【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「なあ、ミランダ、ロウはどう反応するだろうかなあ。愉しみじゃ。お前を助けるために命を張って、王宮に忍び込んでくるのか……」
イザベラは、自ら注いだ食後の紅茶を口にしながら、視線を檻の中央へと向けた。
白い光で組んだ魔道の檻の中には、全裸のミランダが胡坐をかいて座らされている。
侍女たちにはすでに人払いをしてあり、この離宮の自室にいるのはふたりだけだ。
シャーラを使いに出してから、もう半日が過ぎている。
卓上には、先ほどイザベラがひとりで取った軽食の皿がそのまま残っていた。
「……あたしは嫌な予感しかしませんね」
「そうか? だが、やはり恐れをなして諦めるかもしれんな。わたしは、ロウという男の義侠心を試してみたいのだ」
「……あたしは、諦めて欲しいと思いますよ……。言っておきますが、それは姫様のためです。ロウを試すようなことをして、なにをされても、もう知りませんからね」
ミランダの嘆息の音が耳に入った。
与えておいた食事の皿と杯は、いつの間にかどれも空のままになっている。
「ところで、厠はいいのか、ミランダ? 別にわたしは、お前を辱めたいわけではない。そこに閉じ込めておく以外のことはせんから、遠慮せず言え」
「だったら、ロウになにをされても、あとで怒らないと約束してください。ロウを処罰しないでください」
その必死な表情に、イザベラはわずかに眉を上げた。
ミランダがここまで誰かの身を案じる姿は珍しい。
噂では、ロウという冒険者はミランダの愛人だと言われていたが──案外、本当なのかもしれない。
元のシーラクラス冒険者で、男を寄せつける気配など微塵も見せなかったミランダが、ひとりの男に惚れるというのか。
そうだとすれば、これはこれで実に面白い話だと、イザベラは思った。
「心配はいらん。衛兵にも魔道士隊にも、命までは取るなと伝えてある。仮にロウが捕らえられても、わたしがすぐに解放する。……ただ、あやつがどんな男か見てみたいだけだ」
「夜這いを仕掛けろと姫様がおっしゃったんですよ。ロウは好色ですし、多分来ると思います」
「ほう、そうか?」
イザベラは眼を細めて、ミランダを眺める。
「ええ、魔道も腕も大したことはありませんけど、勘と頭が抜けています。姫様の思惑なんて、平気で超えて来そうな男なんです」
「ミランダがそこまで冒険者を褒めるとは珍しいのう。ますます愉しみじゃ」
イザベラは指先で杯の縁をなぞった。
会話が途切れ、離宮の部屋はやけに静かになった。ふたりのあいだに、少しだけ沈黙が落ちていく。
「……それにしても、シャーラは遅いのう……。ミランダが言った幽霊屋敷とやらに出向かせたのは夕方前だぞ。もう夜中近くではないか」
やがて、イザベラは思い出すように言った。
厳命したわけではないが、シャーラが寄り道をするような性格ではない。
「あたしは、シャーラをひとりで行かせるのは危険だと、何度も言いましたよ。あたしから剥ぎ取った衣類を持たせるなんて……あれは、ロウに喧嘩を売りに行かせたようなものです」
「喧嘩か……。まあ、それくらいせんと、挑発にはならんだろう」
「ロウは冒険者です。敵対の最中であっても使者には手を出さない、なんていう貴族の約束事は、あいつらには通用しませんからね。シャーラが心配じゃないんですか?」
「なにを言っておる。シャーラが冒険者風情に負けるとでも? それなら、わたしは、それこそ身体を許してでも、ロウに家人になってもらいたいくらいじゃ」
イザベラは笑った。
ミランダはもうそれ以上は言わず、小さく肩を竦めて、口の中でなにかを呟いた。
……自業自得、と聞こえた気がした。
そのとき、部屋の外から声がした。シャーラの声だ。
「シャーラがやっと戻って来たようじゃぞ、ミランダ。ほら、無事ではないか」
イザベラはミランダににやりと笑いかけ、入れと声をあげた。
「姫様……」
シャーラが入って来た。
その足取りが妙に重く、イザベラは怪訝に思った。
出ていったときの侍女服ではなく、黒いマントで身体をすっぽりと包んでいる。
その異様な格好に、イザベラは小さく眉を寄せた。
「随分と遅かったが、ちゃんとロウにはわたしの言葉を伝えたのか? それに……その恰好はなんだ?」
言いかけたところで、シャーラの首元に不自然な金属の輪があることに気がついた。
「しかも、その首のものはなんだ、シャーラ?」
重ねて訊ねた。
「……首環です……姫様……。雌犬の……」
あまりに当然のような口ぶりだったので、一瞬、イザベラは意味を取り損ねた。
雌犬……? 首環?
