※この作品はR-18です。

【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】   作:ドン・ドナシアン

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205 嘘から出た誠

 縄束を取り出したロウを見た瞬間、リノは息を呑んだ。

 

「そ、その縄で……なにを……?」

 

 声が震えた。

 縛られたら、なにもできない。

 それが怖いはずなのに、なぜか胸の奥がじわりと熱くなる。

 

「縛るに決まっている」

 

「し、縛る……? わたしを……ですか……? 本当に……なにも……できなく……なって……」

 

「できるさ」

 

 ロウの指が突然股間へ伸びた。

 

「ひあ、ああっ……」

 

 媚薬は粘膜に残っている。

 灼けるように熱い媚肉に触れられた瞬間、快感が破裂するように弾け、膝が勝手に落ちそうになる。

 

「手でなにをする? これからするのは、男女の交わりだぞ」

 

 ロウが手を動かすたびに、ずきんずきんというすさまじい疼きが下腹部に襲いかかってくる。

 

「いやあっ」

 

「背中で組めと言ったぞ──。動くな──」

 

 思わず手で払いかけたが、ロウの声が鋭く落ちた。

 

「す、すみません……」

 

 両手を慌てて背中へ回した。

 それでも、ロウの指は刺激を止めず、敏感になりすぎた襞の上をゆっくりなぞった。

 

「ひ……あっ……あ……」

 

 快楽の波が一気に押し寄せる。

 さっきの絶頂寸前で止められていた未知の衝撃が復活して全身を締めつけてくる。

 

「ああっ、あうっ……うう……あああっ」

 

 リノの身体が大きく弓なりに仰け反った、

 

「勝手にいくなよ。それが作法だ」

 

 ロウが意地悪く笑いながら、指の動きを激しくした。

 

「は、はいっ」

 

 リノは歯を喰いしばる。

 しかし、自分の意思ではどうしようもない。気持ちのいいものが限界まで膨れあがり、突き破られ、押し包んでしまう。

 愛撫は続く──。

 必死に、作法を守ろうとするが、目がくらみ、背筋には冷たい汗が流れ、太腿がびんと硬直して、次に発作的な激しい痙攣が襲った。

 

「あっ、ああっ、む、無理です──ぜ、絶頂します──」

 

 リノは叫んだ。

 すると、深くなりかける呼吸を押しつぶすように、ロウの指が突然動きを止めた。

 

「ああ……っ」

 

 寸止めだ。

 押し上げられた快感の塊が宙づりのまま凍りつき、逃げ場を失った熱だけが胸の奥で暴れ続けた。

 触れてほしいのに、触れられない。

 破裂寸前で放置された苦しさが、涙が出るほど甘くてつらい。

 絶頂の淵を押しつけられたまま置き去りにされる絶望感に、リノは喉を震わせた。

 

「ほらな……。腕は必要ないだろう? むしろ抵抗できない方が感じられる? 禁止された方が快感は深い? 間違えるな」

 

「ま、間違え……ません……けど……」

 

「さあ、背中を向けろ」

 

「……はい」

 

 膝が震えながらも従う。

 ロウが手を伸ばして、背中に組んでいた両腕を水平に直された。

 縄を肩へそっと触れた。

 

「もっと腕を上げろ。力を抜け」

 

「はい……」

 

 囁くような声に導かれ、リノは両腕を背に回して差し出した。

 縄が二の腕へ触れる。さらりと滑って肌を這い、優しく巻きつき、そこから徐々に締め上がっていく。

 さらに、胸の下へ縄が通され、乳房を押し上げるように締まった。

 

「あん……」

 

 乳房が揺らされたことで疼きが走り、リノは思わず声をあげてしまった。慌てて口を閉じる。

 リノの胸は小さめだ。

 その小さな膨らみが縄に包まれて形が変わり、下から持ち上げる縄がわずかなふくらみを誇張し、上の縄がそれを押しつけて、本来なら目立たない胸の中心だけが、かえって無防備にさらけ出された気がした。

 

「縄を掛けられていくのが気持ちがいいのか?」

 

 ロウが縄掛けを続けながら笑う。

 

「わ、わかりません……」

 

 リノは吐息とともに答えた。

 けれど、胸を縄で強調される屈辱と羞恥が、なぜかどこか甘い。

 腕の後ろで縄が八の字を描き、手首が後手に固定された。

 結び目が背骨の上で締まると、本当に完全に動けなくなった。

 

「終わりだ」

 

 最後の締めが入った瞬間、全身がふわっと浮くような感覚に襲われた。

 

「なにか……身体が……ふわふわして……」

 

「それが、縄酔いだ」

 

「縄酔い……ですか?」

 

