【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】 作:ドン・ドナシアン
「こ、殺してやる──この人間があああっ──」
プラムが右手に持っていた剣を振り被った。
すっかりと怒っている──。
本当に剣が向かってきた。
「うわああっ」
一郎は悲鳴をあげた。
「な、なにするんですか──」
一郎の目の前で鋭い金属音が響いた。
エリカがあいだに入ってきて、プラムの剣を剣で受けたのだ。
「ど、どかんか──。お前も斬るぞ──。その人間がなにをしたのか見ただろうが──」
「み、見ましたけど、それがどうかしたんですか──」
プラムとエリカが剣を挟んで怒鳴り合った。
次の瞬間、いきなりプラムの身体が後ろにのけ反った。
そして、体勢を崩したプラムの頬で鋭い音が鳴る。
「落ち着きなさい、プラム──。その人は、わたしを助けてくれたのよ──。拷問のための薬剤でおかしくされたわたしが、その人を無理矢理に犯してしまったのよ。それをなんで殺そうとするんだい──。このばかたれが──」
イライジャだ。
全身が汗まみれであり、まだ、身体に力が入らないような感じだが、気はしっかりとしているようだ。
イライジャがプラムの身体を引っ張り、思い切り頬を張ったというのがわかった。
「だ、だって、お前……」
プラムが泣きそうな顔になった。
その頬がまた鳴った。
イライジャがまた平手を喰らわせたのだ。
なんという気の強さだ。
一郎も唖然とした。
「わたしの言葉が聞こえなかったの──。この人間族の男は、わたしを助けてくれたのよ──。それよりも、お義父さんは無事なの?」
「ト、トーラス殿は無事だ……。そ、それと、連中が持ち出したダルカンの密売の証拠も取り戻した……」
プラムがさっきの権幕から一転して、おどおどとした口調で言った。
「だったら、いつまで、わたしを裸にさせておくのよ──。さっさと、どこからか着るものを見つけてきな、プラム──」
ものすごい迫力だ。
一郎は呆気にとられ続けている。
プラムが駆け去っていく。
すると、イライジャが一郎に振り向いて、優しげな顔で微笑みかけてきた。
「ごめんなさいね、あんた……。あとでちゃんと謝らせるよ……。大丈夫かい……?」
「い、いえ……」
一郎はそれしか言えなかった。
プラムに殴られた頬は痛かったが、まあ平気だ。
ユグドラの癒しという能力を授かっているので、外に出て大地に足をつければ治るはずた。
「大丈夫ですか、ロウ様……」
エリカが一郎の頬に手を触れさせた。
ひんやりとして冷たく、殴られて痛んでいた頬が楽になる。
エリカは、治療術は遣えないが、冷却魔道を施してくれているようだ。
イライジャがエリカに視線を向けた。
「エリカ、久しぶりね……。お前も助けてくれたのね……。どうして、ここにいるか知らないけど、この人間族の男は、お前の連れ?」
「ロウ様は……わたしの大切なご主人様よ……。でも、イライジャ、誰にも言わないで……」
エリカはあっさりと、一郎とエリカの本当の関係をイライジャに白状した。
これには、一郎も驚いてしまった。
とにかく、ズボンと下着をはこうと、一郎は手を伸ばしてそれを引き寄せた。
そして、それを身に着けていると、この部屋の奥の壁になにかの違和感を覚えた。
理由はないが、なにか不自然なものを感じたのだ。
一郎は奥の壁に寄ってみた。
すると、目立たないが、壁の隅に突起のようなものがあるのがわかった。
それを押すと、突然に壁が割れて、さらに奥にある部屋が出現した。
「な、なによ、これ?」
イライジャが声をあげて駆け寄ってくる。
一郎も奥の部屋を覗いた。
エリカもやってきた。
「うわあ……」
「へえ……」
イライジャとエリカが声をあげている。
そこにあったのは、夥しい数の手のひら大の白色の球体だ。
表面には光沢があり、とても美しかった。
それが十個ずつ丁寧に木箱に梱包されていて、その木箱が十数箱も積み重なっている。
「クリスタル石……。ロウ様、クリスタル石です……。それも、こんなにたくさん……」
エリカが驚嘆の声をあげた。
「これで、誤魔化しようのない里長の悪事の証拠が出たわね。やっぱり、あいつは、こうやってこっそりと里で作らせたクリスタル石の数を誤魔化して、密売してたんだわ」
イライジャも言った。
そのとき、また、階段から物音がした。
今度は複数のエルフ男がいる。
ただし、多くは階段の上で止まり、プラムだけが降りてきたのがわかった。
「イライジャ、服だ──。とりあえず、これを着てくれ……」
プラムが持ってきたのは黒色のローブだ。
イライジャがそれを無造作に身体に身に着けた。
「それよりも、これを見なさい、プラム。この人間族の男が隠し部屋を見つけてくれたわ……。これで、ダルカンの悪事の証拠は完全に揃った──。さあ、あいつを糾弾するわよ──」
イライジャが怒鳴った。