つまり、雌犬の首環……?
そう言ったのか?
疑念が胸に浮かんだ瞬間、シャーラがマントを両手で押し開いた。
「あっ……」
シャーラがマントを押し開いた瞬間、イザベラは声を失った。
開いたマントの下は、一糸まとわぬ裸だった。身につけているのは、膝までの革靴と首環だけ。
しかも、ただの裸ではない。その股間には毛がなく、さらに白い肌の下腹部には、見たことのない黒い記号のようなものまで刻まれている。
一度に目に飛び込んできて、なにから理解していいのかさえわからない。
「……シャーラ、これは……いったい、どうしたのだ……?」
驚きなのか、怒りなのか、軽い眩暈なのか──自分でも判然としない感覚が、胸の奥でぐらついた。
頭が追いつかず、言葉がまとまらないまま、ただ目の前の異様さだけが押し寄せてくる。
「これは……とは、この“文字”のことですか?」
シャーラが小さく言った。
「文字……? これが文字なのか? 本当に言葉として意味があるのか?」
理解できないのは、下腹部の刺青のようなものだけではないが、とりあえず、あれは“文字”なのか?
イザベラは下腹に刻まれた四つの記号を、思わず覗き込んだ。少なくとも、王族であり多くの言語を知っているイザベラがこれまでに接したことのない文字だ。
四つとも形がまったく揃っておらず、言語としての統一性が感じられない。
どれも意味があるとは到底思えず、ただ異様で、目にするだけで胸がざわつく。
「ご主人様の故郷の文字です……。『雌犬一号』……そう読むそうです。わたしが……命令で刻みました……」
「……雌犬……一号……? そう言ったか?」
読んだその言葉の意味が、すぐには理解できない。
「はい……。わたしが魔道で刻みました。……ご主人様の命で」
「ご主人様?」
耳にした単語に、イザベラは唖然とした。
そのとき、扉が音もなく開いた。
黒髪の男が姿を見せる。
「な、なんだ、お前……?」
イザベラは思わず立ち上がった。
「なんだ、は心外だね。呼ばれたから来ただけだよ、お姫様」
男が落ち着いた声で言った。
「姫様……申し訳ありません……」
シャーラが項垂れたまま震える声で言った。
「……ロウ、やっぱり来たのね……」
ミランダが呆れ半分、どこか安堵したような声音を漏らす。
「さて、お姫様。言われたとおりに来たわけですが……。クエストの内容は、あなたの純潔をいただくこと、でしたか?」
ロウが薄く笑いながら言った。
イザベラは思わず一歩退いた。
自分が仕掛けた挑発のはずなのに、男の口から“純潔”などと平然と突きつけられると、胸の奥が妙にざわついた。
「……そ、それは……その……」
言い返そうとしたが、うまく声にならない。
動揺と羞恥が先に立ち、口の形だけが空回りした。
ロウはそんなイザベラの混乱など気にも留めず、いきなり長椅子に腰を下ろした。
「まあ、報酬も聞いておりませんしね。そもそも──あなたの純潔が、その価値に見合うかどうか……は疑問ですが」
はっとした。
ロウは、まるで当然のような顔つきで長椅子に腰を下ろしたのだ。
国王の娘である自分の前で平然と……。
その小馬鹿にした態度が癇に障りかっとなる。
「そなた、許可もなく座るとは、どういうつもりだ……」
イザベラは声を荒らげた。
しかしロウは取り合わず、イザベラを無視して、手にした包みを檻の中のミランダへ無造作に放った。
光の檻は、ミランダ自身の身体を拘束するための魔道であって、外側からの物の出入りは妨げない仕組みだ。
包みは淡い光の格子をすり抜け、音もなくミランダの膝元へ落ちた。
「シャーラが持ってきたお前の服だ。助けに来た礼は……そうだな、明日の夜にうちへ来ることにしてくれ。延び延びになっていた“とっておき”をする予定でね。それで手打ちだ」
「……馬鹿ね」
ミランダは苦笑しながら包みを開き、淡々と衣服を身にまとい始めた。
ロウの無礼さをまるで気にしていない様子に、イザベラは内心で眉をひそめた。
だが、いまはシャーラの方が問題だ。
なぜ、あれほど奇妙な格好をして戻ってきたのか──?
