※この作品はR-18です。

【改訂版】異世界で淫魔師ハレム【コミカライズ作品】   作:ドン・ドナシアン

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218 王妃陥落

 白い空間で、アネルザの身体だけが現実を主張している。

 

 両腕は頭上で固定され、肩関節が引き伸ばされたまま戻らない。

 力を抜けば手首の金属が食い込み、耐えようとすれば肩が軋む。踵は床に触れているが、体重を預ける角度は許されず、ふくらはぎが断続的に痺れる。

 しかし、拘束された身体のなかで、唯一、腰だけが激しい痙攣し、太腿は忙しく汗みどろの肌を擦り合わせていた。

 

 どんなに歯を喰いしばり、身を固くしても、痒粘根の掻痒の効果は容赦なく、アネルザを苦しめる。

 痒みで失神し、また、痒みで覚醒する。

 それを幾度繰り返しただろう。

 もはや、いまの自分が夢の中なのか、うつつであるのかすら判然としない。いや、そもそも、この白い空間そのものは、現実のものなのだろうか。

 

 痒粘根の樹液の痒みは、放置され続けそれなりの時間が過ぎても、まったく衰える気配はない。

 体温で温められた感触が粘ついた摩擦となって内壁に広がり、一定間隔で掻痒が跳ね返ってくる。

 アナルも同じ。姿勢を保つたび、鈍い圧が増し、逃げ場はない。

 

 そして、さらにつらいのは、股間の生まれた小さな男根の根元で、人工的な脈動を続ける金属環の淫具だ。

 ロウが置き土産のように嵌めたものであり、微細な振動が神経を拾い上げ、射精の感覚だけを過剰に引き出すのだ。

 高まりは次々に襲ってくる。

 反射的に腹筋が収縮し、喉が詰まる。

 だが、射精の寸前で必ず遮断され、筋肉だけが空回りする。

 その反復が、時間感覚を壊していた。

 

 視界が白く飛び、膝が抜ける感覚が来る。

 次の瞬間、肩の痛みと内側の掻痒で引き戻される。

 覚醒のたびに同じ配置、同じ圧、同じ振動が待っている。

 休止はない。回復もない。

 

 喉は乾き、呼吸は浅い。

 腹筋は断続的につり、力を入れれば肩が悲鳴を上げ、抜けば手首が締めつけられる。どの選択肢にも痛みがある。

 

 そして、アネルザはこのような苦悶でありながらも、そこに欲情を覚えている自分自身に驚いていた。

 理不尽に拘束して放置され。痒みに襲われ、救いのない寸止めの刺激という仕打ちのなかで、アネルザの身体はいつのまにか、どうしようもなく疼き、燃えあがっていた。

 それは、射精を赦されない寸止めの振動のためかもしれなかったが、それだけではなく、この悪夢のような被虐そのものに、アネルザは快感を覚えているのだ。

 身体の芯まで届くような痒みも、射精を赦されない寸止めの刺激も、それは名状しがたい被虐の快美感となり、アネルザは掠れた声でずっと喘ぎ続けていた。

 女の蜜はとめどなくにじみ出ている。

 内腿だけでなく、膝を濡らし、いまはくるぶしまで届いていた。

 王妃ともあろうものが、いたぶられて欲情するなど、その浅ましさと、恥ずかしさに気がつき、時折我に返るように、気を引き締めようとするのだが、むしろ、それは妖しい甘美感の戦慄に変化し、さらにアネルザの股間は濡れ、脚を濡らしていく。

 

 そのとき、ふと空間の密度が変わった。

 鎖が微かに鳴り、肩の痛みが強まる。

 近くに誰かが立ったことだけはわかる。しかし、視界は滲んでいて、焦点が合わない。

 内側の掻痒と、周期的な振動が感覚の優先順位を奪い続けている。

 しかし、次第に焦点が合い、目の前に立っているのは、紛れもなくロウたちだとわかると、アネルザの感情は爆発した。

 

「……ああっ、ロウ──赦して、赦しておくれ──今度こそ、失敗しない──後生だよ。あああっ」

 

 喉から裂けるような声が途切れずに漏れ続けていた。

言葉を選ぶ余裕はなく、声は嗚咽に砕け、息を吸うたびに胸が詰まる。

 涙は止まらず、視界を濁らせたまま、ただ同じ言葉だけを繰り返していた。

 

