※この作品はR-18です。

【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】   作:ドン・ドナシアン

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200 料理侍女の告白 ─セクト

 白い空間の光がほどけるように薄れ、足裏に現実の重みが戻った。次の瞬間、離宮の客間の空気が肌に触れる。

 現実側では、四半ノスほど時間が進んでいるはずだ。一郎の前世界の感覚では、十数分である。

 

 これまでの侍女たちのときは、白い空間と現実の時間をほぼ連続に繋いでいた。

 現実側から見れば、一郎が侍女を選んで消え、一瞬で戻っては次の侍女を連れていく──それを 淡々と繰り返すだけだったはずだ。

 だが今回は違う。意図的に時間をずらした。侍女たちの反応を確かめるため、あえて十数分後に戻したのだ。

 

 視線を巡らせると、状況はすでに整っていた。刻みを受けた侍女たちは、白い大布をそれぞれの身体に上品に巻きつけ、まるで儀式を待つ巫女のように立っている。

 スクルズには木椅子が用意されて、イザベラの隣で静かに腰を下ろしていた。シャーラは壁際で控え、全体を見守っている。

 

 そして、支配の終わった侍女たちはシャーラの周囲に自然と輪を作っていた。刻み前の三人──セクト、リノ、ミレイユ──は、イザベラに向けて横一列に立たされている。

 一郎の腕の中で抱えられていたデセルが、ゆっくりと顔を上げた。

 

「……ああ、戻ったのですね、あなた様……。やっぱり、不思議な感覚です」

 

 デセルの頬は赤く、呼吸も浅いが、意識はしっかりしている。白い空間で抱き終えた直後の身体は、まだ熱を逃がしきれていなかった。

 

 一郎の腕の中で横たわるデセルの肌には、淡い汗が細かな粒になって光り、火照った胸が小さく上下するたび、控えめな乳房の頂が震えていた。小ぶりの乳首は、まだ刺激の残滓を宿したまま硬く尖っている。

 

 視線を落とすと、腿のあいだに控えめに生えた陰毛がしっとりと濡れ、そこに混ざる透明な愛液と白濁の跡が、つい先ほどまでの交わりをそのまま残していた。

 生々しいというより──触れればまだ一瞬前の熱を返してきそうなほど、彼女の身体は続きの途中にあるように見えた。

 

「そ、そんなに、じっくりと見られると……さすがに恥ずかしいですわ」

 

 腕の中のデセルがさらに顔を赤くした。

 

「ちょっと目線が向かっただけだ。じっくりなんて見てないぞ」

 

「いいえ、かなり好色な目で見ておられました……。まあ、よいのですけど……」

 

 デセルがはにかんだように微笑んだ。

 

「まあ、デセルさん、お疲れですね。さあさあ、回復術をお掛けしましょう……。どうぞ、こちらへ」

 

 すると、スクルズがすぐ駆け寄ってきた。先に支配が終わった侍女たちも、白い布を裸身に巻いた姿で集まってくる。

 

「……ありがとうございます」

 

 デセルが微かに微笑む。スクルズの指先から淡い光がこぼれ、デセルの身体を包む。

 その間に、ほかの侍女たちが一郎からデセルを引き取って、裸身に布を巻きつけていく。

 ──今度は、四半ノスの余裕があったので、そのあいだに準備したのだろう。

 

 スクルズに回復をしてもらったデセルは布に包まれ、終わった侍女たちの輪の中へ自然に導かれていく。刻みの終わった侍女たちは落ち着いた顔で、温かい眼差しをデセルに向けていた。

 

「戻ったな、ロウ。今度は少し時間がかかったな? だが、デセルも問題なく、ロウの精を受けられたようだな……。よかった」

 

 椅子に腰掛けたままのイザベラが顎を少し上げ、一郎を見た。

 一郎は軽く頷いた。

 

 また、刻み済みの侍女たちに囲まれているデセルたちを視線で追う。

 やはり、全員が以前より艶めいて見える。肌の張り、髪の光、瞳の透明さ……どれも自然に起こる変化ではない。

 ──全員が、本当に外見が綺麗になっている。

 淫魔師の恩恵の影響なのはわかっている。しかし、内側の能力の向上とともに、一郎自身が意識してやっているわけではないのだ。

 不思議なことだ。

 

「さあ、次はどなたが? 大丈夫ですわ。ロウ様は……とてもお優しい方ですよ」

 

 スクルズは朗らかな声音で、残っている三人の侍女たちに声を掛けた。

 

