※この作品はR-18です。

【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】   作:ドン・ドナシアン

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24話 熟女レイプの奇跡
182 夜の集会


 跳躍の直前、スクルズの移動ポッドが淡く光を放った。

 ミランダは息を整えたものの、どうしても胸の奥にわずかな緊張が残る。

 

 ロウの屋敷へ跳ぶときだけは、普通の跳躍のように一瞬では終わらない。それを身体が知っているせいだ。

 光に包まれた瞬間、輪郭が消えた。足裏の感触も筋肉の位置も、呼吸の動きすら消えていく。意識だけが浮き上がり、暗い水の中に置き去りにされたような奇妙な空白が続く。

 シルキーが介在するせいで起きる“無の時間”だと説明されたが、理解したところで不快さは消えない。

 ミランダはこの感覚だけは、何度経験しても好きになれそうになかった。

 やがて身体の重みが戻り、身体が形を取り戻した。

 視界が一気に開け、足裏に柔らかなマットの感触が落ちる。

 

「来たか、ミランダ。スクルズ、ベルズも」

 

 部屋の中央にはロウが胡座で座っていた。落ち着いた表情のままこちらを見る姿は、来るたびに変わらない。

 だが、その周りの三人娘──エリカ、コゼ、シャングリア──については、揃ってうつ伏せに倒れている。

 服はきちんと身につけているが、全員が怠そうに肩を上下させるだけで、顔を上げる気配はない。

 この絶倫男のことだから、また彼女たちを相手にやり過ぎたのだろう。

 相変わらずの男だ。

 ミランダは苦笑した。

 

「まあ、ロウ様、お久しぶりでございますわ。ところで、エリカさんたちはどうしたのです?」

 

 スクルズがあっという間に、ロウのところに歩み寄っていき、ぴたりと密着するように腰をおろす。

 その姿には、敬虔で優しい高位巫女として、王都市民にも絶大な人気がある第三神殿の筆頭巫女の姿はない。

 全身でロウへの慕情を隠しもしないひとりの女があるだけだ。

 ミランダは軽く息を吐き、ベルズとともにロウの正面に座る。

 ただ、ミランダたちが着いたのに、エリカたちはいまだに起きあがる気配はない。もっとも、寝ているわけではなさそうだ。

 ただ、口を開くのも怠いという様子である。

 

「姫様は……まだなのだな? ところで、ここで会議か?」

 

 ベルズが言った。

 

「そうだ。イザベラとシャーラはもうすぐ来るだろう……。話し合いはここだ。車座で集まって話し合うのも悪くないだろう?」

 

 ロウはいつもと変わらぬ平然とした口調だった。

 ミランダたちを呼び出したのはロウである。イザベラも交えて、これからのことを話し合いたいということだった。

 いまの刻限は、かなり深い夜だ。

 王宮の護衛たちが緩む刻限に合わせ、シャーラの移動術でイザベラが密かにこの屋敷へ来られるよう段取りが組まれたのだろう。

 

 イザベラが無事にロウの女になり、思惑通りに魔道力があがったというのはシャーラから連絡を受けていた。

 昨夜のことであり、とりあえず、ミランダはほっとしている。

 魔道力があがれば、毒などへの耐性も期待できる。

 キシダイン派による毒殺の危険も減らすことができるはずだ。

 

「ほら、いつまで寝てるんだよ。ミランダたちも到着したし、そろそろ起きろよ」

 

 ロウは胡座のまま、ぐったりした三人娘に声をかけた。

 

「……無理です。起きたら倒れます……」

 

 エリカがうつ伏せのまま、かすれた声を返した。

 

「あたしも……ちょっと……きついです……」

 

 コゼが丸まった姿勢で足先だけを動かした。

 

「生きてるだけで褒めて欲しいくらいだ……」

 

 シャングリアも横になったまま息を吐いた。

 

「まあ、どうしたのですか。回復術をおかけしますか」

 

 スクルズが身を乗り出した。

 

「身体はもう回復してる。俺の淫魔術で治療も調整も済んでる。ただ、これは心の疲労だ」

 

 ロウは淡々と説明した。

 

「心の疲労……。気力の問題なのですか?」

 

 スクルズが首を傾げた。

 

「一度試しに、俺の限界がどのくらいか知りたくてね。昨夜はシャーラも含めて相手をしてもらった。本当は百発いくつもりだったけど、四人がかりで七十七回で終わってしまった。不甲斐ない連中だ」

 

「な……なにを言っているのだ。お前が一度精を放つあいだに、わたしたちは何度果てると思っている……。それを、あんな狂ったような回数、つき合えるはずがないだろう……」

 

 シャングリアが弱々しく反論した。

 

「途中で気を失っても、ご主人様に淫魔術で覚醒させられるのよ……。あれはちょっと……」

 

 コゼも呻くように言った。

 

「……七十七回……?」

 

 ミランダは思わず息をのみ、ロウと三人娘を順に眺めた。

 数字の意味が頭に定まらず、しばらく言葉が出なかった。

 ひと晩で七十七回の射精ということか?

