないのか、そろそろ白状させてやる。
そんなことを話しているうちに、前方にギルド本部の石造りの建物が見えてきた。建物に冒険者ギルドを表す紋章が刻まれていて、扉を冒険者たちが出入りしている。
一郎は立ち止まった。
「よし、着いたな。ここから先は戦場だ。みんな、抜かるなよ。題して“ミランダレイプ・おしめ作戦”だ」
「張り切ってるな」
シャングリアが笑っている。
「当たり前だ。行くぞ──」
重厚な門を開いて、建物に入っていく。
ギルド内の広間は賑わっていた。
相変わらず、あちこちに冒険者の集まりができていて、ごった返している。
ギルドの中は昼時らしく活気に満ちていた。
広い石造りのロビーには冒険者たちが屯し、また、依頼票の掲示板の前では、若者たちが肩をぶつけ合いながら紙を取り合っている。
奥には酒場兼食堂が併設されていて、焼いた肉とスープの匂いが漂っている。
受付の長いカウンターには、依頼を持ち込む者、報酬を受け取る者、書類に押印を求める者などが列をなし、ざわめきが絶えない。
いつものギルドの情景だ。
「あら、ロウさん、もうご病気はいいんですか?」
カウンターの中央で帳簿を捌いていたマリーが、こちらに気づいて声をかけてきた。
今日も髪を高くまとめ、軽く魔力を帯びた装飾ピンをさしている。
見た目は受付嬢そのものだが、ギルドでは知らぬ者のない上級魔道士であり、実際にはミランダの片腕として運営全般を取り仕切る女傑だ。
その上、複数の若い愛人を囲っているという噂もあるが、本人は「可愛い趣味よ」と笑って否定しない。
「病気って?」
一郎は思わず聞き返した。
なんのことだと思った。
横を見ると、エリカ、コゼ、シャングリアも怪訝な表情をしている。
すると、ロビーの隅で床の掃除をしていた若い女がぱたぱたと寄ってきた。
「ロウ様、ご無沙汰してます。とても心配してました」
顔を向けると、見覚えのある笑顔があった。
首には、もう奴隷の首輪はない。
その女は、かつて一郎が救った……ことになっているランだ。
以前、ガリオンという男の洗脳術にかけられ、娼館に売られていた十八歳の女だった。
ミランダの仲介でギルドに保護され、一郎が淫魔術を注いで心を鎮めたが、助けたというより身体を味わったに過ぎない──そう自分では思っている。
それでも、会うたびに隠しもしない純粋な愛情を向けられ、かえって罪悪感を覚えてしまう。
いずれにしても、いまの彼女には幸せになってほしいと願っている。
洗脳を受ける前のランは、平民ながら王立学園への入学を許されたほどの才女だった。
だが、洗脳の最中に自ら退学してしまい、復学は認められなかった。
その後は、ミランダが身元引受人となり、ギルドの雑務係として働いている。
もともと気立てがよく、働き者という評判であり、いまでは書類仕事も任せられるほどミランダからも信頼されている。
ミランダも「儲けものだ」と笑っていた。
「ランも元気そうだね。よくしてもらってるか?」
「はい、とても」
ランは満面の笑みを浮かべ、顔を赤らめる。
その笑顔を見ているだけで、一郎も嬉しくなる。
なにしろ、記憶を戻したときの彼女は、まるで魂を抜かれた人形のような目をしていたのだ。
それが、いまはこんなにも生き生きとしている。
「ミランダの許可があれば、家にも遊びに来るといい。いないことも多いから、事前に連絡をくれればいい。場所は……」
一郎は、スクルズが手配してくれた屋敷──いまの新居の所在を教えた。
屋敷妖精のブラニーやウルズなど、普通の客には見せられぬ存在もいるが、ランは一郎の精の支配を施している。秘密は守られるので問題ない。
「本当ですか? いいんですか?」
ランは目を丸くして破顔した。
「問題ないけど、ご主人様の誘いに応じるというのは、ただではすまないわよ。それなりの目に遭うと思ってね」
コゼが茶化すように言った。
「やめなさいよ。変な言い方するのは」
エリカがたしなめる。
だが、コゼが返すよりも早く、ランがきっぱりと言った。
「そ、そんなこと──。もちろん、なにをされてもいいです。ロウ様になら」
その勢いに、周囲の冒険者がちらりとこちらを見たほどだった。
「いつも、ロウさんのことばかり話しているものね。よかったわね、ラン」
マリーがくすりと笑いながら口を挟んだ。
ランは我に返ったように顔をさらに真っ赤にして俯いた。