 呼吸のたびに胸を挟む上下の縄がわずかに締まり、小さな胸が強調される。

 その刺激が、寸止めで渇望している股間と連動して、さらに快感を増幅した。

 腕は完全に動かない。

 胸は縄で持ち上げられて形を強調され、股間は寸止めの余韻で脈打ち、膝が勝手に震える。

 逃げ場がないはずなのに、その拘束の中で、不思議な安堵が広がっていく。

 縛られているだけなのに、欲望が、渇望が、むしろ強まっていく。

 

「変な……感じです……」

 

「縛られる意味がわかったか? じゃあ、始めよう」

 

 ロウが寝台の中央で仰向けになる。

 寝そべったロウの中央で、隆々とした男根が天を向けている。

 リノは唾を飲み込んだ。

 

 縄に締め上げられた身体のまま、リノはロウの前に膝を進めた。

 胸を上下から挟む縄は呼吸のたびにじわりと沈み、締まり、わずかな膨らみを際立たせた。

 腕は後ろに大きく回され、完全に使えない。

 

 寝台の中央で仰向けになっているロウの男根は熱を帯びて天へ向けてそびえていた。

 視線が吸い寄せられる。

 それを受け入れる自分を思い描いただけで、寸止めに灼かれ続けた奥が脈打ち、腿が震えた。

 

「教えるぞ……。まずは、膝で俺の腰を挟め」

 

「……はい」

 

 リノはおそるおそる寝台へ片膝を乗せた。

 縄で後ろへ固定された腕が身体の均衡をとるのを邪魔する。

 胸の前で縄が食い込み、息が浅くなった。

 そのままもう片方の膝も上げ、ロウの腰を跨いだ。

 

 男性の身体の上に自分が乗っている。

 それだけで心臓が鳴り、鼓動が胸の縄を押し上げるように暴れる。

 裸の股間が熱を帯びた茎の上に位置し、触れた瞬間、媚薬の火が再燃するように疼きが弾けた。

 

「腰を落とす前に、ゆっくり当てろ。自分で角度を探すんだ」

 

「じ、自分で……ですか……? で、ですが……腕が……」

 

「腕がなくてもできる。腰だけで導くんだ……。作法では、女が上のときは女の責任だ」

 

「……はい……」

 

 リノは縄で動かない肩を震わせながら、慎重に腰を前後へ揺らした。

 

「ひっ」

 

 敏感になりすぎた粘膜が尖端へ触れ、息が漏れた。

 

「そうだ。そのまま、ゆっくり位置を合わせろ」

 

「はい……」

 

 腰を少しだけ引いて、また近づける。

 尖端がぬめる蜜の表面を滑り、亀裂の入り口へ触れた瞬間、脳が真っ白に跳ねた。

 

「くっ……あっ……」

 

「逃げるな──。落ち着け。自分で受け入れるんだ」

 

「は、はい……落ち着き……ます……」

 

 だが、落ち着きなど保てるはずがなかった。

 まだ挿入されてすらいないのに、寸止めの余韻が疼きとして再燃し、身体が勝手に震える。

 腰を近づける動作だけで、絶頂の影が背筋を撫でるように走っていく。

 

「その位置だ。ゆっくり腰を落としていけ……」

 

「は、はい……ゆ、ゆっくり……ですね……」

 

 縄に抱え込まれた腕が背中できしみ、胸縄が呼吸のたびに上下して小さな胸を強調する。

 視界の下で、自分の股間がロウの尖端に触れているのがはっきりと見えた。

 その光景だけで胸が苦しいほど高鳴る。

 

 そして──リノは震える太腿に力を入れ、ゆっくりと腰を落とし始めた。

 ぬめる蜜が導くように尖端を迎え入れ、粘膜が押し広げられ、熱が身を貫くように走った。

 

「あ……あっ……」

 

 入り口が押し込まれる感触は、想像を超えていた。

 痛みではなく、身体が異物を理解しようと震えるような衝撃。

 

「そのままだ……。もっと、ゆっくりでいいぞ」

 

 ロウの声が低く響いた。

 

「あっ、ああ……はあ、はあ、はあ……ああ……」

 

 リノは小刻みに震えながら、さらに腰を沈めていった。

 膜が張る感覚がある。

 ここが自分の境目。ロウは見上げながら言った。

 

「膜に当たったか……。心配するな。でも、覚悟はいいか?」

 

「は……はい……ロウ様……」

 

 腰が震え、胸縄の間から小さな胸が上下して震える。

 締め上げられた腕は完全に無力だった。

 逃げられない身体で、自ら男を迎え入れる。

 それが作法だと言い聞かされて、リノは目を伏せた。

 

