【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「ロウ様に抱かれるというのは、祝福でございます。心も身体も満たされて、幸福になりますのよ。なにひとつ、恐れる必要はありませんわ」
スクルズの陽気な声が広間に弾けた瞬間、侍女たちの表情が一斉に硬直した。
だが、白と紺の法衣の裾を揺らしながら、スクルズは満面の笑みとともに、一郎に抱かれることは祝福だと言い切った。
一郎としては苦笑するしかない。
「……そんな……スクルズ様まで……。そんなの……そんなの受け入れられません……」
ほかの侍女たちが完全に黙り込んだ状況で、呟いたのはミレイユだ。
どうしても、納得がいかない様子だ。
まあ、それは当たり前の感覚なのだろうが……。
「黙れ、ミレイユ……。わたしの命だ。従え」
イザベラが冷たく一喝する。
それで、再び場は沈黙した。
スクルズの華やかな笑みと、イザベラの冷然とした命令。シャーラも助け船を出す気配は皆無──。
部屋に拡がる圧迫が、十人の侍女たちを完全に追い詰めている。
ここまで来れば、あとは勢いだな。
一郎は一歩前に出た。
「最初は誰にする? 全員を抱くけど、最初を希望する者はいるか? ひとりずつ、あるいは二人でいくぞ」
一郎の言葉が、ようやく硬直した雰囲気を揺らす。
侍女たちの視線が床へ、互いへ、一郎へと散り、戸惑いと不安が入り混じる。
すると、十人の中から真っ直ぐに手があがった。
トリア=アンジュだ。
栗色の髪が震えて顔は真っ赤だが、それでも腕を上げる力には力が入っている。
「……わたし、行きます」
気迫と覚悟が混じった声だった。
すると、その横で、小柄なノルエルが、一瞬だけ迷ったあと、震える手をそっと上げた。
「……トリア……が行くなら……あたしも」
「あら、そうなの?」
「うん……」
ふたりの間に、短く息を交わすような視線が流れた。
怯えているのに、それでもノルエルはトリアとともに、踏み出して前に出てきた。
一郎はゆっくりと頷いた。
「よし。ふたりとも、来い」
一歩近づく。
トリアが手を伸ばし、ノルエルもその後に続く。
一郎はふたりの手を引くと、最初にトリアを引き寄せた。
トリアの顎にそっと触れ、逃げられないように角度を決める。
その仕草だけで、トリアの喉が小さく震えた。
「力を抜いて……」
ささやいた瞬間、唇を深く重ねた。
触れるだけの口づけではない。舌を絡め取るように押し入り、
その奥へ、さらに奥へ──唾液を流し込む。
「……ん、っ……」
トリアの背が反った。
ぴくりと喉が脈打ち、飲み込む音がかすかに響く。
唾液が確かに落ちた。
その瞬間、淡い淫魔術の刻みが、彼女の身体の奥でわずかに結ばれた。
これで問題ない……。
「……はあ、はあ……」
口づけを離されたトリアは、一郎の胸へ吸い寄せられるように身を預けた。
潤んだ唇、熱を帯びた頬、ほどけた視線。身体が支配されつつあることを、自分でも薄々理解しているのだろう。
「……ノルエル……大丈夫よ。お前も……」
トリアはノルエルの手をそっと握った。
そのぬくもりが伝わった瞬間、ノルエルの肩から力が抜ける。
さっきまで固まっていた足が、わずかに前へ出た。
「……トリア様……」
ノルエルの声は震えていたが、それは怯えよりも決意の色が強かった。
その直後、一郎がノルエルを抱き寄せ、深い口づけを与えた。
「んっ……」
ノルエルの吐息が一瞬止まり、
ついで小さく震える声が喉から洩れた。
ノルエルの喉がぴくりと動く。
その瞬間、軽い性支配が刻まれた。
唇を離す。
ノルエルは目を潤ませながら、一郎の胸に手を添えて息をしている。
「……はぁ……あの……なんか……変です……」
「大丈夫だ」
一郎が穏やかに囁くと、ノルエルは小さく頷いた。
頬は真っ赤で、膝がわずかに震えている。
「行くぞ」
空間がゆらぎ、視界が白に染まった。
光がほどけ、外界の気配が消え落ちる。
トリアとノルエルの身体が、静かに異空間──一郎と一郎に支配された女しか入ることのできない──なにも存在しない「白の空間」に引き込まれた。
「えっ?」
「なに?」
景色が一変し、なにもない空間へと切り替わる。
一郎がときどき女を抱くために使っている場所──「白い空間」だ。
本来は、サキから借りている「仮想時空」という想像上の時空に出入りするための亜空間なのだが、一郎は仮想時空よりも、むしろこちら側を多く使っていると思う。
ここは、現実とも違う、しかし、仮想時空という仮の現実とも違うその境目の場所なのだ。
空間があるようで、ないようで──それでいて確かに存在する不思議な場所だ。
時間もまた特異だ。
亜空間に収容した“物”には時間が進まない。食べ物を入れても、どれだけ経っても腐らないのはそのためだ。
一方で人を収容した場合は、一郎の意識ひとつで時間の流れを調整できる。
ここで三日過ごしても外では一瞬しか経たなかったり、逆に、外と同じように三日が過ぎたようにすることもできる。