そのときだった。
ざわめく人波を割って、こちらへまっすぐ歩いてくるひとりの男がいた。
一郎は、どこか不穏な気配を感じて、そいつに視線を向けた。
背の高い、美貌の男だ。
だが、一郎が驚いたのは、その装備だった。
剣も防具も一級品で、細工の凝った意匠からしても、ただの冒険者ではない。
──それに、この武具は……。
男が自信たっぷりの笑みを浮かべながら、一郎たちの前に来た。
後ろには屈強な男がふたりいる。金で雇われた護衛という風情だ。
ただ、ふたりの方は一郎を見るなり、焦ったような表情をした。
どうやら、一郎たちのパーティの名を知っているらしい。
だが、当の美貌の男はまるで気づかぬように、傲然と歩を進めた。
「やあ、シャングリア嬢。お迎えにあがりましたよ」
男が軽やかに言った。
「パ、パーシバル──? な、なんでここに」
シャングリアが明らかに動転した声をあげた。
こいつがこんなに動揺するのは珍しい。一郎は訝しんだ。
「ねえ、知り合い?」
コゼが首を傾げながら口を挟んだ。
「まあ……な」
シャングリアは困惑した様子で答えた。
随分と歯切れが悪い。
やはり、なにか事情がありそうだ。
一方で、男──パーシバルは、一郎たちの存在を完全に無視して、シャングリアにだけにしか視線を向けない。
「一日、女として付き合うという約束ですよ、シャングリア嬢……。約束の日を決められなかったので、ここで待っていたんです。あなたを捉まえるには、ここで待つしかないと聞いてね」
「はあ、待っていただと?」
「もちろんです。まさか初日に会えるとは思わなかった。僕たちは運命で結ばれていたようですね……。あなたに会うために冒険者登録までしたんです、この僕が──あなたにこんなに熱をあげていることを、わかって欲しい」
パーシバルが得意げに笑った。
なんだ、こいつ?
一郎は、唖然となった。
「そ、その話は断っただろう──」
シャングリアが声をあげる。
だが、やはりシャングリアの言葉に歯切れがない。
ほかの男に言い寄られても、二つ返事で断るか、その場で蹴り飛ばすかなのに、妙にパーシバルに気を使う気配があるのが気になる。
「そうはいきません。貴族の名誉を賭けた正式の賭けによって成立した誓いです。ちゃんと守ってもらいますよ」
再び芝居がかった身振りで一礼した。
いずれにしても、シャングリアに言い寄っていることは確かだろう。
だが、ギルドに出入りする者であれば、シャングリアが一郎に心酔していることは誰もが知っている。
ましてや、一郎が目の前にいる場でこんなことを言うなど、常識を欠いた行為だ。
こいつは、シャングリアが一郎の女であることを知っているのだろうか?
「なんだ、あんた?」
一郎は静かに言った。
すると、パーシバルが顔の笑みを一瞬、消失させた。
しかし、すぐに再び、作ったような胡散臭い笑みに戻る。
「……ねえ、シャングリア。とりあえず座ろう。テーブルをひとつ確保してある」
パーシバルは、一郎の言葉など耳に入らないように、シャングリアの手を取ろうとした。
「お前と話などない──。昨日の話は断ったと言っただろう──。ふざけるな──。しかも、ロウの前で……」
シャングリアが声を荒らげた。
一郎は眉をひそめた。
「おい、なんの話なんだ、シャングリア?」
一郎は低く言った。
ただ、声には怒気を込めたが、それは演技だ。実際のところ、冷静だった。おそらく、事情はあるのだろう。
もっとも、シャングリアが“昨日の話”と口にしたということは、昨日、こいつが騎士団の演練に参加したときに、なにかがあったということだろう。
それをシャングリアは一郎に黙っていた。
このことは、気に入らない。
「作法も知らない冒険者が口を挟むのか。ここは貴族同士の会話の場だ。割り込むのは非礼だぞ」
すると、パーシバルが声を荒げ、一郎を睨みつけた。
だが、今度は、一郎がパーシバルを無視してやった。
「答えろ、シャングリア──。こいつは誰だ──?」
「貴様──」
パーシバルが横で声をあげた。
また、いつの間にか、ギルドはしんとなっている。一郎たちの悶着から距離をとって見守る感じになっている。
「こいつは……パーシバルというダウス侯爵家の一門の男だ。南部騎士団から王軍騎士団に異動してきたばかりで──」
シャングリアが焦ったように説明を始める。
しかし、それを途中で遮る。