そもそも、ロウは一体どうやって宮殿に入ったのだ?
「ロウ。わたしの問いに答えろ──。シャーラに何をした? どうやってここへ入った?」
イザベラが立ち上がって声をあげると、ロウは鬱陶しそうに片手を振った。
「知りたいのか?」
そう言って、ロウは横に立っていたシャーラから黒いマントをつかみ取った。
シャーラは抵抗することなく、その身をさらす。
首環ひとつの素裸にされると、羞恥が込み上げたのか、シャーラは両手で胸と股間を覆った。
「隠すな、雌犬──。ここで死にたいか──?」
ロウが荒い声で怒鳴ると、シャーラはびくりと震え、慌てて手を背中に回して組んだ。
陰毛を失った滑らかな股間が露わになり、そこには“雌犬一号”という意味らしい文字が刻まれた刺青がくっきりと浮かんでいた。
粗野で乱暴な口調──。
事前の情報では礼儀正しい冒険者と聞いていたはずだ。
それが、なぜ侍女にこんな言葉を……?
イザベラの胸の奥に、怒りと戸惑いが同時に込み上げた。
「ロウ、答えろと言っておる──」
イザベラが叫ぶと、ロウはようやく視線を向けた。
「どうやって来たか……だったな。簡単だ。シャーラに案内させた。王家の道とかいう秘密の通路を通ってね。建物に入ってからも、お前の侍女と女衛兵は、シャーラが都合よく人払いしてくれた」
「な……なんだと……?」
王家の道──。
それは王家の中でも限られた者しか知らぬ秘中の秘である。
その存在を、一介の冒険者に明かした?
案内までしたというのか?
イザベラは言葉を失った。
「まあ、大声を出しても無駄だろうが、一応、静かにしておくか……。シャーラ、命令だ。この部屋に防音をかけろ」
「……承知しました」
シャーラは手を軽く振った。
部屋の景色が一瞬だけ微かに歪み、すぐに室内全体が静かな膜に包まれたように感じられた。
シャーラの消音の魔道だとしか思えない。
イザベラは呆然と、その様子を見つめた。
「か、勝手なことをするな、シャーラ……。どういうつもりだ。王家の道を使わせるなど、わたしは許していないぞ。あれは王家の秘中の秘だ。一介の冒険者に明かすなど……」
言い募るイザベラを、ロウがひどく鬱陶しそうに見やった。
「うるさいなあ。少しでもシャーラを大事に思う気持ちがあるなら、大声は出すな。シャーラは必死であんたを守ろうとしているんだぞ。もちろん──自分の命もだが」
「わ、わたしの……命?」
イザベラは眉を寄せた。その疑問へ返答するように、ロウがゆっくり左手を上げる。
握られているのは、赤子の拳ほどの薄桃色の球体だ。
室内の灯りを受けて、わずかに脈打つような光沢を帯びている。
「な……なんだ、それは?」
「シャーラの首に嵌まっている“爆裂の首環”の引き金だよ。我が家の流儀で、招かざる客には首環を嵌めて“雌犬”として躾ける。俺がこれを離せば、首環が炸裂する仕掛けだ」
さらりと言いながら、ロウは球体を軽く揺らして見せた。
「爆裂の首環?」
イザベラは驚愕してシャーラを見た。
爆裂の首環──その名は知っている。
タリオ公国が近年の戦で使い始めた魔火薬の砂をぎっしりと詰めた首環で、重要な捕虜に嵌め、逃亡を防ぐためのものだ。遠隔から魔道を送れば砂が爆ぜ、首をねじ切るという恐ろしい代物……。
まさか、そんなものが宮殿内に持ち込まれているとは考えもしなかった。
「本当か、シャーラ?」
シャーラは蒼い顔のまま、小さく頷いた。
つまり──本物、ということ……?