 そんなことが可能なのか?

 ミランダは唖然となった。

 

 スクルズは三人娘のぐったりした様子を見て、頬に手を当てた。

 

「まあ、そんな催し物があったなら……どうしてわたしを呼んでくれなかったのですか。なにをしていても駆けつけましたのに」

 

 相変わらずの言葉だ、とミランダは内心で苦笑する。

 ベルズが呆れたように眉を寄せた。

 

「お前、なにを言っておる。昨夜は三神殿共同の“宵祈りの祭儀”があっただろう。抜けられるわけがない。あの場を欠席したら、王都中が騒ぎになる」

 

 スクルズは「あ……」と小さく口を開き、そっと視線を逸らした。

 どうやら本気で忘れていたらしい。

 だが、「でも問題ないかも」と独り言でぶつぶつと呟くのも耳に入る。

 

 一方で、そのやり取りを、うつ伏せのまま聞いていたエリカが、やっと上体を起こした。

 

「ほんと……ロウ様には、まだまだかしずく者が必要ね。痛感したわ……。ほら、起きるわよ、ふたりとも」

 

 エリカが呼びかけると、コゼとシャングリアが重い身体をようやく持ち上げた。

 揃って髪を乱し、頬を上気させている。

 どう見ても“戦い終えた直後”の女の姿だ。

 

 ミランダはその光景を見て、もう一度深い息をついた。

 毎度のことながら、ロウの周りだけは常に騒がしく、常にどこか愉快で、そして常識など当てにならない。

 

 そのとき、白い霧のような光が足元に揺れ、屋敷妖精シルキーが姿を見せた。

 小さな身体を恭しく折り、ロウに向かって頭を下げる。

 

「イザベラ姫様と、シャーラ様がお越しです。お通しします」

 

 ロウが軽く頷く。

 シルキーはすっと霧のように輪郭をほどき、空気に溶けるように消えた。

 入れ替わりで、宙の揺らぎとともに二つの影が姿を結ぶ。

 シャーラとイザベラだ。

 

 シャーラはいつもの侍女姿だったが、足を踏み出した瞬間、膝をがくりと折って、その場にしゃがんでしまった。

 そのままマットに手をつき、息をつくように座り込む。

 エリカたちとまったく同じ、疲れ切った女の姿だ。

 

 一方で、イザベラは──。

 

 おそらくわざわざ用意したのだろう。平民風の質素なワンピースを身につけている。

 しかし、その立ち姿は明らかに普通ではなかった。

 

 両膝を寄せて内股になり、肩を震わせながらうつむいている。

 頬は赤く染まり、目元は潤み、呼吸が浅い。

 そして、股間のあたりへ両手をそっと添え、触れたいのか、隠したいのか分からない動きで、指先が落ち着かずに小さく揺れている。

 

 まるで、そこに何かが押し当てられ、いまもなお微かな刺激を送り込んでいるかのようだ。

 

 ミランダは瞠目した。

 

 イザベラは両膝を寄せたまま、小刻みに肩を震わせながらシャーラを睨んだ。

 

「シャーラ、お前……わたしが必死に我慢しておるのに、さっさと座りおって……」

 

 声は怒っているようで、しかし裏側に甘さが滲んでいる。

 

「申し訳ありません、姫様……。でも、ここまで頑張りました。お許しを……」

 

 シャーラも息を整えるのが精一杯という様子で、身体を折ったまま弱々しく答えた。

 

「エリカたちとは違って、ちゃんと公務もこなしたんだろう。よく頑張ったな」

 

 ロウが穏やかに声をかける。

 

 シャーラはその声にぴくりと反応し、顔を上げると、頬がじわりと赤く染まった。

 

「は、はい……。昨夜は調教をありがとうございました……。もっと精進いたします……」

 

 その表情は、王都市民が知る生真面目な侍女ではなく、完全に雌の色を帯びた従順な女だった。

 ミランダは思わず眉を寄せた。

 本当に、この屋敷に入った女はみな揃って同じ顔になる。

 一方で、イザベラはまだ立ったまま、呼吸を乱しながらロウに視線を向けている。

 

「ロ、ロウ……わたしも頑張っておる……。だが、そろそろ許してくれぬか……。厠に行けなくて困るし、侍女たちにもばれそうで……」

 

 その訴えは悲痛というより、羞恥と切迫が入り混じった声だった。

 しかし、「許す」とは……?