「そんなことはどうでもいい。お前とこいつとの関係を言え」
一郎が声をあげると、ロビーが完全に静まり返った。
その空気に押されるように、シャングリアは怯えた表情を浮かべた。
また、その横のパーシバルは苛立ちを隠せなくなっていた。
「か、関係など……」
シャングリアは目を伏せ、明らかに気後れしている。
一郎は淫魔術でシャングリアの感情を探った。そこには「当惑」とともに、「焦燥」と「恐怖」があった。
なにかを隠していたことは間違いないんだろうな……。
どうやら、面白くなってきた。
随分といい「調教の口実」がやってきた。
一郎は、顔に怒気を込めながら、内心でほくそ笑んだ。
「ロウ、別に隠していたわけじゃないのだ。どうということもないことだし、もう解決したことなのだ。まさか、ここに来るとは……」
「いいから、言え──」
一郎は低く怒鳴った。
「おい、貴様。さっきから誰に向かって口をきいている。その人はモーリア伯爵家のシャングリア嬢だぞ──」
パーシバルが憤然と声を張る。腰の剣に手を伸ばしかけた。
だが、一郎の手の方が早かった。剣の柄を押さえ込む。
ただの勘だが、こいつが抜こうとする気がしていた。
予感どおりだった。
「き、貴様……」
一郎に押さえられたことで、パーシバルはさらに激昂する。
だが、怒っているのは一郎も同じだ。
パーシバルが手を振り払い、数歩退がった。再び剣に手をかけようとする。
一郎は上着の内側にある短銃に手をかけた。
発火準備を終えた二発入り──。魔道具でもあるホルスターに収納してあり、発火準備をしたまま保持できるのだ。いつでも撃てる。
「ちょっと」
「……」
その瞬間、エリカとコゼが素早く間に割って入った。
エリカは、手に蒼白い魔道の光を帯びさせて……。コゼは無言で……。
ふたりがパーシバルを牽制するように、両側から立ちふさがる。
おそらく、パーシバルが一郎に向かって剣を向けようとした瞬間に、ふたりはパーシバルを処置するだろう。
やっぱり、頼もしい女たちだ……。
「なんだ、お前たちは?」
パーシバルが驚いたような声を出した。
もしかして、反撃されることを想定してなかったのか?
「ロウ様は、シャングリアと話しています。あなたは下がってください」
「それとも、ここで騒ぎを起こしたい? あたしたちは、すぐにでも相手できるけど」
エリカとコゼがそれぞれに、パーシバルを威嚇した。
パーシバルが動けば、即座に反応する──その覚悟を身体にまとわらせている。
「こっちの話が終わったら、あんたとも話す。だから少し待て」
一郎が振り返りざまに言うと、パーシバルは顔を真っ赤にして固まった。
しかし、エリカとコゼの気迫に押されたのか、手が止まっただけでなく、数歩後退った。
一方で、背後のふたりの護衛も前に出る気配はない。
むしろ、険悪な空気に呑まれ、じりじりと後退している。
また、回りのギルドの冒険者たちも、興味津々といった様子で人垣を作り始めていた。
「だから、終わったことなのだ、ロウ。隠していたわけじゃない。信じてくれ」
シャングリアがやっと説明を始めた。
その話によれば、どうやら、やはり、昨日の王軍騎士団の錬成での出来事らしい。
パーシバルから一騎打ちを申し込まれ、シャングリアが負けたら「一日、女として付き合う」という条件を賭けにされたそうだ。
シャングリアは、その条件を呑んだわけではないが、すぐに一騎打ちが始まり、断る余裕がなかった──シャングリアは、これを繰り返し主張した。
しかも、その一騎打ちに、シャングリアが敗れた。
だが、当然に、シャングリアは、賭けなど無効だと突っぱねた。
──そしていま、この男が執念深く追ってきたというわけだ。
「正式な立ち合いによる約束ですよ……。一方的な破棄は認められませんよ、シャングリア嬢」
エリカとコゼを挟んで、パーシバルの声が響く。
「知ったことではない──。わたしにはロウがいる。惚れているのだ。身も心も、すべて捧げている」
シャングリアが声を張った。
王軍騎士であり、貴族の娘でもある彼女が、人前で堂々とそう口にする。
ギルドの空気が一瞬でざわめきに変わった。
「そんなこと信じられるものか。モーリア伯爵家の娘が、こんな冒険者風情になど……」
「うるさい男だなあ……」
いい加減に、一郎の不愉快さは頂点に達しかけていた。