「では──落ちろ──。一気にだ──。ためらいなく、最後まで貫かせろ──」

 

 ロウが下から大声で怒鳴った。

 

「はいいっ」

 

 その言葉を合図にして、リノは勇気を振り絞り、いっきに腰を落とした。

 

「ああああっ、あああっ──」

 

 腰を落としきった瞬間、リノの全身が震えた。

 縄に縛られた腕は背中で引きつり、小さな胸を挟む上下の縄が強く沈む。

 呼吸が荒れ、汗が肩を伝った。

 予想していたような痛みはなにもない。あるのは、荒れ狂う疼きを癒やしてくれた幸福感と、圧倒的なロウの男根の存在感だった。

 

「止まるな。作法どおりに動け。上下に腰を動かして、俺を射精させるんだ」

 

 ロウの声が落ちる。

 

「はいっ──」

 

 リノは震える腰を上にずらしていく。

 

「あう……あ……うう……」

 

 鋭いしびれが駆け上がり、身体が跳ねそうになる。

 それでも必死に腰を上下していると、下腹の奥から熱がせり上がり、視界がふらついた。

 胸縄が上下して小さな胸を押し上げ、緊縛の圧が快感と混ざって全身を支配していく。

 

「勝手にいくなよ……」

 

 叱咤が落ちた瞬間、リノは膝を崩しそうになり、身体が弓のように反った。

 制御できない衝撃が衝きあがったのだ。

 

「あ、あああっ、も、もうしわけ──あああっ……」

 

 声にならない呼吸が喉の奥で震え、絶頂の波が寸止めで止められていた渇望を一気に焼き尽くした。

 硬直し、腰いっぱいに咥え込んでいるロウの男根を締めつけながら、狂ったように快感を解き放ってしまった。

 禁じられたのに、絶頂してしまった。

 同時に悔悟が襲う。

 

「気にするな──続けろ──」

 

 静かな声が降る。

 

「は、はい……」

 

 リノは脱力した身体を震わせながら、腰を上に下にと動かしていく。ほんの少し動いただけで、また腹の奥が爆ぜるように跳ねる。

 

「もっと激しく動かないと、俺は射精できないぞ」

 

 ロウが下から愉しそうな口調で声を掛けてきた。

 もっと、激しく──。

 頭に言い聞かせて、必死に腰を動かす。

 

「あ、あああっ」

 

 媚薬のせいなのか、リノの身体が不甲斐ないのか、リノはまたもや快感に押されて、絶頂してしまった。

 腰はロウの跨がったまま静止してしまい、縄に抉られている胸が震えて上下している。

 

「まだ終わりじゃないぞ……」

 

「は、はい……うあ……あっ……」

 

 媚薬がまだ粘膜に残り、動き出すだけで感覚が鋭く跳ねる。リノは覚束ない腰の動きを続けた。

 しかし、三度目の絶頂が訪れるまで、いくらも時間がかからなかった。

 突きあがった衝撃に、リノはどうしていいかわからなくなる。

 

「ああ、いやあっ、ご、ごめんな……」

 

 股間の震えが限界を超え、背中を縄が打ったように衝撃が走る。

 

「謝る必要はない──。もっとだ。そこで止まるな──。それとも限界か?」

 

「げ、限界……では……ないです……。頑張り……ます……」

 

 涙ににじむ声で必死に答え、リノは腰をもう一度揺らした。

 しかし、すぐにまた衝撃が込み上がってきた。

 胸縄に締められた膨らみがびくんと跳ね、小さな乳房が上下の縄に挟まれて強調される。

 脚は震えて、逃げる道がないまま絶頂だけが積み重なっていく。

 

「よく耐えているな。だが、まだいける。最後だ」

 

「はい……はい……ロウ様……。いきます……動きます……」

 

 リノは震える腰に力を込めた。男根を包む粘膜が熱に脈打ち、触れるだけで絶頂の淵が牙をむく。

 

「いくううっ」

 

 腰が跳ね、のけぞり、胸縄がひくりと震え、小刻みな痙攣が全身を走り抜けた。

 長い余韻が収まらず、リノは倒れ込むようにロウの上に身体を預けた。

 

「もう限界だろう……。今日は俺が上になる……」

 

 ロウが上体を起こし始めた。

 

「ま、まだです……。頑張ります……。最後まで……作法のとおりに……させてください……」

 

 涙混じりの声で必死に言い、縄で固定された腕を震わせながら、腰をもう一度動かす。

 全身は限界でも、作法だけは破れないという気力だけが胸を突き動かしていた。

 

「ひいっ、ひっ、あっ、あっ、ま、また……また、くる……だ、だめなのに……あっ、あああっ」

 