 そのとき、ロウが軽く指先を鳴らした。

 

「……っああっ」

 

 イザベラの身体がびくりと跳ね、そのまま膝を折ってしゃがみ込んでしまった。

 平民風のワンピースの裾が揺れ、白い脚が震えている。

 ワンピースのスカートの上から両手で股間を押さえながら下半身を震わせている。

 ミランダは唖然とした。

 

「じゃあ、慣れるように調教をしませんとね、姫様。慣れれば貞操帯の突起くらい平然と扱えるようになりますよ……。そうだ。もう少し振動も上げてみましょうか」

 

 ロウが軽く手を振る。

 

「や、やめ……っ……っ、あああっ……」

 

 イザベラは腰を折り、両手で股間を押さえたまま、身体を弓なりに反らせた。

 スカートの中のふとももが細かく震え、呼吸が乱れ、目元に涙が浮かびだす。

 

「あ、ああっ、だ、だめええ。許して……。許してくれ──ひあああっ」

 

 イザベラががくがくと身体を震わせて悲鳴をあげる。

 だが、しばらくしてから、ロウが手を振り、イザベラががくりと脱力した。

 イザベラが淫具のようなものを装着させられているのは間違いないだろう。いまは絶頂寸前で淫具の振動を停止したのだと思う。

 イザベラは肩で息をしながら、赤い顔のまま切なそうに身体をまだ震わせている。

 

「ちょ、ちょっと……あんた、もしかして、姫様になにかをしているの?」

 

 ミランダは思わず声を上げた。

 

「淫魔術で毒避けの結界を刻んだ貞操帯を、股間に装着してもらっている。俺には、こういう形でしか魔道を刻めない。姫様を毒殺から守るためだ」

 

 ロウは落ち着いた声で説明した。

 

「も、もう……やめ……てくれ……」

 

 イザベラが息も絶え絶えに言った。

 

「明日からは、一ノスに一度ほど内側の突起が突然に動くように淫魔術を刻んでおきますね。頑張ってください」

 

「そ、そんな……」

 

「嫌だとは言わせません。俺の調教を受けるのが、姫様の味方になる俺の条件ですから」

 

「うう……」

 

 イザベラががくりと項垂れる。

 ミランダは、呆れ、驚き、そして少しだけ感心しながら、静かに息を吐いた。

 まったく──この屋敷では、王女であろうが誰であろうが、例外など存在しないらしい。

 

「さて、じゃあ、全員が揃ったし、作戦会議を始めよう」

 

 すると、ロウがぱんと手を一度叩いた。

 

「まずは……目的の確認だ。姫様の身を守るだけでいいのか、それとも政争に踏み込んで王太女として立つのか。何を最優先にするかで、俺たちの動きは変わる」

 

 ミランダは背筋を伸ばした。

 いつもの軽薄な口調とは違う、冒険者ロウの“本気”の声だと思った。

 全員の顔も一瞬で引き締まっている。

 

「安全確保だけを望むなら守りを固めればいい。だが、王位継承まで見据えるなら、キシダイン派の足場を崩し、姫様に力をつけさせる必要がある。ここにいる全員で動く以上、方針ははっきりさせておきたい」

 

 ロウの視線がイザベラに向いた。

 

「姫様。どうしたいのか、ここで聞かせてください」

 

 注目を浴びたイザベラは、赤い頬のままスカートの裾をぎゅっと握りしめた。内股の姿勢のまま、震えを必死に抑えて顔を上げる。

 

「……目的か。そんなもの決まっておる。まずはわたしの身を守らねばならん。毒だの刺客だの相手をしていたら身がもたん。だが、それだけで終わるつもりはない。王女の立場も、この国も、キシダインになど渡さぬ。安全だけ確保して隠れている王女など誰も支持せん」

 

 イザベラは息を整えようとするように何度かまばたきをし、震える膝を押さえている。羞恥の色はまだ引かないが、その瞳の奥の強さは変わらないように見えた。

 