そもそも、シャングリアは一郎の女だ──。
それを忘れたように言い寄るその姿に、演技ではない怒りが込みあがってきた。
一郎は、シャングリアのスカートの中に、いきなり前側から手を突っ込んだ。
「う、うわあっ、な、なにをするのだ、ロウ──。こ、こんなところで」
動転したシャングリアが一郎の右手の手首を両手で防ごうとする。
「俺に隠し事をした罰だ。手を後ろで組め──。それとも、俺をまた裏切るのか?」
「お、お前を裏切ったことなどない……。とんでもないことだ」
シャングリアが驚愕したような声をあげた。
両手で一郎の手首を掴み、スカートの中に差し込まれた指を必死に押しとどめている。
だが、その力はすでに抜けかけていた。
布越しに伝わる一郎の指先は、下着の境に触れるか触れないかというところで止まっていた。
ほんの一枚の布を隔てただけの距離──それだけで、シャングリアの呼吸は乱れ、全身が硬直していく。
「ねえ、本当だ、ロウ……。隠すつもりはなかったんだ。そりゃあ、結果的にそういうことになったかもしれないけど、どうということはないと考えたし……。ましてや、お前を裏切るなど……」
声は震え、掴んでいた手もそのまま下へ滑り落ちた。
抵抗の形を残しながら、もはや止める意思はない。
シャングリアは泣きそうな顔になっている。
こんな表情は初めてかもしれない。
もう、一郎からは不快さは消えていた。
万が一にもシャングリアが他の男を「男」として意識することなどない――その確信が、静かな愉悦とともに一郎の中に広がっていった。
ただ、いまは鬼畜の虫が疼いている。
この万座の中で、シャングリアを辱めてやろう……。
それは、あのパーシバルという貴族のお坊ちゃんに、シャングリアは一郎のものであるという強烈な引導を渡すことにもなるだろう。
まあ、せっかく、シャングリアが準備してくれた「口実」だ。
むしろ、利用しないと、シャングリアに申し訳がないというものだ。
「なにをしているんだ、貴様──」
パーシバルがエリカとコゼが阻んだ向こうで喚いている。
だが、もうシャングリアは、覚悟を決めたような顔になっている。
彼女の両手が背中側に回された。
一郎はスカートの下で、シャングリアの下着の中に指を入れた。
「あっ、くっ……」
悲鳴を飲み込み、シャングリアが唇を噛んだ。
一郎の指は、シャングリアのクリトリスを撫で、内襞をくすぐり、膣に指を挿入して敏感な部分に刺激を与えていく。
「あっ、はあ……あっ」
シャングリアの息があがる。
布の奥から、熱と大量の愛液の潤いが指先に伝わってきた。
一郎は指を動かすたび、柔らかな肌が震え、息が荒くなる。
太腿の内側が完全に緩み、指に沿って愛液がこぼれ落ちてくる。微かな震えが次第に大きなものになる。
「シャングリア……お前は俺の女だ……。忘れるな……」
耳元でささやく。
「あ、ああ……」
すると、ステータスに映るシャングリアの快感の数字が一気に余裕が消失した。
一郎は指の動きを止めなかった。
絶頂に向かって一気に導いていく。
直接に見なくても、快感の場所がどこにあり、どんな刺激を送れば、こいつを追い詰められるかは、詳細にわかる。
指先に絡む潤いの量が増す。
顔を上げると、シャングリアの肩が細かく震え、喉から抑えきれぬ息が洩れていた。
「も、もう、許してくれ……。こ、こんな、ところで……」
シャングリアは膝を小刻みに震わせながら、すがるような口調で言った。
「身体はそうは言ってないようだ……。罰だ。ここでいけ……」
一郎は回りに聞こえる程度の声で言った。
パーシバルだけでなく、ギルド中の者がざわざわと騒ぎ始めた。
受付の目の前だったので、受付係の場所にいたマリーやランなど、唖然とした顔をしている。
「そ、そんな……」
「……だったら、両手を離して阻止するなり、逃げるなりすればいいだろう……。もちろん、それは俺への裏切りとみなすぞ」
一郎は意地悪く言った。
「わ、わたしは……う、裏切りなど……くっ、うっ、んくっ──」
シャングリアは必死になって声を耐えているようだ。
一郎は容赦なく、愛撫により快感を注ぎ込む。
また、一郎は一切の淫魔術による心の縛りをシャングリアに与えていない。身体の操りもだ。
万座の中の辱められるという羞恥に甘んじているのは、紛れもないシャングリアの自由意思だ。