 ふらつく腰を押し出し、上下に動かす。

 わずかに動いただけで絶頂の余韻が脊髄を駆け抜け、胸縄が震え、小さな胸がそのたび強調された。

 身体が痙攣して、腰を動かせなくなる──。

 

「うああっ、ああっ……ああああ──」

 

 またしても絶頂の波に流された。

 重なる絶頂に、意識が失われていく。

 

「よくやったな……。ご褒美だ……」

 

 そのとき、ロウの両手ががっしりとリノの腰を下から掴んだと思った。

 すると、股間に咥えているロウの怒張が膨らみを増し、熱い迸りが股間に放出されたのがはっきりとわかった。

 

「ああ、ああああっ──ロ、ロウ様──気持ち……気持ちいいです──」

 

 確かな熱がリノの奥へ流れ込見続ける。腰の奥で脈打つ感触を感じながら、体力も気力も使い果たしたリノは、そのまま緊縛された上体をロウの上に倒れ込ませてしまった。

 

「よくやった……。頑張ったぞ」

 

 ロウが下から縄で縛られているリノを抱き締めてくれる。

 

「ロ、ロウ様……。射精は……射精は……なされましたか……?」

 

「ああ、しっかり注いだ」

 

「よ、よかった……」

 

 その言葉が耳に落ちた瞬間、リノの胸に達成感が強く満ち、自分が役目を果たせたという安堵が全身を包んだ。

 そして、縄の締め付けと絶頂の余韻、胸に満ちた安堵が絡み合い、リノの意識は静かに途切れていった。

 

 


 

 

 リノの身体が一気に脱力して一郎の胸へ沈みこんだ。

 何度も絶頂を繰り返し、最後は気力まで燃え尽きたのだろう。

 息は微かに震え、胸の上下は早いが規則的だった。

 

 一郎はゆっくりとリノを抱え直し、仰向けに寝台へ横たえた。

 

「……ちょっとやり過ぎたか」

 

 独り言が漏れた。

 あまりにも性の知識がないリノを面白がって、色々と「作法」を教え込んだが、正直に言えば揶揄っただけだ。

 

 疑うという発想を持たない子だ。

 指示すればそのまま信じてしまう。

 どこまでやれば、嘘だと見破るのだろうと思っていたが、結局、最後まで疑わなかった気配である。

 寸止めの意味も知らず、媚薬の効果も知らず、緊縛の用途も知らない。

 そんなリノに、あれほど全部を飲み込ませたのは、さすがにやり過ぎだったかもしれない。

 

「……まあ、いいか」

 

 冷静になれば、どう考えても本気の作法だとは思わないだろう。

 いずれ悪戯だったと気づくはずだ。

 

 また、すでにリノには淫魔術が刻まれている。

 一郎と結ばれた段階で、一郎好みの羞恥や恐怖が快楽へ変換される体質に変わっているはずだ。

 彼女が気絶したのは、単に快感の許容量を超えただけだ。

 

 一郎はリノを緊縛している縄だけを亜空間に収納した。

 リノを拘束していた縄だけが、音も気配もなくふっと消えた。

 スクルズのような高位魔道遣いであれば、亜空間に物を格納する収納術は使えるが、一郎のように身につけているものだけを亜空間にしまう術は不可能らしい。

 だが、一郎にはできる。支配している女に限ることだけではあるが……。

 

「縄痕も……消しておくか」

 

 指先をリノの肩へ触れ、淫魔術を通して肌に残った紅い締め跡を一気に消す。

 縄が掘りこんだ溝がゆっくりと薄れ、最後には痕跡ごと消失した。

 

「これはどうするかな?」

 

 リノの肌は、一郎の精を受けて支配を受けたことで、ほかの侍女たちと同じく著しく整っていた。

 だからこそ、かえって古傷が目に入りやすい。

 

 剣ダコ。

 木剣を振り続けた擦過痕。

 転んだときにできた細い線。

 繰り返しの修練で刻まれた痕跡。

 

 すべて、消そうと思えば半瞬で終わる。

 淫魔術ならば、肌を作り変えるのは造作もない。

 だが、一郎は指を止めた。

 

「……これは、消すべきじゃないか」

 

 リノが歩いてきた道そのものだからだ。

 勝手に消していいかどうかわからない。

 消すなら、リノ自身の意思を聞いてからにすべきだ。

 魔眼でステータスを確認する。

 

 

 

 リノ=テンプル

  人間族、女

   騎士爵家 長女

   イザベラ付侍女

  年齢24歳

  ジョブ

   戦士(レベル7→15)↑

   侍女(レベル3→10)↑

   官吏(レベル20)↑(新)

