【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
昼間でも物騒な界隈──王都城壁の外にある貧民街を、パーシバルは歩いていた。
黒いマントを羽織り、深くフードをかぶっている。
この一帯は、王都の城壁の外で暮らすしかない者たちが集まる場所だった。
定職を持たず税を納められぬ者は、城内に住む資格を失う。王軍やギルドの保護も受けられず、治安の巡回はここまで及ばない。
行き場をなくした者たちは、ここに廃材を寄せ集め、壁際に家を並べて作った。
やがてその一帯は、王都の者たちから軽蔑を込めて「
家屋は傾き、軒と軒が寄り添うように並んで薄暗い路地を作っていた。舗装のない道は轍と泥で覆われ、雨のあとには深い水たまりが残る。濁水と動物の糞、古い油と腐敗した残飯の匂いが混じり、悪臭が鼻を突く。
王都の華やぎなど、ここには欠片もない。
通りには、日雇いにあぶれた男たちが地面に腰を下ろし、虚ろな眼で行き交う者を眺めている。
昼間から酔いつぶれて道端に寝転がる者もいれば、壊れた楽器を抱えた女が物乞いをしている。
どの顔にも、希望と呼べるものは見えない。
そんな中を、フード姿の貴族風の男が通れば、視線が集まるのも当然だった。
だが、両脇に連れた護衛ふたりの体躯を見た途端、誰もが目をそらした。
この界隈では、力が唯一の通行許可証のようなものだった。
パーシバルは、やがて一軒の建物の前で立ち止まった。
看板のない、小さな商家のような造りだ。通りに面した側には窓はひとつもない。
厚い木の扉が一枚、黒ずんで口を閉ざしている。
扉の上には、古い呪符や紙片がいくつも貼られていた。
「お前たちは、ここで待て」
低く命じると、パーシバルはひとりで扉を押し開けた。
中は薄暗く、薬草の煙と香が霞のように漂っていた。
湿った空気には、薬と鉄と女の肌の匂いが混ざっている。
入り口の正面には古びた長椅子がふたつ向かい合い、その奥のカウンターにはひとりの老婆が座っていた。
髪は雪のように白いが、その肌には不思議な艶があり、皺の奥に蠱惑の色が潜んでいる。
「僕だ。ザーラ、久しいな」
パーシバルはフードを取り、長椅子に腰を下ろした。
「おお、これはパーシバル坊ちゃま。王都に戻られたのですね」
老婆が微笑んだ。
目尻の皺の間から艶めいた光が漏れ、指先には深紅の染料が残っている。
その瞳は年齢に似合わず濡れており、悦楽を知るものの光を宿していた。
パーシバルは十五歳の頃を思い出した。
この王都城外の「外町」で、貴族の若者たちと悪戯に明け暮れていた時期である。
そのときからザーラは老婆だったが、それでも年にそぐわない妖しさを保っていた。それは十年経ったいまでも変わらないようだ。
パーシバルが、十七で王都を離れ、南部の国王直轄軍に騎士として赴任してからというもの、王都に戻る機会はほとんどなかった。だから、この外町を訪れるのも、それ以来だ。
「戻ってきたのは一箇月ほど前だ。仕事を頼みたい」
パーシバルは懐から布袋を取り出し、卓に置いた。
袋の口を開くと、金貨がかすかに音を立てる。
ハロンドール金貨三十枚。
「おう、これは」
ザーラが息を漏らし、慌てたように椅子から立ち上がってこちらへ寄った。
「最近は不景気でしてなあ。こんな大仕事は久しぶりですよ。それで、どんなご用向きで? 誰かを呪うおつもりですか」
薄く笑いながら、ザーラは対面の長椅子に腰を下ろした。
その笑みは、愉しげに見えるのに、どこか人を嘲るようでもあった。
パーシバルは、この老婆がどれほど危険な存在かを承知していた。
術と魔具作りの腕は、王軍魔道師にも匹敵すると噂されている。
だが、禁忌の呪術に手を染めていることで、宮仕えはせず、こうやって法の及びにくい場所に隠れ暮らしているのだ。
ザーラは、代価さえ積めば、どんな禁呪でも扱う。
人の心を操り、病を植えつけ、あるいは命を奪うことも可能だ。
無論、発覚すれば死罪だ。だが、これまで捕らえられたことはない。
かつてのパーシバルは、若さゆえにその“品”を買い、女を弄ぶ愚かな遊びにふけったことがあった。
いまは過ぎ去った戯れだが、今日は久しぶりに本気でザーラの手を借りるつもりでいた。
「むかし、頼んだ人形を買いたい。身体を自在に操れるあれだ」
「ほう、呪いの人形を?」