「ええっと、どうしたんですか、これ?」

 

 軽い調子の声が聞こえる。

 問いかけだとわかるが、視線を向ける余裕はない。裏側の圧が跳ね返り、腿の内側が反射的に強張る。

 アネルザの視線は、ただひとつロウだけを見ている。ほかは有象無象に思えた。

 

「これは半日後のアネルザだ。だが、ちょっと意地悪させすぎたか」

 

 低い声が近い。

 ああ、ロウだと思った。

 音の位置が定まった瞬間、鎖が擦れ、肩の角度が変わらないことだけがはっきりする。

 

「ロ、ロウ……だね……? ロウ……そうだよね……。ねえ……そうだって……言って……。赦すって……言っておくれ……。なんでも……する……から──」

 

 アネルザは吠えるように叫んだ。

 自分の身体のどこにこんな力が残っていたのかわからないが、アネルザはロウに向かって拘束された身体を懸命に揺る動かしていた。

 

「ちょっとであるものか、やりすぎだ。もうさっさと支配してやったらいいじゃないか」

 

 距離のある声だ。呆れた調子はシャングリアかと頭によぎる。しかし、その存在も、会話の内容も、すぐに心から押し流される。

 

「わたしたちが消えて、戻るには一瞬でしたけど、王妃様だけ時間を進めるということなんてできるんですか?」

 

 問いが続く。

 なにをしているのだ──。

 どうして、ロウはアネルザに声をかけてくれないのだ。

 焦燥感で気が狂いそうだ。

 そのとき、またもや、股間の金属環が激しく振動を開始した。

 

「あああっ、もういやあ──ロウ、ロウ、お願いだよ。助けてくれよ──」

 

 泣き叫ぶ。

 

「できるぞ、エリカ。ここではなにも存在せず、なんでも存在できる。この空間だけのことだけどね。それは時間も同じだ」

 

 説明が終わる前に、さらに激しく振動が増す。

 だが、射精欲が頂点に達しそうになった瞬間、やはり、ぎりぎりで刺激は遮断されてしまう。

 

「ああ……また……もう……」

 

 声は掠れ、息が喉の奥で詰まる。

 喉の内側に溜まった衝動が抜けきらず、身体だけが遅れて反応し、鎖に引かれた腕が小さく震えた。

 

 そのときだった。

 頭上で張り詰めていた鎖が、突然、緩んだ。

 支えを失い、肩が一気に落ちる。引き伸ばされ続けていた関節が悲鳴を上げ、脚から力が抜け、そのまま床に崩れ落ちた。

 だが、完全に解放されたわけではない。手首はなお高く引かれ、腕は宙に掲げられたまま、身体だけが低く落とされる。

 だが、膝が床についていて、跪く格好だ。

 両腕は万歳の形のまま固定されている。背は反らされ、視線は自然と前を向かされる。

 目の前に、人の影が立った。

 

「俺の性奴隷になると誓え……。そうすれば、赦してやる」

 

 ロウの低い声が間近で落ちる。

 躊躇は一瞬だ。

 目の前のロウに支配され、王妃の自分が奴隷になる……。

 屈辱よりも、忌避感よりも、歓喜がアネルザを包んでいた。

 気がつくと、アネルザは激しく首を上下に振っていた。

 

「な……なる……。なるよ……お前の性奴隷に……」

 

「だったら、その証に奉仕をしろ……」

 

 言葉と同時に、顔の前にロウの男根が差し出される。いつの間にズボンと下着を脱いだのかはわからない。

 一瞬にして、股間を露出した気がする。

 ロウの股間は完全に勃起していた。

 

 迷いはない。

 理解するより先に身体が反応した。喉が開き、顔が前へ引き寄せられる。

 アネルザは大きく口を開けると、目を閉じて、顔を突き出すように亀頭を唇の中に招き入れようとした。

 

「最初は口づけだ。それが奴隷の作法だ」

 

 ロウがくすりと笑う。

 思考は、もう追いついていなかった。

 アネルザは、精一杯の情感を込めて、ロウの怒張の先に口づけをした。

 

「ほ、奉仕するよ……」

 