  生命力:50

  経験数:なし→男1

  淫乱レベル:C

  快感値:300/300

  状態

   一郎の性奴隷↑(新)

   淫魔師の恩恵↑(新)

 

 

 

 どうやら、リノについては、官吏と侍女ジョブのレベルの上昇に加えて、もともとの戦士ジョブの上昇が発生していた。

 見た目の容姿もかなりあがっている。

 

「う、うう……」

 

 すると、寝台に横たわるリノの指がかすかに震えた。

 まぶたがぴくりと動き、ゆっくりと開いていく。

 

「あ……ロウ様……?」

 

 微かな声が、白い空間に落ちた。

 まぶたを震わせて開き、ぼんやりと一郎を見上げる。

 

「目が覚めたか?」

 

 一郎が声をかけると、リノは一瞬だけ息を呑んだ。

 次いで自身の身体へ視線を落とす。

 胸を締めつけ、腕を後ろに固定していた縄が消えていることに気づいたのか、縄の掛かっていた肩に触れたりしている。

 

「そのままでいいぞ。現実空間に運ぶ」

 

 一郎が声を掛けた途端、リノが我に返ったように、びくりと身体を震わせた。

 そして、次の瞬間、跳ねるように膝立ちになり、そのまま寝台の上で頭を深く下げた。

 

「申し訳……申し訳ありませんでした……」

 

「なにを謝っている?」

 

 一郎は思わず目を瞬かせた。

 だがリノは頭を上げず、声だけを震わせた。

 

「わ、わたし……不甲斐なくて……申し訳ありません……。作法を教えていただいたのに……守れませんでした……。ロウ様を気持ちよくさせる前に……勝手に絶頂してしまって……。それなのに……ロウ様は……お情けで射精してくださったのですよね……。本当に……本当にすみませんでした……」

 

 リノは額を床に押しつけたまま震えている。

 謝罪の言葉には、一分の迷いもなかった。

 

 そうか……あの一郎の悪戯は続いているのか……。

 一郎は短く息を吐いた。

 

「顔を上げろ。謝ることはなにもない」

 

 とりあえず、声を掛けた。

 リノがおそるおそる顔を上げる。

 涙の跡が頬に残り、まだ不安と羞恥に揺れている表情だった。

 どうしようか……。

 ここまで信じ込まれてしまうと、下手に暴露すると怒り出す気がする。

 一郎は頭を掻いた。

 

「ところで、全身に古傷がたくさんあるが、消してしまっていいか?」

 

 一郎はとりあえず、話題を変えることにした。

 リノがびくりと肩を揺らし、胸元と腹部へ視線を落とした。

 

「ああ……見苦しいですよね……。傷だらけで……」

 

 胸元に触れたリノの指がそっと縮こまるように震えた。

 

「見苦しくはないぞ……。リノが積み重ねてきた努力の痕だろう。むしろ美しい。消すべきか迷った。俺なら一瞬で消せるが、復活はできないからな」

 

 言葉を受けたリノの胸元で、握られた指がぎゅっと強まった。

 

「努力……ですか……。でも、努力は……結局、意味のないものでした……」

 

 震え混じりに呟かれたその声には、悔しさと諦めが滲んでいるように思った。

 胸の奥に溜め込んでいたものが、ようやくこぼれ出たのだと察した。

 一郎は、初めて出会ったときのリノの顔を思い出した。

 

「意味がない……ということはないだろう。意味はあると思うけどね」

 

「でも、幼いころから父に騎士を目指せと言われて……。ずっと剣を振ってきました。でも……弱くて……。どうしても、身体の大きな男の方には勝てませんでした……」

 

「身体の大きな相手か……」

 

「素早さで補おうとも工夫しようとしたんですけど……結局駄目でしたね……。それで、諦めたんです……。父を失望させました……。努力は……無駄でした」

 

 伏せられた横顔は、悔しさと自嘲と、長い年月の重さを抱えていた。

 

「無駄って言い切るなよ」

 

 一郎は嘆息した。

 

「でも……」

 

「まあ……リノは身体が小柄だからな。俺は専門じゃないけど……小柄でも通用する剣技もあるらしいぞ。抜刀術とか……。居合とかも……そうだよな。確か……」

 

 うろ覚えの知識を思い出しながら言い終えた瞬間、リノが雷に打たれたように前へ飛び込んできた。

 両手が一郎の手首をがしっと掴み、細い肩まで震えている。

 

「うわっ」

 

「い、いま……なんと……おっしゃいました……?」

 

 瞳が驚きと熱で揺らぎ、リノが食い入るように一郎の顔を見つけてくる。

 

「待てって……。いや、ほんの聞きかじりなんだ」

 