万能ではなく、外に物を持ち出したりはできないが、抱くための時間だけは、いくらでも確保できる。
亜空間に収容しているものであれば、現実空間だけでなく、この白い空間でも取り出すことが可能だ。
もっとも、この白い空間で“想像から産み出せる”ものは、あくまで空間内だけの存在であり、外に持ち出すことはできない。万能の魔道というわけではないのだ。
だが、プレイ用の家具──大きな寝台や吊りプレイ用の梁付きの台──のように、一郎があらかじめ収容したものを配置するには申し分ない。
景色は存在せず、どこまでも真っ白い空間が広がっている。
いま白い空間を操っている一郎が念じなければ、上も下も、身体さえ存在しない“意識だけの場所”になる。
理屈はわからない。だが、そういう場所なのだ。
「亜空間術だ。まあ、魔道の一種と思ってくれればいい」
一郎はふたりを寝台へ導いた。
巨大な寝台の中央に三人で丸く座り、お互いの顔を見られる姿勢になる。
「こ、これ……魔道なんですか……?」
「……あの……ここ……どこなんでしょう……?」
ふたりは呆然と辺りを見回していた。
亜空間術という概念が理解できないのだろう。
高位魔道には“収容術”も存在するが、生きた人間を収容する概念はないらしい。
ましてや術者ごと入ってしまうなど、理屈が想像できないとスクルズもベルズも言っていた。
もっとも、一郎としては、使えるならそれでいいだけの話なので、理屈は気にしていない。
「さて」
一郎がふたりの正面に向き直った瞬間、それまで軽やかに笑っていたトリアの表情から、色気と無邪気さがすっと引いた。
代わりに、生真面目で、どこか張りつめた気配が生まれる。
「ロウさん……ですよね。わたしに、訊きたいことがあるんじゃないですか?」
「訊きたいこと?」
「姫様に毒を盛った犯人のことです。ロウさんは犯人を知っていると言いました。さらに、犯人がロウさんに抱かれれば、不問にすると」
「ああ。言ったね」
一郎は軽く頷いた。
「……それで、犯人はわたしだと、確認してますよね」
トリアはきっぱりと言った。
一郎が口を開こうとした、その瞬間だった。
「その……あの……あ、あたしです……」
押しつぶされたような小さな声が割り込んだ。
ノルエルだった。
肩を震わせながら、一歩、前に出る。
「犯人は……あたし、です……。ごめんなさい……どうか、家族だけは……」
ふらつく足取りで、そのまま膝をつく。
寝台のマットに手をつき、頭を深く下げた。
内気そうな少女が絞り出すには、あまりに重い言葉だった。
「ノルエル、なにを言っているの──」
トリアがびっくりしたような声をあげる。
「ト、トリア……黙ってて……」
ノルエルは震えながら、しかし決意の色を帯びた声で遮った。
「し、調べれば……わかります……。あ、あたしの……部屋の……下着の棚……奥……。小瓶……あります……。それが……そう……です……」
言葉の端々が途切れ、涙が落ちる。
それでも、必死だった。
トリアは呆然とノルエルを見つめていたが、はっとしたように息を飲んだ。
「……ノルエル、もしかして……わたしの隠し棚から、あの小瓶を取ったの?」
「トリア……ちが……っ。でも……ロ、ロウ様。あたしです……。あたしが……やりました……」
ノルエルは顔を上げられずに言い切った。
声は震え、息は詰まり、それでも逃げなかった。
「違うわ。ノルエル、やめて──」
トリアはノルエルの肩を掴む。
その指先も震えていた。
「トリア……いいから。あたしも、あたしの家族も大丈夫……。でも、あなたには……優しい妹さんも、弟さんも……」
「いいから黙って──。ねえ、ロウさん。ノルエルの言っている小瓶は……わたしのものです。わたし……脅されました。姫様に毒を盛れと……。さもないと実家が借金で潰れると。でも、やってません。毒は受け取ったけど、使ってないんです」
「え……?」
ノルエルがゆっくり顔を上げる。
涙の跡が光っていた。
「ノルエル。あんたに話してなかったけど……わたし、脅迫されたの。だから、あの毒を渡された。でも、絶対やらないつもりだった」
「……そ、そんな……」
ノルエルは混乱したようにトリアの顔を見た。
「……ノルエル。あんた、あの小瓶を見つけたのね。でも違う。あれは渡されただけ。使ってない。絶対にやってないわ」
トリアが抱き寄せるように肩を押さえた。
その声には、叱りつける強さではなく、必死に守ろうとする温度があった。
ノルエルは呆然としている。
トリアが、また一郎へ向き直った。
「ロウさん。わたしはやってません。脅されただけです。でも……ノルエルも違います。ノルエルが言っているのは、わたしを庇うためです。どうか、それだけは信じてください」
「わかった……。言いたいことを喋ってくれ」
一郎が穏やかに促すと、トリアは小さく息を吸った。胸の前で組んだ手が、わずかに震えている。