 改めてアネルザは口の中にロウの怒張を迎えた。

 いまだに苦しい痒みが全身を苛んでいたが、小さな男根の淫具だけは、いまは振動をやめている。

 その分、ロウへの奉仕に集中できると思った。

 

「んんっ、ん……」

 

 ロウの固い性器を咥え、その生々しい感触と強い臭気を味わったとき、アネルザに大きな快感が襲った。

 男性の性器に奉仕するという行為は知識にはある。しかし、実は経験はなかった。アネルザは、口で奉仕する経験はこれが初めてである。

 

 舌を動かしながら、口腔の粘膜を通じて味わう快美感がこれ程とは、アネルザは想像もしていなかった。

 性交とは違う。自分を支配する相手の性器の形──熱さ──淫靡な脈動──なによりも、強烈な匂いがアネルザを酔わせる。

 しばらくのあいだ、夢中になってアネルザは一心不乱に舌を動かした。

 

「王妃様は、政治は上手だけど、奉仕はまだまだだな。まあいい。ゆっくりと教えてやるさ」

 

 ロウの片手が伸び、アネルザの後頭部に触れた。

 次の瞬間、思い切り頭を前に押し出された。

 

「んおおおっ」

 

 喉の奥にロウの怒張の先が突き刺さる。

 アネルザは大きく呻き声を放っていた。

 だが、それは苦悶ではない。芳烈な歓喜だった。

 すると、口の中のロウの男根が熱を増し、膨らみを大きくするのがわかった。

 喉の奥に熱が広がり、口腔と舌先に精液がまとわりついた。

 立ちくらみを覚えるほどの高揚が身体を満たし、これまで知らなかった強い官能が、意識の奥へと引き込んでいく。

 

「一滴残らず、飲み込め」

 

 ロウが男根を抜く。

 言われるまでもないことだった。

 アネルザは、必死になって精を喉に呑み込んでいく。

 すると、両腕の枷が不意に消滅した。

 

「よくやったぞ……。じゃあ、ご褒美の時間だ……。四つん這いになれ」

 

「……あ、ありがとう──」

 

 アネルザは、心の底からの感謝の言葉を口にすると、跪いた姿勢から、身体を前へ倒し、床に両手をつく。そのまま額を床に擦りつけるようにして、深く頭を下げた。

 赦される──。

 頭にあったのは、それだけだった──。

 

「……いい格好だ……。アネルザ、これからは王妃であっても、性奴隷だ……。俺の前では……跪け──」

 

 後ろに立っていたロウが躊躇いさえ見せずに、どんとアネルザの臀部に腰を突き入れてきた。

 

「あひいいっ、ああああっ──」

 

 背後から一気に距離が詰まり、熱が内側を満たした。

 到達の衝撃だけがはっきりと残り、呼吸が途切れる。

 視界が白く滲み、身体の中心から力が抜けていった。

 

「ああっ、あああっ、ああっ」

 

 もはや意味のある言葉は口から出ない。

 焦らしに焦らされ、気が狂うほどの掻痒感に苛まれ続けていた女芯を抉り抜かれる──。

 それは想像もできなかった破壊的な快楽の峻烈だった。

 掻痒感だけでなく、肉体そのものが消滅したかのような甘美な快感がアネルザを包み、そして、脳天を突き抜け、視界を白く塗りつぶした。

 

「あああっ、いいいいっ、あああ……」

 

 アネルザは長く尾を引くような喜悦の声を出しながら、すぐに昇りつめてしまった。

 身体は弓なりに反れ、そのまま絶頂の硬直がしばらく続く。

 

「何度でも果てていいぞ。今日はそれだけのことを頑張った」

 

 ロウの律動は続く。

 すると、ロウが腰を前後に動かしながら、アネルザの股間に手を伸ばし、固く勃起していた小さな男根に触れた。

 金属環の圧迫感が一瞬にして消える。

 そして、ロウはアネルザの女芯を犯しながら、小さな男根を握ると激しくしごきだした。

 

「ひいああっ、だめええ──」

 

 アネルザの身体はがくりと崩れ、遅れて強い収縮が走った。

 先ほどとは異なる波が押し寄せ、意識が再び引き上げられる。

 二度目の絶頂感が総身に走り、肉の愉悦に包まれる。

 すると、強くすさまじいものが小さな男根に込み上がり、そのまま噴射をする。

 

