【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「おお……」
イザベラは部屋の光景を見た瞬間、息をのんだ。
大きな部屋ではない。だが、王宮の舞踏会場を模したような広間が、そのまま再現されていた。
天井には、宮殿の大広間にしか吊されないはずの巨大な水晶燭台が降りていた。無数の光が星屑のように散り、床へ虹色の影を落とす。
壁の調度品は宝物庫に並ぶ品と見まごうほどで、金糸のタペストリや精緻な彫像が静かに威光を放っていた。
魔道の七色光が壁面を流れ、空気そのものが舞踏会の余韻をまとったように揺らめいている。
部屋の一画には、選び抜かれた葡萄酒が並び、焼きたての肉料理や艶やかなソースが湯気を立てていた。
まるで王宮の晩餐会をそのまま切り取って持ち込んだような、隙のない贅が満ちていた。
そしてなにより、イザベラの目を奪ったのはロウの姿だ。
いつもの冒険者装束ではない。
漆黒の社交礼装が身体の線に沿って完璧に仕立てられ, 王族の舞踏会に立つ貴公子そのものだった。胸元の銀飾が魔灯に照らされ、淡い光を返す。
寝着一枚で来てしまった自分を思い、イザベラは奥歯を噛みしめた。
──着飾って来るべきだった。
──いくら相手が冒険者といえど、これはあまりにも無作法だ。
「お待ちしておりましたよ、姫様。さあ、踊りませんか?」
ロウがすっと手を差し出した。
「えっ、そなた……踊れるのか?」
「練習したんですよ。さあ……」
差し伸べられた手を取った瞬間、舞踏曲が部屋に満ちた。
イザベラはロウの腕の中へ誘われ、吸い込まれるように身を預ける。
ロウが一歩踏み出した瞬間、イザベラの足もつられるように動いた。
「あっ」
その瞬間、股間をかすめた異変に、イザベラは息を呑んだ。
貞操帯の奥に仕込まれた突起が、ついに本気の動きを見せ始めたのである。
ロウのステップが大きく揺れるたび、金属の隙間の奥で突起はねっとりと軌跡を描いた。
前へ、後ろへ、斜めへ──生きているかのような動きで焦らし、秘部の内側をぬるりと撫で上げてくる。
そのうえ、股間に塗られた粘性の液体。
──やはり媚薬だ。
閉じ込められた媚薬は体温を受けて溶け、貞操帯の内側でとろりと広がる。突起の動きに絡みつき、いやらしい滑りを生んでいった。
敏感な箇所をなぞられるたび、下腹の奥で熱が泡のように立ち、呼吸がひとつ乱れる。
「あっ、ああ……」
ゆっくりと踊っているだけのはずなのに、股間だけが別の拍子で脈打ち、体幹は自分の意思から切り離されたように蕩けていく。
逃げ場のない快感が、腰の奥をじわじわと侵していった。
「くっ……ロ、ロウ……こ、これは……」
脚が思うように動かない。
膝の裏がかすかに震え、踊りの最中だというのに力が抜けていくのが分かった。
イザベラはその場で硬直したが、ロウの手は腰をしっかりと支え、逃がそうとしない。
「どうしたんです、姫様? あなたを愉しませようと、必死で練習したんですよ。俺のダンスはどうですか?」
ロウの身体捌きは驚くほど滑らかで、右へ、左へとイザベラを導くたびに、衣擦れが静かに響き、彼の体温が素肌へと伝わってきた。
一介の冒険者とは思えぬほど、ロウの動きは洗練されていた。
本来なら感心していたはずだ。だが、いまはそれどころではない。
股間を苛む突起の刺激が、呼吸の間隔すら乱すほど強まっていく。
貞操帯の奥では蜜が押し出されるように溢れ、金属の内側にぬめりを残して広がり続けていた。
乳首も寝着越しに硬くなり、布が触れるだけで胸の奥にじんとした疼きが満ちていく。
──だめ……もう立っていられない。
自分の意志とは無関係に身体の芯が蕩け、脚から力が抜けていく。
ついにイザベラは一歩も動けなくなり、踊りを中断して、ロウの胸に縋るようにしがみついた。
悔しさと羞恥で頬が熱を帯びる。その感情すら、いまの身体には支えにならなかった。
「どうです。いい気持ちでしょう?」
「は、はい……」
口をついて出た返事に、イザベラは自分で驚いた。