「でも、小柄でも……通用する剣技があるんですよね?」

 

 指先が震え、息がひどく速い。その勢いに一郎は思わず肩を引いた。

 

「でも、詳しくは知らないんだ……」

 

「少しでもいいです──。教えてください──。お願いします……」

 

 必死に縋るようにリノが身を寄せた。

 

「参ったな……。ええと……確か……だがな……。相手の剣は受けない。受けたら終わりらしい。避けて、かわして……風になびくみたいに流す……そんな話だったと思う」

 

 頭をかきながら言葉を探す。

 

「それから? ほかにはありませんか?」

 

「ええっと……。大事なのは間合い……だったと思う……。斬るのは、最初のひと太刀目だけ。それで仕留める……。二の太刀はない……。そんな話だった……はずだぞ」

 

 説明しながらも、自分がいい加減な知識しか持っていないことを自覚して後悔する。

 もしかしたら、この世界……いや、この国には抜刀術のようなものはないのだろうか……。

 騎士としての剣技というのはありそうだけど、小柄な女性の体型であるリノには、合わないというのは、一郎でも想像がつく。

 しかし、リノの性格から考えると、合わないとわかっても、愚直に努力する──そんな感じだろう。

 あの出鱈目な『性行為の作法』ですら疑わなかったのだ。この子の実直さは、時に恐ろしい。

 

「もっと……もっと教えてください──」

 

 リノが涙ぐみそうなほど必死に顔を寄せてきた。

 

「いや……ほんとにこれ以上は知らん。聞いただけなんだ」

 

 一郎は困り顔のまま、リノの手を離して、両手を軽く上げて降参の仕草を見せた。

 リノは呆然となっている。

 

「そんな剣技……あるなんて……。全く知りませんでした……。剣を受けない。ひと太刀目だけ……。それだけで工夫できそうです……」

 

 リノの声が震え、胸元で握った手がさらに強く握られる。

 

「そうか……なら、よかった……のかな?」

 

「わたし……騎士として教わった剣だけがすべてだと思って……そればかり……」

 

「まあ、なんだ……。世の中は広い。教えられたことを実直に努力するのも大事だが……教えそのものを疑うことも必要かもな」

 

 一郎は軽く息を吐いた。

 疑うことを知らないというのは、このリノの最大の欠点であることは間違いない。

 まあ、愉しかったけど……。

 

「……はい……」

 

 リノがはっとしたように顔を上げる。

 そのとき、一郎はふと思いついたことがあった。リノの肩に両手を置き、リノの顔をじっと見る。

 

「抜刀術──しばらく修行してみるか?」

 

 リノの瞳がぱっと輝いた。

 

「できるんですか?」

 

 胸の前で手を握りしめたまま、食い入るように一郎を見つめる。

 しかし、しばらくしたら、その表情がしゅんと沈んだ。

 

「どうした。気が進まないのか?」

 

「いえ……そうではありません。そんな剣術があるなら修行したいです。でも……わたしには、姫様の侍女としての務めがあります。母が苦労して見つけてくれた仕事で……いま、誇りを持っているんです」

 

 迷いではなく、責任の重さによる沈黙だった。

 

「リノ。この白い世界の仕組みをまだ説明していなかったな」

 

 一郎は静かに言った。

 

「仕組み……ですか?」

 

「ここで過ごす時間は、現実とは一致しない。侍女たちを連れ込んではすぐ戻っているように見えたのは、俺が仮想時空の調整をしているからだ。もしリノが半年修行しても、現実では数瞬しか過ぎないようにもできる」

 

「……半年、修行しても……現実ですぐ……?」

 

 リノの声が震えた。

 

「半年間、仮想時空で新しい剣術を学ぶというのはどうだ? 俺は一緒には行けないが、手配はできる。身になるかどうかはわからないが、どんな剣か知るだけでも価値はあるだろう」

 

 リノはもともと努力家で、剣技そのものへの適性も決して低くはない。

 ただ体格に恵まれず、騎士式の剣術では不利を背負わされていただけだと思う。

 そこへ淫魔術の恩恵で〈レベル15〉まで一気に上がったいまなら、吸収力も段違いになっている。

 仮想時空での修行がどこまで現実に反映されるかは未知数だが──それでも伸びる素質は十分にある。

 そう判断したうえでの、一郎の提案だった。

 

「わたし……やります──。修行したいです」

 

 リノに迷いはなさそうだった。

 

「よし」

 

 一郎はサキを呼ぶため、意識を白い空間に響かせた。

 数瞬後、妖艶な震えが空間に満ちる。

 黒髪を揺らし、頭に二本の角を持つ魔族の女──妖魔将軍サキが姿を現した。

 