「ひああっ。あああっ、ああああっ」

 

 いまだにロウに刺激を受けている男根から溜まりに溜まったものを放出するように大量の白濁液がとめどなく発射する。

 

「胸も疼くだろう……。そのうちにはアナルも犯すが、それはしっかりと器具でならしてからだな」

 

 ロウが男根から手を離して、両手でアネルザの乳房を揉みしだく。

 律動を続けられながら、乳首を荒々しく刺激され、連動するように柔肉が収縮する。

 

「ああああっ、あああ──」

 

 アネルザは総身を捩りたてて愉悦の悲鳴を迸らせた。

 腰ががくんがくんと弾け踊り、またもや絶頂の痙攣が二度三度と沸き起こる。

 

「これで終わりだ──。淫紋を刻むが──それはアネルザの秘密を護ってくれる──。あと、暗示を掛けておくから、俺たちをうまく追い払えよ──」

 

 なにを言われたのか、言葉は頭に入らなかった。しかし、それはまるで呪術のように、もっと身体の奥底に刻まれたような気がした。

 貫き律動をしていたロウの股間が熱くなり、ぐいとさらに押しこまれる。

 次の瞬間、ついにロウの精が胎内に吐き出されたのがわかった。

 痒みは一瞬にして消失し、続けざまの絶頂を迎えて、ついにがくりと首を折り、精も根も尽きて、意識を失ってしまった。

 

 


 

 

「無礼者──」

 

 鋭い声に、アネルザははっとした。

 一瞬、なにが起きているのかわからなかった。視界に飛び込んできたのは、見慣れた王妃宮の中庭と、慌ただしく動く人影だった。

 

 衛兵が数名、ひとりの男を取り押さえている。

 男はしゃがみ込んだ姿勢のまま、下半身を露出した状態で、両腕を押さえつけられていた。

 顔を上げた拍子に、アネルザはその男がロウであることを認識する。

 

 少し離れた場所では、三人の女が引き離され、同じく衛兵に囲まれている。

 エリカとコゼ、そして、見知らぬ四十前後の女だ。

 

 さらに距離を取るように、アネルザ自身は侍女たちに囲まれていた。

 いつの間にか、自然とロウから遠ざけられる配置になっている。

 状況を理解するのに、わずかな時間が必要だった。

 

 とにかく、ここは王妃宮の中庭のようだ。

 つい先ほどまで白一色だった世界は影も形もない。

 どうやら、マアからの贈答品として献上された男娼奴隷を確認している最中だったらしい。

 

「待て。その者たちを離せ。必要ない」

 

 考えるよりも先に、言葉が口をついて出た。

 

「しかし、王妃陛下。あのようなこと……男の、その……ものを……掛けるなど」

 

 侍女とともにアネルザを囲んでいる女官長が、憤慨した様子で言葉を継ぐ。

 

 あのようなこと……?

 

 その言い回しに、アネルザの胸の内で疑念が渦を巻いた。

 たったいま、なにを指しているのかが、はっきりしない。

 白い空間での出来事が、急に遠いものに感じられた。

 

 あの出来事は幻だったのだろうか……?

 そうとしか思えない。

 白昼夢を見ていたのではないだろうか。

 ふと思って、頬に手を当ててみる。

 男の精液が顔に付着している感触はない。

 

「あれ?」

 

「あら、確かに……」

 

 アネルザの顔を拭くために、布を取り寄せて集まっていた侍女たちも、アネルザの顔になにもないことに気づき、怪訝そうに小声で呟いている。

 

「よいのだ。そのものたちを離せ」

 

 アネルザは、視線をロウたちに戻して、再び中庭に声を響かせた。

 

「よいのですか、王妃陛下?」

 

 衛兵のうち、指揮をしているのが確認のために顔を向ける。

 

「近づいたのはわたしだ。余興の許可もした。離せ」

 

「承知いたしました。離せ」

 

 指揮の者が指図を告げると、衛兵たちは顔を見合わせ、渋々といった様子でロウたちから手を離す。

 

 だが、その光景を見ながら、アネルザ自身は少し呆然としていた。

 たったいま発した言葉が、自分の意思から出たものとは思えなかったからだ。

 なにかに促され、決められた行動をなぞっているような感覚だった。

 

 暗示──?