「……うちの実家は、俸給貴族といっても名ばかりなんです。俸禄と小さな事業だけでやりくりしてきました。でも、数年前の不況で事業が傾いて……借金が、一気に膨らみました」
トリアはゆっくりと言葉を紡ぐ。
ノルエルは黙ったまま、その横顔を不安そうに見つめていた。
「借金を肩代わりしていた商家が……最近になって、キシダイン公と深く繋がっているとわかったんです。そのあとです。家に、キシダイン公の使いが来ました」
その瞬間、トリアの喉がかすかに震えた。
だが声は崩れなかった。
「“王女様に、少しだけ薬を混ぜろ”って……。それをしなければ……弟と妹を借金奴隷として差し出せと。父は逆らえませんでした」
「トリア……」
ノルエルが口元を押さえる。肩が小刻みに揺れている。
「でも……わたしは、やってません。毒は渡されましたけど、使うつもりなんてなかった。部屋の奥に隠して……どうにかして処分しようと思ってました」
トリアは唇を噛んだ。
必死に、泣かないように堪えている。
「ノルエルが小瓶を見つけたとはわかりませんでした……。わたしを庇おうとして変な誤解をしたんだと思います。ノルエルは犯人じゃありません。あれは全部……わたしのせいです」
その言葉に、ノルエルが潤んだ瞳で首を横に振った。
「ち、ちが……。あたし……トリアが震えてるのを見て……勝手に……」
「ノルエル。あなたのせいじゃない。悪いのは、あんな脅しをしてきた連中よ」
トリアはほんの一瞬だけノルエルの手を握り、それからもう一度、一郎へ向き直った。
「ロウさん。……ほんとうのことだけ言いました。わたしは、姫様にはなにもしてません。でも……わたしが毒を持っていたのは事実です。どう裁かれても仕方ありません。でも……ノルエルだけは、違います」
「わかった。信じるよ……」
一郎は静かに頷いた。
「えっ?」
「あるところからも情報が届いていた。キシダイン卿の手が伸びていた侍女の実家は二軒。そのうちのひとつは、確かに君の家だったな」
その調査を担ったのはマアだ。
キシダイン派の金の流れを追ってもらったところ、驚くほど早く裏を取ってくれた。
結果として、侍女たちの実家の中に、すでに脅迫を受けている家が二軒あることがわかったのだ。
侍女たちの実家がこれ以上圧力を受けないように、マア商会の保護に入れてしまうのが本当は望ましかった。
ただ、今回はそこまで手を回す時間がなかっただけで、対策自体はすでに動き始めている。
キシダインがさらに踏み込んでくることは、もうないだろう。
それはマアが保証した。
「……やっぱり、調べていたんですね」
トリアが小さく息を飲む。
「シャーラも、さりげなく君の動きを追っていたはずだ。だから、君は疑われていることに気づいたんだろうな」
「……はい。気づいていました。わたし、鈍いほうじゃないので……」
トリアは苦笑のような表情を浮かべた。
「でも、よく告白してくれた。充分だ。君はやってない。ノルエルも違う。ふたりとも関係ない」
「そ、そう……なんですね……。よかった……」
ノルエルもほっと肩から力を抜いている。
けれどトリアは、完全には安心できないという顔で視線を向ける。
「それで……わたしたちは、どうなるんですか?」
「どうもならない。俺がみんなの前で言ったとおりだ。姫様も承知している。犯人はどうでもいい。犯人捜しはしないし、それが目的じゃない」
トリアがきょとんと目を瞬き、ノルエルははっとしたように目を見開いた。
「君たちふたりは、俺に犯される……。それが目的だ。じゃあ、本題に入ろう……。ふたりで向かい合って、お互いの服を脱がせるんだ。そして、俺の前で愛し合ってもらう。君たちはそういう関係なんだろう?」
一郎は微笑んだ。
そして、魔眼で改めて、ふたりのステータスを読む。
トリア=アンジュ
人間族、女
男爵家 長女
イザベラ付侍女
年齢18歳
ジョブ
侍女〈レベル5〉
生命力:50
魔道力:15
経験数:なし
淫乱レベル:B
快感値:300/300
状態
一郎の性支配(軽)
ノルエル
人間族、女
商家の娘
イザベラ付侍女
年齢16歳
ジョブ
侍女〈レベル3〉
生命力:50
魔道力:なし
経験数:女1
淫乱レベル:A
快感値:130/150↓
状態
一郎の性支配(軽)
ふたりのうち、ノルエルのステータスの経験数には、“女1”の表示がある。
この経験数には、単なる少女たちが触れる程度の百合遊びでは、数字に入ることはない。
淫具の挿入を伴う性愛をしないと数には入らないのだ。
それにもかかわらす、ノルエルには“女1”と表示され、トリアは“なし”となっている。
ふたりが百合愛の関係なのは、見ているだけでなんとなく勘でわかったし、さっきの庇い合いでも間違いないだろう。
そして、一郎の命令にふたりが真っ赤になったことで明白だ。
しかも、ノルエルなど、一郎の“命令”だけでも、もう快感値が〈20〉も減っている。
つまりはそういうことなのだ。
ふーん。