※この作品はR-18です。

【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】   作:ドン・ドナシアン

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189 ふたりの志願者 ─トリア、ノルエル

「ロウ様に抱かれるというのは、祝福でございます。心も身体も満たされて、幸福になりますのよ。なにひとつ、恐れる必要はありませんわ」

 

 スクルズの陽気な声が広間に弾けた瞬間、侍女たちの表情が一斉に硬直した。

 だが、白と紺の法衣の裾を揺らしながら、スクルズは満面の笑みとともに、一郎に抱かれることは祝福だと言い切った。

 一郎としては苦笑するしかない。

 

「……そんな……スクルズ様まで……。そんなの……そんなの受け入れられません……」

 

 ほかの侍女たちが完全に黙り込んだ状況で、呟いたのはミレイユだ。

 どうしても、納得がいかない様子だ。

 まあ、それは当たり前の感覚なのだろうが……。

 

「黙れ、ミレイユ……。わたしの命だ。従え」

 

 イザベラが冷たく一喝する。

 それで、再び場は沈黙した。

 スクルズの華やかな笑みと、イザベラの冷然とした命令。シャーラも助け船を出す気配は皆無──。

 部屋に拡がる圧迫が、十人の侍女たちを完全に追い詰めている。

 ここまで来れば、あとは勢いだな。

 一郎は一歩前に出た。

 

「最初は誰にする? 全員を抱くけど、最初を希望する者はいるか? ひとりずつ、あるいは二人でいくぞ」

 

 一郎の言葉が、ようやく硬直した雰囲気を揺らす。

 侍女たちの視線が床へ、互いへ、一郎へと散り、戸惑いと不安が入り混じる。

 

 すると、十人の中から真っ直ぐに手があがった。

 トリア=アンジュだ。

 栗色の髪が震えて顔は真っ赤だが、それでも腕を上げる力には力が入っている。

 

「……わたし、行きます」

 

 気迫と覚悟が混じった声だった。

 すると、その横で、小柄なノルエルが、一瞬だけ迷ったあと、震える手をそっと上げた。

 

「……トリア……が行くなら……あたしも」

 

「あら、そうなの?」

 

「うん……」

 

 ふたりの間に、短く息を交わすような視線が流れた。

 怯えているのに、それでもノルエルはトリアとともに、踏み出して前に出てきた。

 一郎はゆっくりと頷いた。

 

「よし。ふたりとも、来い」

 

 一歩近づく。

 トリアが手を伸ばし、ノルエルもその後に続く。

 一郎はふたりの手を引くと、最初にトリアを引き寄せた。

 トリアの顎にそっと触れ、逃げられないように角度を決める。

 その仕草だけで、トリアの喉が小さく震えた。

 

「力を抜いて……」

 

 ささやいた瞬間、唇を深く重ねた。

 触れるだけの口づけではない。舌を絡め取るように押し入り、

 その奥へ、さらに奥へ──唾液を流し込む。

 

「……ん、っ……」

 

 トリアの背が反った。

 ぴくりと喉が脈打ち、飲み込む音がかすかに響く。

 唾液が確かに落ちた。

 その瞬間、淡い淫魔術の刻みが、彼女の身体の奥でわずかに結ばれた。

 これで問題ない……。

 

「……はあ、はあ……」

 

 口づけを離されたトリアは、一郎の胸へ吸い寄せられるように身を預けた。

 潤んだ唇、熱を帯びた頬、ほどけた視線。身体が支配されつつあることを、自分でも薄々理解しているのだろう。

 

「……ノルエル……大丈夫よ。お前も……」

 

 トリアはノルエルの手をそっと握った。

 そのぬくもりが伝わった瞬間、ノルエルの肩から力が抜ける。

 さっきまで固まっていた足が、わずかに前へ出た。

 

「……トリア様……」

 

 ノルエルの声は震えていたが、それは怯えよりも決意の色が強かった。

 その直後、一郎がノルエルを抱き寄せ、深い口づけを与えた。

 

「んっ……」

 

 ノルエルの吐息が一瞬止まり、

 ついで小さく震える声が喉から洩れた。

 ノルエルの喉がぴくりと動く。

 その瞬間、軽い性支配が刻まれた。

 唇を離す。

 ノルエルは目を潤ませながら、一郎の胸に手を添えて息をしている。

 