「わたしは王太女として立つ。それはわたしの血が与える役目だ。……そのために、お前の力が要る。あの連中に、絶対に負けたくないんだ」

 

 その声には震えと羞恥が混じっていたが、揺るぎた気配はなかった。

 

 ロウはその言葉を最後まで聞き、静かに頷いた。ふざけた色のない真っすぐな目つきだった。そこに迷いは感じられない。

 

 ロウが静かに息をつき、皆を見渡した。

 

「わかった。なら俺たちの方針も決まった。政争に勝ち、姫様を王太女として立たせる。それを最終目標にする」

 

 簡潔な言葉だったが、部屋の雰囲気がわずかに引き締まった。ミランダは胸の内で小さく息をつく。

 そのとき、最初に口を開いたのはシャングリアだった。

 

「だが現実として、姫様を支持する層は少数派だ。高位貴族と大商家を押さえているキシダインに勝てるとは思えん」

 

 あまりに遠慮のない言葉に、ミランダは思わず目を見開いた。

 王女に対してそこまで露骨に言う者など聞いたことがない。

 

「なにを言うか──。父上の血を引いておるのはわたしだ。キシダインはタリオの血筋にすぎない──」

 

 イザベラが鋭く言い返した。

 

「それがどうした。元をただせば王家の始祖だって、ハロンドールを開拓した一団の長のひとりにすぎんだろう」

 

「ぶ、無礼者──」

 

 イザベラが激昂し、踏み出したその瞬間だった。

 ロウが軽く指を鳴らしたのが聞こえた。

 

「っ──あ……ああっ……」

 

 イザベラの腰が跳ね、膝ががくりと折れ、ワンピースの裾を握りしめたまま震え出した。

 スカートの奥で淫具の振動が走ったのだろうというのは、見ずともわかる。

 怒声は甘い嬌声に押し流され、唇から零れる声はまるで別人のものになっていた。

 ロウが指を下にする。

 イザベラががくりと脱力する。淫具が静止したのだと思う。

 

「王家の血がなんだというシャングリアの言い分には、俺も共感するところはある……。でも、姫様の望みを叶えるというのは変えない。全員もいいね──」

 

 シャングリアは肩をすくめ、ふっと笑った。

 

「ああ。それがロウの決定なら、わたしは従うだけだ」

 

 その潔さは、逆に深い忠誠を示しているかのようだった。

 

 すると、ロウが続けた。

 

「それに、姫様が王太女を辞退したところで、権力を握ったキシダイン卿が姫様を放っておくとは思えない。むしろ殺しに動くだろう。姫様が生き残る道はひとつだ。政争に勝って、やつを引きずり下ろすしかない」

 

 ミランダはその言葉に息を呑んだ。

 残酷だが、最も現実的な結論だった。

 イザベラは肩を震わせたまま、スカートを握りしめて悔しさと羞恥を噛みしめていたが、瞳の奥にはまだ強い光が宿っていた。

 

「とにかく、キシダイン卿との政争に勝つために、なにができるか。いまの状況を全員で共有することから始めよう。情報が揃わなければ策も立てられない。……シャーラ、頼む」

 

 呼ばれたシャーラは、まだ息が整わない様子のまま、それでも無理に姿勢を正し、弱々しく頷いた。

 

 シャーラは呼吸を整えると、いつもの侍女らしい静かな声に切り替えた。まだ足元はふらついているが、公務の顔に戻る切り替えは見事だとミランダは感心した。

 

「それでは、現在の派閥状況についてご説明いたします」

 

 宙に魔道板が現れて、淡い光で三つの区分を描き出す。

 

「第一は、いわゆるキシダイン派。別名タリオ派とも呼ばれています。キシダイン卿がタリオ公国の血を引いており、自由流通連合との結びつきが非常に強いことから、そのままこの名で呼ばれることが多い派閥です。王都の高位貴族、大商家の過半がここに属し、資金力も影響力も現状もっとも強い勢力です」

 

 ミランダは小さく頷く。

 自由流通連合──タリオを中心に広がる広域商業網。キシダインの背後にある本当の力だ。

 

「第二は、グリムーン公爵家を中心に集まる商業ギルド系の勢力です。商人たちは自由流通連合の独占を嫌う傾向があり、反キシダインの立場を取っています。ですが、彼らの不満はあくまで自由流通連合に対するものであって、姫様を支持しているわけではありません。姫様派とは位置づけられません」

 

 ミランダもそこは同意する。

 イザベラの味方というより、「キシダインが嫌」の集合体だ。

 