「いや……優しいかどうかは……。少なくとも、わたしが女にされたときに、優しい扱いだった覚えはないな……。四つん這いにさせられて、裸で死ぬほど這い回された」

 

 シャーラが苦笑した。

 

「まあ、そうなのですか? シャーラ様までそんな仕打ちに? もう少し詳しく教えてください」

 

 トリアがシャーラに声をかける。

 

「なっ……。そ、そのうち、教える」

 

 シャーラが真っ赤になる。

 イザベラやスクルズは顔を見合わせて笑っている、ほかの刻み済の侍女たちも同意するように目を合わせ、愉快そうに肩を揺らしている。

 

 いい傾向だ。

 よくはわからないが、淫魔師の刻みをした女たちは、多少の口論はあるが、根本的な仲違いということもない。

 ひとつに繋がるのだ。

 一郎自身も、女たちとは心の深いところで結びついている感覚がある。たったいま、女にしたばかりの侍女たちに対しても、その感覚はすでにある。

 これもまた、一郎の淫魔師としての能力のひとつなのだろうか……?

 

 そんな雰囲気の中、まだ刻み前の三人がイザベラの前に横一列で立っている。

 セクトはおっとりと手を前に揃え、穏やかに一郎たちを見つめている。

 リノは不安げに眉を寄せ、ミレイユは拳を震わせ、怒りを必死に呑み込んでいた。

 

「さて……次は誰が行くのだ?」

 

 イザベラが視線を流した。

 

「い、いくら姫様のお言葉でも……。こんなこと許されるわけがありません──」

 

 ミレイユが勢いよく前へ出た。怒りで頬を赤くし、拳を固く握っている。息も荒く、震えているのに、視線だけはイザベラを真っ直ぐに睨みつけている。

 

「許されるに決まっておる。わたしは、お前たちの主人だぞ」

 

 イザベラが毅然と言い返す。

 部屋が一瞬で緊張を帯びた。

 一郎は、一歩踏み出した。

 

「姫様。頭ごなしに言えば、誰でも反発する……。ついてこさせたいなら、言い方を考えるべきかな」

 

 イザベラの眉が揺れた。

 数秒の沈黙のあと、彼女は息を小さく吐いた。

 

「……すまん。わたしの言い方が悪かったか……。だが、お前たちが必要なのだ。頼む。ロウに抱かれろ。理由は抱かれればわかる」

 

 その素直な謝罪に、侍女たちの全員が唖然となった。

 姫が侍女に素直に謝る場面など、ましてや、このイザベラが頭をさげるというのが、これまで存在しなかったのかもしれない。

 

「まあまあ……。ご懸念には及びませんわ。わたしたちは、受け入れます……。では、次はわたしが行きますわね」

 

 静かに進み出たのはセクトだった。

 柔らかな微笑み。おっとりした雰囲気なのに、迷いのない口調と態度で一郎に向かって進み出てきた。

 

 

 

 セクト=セレブ

  人間族、女

   男爵家 次女

   イザベラ付侍女

  年齢25歳

  ジョブ

   料理(レベル5)

   侍女(レベル4)

  生命力:50

  経験数:なし

  淫乱レベル:C

  快感値:350/350

 

 

 

 ステータスを改めて覗く。

 彼女については、珍しい料理ジョブがあるので注目していた。しかも、〈レベル5〉というのは、かなりの一流クラスの能力になる。

 年齢は二十五歳。イザベラの侍女は全員が若いが、その中で、ミレイユに次いで二番目の年長となる。

 

「セ、セクトまで──。お前も受け入れるのか?」

 

 ミレイユが目を丸くして、セクトに視線を向けた。

 

「ええ、受け入れますわ……。ミレイユ様も観念なさってはいかがですか? わたし、この侍女団でのお料理のお仕事、とても気に入っておりますの」

 

 セクトは立ち止まり、ミレイユに身体を向けたあと、穏やかに答えた。

 

「しかし……」

 

 ミレイユは納得がいかない気配だ。

 そのとき、もうひとり残っているリノがぽつりと口を開いた。

 

「わたしには……どうして身体を許すことが忠誠になるのか……わからないな……」

 

「そうだろう──。わからない。こんなこと、わかるわけがない──」

 

 ミレイユが大きな声をあげる。

 

「ふふ、それは、このロウ様に抱かれればわかると姫様がおっしゃいましたわ」

 

 セクトがにこやかに言った。

 

「そうか。抱かれればわかるのか……」

 

 すると、リノが考え込む仕草になった。

 

「リノ、考えるな──」

 

 ミレイユが声をあげた。

 セクトは、それを見届けるようにくすりと笑うと、一郎へ向き直り、上品に腰を折った。

 

