【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
目覚めた瞬間、窓から差す日の光の角度と、床に伸びた影の長さで、いまが夕方だと悟った。
骨がきしむような感覚がある。
「ああっ、お目覚めになったのですね。よかった」
寝台の横にいたシャーラが感極まったような声をあげた。
視線を向けると、眼に涙を浮かべている。
「本当によかったです。 二日間も身じろぎせずに眠り続けておられたので、もしかしたら治療に誤りがあったのかと……」
ミランダの声だ。
二日間──? そんなにも眠っていたというのか?
ここが宮殿敷地内にある小宮殿で、イザベラの寝室であるのは間違いないようだ。
また、ぼんやりした視界のなかで、頭の横に椅子を寄せて座っているシャーラに対して、ミランダは足元側で同じように椅子を寄せて座っている。
ふたりとも、随分と長くここにいた気配だ。
だが、なぜミランダがここにいるのか──それが引っかかった。
とにかく身体を起こそうとした。
「ひ、姫様、まだ横になっておられた方が……」
シャーラが心配そうに言う。
「いや、もう大丈夫じゃな。むしろ起きて身体を動かした方がよい」
そのとき、聞き覚えのない老いた女の声がした。
声はシャーラとミランダが座っている側とは反対方向からだ。
気だるい首をそちらへ向けると、寝台の脇にひとりの老婆が椅子を寄せて腰かけていた。
痩せた身体に色の褪せた外套──。白髪はゆるく束ねられているが、ところどころ乱れ編みかけがほどけたように見える。
深い皺に覆われた顔つきだが、目だけは鋭い光を宿し、年齢に似合わぬ覚醒めいた気配を放っていた。
「そなたは誰だ?」
イザベラは言った。
「ミランダに呼ばれた医師じゃ……。とにかく、毒の影響はすでにない。それよりも、二日間眠っていた方の影響がある。胃も弱っておるだろう。明日の朝までは柔らかいものだけを食せ。それ以降は、食えるならなんでもよい」
「医師だと?」
シャーラに支えられ、寝台に半身を起こす。
少なくとも宮廷医師ではない。治療術を使う神官でもなさそうだ。
だが、老婆が口にした“毒”という言葉で、途切れていた記憶が繋がる。
小宮殿で夕食を取っていたときだった。
突然、胃が焼けるような感触が走り、血を吐いたのだ。
それから先は、なにも覚えていない……。
おそらく、あのとき料理に毒を盛られたのだろう。
それにしても、すでに二日が経っていたとは……。
「なにがあった?」
イザベラはシャーラに訊ねた。
シャーラが答えようとしたが、ミランダが軽く手を上げて制した。
「もう行っていいわ、バルバサ。 クエストの報酬はギルドで受け取って。 特別報奨も追加するわ。 それと、宮殿からの諸謝金も後日には出るはずよ」
「そりゃあ、ありがたいのう……。 それでは、行くとする、ミランダ……。 それと、ごきげんよう、姫様」
バルバサと呼ばれた老婆が荷を持って立ちあがる。
シャーラが呼び鈴を鳴らし、侍女を呼んだ。
やって来たのは、十人いるイザベラの侍女の中で、トリアとノルエルという者だ。
トリアは男爵家侍女、ノルエルは商家の娘だ。
いずれも、本来であれば、王女であるイザベラに侍れる身分ではないのだが、“タリオ派”とも呼ぶ上級貴族はほぼキシダイン派閥なので、イザベラの侍女を出し渋っているのだ。だから、現状として召し使いたちを引きあげて、身の回りの世話をする侍女にしている。
そういう立場の侍女がイザベラには十人ついている。
「姫様、よかったです」
トリアが涙ぐんだ。ノルエルもほっとした表情になっていた。
そのトリアたちにバルバサを宮殿の外まで送らせるつもりなのだろう。
トリアたちとともに、老女が出ていく。
「いまのは、外の医師か?」
イザベラは彼女たちが部屋からいなくなるのを待ってから訊ねた。
