【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
ミレイユという侍女が真っ赤になって噛みついてきたが、一郎はその視線を受けながら、まずイザベラの顔色を確かめた。
緊張が滲んでいる。
だが、一郎の姿を見つけて少しほっとしたようでもあった。
――やはり、なにか起きたのだろう。
シャーラもまた、微かに眉を寄せている。
いずれにしても、まだ侍女たちには、一郎とイザベラの関係は秘密にしていたはずだ。
それにもかかわらず、一郎を侍女たちの前に呼び出したということは、そこまでする必要があったということだと思う。
最初から緊張は妙に張りつめていた様子だったが、突然に一郎が現れたことで、侍女たちは敵意というより「状況を把握できていない苛立ち」の目だ。
そしてミレイユだけが、一郎の気配を敏感に察して吠えた。
気の強さと、役目への忠実さが入り混じっている。
だが一郎にとって、もっとも気がかりなのはイザベラの不安そうな表情だった。
「……姫様。いったい、なにがあったんですか?」
一郎が静かに尋ねると、侍女たちの視線が一斉に揺れた。
最初に反応したのは、やはり、さっきのミレイユだ。
「シャーラ様、どういうことですか。ここに男を入れるなど、本来ありえません。この者は誰なのです──?」
ミレイユが噛みつくように言い放った。
緊張と怒りで頬を赤くして、一郎を鋭く睨みつけている。
「黙れといったであろう、ミレイユ──。ロウを呼べと命じたのはわたしだ」
イザベラは椅子から立ち上がり、強い声音で言った。
その横顔には、苛立ちと不愉快さ、そしてわずかな安堵が混じっている。
「……ロウ……、また毒だ。今度も、わたしの皿に付いていた」
イザベラが言い切った。
一郎は眉をひそめた。
「姫様のお食事の検分の際、皿の縁に付着物がありました。前回と同じです……。魔道薬の反応がございました」
シャーラが一歩前へ出た。
その声音は落ち着いているが、わずかに震えがある。
「前回と同じ毒か……」
「まだ外には洩れてません……。捜査の前に、まずロウ殿にお越しいただく必要があると判断いたしました」
シャーラが静かに説明した。
一郎は短く息を吐いた。
シャーラがわざわざ言玉で呼んだ理由が、ようやく腑に落ちた。
「なるほど……。そういうことですね」
その瞬間、ミレイユが怒気を含んだ声で噛みついてきた。
「納得できません。毒の件なら、まず侍女であるわたしたちが調べます──」
「やかましい。お前たちの中に毒を盛った者がいる可能性が高いのだ──。黙っておれ──」
イザベラの冷たい怒声が響き渡った。
ミレイユが真っ赤な顔になって黙り込む。
「ロウ。お前にしか頼れぬ……。わたしは……怖い……」
その声音に、強がりが混じるようないつもの響きはない。
毒に脅かされ続けた十六歳の少女の、助けを求める素直な弱さが、ほんの一瞬だけ顔を覗かせていた。
「……わかりました、姫様。あとは俺に任せてください。二度と裏切りが起きないようにします」
一郎はきっぱりと言った。
イザベラの怯えを受け止め、安心させようとするように、自然と横へ歩み寄った。
そして、イザベラのすぐ隣に立つ。
その瞬間、侍女たち十人が一斉にざわめいた。
部外者が王女の横に並び立つなど、本来はありえない。
だが、イザベラは止めるどころか、むしろほっとしたように小さく息を吐いている。
当然だが、シャーラも咎める様子もないし、それで戸惑っているのだろう。
「……二度と起きないようにか?」
イザベラが一郎を見上げる。
その眼差しに、期待とわずかな不安が混じっていた。
「犯人捜しには意味がないでしょう。まず身内を固めるべきでしょう」
一郎は言い、そのまま横に立つシャーラを見やった。
シャーラはわずかに姿勢を正す。
「……あの件ですよね?」
「俺にできることはひとつしかありませんから……。でも、それを実行すれば、絶対の安心が生まれます」
一郎は頷いた。
あの提案──それは、イザベラが一郎の女になり、一郎の淫魔術の実態を知った直後のことだった。