「……はぁ……あの……なんか……変です……」

 

「大丈夫だ」

 

 一郎が穏やかに囁くと、ノルエルは小さく頷いた。

 頬は真っ赤で、膝がわずかに震えている。

 

「行くぞ」

 

 空間がゆらぎ、視界が白に染まった。

 光がほどけ、外界の気配が消え落ちる。

 トリアとノルエルの身体が、静かに異空間──一郎と一郎に支配された女しか入ることのできない──なにも存在しない「白の空間」に引き込まれた。

 

 


 

 

「えっ?」

 

「なに?」

 

 景色が一変し、なにもない空間へと切り替わる。

 一郎がときどき女を抱くために使っている場所──「白い空間」だ。

 本来は、サキから借りている「仮想時空」という想像上の時空に出入りするための亜空間なのだが、一郎は仮想時空よりも、むしろこちら側を多く使っていると思う。

 ここは、現実とも違う、しかし、仮想時空という仮の現実とも違うその境目の場所なのだ。

 

 空間があるようで、ないようで──それでいて確かに存在する不思議な場所だ。

 時間もまた特異だ。

 亜空間に収容した“物”には時間が進まない。食べ物を入れても、どれだけ経っても腐らないのはそのためだ。

 

 一方で人を収容した場合は、一郎の意識ひとつで時間の流れを調整できる。

 ここで三日過ごしても外では一瞬しか経たなかったり、逆に、外と同じように三日が過ぎたようにすることもできる。

 万能ではなく、外に物を持ち出したりはできないが、抱くための時間だけは、いくらでも確保できる。

 亜空間に収容しているものであれば、現実空間だけでなく、この白い空間でも取り出すことが可能だ。

 

 もっとも、この白い空間で“想像から産み出せる”ものは、あくまで空間内だけの存在であり、外に持ち出すことはできない。万能の魔道というわけではないのだ。

 だが、プレイ用の家具──大きな寝台や吊りプレイ用の梁付きの台──のように、一郎があらかじめ収容したものを配置するには申し分ない。

 

 景色は存在せず、どこまでも真っ白い空間が広がっている。

 いま白い空間を操っている一郎が念じなければ、上も下も、身体さえ存在しない“意識だけの場所”になる。

 理屈はわからない。だが、そういう場所なのだ。

 

「亜空間術だ。まあ、魔道の一種と思ってくれればいい」

 

 一郎はふたりを寝台へ導いた。

 巨大な寝台の中央に三人で丸く座り、お互いの顔を見られる姿勢になる。

 

「こ、これ……魔道なんですか……?」

 

「……あの……ここ……どこなんでしょう……?」

 

 ふたりは呆然と辺りを見回していた。

 亜空間術という概念が理解できないのだろう。

 高位魔道には“収容術”も存在するが、生きた人間を収容する概念はないらしい。

 ましてや術者ごと入ってしまうなど、理屈が想像できないとスクルズもベルズも言っていた。

 もっとも、一郎としては、使えるならそれでいいだけの話なので、理屈は気にしていない。

 

「さて」

 

 一郎がふたりの正面に向き直った瞬間、それまで軽やかに笑っていたトリアの表情から、色気と無邪気さがすっと引いた。

 代わりに、生真面目で、どこか張りつめた気配が生まれる。

 

「ロウさん……ですよね。わたしに、訊きたいことがあるんじゃないですか?」

 

「訊きたいこと?」

 

「姫様に毒を盛った犯人のことです。ロウさんは犯人を知っていると言いました。さらに、犯人がロウさんに抱かれれば、不問にすると」

 

「ああ。言ったね」

 

 一郎は軽く頷いた。

 

「……それで、犯人はわたしだと、確認してますよね」

 

 トリアはきっぱりと言った。

 一郎が口を開こうとした、その瞬間だった。

 

「その……あの……あ、あたしです……」

 

 押しつぶされたような小さな声が割り込んだ。

 ノルエルだった。

 肩を震わせながら、一歩、前に出る。

 