「あたしの手配した冒険者の医師です。多少偏屈なところはありますが、腕は確かです。 信用のならない宮殿医師より、よほど安心できます」
ミランダが応じた。
「わたしは毒に当たったのだな?」
イザベラは記憶を辿りながら言った。
昏睡したイザベラを宮廷医師に診せれば、治療の名でさらに毒を盛られる危険もあると判断したのだろう。
ミランダはそれを避け、外部から治療者を呼び込んだのだと思う。
判断の速さと正確さに、イザベラは内心感謝した。
「そうです」
シャーラが言った。
「そうか。 それで、誰が毒を盛ったかわかったか?」
イザベラの食するものは、大抵、この小離宮で侍女たちが交代で作る。
王太子の地位をめぐってキシダインと争うようになってからは、ずっと用心してきた。
王宮の厨房にも任せず、侍女たちにだけ料理を作らせていた。
夜会に出ても飲食には口をつけず、常に警戒していたのだ。
それでも、この小離宮の内部にまでキシダインが手を伸ばしたとなれば、口惜しさとともに、遅れて恐怖もこみあげてくる。
いずれにせよ、どうやって毒を盛ることができたのかだ。
シャーラが口を開いた。
「誰が毒を盛ったかは、まだわかりません。ミランダが冒険者に調べさせたところ、エルニア魔道王国の特殊な魔道毒の可能性が高いそうです。本来なら毒探知に掛かるはずですが、今回の毒は宮殿の最高探知すら潜り抜けました。エルニアの魔道毒なら、それもあり得ます」
「エルニア魔道公国の魔道毒だと? ありえん。エルニアは鎖国中だ。我が国にエルニア産の毒が入ってくることなどない」
イザベラは断言した。
ハロンドール宮殿内には多種の魔道探知が施してあり、本来なら魔道毒は即座に感知される。
厨房にも毒の持ち込み防止の結界が張られており、通常の毒を紛れ込ませることなど不可能だ。
しかし──エルニア産となれば話は別だ。
あの国は独自の魔道体系を持ち、ハロンドールでは探知できぬ術式も多い。
もっとも、エルニアは鎖国中で、強力な結界で国境を封じている。
物流は当然断たれ、国境警備も厳重で、産物が国外に流れることは滅多にない。
本来であれば、ハロンドールに入るなどあり得ぬはずだった。
「しかし、姫様の症状と残った料理を調べたところ、エルニアでしか作れないフィーイの毒の可能性が高いと、数名の見解が一致しました。鎖国下でも流出は絶対にないわけではなく、断定した者たちは過去にその毒を扱った経験があるそうです」
ミランダが口を挟んだ。
イザベラは眉をひそめた。
「フィーイの毒? 耳にしたことはないな」
「魔道探知ではもっとも見つかりにくい毒です。その一方で、魔道力がある者には効きませんが、魔道力の低い者には致死の猛毒になります」
「わたしの魔道力の弱さをつけ込まれたということか」
イザベラは苦笑した。
ルードルフ王の血を引く三人の異母姉妹のうち、上の姉ふたりは魔道力が皆無であり、イザベラの魔道力も高いとは言えない。
シャーラはイザベラの口に入る飲食物の毒見を自ら務めることが多いが、魔道力の高いシャーラなら、フィーイの毒は無力化されてしまうだろう。
つまり──イザベラだからこそ毒に当たったわけだ。
「いずれにせよ、エルニア産の魔道毒がハロンドールに出回っているのか?」
「証拠はありませんがおそらく……。エルニア産の魔道薬を裏ルートで持ち込む手段など、あたしでもいくつも思いつきます。国の取り締まりなど、その程度です」
ミランダは断言した。
イザベラは黙るしかない。
王宮からほとんど出ないイザベラに、裏社会の事情などわかるはずもない。
嘆息しながら、ふと思い出す。
──そういえば、あの男が言っていたな……。
“信頼できる者の意見に耳を傾けろ”……と。
物を知らぬのに、つい断言してしまうのは自分の悪癖だとイザベラは思った。
