【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「一刻を争うと思います」
一郎は、集まった者たちに言った。
里長のダルカンに対する決起の同士のひとりのプルトという男の家である。
ほかに、セプテ、トリニス、タルト、エクトスというエルフ族の若者がいた。
若者といっても、三十代から四十代であるが、平均寿命が五百年とされる長命のエルフ族では、それでも十分に若いのだ。
部屋には、ほかに、エリカとユイナ、そして、一郎がいる。
全部で八人だ。
エリカによれば、エルフ族は十五歳にして成人の儀を行うというものの、エルフ族の寿命を考えれば、まだ十代のエリカなどは、まだまだエルフ族では、半人前以下の年齢だという。
ましてや、その「従者」ということになっている人間族の一郎が同士の集まりに混ざっていることなど、彼らにとっては不快でしかないことは予測がつく。
だが、ここは勢いで押し切ることにした。
一郎には、いまがどんなに危うい状況なのかがわかっていた。
トーラスという元里長にも、イライジャというエリカの昔馴染みにも会ったことはないが、放っておけば間違いなく殺されると思う。
一郎にはそれがはっきりと予想でき、それだけに遠慮などしている場合ではないと自分を鼓舞していた。
トーラスとイライジャがさらわれたということがわかったあと、一郎はユイナに進言して、すぐに「決起の同士」をここに集めてもらった。
プルトの家は、ふたりが捕らわれているはずの里長のダルカンの「北の別宅」と里の中央部の中間付近にあり、トーラスたちが襲撃をされて誘拐された里外れの家からもほぼ等距離にあった。
一郎が考えている策の拠点としては、恰好の位置だ。
決起の同士たちは、お互いに連絡を取り合う手段を魔道により準備していたらしく、ユイナがそれを使って五人をここに集めるのに、一ノス、すなわち、一時間弱の時間しかかかっていない。
あとは、これから事を起こすまでに、どのくらいの時間が必要なのかだ。
「その前に、お前はなんだ? なんで、人間族がここにいるのだ。それを説明してもらおう」
不機嫌そうに口を開いたのは、エクトスという男だ。
一郎は魔眼の能力により、このエクトスというのが、プルトとともに、戦士としても、魔道遣いとしても手練れであることがわかっていた。
特に、このエクトスは、ジョブレベルが「魔法戦士」であり、魔法戦士のレベルは〈レベル20〉だ。プルトは、それに次いで腕が立ち、戦士レベル〈レベル15〉、魔道遣いレベルは、〈レベル10〉。残りの三人は、いずれのジョブレベルも〈レベル4〉を越えていない。
「彼はわたしの従者です。わたしはイライジャの昔馴染みであり、たまたま、この里を訪ねようとしている途中で、襲われているユイナを彼とともに助けたのです」
エリカが素早く言った。
エクトスはさらになにかを喋ろうとしたが、それをプルトが制した。
プルトには、ここにやってきてすぐに、事情と一郎の策を大まかに事前説明していた。
プルトも「決起」に関することに、人間族の一郎が参加するのは本意ではないとは思うが、そうも言っていられない事態だということは理解してくれていた。
「とにかく、話を聞くのだ──。トーラス殿とイライジャが連れていかれたというのは、さっき説明したとおりだ。いまは、このエリカやロウという男の素性を詮索している暇はない。俺はこいつの話を聞くと決めた。お前らも聞け」
プルトが言うと、エクトスはとりあえずは口をつぐんだ。
彼らの同士の中で、リーダー的な立場にあるのは、このプルトだ。
年齢も一番上だし、事故で死んだことになっているトードの無二の親友だったらしい。
最初に決起の同士を集め始めたのは彼であり、決起のための定期的な会合もここで行われていたようだ。
全員が一郎に視線を向けた。
一郎はまずは大きく深呼吸した。
正直に言えば、この状況に、戸惑いがないといえば嘘になる。
なんで、こんなところで「軍師」のようなことをやろうとしているのか、自分自身でも当惑するばかりだ。
一郎は、自分が英雄でもなければ、こうやって、自分よりも遥かに強いことがわかっている集団に加わって率先して主導的なことをしようとする性格でもないことは知っている。
柄にもないことをやろうとしているのは十分に承知しているのだ。
ましてや、これからやろうとしているのは、もしかしたら命を失うことになるかもしれない「人助け」だ。
だが、これは必要なことだ。
一郎の魔眼保持者としての「勘」がそう言っている。
そして、ここで一郎が勇気を失って遠慮すれば、おそらく、イライジャというエリカの昔馴染みは殺されると思う。