イザベラが、ある大胆な策を口にしたのだ。
だがそのときは、シャーラが強く反対した。
それで、その場は、この件は保留になっていた。
「いまは……賛成です……。むしろ、実行すべきと」
シャーラが静かに言った。
その声音には、覚悟が滲んでいる。
「わかった」
「結局のところ、わたくしには、今回を防げませんでした。防いだところで、第二、第三が起きるだけでしょう。思い切った策が必要です」
侍女たちの間に再びざわめきが走る。
イザベラとシャーラが、明らかに外の人間で頼ろうとしている光景に、誰もが動揺していた。
一郎は侍女たち十名の顔を順に見渡した。
ほとんどが不安と困惑に揺れている。
また、一郎の脳裏に別の光景がよぎった。
──屋敷で抱き潰れて寝ている三人の姿だ。
毛布にくるまれて、ぐったり眠っていたエリカ、シャングリア、コゼ……。
そして、クグルスの小言……。
……あいつらの負担も、減らしてやらないとならないだろうな……。
一郎の決意には、もう迷いはない。
「姫様。実行しましょう。これが……一番早く、そして確実に“内部の裏切り”を防ぐ方法です」
一郎がそう言った瞬間、シャーラが深く頷き、イザベラも息を吸い込んだ。
侍女たちの間に、今度は静かな緊張が走った。
一郎は改めて、十人の侍女たちに魔眼を走らせた。
○トリア=アンジュ(18歳)
男爵家 長女
ジョブ:侍女〈レベル5〉
経験数:なし
淫乱レベル:B
快感値:300/300
―栗毛の髪で表情が明るい。なぜかひとりだけ嬉しそうに笑っている。
○ノルエル(16歳)
商家の娘
ジョブ:侍女〈レベル3〉
経験数:女1
淫乱レベル:A
快感値:150/150
―小柄で細身、胸はほとんど膨らんでいない。怯えたように一郎を見ている。
○オタビア=カロー(19歳)
子爵家 次女
ジョブ:侍女〈レベル4〉
経験数:なし
淫乱レベル:SS
快感値:80/80
―長袖と手袋を欠かさない茶髪の少女。肌を隠す仕草に怯えがにじむ。先天性全身性感帯という興味深い特性がステータスにある。
○ダリア(18歳)
カロー家 従者長の長女
ジョブ:侍女〈レベル4〉
経験数:なし
淫乱レベル:B
快感値:450/450
―痩せた赤毛の娘。オタビアを庇うように立ち、鋭い警戒心を見せている。
○クアッタ=ゼノン(20歳)
子爵家 次女
ジョブ:侍女〈レベル9〉
経験数:なし
淫乱レベル:B
快感値:250/250
―赤茶の髪で快活そうな顔立ち。ざわめく仲間の中でも声を出しそうな雰囲気
○ユニク=ユルエル(22歳)
子爵家 次女
ジョブ:侍女〈レベル5〉
経験数:なし
淫乱レベル:A
快感値:170/170
―柔らかい笑みを浮かべる栗毛の娘。一見して落ち着きがある。
○セクト=セレブ(25歳)
男爵家 次女
ジョブ:料理〈レベル5〉、侍女〈レベル4〉
経験数:なし
淫乱レベル:C
快感値:350/350
―黒髪で背が高い。料理ジョブがある。仕草に無駄がない。
○デセル(20歳)
豪農の娘
ジョブ:侍女〈レベル3〉
経験数:なし
淫乱レベル:B
快感値:300/300
―地味な佇まいだが、視線だけは一郎の動きをしっかり追っている。
○リノ(24歳)
騎士爵家 長女
ジョブ:戦士〈レベル7〉、侍女〈レベル7〉
経験数:なし
淫乱レベル:C
快感値:500/500
―銀髪で小柄。剣士のような背筋の伸び方をしているが、表情は幼い。
○ミレイユ(=ヴァレリア)(27歳)
没落した元伯爵貴族の令嬢
ジョブ:官吏〈レベル15〉、侍女〈レベル10〉
経験数:男2
淫乱レベル:A
快感値:100/100
―一郎に憎悪の表情を向けている。気の強さが顔ににじみ出ている。十人のなかでは最年長
そして、魔眼で彼女たちのステータスを一瞥した瞬間、一郎には犯人がわかってしまった。
ステータスには、まだ所持している毒薬が「武器」として認識され、装備にその名が残っていたのだ。
おそらく隠蔽具に包んでいるので、本人は隠しおおせているつもりなのだろう。だが、一郎の魔眼は、その隠蔽具ごと毒を所持しているのを捉えていた。
さて、どうするかな……?