 その言葉が脳裏をかすめる。

 『うまく追い払え』──。

 どこかで聞いたその一言が、はっきりと蘇る。

 

「もうよい──。だが、男娼奴隷としても興醒めだ。懲罰は与えんが、当然、ご褒美もなしだ。立ち去れ」

 

 アネルザの口から、さらに言葉が放たれた。

 やはり、これは自分の言葉なのか?

 本気で訝しむ。

 なにしろ、アネルザの本心としては、ここでロウが立ち去ることを少しも望んでなかったからだ。

 

 逃がしてはならない。

 アネルザの心は叫んでいた。

 どこの何者なのかということを詳しく訊ねてない。もしかしたら、二度と会えない可能性もある。

 しかし、やはり、ロウたちを止める言葉は出てこなかった。

 

 衛兵に促され、女商人はロウたちを連れて中庭を後にしていく。

 その背を見送りながら、なぜかアネルザの下腹部が、かすかに疼いた。

 懲罰──ご褒美──。

 その言葉に反応した自分の身体に、気づかないふりをする。

 

「今日のこれ以降の業務は取りやめる……。ちょっと疲れた」

 

 女官長に告げる。

 急激な疲労感が押し寄せてきたのだ。

 そして、とてもじゃないが、仕事を続ける気にはならなくなっていた。

 

 アネルザは身を翻し、王妃宮の自室へと向かいながら考えた。

 白い空間の記憶は、本当に夢だったのだろうか?

 現実だったとしか思えないのだが……。

 でも、その区別は、もはや、ひどく曖昧だ。

 ただひとつ確かなのは、胸の奥と下腹部に残る違和感だけだった。

 

 

 

 

 

 王妃宮にあるアネルザの私室のひとつに向かいながら、アネルザは、やはり自分の身体に異変が起きていることに気づいた。

 

 下腹部の奥が妖しく疼いている。

 そこから、熱を帯びた情欲の昂ぶりが、波のように何度も込み上げてくるのだ。

 一度収まったかと思えば、数瞬後にはさらに強くなり、息が詰まる。

 

 私室に戻ると、侍女たちが心配そうに声をかけてきた。

 だが、いまは耐えられない。

 

「……下がれ──。少しひとりになりたいのだ」

 

 声は思ったよりも硬かった。

 侍女たちは一瞬ためらった様子だったが、それでも深く頭を下げて部屋を出ていく。

 扉が閉じられる音が静かに響いた。

 

「くっ」

 

 ひとりになった途端、身体の疼きが一気に強まった。

 腰が自然と前へと折れ、椅子に縋るようにして座り込む。

 息が熱い。

 熱はもはや下腹部だけに留まっていなかった。

 

 アネルザは震える手で、自分のスカートをめくった。

 白い下着は、すでに触れるのがためらわれるほど、重く湿っている。

 ぎょっとした。

 白い下着の一部が不自然なくらいに、膨らんでいたのだ。

 まるで、男根が勃起しているかのように……。

 恐る恐る指先で押さえる。

 

「……くふっ」

 

 その瞬間、喉の奥から抑えきれない声が漏れた。

 あり得ない感触が、はっきりと指に伝わったからだ。

 下着をずらし、目を向ける。

 

「ひいいいっ」

 

 アネルザの口から思わず悲鳴が迸った。

 そこには、女性としての性器とは別に、大人の小指ほどの小さな男根が存在していたのだ。

 根元には、見覚えのある金属環が嵌められている。

 紛れもなく、あの白い空間で生やされた男根であり、あの淫具だ。

 

 さらに、その少し上──。

 そこには、肌の上に、二匹の蛇が向かい合うような紋様が刻まれていた。

 

 魔道ではないが、魔道的なもの──。

 理解は一瞬だった。

 白い空間で、ロウが最後に口にした言葉が、鮮明に蘇ったからだ。

 

 「淫紋」を刻む──。

 確かに、あの場所でロウが最後にそう言った……。

 つまりは、あれは幻でも、白昼夢でもなく、現実だった──?