ロウに向けて、こんな素直で丁寧な声を返すなどありえない。
その事実が胸の奥で熱を生み、羞恥とともにじわりと広がっていく。
だが、目の前の男に向き合っているいま、
自分が圧倒されているという現実だけは否定できなかった。
気圧され、導かれ、抱き寄せられるたびに、心まで掌の上に載せられていくような感覚があった。
こんな感情を抱いたことは一度もない。
相手は爵位もなければ、血筋すら知れぬ移民の冒険者……にもかかわらず──胸の奥が静かに揺さぶられる。
気づけば、惹かれている。
そのこと自体が耐え難く、そして甘い。
イザベラの我儘なクエストを逆手に取り、シャーラを利用して脅迫し、裸にさせ、恥辱を強いた──。
あのとき、イザベラは怒りよりも先に、ロウという男に完全に呑まれてしまった自分を感じていた。
結局、ロウはイザベラの身体を視姦しただけで帰ったが、胸の底に落ちたのは安堵だけではない。
ほっとしたはずなのに、どこか物足りなさが残り、それが甘く疼くような感情となっていまでも残っている。
いま、イザベラとロウがダンスの途中で抱き合っている体勢のままとまっていた。
ただ、音楽は鳴り響いている。
「俺に嘘を言わないと誓ってください。そうすれば、俺は姫様の絶対の味方になります……」
「わかった……。嘘は言わん。誓う」
イザベラはそう答えた。
そのときにはもう、ロウの両腕に包まれていた。背中と腰を大きな手で支えられ、自慢の長い髪ごと抱き寄せられ、身体の線がロウの胸にぴたりと沿う。
「……ところで、毒を飲んだそうですね。可哀想に……俺が味方になれば、二度とそんな目には遭わせません」
「味方に……なってくれるのだな?」
息を吸うたびに、ロウの体温と匂いが肌に触れ、それだけで胸の奥がざわつく。
顔も自然とロウの胸元へ寄ってしまうような格好になっていた。
「……あなたが、俺の女になりたいというのは本当ならね……。この国の王女様が、ただの冒険者の俺の女のひとりになりたいというのは本気ですか?」
「本気だ──。わたしには味方が必要だ。さもないと、わたしは、多分、殺されてしまうだろう。そうならないために、わたしは信頼のできる味方が必要だ」
「俺を取り込むために、俺の女になると?」
ロウの声には愉快そうな色が混じっていた。
嘘は言わないと誓った以上、イザベラの胸の奥にはもう駆け引きの余地がない。
「お前の女になる……。わ、わたしはまだ生娘だ。政略で婿を迎える時が来るだろうが、いまは誰にも触れられておらん。妻になるその日までは、お前の女でいる。その代わりに……わたしを守ってくれ……頼む……」
打算ではなく、本心をそのまま口にした。
その瞬間、胸の奥がきゅっと締まり、羞恥が熱となって頬へ昇った。
それでも、ロウの胸に抱き寄せられた身体は逃げるどころか、かすかに縋るように触れてしまう。
「さあ、どうでしょうか……俺は独占欲が強くてね。自分の女になった者が他の男に触れられるのは我慢できないのですよ。生涯、俺以外と交わるなとは言いませんが……俺の女になるなら、期限付きでは困る。生涯の女になって欲しいですね」
淡々とした声音なのに、言葉の重さは冷たい刃のようだった。
イザベラは無意識に呼吸を止めていた。
「それはできん……。わたしの結婚は、わたしの意思ではどうにもならん。ある意味では奴隷と同じだ。父上の示す相手と婚姻せねばならん」
「だけど、あなたの父上だって王妃以外に側室も愛妾もいる。夫婦の契りなど今は無いでしょう。俺は正式な夫を望んでいない。ただ──俺の女になるなら、ほかの男のものにはなって欲しくない。それだけです。せめて、心だけは」
「だが……」
イザベラは当惑した。
初めての相手としてロウを迎えることは、もう抵抗がない。
ただ、生涯をという話になると、王女としての義務が胸を締めつけてくる。
その板挟みに、息が浅くなる。
すると、ロウがくすくすと笑った。
「なるほど、姫様は正直ですね。それに思ったとおり、素直な女性だ。俺の失礼な提案に怒りはしなかった。それどころか真面目に検討してくれている。ありがとうございます」