ザーラが意味ありげに微笑んだ。
「そうだ。ある女をそれに刻んで欲しい」
呪いの人形──それはザーラの操り術の極みともいえる魔道具であり、片手に収まるほどの真っ白な人形だ。
対象の身体の一部を刻み込むと、人形に加えた刺激が遠く離れた本人に伝わる。
それだけでなく、さらに一定の距離まで近づけば、人形と同じ姿勢を当人に強制することができるのだ。
つまり、人形の首を無理に捻れば、相手の首の骨を折ることさえ可能という代物だった。
「お安い御用ですぞ。また、若い女ですか?」
「そうだ」
「なら、いくつか在庫があったと思いますな。なにせ、若い女用の人形は注文が多いものでのう」
ザーラは立ち上がり、カウンターの裏へと姿を消した。
やがて戻ってきたとき、手には女の身体を模した白い人形を抱えていた。
手のひらに収まるほどの小さな造りだが、胸にはふくらみがあり、股のあたりには女陰の造形まである。
顔には目がなく、ぽっかりと口だけが穿たれていた。
パーシバルは、その奇妙な人形をしばらく見つめた。
これを使えば、相手の身体を遠くからでも自在に操ることができる。
与える刺激が痛みであろうと快感であろうと、すべてが人形を介して相手へと伝わるのだ。
「刻むための相手の身体の一部はありますか、坊ちゃま?」
「髪の毛だ」
パーシバルは、服の下から畳んだ紙包みを取り出し、数本の髪を差し出した。
本当は、あのロウとかいう生意気な男を直接刻み、手足だけでなく首の骨まで砕いてやりたかった。
しかし、ロウの髪など容易に手に入るものではない。
今度、あいつの前に現れれば、逆に殺されるかもしれない。
それに比べれば、シャングリアの髪は容易だった。
騎士団の詰所に置いてある彼女専用の兜の内側に、髪が数本残っていたのだ。
ほかの騎士であれば従者が手入れをして、埃ひとつ残さぬほど磨かせるだろう。
だがシャングリアには従者がいない。
それに、先日の錬成の折にも、パーシバルの誘いをかわすように、武具の手入れもそこそこに詰所を立ち去っていた。
だから髪が残っていると確信できた。実際、決闘騒ぎの翌日には詰所で密かに手に入れることができた。
それにしても、思い返すたびに、腹の底が煮える。
あのロウも、シャングリアにもだ──。
半月ほど前のことだ──。
あの決闘騒ぎで、万座の中でズボンを切り裂かれ、笑い者にしたあの屈辱は、いまも脳裏に焼きついている。
許せるはずがなかった。
それで、考えた。
ロウからシャングリアを奪い、女としての辱めを徹底的に与えて、服従を誓わせたあとで、別の男どもに回し、捨ててやるのだ──。
それでこそ、あの生意気な二人に釣り合う酬いになる。
ロウには女を奪われた痛みを──、シャングリアには辱めの極みを──。
そう思うと、胸の奥に沸き立つ憎悪が、甘い快感のように広がった。
なにせ、あの一件でパーシバルはすべてを失ったのだ。
ロウとシャングリアは、彼の名誉を踏みにじり、秘密にしていた魔道武器の存在までも暴いた。
そのせいでパーシバルは、冒険者ギルド前の決闘騒ぎのあと、王都騎士団の団長から呼び出され、離任を勧告された。
さらに、王都にいるダウス家の一門からも、当面は領地へ戻って謹慎せよとの命が下ったのだ。
すべて、ロウとシャングリアのせいだ。
シャングリアがパーシバルの誘いを拒まず、ロウが大人しくしていれば、こんな屈辱を味わうこともなかったのだ。
だからこそ、パーシバルは決断した。
復讐を──。
「どれ」
ザーラは無造作に白銀色のシャングリアの髪を掴むと、白い人形の背中に押し込むような仕草をした。
髪は人形の中へ吸い込まれるようにして消えた。
「終わりましたぞ」
ザーラが人形をパーシバルに差し出した。
「もう終わりか。こんなに呆気なかったかな」
パーシバルは人形を手に取り、軽く眺めた。
試しに、胸と股間を指先で押し揉むように触れてみる。
「おっと、お気を付けください。すでに人形には、髪の毛の持ち主の女の身体が刻まれております。人形に与えた刺激は、いまこの瞬間も伝わっているはずです」
「ここは、城壁外だが大丈夫か? 城壁には魔道防止の反射紋も刻んであるはずだぞ」
「そんなものは、このザーラの術には効きはしませんよ。その女は王都の中か、少なくとも近郊におるのでしょう? その距離なら、十分ですよ」