トーラスというイライジャの義父も同じだ。
なぜか、一郎にはそれが洞察できる。
すぐに動き出さなければ……。
一郎がなにもしなければ、おそらくそうなる。
どうして、自分にそれがわかるのかは知らない。
この異世界にやってきて、一郎は自分ではない自分になったという気がする。
女など抱いたことがなかったのに、物怖じせずに自信をもって性愛を交わすことができる。
なぜか物事をはっきりと筋道を立てて理解でき、どういう行動をすれば有利なのかを見極めることができる。
自分がやるべきことが不思議に頭に浮かんでくるのだ。
いまもそうだ──。
さらに、必要だと思えば、勇気を絞り出すことができる。
それが、この異世界への召喚によって、一郎に与えられた能力のひとつなのだろうか……。
とにかく、一郎はイライジャという女性とトーラスという男を救いたいと思った。
そして、そのために全力を尽くすことを決めている。
「トーラス様とイライジャ様のおふたりは、まだ、逮捕されたわけではありません。さらわせたのは、里長のダルカンに間違いないと思いますが、そのダルカンは、クリスタル石の密売の悪事をふたりになすりつけるつもりなんです。そして、殺されます」
一郎は言った。
事前に話を説明したプルトとエリカ以外は、驚いた表情になった。
一方でユイナは、蒼白な顔でさっきからずっと押し黙っている。
トーラスの家に戻るまでは、ずっと一郎に対して軽蔑そのものの視線を向け、たびたび悪態もついていたが、いまはただ思いつめたように押し黙ったままでいる。
また、なぜ、そんなことがわかるのかと詳しく問われれば、明確な証拠を一郎がいまここで提示することは不可能だ。
しかし、それは必要はない。要は目の前のエルフ族の男たちを説得できればいいだけ だ。だから、一生懸命に自信たっぷりに喋っている。
「さらわれたというのは承知しているが、ま、まさか……。そこまでするか?」
セプテという男が信じられないという口調で言った。
「するでしょう。トーラス殿というお方は、ダルカンの不正の証拠をすっかりと暴き、それをガドニエル女王陛下のところに直訴するほどに整えていたのです。ダルカンは追い詰められたと思ったに違いありません。だから、これほど、思い切った策を取ったのです……」
「思い切った策?」
セプテだ。
「追い詰められた者はなにをするかわかりません。考えられるのは、トーラス殿かイライジャ殿に自白書かなにかを強要して、自分たちの悪事をさらったふたりになすりつけることです。もちろん、トーラス殿が集めた証拠は、トーラス殿とイライジャ殿が悪事をしていたという証拠に置き換えられるでしょう」
魔道が当たり前のエルフ族の里では、自白書を書かせるとき、自白の内容が書かれた羊毛紙に魔力を込め、それに告白の言葉を刻ませるのだと説明された。
ただ「罪を認める」と呟くだけで、それが自白書として認められてしまうのだ。
つまり、拷問でもなんでもいいから、とにかく、罪を認める言葉を言わせれば、それは正式の裁きの証拠となるようだ。
「だったら、裁きの場で連中の策略など覆してやるとも。こっちにも、連中の悪事の証拠はあるんだ。それこそ、族長会議に話を持っていけばいい」
今度は、タルトが口を挟んだ。
一郎は首を横に振る。
「連中は裁きなどするつもりはありませんよ。そんなことをすれば、自分たちに都合の悪いものが出るかもしれないのはわかっていますよ……。自白書に言葉を刻まさせれば、ふたりは自害というかたちで殺されます。彼らは悪党です。それを考えなければなりません」
自分で説明しておいて、本当にそんなことになるだろうかという思いもしていた。
だが、どう考えてもそうなるのだ。
「自白書」を強要したら、あとは逆に生かしておくわけにはいかない。
それを拷問で強制されたなどと言わせないためにも、イライジャとトーラスは殺さねばならない。
「た、確かに……。あのダルカンならやりかねん……。いや、考えてみれば、そうだ。そうに違いないぞ……。これは、一刻を争うのだ。この人間族の言うとおりだ──」
エクトスが今度は血相を変えた様子で膝を叩いた。
一郎はさらに続けた。
「……おそらく、ふたりは拷問を受けているでしょう。自白書を強要されているはずです。しかし、罪を認める言葉を一度言えば、殺されます。自白書は、どちらかひとりのもので十分です。ひとりが落ちれば、もうひとりも殺されます」
一郎ははっきりと言った。
どんな拷問をされているかまでは予想はつかない。
ふたりはどのくらい頑張れるだろうか……?