燭台の薄明かりの中、寝台に座っている一郎は、この三日間のことをぼんやりと振り返っていた。
慌ただしい三日だった。
もっとも、一郎は別だ。
一郎は、この里外れのトーラスの家であてがわれた一室で、特にすることもなくぼんやりとしていただけだ。
忙しそうにしていたのは一郎以外の者たちであり、トーラスを含め、ここではなく、里の中心部にある元々の屋敷を拠点にして、あの救出によって始まったダルカン追放のために、忙しく動き続けていた。
エリカもイライジャに引きずられるように、強引に手伝いをさせられていた。
それにしても、イライジャがあんなに気の強い女性だということは、まったくわからなかった。
あの五人の決起の首謀者もイライジャには頭があがらないようだ。
完全に男たちを牛耳っていたのはイライジャだ。
そのイライジャとあの五人やユイナ、それにトーラスも加わった一連の働きによって、三日でこの褐色エルフの村の情勢は一変していた。
もっとも、一郎がその事態の進展をずっと見守っていたわけではなく、この里外れにあるトーラスの家にいる一郎に、エリカが逐次に状況を教えにきてくれていたのだ。
ともかく、エリカの話によれば、三日前にイライジャとトーラスを救出したあと、イライジャたちは、取り返した証拠の書類と、なによりも北の屋敷で発見されたクリスタル石のひと箱を担いで、すぐに里の中心で煽動をしていた組と合流したようだ。
そして、里の住民たちにダルカンの悪事の確かな証拠を提示して、改めて決起を呼びかけた。
日頃からダルカンに不満を持っていた里の者たちは、示された証拠を前にして怒りの声をあげ、ついに大部分の住民たちが発起して里長だったダルカンの屋敷を取り囲んだのだそうだ。
さすがにダルカンも観念するしかなく、ダルカンは捕えられた。
主立つ者も一緒に捕らわれ、簡易裁判の末、首謀者は額に入れ墨の末に追放──。
それ以外の者は単に追放となった。
入れ墨を申し渡されたものは、多くの者が自裁をしたようだが、ダルカンについては、入れ墨を受け入れてしばらくしてから、監禁場所から脱走して、どこかに去ったとのことだ。
手引きした者がありそうだが、逃亡先は不明とのことだ。
いずれにしても、ダルカンは去り、暫定だかトーラスが里長代行となり、近く代行が外れるのは間違いない。
事故で死んだイライジャの夫のトードの名誉も回復された。
ただ、あれが本当に事故だったのか、それとも、ダルカンが手を回して殺させたのかということまではわからなかったらしい。
ただ、イライジャやトーラスの様子を見れば、ダルカンの額に入れ墨をした時点で、もうその話は終わったことになったような感じであり、逃亡したダルカンを追うつもりもなさそうだ。
そして、いまは三日目の夜だ──。
トーラスと家人の多くは、里の中心にあった元のトーラスの屋敷に移ったが、イライジャだけがエリカとともに、こっちの家に戻ってきていた。
トーラスも完全に元の屋敷に戻ることになり、ここを引き払うので、その片づけがあるからということだった。
あのユイナも一緒に来た。
ユイナと会うのは三日ぶりだった。彼女もまた、ずっとこっちではなく、里の中心側でみんなと動いていたのだ。
相変わらず人間族は嫌いらしく、一郎には冷たい素振りだ。ただ、時折、なにか言いたげに一郎を睨みつけるようにする。
しかし、今日の夕食のときに、イライジャとエリカとユイナの囲む席に一郎も同席することを拒まなかった。
エリカがイライジャに、一郎はエリカの「ご主人様」とはっきり言ってしまったので、イライジャが一郎を同じ席に座らせるのは当然だが、一郎がエリカの従者だと思っているユイナが、一郎が一緒に食事をするのをユイナが受け入れるのはおかしなことのように思った。
だが、少なくともユイナがそれについて、一郎の前で抗議をするような態度を見せることはなかった。
食事は質素だが美味だった。
そのとき、明日の夜にはほかの者とともに、改めてお礼の宴をするので、エリカと一郎に是非に受けて欲しいとイライジャが言った。
エリカは即答せず、考えると応じていた。
なんとなく気が進まないようだ。
そのとき、エリカは、一郎に対して、あとで相談したいとささやいた。
やはり、なにかあるようだと思った。
食事が終わり、あてがわれている部屋に引きあげた。
そしていま、一郎は寝台の上に座ってる。
エリカの従者ということになっているので、エリカとは離れてひとりの部屋だが、与えられた部屋は従者としてではなく、エリカと同じ客人としての扱いだ。
これもイライジャの配慮だろう。
一郎は待っていた。
忙しそうにしていたエリカを昨夜も、その前の夜も抱いていない。
相談事があると言っていたし、それに、エリカは一郎に抱かれにくるだろうと思った。
果たして、扉が叩かれた。
「はい」
驚いたことに、やってきたのはエリカだけじゃなく、イライジャもいた。
ふたりが一郎の腰掛けている寝台の下側の床に座った。