そのときだった──。
「シャーラ様、お答えください。彼は誰で、どういう立場でここにいるのですか。そもそも、どうやってここにいるのですか」
ミレイユが声を荒げた。怒鳴るのはこれで三度目だが、まだ収まる気配はない。
「うるさい──。これから毒についての捜査をする。わたしが呼んだのだ。ロウは腕のいい冒険者だ」
イザベラの声音は冷えている。だが、ミレイユは引き下がらない。
「冒険者──。冗談じゃありません。そんな権利はないはずです」
「貴様、わたしに処断されたいか──」
部屋の空気が一瞬で張り詰めた。そのとき、侍女たちの中から、くすりと小さな笑い声が漏れた。栗毛のトリア=アンジュだ。さっきから、なぜか楽しそうに笑っている娘だ。
「なにがおかしいのよ、トリア──?」
ミレイユが怒鳴りつけた。その叱責を受けた瞬間、トリアは肩をびくりと震わせた。
雰囲気から、自分の声が聞こえると予想していなかったのだろう。
「ごめんなさい。なんでもありません」
慌てて頭を下げたが、その声音には、かすかに躊躇と迷いが残っている。
「理由を訊いてるのよ」
ミレイユの詰問は執拗だ。すると、イザベラも視線を向けた。
「そうだな。なにがおかしいのか、わたしも興味がある。説明せよ」
イザベラの声音には威圧も憤懣も滲んでいた。
トリアは少しのあいだ困ったように視線を泳がせていたが、やがて小さく息をつき、口角を上げた。
「……正直に言っていいんですか?」
トリアはイザベラへ向けて、含みを持たせた笑みを浮かべた。
「ああ、申せ。興味があるしな」
「だって、姫様。いまだけじゃなくて、最近何回か、夜中に部屋に誰か呼んでますよね」
トリアは声を潜めもせず、さらりと言った。
「なんの話だ?」
イザベラが困惑している。
一郎も、急にトリアがなにを言い出したのかわからなかった。
「だって……その方、姫様のいい人だと思って……」
トリアがくすくすと笑う。
「はああ──?」
イザベラが真っ赤になった。
「多分、移動術か何かの魔道で呼び込んでいると思うんですよね。わざわざ防音結界を敷いたりしているから、なにかあるんだろうなと、ずっと思ってたんです」
ミレイユが言葉を失い、ノルエルとオタビアも小さく息を吐いた。
一郎は内心で苦笑した。随分と観察眼の鋭い娘だ。
それに、雰囲気からすると、イザベラの様子が不自然なことに勘づいた侍女もいたようだ。
「昼間は赤い顔をして悶えたりしていたので、もしかして、いやらしいことをして遊んでいるのかなあとか……。そして今日ですよね。姫様の眼を見てわかりました。この人が姫様の恋人なんだろうなあと」
部屋に沈黙が落ちた。
「な、な……」
イザベラの顔は、いまや完全に真っ赤だった。
ミレイユは口をぱくぱくさせて驚いている。
そんな中、トリアだけが満面の笑みを浮かべ、また含み笑いをしていた。
観察力と好奇心。そのどちらもが過剰に尖っている少女で、しかも度胸まである。
一郎は内心でほくそ笑んだ。
「さて──」
一郎は声をあげるとともに、大きな咳払いをひとつした。
すると、侍女たちの視線が一郎に集まった。
「……さて、まず言っておく。俺は姫様とシャーラに頼まれてここにいる」
「……そんなもの、受け入れられないわ……」
その瞬間、小さな声でミレイユが呟いた。
だが、一郎は無視する。
「それと、もうひとつ。俺はこの中の誰が毒を盛ったのか、既に判断している」
室内がしんと静まり返った。
全員の呼吸が止まったように感じる。
その沈黙の中で、一郎が密かに観察していた侍女だけが、わずかに顔色を失った。