「なんじゃ、主殿(しゅどの)。この前のパーシバルという男女の人間族へのお仕置き以来か?……。おっ、なんだ、この人間族の小娘は?」

 

 サキの金の瞳が、リノへじろりと向けられた。

 

「ひっ……ま、魔族……」

 

 リノが怯えたように、腰を後ろに退かせる。

 

「リノ、紹介する。妖魔将軍という二つ名を持つ妖魔のサキだ。俺の女でもあるから、安心しろ」

 

「ひっ……妖魔……様……」

 

 リノはすっかりと青褪めている。

 

「ふん……主殿の新しい性奴隷のようだな……。で、この娘の用件はなんじゃ? また朝昼晩、妖魔どもに犯させればいいか?」

 

 サキがにやりと笑った。

 

「そんなことするか。このリノに抜刀術という剣術のある世界へ行かせたい。滞在は半年。だが現実の空間への帰還は、俺が戻ってすぐの瞬間に合わせてくれ」

 

「抜刀術……? なんじゃそれは?」

 

 サキが眉を寄せた。

 一郎はサキへ向き直り、抜刀術の概念をかいつまんで説明した。

 相手の剣は受けないこと。

 避け、かわし、なびかせ、そして──ひと太刀目にすべてを賭けること。

 

「なるほど……そういうことか」

 

 サキが腕を組んで短く頷いた。黒い角がゆっくり揺れる。

 

「もういいのか?」

 

「ああ。わかった。“抜刀術”の名で、適当な世界を選んでやろう。任せよ、主殿」

 

 サキがリノへ鋭い視線を向けた。

 

「小娘、行くぞ」

 

「え……あ、え……?」

 

 リノが完全に戸惑った声を漏らした瞬間、サキは当然のようにリノの腕を掴んだ。

 ぐい、と強引に立たせる。

 

「あっ、ま、待ってください……。わたし……裸で……」

 

「そんなものはいい。わしが向こうで準備してやる」

 

「あっ、だったら……」

 

 リノは一郎を振り返りかけたが、声を出す暇もなかった。

 

 白い空間の空気が一瞬だけ歪み──ふたりの姿は、音もなく消えた。

 

「……リノ、頑張れよ……」

 

 一郎はぽつりと呟いた。

 そして、黒いガウンを整え、一郎は白い空間から現実世界へ戻った。

 

 

 

 

 

 一郎が現実空間側のイザベラの小離宮に復帰したのは、リノと白い空間に入った直後から四半ノス後──元の世界の時間であれば、十数分後だ。

 だが、部屋の様子が明らかに変わっていた。

 

 イザベラが座っていたはずの椅子の前に、ミレイユがいる。

 いや、正確には、椅子を抱きしめるような形で拘束されていた。

 

「うううっ……んんんっ……」

 

 さらに、口は布の猿轡で塞がれ、ミレイユは必死のうめき声を漏らしていた。

 しかも、両腕は椅子の手摺りに縛りつけられ、膝裏と足首には棒が置かれて、縄で固定されている。

 つまりは──ミレイユは、椅子に跪き、開脚した膝立ち姿勢のまま、縄や棒を使って、逃げられないように拘束をされているのである。

 髪は乱れ、服は崩れ、完全に取り押さえられた者の姿だ。

 

「これは、どうしたんだ?」

 

 一郎は驚いて訊ねた。

 

「おお、戻ったか、ロウ? ……だが、リノはどうした?」

 

 声をかけてきたのはイザベラだった。

 シャーラと並んで腕を組み、椅子のすぐ横に立っている。

 

「リノは少し遅れるかな……。それよりも、これはどういう状況なんだ?」

 

 よく見ると、ミレイユだけでなく、ほかの八人の侍女も、椅子の周りで、床に膝をついていた。

 息を荒げ、髪も乱れ、身体に巻いていた布もめちゃくちゃになっている。

 全員が、なにかを激しく行った直後のように見える。

 

「あっ、ロウ様……」

 

「お帰りなさいですわ、ロウ様」

 

「はあ、はあ……あなた様……お疲れ様でした」

 

 侍女たちも口々にロウに声を掛けてきた。

 すると、床に座り込んでいる侍女たちの環の横に立っているスクルズがくすくすと笑い声をあげた。

 

「ミレイユさんが逃げようとなさったので、みんなで追いかけて、拘束をさせていただいたところですわ」

 

 スクルズが楽しげに答える。

 

「逃げようと……ああ、それでこの状況ということか」

 

一郎は納得した。

 

「んんんっ、んぐううっ──」

 