「そして第三は、残りの大多数──下級貴族、中小商家、王都民の多くが属する中間層です。政治的立場を持たないか、どちらにもつきたくない層で、明確な派閥とはいえません。姫様を支持しているというより、情勢を見て静観しているだけの層です」

 

 シャーラは魔道板を消しながら言葉を締めた。

 

「以上の三つが、現在の勢力図です。姫様個人を明確に支持している勢力は、現状ではほとんど存在しません」

 

 シャーラの言葉が途切れると、少しのあいだ沈黙が流れる。

 ミランダも改めて状況の厳しさを痛感した。

 

「なんか、前途多難ね」

 

 すると、コゼが茶化すように笑った。

 

「やめなさいよ」

 

 すかさずエリカがたしなめる。

 

 

◯キシダイン派──タリオ系の自由流通連合の資金と上級貴族。

◯グリムーン系──反自由流通連合だが姫様派ではない。

◯その他大多数──中立で静観。

 

 

「王妃陛下は一番のキシダイン派ですね。実際のところ、王家を動かしているのはアネルザ陛下です。大臣たちもほとんどが王妃陛下の息がかかっていると言っていいでしょう」

 

 スクルズがさらりと続けた。意外なほど正確で政治的な把握だ。

 

「へえ、あんたって真面目なことも喋れるのね」

 

 コゼが小さく笑う。

 

「神殿の巫女も、政情に疎くては務まりませんし」

 

 スクルズは柔らかく微笑んだ。

 

「あんた、ちっとも神殿の仕事してないじゃないの」

 

「こら、コゼ。茶化すのをやめなさいって、言っているでしょう」

 

 エリカがぴしゃりとたしなめたが、声にはどこか諦めの響きがあった。

 

「基本的にはルードルフ陛下は王妃陛下の言いなりよ。でも、後継者だけはアネルザ陛下に迫られても明言していない。あの陛下にしては珍しいわね」

 

 自分で言いながら、ミランダは少しだけ眉を寄せた。

 王都の噂話として知っていた以上に、王宮内はややこしいらしい。

 いまのルードルフ王は、後宮に引きこもった日和見王──。王妃アネルザに頭があがらない、ただの傀儡──。

 王都では子供でも、そう揶揄している。

 

「……多分だけど、ルードルフ陛下はキシダイン卿が嫌いなんだと思う」

 

 ベルズがぽつりと言った。

 

「嫌いってどういう意味だ」

 

 ロウが眉をひそめる。

 

「昔の話らしい……。ルードルフ陛下がまだ王子だった頃、先王が少年のキシダインを異様に可愛がったって話があるようだ。まるで実の息子みたいにね。宮廷でも有名だったそうだ」

 

 ベルズは指先で自分の髪を払った。

 

「そうなのか?」

 

 イザベラが口を挟んだ。

 

「ええ、わたしも父から聞いた話ですが……。寵愛の末に、先王はキシダイン卿に“一代限りのハロルド公”の爵位を与えました。代わりに王位継承権を放棄させたのです」

 

「あれっ、キシダイン卿って、王位継承権を一度放棄しているのか?」

 

 ロウが確認した。

 

「そう。でも……継承権が戻ったのはアン王女との婚姻が原因だ。あれはアネルザ王妃が、どうしてもアンを“権力の中枢”に押し戻したくて無理やりこじ開けた道だ」

 

 ベルズは肩をすくめた。

 

「つまり、嫌いな理由は嫉妬ということ? それで、キシダインという人を後継者に指名をしたくないけど、王妃様には逆らえないから、引きこもって出てこないの?」

 

 コゼがけらけらと笑った。

 王家を揶揄うような物言いだけど、これについては的確に状況を言い当てていると、ミランダも思った。

 

 

「話を戻すけど、キシダイン卿の継承権は、婚姻したアン王女との“共同継承”って形なんだな?」

 

 ロウが確認するように言った。

 

「そういうことです」

 

 シャーラが短く答えた。

 

「……でも、アン姉様は、王位になど就きたくないと思う」

 

 イザベラが俯き加減に声を落とした。

 その声音には、先ほどの怒りとは違う、湿った影があった。

 

「そう……なのですか?」

 

 ロウがイザベラを見る。

 

「継承権を放棄なさるとき、わたしに言われたのだ……。わたしに、王位の責任を負わせて申し訳ないと……。でも、わたしなら相応しいとも」

 