「怒るだと? なぜ、わたしが怒らねばならん?」
イザベラは驚いた。
「だって、普通は怒るでしょう。一介の冒険者にすぎない男が、ハロンドールの王女であるあなたに、生涯の女になれと要求したんですから。むしろ、関係を持つことさえ、おこがましいことなのに」
思わずロウの胸に当てていた顔をあげた。
ロウは優しげに微笑んでいた。
その笑みに触れた途端、胸の奥がぎゅっと締まり、理由のわからない痛みが走った。
こんな気後れなど、一度も覚えたことがない。
「わ、わたしが頼んでいるのだ。お前の女になる代わりに、味方になって欲しいと。それなのに怒るわけがない」
イザベラはそう言った。
ロウが微笑む。
「いいでしょう。俺はあなたを俺の女にします。ただ──俺の性癖は知っていますよね。姫様を俺の好みに調教し、服従させます。俺は女に、普通なら絶対に受け入れられないことを無理にでも受け入れさせるのが好きなんですよ。姫様にも、しっかりそうしますよ」
「おう……。わかっている。なんでも命じていい。わたしは服従する。好きなようにしていいぞ。床も舐めるし、ふぇ、ふぇらちお……だったかな……。それもするぞ」
元気よく言ってしまった自分に、ロウが一瞬目を丸くし、それから愉快そうに笑い声を上げたので、イザベラはきょとんとした。
「面白い姫様ですね。ならば覚悟してください。俺はしっかりと姫様を調教して、俺のいうことに心が逆らえないようにします」
「わかった。その代わり、わたしを守ってくれよ」
「いいんですか、そんなことを言って……? つまりは、俺は姫様が俺以外の男のものにならないように仕上げてしまうということですよ……姫様を調教してね……」
「だが、それは、さっきも言ったが……」
イザベラは困惑した。
王族は個人の感情で結婚など決められない。国家の力のために伴侶を選ぶ。それは男の王であっても、女王でも同じだ。
「……あなたが王になればいい。そうすれば、結婚するもしないも姫様の自由だ」
「女王とはそういうものではないのだ、ロウ」
イザベラは抱き合ったままロウを見上げる。
「わかりました……。いずれにしても、女王……とりあえずは、王太女となる。キシダイン卿との政争に勝利して……。あなたの望みがそれで間違いないですね?」
「そうだ」
「女王に? ほかの選択肢もあると思いますが?」
「わたしは女王になるのだ。そのために王家に生まれたのだ。わたしの役目だ」
イザベラはきっぱりと言った。
ロウが肩を竦めるような仕草をする。
「わかりました……。さて、じゃあこれからの方針です。状況はミランダやシャーラから聞いています。俺はもう、王族同士の事情をかなり承知していますよ……あなたがキシダイン卿に匹敵する力を持っていることも」
「キシダインに匹敵する力?」
イザベラは眉をひそめた。
「冒険者ギルドですよ──あなたはギルド長です。それを忘れてはいけません」
「冒険者ギルドだと?」
確かにギルド長は王族が務めるが、実務はミランダが仕切っている。
名目だけの権限にすぎないはず。
「……まあいいでしょう。ところで、最初に俺が姫様に会いに小離宮へ行ったときのことを覚えていますか?」
「お、覚えている……。決まっている」
「自慰のことを訊きましたよね。どのくらいするのかと……。本当はどのくらいするんです? 正直に答えると誓ったことを忘れずに」
「なっ」
言葉が喉で止まった。
羞恥が一気に込み上げ、身体が強張る。
胸の奥で、あの日の記憶がゆっくりと疼き始めた。
「さあ、正直に──」
ロウの声音は柔らかいのに、逃がさない圧があった。
なぜこんなことまで言わねばならないのか──そう思うほど、胸の奥がざわつく。
不本意さが込みあがるのに、誓った言葉がイザベラを縛っていた。
嘘は言えない。言わねばならない。
「……み、三日に一度くらいだ……」
声に出した瞬間、自分の頬が熱を帯びていくのがはっきりわかる。