とにかく、ふたりが粘っているあいだに、ふたりを助け出さなければならない。
「すぐに立とう、プルト──。もはや、猶予はない。討つのだ──。ダルカンを殺して、ふたりを助ける──。これしかない──」
大きな声をあげたのは、トリニスという男だ。
だが、一郎はそれを制した。
「駄目です。うかつに動いては、最初にふたりが殺されてしまいます。ふたりは人質にとられているのです。それを考えなければなりません……」
全員が一郎の話に耳を傾けている。
一郎はさらに続けた。
「……まずは、ふたりを奪い返す。それから考えましょう。ふたりを奪い返してしまえば、連中がふたりを誘拐して、拷問をしたという生き証人です。考えるのはそれだけいいんです」
「……うむ」
一郎の言葉に、圧倒されたかのように全員が頷き、ブルトが代表するかのように返事をする。
「……そして、トーラス殿が集めた証拠も取り戻せれば、それが確かなダルカンの悪事の証拠になります。それでダルカンの罪は露見します。思い切ったことをするのはその後でいいのです」
「わかった。では、詳しく説明してくれ」
さらに、プルトが言った。
一郎は策を語った。
ある程度は、事前にプルトとエリカとユイナには説明している。
まずは、大きく二手に分かれ、ひとつは里の中心において決起をするのだと噂を拡げるように騒ぎを起こす。
そうすれば、ダルカンも身の回りを固めるために人を集めると思う。
すると、当然に北の別宅の備えは緩む。
その隙を突いて、奪い返す。
「……というわけです。それでどうでしょうか、皆さん?」
一郎は言った。
「なるほど、ではすぐにやろう──。ほかに手段はないし、この人間族の言うとおりに事態は急迫している」
プルトの決心は早かった。
ほかの四人の全員が頷く。
一郎も見ていたが、異存はなさそうだ。
とりあえず、一郎はほっとした。
「まずは、煽動組と救出組に分かれよう。煽動には、セプテ、トリニス、タルトがあたれ。救出は、俺とエクトスの組でやる。それでいいな──?」
プルトが一郎に言った。
さすがに、プルトも一郎を認めるつもりになったのだろう。
一郎はそれで結構です、と応じた。
そして、救出がなされたとわかるまで、騒動は起こしても、絶対に決起に至ってはならないと念を押した。
最悪の状況は、早々に決起を起こして鎮圧され、イライジャとトーラスを救えずに、彼らも殺されることだ。
あるいは、騒乱が思わぬかたちで大きくなれば、連中は、自白書が取れなくても、ふたりを殺して、証拠を隠滅してしまうかもしれない。
全員が頷く。
「……ただし、問題がひとつあります。ふたりが捕らわれている場所が、本当にダルカンの北の別宅であることを確認しなければなりません。救出組がそこを襲って空振りになれば、やはり、ふたりは殺される可能性が高くなります。連中はどんなことでもやるかもしれないと考えなければ……」
「でも、それはどうする?」
プルトだ。
ここから先の話は、時間がなかったのでプルトには説明していない。
エリカにもユイナにもだ。
だが、一郎には気がついてしまった。
唯一にして、最適の方策を……。
気がついてしまったのだ──。
「……ひとりを事前に潜入させます。確かに、そこにふたりがいることを確認できたら合図をします。それで突入するんです」
「なるほど、だが、誰が……」
プルトが一同を見渡し始める。
一郎はすかさず口を挟んだ。
「俺が行きます。なにか合図ができるような道具を与えてくれませんか? 俺が潜入して、確かにふたりがいると確かめることができたら、合図を送ります」
一郎は言った。
「だ、だめよ、危険よ──」
いきなり、大きな声がした。
それは、いままでずっと黙っていたエリカだ。
一郎が事前の潜入役になると立候補したことに驚愕している。
「俺でないとならないんですよ、ご主人様……。ふたりがいるかどうか……。それを見極めるのに、俺以上にうってつけの者はないと思いませんか?」
一郎には、魔眼の力がある。
事前に聞いた限りにおいては、別宅といっても大きな屋敷のようなので、屋敷の外からではわからないと思うが、中に入りさえすれば、ふたりがいるかどうかはすぐにわかる。
しかし、それは危険だ。
下手をすれば、忍び込もうとしたところで、その場で殺される可能性もある。
一郎だって、あえて危険を冒したいわけじゃない。
だが、なにをどうやって考えても、この役割にうってつけなのは一郎しかいないのだ。
「で、でも……」
エリカは当惑している。
「危険なことになったら合図を送りますよ、ご主人様……。そのときは、必ず、助けてくださいね」
一郎は言った。