「わかった……。引き続き頼む、ミランダ。だが、裏にいるのは、あの男で間違いあるまいな?」
もちろん、“あの男”とは、姉アンの婿であるキシダイン公のことだ。
イザベラを排除して第一王位継承権を奪おうとしているのは明白で、これまでにも幾度となく暗殺を仕掛けてきた。
今回ほど死に近づいたことはなかったが……。
イザベラの言葉に、シャーラもミランダも静かに頷いた。
「その線で調べています……。そして、キシダイン公の息のかかった者の仕業だと見れば、毒の入手経路だけは、浮かんでくる連中がいます」
「誰だ?」
「自由商会連合です。あそこなら、こうした毒の横流しも可能でしょう」
シャーラの言葉に、イザベラは眉を寄せた。
「自由商会連合か……」
自由商会連合──。
最近、王国内で急に勢力を伸ばしてきた新興商会の連合集団だ。その背景には、タリオ公国が推し進める“自由流通”の考え方がある。
そしてタリオ公国は、キシダイン公が政治的に寄りかかる最大勢力であり、自由商会連合は事実上の“タリオ派”、すなわち、キシダイン支持勢力でもあった。
「西海岸国家を経由すれば、タリオ公国に入れることは難しくありません。そこからハロンドールへ流すのも造作ないはずです。国境ではタリオ産の流通までは厳密に検査しませんし」
シャーラが続ける。
自由商会連合とは、もともとタリオ公国で商業ギルドを解体し、誰でも商える自由流通を導入したことに端を発した組織だ。
その成功により、タリオは飛躍的に富を蓄え、いまでは周辺諸国の商いを飲み込む勢いを持つ。
そして最近では、ハロンドール国内でも、いくつかの領主域がタリオ派の影響を受け、自由流通を受け入れ始めている。
これを後押ししているのが、キシダイン公だ。
彼は王都で自由物流の参入を許可し、その結果、商業ギルドと自由商会連合という二つの物流組織が王都に並立する状態を生み出していた。
商業ギルドは猛反発しているが、キシダインは強硬に自由流通派を推し進めている。
ならば、彼に恩を売りたい勢力が禁制のエルニア産魔道毒を横流しした──そう考えるのは自然か……。
「王国内の自由商会連合の会長は、あのマアだったな?」
イザベラは呟いた。
その自由商会連合の中でも、とりわけ力を持つのが「マア商会」である。
商会主としては半隠居状態らしいが、連合会の会長であるマアという六十過ぎの初老の女は、タリオでも指折りの大商会を率いる人物であり、イザベラも数度会ったことがある。
ひと癖もふた癖もある女──。
あの雌狸なら、あるいは……。
「今回の件の調査は──ミランダが冒険者ギルドに働きかけ、協力を得るつもりです。冒険者に頼るのは姫様には不本意でしょうが……わたしひとりでは限界があります」
すると、シャーラが意を決したように言った。
「いや、ミランダに任せる」
イザベラは即座に応じた。
シャーラとミランダの眼が一瞬だが、驚いたように大きくなった。
「……よいのですか?」
シャーラだ。
「よい。冒険者を使え」
イザベラは頷く。
「わかりました。信頼できるパーティに極秘クエストとして探索させます」
ミランダが椅子の背を正し、慎重な口調で続けた。
「とにかく、犯人を見つけ出せ。侍女たちの中に毒を盛った者がいるのだろう」
イザベラは嘆息した。
「……それと、キシダイン卿が今回の件で王宮で動いています」
シャーラが続けた。
「まだ、なにか仕掛けてきているのか?」
イザベラは眉をひそめる。
「姫様が倒れて、誰ひとり責任を取らないのはおかしいと、王妃様に進言しているようです。形式上、食事の管理と監督は侍女長であるわたしの務めです。キシダイン卿はわたしの解任を求めています」
「シャーラの解任だと?」
イザベラは唖然となった
「姫様が食あたりを起こした以上、侍女長の監督責任は明白だ──そう主張しています。王妃様にも同じ意見を吹き込んでいるようです。形式だけ見れば、理屈として通ってしまうのが厄介です」