「……わかった手段は教えないが、まあ、そういう異能持ちだと思ってくれ」
一郎の言葉に侍女たちは強張り、顔を引きつらせた。
驚きと恐怖が一斉に走り、誰もが視線をさまよわせている。
「……まあ、そういうことだ。でも、ここで犯人捜しはしない。無駄だからだ」
一郎の声は落ち着いていた。
「無駄? どういう意味ですか、ロウ殿? 犯人は誰なんです?」
シャーラが口を挟んだ。
一郎は、シャーラに向かって微笑んだまま小さく首を振る。
そして、視線を侍女たちに戻す。
「犯人は言わない……。ただし──その者は俺に犯されることになる。それで罪は不問にする」
侍女たちに動揺が走ったのがわかった。
息を呑む気配が重なり、緊張がせり上がっている。
「そして、犯人も含めて、今後、ここに侍女として残る者は、たったいまから俺に抱かれてもらう」
「えっ」
「ええっ?」
「なっ」
侍女たちは一郎の言葉に驚き、声を上げた。
その中心で、ミレイユが顔を紅潮させ、手を震わせていた。
喉の奥で、押し殺した息がかすかに震えている。
「ば、ばかげたことを……。冗談じゃないわ……」
ミレイユは言葉を吐き出したが、声の震えは隠せなかった。
「誰が今回の事件を起こしたかに関わらず、ここで侍女を続けるには、俺の精を受けてもらう。それは姫様ともシャーラとも決めたことだ。覆らない」
ミレイユは唇を強く噛んでいる。
反論しようとしているのに、声が出ない感じだ。
こわばった指先が、かすかに震えていた。
「あっ、でも、言っておくけど──毒を盛った犯人だけは逃げられない。さっきも言ったように、誰かわかっている。だが、俺の精を受ければ不問にする。姫様にも、シャーラにも内緒にしてやる」
「わたしにも、犯人を教えんのか?」
イザベラが苦笑した。
「名を聞けば、しこりが残る。その実家も処分せねばならない」
「実家……ということは、貴族出か?」
イザベラの問いに、侍女たちは息を呑んだ。
十人のうち七人が、没落を含む貴族の家の娘で、三人が庶民の家の娘だ。
「貴族じゃなくても、王族に毒を盛れば連座で家ごと処刑だろう?」
一郎は言った。
「まあ、そうね」
シャーラが肩を竦める。
侍女たちがさらに緊張するのがわかった。
それにしても──。
キシダインはどれだけイザベラの侍女たちに手を伸ばしているのか。
道具にされる侍女も命懸けだが、そのやり方は驚くほど稚拙だ。
彼にとっては失敗しても構わない刺客なのだろう。
使い捨てにされる侍女も、その実家も、ある意味では被害者だ。
いずれにしても、一郎は、今回は犯人を伏せると決めていた。
罪を犯した侍女も含めて、二度と裏切れないようにすればいい。
一郎の精なら、それができるからだ。
「とにかく、もう一度言う──。それを受け入れられない者は、すぐに部屋を立ち去ることだ。ただし、出ていけば、王女付の侍女は罷免だ。繰り返すが、姫様ともシャーラとも話はついている」
一郎はきっぱりと断言して、外に出て行く扉を指さす。
侍女たちは突然の宣告についていけず、呆然と立ち尽くす雰囲気だ。
だが、ミレイユが、その中でひとり、強く肩を震わせている。
「いや、それはならん、ロウ」
イザベラが口を挟んだ。
「ならんとは?」
一郎はイザベラに視線を向けた。
「そ、そうですよね……。さすがに理不尽です……。突然に、その男に抱かれろだなんて、意味分からないし」
ミレイユがほっとしたように小さく息を吐いた。
しかし、その直後にイザベラの言葉が落ちた。