一郎も慌てて、寝台から降りて床に座る。
「落ち着いたら、お礼がしたいと思っていたのよ、ロウさん……。でも、エリカによれば、早々に出立するというし……。それで連れてきてもらったのよ……」
イライジャが意味ありげに言った。
「それについては、理由を説明します、ロウ様……。そ、それよりも、イライジャが……」
エリカがなにか言いたげにした。
だが、イライジャがそれを制した。
「……わたしが自分の口で言うわ……。このロウさんだって、断る権利があるだろうし……。ふふふ……、やっぱりだめ……。断らせない……」
「んっ」
イライジャが意味ありげに微笑む。
すると、すっと一郎との距離をつめた。
彼女の肌の香りが一郎の嗅覚を刺激する。
「あなたがエリカの色男だというのは、すっかりと白状させたわ……。このエリカは男嫌いだったのよ……。それがすっかりと夢中のようね……。それよりも、このイライジャのお礼を受けてくれない……」
イライジャが意味ありげに言った。
そして、立ちあがる。
イライジャは身体に羽織る寝間着を思わせる姿だったが、一重の帯を解いてそれをはらりと床に落とした。
なんと、その下は全裸だった。
「イ、イライジャさん……」
一郎は声をあげた。
そのイライジャが腰を屈めて、一郎の首に抱きついてきた。
「……エリカから聞いたわ……。わたしを助けるために、あなたに生まれて初めての人殺しをさせてしまったらしいわね……。そんなにしてくれたあなたに、なにをあげればいいんだろう……。こんなものでもよければ、わたしに礼をさせてくれない……?」
イライジャが一郎にささやいてきた。
しかし、一郎には淫婦のような真似をしているイライジャが、実際には大変に緊張しているということがわかった。
一郎には、イライジャの男性経験は死んだ夫しかないことを知っている。
そのイライジャが一郎に身体を与えるという……。
つまりは、イライジャはそれだけのことを一郎にしてくれようというのだ。
無論、断る理由はない。
一郎は、イライジャを抱き寄せて口づけをしようとした。
イライジャが口の中の刺激に弱いことはわかっている。
そのとき、イライジャがエリカに振り向いた。
「なにをしているの、エリカ……。あなたも脱ぐのよ──」
イライジャが強い口調で言った。
「は、はい……、イ、イライジャ……姉さん……」
エリカが顔を赤らめ、慌てたようにその場に立ちあがって、イライジャが身に着けていたのと同じ寝間着を落とした。
びっくりした。
エリカもまた、その下はなにも服は着ていない。
それはともかく、全身に縄がかけられていた。
腕の拘束はないものの、胴体に菱形模様の縄掛けがあり、乳房が縄から絞られるように引き出されている。
また、股間には、しっかりと股縄が食い込んでいる。
そのせいもあるのか、エリカはすっかりと欲情している。
一郎にはそれがわかった。
そういえば、イライジャのステータスには、緊縛師というジョブが〈レベル1〉であった。
「……ロウさん……。エリカはずっと昔、わたしのねこだったのよ……。エリカはロウさんには、それを隠す必要はないというので一緒に来たの……。ねえ、わたしと一緒にエリカで遊びましょう……。ふふふ……。こんなに興奮するのは久しぶり……。あなたたちは、明日には、どこかに行くというし、今夜は忘れられない夜にしたいわね……」
イライジャが笑った。
驚いたが、それは嬉しい驚きだ。
「なるほど……」
一郎はエリカを抱き寄せ、その乳房を揉みながら、イライジャに顔を向けて、思うままに口の中をむさぼり始めた。
第3話『クリスタル石の陰謀』終わり──
第4話『冤罪裁判と禁忌の魔道』に続く──
【ロウ・サタルス】
…………。
……ロウ・サタルスの出生から青年期までの物語は、完璧に記録から削除されている。その記録の抹消は実に完璧でありすぎるため、その理由において、現在でもさまざまな憶測がなされているが、現在のところ万人を納得させる定説は存在していない。
…………。
最初にロウの記録が確認できるのは、当時「褐色エルフの里」と呼ばれていた小さなエルフ族の集落における事件であり、ロウとエリカであると推測される人物が、その里におけるあるクリスタル密輸事件に関与したという小さな記録が発見されている。
その事件は、その里の自治代表者であった里長が、当時ナタル森林を支配していたガドニエル長老女王の統制に反して、余分に生産したクリスタル石を密輸していた陰謀を里に偶然に立ち寄ったロウが暴いたというものであるが、その事件の関係者が後にナタル森林に与えた影響を考えると、ロウがその里に立ち寄ったのは、意図的なものであり、「偶然」に立ち寄ったわけではないのではないと考える歴史家も多い。
…………。
ボルティモア著『万世大辞典』より(ここに再録した引用文はすべてスクルズ記念国際図書館から許可を受けて初版本から抜粋して採録したものである。)