「キシダインめ……。次から次へと、よくもまあ厭なところを突いてくる」
イザベラは舌打ちした。
第一姉アンの夫であるキシダイン公は、ここ一年で急激に王宮内の影響力を増し、イザベラを圧迫するように仕掛けを重ねていた。
今回の事件を口実に今度はシャーラを引き離そうというのか……。
「はい。ですから、姫様にご相談を──」
「相談もなにも、シャーラを離す気はない」
イザベラは強い口調で遮った。
「そなたはわたしの身の回りを任せられる唯一の侍女長だ。誰の差し金であろうと、解任などさせぬ」
その言葉に、シャーラはかすかに目を伏せたが、その瞳には深い安堵が宿っていた。
「ありがとうございます」
「とにかく──シャーラがわたしから離されることなど絶対にありえん。父上も、さすがにそれだけは理解しておられる。安心せよ、シャーラ」
イザベラは落ち着いた声で言った。
「はい、姫様……」
シャーラは返したが、声には力がなかった。
「どうした?」
「……実際のところ、姫様に毒を許してしまったのは、わたしの落ち度です。もしわたしが傍にいれば、姫様を二日も昏睡させるようなことは──」
「まあ、そうではないだろう」
イザベラは制した。
「ですが……」
「いや……。さきほどのとおり、フィーイの毒なら、魔道力の高いそなたでは効果が出んのだろう? 毒味をしても、魔道力の低いわたしだからこそ──毒に当たったのだ」
イザベラは苦笑したが、シャーラは真剣なまま首を横に振った。
「いえ、違います。わたしの魔道力ならフィーイの毒でも即座に解毒できたはずですし、王宮魔道師が見逃した魔道薬も探知できたと思います。ですが──姫様が倒れた時、わたしは宮中におらず、対応が遅れました。それが落ち度です」
確かに、あの時シャーラは側にいなかった。
いつもなら必ず傍にいるというのに、ここ最近は外出が増えていた。
イザベラは肩をすくめ、わざと軽口を叩いた。
「だったら、そうかもしれんな。そなたが外出ばかりしていたのは、小離宮の者は皆知っておったぞ。まあ……キシダインの手の者が動きやすくなった原因でもあるだろう。さしずめ、あのロウと毎日乳繰り合いに行っておったか?」
本気で責めるつもりはなかった。
シャーラがいなければ、イザベラなどとうに暗殺されていたのだから。
「ち、違います。……ロウ殿のところの日もありますが、事件のあった日やその前の数日は違います。わたしは、第二神殿に行っていたのです」
シャーラは顔を真っ赤にして言った。
「第二神殿? ベルズのところか?」
イザベラはシャーラを見た。
シャーラが説明を始める。
それによれば、どうやら、シャーラは魔道修行のためにベルズに師事していたらしい。
一か月前に、ミランダを監禁してロウを試そうとして手酷くお仕置きをされたことがあったが、それを機会に知り合ったベルズに頼み、シャーラは自分の魔道力を上げるために定期的な指導を受けていたそうだ。
「……とにかく、ご覧ください、姫様」
シャーラが立ちあがった瞬間──目の前に空間の歪みが生まれた。
そして、シャーラがそこへ踏み入る。
その姿が一瞬で掻き消え──。次の瞬間、寝台の反対側にシャーラが現れた。
「えっ?」
イザベラは息を呑んだ。
「移動術です。わたしは……これを遣えるようになりました」
ぽかんと口を開けたまま、イザベラは言葉を失った。
移動術は高度な魔道で、単独で扱える者など王都に三人しかいない。
「す、すごいぞシャーラ……。急にどうやってそんな……べルズの教えか?」
イザベラが身を乗り出すと、シャーラは少し迷いつつも口を開いた。
「そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。……わたしは、ロウ殿の影響だと思っています」
「ロウ?」