「違う──。出ていくことは許さん。この部屋の者は全員がロウの精を受けよ。もはや、わたしはロウの女になった者しか信じられん。ロウの精を受ければ、それだけで絶対に信じる。……これは……命令だ」
「ひ、姫様……」
ミレイユが絶句した。
イザベラの強い感情だけは肌で感じたのだろう。
しかし、それでも、すぐに意を決したように口を開く。
「そ、そんな……わたしたちは侍女で……若い娘もいます……。その方は……殿下の……愛人様であられるのでしょう……。ですから……理由もなく、そんなことは……」
ミレイユは震えた声で言い募る。
しかし、イザベラは面倒くさそうに身体の前で手を振った。
「なにを狼狽える? とにかく、わたしの言葉に例外はない。ここにいる者は全員、このロウ殿の女になれ。そなたも例外ではない」
イザベラの声音は低く静かで、逆らえない力があった。
ミレイユは顔に悔しさを浮かべて、歯を食いしばっている。
だが、出ていく気配だけはない。
口惜しげに視線を落としたまま、じっとその場に立ち尽くしていた。
一郎はその変化を横目で捉えつつ、侍女たちの周囲に微香を流した。抱くとなれば、身体をほぐし、受け入れやすくしてやるべきだと思ったからだ。
そして、クグルスが言っていた“フェロモン”も試す。
淫魔師の力なら、意図ひとつで放つことができた。
どのくらいが適当かわからない。
とりあえず、少し強めに……。
その時だった。
目の前の空間が淡く揺れた。移動術だ──。
現れたのはスクルズだった。
白と紺を基調に金飾りを散らした法衣が揺れ、膝上のスカートに淡い光が落ちる。筆頭巫女としての威厳と、どこか無邪気な気配が同居している。
侍女たちが一斉に息をのんだ。第三神殿の筆頭巫女が突然の出現など、誰も予想していなかったのだろう。
「ああ、来てくれたのか、スクルズ」
一郎が声を掛ける。
スクルズは朗らかに微笑んで頷いた。
「ええ、もちろんですわ。シャーラ様から事件の報せを伝える言玉も届きましたので。それより──イザベラ様、お身体は大丈夫ですの?」
スクルズがイザベラに視線を向ける。
なんとなくだが、魔道が流れている気配を感じた。異常の有無を魔道で確認しているのだろう。
「問題はない。毒は飲んでいない。事前に発見できたからな」
イザベラが顎を上げた。
「それは、それは……よかったですわ」
スクルズは胸に手を当て、ほっと息を吐いた。
だがすぐに表情を引き締め、一同へ視線を向ける。
「ところで、いまは毒を盛った者を見つけようとしておられるのですか? 及ばずながら、このスクルズもご協力いたしますわ」
「犯人捜しはしない。その代わりに──全員、俺に抱かれろと説得しているところだ」
一郎は小さく首を振った。
侍女たちがざわりと揺れた。
その中でミレイユが、救いを求めるようにスクルズへ身を向ける。
「スクルズ様……どうか、お取りなしを。この冒険者に抱かれないと侍女は罷免だと、姫様が……。そんなこと、許されません……」
ミレイユの言葉にスクルズは一瞬きょとんとした。
だがすぐに、満面の笑みを咲かせた。
「まあまあまあ。それは……本当によかったですわ。皆さま──」
侍女全員が硬直した。
スクルズは柔らかく手を広げ、慈愛そのものの笑みを見せる。
「ロウ様に抱かれるというのは、祝福でございます。心も身体も満たされて、幸福になりますのよ。なにひとつ、恐れる必要はありませんわ」
室内が凍りついたように静まり返った。
侍女たちは誰ひとり声を出さず、ただ呆然と立ち尽くしている。
その静寂の中で、一郎だけがわずかに口元をふっと緩めた。