イザベラは息を呑み、言葉を失った。
「だからシャーラは俺の言いなりだ。……ああ、姫様、その杖を向けるなよ。どんな魔道でも、この球体に魔力が触れれば反応するようにしてある」
「な……っ」
イザベラは絶句し、思わず握っていた魔道の杖を止めた。
全身に冷たいものが駆け上がる。
「さあ、お転婆姫様。冒険者相手に“試し”なんて企んだ結果がこれだ。その杖を俺に寄越すんだ……。どうやら、杖なしじゃあ、大した魔道は仕えない程度のレベルみたいだしね」
「なんだと──」
「……それとも──シャーラの首を吹き飛ばすか?」
ロウが球体を握っている右手を伸ばす。
「馬鹿な……」
イザベラはもう一度シャーラを見た。
シャーラは首環を嵌めたまま硬く唇を噛み、震えを必死になにかを耐えている。
そうか……。
ロウに爆裂の首環を嵌められ、脅され、仕方なく案内したのか……。
あの秘密の王家の通路までも……。
「ロウ、そんなものでシャーラを脅すとは卑怯ではないか……。すぐに外せ」
イザベラは杖を真っ直ぐに向けた。
だが、ロウは嘲笑を浮かべただけだった。
「ねえ、ロウ……。あんた、それが炸裂砂入りの爆裂の首環だって言った?」
そのとき、ミランダの声が不意に響いた。
檻の中を見ると、すでに衣服を着終え、落ち着いた様子で立ちあがったまま、ロウとイザベラを見ている。
「ミランダ、余計なことを言うなよ」
ロウは視線をイザベラから外さずに言った。
「……言わないわよ。ただ……。まあそうね。この姫様には、いい薬ね」
その言葉が耳に刺さり、イザベラは杖を強く握りしめた。
「そ、そんなものをここで爆発させれば、お前も無事では済まぬはずだぞ」
「やれやれ。炸裂砂のことを本当に知らないんだな、姫様。この球体から手を離したところで、飛ぶのはシャーラの首だけだ。この雌犬と心中なんてする気はないよ」
ロウは肩をすくめ、愉快そうに笑った。
「貴様……」
イザベラは怒りで視界が滲むのを感じた。
だが、どう足掻いても、シャーラの首環はロウの握る球体ひとつに支配されている。
これがイザベラが軽い気持ちやった“試し”の結果なのか……。
思わず唇を噛んだ。
「それと、もうひとつ教えておくか。シャーラが身につけている炸裂砂は首環だけじゃない。……特殊な方法で、腹の中にも仕込んである」
ロウが淡々と言った。
「はあ?」
イザベラは耳を疑った。
炸裂砂を“腹の中に仕込める”などという話自体が常識外れだ。
「馬鹿を言うな。そんな真似、できるはずがない」
「どうかな。俺はシャーラに、その“方法”を説明した。シャーラは納得したんだ。だから俺の言いなりになり、案内までした。……そうだろう、シャーラ?」
ロウが横目で見やると、シャーラは蒼い顔で唇を震わせた。
「姫様……どうか、このロウ殿に……降参を……」
絞り出すような声だった。
イザベラは思わず息をのむ。
いま──お前はわたしに降参を勧めたのか……?
「聞いての通りだ。シャーラに教えた方法なら、あんたの侍女にだって仕掛けられる。怖いぞ。周りの者が突然に爆発するかもしれないんだ」
ロウが淡々と言った。
「お前……」
「シャーラは本気で怯えている。俺が“姫様には手を出さない”という条件を出したから、こうして案内してくれた。だが──あんたが俺に手を出すなら、その約束は守らない」
ロウはゆっくりと右手を持ち上げた。
あの薄桃色の小さな球体が手のひらに載っている。
指が緩めば、シャーラの命は途切れる。
ロウが右手に力を込める仕草を示した。
「や、やめろっ」
イザベラは反射的に魔道の杖をロウへ投げた。
ロウは片手で軽く受け止める。
さっき、ロウが告げたように、イザベラの魔道遣いとしての能力は大したものじゃない。杖なしではせいぜい、既存の魔道具を扱えるくらいでしかない。
「姫様……」
シャーラが小さく呻いた。
罪悪感か、恐怖か──複雑な色がその瞳に浮かんでいる。
「……シャーラを殺してみろ……。このわたしが、ありとあらゆる残酷な方法で処刑してやる。貴様だけではない。仲間の女たちも全員だ」
イザベラはロウを激しく睨みつけた。
「どういたしまして。もう手は打ってある。捕まったところで、すぐ抜けられる。俺のことは心配無用だ」
ロウは薄く笑う。
「なんだと……?」