シャングリアは、哀願はしても、一郎の愛撫から逃げようとはしなかった。
そして、一郎に与える刺激に耐えられなくなったかのように、胸が小さく揺れだし、膝の震えも一気に大きくなった。
「くっ、だめだっ──」
シャングリアがいきなり声をあげて、全身を突っ張らせると、次いで、その場でがくりと腰を落としかけた。
一郎はすかさず、シャングリアの身体を抱いて、しゃがみ込むのを支えた。
周囲が騒然となった。
シャングリアがこの場で快感の頂点に達してしまったのは、誰の目にも明らかだった。
「もう、手を離していいぞ、シャングリア。やっぱり、お前は俺の女だったな」
一郎は笑った。
シャングリアは、力が抜けて倒れかけても、一郎が命じた手を後ろで組むということをやめようとはしなかったのだ。
「はあ、はあ、はあ……あ、当たり前だ……。わ、わたしは……お前の女だ……」
シャングリアが息のあがった赤ら顔で言った。
すると、いきなり、なにかが一郎に向かって、飛んで来た。
一郎の顔に当たったのは、ハンカチのようだった。
顔をあげると、それを投げたのはパーシバルだとわかった。
「いまのは許せん……。シャングリア嬢に対して……許せん……。いや、全貴族への冒涜だ──」
怒りで声が震えている。
一郎はその口惜しそうな顔を眺めているうちに、妙に溜飲が下がるのを感じた。
「見ていたろう、パーシバル。シャングリアは自分から求めて、逃げなかったんだぞ」
「そんなものが信じられるか……。いずれにしても、お前は僕を侮辱した。僕が交際を申し込んだシャングリアに、あんな破廉恥な真似をするとは──僕への侮辱だ」
「知ったことか。こいつは俺の女だ。そもそも、呼び捨てにするな、パーシバル」
一郎は鼻で笑い、わざとこの生意気な坊やを呼び捨てにした。
「パーシバル。ロウへの決闘は、わたしが代理人として受けて立つ──。ロウには指一本触れさせんぞ」
シャングリアの声が響いた。
決闘? 一郎は眉をひそめた。
「……ロウ様。身に着けているものを相手の顔に投げるのは、決闘の申し込みです……。このハロンドール王国でも、それは正式な作法のはずです」
エリカはパーシバルと一郎のあいだに入っていたが、一郎に顔を向けて、戸惑いながら説明した。
「決闘なんて拒否するよ……。馬鹿馬鹿しい」
一郎は即座に言った。
「拒否は無効だ。貴族特権の行使により、貴族を侮辱した庶民ロウの拒否権を剥奪する。もう逃げられんぞ」
パーシバルが言い放つ。
「そうなのか?」
一郎はシャングリアを見た。
「そうだ……。確かにそういう決まりがある。拒否権剥奪の要件が揃えば、貴族特権の行使によって決闘を拒めなくなる……。だが、パーシバル、さっきも言ったが、ロウの代理人はわたしだ。わたしが相手になる」
シャングリアが毅然として言った。
「負ければ、僕と付き合うという“魔道の誓約”を立ててくれたら、代理人を認めましょう。それに、僕に一度負けていることを忘れましたか? やめておくことです、シャングリア嬢」
パーシバルがせせら笑う。
そのとき、鋭い声が響いた。
「なにをしているの、あんたたち──」
ミランダだ。
コゼが早口で事情をミランダに説明した。
すると、ミランダは目を丸くした。
「ギルド内では王国の法は無効よ。ここでの私闘は許しません。パーシバル殿もロウも、冒険者として名簿にある以上、殺し合いはギルド法違反よ。それとロウ、あなたは家に戻って──。そもそも、ギルドに来ないでと頼んだのに、なにしてるの──。あたしの別命があるまで、ギルドには顔を出さないで──」
ミランダがきつく言った。
「だったら、この瞬間に僕は冒険者をやめる。それで文句はあるまい、ドワフ女」
パーシバルが挑発的に返す。
ミランダが顔をしかめた。
「わかった……。受けて立ってやるよ、貴族のお坊ちゃん。だが、ここでは迷惑だ。表に出よう」
一郎は静かに言った。
「駄目です、ロウ様──」
今度は、エリカが驚愕したような声を上げた。
「問題ない。だが、俺は短銃しか持っていない。エリカ、お前の剣を貸してくれ」
「いいえ……。ならば、代理人を指名してください。わたしが相手をします。決闘を申し込まれた側には代理人を選ぶ権利があります。それに、時期と手段を限定することも……」
「心配ない。俺が受ける……」
一郎は言い切り、ギルドの外へ歩き出した。
背後で、わっと歓声が上がった。