「犯人は……あたし、です……。ごめんなさい……どうか、家族だけは……」

 

 ふらつく足取りで、そのまま膝をつく。

 寝台のマットに手をつき、頭を深く下げた。

 内気そうな少女が絞り出すには、あまりに重い言葉だった。

 

「ノルエル、なにを言っているの──」

 

 トリアがびっくりしたような声をあげる。

 

「ト、トリア……黙ってて……」

 

 ノルエルは震えながら、しかし決意の色を帯びた声で遮った。

 

「し、調べれば……わかります……。あ、あたしの……部屋の……下着の棚……奥……。小瓶……あります……。それが……そう……です……」

 

 言葉の端々が途切れ、涙が落ちる。

 それでも、必死だった。

 トリアは呆然とノルエルを見つめていたが、はっとしたように息を飲んだ。

 

「……ノルエル、もしかして……わたしの隠し棚から、あの小瓶を取ったの?」

 

「トリア……ちが……っ。でも……ロ、ロウ様。あたしです……。あたしが……やりました……」

 

 ノルエルは顔を上げられずに言い切った。

 声は震え、息は詰まり、それでも逃げなかった。

 

「違うわ。ノルエル、やめて──」

 

 トリアはノルエルの肩を掴む。

 その指先も震えていた。

 

「トリア……いいから。あたしも、あたしの家族も大丈夫……。でも、あなたには……優しい妹さんも、弟さんも……」

 

「いいから黙って──。ねえ、ロウさん。ノルエルの言っている小瓶は……わたしのものです。わたし……脅されました。姫様に毒を盛れと……。さもないと実家が借金で潰れると。でも、やってません。毒は受け取ったけど、使ってないんです」

 

「え……?」

 

 ノルエルがゆっくり顔を上げる。

 涙の跡が光っていた。

 

「ノルエル。あんたに話してなかったけど……わたし、脅迫されたの。だから、あの毒を渡された。でも、絶対やらないつもりだった」

 

「……そ、そんな……」

 

 ノルエルは混乱したようにトリアの顔を見た。

 

「……ノルエル。あんた、あの小瓶を見つけたのね。でも違う。あれは渡されただけ。使ってない。絶対にやってないわ」

 

 トリアが抱き寄せるように肩を押さえた。

 その声には、叱りつける強さではなく、必死に守ろうとする温度があった。

 ノルエルは呆然としている。

 トリアが、また一郎へ向き直った。

 

「ロウさん。わたしはやってません。脅されただけです。でも……ノルエルも違います。ノルエルが言っているのは、わたしを庇うためです。どうか、それだけは信じてください」

 

「わかった……。言いたいことを喋ってくれ」

 

 一郎が穏やかに促すと、トリアは小さく息を吸った。胸の前で組んだ手が、わずかに震えている。

 

「……うちの実家は、俸給貴族といっても名ばかりなんです。俸禄と小さな事業だけでやりくりしてきました。でも、数年前の不況で事業が傾いて……借金が、一気に膨らみました」

 

 トリアはゆっくりと言葉を紡ぐ。

 ノルエルは黙ったまま、その横顔を不安そうに見つめていた。

 

「借金を肩代わりしていた商家が……最近になって、キシダイン公と深く繋がっているとわかったんです。そのあとです。家に、キシダイン公の使いが来ました」

 

 その瞬間、トリアの喉がかすかに震えた。

 だが声は崩れなかった。

 

「“王女様に、少しだけ薬を混ぜろ”って……。それをしなければ……弟と妹を借金奴隷として差し出せと。父は逆らえませんでした」

 

「トリア……」

 

 ノルエルが口元を押さえる。肩が小刻みに揺れている。

 

「でも……わたしは、やってません。毒は渡されましたけど、使うつもりなんてなかった。部屋の奥に隠して……どうにかして処分しようと思ってました」

 

 トリアは唇を噛んだ。

 必死に、泣かないように堪えている。

 

「ノルエルが小瓶を見つけたとはわかりませんでした……。わたしを庇おうとして変な誤解をしたんだと思います。ノルエルは犯人じゃありません。あれは全部……わたしのせいです」

 

 その言葉に、ノルエルが潤んだ瞳で首を横に振った。

 