 ミレイユは一郎を見つけると、さらに必死に暴れ始めた。

 だが、椅子ごと床へ金属具で固定されているらしく、まったく動けないようだ。

 

「ばかたれが──。いい加減に観念せい」

 

 イザベラが不機嫌そうに怒鳴った。

 それでも、ミレイユはまだ涙目で必死に首を動かして、抵抗の意思を露わにしている。

 

 そのときだった。すぐ側の空間がふっと揺れた。

 空中に歪みのようなものが発生し──そこに、ふたりの人影が姿を現した。

 

 ひとりはリノ。

 もうひとりは──妖魔将軍サキだ。

 

 ただし、サキは本来の角を消し、人間貴族の令嬢のような薄桃色のドレス姿、美しい黒髪の美女へ変化していた。

 だが、リノは──完全に裸だった。

 胸と股間を手で必死に隠しながら、一郎を見つけるなり駆け寄ってくる。

 

「ロウ様──。ご無沙汰してます。でも酷いです──。ああ、でも、嬉しいです……。お久しぶりです。お会いしたかったです」

 

 一郎のそばに詰め寄ったリノもまた、ミレイユ同様に涙目だ。そして、真っ赤な顔をしている。

 

「久しぶりって……。ああ、そうか、そうなるのか……。でも、なんで、裸……。ああ、そうか──」

 

 一郎にとっては一瞬後でも、仮想時空で半年を過ごしたはずの、リノにとっては、半年ぶりになるということか。

 また、裸でいるのは、一郎が現実世界の服をリノに渡さなかったからか……。

 サキの準備した修行のための仮想時空のなかで、裸ですごしたわけではないだろうが、仮想時空のものは、現実空間には持って来れない。

 リノは全裸で戻るしかなかったということだろう。

 

「お前、何者だ──?」

 

 すると、シャーラがイザベラを庇うように、サキに剣を向ける仕草をした。

 

「ああ、待て──。こいつは、サキだ。こいつも俺の女のひとりだ。仲間だ」

 

 慌てて、シャーラとサキのあいだに入る。

 

「なんだ、このエルフ族は? しかも、人間族の王女であろう、これは? 主殿も、随分と女を増やしたな」

 

 サキが豪快に笑う。

 

「サキ様ですか。まあ、先日はありがとうございました」

 

 スクルズが声を掛ける。

 

「ああ、お前は、パーシバルのときにあった淫乱巫女のスクルズか。相変わらずそうだな」

 

「ええ、相変わらずでございますわ。サキ様も似合いますわ。その姿」

 

 スクルズが陽気に応じる。

 

「仮にも人間族の宮殿のようだからな。わしにも、多少の常識というものはある」

 

「そりゃあ、ありがとう、サキ」

 

 一郎はサキに声を掛け、思い出して、改めてリノを見る。

 

 

 

 リノ=テンプル

  人間族、女

   騎士爵家 長女

   イザベラ付侍女

  年齢24歳

  ジョブ

   戦士(レベル15→20)↑

   侍女(レベル10)

   官吏(レベル20)

  生命力:50

  経験数:男1

  淫乱レベル:C→B↑

  快感値:300/300→50/150↓

  能力

   抜刀術↑(新)

  状態

   一郎の性奴隷

   淫魔師の恩恵

 

 

 

「おう、頑張ったんだな、リノ」

 

 思わず、ステータスを覗いて声をあげた。

 仮想時空に入る直前に比べて、戦士ジョブが〈レベル20〉まであがっているし、抜刀術の能力が発生していた。

 ほかにも、変化しているステータスはあるが、ともかく、これで、仮想時空における経験も、現実空間における能力に反映されるのだとわかった。

 すると、サキの爆笑が部屋に響いた。

 視線を向ける。

 

「それはいいが、主殿、そなたは、このリノに謝らなければならないことがあるのではないか? このリノは半年では足らんと言って、修行を一年に延ばしたのだ。つまりは、一年後だぞ」

 

 サキが愉しそうに言った。

 

「一年か。そうか。すごいな」

 

 一郎は純粋に言った。

 リノは裸のまま一郎に再び寄ってくる。

 

「は、はい、その機会を頂けたことは感謝をいたします……心からです。……でも、あまりに酷いです」

 

 リノはまだ涙目だ。

 一郎は首を傾げた。

 やっと、リノがなにかの不満を一郎にぶつけようとしているのだとわかった。

 だが、なにを怒っているのだろう?

 

「もしかして、なにか怒っているか?」

 

 一郎は訊ねた。

 

「怒ってはおりません。ぼくが馬鹿なんですから。でも、ぼくがいくら馬鹿でも、ひどいです」

 

 リノが真っ赤な顔で手で隠していた股間を一郎に見せた。

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