「よし──。時間もない。お前を信じる。握りつぶせば、自動的にそれが待機している俺たちに伝わる合図の球体を渡す。それを持っていってくれ。頼むぞ、ロウ──」
プルトが言った。
エリカはまだ納得のいかない表情だったが、それ以上はなにも言わなかった。
プルトが細かいやり方の説明を始めた。
一郎はしばらく黙っていた。
プルトの定める細かい各人の任務についてまで、口を挟むつもりはない。
全員の役割は定まった。
エリカは救出組に加わり、ユイナはここで連絡係をすることになった。
解散した。
一郎はさっそく北の別宅に向かうために出立をすることにした。
「あ、あの……」
すると、ユイナが不意に声をかけてきた。
「はい」
一郎は振り返った。
ユイナはなにか言いたげに口を開いた。
さすがにユイナは元気がなく、一郎に向かって悪態をつき続けたときの気の強さは影を潜めている。
「なにか?」
なかなか口を開こうとしないユイナに一郎は言った。
「いえ、なんにも……」
ユイナは家の奥に行ってしまった。
結局のところ、なにか意味のある言葉がユイナから発せられることはなかった。
「痒いいい──」
イライジャはあまりの痒さに歯を噛み鳴らしながら悲鳴をあげた。
「ああ、痒いだろうねえ──。このヴォロノサ特製の拷問油だからね。発狂するような痒みが襲い続けるよ。我慢できなくなったら、さっさと自白書に言葉を刻むんだ──。どうせ、我慢できるわけがないんだから、さっさとしな」
ヴォロノサと名乗った人間族の女が酷薄な声をあげた。
だが、イライジャは、それどころではなかった。
骨まで突きあげるような痒みが襲い続けている。イライジャは狂ったように身体を揺さぶり続けた。
素っ裸で拘束された全身をダルカンの部下のガルシアをはじめとして、多くの男たちに見物されていたが、それを恥ずかしがるような感情はあっという間に吹っ飛んだ。
怖ろしい痒み剤を股間の奥まで塗り込められた苦痛に、イライジャは絶叫した。
男たちを一定の距離に遠ざけさせたあと、ヴォロノサはイライジャの正面に椅子を運ばせて、余裕たっぷりの表情で腰かけた。
イライジャは痒い痒いと泣き叫び続けた。
男たちに野次のような言葉はかけられるが、ヴォロノサ自身はしばらくのあいだ、にやにやと嘲笑を浮かべて、イライジャの狂態を見守るばかりだった。
イライジャがヴォロノサに哀願するまでには、そんなに長い時間はかからなかった。
しかし、ヴォロノサはイライジャの苦痛を見定めるように、イライジャが拘束された身体を激しくよじり、荒々しい喘ぎをするのをただ見るだけでいた。
「痒いかい、イライジャ?」
やっとのことヴォロノサが言った。
「ああ、痒い──痒いの──。ああっ、お、お願い、許して──。痒い──」
イライジャは吠えた。
我慢できるような痒さではない。
女としての尊厳も誇りもすべてを掻き消してしまうような苦しみだ。
イライジャは自分がどうなっているかもわからなくなり、ただ、ぼろぼろと涙を流した。
すると、顔の前に魔力のこもった一枚の羊毛紙がヴォロノサによってかざされた。
イライジャははっとした。
「だったら、この羊毛紙に向かって、『認める』という言葉を刻むんだ。言葉を発するだけでいい」
「そ、そんなことは──」
イライジャは悲鳴をあげながらも、はっきりと拒絶した。
「だったら、もう少し腰を振ってな。この痒み剤には解毒剤はないんだ。痒みを押さえるためには、股に男の精を放ってもらうしかない。早くしないと、あの男たちはどこかに行ってしまうかもしれないよ。そうなると、今度はあたしにだって、どうしようもなくなるんだ……。だから、さっさとしな。ほら、言うんだ──。『それを認める』ってね」
しかし、イライジャは懸命に首を横に振り続ける。
ヴォロノサがはじめて、笑みを消した。
「ふん──。思ったよりも、気は強そうだ。そんな顔をしているよ。よし、しばらく、放っておこう──。まだ、苦しみ方が足りないんだろうさ……」
ヴォロノサが羊毛紙を引っ込めながら言った。
そして、部屋の中にいる男たちを部屋の外に促し始める。
「ま、待って、置いていかないで──。き、気が狂う──。本当に狂う──」
イライジャは激しく腰を揺さぶりながら、声を張りあげた。
痛みにも似た痒みが、イライジャの精神力を根こそぎ削いでいく。
これ以上耐えられない──。
だが、耐えなければ──。
応じてしまえば、どうなるかはわかりすぎるくらいにわかっている──。
だが、こんなこと耐えられるわけがない。
しかし、ヴォロノサは本当に男たちとともに立ち去ってしまった。
イライジャは、部屋にひとり残された。
「痒い──ああ──か、痒い──。だ、誰か──誰か、助けて──」
イライジャは大きな声をあげて泣きじゃくった。