「……それで、いまは、どうなんです? さっきの話だと、キシダイン卿の意思はともかく、アン王女殿下が拒否すれば、キシダイン卿に共同継承権は生まれないのでしょう?」

 

 ロウが静かに尋ねた。

 

「わからない……。アン姉様は、キシダインの屋敷から滅多に出てこられないのだ……。出てくるのは最低限の行事だけで……わたしとも話をしてくれない。わたしも、いまアン姉様がどう思っておられるのかを知りたい」

 

 イザベラがスカートの裾を小さく握りしめた。

 しばらく、沈黙が部屋に落ちる。

 その沈黙のあいだ、ロウは視線を落とし、指先で床をとんとんと叩きながら、なにかを組み立てているように見えた。

 だが、やがてロウが口を開いた。

 

「さて、じゃあ、これからのことだ──。まずやるのは、姫様の支持基盤の強化と、逆に、キシダイン派の支持基盤を崩すこと──。これに尽きるね」

 

「どうするんですか?」

 

 コゼが首を傾げる。

 

「大事なことをひとつ忘れている。姫様は王太女の候補であると同時に冒険者ギルドの長だ。これはもうひとつの支持基盤だ」

 

 しかし、ミランダはそのロウの言葉に眉を寄せた。

 

「まあ……、あの連中は、確かに実力はあるわ。でも、所詮は金で動く連中よ。相手が王女だろうと王だろうと、忠誠心なんかないわ。あたしが言うのもなんだけど」

 

 ミランダがそう言うと、ロウは軽く肩をすくめた。

 

「忠誠心は期待しない。その代わりに金と成果で縛る。冒険者はそこだけは単純だ。依頼を出し、報酬を与え、その代わりに動いてもらう。それが兵士と違うところだ」

 

「クエストの信用度については問題ないな。ミランダが査定だけはやたら厳しいからな。報酬を準備してクエストにすれば、裏切りはせん。だが、なにをさせるのだ?」

 

 ベルズが興味深そうに訊ねる。

 ロウは指先で床を軽く叩き、全員の視線を集めた。

 

「まず前提として、商業ギルドが自由流通連合に負けている理由を押さえておこう。自由流通連合は安くて質のいい品を大量に揃えられる。一方で商業ギルドは古いし、高額で質も悪い。癒着も多いし競争意識もない。だから王国の流通の主流が自由流通連合になった。キシダイン派を支えているのは、その新興勢力が上級貴族に利益を与えているからだ」

 

 ロウは淡々とした口調のまま続けた。

 

「ほう、詳しいな」

 

 ベルズが感嘆するように言った。

 

「どうも……。だが、キシダイン派の弱点は恩恵の偏りだ。利益を受け取っているのは上層の一部にすぎない。そこにつけ入る余地がある」

 

「まあ。そうね。間違いないわ」

 

 ミランダは頷いた。

 

「だから、質のいい品を準備する。既存の流通は商業ギルドか自由流通に握られているから、俺たちは冒険者を物流に組み込む。商隊の護衛、直接輸送、地方からの買い付け……全部ギルドで回せる。大丈夫だ。報酬さえ準備すれば、連中はなんでもこなす」

 

 ロウは手を広げ、空中に見えない地図を描くように動かした。

 

「狙いは、いま恩恵を受けていない中小貴族層と、利益から外れている商家層だ。そこに富の流れを作って与えれば、姫様を支持する理由になる」

 

「へえ、うちが儲かる話のようね。なら、乗るわ」

 

 ミランダは笑った。

 ロウがさらに続ける。

 

「さらに冒険者たちに流言をばら撒かせる。イザベラ王女は、富の恩恵から外れた者たちの味方──とね。そういうことが得意な冒険者も大勢いる」

 

 ロウの声は静かだが、確信があった。

 

「まあそうね」

 

 ミランダも軽く応じる。

 

「……情報集めもできる。クエストにして報酬を積めば、命がけでも情報を集めるさ。冒険者とはそういう連中だ」

 

「いいわね。でも、くどいようだけど、情では動かない連中よ。あいつらに必要なのは、しっかりとした報酬よ」

 

 すると、シャーラがおずおずと手を挙げた。

 

「その……良質の品物とか、資金は、どこから用意するんですか? そんなに簡単に集まりますか? 残念ですが、わたしたちにはそんなものは……」

 

「今回は、できあがった料理を皿から取るんじゃない。厨房ごと奪う」

 

 シャーラの問い掛けに、ロウは口元に薄い笑みを浮かべた。

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