「では……ロウ様。わたしを、お連れくださいませ」

 

 迷いのない穏やかな声音だった。

 

 


 

 

「……あ……ロウ様……すみません……。どうにも……足に力が入りませんの……」

 

 セクトは一郎の胸に寄りかかっていた。黒毛の柔らかな髪が肩に流れ、丸みを帯びた可愛らしい体つきが小さく震えている。

 呼吸はまだ熱く揺れ、膝は崩れかけていた。

 倒れまいとして黒いガウンの胸元をぎゅっと掴み、母性的で穏やかな印象の顔を赤く染めながら身を預けていた。

 

「そんなにキスが堪えたか?」

 

 一郎が声をかけると、セクトはかすかに笑って顔を少し上げた。

 

「……はい……。皆さまが口づけでよろけてしまわれた理由……ようやく、わかりましたわ……。殿方との口づけは初めてではございませんけれど……キスだけで腰が抜けるのは……初めてですわ……」

 

 セクトが柔和な笑みを向ける。

 一郎は意外に思って問いかける。

 

「口づけの経験があるのか?」

 

 セクトは「あら」と口元に手を添え、照れたように微笑んだ。

 

「余計なことを喋ってしまいましたわね……。はい、一応は婚約までした男性がおりましたので……。少し前までですが」

 

「婚約?」

 

 一郎はわずかに眉を上げた。

 性経験なしのステータスを知っていたためだ。

 

「大丈夫ですわ。もう婚約解消……いえ、婚約破棄でしたかしら。とにかく、終わったお話でございますの」

 

「どうして、破棄に……いや、解消に?」

 

「婚約破棄で結構ですわ。もちろん──破棄されたのは、わたしの方ですもの。つまらない話ですわ」

 

 セクトは苦笑しながらも、寂しげな色は少しも見せない。

 むしろ、それをすでに消化してしまった人間の穏やかさだった。

 

「立っているのもつらいだろう。座ろうか」

 

 一郎が念じると、白い空間に柔らかな寝台がふわりと生まれた。支えていたセクトの腰に手を添え、そっと寝台へ座らせる。

 

「まあ……。こんなところに寝台が……? わたし、ちっとも気がつかなくて……。そういえば。真っ白な世界なのですね。山も谷も、建物もなんにもない不思議な場所ですわ」

 

 セクトは寝台の縁に腰掛けながら、きょろきょろと周囲を見回している。

 

「不思議だと思うなら、もっと早く気づくべきだったな」

 

 一郎が笑うと、セクトは赤くなりながらも柔らかく微笑んだ。

 

「ここは、外ですの? それとも室内ですの。ここで……致すのですか? 落ち着きませんわね」

 

「壁があった方がいいか?」

 

 一郎が念じると、次の瞬間には四周が壁に囲まれている。

 貴人も泊まれるような宿屋の一室を想像したので、白い空間の光がそのまま変質し、輪郭が形を取りはじめた。

 天井は淡い琥珀色の木目で組まれ、壁は薄い灰金色の漆喰で滑らかに塗られ、部屋の中央には、いまの広い寝台がそのまま据えられている。天井には濃い藍色の天蓋がやわらかく垂れ、寝台の脇には丸い小卓がある。また小卓には銀の水差しと透明な杯がふたつだ。

 床は深い木色の板張りで、足裏にほんのりと温度が伝わった。

 窓はない。

 その代わりに。部屋全体が柔らかな灯りに照らされ、影は浅く、どこか夢の中の宿のようだった。

 セクトはぽかんと目を丸くし、両手を胸の前で重ねた。

 

「まあ、面妖な……。こんなに素敵なお部屋が……。まるで王都の高級宿ですわ……。ロウ様がお望みになるままに変わるのですね……」

 

 寝台の端にそっと触れ、指先で布の感触を確かめる。

 

「落ち着いたか?」

 

「ふふ……こうなりますと、逆に落ち着かなくなってしまいましたわ……。だって……あまりにも……夜の営みに相応しすぎますもの……」

 

 頬を赤くしたまま微笑むその表情は、母性的な柔らかさの中に、初々しい女の緊張が静かに混ざっていた。 

 

「じゃあ、さっきの真っ白い場所がいいか? ほかの侍女たちは、そこだったぞ」

 

「ここで結構ですわ……。ところで、婚約のお話……。少しだけならできますわ。でも……いまは胸がどきどきして……まだ落ち着きませんの……」

 

「料理のことも聞きたい。君は──料理が好きなんだな?」

 