「ち、ちが……。あたし……トリアが震えてるのを見て……勝手に……」

 

「ノルエル。あなたのせいじゃない。悪いのは、あんな脅しをしてきた連中よ」

 

 トリアはほんの一瞬だけノルエルの手を握り、それからもう一度、一郎へ向き直った。

 

「ロウさん。……ほんとうのことだけ言いました。わたしは、姫様にはなにもしてません。でも……わたしが毒を持っていたのは事実です。どう裁かれても仕方ありません。でも……ノルエルだけは、違います」

 

「わかった。信じるよ……」

 

 一郎は静かに頷いた。

 

「えっ?」

 

「あるところからも情報が届いていた。キシダイン卿の手が伸びていた侍女の実家は二軒。そのうちのひとつは、確かに君の家だったな」

 

 その調査を担ったのはマアだ。

 キシダイン派の金の流れを追ってもらったところ、驚くほど早く裏を取ってくれた。

 結果として、侍女たちの実家の中に、すでに脅迫を受けている家が二軒あることがわかったのだ。

 

 侍女たちの実家がこれ以上圧力を受けないように、マア商会の保護に入れてしまうのが本当は望ましかった。

 ただ、今回はそこまで手を回す時間がなかっただけで、対策自体はすでに動き始めている。

 

 キシダインがさらに踏み込んでくることは、もうないだろう。

 それはマアが保証した。

 

「……やっぱり、調べていたんですね」

 

 トリアが小さく息を飲む。

 

「シャーラも、さりげなく君の動きを追っていたはずだ。だから、君は疑われていることに気づいたんだろうな」

 

「……はい。気づいていました。わたし、鈍いほうじゃないので……」

 

 トリアは苦笑のような表情を浮かべた。

 

「でも、よく告白してくれた。充分だ。君はやってない。ノルエルも違う。ふたりとも関係ない」

 

「そ、そう……なんですね……。よかった……」

 

 ノルエルもほっと肩から力を抜いている。

 けれどトリアは、完全には安心できないという顔で視線を向ける。

 

「それで……わたしたちは、どうなるんですか?」

 

「どうもならない。俺がみんなの前で言ったとおりだ。姫様も承知している。犯人はどうでもいい。犯人捜しはしないし、それが目的じゃない」

 

 トリアがきょとんと目を瞬き、ノルエルははっとしたように目を見開いた。

 

「君たちふたりは、俺に犯される……。それが目的だ。じゃあ、本題に入ろう……。ふたりで向かい合って、お互いの服を脱がせるんだ。そして、俺の前で愛し合ってもらう。君たちはそういう関係なんだろう?」

 

 一郎は微笑んだ。

 そして、魔眼で改めて、ふたりのステータスを読む。

 

 

 

 トリア=アンジュ

  人間族、女

   男爵家 長女

   イザベラ付侍女

  年齢18歳

  ジョブ

   侍女〈レベル5〉

  生命力:50

  魔道力:15

  経験数:なし

  淫乱レベル:B

  快感値:300/300

  状態

   一郎の性支配(軽)

 

 

 ノルエル

  人間族、女

   商家の娘

   イザベラ付侍女

  年齢16歳

  ジョブ

   侍女〈レベル3〉

  生命力:50

  魔道力:なし

  経験数:女1

  淫乱レベル:A

  快感値:130/150↓

  状態

   一郎の性支配(軽)

 

 

 

 ふたりのうち、ノルエルのステータスの経験数には、“女1”の表示がある。

 この経験数には、単なる少女たちが触れる程度の百合遊びでは、数字に入ることはない。

 淫具の挿入を伴う性愛をしないと数には入らないのだ。

 それにもかかわらす、ノルエルには“女1”と表示され、トリアは“なし”となっている。

 ふたりが百合愛の関係なのは、見ているだけでなんとなく勘でわかったし、さっきの庇い合いでも間違いないだろう。

 

 そして、一郎の命令にふたりが真っ赤になったことで明白だ。

 しかも、ノルエルなど、一郎の“命令”だけでも、もう快感値が〈20〉も減っている。

 

 つまりはそういうことなのだ。

 ふーん。

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