「わたしがロウ殿と……男女の関係になったことはご存じですよね、姫様」
「知っておる。わたしの前で抱きあっておっただろう。いまでも通っておるのも知っておる」
「……そのことで、魔道力が上がったのだと思います」
「はあ?」
イザベラは思わず声を上げた。
ロウと関係するだけで移動術が扱えるほど魔道力が上がるなど、馬鹿げている。
だがシャーラは冗談を言う顔ではない。
「わたしだけではありません。スクルズ様も申していました。ロウ殿と関係してから魔道が恐ろしく伸びたと。ベルズ様も同じことを……」
シャーラの言葉に、イザベラはミランダへ視線を向けた。
「……お前も、魔道力があがったのか?」
ミランダはあっさり頷いた。
「わたしの場合は魔道力というより、身体能力です。以前とは比べ物にならないほど斧が自在に振れますし、身体が軽い。ロウと関わった女の能力が向上する──これは、もう疑いようのない事実です」
ミランダは、ロウと関係があることをあっさり認めるように言い、そして自分も能力が上がったのだと続けた。
「それで考えました。姫様もロウ殿に抱いていただくのがよいかと。姫様の力も引き上げられ、毒の判別や無効化ができるほど魔道力が上がる可能性があるのではないかと……」
シャーラが真剣な顔で言った。
「はあ?」
イザベラは呆然としたが、シャーラはかまわず続ける。
「……それに、いまは信頼できる協力者を得るのが急務です。ロウ殿はキシダイン卿の息がかかった者ではありませんし、あの方が愛人を大切にするのは先日の一件でもよくわかったはずです」
シャーラがまくし立てるように言う。
すると、ミランダも身を乗り出す。
「シャーラとも話し合いました。つまりは、姫様もロウ殿の愛人になられるべきと……。あのロウにはあたしが説得します」
イザベラは呆れ果てた。
「な、なにを言うか……。あの一件のとき、ロウに抱かせて家人に取り込もうと言い出したのはわたしだぞ。それを寄ってたかって反対したのは、お前たちふたりであろう」
「ですが、あの時点では、キシダイン卿との対立がここまで深刻になるとは思っていませんでした。それに、ロウ殿に女の能力を底上げする力があるなど、知りませんでしたし……」
シャーラが言い淀む。
「とにかく、姫様、ご決断を」
ミランダが真剣な眼差しで言った。
シャーラも横で頷く。
「決断もなにも……わたしは最初からその気なのだ。ならばロウを呼べ。覚悟はできている……いや、身体を清めてからでよいか……。すぐに風呂を──」
イザベラが勢いよく寝台から起き上がろうとした瞬間、シャーラとミランダが慌てて止めた。
「いまはまだ病みあがりです。二日も飲まず食わずだったのですよ。まずはお粥を召しあがってください」
「それに、ロウに抱いてもらうなら、姫様のほうから向かわれた方がよいでしょう。シャーラの移動術もありますし、ひそかに外へ出るのは簡単です」
ミランダも続けた。
「……そうか」
言われてみると、まだ全身にだるさが残っている。イザベラは素直に頷いた。
するとミランダが、どこか言いにくそうに口を開いた。
「……それと、ひとつ申し上げねばなりません。ロウには、多少……特殊な性癖があります」
「性癖?」
「あの男は、女を嗜虐して抱くのが好きなのです。縛ったり、辱めたり……。それさえ我慢すれば優しい男ですが、愛人になるということは、ロウの鬼畜趣味に付き合うということでもあります」
「鬼畜趣味?」
「鬼畜というより“調教”ですね。あいつはそう言ってます。つまりは、姫様がロウの愛人になるということは、ただ抱かれるわけではなく……おそらく、調教されることになるかと……」
「調教って……わたしがか?」
イザベラは唖然として声をあげた。
「おそらく……。あの男のことなので、姫様といえども例外ではありません」
ミランダが深刻な表情で言った。