 一郎は彼女の様子を見つめながら、ゆっくり問いかける。

 彼女の料理ジョブのレベルは〈レベル5〉──。これは単に、料理が好きな程度では、この技能にはならない。

 どこかで専門的な修練や経験などをしないと到達しないレベルだと思う。

 セクトの目がふっと明るくなった。

 

「はい……大好きですわ。わたし、料理を専門にする侍女として小離宮に入らせていただきましたの。小離宮では料理については下働きを排除しておりますので、姫様のお食事は全てわたしが担当していますわ。シャーラ様に、経験を買っていただきましたの」

 

 セクトは胸の前で指先を揃え、穏やかな笑みを浮かべた。料理の話題になると、声色がほんの少し明るくなる。

 

「もしかしたら、侍女になる前にも料理の仕事をしていたのか?」

 

「王都内の料理店ですわ……。店の名前は……」

 

 一郎の問いに、セクトは店の名を口にした。

 王都でも屈指の名店。庶民ではまず入れない。客層は貴族か、それに準ずる富裕層ばかりで、予約も必要な高級店だ。客が店を選ぶのではなく、店が客を選ぶような場所だ。

 

「そこの料理人?」

 

「これでも、料理主任でしたわ」

 

「なるほど……それなら、料理の腕も一流なんだろう」

 

「解雇されましたけど」

 

 セクトは小さく微笑んだ。

 

「どうして?」

 

「ちょっとしたことですわ……。父は王宮の小役人でしたの……。でも頑固者で……。タリオ公国出身のキシダイン卿が大きな顔をしているのはおかしいって、いつも言っていたみたいです。それで目をつけられたのですわ」

 

「誰に?」

 

「キシダイン派のほかのお役人様ですわ。それで罷免されて、爵位も子爵から男爵に落とされましたの……。その影響でわたしも“反キシダイン派”と見なされてしまって……。店を辞めさせられましたの」

 

「もしかして、婚約破棄もそのとき?」

 

「そうですわ……。でも、大好きなお料理の仕事ができなくなったことの方が辛かったですわ、わたし毎日泣いてましたの。上級貴族に目をつけられたわたしを雇ってくれる店は王都にはありませんし」

 

「それは……」

 

 一郎はなんと言っていいかわからなかった。

 セクト自身が口にするとおり、これはよくあることなのかもしれない。

 だが、逆にいえば、それだけ、キシダイン派の影響が王都では強いということだ。

 セクトの父のように、キシダイン卿の悪口を言っただけで職を失うのが現実なら、イザベラの支持などというのは表にも出せないことなのだろう。

 この状況を少しでも早く逆転させることが、これから必要なことだとわかる。

 

「ご心配には及びませんわ。……いまとなっては、小離宮で姫様のお役に立てることが幸せです。拾って頂いたご恩もありますし」

 

 語り終える声は、過ぎた境遇を悔いるのではなく、いまの立場に静かな誇りを抱いているような響きだった。

 

「それで侍女に?」

 

「はい。シャーラ様が声をかけてくださって……。離宮に参りましたの。姫様には敵が多いですから、料理は信頼のおける者しかさせられないと……。でも、口惜しいですわ。わたしに毒味の力があれば、毒など許しませんのに……」

 

 セクトは心からの悔悟の表情になる。

 今回の毒は皿につけられたものだったが、自分の作った料理で二度もイザベラに危険が及んだのは、本当に口惜しかったのだろう。

 一郎はゆっくり頷いた。

 

「君の気持ちはよく分かったよ。料理も、姫様も、大事にしている」

 

「ふふ……褒められると……嬉しいですわ、ロウ様……」

 

 セクトは頬を赤くし、胸の上で指を揃えた。

 

「なら──料理を題材にした“仮想時空”というのはどうだ。君への冒涜かな?」

 

 一郎は彼女の顎を軽く持ち上げて視線を合わせた。

 

「仮想……時空ですか? それはなんですの?」

 

 セクトが首を傾げた。

 

「説明が難しいが……まあ、違う自分になりきる世界ということかな。料理をする君を調教する。その世界でね」

 

 一郎は口角をあげた。

 セクトはちょっとばかり戸惑った表情になったが、すぐにいつもの柔和な微笑みを浮かべる。

 

「……調教って、怖い響きですわね……。でも素敵だと思います。どんな世界でも、ご一緒いたします」

 

 セクトがはっきりと言った。

 一郎は、セクトを導く世界を選んだ。

 すると、空間が静かに揺らぎ始め、新しい時空の輪郭が生まれ始めた。

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