 

 次の瞬間だった。

 紋様だったはずの二匹の蛇が、ぬるりと肌の上で動き出した。

 

「ひああ……っ」

 

 甲高い声が上がる。

 蛇は、新しく生まれた男根をなぞるようにうねり、絡みつきだしたのだ。

 押さえようとしても、手を離しても動きは止まらない。

 小さな男根の峰の部分に胴体を巻きつけてしごきながら、蛇の頭は、さらにクリトリスへと触れた。

 

「あ……ああ……っ」

 

 鋭い官能が、下腹部から脳裏へと突き抜けた。

 身体が勝手に跳ね、椅子の脚が床を擦る音が響く。

 

 間違いなく、ロウが残したものだ。

 このアネルザの身体に、確かに刻まれた現実だった。

 アネルザは股間を押さえたまま、浅い呼吸を繰り返す。

 否定しようとする理性とは裏腹に、身体ははっきりと応えていた。

 

 赦されたはずなのに。

 白い空間は終わったはずなのに──。

 つまりは、調教は全く終わっていなかったのだと悟った。

 

 そのとき、扉にノックの音がした。

 扉の外から、控えめな声がかかった。

 

「……王妃陛下、いかがなさいましたか──?」

 

 その瞬間、アネルザは息を詰めた。

 どうやら、先ほどの悲鳴を聞かれたらしい。

 応えようとしたが、喉がうまく動かない。

 股間で這い回る蛇の刺激が、思考と発声を同時に奪っていた。

 

「失礼させていただきます──」

 

 扉が軋み、開く気配がする。

 止めなければならないと理解しているのに、声にならない。

 数名の侍女が、そっと室内に足を踏み入れてきた。

 

 アネルザは慌てて、椅子に座ったままスカートを下ろす。

 下着を整える余裕はなかった。

 布の下で、蛇はなおも蠢き、男根に絡みついたままだ。

 

 必死に平静を装う。

 呼吸を抑え、椅子に座ったまま背筋を伸ばし、王妃としての姿勢を取り繕う。

 

「王妃陛下……お顔が真っ赤です。お汗も……ひどいようですが」

 

 侍女のひとりが、心配を隠さずに声をかけてくる。

 

「すぐに、治癒官をお呼びいたします」

 

 そう言って、踵を返しかけた侍女を、アネルザは思わず制止した。

 

「……待て──。行ってはならん──」

 

 声は掠れていたが、命令としては十分だった。

 部屋の外に向かい駆けていた侍女が振り返る。

 ほかの者たちも、困惑したように顔を見合わせた。

 

「誰も……呼ばなくてよい」

 

 言葉の合間に、腰が微かに揺れそうになる。

 蛇が、ちょうど男根の根元を締め上げるように絡んだからだ。

 

「し、しかし……」

 

「よいと言っている──」

 

 きっぱりと告げる。

 それでも、内側では熱が渦を巻き、思考を乱していた。

 

 ──違う。

 呼ぶべき者は、治癒官ではない。

 アネルザの気持ちは明白だった。

 

「それよりも……」

 

 一瞬、言い淀む。

 だが、躊躇はすぐに押し流された。

 

「さきほどの男だ。ロウ……いや、あの奴隷……男娼奴隷を連れ戻せ。女たちもだ──」

 

 侍女たちの表情が一斉に凍りつく。

 

「す、すぐに……」

 

 侍女たちが動き始める。

 アネルザは、慌てて呼び止める。

 

「……いや。丁重にだ──。失礼のないように、丁重に迎え入れよ。命令だ──」

 

 最後は、ほとんど怒鳴るような声になった。

 しっかりと伝えないと、間違って捕らえようとするかもしれない。

 念を押さなければと思った。

 

 侍女たちは、なおも戸惑いを隠せずにいたが、王妃の命令に逆らうことはできない。

 深く頭を下げ、慌ただしく部屋を出ていく。

 扉が閉まり、再び私室に静寂が戻った。

 

 アネルザは、椅子の背に身体を預け、大きく息を吐いた。

 スカートの下で、蛇はなおも動き続けている。

 

「うんっ」

 

 アネルザの股間に新しい衝撃が襲って、アネルザはスカートを反射的に手で押さえた。

 なにが起きているのかわからないが、股間の中になにが入ってぶるぶると暴れだしたのだ。

 あの二匹の蛇だろうか──。

 男根への悪戯に飽いて、今度は責めの場所を女芯に移動させたのか……。

 

「や、やめておくれ──」

 

 聞き届けられないと知りながら、それでもアネルザは、哀願の声を絞り出さずにはいられなかった。

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