「手の内を全部見せる必要はないだろう。……ただ言えるのは、ここにいるのは俺ひとりで。残りの三人は俺が“捕まったとき”に備えて動いている。それだけだ」
ロウの表情は余裕そのもの。
その不気味な静けさに、イザベラは言葉を失った。
炸裂砂を体内に仕込むなどという手段も、宮殿から脱出する策も、このロウがどうするつもりなのかの見当はつかない。
ただ──シャーラがここまでロウに屈している事実だけが、恐ろしい説得力を持っていた。
炸裂砂を体内に仕込むなど到底あり得ぬと思う。
衛兵に捕まっても、ロウが逃げおおせるという話も現実味がない。
だが、目の前のロウの自信に満ちた顔……。
そして──シャーラが、完全にロウの言いなりになっている事実……。
それが、嫌でもロウの言葉が嘘ではないと告げていた。
「ところで、姫様──“処女の証”というやつを見せてもらおうか。素裸になって、その椅子に座れ。両脚を大きく開いて、自分の指で陰部を左右に広げて見せるんだ」
ロウが淡々と言った。
「な、なんだと……?」
イザベラは怒鳴り返した。
「ロウ殿──約束が違います……」
そのとき、シャーラが小さな声で言った。
少し焦ったような表情をしている気がした。
「……約束は守るさ、シャーラ。陰毛を剃り落とすのと引き換えだったしな。だが、世間知らずの姫様には少しくらい薬が必要だ」
「でも──」
「心配するな。約束は守る……。でも、シャーラばかり理不尽な目に遭ったんじゃ割に合わんだろう? そもそも、挑発してきたのは姫様だ」
ロウが静かに言った。
「……約束は守るのですね?」
「守るよ。拷問まがいの調教に耐えたシャーラに敬意を表してね。でも、そもそも、夜這いを命じたのは姫様だ。恥ずかしい場所を見られるくらいは覚悟のうえさ」
ロウが笑った。
だが、ロウのある言葉に引っ掛かった。
拷問まがいの調教──?
「シャーラになにをしたのだ?」
イザベラは訊ねた。
ロウが薄く笑う。
「大したことじゃない。ミランダの服を持ってきたシャーラを逆さ吊りにし、媚薬を塗って犬のように這わせた。倒れたら気絶するまで犯し続け、意識のないうちに首環を嵌め、腹にも炸裂砂を仕込んだ」
「な……に……」
「それから下の毛を全部剃らせた。自分でな。最後はつるつるの股間に“雌犬”と刺青だ。俺の故郷の文字でな.言っておくが、これは特殊な刺青だ。どんな治療術でも消えん.一生、このままだ」
「貴様という男は……」
「そのあと拷問して宮殿に入る道も白状させた。いまのシャーラには、俺に逆らう気力なんて、これっぽっちも残ってないよ」
「よ、よくも……」
怒りが胸の奥で煮え立った。
「恨むなら自分を恨めよ。俺を知らぬままあんな挑発をしたのは姫様だ。これに懲りたら少しは自重しろ。信頼できる部下の忠告くらい聞くことだね」
「わたしに説教しているのか……」
「しているとも──。冒険者を試すな。王女だからといって俺が頭を下げると思ったのか? あんたは王族というだけで周囲が従う環境に慣れすぎている」
「なっ、なにを言っておる」
「まあ聞け。冒険者はそういうものとは違う。忠誠心などない。ましてや、こんな状況でも俺が王家に敬意を払うとでも考えたか」
「そ、それは……」
返す言葉が口の中で途切れた。
「俺は王族より、俺を慕う女たちを大事にする。危険なものに触れた自覚を持て。それより姫様、早く服を脱げよ……。シャーラがどうなってもいいなら別だけどな」
ロウの手は、シャーラの命を握る球体を軽く支えている。
「ま……待て……」
イザベラは怒りに震えながら衣の紐に手をかけた。
「ひ、姫様……」
シャーラが震える声で呼び止めた。
そしてロウへ向き直り、絞り出すように声を上げる。
「ロウ様……これは承知できません。姫様に……そんなことをさせるわけには……」
一瞬、シャーラの態度が変わった。
イザベラは脱ぎかけた手をとめる。
「落ち着けよ、シャーラ……。俺の手には、爆裂の首環の引き金があるんだ……。これは姫様のためでもある。……いいから、もう黙っていろ」
ロウの強い口調に、シャーラは気落とされたかのように沈黙してしまう。
「ところで、姫様、早く服を脱げよ。次に手をとめたら、シャーラを殺すぞ」
ロウの声音は、底冷えするほど静かで……とても怖ろしかった。