ザーラが乾いた笑いを浮かべた。
「それはいい。どこにいるか知らんが、恥をかかしてやる」
パーシバルはカウンターの端にあった羽根つきのペンを手に取り、羽根の部分で人形の表面をくすぐるように動かした。
「……いまは刺激を伝えるだけだな、ザーラ?」
「そうですな。眼に見える位置まで人形を近づければ、相手の身体を直接動かせるようになります。念じれば、当人の身体をまるで人形のように自分では動かせなくすることもできます」
「どのくらいの距離からだ?」
「呪術で、完全に身体が人形と一体化になるのは、少なくとも、相手の姿が見えないと無理ですね」
「わかった。とりあえず最初の洗礼だ。徹底的にやってやる」
パーシバルは羽根を持つ手に力を込め、人形の胸、腹、股間、背中と、次々にくすぐるような刺激を与えた。
尻の割れ目にまで羽根を滑らせ、どこひとつ逃すことなく撫で回す。
「以前には気づかなかったが、尻の穴まであるのだな」
パーシバルは人形の尻を両手で広げ、羽根の先で穴の縁を掃きながら言った。
「そこから液剤を注げば、本人にも同じように浣腸を施したことになります。お試しになりますか?」
ザーラがくすくすと笑った。
「それも悪くないな。だが、実はもうひとつ頼みがある」
パーシバルは人形を卓の上に戻した。
「もうひとつ?」
ザーラが小首を傾げる。
パーシバルは懐から小さな布袋を取り出し、中身を卓の上にあけて見せた。
百個近い小粒の宝石が転がり、淡い光を散らした。
最初に渡した金貨の十倍の価値がある。
「これは……」
さすがのザーラも目を見張った。
「この人形に刻んだ女を、僕に惚れさせたい。以前、おまえが言っていたな。身体を操るだけでなく、心も縛れると」
「惚れ薬の類というわけですな。できますとも……。少し待ってもらうことになりますよ」
「どれくらいだ?」
「半日は要りません。二ノスほどですな」
「やってくれ」
パーシバルが短く告げると、ザーラは金貨の袋と宝石の袋を抱え、再びカウンターの奥へと消えた。
やがて戻ってきたとき、腕には石製の香炉を抱えている。
香炉の中には淡い桃色の灰が盛られていた。
ザーラはそれを卓の上に置き、指先を擦り合わせるような仕草をすると、灰の間から白い煙が立ちのぼった。
煙はゆらめきながら天井へと流れていく。
「坊ちゃまの髪の毛を……」
ザーラの声にうながされ、パーシバルは自分の髪を一本抜いて渡した。
彼女がそれを香炉の灰に埋める。
細い髪が音もなく消えた。
「その人形の頭を煙にかざしてください」
パーシバルは言われたとおりにした。
淡い煙が人形の白い表面を包みこむ。
「そのまま二ノスです。それで、人形に刻んだ女は坊ちゃまの言いなりになります」
ザーラが言った。
「二ノスか……。そのあいだ、人形に触ってもいいのか」
「存分に」
ザーラが笑った。
パーシバルは人形の頭を煙にかざしたまま、再び羽根を取り、人形の身体をなぞるように掃き始めた。
薄い煙の向こうで、白い人形がかすかに光を帯びたように見えた。
「その呪術で、どうすればあの女を操れる?」
「なにもする必要はありません。呪術が完了すれば、その女は、人形を持っている坊ちゃまに出会った瞬間に恋に落ちます」
ザーラは口元を歪めて笑った。
その笑みには、愉悦と毒の入り混じった艶があった。
パーシバルは羽根を動かし続けた。
胸、腹、股のあたりへと触れを移す。
すると、指先にかすかな湿り気が伝わってきた。
白い人形の股間が、微かに艶を帯び、細かい震えを返している。
「……なんだこれは。動いているようだ」
パーシバルが顔を上げると、ザーラは妖しげに目を細めた。
「その女が人形と繋がった証ですよ。女の反応が人形に共鳴しているのです。いま、その女は、どこかで震えているはずです」
パーシバルは口の端を歪めた。
笑みが浮かぶ。
面白い──そう思った。
人形の胸をつまみ、股を押し開き、羽根の先をさらに深く滑らせた。
人形がびくびくと震え、濡れた光を増していく。
そしてついには、人形の震えは甘い痙攣へと変わり、股間を伝う濡れが指先にまで滲んできた。
「はは、見ろ……人形のくせに、もう雌の汁を流していやがる。本体は、どんな顔で震えているんだろうな?」
小さな人形にしては反応が濃すぎる──パーシバルは思わず笑い声を漏らした。