「嘘を言ってはいけませんよ、姫様。あなたがとても感じやすい身体だということはわかっている。そんな姫様が三日に一度で我慢できるはずがない」
ロウの声音はわずかに笑っているようで、からかわれているとわかるのに、反論が喉につかえた。
「本当だ。そのくらいだ……。ただ……」
「ただ、なんです?」
「最近は毎晩……しているかもしれない……」
その言葉を吐き出すのに、全身が震えた。
羞恥で胸がきゅっと締まる。
部屋には音楽が流れ、ロウは貴公子のような正装、対して自分は薄い寝着一枚──その対比が、羞恥をさらに煽った。
「ズリネタはなんです?」
「ずりねた?」
意味が分からず、ただ戸惑う。
「なにを考えながら、しているんです?」
ロウが静かに重ねる。
その一言で、イザベラの胸の奥がぱっと熱を孕んだ。
逃げ場が消えたような感覚。
「お、お前だ……。毎晩、お前のことを考えている……」
口にした途端、あの夜の光景が鮮やかに蘇る。
強引に全てを見透かされ、抗えず、どうしようもなく心が乱されたあの瞬間。
思い出しただけで、イザベラはロウの腕の中で身を縮めた。
ロウが一瞬だけ目を丸くし、すぐに満足そうな笑みを浮かべた。
「可愛い姫様ですね……」
その言葉と同時に、腰を抱く腕がわずかに強くなり、体温ごと引き寄せられた。
背中の支えが離れ、代わりに顎を指先でそっと持ち上げられる。
ロウの唇がイザベラの唇に重ねられた。
「んんっ」
なんだこれは……?
イザベラは息を呑んだ。
生まれて初めて受けた“本物の口づけ”は、イザベラの想像をはるかに越えていた。
ロウの舌が口の中に侵入し、あちこちを舐め回される。唇の感覚がふっと奪われ、次の瞬間には全身の力が抜け落ちるような錯覚が走る。
どうすればいいのかわからず、呼吸すら合わせられないのに、身体だけが勝手に応えていく。
胸の奥がじわりと熱を帯び、頭の中が柔らかく溶けていくようだった。
気持ちがいい……。
その事実を自覚した途端、背中をぞくりとした感触が走る。
ロウの口づけが深まるたび、甘い痺れが首筋から背中へと伝い、全身へゆっくり染み込んでいく。
その波が押し寄せるたびに、膝が頼りなく揺れ、ロウに支えられなければ立っていられないほどだった。
まるで身体の中心を握られているような、逃げられない感覚。
舌と舌が触れ合うだけのはずなのに、心の奥を掬われてしまうような錯覚があった。
「んふうっ」
次の瞬間、イザベラの身体に、説明のつかない衝撃が走った。
股間に装着されている貞操帯の内側の突起が、突然に踊るように動き出したのだ。
愛撫されている口のなかと、股間でうごめく突起の刺激──。
「んっ……ああっ……」
息が震え、声がこぼれた。
下腹の奥で、なにかが急に目を覚ましたようにうねり、立っているはずの足元が揺らぐ。
逃げ場のない刺激が、内側から一気に押し寄せてくる。
まるで身体の中心を掬われたような、抗えない感覚。
息を吸うことすら困難で、胸がひゅっと締め付けられた。
「ま、待って……」
全身が脱力していき、イザベラは慌てて顔を背けて、咄嗟にロウへ縋った。
その腕の中で、どうしようもない熱がせり上がり、身体がかすかに跳ねる。
貞操帯がイザベラを苛む──。
「う……ああっ……や……」
言葉にならない音だけが喉から漏れる。
自分では抑えられない波が、間断なく押し寄せてくるようだった。
胸の奥までじわじわと満たされ、身体の芯が溶けるような錯覚に陥る。
「だ、だめえ……。あ、ああ……」
イザベラはもう立っていられなかった。
ロウの腕がなければ崩れ落ちていたかもしれない。
「あっ、ああっ」
ロウの腕にしがみつく。
立っているはずなのに、地面に足がついている感覚が揺らぐ。
「さあ、踊りましょう……。“Shall we dance?”──」
「な、なにを言って……。あんっ、だめえっ」
ロウはイザベラの身体を抱えるようにして動き出し、先ほどまでのステップへ戻す。
無理矢理に、ダンスのステップを踏まされて、イザベラは悲鳴をあげた。
イザベラは声にならない声をこぼしながら、ただその腕に縋るしかなかった。